LAST CODE ~ゼロの魔王~ ◆9L.gxDzakI



行動には、常に結果がつきまとうものである。

 誰がいかなる行動を取ろうとも、その先には必ず、その行動に応じた内容の結果が存在している。
 であればすなわち結果とは、行動の変化によって表情を柔軟に変えるものというわけだ。
 二者択一の○×問題にしても、どちらを選んだかによって、正解・不正解に未来は分岐する。
 選択肢は二つしかないとも限らない。
 三択、四択、時には十択以上にも。
 得られた表面的事実は同じでも、抱く感情はまるで違うこともある。
 1つ1つの選択が、複雑無数に枝分かれし、大樹を成すのが多元宇宙。

 ならば、彼が取った行動の結果は――


 ――ゼロ。
 かつて合衆国日本に姿を現し、世界のあらゆる悪と戦うことを表明した革命家である。
 神聖ブリタニア帝国の手に落ちた日本を瞬く間に奪還し、世界最大の国家連合・超合衆国連合を設立。
 そして遂にブリタニアとも戦い、勝利を掴んだ英雄である。
 今やその影響力は、名実共に世界最大。
 小さな島国でデビューを飾ったテロリストは、そこから文字通り世界全国を刈り取ったのだ。
 そしてその仮面の男こそが――偽りの螺旋王、ルルーシュ・ランペルージだった。
 世界制覇に乗り出したブリタニアを打倒し、妹ナナリーの望む優しい世界を作ること。
 自らを捨てた帝国への復讐を果たしたルルーシュは、遂に望む世界を手中に収めたのだ。
 そして今、かの箱庭より生還した黒き皇子は、1人玉座へと頭を垂れている。
 ブリタニア帝国首都・ペンドラゴン。
 その中心に位置する王城の、玉座の間に彼はいた。
 身に纏った漆黒の装束は、あくまで仮面の男・ゼロのもの。
 かつて世界の3分の1を支配した、世界最強の帝国の長は別にいた。
 ふ、と。
 自虐的な色を含んだ笑み。
 悲痛な気配の宿るそれは、さながらうなだれる様にも似て。
 ルルーシュの紫の視線の先には、1人の少女の姿があった。
 ブロンドを思わせる輝きの混ざった茶髪。閉じられたまま開かぬ瞳。その身を彩る豪奢なドレス。
 彼女こそが、神聖ブリタニア帝国第99代皇帝。
 彼女こそが、ナナリー・ランペルージ。
 ルルーシュの愛した妹にして、今やブリタニアの頂点に立つ者だ。
「……何を間違ってしまったんだろうな、俺は」
 ルルーシュが問いかける。
 ナナリーは答えない。
 ふっと穏やかな微笑を湛え、微かに首を傾げるだけだ。
 一体何を間違ったのだろう。
 一体どこで間違ったのだろう。
 ルルーシュがブリタニアを倒し、ナナリーを王座に据えること。これが彼の最終目的。
 望む世界を作るための地位を、彼女に与えるはずだった。
 妹はブリタニア、兄は超合衆国連合。
 それぞれがそれぞれの頂点に立ち、平和な世界の実現のため、共に歩んでいくはずだった。
 なのに何故、こんな結果になってしまったのだろう。
 こんな残酷な結末を、突きつけられる羽目になってしまったのだろう。
 いつ間違った。どこで、何を間違った。
 ルルーシュの思考は、ゆっくりと過去へとさかのぼる。



 ――おかえり、ルルーシュ。夕べは一晩中どこをほっつき歩いていたんだ?

 最低最悪の科学者・ロージェノムの実験場――そこから脱した彼が最初に聞いたのは、そんな言葉だった。
 発したのは彼の共犯者。
 C.C.という少女である。不死身を体現したかのような、正体不明のわがまま娘だ。
 ここに1つ、驚くべき事実がある。
 ルルーシュがあの殺し合いに巻き込まれた期間は、少なく見積もっても最低3日。
 実際に箱庭に閉じ込められていた2日間と、そこに脱出用の飛行機の調整期間を含めて3日だ。
 だがC.C.は、彼がいない期間を1日と断じたのだ。
 どうやら自分は元の世界に帰るついでに、最低2日分過去へと遡ってしまったらしい、と認識する。
 世界を座標に例えたとして、時間を縦、空間を横とするならば、多元世界間の移動は斜めとなるらしい。
 ということは斜め移動のさなかに、縦に当たる時間の推移がついてくるのも、ありえない話ではないということか。

 ちなみに、彼がこうして帰還を果たしたことで、世界にはある変化が生じている。
 そもそも先の殺し合いの際、その舞台裏でもまた、もう1つの壮絶な殺し合いが展開されていた。
 螺旋民族とアンチ=スパイラル一派の全面戦争である。
 双方全滅の結果を招いたこの戦闘には、ロージェノムに拉致されたルルーシュを救出すべく、このC.C.も参加していたのだ。
 しかし、こうしてルルーシュは帰ってきた。
 彼女を戦場へと誘った存在が、この世界へと呼びかける理由が、それによってなくなってしまった。
 この瞬間、世界は新たな多元宇宙へと分岐する。
 ルルーシュがC.C.の参戦よりも早く帰ってきたことで、「ルルーシュが失踪の1日後に帰ってきた世界」が新たに生まれ、
 この世界のC.C.は、「ルルーシュが失踪した後C.C.が戦線に誘われた世界」のC.C.とは、別の人物となったのである。
 ともあれそのようなことは、ルルーシュにとっては知る由もない余談なのだが。

 閑話休題。 
 そうして帰還し、C.C.の問いかけにも適当に応じた彼が最初に行ったのは、まず情報確認だった。
 ルルーシュには元の世界に帰って最初に、彼女に問いたださなければならないことがあった。

 ――V.V.とは誰だ?

 開口一番の問いがそれだ。
 ルルーシュはあの螺旋王のデータバンクで、己の辿るある程度の未来の事象を把握している。
 そしてその物語の中に、彼の知らぬファクターが存在した。それがV.V.という少年だ。
 あの箱庭にあった情報を真実とするならば、こいつはランスロットのパイロット・スザクにギアスの情報を明かし、
 あまつさえナナリーを誘拐するということになる。
 これがマオならまだいい。ギアス能力者がギアスの存在を知っているのは当たり前。
 だとするならば、その少年は何者だ。何故ギアスのことを知っている。
 そいつもマオ同様、C.C.と何らかの関係を持っているのではないか。
 彼女と行動を共にしていたのか。はたまた彼と同じギアス能力者か。
 少なくともルルーシュの知る盤面の上に、このような駒は存在していない。決して見過ごせるものではない。
 当のC.C.自身はというと、一瞬この問いに大層驚いてみせた。
 だがやがて観念したのか、静かに白状を始めた。
 V.V.の正体を。その恐るべき目的を。

 金髪の少年・V.V.は、C.C.よりも後に能力に目覚めた、同じ“コード”の持ち主らしい。
 ここで言うコードとは、彼女の持つ魔女の力の総称のことだそうだ。
 要するにV.V.もまた彼女と同じく、「不死の身体」と「ギアスを与える力」を有しているということ。
 そして既にこの少年は――当時のブリタニア皇帝シャルル・ジ・ブリタニアと契約を結んでいた。
 彼はブリタニア王の実兄であった。
 おおよそ二桁にも満たぬ外見年齢しかないV.V.は、しかしルルーシュの伯父だったのだ。
 コードの能力に目覚めるには、ギアス能力を授けられている必要がある。
 彼がどのタイミングでに魔人の力を手にしたのか。それは今となっては定かではない。
 だがかつてのブリタニア王家の内乱の折、兄V.V.は間違いなくコード能力に覚醒し、弟シャルルはギアス能力を授けられた。
 そしてそのコードの力で、彼らが為し遂げんとした恐るべき計画がある。

 それがラグナレクの接続だ。

 現在のブリタニアの王城には、“アーカーシャの剣”と呼ばれる遺跡が存在する。
 そして同時にこの地球には、それと近似した遺跡が随所に残されているのだそうだ。
 後者の遺跡に関してはルルーシュも知っている。正確には、未来の彼が目撃している。
 日本の式根島のすぐ近く――神根島と呼ばれる無人島に、その遺跡の1つがあるらしい。
 そしてそれら全てを手中に収め、V.V.とC.C.の――案の定、彼女らはかつて協力関係にあった――コード能力を用い、
 アーカーシャの剣を起動すること。
 それがブリタニアの兄弟の最終目的であり、シャルルが始めた侵略戦争の最大の理由だった。
 この行為を、ラグナレクの接続と呼称するのだという。

 そしてその行動に伴い、引き起こされる結果は――全人類の合一化。

 そもそもアーカーシャの剣とは、「Cの世界」と呼ばれるものに干渉するための端末なのだという。
 Cの世界とは、言うなれば集合無意識。
 時間、国境、血縁……はたまた生死の境界すら問わず、あらゆる人間の無意識が溶け合ったものである。
 シャルルはこれを操作することで、全ての人間の有意識さえも、そのCの世界に取り込もうというのだ。

 これは由々しき事態である。
 確かに全ての人間が1つとなれば、あらゆる思想は統一され、争いのない平和な世界が実現されるだろう。
 だがその世界には平和しかない。
 自分と他者の境界を取り払うということは、世界の全員が自分であるということ。
 すなわちそれは、自分以外に誰もいない世界と同じだ。
 そもそも人は何故平和を求めるのかといえば、大切な人々と共に穏やかで楽しい時間を過ごしたいからである。
 ならば、独りぼっちで謳歌する平和に、一体どれほどの価値があるだろう。
 皇帝の掲げた理想と計画は、既に構想の段階で、大いなる矛盾を抱えていたということだ。
 結局のところ彼の理想は、思い上がった偽善者の大量虐殺に過ぎない。
 地球上の全人類が、それを理解してもいない人間に皆殺しにされるのだ。
 C.C.の言葉を信用するならば、まだラグナレクの接続までには猶予が残されている。
 ブリタニアによる世界制覇が成し遂げられていない今、計画の実行にはまだ遺跡が足りない。
 それが全て皇帝の手中に収まるよりも早く、帝国を打倒しなければならないのだ。


 さて、改めてルルーシュはブリタニアと戦うことになるわけだが、ここで解決すべき課題が3つある。

 1つはシャーリー・フェネットのこと。
 1つは枢木スザクのこと。
 1つはユーフェミア・リ・ブリタニアのこと。

 彼女ら3人のうちシャーリーとユーフェミアは、遠からず自分の戦いに巻き込み悲劇を味わうことになってしまう者。
 そして残されたスザクは、このままでは最悪の強敵として戦うことになってしまう者。
 未来のビジョンを見たことで把握したこれらのリスクは、可能な限り抑え込まなければならない。
 これはC.C.に聞いたことだが、ルルーシュが行方をくらましていた数日間、スザクは何事もなく学園に登校していたらしい。
 カレン・シュタットフェルトも同様だ。
 つまりあの殺し合いの場にいた彼らは、アンチスパイラルの言葉を借りるなら、自分とは違う多元宇宙の住人であったということ。
 もう二度と会えないとばかり思っていた親友が生きていたのは嬉しいが、おかげで対処すべき案件も増えてしまった。
 また、ジェレミア・ゴッドバルトの方にも手を打っておきたかったが、
 こちらは既にブリタニアに身柄を確保されている。今から手を出すのは難しいだろう。
 ともあれそれらの課題を抱え、ルルーシュは行動を開始した。


 まず最初に振りかかったのは、シャーリーの問題である。
 螺旋の城にて垣間見た未来においては、スザクに撃墜されたところを目撃され、正体を知られてしまうという結果を迎えていた。
 戦闘が始まってからという状況を考えると、黒の騎士団の団員に見つけさせるという対処法も厳しいだろう。
 であれば、取るべき手段は1つ。スザクに撃墜されないようにするということ。
 ここは藤堂奪還作戦で用いることになっていた、対ランスロット戦術を、データよりも先に持ち出すことで対処した。
 先のナリタ連山からルルーシュは、ランスロットの戦闘データの分析を始めている。
 このデータは次のトウキョウ湾での戦いを経てようやく完成するわけだが、それをそのトウキョウ湾で出すわけだ。
 今は未完成の戦術でも、未来では既に完成している。そしてルルーシュは既にそれを見てきている。
 少々もったいないカードの切り方ではあるものの、結果としてランスロットを撤退に追い込むことには成功。
 ゼロへの憎しみを拭い去ることこそできなかったものの、シャーリーに正体を知られるという事態は回避された。
 そしてこの時同時に、ルルーシュを嗅ぎ回っていたヴィレッタ・ヌゥも、戦闘に紛れて始末している。

 ――未来は変わった。変えることができたんだ。未来を、世界を変える力……俺にはその力がある……!

 あの螺旋王の居城から手に入れた未来の情報。
 禁断の果実を口にしたルルーシュは、既定された未来を改変することに成功した。
 思えばこの瞬間から、彼の増長は始まっていたのかもしれない。
 ルルーシュ・ランペルージは勝利したのだ。
 ただの一度ではああったものの、軍でもランスロットでもなく、世界そのものを屈服させた。
 人知を超えた存在から勝利をもぎ取ったという事実に、ルルーシュは大いに酔い、笑った。


 その後、マオなどの細かな事象に対応しつつ戦う中で、彼は2つ目の課題に直面する。
 枢木スザクだ。
 これは3つの課題の中で、最も慎重に扱わなければならないものでもあった。
 なすべきことは決まっている。説得し仲間に引き入れること。
 だが、時期が問題だ。
 あまり早期に彼を手駒に加えては、式根島でのランスロット捕獲作戦が実行されなくなる。
 これがなければルルーシュが神根島に流されることもなくなり、新型KMF・ガウェインを強奪することも難しくなるのだ。
 飛行能力と絶大な火力を有したガウェインのスペックは、まさに圧倒的の一言に尽きる。
 ハドロン砲の炎で大地を焼き、天空に君臨する漆黒と黄金の巨体は、まさしく神話の魔王そのもの。
 とはいえこのガウェインも、単なる遺跡調査のために持ち出される予定のもの。黒の騎士団を動かす大義がない。
 故にこの機体は未来情報通り、どさくさ紛れに強奪しなければならない。
 だが遅すぎてもいけない。説得の機会がユーフェミアを利用した後では、まず間違いなくまともに話も聞かなくなるだろう。
 あの資料の最後に見た、遺跡での対峙がいい例だ。スザクにとってユーフェミアとは、それだけの価値のある存在だった。
 そして更に最終手段として、ギアスをかける余地も残しておきたい。
 となるとやはりスザクを仲間に引き入れるのは、ロージェノムの資料と同じタイミングに限定される。
 すなわち、ランスロット捕獲作戦の瞬間だ。
 そしてルルーシュは式根島にて、その作戦を実行する。
 ゲフィオンディスターバーで白騎士を無力化し、そのコックピットへと滑り込んだ。
 素顔を晒すためだ。
 犯罪者ゼロとしてでなく、親友ルルーシュとして説得するために。
 憎むべき敵ではなく愛すべき友としてでなら、話を聞いてくれると信じていた。
 自分達2人でできないことは何もない。そう信じていたかった。
 それが恐らくルルーシュに残された、最後の良心であったのだろう。
 ゼロはまだ、スザクにとって決定的な行動を起こしてはいないはずだ。彼だけは味方になってくれるはずだ、と。
 だがしかし、少年の抱いた淡い期待は、脆くも打ち砕かれることになる。

 ――友達だからこそ、君の行いを見逃すわけにはいかない。今からでも罪を償うんだ。

 否定。
 かけられた言葉は予想の反対。
 これ以上罪にまみれる君を見たくない。弁護には僕も協力する。だからすぐに自首するんだ。
 ひどく優しい声音をして、スザクはルルーシュを拒絶したのだ。
 これは全くの予想外。
 本来の歴史とは異なる行動を取った。これで未来を変えられるはずだった。
 だが、状況は何も変わらない。しかも正体を知られた分、前よりも不利になってしまった。
 何故だ。
 何故お前は俺を裏切る。
 沸々とルルーシュの胸に込み上げた、理不尽な怒り。
 信頼していたのに裏切られた。状況が全く思い通りにいかない。力を手にしたはずだったのに。
 怒り狂う彼の視線の先では、なおもスザクが説得の言葉を重ねている。
 そして、遂にこの瞬間。

 ――……お前が……お前が、悪いんだぞ……お前が俺を裏切ったんだからなぁぁッ!!

 ルルーシュはギアスを発動させた。
 唯一支配はしたくないと、願い続けていたいた相手を、その異能で操ってしまったのだ。
 “俺の部下になれ”。
 憤怒と憎悪の導くままに、吐き捨てたのは8文字のワード。
 あらゆる自由と意思は失われ、スザクは忠実な下僕となった。
 ルルーシュはその手で愛すべき友を、操り人形へと変えてしまったのだ。
 その後スザクは彼に従い、現れたガウェインの砲撃から脱出。
 後はあらかじめ用意されていた未来のシナリオのまま、ガウェインを強奪し神根島を脱出した。
 この時ランスロットで共に脱出したスザクには、その場に居合わせたシュナイゼル・エル・ブリタニアを抹殺させている。
 母の仇の情報を聞き出せなかったのは、残念と言えば残念だが、今はそんなことを気にしてはいられなかった。
 どうせ後から戦う皇帝に聞き出せばいい。厄介なシュナイゼルは今のうちに殺してしまえ。
 スザクを手にかけたルルーシュの箍は、既に完全に外れていた。
 まともでいられるはずもない。何せ唯一無二の親友の人格を、完全に破壊してしまったのだ。
 なりふり構う余裕など、全て狂気に押し流されていた。
 両の瞳を潤ませながら、ルルーシュはひたすらに笑い続けていた。


 不本意な形ではあったものの、スザクの課題をクリアしたルルーシュに残されたのは、ユーフェミアの存在だった。
 行政特区日本という形で、限定的に日本人の復権を実現するという方針。
 彼女の提唱するこの特区が実現されては、黒の騎士団の存在意義は失われてしまう。
 当然未来におけるルルーシュも、これを阻止すべく行動した。
 その時ギアスの暴走により、偶然下してしまった命令は、会場に集まった日本人を虐殺しろというもの。
 これも人々を煽るという意味では悪くない選択だが、それでは無駄に血が流されてしまう。
 今後ブリタニア本国という巨大な敵と戦うことを考えると、戦力の芽を断ってしまうのは旨味がない。
 ここはやはり、資料の自分が最初に考案した策を実行することにしよう、と判断した。
 スザクにギアスをかけ、歯止めのきかなくなったルルーシュにとっては、
 ユーフェミアも日本人も、ブリタニアを倒すための駒に過ぎなかったのだ。
 こうして行政特区式典に姿を現したルルーシュは、ユーフェミアとの一対一の対峙に臨む。
 本来の歴史同様、彼女はゼロの正体を神根島で知っていた。
 故にルルーシュへと手を差し伸べ、共に行政特区を築いていこうと提案する。
 だが、その手が握り返されることはなかった。

 ――さようなら、ユフィ。多分、初恋だったよ。

 代わりに返されたのは、狂える魔人の凄絶な笑み。
 真紅に輝く左の瞳と、あらかじめ用意していたニードルガンだ。
 実銃よりも威力の低いこれを、敢えて自分に向けて撃たせることで、ユーフェミアを「日本人を騙した悪者」へと仕立て上げる。
 その後、ゼロが奇跡の復活を遂げてみせ、人心を一気に手繰り寄せる。これがルルーシュの作戦だ。
 ユーフェミアはこの命令を忠実に実行、一転して魔女と罵られることとなる。
 そして復活したルルーシュにより、遂に合衆国日本設立が宣言された。
 こうして多くの相違点を孕みながらも、ルルーシュの現実は未来のビジョンにおける、最後の戦いの舞台へと一歩踏み出したのだ。

 皇暦2017年、トウキョウ。
 遂にエリア11史上に残る、最大規模の反乱の幕が切って落とされた。
 トウキョウ事変である。
 既に情報を得ていたルルーシュは、それらを元に反省点を改善し、完璧な指揮をもってこの戦いに臨んだ。
 資料通りに戦っていては、最終的にほとんど返り討ちに近い結果を招いてしまうのだ。何もしない方がおかしい。
 まず、直接の敗北の要因となったナナリーに関しては、誘拐される前に直接手を打った。
 彼女を「ブリタニアに捨てられた皇女ナナリー・ヴィ・ブリタニアだ」と敢えて公表することで、騎士団の保護下に置いたのである。
 そして、総督コーネリア・リ・ブリタニアとジェレミア。
 これにはそれぞれカレンの紅蓮弐式、スザクのランスロットを割り当てることで対処。
 元々データにおける黒の騎士団の劣勢の一因は、ランスロットが暴れ回ったこと、それに紅蓮が早期に撃破されたことにもあった。
 そのスザクが自軍に加わり、カレンも撃墜を免れたのだ。進軍効率は目に見えて向上した。
 こうしてトウキョウ政庁制圧に成功したルルーシュは、瞬く間にエリア11全土を掌握。
 見事日本をブリタニアから奪還し、合衆国日本を立ち上げたのである。


 一国の大統領となったゼロは、いよいよ本格的にブリタニアとの戦争体制を整える。
 まずは中華連邦へと手をかけ現行政府を打破、圧政と貧困に喘ぐ国民達を解放してみせた。
 こうして極東各国との盟約締結に着手し、
 ブリタニアとの戦争で散り散りとなっていたたEU諸国とも繋がりを得たルルーシュは、超合衆国連合の構想を発表。
 更に裏では、スザクの上官ロイド・アスプルンドと接触し、懐柔することに成功。
 強大なブリタニアに立ち向かうだけの国力と技術を、ようやく得るに至ったのである。
 当然、決戦に至るまでに時間はかからなかった。
 程なくして超合衆国連合は、ブリタニアとの全面戦争に突入。
 ルルーシュが長らく待ち望んだシャルルとの対決が、いよいよ実現したのだ。
 当然、帝国の戦力も一筋縄ではいかない。 帝国最強の12騎士・ナイトオブラウンズ、更にはV.V.の精製したギアス能力者軍団もいる。
 だがここでも、スザク・カレンの両者がいること、また、予期せぬ形でジェレミアが騎士団に加入したのが幸いした。
 ロイドの開発したランスロットと紅蓮の改良型・第9世代KMFは、ラウンズの第7世代を遥かに凌ぐ性能を発揮。
 更に元は対ルルーシュ用として送り込まれたジェレミアのギアスキャンセラーも、ギアス能力者相手に絶大な威力を誇った。
 ここに藤堂の新型・斬月、中華連邦の武人・李星刻の駆る神虎が加わることで、エースパイロットの戦力差は対等となる。
 兵隊の力が互角となれば、後は軍師の戦略の出番だ。
 既にブリタニア側の指揮官のうち、シュナイゼル・コーネリアは死亡している。となれば戦略面はルルーシュの独壇場。
 壮絶な決戦を制したのは、反逆者ゼロの率いる黒の騎士団だった。
 逆らう奴らに容赦はしない。命乞いをする敵も皆殺し。味方はとうに、全員ギアスの奴隷に変えていた。
 戦乱の果てに、遂にルルーシュは皇帝シャルルを殺害。V.V.をもコード能力者用のカプセルに封印。
 世界全土を超合衆国連合の傘下とし、地球上のほぼ全ての国家を統一するに至ったのである。


 憎きブリタニアは滅ぼした。母の仇はシャルルから聞き出した。
 多くの犠牲を払いながらも、全てをその手に勝ち取った。
 ルルーシュはいよいよ、最大にして最後の目的を実行に移す。
 これまで厳重に保護していたナナリーに、ブリタニアの王座を託す日が来たのだ。
 兄は合衆国を、妹は帝国を。
 兄妹2人で力を合わせ、優しい世界を作り出す。その目標の実現の日。
 ナナリーがブリタニアの女帝となったその瞬間、ようやくルルーシュの長き戦いは終わるはずだった。

 ――お兄様……私は、こんな世界を望んでいたんじゃありません!

 それを否定されることがなければ。

 ――な……何を言っているんだナナリー! 俺はお前のために、今まで……!
 ――ごめんなさい、お兄様……でも、こんなのはやっぱり間違っています!

 よく考えてみれば分かる話ではあった。
 心優しいナナリーが、誰かの犠牲の上に成り立つ世界を与えられて、喜ぶはずもないのだと。
 自分のために多くの血が流れたと知って、嫌悪感を示さないような子ではないじゃないか、と。
 だが、遂にルルーシュはここに至るまで気付かなかった。
 いいや、気付きたくなかったのかもしれなかった。
 スザクの心を踏みにじり、破壊してまで得た世界が、否定されるなどということは認められなかった。
 であれば自分は何のために、多くの犠牲を払ってきたのか。
 何のために無二の親友を手にかけたのか。
 今さら否定されてたまるか。
 もう戻ることはできないんだ。
 自分がどれだけの労力をなげうって、お前のために頑張ってきたと思っている。
 どうして大切な人間に限って、自分のことを分かってくれない。どうして思い通りにならないんだ。
 許さない。
 俺の行動を否定することは許さない。
 ナナリーであろうと許しはしない。

 ――う……うるさい! 黙れ、黙れ、黙れっ!

 怒りも露わな視線をナナリーに向けるという暴挙。
 憎しみさえも叫びからにじみ出るという暴走。
 最愛の妹の存在を、怒り憎むという矛盾。
 制御できぬ極大の憤怒と憎悪の中、ルルーシュが投げかけた言葉は。








 ――お前は黙って、俺の言うことを聞いていればいいんだっ!!




 こんなはずではなかった。
 全てが後の祭りだった。
 激情の皇子が我に返ったのは、命令が実行された後。
 あろうことかルルーシュは、閉じられた瞼を強引にこじ開け、ナナリーにギアスをかけていたのだ。
 ギアスによる命令は絶対。かけた本人にさえも覆せない。
 黙って俺の言うことを聞け、と。
 ルルーシュがそう命じた通り、ナナリーは彼に黙って従い続けるだろう。
 口も瞳も開くことなく、ルルーシュの声だけを聞き続けるだろう。
 ナナリーは完全に壊れてしまった。
 愛らしい妹はどこにもいない。ここにあるのはただの抜け殻。
 世界で最も愛しい者の姿をした、ルルーシュの痛ましき罪の証。
 こうして傍にいるだけでも苦しくて、されど、見放すこともできなくて。
 周りを見回してみても、もう自分の側には誰もいない。
 敵対する者は皆殺しにしてきた。味方は全員ギアスで従わせた。
 唯一魔眼の効かぬジェレミアは、忠義の猛攻の果てに討ち死にだ。
 愛すべき親友も妹も、死体同然の操り人形。
 もはやこの地上のどこにも、ルルーシュが頼れる人間はいなかった。
 望むもの全てを手に入れながら、突き進んできた道程の果てに、たどり着いたのは独りぼっちの地平。
 切り捨て、利用し続けてきたその先は、地獄のごとき孤独の世界。
 こんなはずではなかった。
 こんな結末を望んでいたんじゃなかった。
 勝ち続ければいいのではなかったのか。
 立ちはだかる障害全てを打ち砕けば、幸福になれるのではなかったのか。
 どれだけ後悔しようとも、力の結果は覆せない。
 王の力はお前を孤独にする。
 かつてギアスを手にした時、ルルーシュが聞かされていた言葉だ。
 あの時は深く意味を考えることもなかったが、なるほどこういうことだったのか。
 ふ、と。
 自嘲する。
 己自身を嘲笑う。
 全くもって滑稽なものだ。
 世界の支配者になったつもりが、結局は未来に踊らされた道化だったということか。
(あいつらならば、どうしていただろうか)
 ふと、そんなことを考えていた。
 もしもあの世界で出会ったあいつらが、自分の立場に立たされていたら。
 ここにいるのがルルーシュ・ランペルージではなく、あの殺し合いを取り巻く誰かであったならば、と。
 仮定することに意味はないが、どうしてもそう考えざるをえなかった。

 螺旋の王を名乗りながら、逃亡の果てにみっともなく死亡した男――ロージェノムだったならばどうだったか。
 恐らくその強大な力でルルーシュ同様にブリタニアを倒し、その後はナナリーを自分の世界に閉じ込めるだろう。
 糸色望だったならばどうか。
 何だかんだと不平を垂れるうちに周りの部下達がブリタニアを倒し、望まぬ王座に座る羽目になりそうだ。
 ニアだったならばどうか。
 そもそも最初からこんなことは考えず、ナナリーと2人で静かに暮らす道を選んでいただろう。
 ビクトリームだったならばどうか。
 ……駄目だ。こいつは真っ向からブリタニアに向かっていくだろうが、その先がまるで想像できない。
 高嶺清麿だったならばどうか。
 多くの血を流すゼロのやり方を捨て、彼なりの平和活動に身を投じ、弾圧され死ぬのが落ちだろうか。
 Dボゥイだったならばどうか。
 いかなる痛みも苦しみも1人で背負い込み、それこそブリタニアを倒したその瞬間、限界を迎えて事切れるだろう。
 スバル・ナカジマだったならばどうか。
 その馬鹿正直な性分故に、幾度となく傷つくことになるだろうが、その果てには本当に望むものを手に入れていたかもしれない。
 カミナだったならばどうか。
 彼ならば仮面すら必要とせず、ブリタニアを打倒できただろうが、果たしてその先世界を治められるだけの頭があるかどうか。
 獣人四天王だったならばどうか。
 こいつらは論外だ。1人1人の能力は、ゼロを演ずるにはまるで足りない。まず間違いなく、何らかの形で討ち死にする。
 東方不敗だったならばどうか。
 恐らく自分とまるきり同じ道を辿るだろうが、彼がナナリーに打ちのめされる姿は、どうにも上手く想像できない。
 ニコラス・D・ウルフウッドだったならばどうか。
 自分と同じようにブリタニアを倒し、1人自分の罪を背負い、ナナリーにも正体を明かさず姿を消すだろう。
 ギルガメッシュだったならばどうか。
 これまた自分と同じようにブリタニアを倒し、ナナリーを従わせ、そのくせそれがどうしたと平気な顔をするに違いない。
 小早川ゆたかだったならばどうか。
 良心の呵責と戦場の恐怖、そして指導者のプレッシャーに耐え切れず、志半ばに自殺するだろう。
 鴇羽舞衣だったならばどうか。
 彼女ほどの力と意志の持ち主ならば、誰からも望まれるヒーロー活劇を展開することもできただろう。
 ヴィラルだったならばどうか。
 馬鹿正直に自分の正体をナナリーに明かし、彼女に説得された挙句、戦いを放り捨ててもおかしくない。
 菫川ねねねだったならばどうか。
 自分なりのハッピーエンドを模索する彼女ならば、ナナリーさえも納得させる結末を迎えられただろうか。
 ジンだったならばどうか。
 やはりその過程は予想できないが、最後にブリタニアという国さえも盗み取り、忽然と姿を消す様だけは見て取れる。
(そして……)

 ――「ニアがな、山小屋の一件、庇ってくれてありがとうだってよ」

 あの飄々とした癖毛の男――スパイク・スピーゲルだったならばどうか。
 きっと彼は大人だったのだろう。
 痛みを知らなさすぎたが故に。子供でありすぎたが故に。
 こうして絶望の闇に沈んだ自分と違い、彼は間違いなく大人だった。
 であれば彼ならば、自分とはまるで違う結末を迎えられただろうか。
 物言わぬナナリー・ランペルージへと、希望を与えることができただろうか。
 いいや、あれはああ見えてどこかお人よしだ。本人は否定するだろうが、少なからず正義漢の一面を持ち合わせている。
 そんな人間は長生きしない。
 どこかで誰かに騙されて、命を落とす羽目になるのが落ちだ。
 ああ、なんだ。結局自分と同じ位置にたどり着く前に、途中でリタイアしてしまうではないか。
 考えるだけ無駄だった。そんなことは考えるまでもなかった。
(つくづく俺はあいつが嫌いだ)
 改めて再認識する。
 不思議と、苦笑がこぼれた。

「――ルルーシュ」
 その時だ。
 かつ、かつ、かつ、と。
 乾いた靴音が床を叩く。
 入り口の方へと振り返れば、そこには1人の少女の姿。
「ああ、お前か……何か用か?」
 これがC.C.だ。
 ギアスの力をルルーシュに与えた、緑髪と黄金の瞳の魔女だ。
 彼女はいつだって突然だった。
 不躾に、唐突に。
 いつだって突然現れて、自分の用件を押し付けるのだ。
 もう慣れきってしまったことだ。故に、自然に問いかける。
「なに、そろそろ私との契約を果たしてもらおうと思っただけだ」
 無感情に。無表情で。
 それが当然だとでも言わんばかりに、さらりとC.C.が言ってのける。
 差し出した手のひらに乗せられていたのは、黒光りするピストルの銃口。
「……これで俺に何をしろと?」
 言いながら、一応拳銃を受け取る。
「ギアスを持つ者は自身の契約者を殺すことで、そのコードを継承することができる……そして同時に、私達が死ねるのはその時だけだ」
「何が言いたい?」
「死にたいんだよ、私は。この長すぎる孤独の生涯を閉じるために、私はお前に力を与えたんだ」
 ああ、そうか。
 そういうことだったのか。
 彼女もかつてギアス能力者であったと、何かの折に聞いたことがある。
 数百年もの遥かな昔、C.C.は多くの愛に囲まれていた。
 他者に自分を愛させるギアスで、あらゆる望みを叶えてきたのだそうだ。
 だが、やがて分からなくなってきた。
 誰が自分を愛していて、誰が自分を愛していないのか。
 誰から向けられるのが真実の愛で、誰から向けられるのが作り物の愛なのか、と。
 何者からも愛を感じられなくなり、愛した契約者にも裏切られ、魔女となった後には蔑まれ。
「自分が独りでいることに耐えられないから、俺だけにその孤独を背負えと?」
 C.C.もまたルルーシュと、同じ痛みを背負っていたのだ。
 度しがたいとばかり思っていた彼女が、こんなにも近い存在だったとは。
 ああ、その思いには共感しよう。
 自分の周りに確かなものは何もない。
 その孤独は自分も嫌というほど味わったし、今後も味わい続けていくのだろう。
「だが」
 それでも。
 だからこそ。
「させないよ、そんなことは」
 それを引き受けることは認められない。
 彼女だけが孤独から解放され、死して幸せになることは許さない。
 スザクを手にかけた狂気と、ナナリーを失った絶望。
 それを背負い続けたまま、未来永劫を孤独に生き永らえることなど御免だ。
 かちゃり。
 金属の音が鳴る。
 冷たい銃口の先端は、漆黒の髪の頭部に。
 嗚呼、螺旋王よ。自分もお前達を笑えまい。
 孤独と絶望に耐えかねた自分は、今まさに自らの手で、逃げの一手を打とうとしている。
 アンチ=スパイラルよ。
 言いだしっぺでありながら、どうやら自分が最も早く、この実験から降りることになりそうだ。
「待て、ルル――」



「さよならだ――C.C.」



 ――ばん。



 行動には常に結果がつきまとう。
 行動が変われば結果は変わる。
 しかし、当人にとって最善の行動を選び続けることが、最善の結果を引き寄せるとは限らない。
 あえて負け続け、辛酸を舐め続けることで、ようやく見えてくるものもある。

 正しい歴史におけるルルーシュ・ランペルージは、幾度となく苦境を味わい続けてきた。
 シャーリーの記憶を奪うこと。
 ユーフェミアの手を血に染めさせること。
 シャルルに記憶を書き換えられること。
 この世界では出会わなかった、偽りの弟を喪うこと。
 数多の屈辱と数多の悲しみは、絶えず彼の心を蝕み続けてきた。
 だがその負け戦の果てにルルーシュは、真に充実した勝利と結末を迎え、微笑と共に短い生涯を閉じたのだ。
 ブリタニアを倒し、世界を手にしたこと。そして最期は自ら命を断ったこと。
 歴史に残された結果そのものは、どちらの道のりもよく似ている。
 しかし勝ち続けたルルーシュは、失う苦しみに堪えかね狂気に堕ち、本当に大切なものを自ら捨ててしまった。

 甘やかされた子供は我慢を知らない。思い通りにいかないことには、すぐに顔を真っ赤にして怒る。
 稚拙なたとえではあるが、まさしくルルーシュの失敗の原因は、それと同じものだったのだろう。
 螺旋王の情報とギアスに溺れ、我こそは全能の存在であると慢心した少年は、それ故に破滅へと追い込まれたのだ。
 なまじ恵まれすぎた境遇が、最後の最後で彼を残酷な結末へと叩き落としたのだ。

 行動には結果がつきまとう。
 一度呈示された結果は、決して覆ることはない。
 それがいかなるものであったとしても。

 ブリタニアの少年、ルルーシュが選んだ結末は――ゼロ。



【コードギアス 反逆のルルーシュ――――――BAD END】



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285:HAPPY END(21) ルルーシュ・ランペルージ






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