小娘オーバードライブ(後編) ◆DNdG5hiFT6


その瞬間――あたり一面の空気が変質した。
まるで異世界がいきなり顕現したかのように、世界が――変貌する。
スパイクも、ジンも、奈緒も、その場にいる全員が否応無しに異常を感じ取る。

「何!? 何!? 何なのよコレ!!?」

奈緒は訳も分からず震える体を必死に抱きとめている。

「……これは、マズいね」

人間の欲をコントロールできるジンが冷や汗を流す。

「何だと……!」

そしてスパイクは思い出す。
レッドドラゴンで散々嗅いできた、暴力の匂いを。
そしてその中心、渦巻く異常な殺気の中心で少女は、

「ヒャ、ハ、ハ……ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
 ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
 ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!

天を仰いで――笑っていた。
その哄笑は、まるでこの世に生まれ出でたことを喜ぶ産声のよう。
3人の目の前で禍々しい産声を受け、バリアジャケットの姿が変わる。
少女らしいゴスロリから、無骨なブルーの囚人服へ。
左手には童話の悪役船長の様な鍵爪を携えて。
そして魔人は再誕を完了する。
その両目に緑の二重螺旋を宿らせて。

「ッあ―――イイねイイねイイね! サイッコーの気分だ!!」

かがみは口の端を限界まで吊り上げ、悦びを表現する。

「そこのボサボサ頭の賞金稼ぎは“さっきあしらったから何とかなる”って温いこと考えてやがるし!
 ジンは言わずもがな! 奈緒ちゃんは怯えまくってるが……まぁいいや、今日の俺は気分がいい!
 ついでに殺してやるよ!
 さぁ、どうやって殺されるのがお望みだ!?
 切り殺されるか撃ち殺されるか殴り殺されるか轢き殺されるか磨り潰されるか、何でもいい!!
 望みどおりの方法で殺してやるよ!!」


いきなりゲージを振り切らんばかりのテンションになったかがみ。
だがその中でスパイクは冷静に、迅速に動き出していた。
僅かに残っていた慈悲を振り払い、脳天に狙いを定める。
そう、先の対峙時にかがみの動きから弱点の予想はついていた。
この引き金を引けば全てが終わる。

「おもしれぇ! 早撃ち勝負か……カウボーイッ!!」

だがその瞬間、かがみの背後の空間が波打ち、波紋が浮かび上がる。
開かれる砲門の名は≪王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)≫。
そして打ち出される弾丸は回収された数々の本。
たかが本といえど相当の速度で打ち出されれば、それは凶器と化す。
ましてや大小さまざまな本は瞬く間にスパイクの視界を埋め尽くし、かがみの姿を紙の中へとかき消してしまう。

「くそっ!」

攻防一体の妙手だ。
舌打ち一つして、距離をとるためにバックステップで回避するスパイク。
それはベストな選択だった。

「イヤッホゥーイ!!」

陽気な掛け声と共にかがみが飛び出す。
本の嵐を掻き分けて、距離をとろうとしたスパイクに向けて、一直線に。
それは宛ら、ホッキョクグマを襲うシャチの如く。
獰猛に、ただ殺意を持って、スパイクの命へ手を伸ばす。

「この野郎っ!!」

さりとてスパイクの習得しているのはジークンドー。
その極意は水。螺旋力に後押しされた比喩抜きの殺人フックを殆ど力を使わずに受け流し、そのまま投げの態勢に入る。
だが――

「いいねぇいいねぇ、噂に聞いたことのあるトーヨーのクンフーってやつか……だがなぁ!」

投げられたかがみは体をひねると、床に叩きつけられることなく体勢を立て直す。
なぜならばその“投げ”はもうすでに“かがみ”が一度受けている。
受けきれ無い道理は無い――ましてや疲労でキレの鈍っているスパイクの技を、だ。

「もう一度行くぜ、スパイク・スピーゲルッ!」

瞬間、再び空間が波打つ。
だがあの空間兵器はただ射出するだけらしい、とスパイクは見抜いていた。
つまり軌道が曲がったりすることはないのだ。
だったら――スパイクにはある程度は弾道も予測できる。
しかも本を撃ち出したってことは、最初、ヴァッシュに向けたときで刃物は打ち止めのはず。
なら数発もらう覚悟で懐に入り込めさえすれば、こちらにも十分勝機が見え――

「お前……刃物はさっき出したし、安全だなんて思ってんじゃないよなぁ?
 いや、思ってるだろ? なぁ、おい、スパイクさんよぉ!」

砲門が開かれ、飛び出してきたのは金色の何か。
――それはかつてアルベルトが奪い取った英雄王の鎧。
だがすでに半壊した鎧は発射時の衝撃と風圧で更に壊れ行き、最早無数の金属片と言ったほうがいい状態にまで破壊される。
そして≪王の財宝≫はその全てを財として、射出する。
無数の金属片がスパイクにその矛先を向け、牙を剥いた。

「チッ!」

軌道の予測どころの話ではない。
まるで黄金の散弾銃だ。
破片の数は多く、直撃どころか掠るだけでも致命傷になりかねない。
すんでの所でスパイクは大きく体制を崩しながらも回避に成功する。
だが、その隙を見逃す殺人鬼ではなかった。
回避先に先回りし、ボクシングスタイルをとっている。。
そして放たれるは全力を込めた右ストレート。

「か……は……っ」

ハンマーのような強い衝撃を腹部に叩き込まれ、賞金稼ぎは大地に沈んだ。

「スパイクッ!」
「オイオイオイ、人の心配してる場合かよ、ジン?」

一足でジンの目の前まで歩みを進めたかがみは体を大きくひねり、ボクシングスタイルから一転、蹴りを放つ。
側面から胴回し気味に放たれた蹴りはジンの体を捕らえ、容易く吹き飛ばす。
だがその様子を見たかがみは不機嫌そうに眉を寄せる。

「――気付いてるぜ? あん時みたいにわざとぶっ飛んでるだろ?」
「……やっぱり同じ人間にタネの割れた手品は通用しない、か」

服を払い立ち上がるジン。
その動作は軽やかで、やはり殆ど先程の蹴りによるダメージを受けていないようだ。
その姿を見てかがみは舌打ちする。
ジンはドロボウを名乗るだけあって身軽で、落ち葉を相手にしているかのようだ。
砕く方法もあるにはあるが、どうにもめんどくさい。

「あーやっぱテメェ相手にするとめんどくせえな。
 つかえそうなもんも中々ねえし、さて、どうするか……」

その発言にジンは内心一息ついた。
現在のところ逃げに徹する限り、勝負は互角。
ならば問題は逃げ続けられる間に逆転の一手を思いつくことが出来るか、だ。
だがその時、予想外の乱入者が現れる。

「ジンから……離れなさい!」

そこにいたのは剣を構えた鴇羽舞衣の姿だった。
あの後、一人になった舞衣はジンを探して結局ここまでやってきてしまったのだった。
その姿を確認したかがみは喜びにその笑みをより一層深くする。

「オイオイオイオイオイ、舞衣ちゃんまでいるのかよ!
 やっべ、うれしくってったまらねえ!!!」

その瞳に睨まれて、舞衣は体をすくませる。
前だ。前にもこの瞳に私は襲われた。
ありえない。その名は放送で呼ばれたはずだし、何より目の前にいるのはガタイのいい男ではなく自分と同い年ぐらいの女子高生だ。
だが、奴が纏うこの空気は、こちらを挑発するあの口調は、そして何より獰猛なその目は、焼きついた記憶から恐怖を引きずり出す。

「ラッド……ルッソ……?」

その呟きを肯定するように、かがみは口の端を吊り上げる。
あの時の殺意も、憎しみもすべてが焼き尽くされたがそれでもDボゥイに害をなす存在であることは間違いない。

そしてその手に握られた剣はただの剣ではない。
心の中に自身の名を告げてくる。
使い方が分かる。そう、これさえ振るうことが出来れば――!

「ヤバい!! 舞衣、逃げろ!!」

え、と顔を上げた先にいたのは至近距離まで接近したラッドの姿だった。

「オイオイオイ、感動の再会だってのに何ボーっとしてやがるんだ、テメェはよ!」

剣を振るう暇も無かった。
脇腹に膝を叩き込まれ、その場に崩れ落ちる。

「こんなもん使うって事は炎が出せなくなったのか? 
 ま、どうでもいいけどよ……お!」

その脳裏に閃いたのは悪魔の妙手。
かがみは邪悪な笑みを浮かべると、舞衣の体を抱え――そのままその体を放り投げた。

「!?!?」

高速で投げ飛ばされた舞衣の体。
そしてその先には民家の窓ガラスが陣取っていた。
ここまま窓ガラスに突っ込めば、シーツ一枚しか羽織ってない舞衣は大怪我を負うだろう。
だからジンは舞衣を受け止めるほか選択肢が無い。

「やっぱそう来るよなぁ?」

――例えそれが、動きを封じるための罠だと分かっていても。
無防備な2人に向けて加速に上乗せされるように、かがみの右ストレートが炸裂する。
強烈な一撃を受けた2人はそのままガラスを突き破り――沈黙した。

スパイク、ジン、舞衣をあっという間に片付けてしまったかがみ。
だが殺人鬼の思考は止まらない。
そう、まだだ。まだお楽しみはこれからだ。
これからスパイクを、ジンを、舞衣ちゃんを殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺しまくって――うっさい!!

「ぐっ……あっ……!」

苦悶の声をあげ、左目を押さえる。
それと同時にスカートのポケットからアイパッチを取り出し、素早く取り付ける。
そしてそのままの体勢で数秒間、停止していただろうか。
再び顔を上げたその瞳に、最早狂気の色は無かった。

――良かった。どうやら使いこなせたみたい。

上がる息を抑え、満足感に浸るかがみ。

ラッドという闇に飲み込まれる恐怖があった。
また誰かを殺してしまうかもしれないという恐怖があった。
だが自分はそれを乗り越えた。
自分でも分かるぐらい“手加減”が出来ていた。
本気だったのなら、3人とも鍵爪で切り裂いたはずだ。

だがそうはしなかった。
そう、“柊かがみ”は――ギリギリのところだったものの――あのラッドを制御することが出来たのだ。
それは確かな自信となって、かがみを安心させる。

そして彼女が得たのはそれだけではない。
ラッドの中からあふれ出た新たな殺人技巧の数々。
それらは数こなせば自分のものになってくれるだろう。
これならウルフウッドを倒せる。千里の仇を討てる。
そして螺旋王への道を今度こそ……!

と、そこまで考えたところで、物陰に隠れていた奈緒の姿を発見する。
スパイクと共に到着したものの、戦闘が始まるなり物陰に隠れてしまったのだ。
少女の意思とは関係なく、ただ、恐怖に押されるままに。
かがみは奈緒へ向け、口を開く。

「それで残ったのはアンタだけだけど……どうする? バトる?」

あえて最初に会った時の奈緒の口調を真似てみる。
分かりやすい挑発……だが恐怖に飲まれた奈緒にとってはそれすらも
“ラッド”の記憶では逆らった光景も確かにあるが、目の前の少女は分かりやすいぐらいに怯えている。
コレぐらい怯えられると、哀れみすら向けたくなってしまう。

「ま、いいわ。大人しくしてなさいよ」

正直な所、さっきから奈緒を見ているだけで『ラッド』が暴れだしそうなのだ。
怯え、震え、何も出来ない……ラッドにとっては慢心したヤツの次に殺したいやつだ。
更にあのギルガメッシュを挑発できるというのなら、なおのこと、である。
だから正直隠れていてくれたのはありがたかった。
他の誰に手加減が出来ても今の奈緒にだけは手加減が出来そうに無かったから。

そんなことを考えながら、奈緒の隣を通り過ぎようとするかがみ。
近づかれるだけで奈緒は言いようの無い恐怖に蝕まれ、思わず目を閉じようとする。
だがその瞬間、彼女は見覚えのある黄金の輝きを目にする。

「!!?」

あまりに見慣れた輝き……それは先程射出された黄金の鎧の欠片であった。
思わず駆け寄り、拾い上げる。
そして思い出す。ドモン・カッシュが預かっていたという伝言の内容を。

――代わりに我が臣下たるナオを置いていく。丁重に扱うがいい

そう、代わり。
今の自分はギルガメッシュの代理なのだ。
それはつまりここで自分が退けば、それはギルガメッシュが退いたという事。
そう考えた瞬間、頭が灼熱する。
何故だろう――他の何が許せたとしても、それだけは許せなかった。

『恐怖は己の中にある。一度でも逃げ出せば癖になり、二度と勝利できん。
 だが乗り越えればそれは確かな自信となり、新たな力を呼ぶ』

脳裏に響くのはさっき言われたドモンの言葉。
そう、ここで逃げればきっと一生逃げ続ける。
そうなればアイツの隣には決して、辿り着くことはできない。

「ちょっと……待ちなさいよ!」

気付けば呼び止めていた。

「何? 私も暇じゃないんだけど」

振り向いたかがみに睨み返される。
ただそれだけで全身から脂汗がにじみ出て、恐怖がぶり返してくる。
自分の意志とは関係なく、手を握りしめてしまう。

「あ……ぐ……!」

だがその手に痛みが走る。
痛みの原因は、掌に握り締めた黄金の鎧の欠片。
そしてその痛みが、結城奈緒の覚悟を決める。

『思い出すがいい、今の貴様を支えているものを。誇りを。
 それこそが恐怖を乗り越える唯一つの術なのだからな』

結城奈緒の誇り。今の彼女を支えているもの。
あのバカ騒ぎみたいな殺し合いの中で結城奈緒は、
アイツに依存したくない、ギルガメッシュと平等でありたい、と吼えて殺人鬼に立ち向かおうとした。
そんな自分に呆れながらも、決して嫌じゃなかった。
今までの人生で奈緒が感じたことの無いそれは――きっと“誇り”と呼ばれるものじゃないのだろうか。
ならば思い出せ、正面切ってラッド・ルッソに逆らったあの時の力を。想いを。
そう、今こそここが結城奈緒の……正念場!!

「舐めてんじゃ……ないわよっ!!」

――ドクン。

その時、奈緒の中で何かが変わった。
心に浮かぶのは螺旋。
そしてその螺旋はゆっくりと回転を始め、速度を上げていく。
螺旋はプロテクトを突破し、元から持っていた確固たるイメージを作り上げる。
そして奈緒は確信した。呼べる、と。

「――来いっ!! ジュリアアアアッ!!」

緑の光が大地に走る。
その光に包まれるようにして、地面から生まれ出でるのは8本の緑柱。
そして続いてその柱を繋げるのは女性の体を持った趣味の悪いモンスター。
人の上半身と蜘蛛の下半身を持ったチャイルド、緑晶の女郎蜘蛛・ジュリアが降臨した。

「ふぅん……逆らうんだ」

だがそれを目の前にしても柊かがみは余裕の態度を崩さない。
その目に宿るのは殺意。
もう止まらない。終わらない。
結城奈緒を殺さなければ、きっとこの衝動は消えやしない。
かがみの服が再び変化し、再度バリアジャケットが展開する。

「遊んであげるわ……来なさい、蜘蛛女!」
「ざけんなっ! 倒れるのはアンタよっ!」

第二幕の開始を告げる勝鬨の声を互いに上げ、柊かがみと結城奈緒は通算4度目の激突を開始した。


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260:小娘オーバードライブ(前編) ジン 260:太陽がまた輝くとき
260:たたかう十六歳(^^;) 鴇羽舞衣 260:太陽がまた輝くとき
260:小娘オーバードライブ(前編) スパイク・スピーゲル 260:NEXT LEVEL
260:小娘オーバードライブ(前編) 柊かがみ 260:NEXT LEVEL
260:小娘オーバードライブ(前編) 結城奈緒 260:NEXT LEVEL





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