Cat Blues  ◆P2vcbk2T1w



「…………」

 とりあえず、自分の頬を抓ってみた。

「……痛え。最近の夢は痛いんだなあ……」


 正直、ワケが分からない。
 良く分からない内にテーマパークか何かに迷い込んだのだろうか。
 何やら変身ヒーローのアトラクションがあって……発破も派手だし、出来も中々なモノだったが。
 で、ハゲのオッサンが何やら言ってたが、特に興味も無かったので聞いていない。
 ゲームとかなんとか言っていたので、やっぱりアトラクションの一環なんだろう。きっと。
 さもなくば夢だな、夢。

 ぼんやりと辺りを見渡す。
 どうやら海岸沿いの波止場のようだ。潮風が生温い。
 夜の海を灯台の光が照らしている。
 だからどうだ、ということも無いんだが。

 とりあえず煙草……とポケットを探ったが、無い。
 いや、煙草だけじゃない。
 銃も、携帯端末も無い。知らない間に無くなっている。
「チッ……気の利かねえ夢だな……」
 そこでふと、足元の荷物が目に止まる。
 そういえば、あのオッサンが何かくれるとか何とか言っていたような気がする。
 まあ、只でくれるっていうんなら、貰ってやらなくも無い。
 折角なので、一応中身を改めてみる。
 入っていたのは、食料と、筆記用具等の雑貨と……一丁の拳銃。
 古い型だが、使う分には問題無さそうだ。
 どうせなら使い慣れた愛銃の方がよかったが、まあ良しとする。
 後は……
「なんだこりゃ?」
 最後に出てきたその物体。
 重い。
 最初はレンガだと思ったが、どうやら材質が違う。
「こりゃあ……紙? 百科事典か何かか?」
 それは、やたらと分厚い、一冊の本だった。
 ペラペラとページを捲ってみるが、どうも辞典でも無さそうだ。
 びっしりと文字で埋め尽くされてはいるが。
 どうやら日本語で書いてあるようだが……正直、読む気には到底なれない。
「鈍器か弾除けに使う……にしても、もうちょいマシなもん使うわな、普通」
 ということは、だ。
 これは、鈍器にも弾除けにも使えない、ただ重いだけの紙の塊は、つまり。

 ゴミだ。

 ふと、顔を上げる。
 目の前に広がる、暗く広い海。
 なんだか、見ているだけで吸い込まれそうだ。
 その海に向かって。
 そのまま右手を。
 無造作に右手を。
 ぽーいと、右手を。
 右手を。



 右手……を……



「で、アンタ誰?」
 何時まで経っても動かない右手に、いつの間にか一人の女がしがみ付いていた。


「アンタ、何してんの?」
 しかし、俺の言葉が聞えているのかいないのか、女は俺の右手に夢中だ。
 いや、正確には俺の右手の中の『ゴミ』に、だろうか。
「こ、これは○極○彦先生の小説じゃないですか! まだ読んでなかったんだ~!」
 いや、そんなことは聞いていない。
「ちょっと、おたく、耳聞こえてる?」
「いつか読もうと思ってたけど、中々見つからなかったんですよね~」
 完全に聞いちゃ居ない。電波系って奴か?
「もしも~し?」
「まさか、こんなところで巡り合えるなんて……コレはもしや、運命!?」
 幾ら呼びかけても応答のない女。
 というか、こっちの顔を見ようともしない。
 一体どんな顔をしているのかと、そいつの顔を覗き込もうと顔を近づけた。
 ソレがいけなかった。

 急に女が顔を上げた。
――ガンッ!!
「痛でぇッ!」
 女の後頭部が俺の顎に直撃。石頭。
 こ、このアマ、女だと思ってやりゃあ……!
 そして、痛みにもんどりうっている俺に更なる追い討ちをかけるように、女が俺に向かって、はじめて話しかけてきた。
「ぶしつけで申し訳ないのですが……、ちょっとこの本貸していただけませんか? 
大丈夫、汚しませんから、ただちょっと読むだけですから!」

「っ痛つつつ……って、この本を? アンタに?」
「ハイ! ちょっと読むだけですから、ね、ちょっとだけ!」
 言うが早いか、と言うよりも言いながら、女が本に擦り寄ってくる。
 指の僅かな隙間からでも本を読みかねない勢いだ。
 なんというか、必死すぎ。
 とりあえず女を振りほどいて、女のせの届かない高さに本を持ち上げる。
「ああ~本~、まだ読んでない本~」
 届かない本に向かってぴょこんぴょこんとジャンプするその姿は、
 まるで猫……というよりは、麻薬中毒者のソレに見える。
 よっぽどだ。
 しかし、自分にとってはゴミ同然のモノに、ここまでの執着を見せる人間が居ようとは。
 世界は広い。……というか、実はコレ、意外と値打ち物だったりするのか、もしかして?
「なあアンタ、そこまでしてコイツを読みたいのか?」
「はい! なんでしたら代金をお支払いしますから!」
「金、ねえ…… 幾らでも?」
「幾らでも!」

 決まりだ。
 世の中には物好きが居る。
 こんな紙束を札束と交換したいって奴も、探せば居るようだ。
 まあ、ホントは只で拾ったモノなんだからくれてやっても良いような気もするが、ソコはソレ。
 今やコイツは俺のモノだし、見ず知らずの奴にくれてやる義理はない。
 あと、顎が痛いのも追加な。
「お支払いは現金でもカードでも……ってアレ? お財布が無い??」
「なんだ? 幾らでもってのは嘘か? じゃあまた今度な」
「ああっ、ちょっと待って下さい! あ、そうだ!
さっき貰ったこの荷物の中で、もし気に入ったものが有ったら差し上げますから!
取替えっこ、ということで、ね?」
「取替えっこ、ねえ……」
 正直、ソレはソレでアリだ。ゴミと引き換えに何かしらイイモノを貰えれば文句は無い。
 わらシベチョージャ、って奴だな。
……と思っていたが。


「んん? この石っころは……うん、ただの石ころだ。
こっちの古臭い瓶は……酒? ビンテージにしてもこんな飲みかけじゃあ価値ねえなあ。
んで、コレは……こりゃあまた偉く旧式な……」
「……ど、どうでしょうか……!?」
「あー……」
 正直、少しは期待していたが……残念。
「ダメだな。揃いも揃ってガラクタだらけだ。アンタの財布が見つかったらまた連絡してくれ」
 そう言い捨てると、俺はぶらりと歩き出す。
「古本屋、そのへんに開いてねえかなあ……」
「ちょ、ちょっと待って~!」
 置いていくつもりなのだが、女が纏わり付いてくる。
 正直、ウザイ。
「ちょっとだけですから~! 減るもんじゃないんですから~!」
「うるせぇなあ、アンタも諦めろっての!」
「そこを何とか~」
「ダメっつったらダメ! コレは俺のモン!」
 正直、最後はもう意地だけになっていた。
 タナボタで見つけた値打ち物(?)を、顎の恨みのある女にくれてやるのは忌々しい。
 ここで根負けするのはシャクだ。
 ただそれだけ。
 だが、意地ってモンがあるだろ、男の子には?
 まあ、要はそういうこった。
 決して俺が特別ガメツイってワケじゃないからな。
 いいな?



 アレ、そういや俺、なんでココに居るんだっけ……?

 ココ、どこだ……?


【G-1 一日目・深夜】
【スパイク・スピーゲル@カウボーイビバップ】
 [状態]:顎が痛い
 [装備]:デザートイーグル(残弾8/8、予備マガジン×2)
 [道具]:デイパック、○極○彦の小説
 [思考]
1.古本屋を見つけて本を売り払う。
2.本は俺のモノ


【読子・リードマン@R.O.D(シリーズ)】
 [状態]:健康
 [装備]:なし
 [道具]:デイパック、飛行石@天空の城ラピュタ、不死の酒@バッカーノ、拡声器
 [思考]
1.なんとしてでも○極○彦先生の本を読ませて貰う。


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スパイク・スピーゲル 059:本を取り戻せ
読子・リードマン 059:本を取り戻せ





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