マテリアル・パズル~神無~ ◆wYjszMXgAo



ぎゅるりと正確無比に無慈悲な動きで蛇が飛ぶ。
実際に音がしたのではない。あくまでもそのような擬音が相応しいというだけだ。
蛇の獲物は人。スレンダーな体つきに局所的に丸みを帯びている理想的な体形だ。
その若い女性は無抵抗なまま。
否、抵抗する暇があったかどうかすらも怪しい。
たとえ銃撃さえ避けられるような、ヒトを超えた存在であろうとも反応は不可能であるからだ。
蛇はその脆い体に絡みつく。獲物を決して逃がさぬように。
ぎちり、ぎちりと締め付け、締め付け、締め付け――――、
そしてついに、終末は訪れる。
蛇の締め付けに間接は耐え切れず、女性の四肢が胴体と泣き別れ、首は飛び爆ぜる。
後に残るは動くに動けない芋虫だけだ。

……だが。
首も四肢も失ったその体からは、血の一滴すら流れ出る気配はない。
当然だ。
その女性は人間などではなく――――、ただのマネキンだったのだから。

「……なんと。これは……、佳いものだな。
 先ほどの鞘といい、胡散臭いモノでもたまには試してみる価値はある、か」

傷の男――――スカーは己の右手に握ったものを見る。
己の手に入れたバッグに入っていた最後の品。……それは、鎖だった。
一見単なる鎖かと思って最初は軽視していたのだが、ショッピングモールに訪れるにいたってようやく中を

検めてみたのだ。
鎖の説明書きにはこうあった。

天の鎖(エルキドゥ)――――と。
持ち主の意に従い、敵を捉え、拘束する聖なる鎖。
“神すら律する”その力は、常なる状態でも“英霊”でさえも抜け出せるものは一部しかおらず、
“神に連なる系譜のもの”を相手取った場合、神の血が濃いほど力を増すという代物だった。
まさしく、神殺しの力。人間ではとても対抗できまい。

(――――破戒僧となった己れには相応しい装備だな)

皮肉げに口元を歪めるも、スカーは非常にこの鎖を気に入っていた。
この鎖を用いて相手を捕らえ、その上で右手の一撃を食らわせる。
――――それに耐えられるものがいるとは思えない。

この鎖も魔力とやらが必要なようだったが、やはり問題なく発動できる。
魔力とはなんなのか、錬金術による“理解”の工程で鞘と鎖を調べた所、世界そのものや生命に満ちている

力らしい。
“気”に似たようなものといったところか。
だが、どうやら分解は出来ないようだ。
“神秘はより強い神秘に打ち消される”法則というのがあるらしく、自分の右手ではこれらの道具の“神秘”を上回れないのである。


試してみた所、自分の力では射程距離は十数メートル程度のようだ。
遠距離攻撃が出来るのは非常に大きい。
物陰に隠れて接近し、相手が一人になった所でこの鎖を放ち、右手を叩き込む。
機先さえ取れれば、相手になるのは殆どいないだろう。

(……先ほどの神父。奴と相見える前に調べておけば佳かったものを。失態だな)

そう思い、つい先刻の戦場を思い出す。

「……己れの行いが、国家錬金術師の虐殺に値する、か……」

……どうなのだろうか。
いや、分かっている。
人殺しは人殺しでしかない。
国家錬金術師にも家族はいるだろう。
戦いの中で、誰かを守る為に錬金術の力を用いることを選んだものもいるだろう。

――――だが。だが!
(それでも! ――――それでも、己れは殺すと決めたのだ! 最早――――戻れん!)

かつて決意した思い。
……それを上書きするように、別の男の今わの際が蘇る。

死んだら、どうする。

……自分が理不尽にこの場に呼ばれたように、あの男もそうだったのだろう。
修羅場に身を置くならまず出てこないような、甘い考え。
ならばあの男は戦いとは縁のない平和な所から呼び出されたのか。
かつて神に祈り静かな暮らしていた自分が、否応なく戦渦に巻き込まれたように。

……血迷ったのだろうか。
肝心なことを忘れていた。あくまで、自分の敵は国家錬金術師だということを。
ならば。そうでない者たちですら排除しようというのは。

「……神父。お前は、……正しかった」

……だが、今更だ。
既に何人も手にかけた。戻る道はない。
今の自分にはドモン・カッシュのように復讐を乗り越えることも出来ない。

……なにより。
「……鋼の錬金術師。焔の錬金術師。貴様らは……どんな思いで逝ったのだ?」
既に、この殺し合いの場にいる己の殺意の対象は全ていなくなった。
放送の確かさは、自分がよく知っている。
この手で何人も屠ってきたのだから。

なのに、いまだ自分はここにいる。
自分はこれから、何をすればいいのか。どうしていけばいいのか。
元の世界に帰れさえすればいくらでも殺すべき対象はいる。
だが、戻る手段も分からないのだ。
螺旋王とやらの言動など信用できない。
ここには国家錬金術師がいるからこそ、連中を殺すために邪魔になる人間を排除していたのである。
既にエドワード・エルリックもロイ・マスタングも消えた以上、自分がここで殺戮を続ければまさしく国家錬金術師と同じことではないのか。
……だが、今更引き返すことも出来ないのだ。

スカーは苦悩する。
殺意の対象が死に、目標を見失ったその時。
言峰綺礼の蒔いた呪縛は思考と現実の矛盾を糧に一気に芽吹いたのだ。

戦いの最中ならばそんな余裕はなかったろう。
だが、傷はまだ治るまで遠く、誰かと交戦するにはあまりに無謀すぎる。

そんな、魂をすり減らしていくそのタイミングだった。
どことなく抜けたような印象を与える音が、ショッピングモールに響き渡ったのは。

『~ピンポンパンポン~♪』

「……何だ、これは?」
楽器の様でいて、しかし妙に音に個性がない。その上音量が大きすぎて、あちこちで反響しているようだ。
何らかの錬金術だろうか。
だが、音だけを増幅する錬金術など聞いた事がない。
そう思った矢先、今度は人の声がスカーの耳に届く。
人間では到底出せない音量で。

『エドです。地図の載っている施設を全部、良く調べてみてください。
 すごいお宝を発見ができるかもしれません。
 詳しい情報は追って連絡しますが、ラセンリョクという物を用意してください。それが絶対必要なんだ  そうです!
 もしも見つけてしまったらぁ~一切、粉砕、喝采ぃ~八百屋町に火がともる~!』

それだけを告げると、謎の音源は再度ピンポンパンポンと鳴り、それきり黙りこんでしまった。

「……む」

子供の声だった。
誰か、この施設にいるのだろうか。
錬金術かと思ったが、しかし、自分の手には胡散臭い道具が2つもあるのだ。
なら、この殺し合いの参加者に声を増幅させる道具があってもおかしくはないだろう。
拡声器、という名称辺りだろうか。

……罠かもしれない。
だが。

「……己れは、国家錬金術師などとは違う……!」
たとえ敵であっても、国家錬金術師でない限り子供を殺したりはしない。
……探して、保護しなければ。
どうやら何かを探しているらしい。
ついでにそれも見つけてやれば喜ぶだろう。

「……宝探し、か。兄さんとはよくやったものだ」

自然に口元が歪む。
一瞬、懐かしい景色を思い出したのだ。
……だが、感傷に浸っていてもしょうがない。
特にやることもないし、付き合ってみてもいいだろう。
じっとしていると、あまりに余計なことを考えすぎる。
当面の目的を見失った彼は、とりあえずの目的に縋るようにショッピングモールを歩き始めた。


◇ ◇ ◇


結論から言うと、子供は見当たらなかった。
もしかしたら螺旋王の放送のように、別の場所から告げたのかもしれない。
地図に載っている施設と言っていたのだし、他の場所にも流れた可能性も高いだろう。
……だが。
言葉通りのものは、存在した。

「これは……。これが、……宝の箱、か?」

ショッピングモール内を歩き回り、最後に辿り着いたのが資材搬入倉庫。
そこの一角に、妙なコンテナが配置されていたのだ。
他のコンテナより明らかに大きく、配色も異なっている。
緑色に輝き、表面には二重螺旋の書き込まれたそれを調べてみれば、そこには
『螺旋力と螺旋にゆかりのあるアイテムが揃って鍵となります』
と扉の表面に刻まれている。

「……成程。先ほどの子供も言っていたな」

螺旋力。生憎とそんな物には心当たりないが、しかし問題はない。
自分には破壊の力……否、分解の力があるのだ。
たとえどんな錠であっても、錬金術の特性である
『理解、分解、再構築』
のうち、
『理解、分解』
の工程をもってすれば開けられないはずがない。
物理的な強度とは関係なく、存在そのものを解体しているのだから。

ごきり、とスカーは手を鳴らす。
大地の力を取り込み、錬金術を発動。
そのまま右手をコンテナに押し付けた、その時。



スカーの世界は一瞬で切り替わった。



◇ ◇ ◇

しろいせかい、くろいせかい。
どこまでもどこまでもそのふたつがにじゅうらせんになってじぶんをとりまく。
しろとくろはみどりいろに。


螺旋。二重螺旋。時計回り。螺旋力。スパイラル。
人間。文明。科学。知性。神は死んだ。螺旋。螺旋。形而上学。
ロージェノム。螺旋力を使用したバリアー。コンテナ。子供。鎖。鞘。
お前のドリルは天を突き破るドリルなんだよ。顔面。コアドリル。
次の段階。発展の究極。人間の行き着く先。螺旋。
根源。断続平行進化。螺旋。トリプレットコドン。絶滅。
コモンアンセスター。螺旋。RNAワールド。螺旋。化学進化。


(……何だ。何なんだ、これは……!)

錬金術の特性、“理解”。
扉を破壊しようと、まずその工程を発動させた瞬間――――スカーの意識は飛んだ。
否、情報、そして何かの概念の濁流に飲み込まれる。
扉を守るのに使われていた何らかの力に干渉することで。

(――――やめろ! 己れは……! 己れは……ッ!!)

世界。銀河。存在。生命の神秘。螺旋。力。個性。パラダイムシフト。
惑星。螺旋。デオキシリボ核酸。ダーウィン理論。創造。想像。
魔術。科学。魔法。ギアス。不死。ラピュタ。錬金術。プラント。魔本。
エレメント。チャイルド。紙使い。螺旋力。
力。力。力。力。力。力。力。力。螺旋。神の見えざる手。
いくつものいくつもの世界。不完全性定理。絶対の否定。到達点。
公理系。生命。ロジック。螺旋。食事。搾取。複雑系。命の連鎖。
ヒルベルトプログラム。生と死。観念。命の価値。螺旋。天地乖離す開闢の星。

(……これは……錬金術なのか? 扉を開く……。)

人間。人間。哺乳類。鳥。螺旋。恐竜。パンゲア。プルームテクトニクス。
螺旋。6500万年前。超好熱性細菌。イスア。全球凍結。迷子石。コノドント。
アウストラロピテクス・アファレンシス。五大絶滅。生きている化石。
KT境界。螺旋。イリジウム。カンブリア大爆発。ピカイア。ラマルク。螺旋。
レッドリスト。ドードー。種の終わり。ジャイアントインパクト。
無酸素水塊。ノーチラス。アンモナイト。海進と海退。層序学。螺旋。

(――――違う! 錬金術も、魔術も、紙使いも、全てはこの力であり……!!)

不死者。悪魔。全能性。不死の酒とホムンクルス。連環。ループ。螺旋。ウロボロス。スパイラル。
復活。存在変換。錬金術。螺旋力。吸血鬼。死者の蘇生。因果逆転の槍。
今そこで人が死のうとしてる。螺旋。僕にはその方が重い。
倫理観。禁忌。プレシア・テスタロッサ。ジュエルシード。魔法。
死んだらどうする。友情。親愛。家族愛。螺旋。殺人狂。地獄の傀儡師。
神。神。紙。読まずに死ねるか。異能。復活。三日後。進化。心。螺旋。錬成陣。螺旋。

(命、……その、生き死にさえも、向かう先さえも総べる力、それが……!!)

――――われわれはどこから来たのか われわれは何者か われわれはどこへ行くのか……?

不意にいくつものいくつもの光景が目の前に展開する。

黒目のない男が、少年に向かって指を鳴らす。
しかしそれは阻まれる。死なない男が庇っているからだ。

砂漠の星で、協会で一人永遠の眠りに就こうとする男がいる。
彼は、もっと生きたがっていた。

自分の良く知る世界がある。
とある軍人が、家族に化けたホムンクルスを撃てず、命を散らした。

テロリストに乗っ取られた豪華列車。
泣かない少年が、火炎を放つ男を屋根の上から突き落とす。

どこかの屋外。
髪を二つに結った少女が、頭を冷やせと言われて光線に撃ち抜かれていた。

禍々しい瘴気に満ちた空間で。
見覚えのある神父が、少年に向かっていくつもの汚泥を飛ばしていく。

二人の男が睨みあっている。
銃と日本刀が交差し、まるで踊るように離れていく。

ここ会場の舞台に良く似た世界。
少女達は、どうと言うことのない平和な日常を幸福に浪費していく。

やはり会場に良く似た世界。
奇術師と学生の推理勝負は、いまだ決着がつく気配はない。

世界を駆け巡る二つの異形。
弟は、最期の最期に兄を超えた。

他にも、他にも、他にも。
師を失い、泣いて亡骸を抱きしめる格闘家がいる。
戦いの最中、仮面を失った少年がいる。
喋る機械の猫がいる。
絶望したがりの先生がいる。
独特な台詞回しの少年がいる。
獣を操る少女がいる。
空の城に向かう子供達がいる。
赤い本を手に戦いに臨む少年がいる。

――――そして。

(あれは――――、)

螺旋王。獣人。人間。機械。そして、生命と、進化と、螺旋と――――

(……そうか、螺旋力とは、そして、己れは――――)


◇ ◇ ◇


……どれくらいの時間、彼はそこに立ち尽くしていたのだろうか。
既に傷は完治し、腹も随分と空いているようだ。
左手の添え木が邪魔すら感じられる。
時間が一気に飛んだようだと思う。

前を向いてみれば、コンテナはびくともしていない。
当然だ。完全に理解することなどできなかったのだから。
螺旋に類するアイテム。それがなければ、どうしようもないのだろう。
今のスカーにはそれがはっきりと分かる。

彼は自分の右手を見る。
兄から譲られた、その力を。
見つめ、強く強く握り締めた。

螺旋力。今の自分にも、この世界の誰であってもそれは備わっている。
まだその力の一端に触れただけでしかない。だが、それがあるならば。
誰彼の生き死にさえ左右できるのならば。

「……兄さん。また、会うことが出来るのか?」

返事はない。当然だ、ここには誰もいないのだから。
……だが。
傷の男に気落ちした様子はない。

贖罪のつもりはない。仇を許すつもりもない。
それでも彼は、一つの選択をした。

「兄さん……。己れは……、誰かを、守ろうと思う」

勿論偽善のためではない。全て自身のためだ。
国家錬金術師どもは殺す。それを変えるつもりはない。
だが、それに加えて螺旋力を用いて兄を、イシュヴァールで失われたモノを取り戻す。
それだけではない。ここで、自らが失わせてきたモノたちに対してもだ。
……全てを、元の形に。
たとえそれが、摂理に反する行為でも。

「……神父、お前は言ったな。己れは虐殺者だと。……その通りだ」

その為に、だからこそ。

「……己れは、故に手を汚す。躊躇いはない。螺旋の力あるものたちを、手に収める為に」

足りない。“全て”を戻すには、自分自身だけでは全く足りないのだ。
この会場にいる、ありとあらゆる存在。
生きとし生けるもの達は皆、螺旋の力を手に入れ得る。
だからこそ。……だからこそ、自分が守らねばならない。
それを脅かすものを全て排除することで。
螺旋の力に目覚めていたとしても、他の人間に危害を加えるのなら同様だ。
たとえそれが、自分の力の及ばない存在であろうとも。

――――懸念するのは螺旋王の事だ。
あの男がどう動くのかは分からない。あの男の螺旋力の程度も分からない。
だが、どうすべきかは簡単だ。
仮に、この会場の螺旋力保有者全てを超えるほどの螺旋力をあの男が持ち、約束を守るというのなら。
……それまでに保護したもの全てを自分の手で消せばいいだけだ。
どうせ、自分は虐殺者なのだから。

傷の男は身を翻す。
その瞳に、緑の螺旋を浮かばせて。


【スカー(傷の男)@鋼の錬金術師 螺旋力覚醒】



【A-7・ショッピングモール資材搬入倉庫/一日目/夜中】

【スカー(傷の男)@鋼の錬金術師】
[状態]:健康、覚悟、螺旋力覚醒
[装備]:天の鎖(エルキドゥ)@Fate/stay night
[道具]:デイバック、支給品一式@読子(メモは無い)、アヴァロン@Fate/stay night
[思考]
基本:螺旋力保有者の保護、自身及び螺旋力保有者の敵の抹殺、元の世界に戻って国家錬金術師の殲滅
1:螺旋力保有者に接触し、保護する。
2:螺旋に関係するアイテムを収集し、ショッピングモールのコンテナを開ける。
3:邪魔をしたり、危険と判断したりした場合、螺旋力保有者でも抹殺する。
4:螺旋力保有者の敵がいなくなったら螺旋王を見極める。螺旋王の螺旋力の大きさ次第でそれまでの保護対象を抹殺し、優勝する。
5:……腹が減ったな。
[備考]:
※会場端のワープを認識しました。
※言峰の言葉を受け入れた分、かえって覚悟が強まっています。
※スカーの右腕は地脈の力を取り入れているため、魔力があるものとして扱われます。
※螺旋力について何らかの知識を得たようです。

※螺旋力覚醒


【天の鎖(エルキドゥ)@Fate/stay night】
かつてウルクを七年間飢饉に陥れた“天の牡牛”を捕縛した鎖。
ギルガメッシュがエア以上に信頼する宝具。
使用者の意思に応じてホーミングし相手を拘束する。
能力は“神を律する”もの。
捕縛した対象の神性が高いほど硬度を増す特性を持つ、数少ない対神兵装。
ただし、神性の無い者にとっては頑丈な鎖に過ぎない。

※ショッピングモールには螺旋力と螺旋に関するアイテムで開くコンテナがあります。中身は不明です。


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208:傷を開くモノ、傷を癒すモノ スカー 237:Ready Steady Go





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