REASON(前編) ◆3OcZUGDYUo



『――それまでの間、思う存分に闘争を続けるが良い』
どこからともなく聞こえてきた螺旋王ロージェノムの言葉が終わる。
そう、たった今第二回定時放送が終了したのだ。
今まで一触即発の状況に陥っていた二人の青年は睨み合っていたが、放送が始まった事で彼らはメモを取っていた。
勿論、禁止エリアの場所を地図に記しておくためだ。
試した事はないがいくら彼らでも禁止エリアに入れば無事では済まないだろう。
いや、無事に済むわけがない。そうでなければ禁止エリアを設定する意味がない筈だからだ。
ラダムのテックシステムにより、テッカマンとして生きる事を余儀なくされた彼らを。
Dボゥイこと相羽タカヤ、またの名をテッカマンブレード。
Dボゥイの弟にして相羽シンヤ、またの名をテッカマンエビル。
放送が終わり、それぞれ複雑な表情をしている彼らを殺せるくらいでないと、禁止エリアの意味はない。

「ッ! ゆたか!!」
予想以上に多すぎる死者の存在を知り、言いようのない怒りに表情を歪めていたDボゥイ。
ラダムの素体テッカマン選別と同じようなものを感じる、許すことは出来ないロージェノムの行為。
ロージェノムに対する溢れ出す怒りの大きさに、Dボゥイはその時まで思わず忘れていてしまっていた。
以前から危惧していた事態が、一度経験していた出来事がまたやって来たのだという事を。

「そんな…………こんなことって……」
Dボゥイとシンヤの只ならぬ雰囲気に、放送が始まる前から不安そうな表情を浮かべていた少女。
禁止エリアの位置が読みあげられていた時は、彼らと同じようにメモを取っていた少女。
死亡者の発表が行われ、ある一つの名を聞いた時点でメモを落とし、更に彼女にとってもっとも馴染み深い名前が。
その名前が呼ばれた時、声にならないほどの悲しみを知った少女。
陵桜学園高等部一年生、小早川ゆたかがそう言って力なくへたれこんでいた。
只でさえ病気がちで弱弱しいゆたかの身体。
そんなゆたかの身体が余計に弱弱しく、こぢんまりとしたようにDボゥイは見えてしまった。
「嘘だよね…………パズーくん…………」
数時間前に出会い、無邪気に笑っていた少年、パズー。
ゆたかが気を失い、目を覚ました時には既に何処かへ行ってしまったがなんだか友達になれそうな気がした少年。
そんなパズーが死んでしまった事実がゆたかの意識に重く圧し掛かる。
しかし酷な言い方だが、ゆたかはパズーとはほんの少しの交流しか持たなかった仲。
不謹慎ながらもDボゥイはゆたかのショックはそれほど大きくないと思っていた。
勿論、ゆたかが以前に話していた、あの名前を持つ人物の死と較べての話だが。

「…………こなたお姉ちゃん……」
『泉こなた』
確かにゆたかの両耳に入ってきた馴染み深い名前。
これは夢なんだ、そう思ってもあの時感じた、ゆたかの身体の震えはあまりにも現実味を帯びていた。
そう、今も震え続けているゆたかの身体は一向に収まる様子もない。

「ゆたか…………」
Dボゥイがゆたかの名を呼ぶ。
ゆたかを励ますことが出来ない自分を、Dボゥイはとても無力な存在だと悔やむ。
口が達者とは言い難いDボゥイは口を強く噛み締めている。
只、その両眼にはラダムへの憎しみと同じ位の怒りを秘めて。

「Dボゥイさん…………」
そんな時ゆたかがDボゥイの手をそっと握る。
きっと今のゆたかはなにか、自分を支えてくれるものが必要だったのだろう。
こなたが死んだという事実に、震え続ける自分の身体を止めてくれるDボゥイの、暖かい手が今のゆたかにはたまらなく欲しかった。
只、Dボゥイの手を握ってもやっぱり止める事は出来ないものがあった。
放送が終わったときから、いやこなたの名が呼ばれた時からゆたかの頬を流れていた涙は止まる事がなかった。

「なんで……なんで……パズーくんや……お姉ちゃんが…………うぇっ……ひっ……」
頭ではわかっているその後の言葉がとてもゆたかの口から出ようとはしない。
その言葉を言ってしまうと、永遠に涙が出てきてしまうような気がしてしまうから。
そんな涙を流しながら、最後まで喋る事が出来ないゆたかをDボゥイ無言で見つめる。
ゆたかのとても小さな、今の彼女の様子を表しているような小さな手を優しく握り返す。
不器用で無骨なDボゥイにはそれしか今のゆたかにやれることはないからだ。
(お姉ちゃん…………なんで……なんで………………どうして…………ひどいよ……)
止まる様子を見せない涙を流し続け、ボロボロの顔でゆたかはあの夢の事を思い出す。
目を覚ましたときはおぼろげにしか覚えていなかったあの夢の鮮明な記憶が蘇る。

『ううん、ケンカはしなかったな。
 でも、ここで“終わり”だと思うと残念かなって』

あの時こなたが言っていた言葉が何度も、何度もゆたかの頭の中で再生される。
あの夢でこなたが言っていた言葉の意味が、今のゆたかにはハッキリとわかってしまった。
認めたくはない、たとえ自分の虚弱体質が治ると餌を釣られても絶対に認めたくはない事が。
そう、こなたは死んでしまったという事。
その事実がゆたかの胸に深く突き刺さる。
その傷はゆたかの小さな胸にはあまりに大きすぎた。

『あ、そうそう。お父さんに伝えといて。“『俺より先にいくな』って約束守れなくてごめん”って』

(ひどいよ…………そんなこと…………叔父さんに言えないよ……そんなひどいこと…………私には言えないよ…………)
いつもこなたを可愛がり、ゆたかにもまるで娘のように接してくれた泉そうじろう。
彼はきっとこなたや自分を探しているに違いない。
きっと碌に寝ずもせずに愛する娘の無事を祈りながら。
もし自分が無事にこの殺し合いから脱出出来た時、自分はそんなそうじろうに対して何か言うことが出来るだろうか?
きっと涙が溢れ、何も出来るはずもない。
精々その場で泣き崩れ、只惨めに泣き続ける事しか出来ない。
そんな自分に、あまりに残酷な事を頼んだこなたの事をゆたかは恨まずにはいられない。

『もっと沢山話したかったよ。もっと色々遊びたかったよ。もっとずっと一緒にいたかったよ。
 でもさ……私はここまでっぽいや』

(私だって…………私だってもっとしたかったよ…………お姉ちゃんが大学生になっても、私が社会人になっても
…………ずっとお姉ちゃんと笑い合いたかった…………それなのになんで………なんで……)
そんな時ふと、こなたとの思い出がゆたかの頭の中で浮かんでくる。


音楽を聴いていた時、つい気分が良くなり好きな歌手の真似をして歌っていたのを、こなたに見られ、ちょっとからかわれたあの日。
みんなで浴衣を着て花火を見に行って、調子が悪くなったけどとても楽しかった夏のあの日。
そして体育館の舞台の上で、一生懸命に練習したチアリーディングをみんなで成功させた。文化祭のあの日。
そんな心地よい思い出が今では遠い昔の出来事のように思えてしまう現実が、ゆたかにとってはとても悲しかった。
これからももっと重ねていく筈だった思い出のページに、写るべき人がもう居なくなってしまったから。

「ゆたか…………聞いてくれ」
そんな時、身体を震わせながら自分の手を握り、俯きながら涙を流すゆたかにDボゥイが声をかける。
Dボゥイの声を聞いて、思わずゆたかは顔を上げる。
何故ならDボゥイの声が優しかったから。
今まで聞いたどんなDボゥイの言葉よりも、優しくゆたかには聞こえたから。
「君は俺が必ず守り抜く……どんな壁が待っていようとも打ち貫いてみせる……
だから安心して俺に全てを任せてくれ。絶対にだ……絶対に守ってみせるから」
Dボゥイの優しい声がボロボロになったゆたかの心に響く。
そのボロボロになった心の傷跡による痛みが、次第に和らいでいくのをゆたかは感じる。
そのあまりにも心地よい言葉に。
腰を落とし低くなったDボゥイの視線と、彼の言葉の意味に若干の疑問を覚えたゆたかの視線が合う。
そしてゆたかに握られた手とは、反対の手で彼女の頭をDボゥイは優しく撫でる。
Dボゥイのその行動にゆたかは驚きを覚えると同時に、彼女の頬にほんのりと熱が生じる。
飼い犬が大好きな飼い主に撫でられたらこんな気分がするのかな?
そんな呑気な事を思えてしまう程に今のゆたかにとって、Dボゥイの優しさはたまらなく嬉しかった。
ずっとこうやって撫で続けて貰えたら……そんな事をゆたかは真剣に願う。
「だから許してくれ……俺は今からやらなければいけない事がある……すまない」
(えっ……?)
だがそんなゆたかの淡い望みは無常にも砕け散る。
そう、Dボゥイが腰を上げ、ゆたかから手を離し、歩き出してしまったからだ。
ゆたかに握られた手さえも優しく振りほどいて。

「でぃ、Dボゥイさん!」
思わずゆたかもDボゥイの後を追って駆け出す。
何故だかゆたかは走り出さなければならないと思った。
もっと自分の頭を撫でて優しさを、勇気を与えてほしいと思う気持ちは当然あるが、
その事だけがゆたかの身体を突き動かしたわけではない。
Dボゥイがどこか自分の知らない遠い所に行ってしまうような気がしたから。
ゆたかにそこまで感じさせるほど、Dボゥイの背中は悲しそうなものに見えたからだ。
まるで何かを必死に隠しているかのような様子で。

「来るな! ゆたかッ! 来るんじゃないッ!!」
そんなゆたかにDボゥイは振り向きもせず、Dボゥイが吼える。
先程の優しい声とは違い、あまりにも攻撃的な声にゆたかは思わず立ち止まってしまう。
Dボゥイに何を聞きたい事があるのに、彼の変貌に押され、ゆたかはとても口を開けない。
嫌な胸騒ぎを先程から覚えているゆたかはDボゥイが止まる事を切実に願う
だが、現実はまたしても非常にもゆたかの願いを断ち切ってしまう。
Dボゥイは歩みを止めようとはしない。

「待たせたな……シンヤ」
Dボゥイが口を開く。
その両眼に見える感情は憎悪、悲しみなど様々なものが入り乱れている。

「構わないよ兄さん。兄さんのこの世への別れを邪魔する程、無粋な真似はしないさ」
そう答えるのは今まで一言も口を開かなかったシンヤ。
彼の両眼に見える感情はどす黒く、見るものに恐怖を与える程にDボゥイとの闘いへの欲求、そして勝利しかない。
シンヤは既に右腕にこの殺し合いで支給された、カリバーンを握りDボゥイを待っている。
ゆたかの話に出てきたパズーに最後のとどめを刺した張本人だが、彼はそんな事には微塵にも興味は示していない。
だから彼はDボゥイに今までどうしていたのか? などとは聞く必要もなければ、そんな事にも興味はない。
彼の関心、望みはもっと別のところにあるからだ。

「そうだな……なら、始めるぞシンヤ……」
対するDボゥイもシンヤに今までの彼の行動を聞こうとはしない。
Dボゥイもシンヤと同じで、これから彼らが行おうとしている事に較べれば他の事はあまりにも些細な事だから。
勿論、ゆたかを守ると言った事は彼女を安心させようという思いからついた嘘ではない。
これからDボゥイが行おうとしている事が終われば、最早彼の最大の目的は達成出来たと言えるからだ。
そしてDボゥイはデイパックからテッカマンアックスのテックランサーを取り出し、右腕に携える。

「そうだね。俺はこの時を待っていたんだよ兄さん! だからさ……」
そう、それは兄弟喧嘩とはとても言えない行為。
そしてDボゥイとシンヤにとってどんな事よりも優先させなければならない宿命。
Dボゥイとシンヤの表情に更なる歪みがハッキリと浮き彫りになる。
その二人をゆたかは只、震えながら見守る事しか出来ない。

「いくぞシンヤッ!!」  「いくぞ兄さんッ!!」
今、この殺し合いで初めてテッカマン同士の闘いが始まった。
愛する父、相羽孝三によってラダムの支配を逃れ、
ラダムに己の父、兄、弟、師匠、未来の義姉、同僚を奪われた復讐の化身テッカマンブレード。
あまりにも優秀すぎる己の兄を尊敬すると同時に抱いていたコンプレックスをラダムにより増長され、
兄を超えるためにラダムのテッカマンとして生まれ変わった悪魔の化身テッカマンエビル。
彼ら二人の最早宿命ともいえる闘いが。
只、普段とは違いテックセットを行わずに。溢れ出る感情を隠す仮面を付けずに。

◇  ◆  ◇


「これで終わりだ兄さんッ!!」
上を向いたDボゥイの視界にはシンヤがカリバーンを空中で振り下ろそうとしている姿が入る。
紛れもない嬉しさを見る事が出来るシンヤのその表情にDボゥイは複雑な感情を抱く。
だが、その感情を握り捨てたDボゥイはテックランサーの柄の部分を両手で握り締め、
己の頭上に翳す事でカリバーンの斬撃を受け止める。
今度はカリバーンの刃とテックランサーが暴力的にぶつかり合い、
小規模ではあるがその摩擦により火花さえも生まれてしまうほど激しい衝撃が双方に走る。

「シンヤ! 俺は……この身体がたとえ砕け散ろうとお前は殺す! それが俺の存在意義だッ!!」
先程はシンヤに押し切られたDボゥイは一旦左腕に込めた力を抜く。
だが当然その行為はカリバーンの斬撃を受け入れるためのものでない。
ほんの一瞬抜いた力を瞬時に左腕に戻し、いや先程込めていた力以上のそれを込めて、
強引にテックランサーを右方向に回転させる。
カリバーンをテックランサーに打ちつけていたシンヤの身体も同様に、彼の方向からすれば左の方向に体制を崩されるのを余儀なくされる。
そこにシンヤとほぼ同程度の異常な速度でDボゥイの左足が振り上げられ、シンヤの右脇腹に直撃。
咄嗟に身体を引いたシンヤだったが、僅かに苦痛な表情を浮かべながら一旦距離を取るために、
Dボゥイに蹴り飛ばされた勢いを利用して後方へ跳躍する。
だがシンヤの表情には悔しさよりも喜びの感情が強く出ていた。
待ち焦がれていたDボゥイとの闘いにより、沸き起こる満足感がシンヤの心に癒しを与えてくれるから。

「さすがだよ兄さん……そうでなければ面白みがないからね」
「シンヤ……俺の事を兄と呼ぶな……俺達がもう相容れる事はないハズだ……」
Dボゥイとシンヤが再び数十メートルの距離を挟んで向き合う。
未だ彼らの闘いは始まったばかり。
一向に彼らの闘志、殺意は折れようとはしない。

「や……やめてくださいDボゥイさん! シンヤさん! なんで……こんな事しないといけないんですか!? 理由を……理由を教えてください!!」
そんな時ゆたかが声を張り上げ、悲痛な顔で兄弟と思われるDボゥイとシンヤの闘いに口を開く。
常人なら気を失いそうな程の雰囲気を醸し出すDボゥイとシンヤの闘いに口を出すことなど、人一倍繊細なゆたかにとってあまりに酷で恐ろしい行為。
だが今のゆたかにとってこの闘いが続く方がたまらなく、怖かった。
ゆたかの元々の声の大きさが小さい事もありそれ程の大きい声では無かったがDボゥイとシンヤの耳には確かに届いた。

「ゆたか……」
そんなゆたかの必死な顔を見て、Dボゥイの意思は揺らぐ。
たとえ血が、肉が、骨が、全てを失ってでもシンヤと闘い続けようとする自分をゆたかは悲しんでいるという事に。
かといって自分達の因縁を話すわけにはいかない。
血に塗れた自分達の因縁をゆたかが知れば、きっと彼女は自分を見る眼が変わる。
只の人間ではなく、悪魔によって造られた化け物である自分に対して恐怖を抱いてしまうと考えたからだ。

「へぇ……まさかあのゆたかって娘に話していないんだね兄さん。
だったら知って貰おうじゃないか俺達の事を……ええ! 兄さんッ!!」
だがシンヤはDボゥイの意思を踏みにじるかのように、口を開く。
別にシンヤはゆたかが悲しそうな顔をしているため、同情したわけではない。
シンヤはDボゥイが望まない事ならどんな事でも行おうとする男。
たとえその事でどんな結果が引き起こされても関心はないからだ。

「何ッ!?……シンヤ! 貴様ぁぁぁぁぁッッッ!!」
「教えてやるよ俺と兄さんの事を…… いいだろうタカヤ兄さんッッッ!! 」
シンヤのふざけた言葉に逆上し、ゆたかに自分達の因縁を知って欲しくないDボゥイがテックランサーを携えシンヤに突撃する。
だがそんなDボゥイの様子など尻目に、カリバーンを携え、構えを取りながらシンヤは言葉を続ける。
ゆたかはタカヤという聞きなれない名前を聞き、困惑せずにはいられない。
まさかDボゥイという名前が本名ではないと思っていたゆたかは、タカヤという名前が彼の本名かと思う。
未だ怯えが取れない顔をDボゥイとシンヤに向けながら。
「そうさ……俺と兄さんの正体をなッ!!」

◇  ◆  ◇

Dボゥイさんとシンヤさんがまた闘ってる。
私にはとても持つことさえ出来そうにない武器を持ちながら。
本当はこんな危ない事は止めて欲しい……けど私にはあの二人の中に立ち入る事が出来ないからこうして見ている事しか出来ないの。
何故だが私はこれからシンヤさんが言おうとしている事に変な胸騒ぎを覚えた。
けど私は知りたい……Dボゥイさんが時々見せてた悲しい顔。
さっき私を励ましてくれた時に見せてくれた優しい顔とは似ても似つかない、今の怖い顔。
その顔の理由を私は知りたいから……。

「俺と兄さんは正真正銘血を分けた兄弟! 俺の名は相羽シンヤ、そして君がDボゥイと呼ぶ俺の兄さんの本名は相羽タカヤだ!
きっとDはデンジャラスの略だろうッ!!」
「言うな……言うなシンヤぁぁぁッッッ!!」
やっぱりシンヤさんはDボゥイさんの弟さんで、Dボゥイさんの本名はタカヤさん。
でも私に本名を隠してたって事は何か本名で呼んで欲しくない理由があったのかも。
じゃあDボゥイさんって呼び続けた方がきっといいハズだよね?
でも何であんなにDボゥイさんは怒ってるんだろう?
シンヤさんが只、自分達の関係を話しただけなのに……?
ずっとシンヤさんに向かってあんなに武器を振り回すのはなんで……?

「始めの場所でボルテッカを放ち、憐れにも爆死した黄色の奇妙なヤツが居ただろう!? あれがテッカマン……
地球を侵攻するためにラダムによって造り出された化け物さッ!!」
「黙れシンヤ!……それ以上……それ以上口を開くなぁぁぁッッッ!!」
ボルテッカ? テッカマン? ラダム? 全然言ってることがわからないよ……。
あの男の人が地球を侵攻するための化け物? そんなお姉ちゃんが読む漫画に出てくるような話があるなんて信じられない。
でもなんでシンヤさんがそんな事知っているんだろう?
Dボゥイさんがさっきよりもっと怖い顔になってるのも私にはわからないよ……。

「あの男は奇妙な結晶のようなものをロージェノムが渡した事でテッカマンになっていただろう?
あの結晶こそテッククリスタル! テックセットを可能にさせ、
テッカマンとなるのに必要な代物。そして……俺と兄さんが探し求めているものだッ!!」
「シンヤ……シンヤ……シンヤぁぁぁぁぁぁぁッッッッッッ!!」
え?…………タカヤさんとシンヤさんが探しているもの?
なんで? そのテッククリスタルっていうのはその……テッカマンっていうのになるのに必要なんじゃ…………?
どうしてそんなものをDボゥイさんとシンヤさんが欲しがる必要があるの……?
口に出して質問しようと思うけど、全然口が動かない。
これ以上聞いたら何故だか後戻りできないような気がするから……。
Dボゥイさんのあの怖い顔を見るとそんな気がしたから……。

「何故俺達が欲しがるかって知りたいだろう? そんな事は簡単だ! 何故なら俺とタカヤ兄さんは……」
「うおおおおおあああぁぁぁぁぁっっっっっ!!」
心臓の鼓動が早まるのはハッキリと感じることが出来る。
今にも胸に穴が空きそうなほど心臓が激しく動いてることがわかる。
頭の中でシンヤさんがこれから言おうとしている事の予想が浮かぶ。
けどそんなことはあるわけない! そう思って私は何度も何度もその予想を何かの間違いだと信じていた。
だってもしシンヤさんの話が本当ならシンヤさん、そしてDボゥイさんは……。
でもDボゥイさんのあの顔を見れば見るほどたまらなく不安になってくるのはなんでなんだろう……。
お願いシンヤさん……嘘だと言ってください……。
でもそんな私Dボゥイさんを見てシンヤさんが笑い、思わず私の背筋に寒気が走る。
シンヤさんの笑い顔はあまりにも怖かったから。

「あの男……テッカマンランスと同じラダムのテッカマン……そう、化け物だからだ!
俺の本当の名はテッカマンエビル! そして兄さんの本当の名はテッカマンブレード!
そうだろう……ブレードッ!!」
シンヤさんの言葉を聞いた瞬間、私はしばらく考える事が出来なくなった。
段々と考えるだけの力が戻ってくるのを感じる。
Dボゥイさんがあの死んじゃった男の人と同じテッカマンという存在……。
Dボゥイさんは人間じゃない……私はその事をぼんやりと考えることしか出来なかった。

◇  ◆  ◇

「シンヤ……いやエビル! 貴様は必ずこの俺が殺す!うおおおおおぉぉぉぉぉッッッ!!」
Dボゥイの攻撃にまともな対応はせずに、攻撃を避ける事に集中しながらゆたかに、彼が隠していたかった自分達の因縁を話したシンヤ。
シンヤに対して、耐えようの無い怒りを抱いたDボゥイがテックランサーを振るう。
自分が守ると誓った、か弱い存在であり、ついさっき大事な人の死を知ったゆたか。
そんなゆたかにこれ以上の悲しみ、恐怖を与えないためにもテッカマンという存在を彼女に知って貰いたくなかったから。
血に塗れた存在であるテッカマンはゆたかにとって知らない方が良いと思ったから。
今までの力に更なる怒りを上乗せしたあまりに重い斬撃。
そのテックランサーに対してシンヤもカリバーンを相応の力で振るう事で応じる。

「くッ!」
「ちッ!」
今までにない衝撃が二人の腕に走り、思わずDボゥイとシンヤはそれぞれ持っていたテックランサーとカリバーンから手が離れ、
二本の刃は彼らの後方へ落ち、音を立てて転がる。

「シンヤッ!」
だが、Dボゥイはテックランサーを回収しようとはせずに、そのままシンヤに向かって右の拳を突き出す。
今の彼にはテックランサーを取りに行く時間さえも惜しい。
今すぐにでも取り返しのつかない事をやったシンヤを殺す事だけが望みだった。

「そこまで怒ってくれるとは……うれしいよタカヤ兄さんッ!!」
襲い来るDボゥイの右の拳を左手で掴み、それ以上の右拳による侵攻を抑える。
Dボゥイが予想以上の反応を示した事により今のシンヤの気分はあまりにも良いものだった。
だがシンヤの望みは完全には成就してはない。
Dボゥイに反撃の打撃を与えるべく、シンヤが右腕に力を込め、右の拳を揮う。
だがその拳はDボゥイの空いていた左手により掴まれ、自分がやったように抑え込まれる。
互いに両腕に力を込め、己の相手を打ち倒すための均衡状態が再び生まれる。


「まさかあの娘にミユキを重ねているわけではないよな兄さんッ!」
予想以上のDボゥイの激昂を不思議に感じたシンヤがふと思った事を口に出す。
Dボゥイの実の妹にして、相羽ミユキことテッカマンレイピア。
彼女もまたDボゥイと同じくラダムの精神支配から脱したテッカマンであり、彼と共にラダムと闘うと誓った少女。
だが父によって助けられたタカヤとは違い、完全なテッカマンになれる肉体を持っていないと判断された、
純粋な不完全体であるミユキの身体はボロボロだった。
そのボロボロの身体を引き摺りながらミユキは最後まで彼女の兄であるシンヤ達と闘った。
只、愛する兄Dボゥイのために。

「ッ!……ミユキは関係ない……それにお前にミユキの事を言う資格はない……ミユキを殺したお前にはぁぁぁッッッ!!」
確かにDボゥイはゆたかにそんなミユキを重ねていたという節はあった。
初めてゆたかと会った時に感じた事はもとより、病気がちだと言っていたゆたかの姿に、
テッカマンの不完全体であるがゆえに弱り果てていたミユキの姿がどことなくダブってしまったのかもしれない。
その事が必要以上にゆたかを守るようにDボゥイの身体を突き動かしているだろうか。
だがその事を考えるよりも今のDボゥイにはやるべき事がある。
そしてそれはシンヤにも言えることであった。

「うおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉーーーッッッ!!」
「むおおおおおおおおおおぁぁぁぁぁーーーッッッ!!」
互いに掴まれていた腕を強引に引き抜き、一旦距離を開けるためにDボゥイとシンヤの二人は後方へ跳躍。
テッカマンのケタ外れの身体能力を利用して、空中で回転をしながら宙へ跳び、両足から大地に着地する。
たとえテックセットしていなくとも、首輪により制限をうけていようともDボゥイとシンヤはラダムのテッカマン。
地球侵略のための尖兵として造られたテッカマンがこれくらいの芸当が出来ないハズがない
丁度青ざめた表情を浮かべたゆたかの位置を直角とし、Dボゥイ、シンヤが直角二等辺三角形の残り二つの頂点に位置する場所に降り立つ形となった。
その時、Dボゥイはチラリとゆたかの方向に視線を向けるがゆたかは思わず視線を落としてしまう。
(ッ!ゆたか……俺は……俺は……俺はッ!)
そのゆたかの行為が今のDボゥイには残酷すぎた。

「そうかミユキのコトは関係ないか……だったら別に俺がこんなコトをやっても文句はないよなッ!」
そんな時、シンヤが更に後方へ跳ぶ。
言いようのない不安に駆られ、ゆたかの安全を確保しようと既に全速で駆け出したDボゥイを尻目にシンヤはあるものを拾い上げる。
それは先程の衝突により弾き飛ばされた、シンヤの支給品であるカリバーン。
更にシンヤはカリバーンの柄を片腕で握り、そのまま槍投げの要領で投擲を行う。
だがその標的はシンヤの宿敵、Dボゥイではない。
先程から只、Dボゥイの方だけを凝視し続け、座りこんでいたゆたかに対しての投擲。
別にシンヤにとってとても利用手段のないゆたかの死はなんら問題にはならず、
同時にDボゥイがどう動くかが彼には気になっていたからだ。
『勝利すべき黄金の剣』そう謳われたカリバーンがゆたかの命を刈り取らんと迫っていく。
ゆたかがその事に気付いたのはシンヤが投擲を行ったほんの数秒にも満たない後だった。


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150:崩落 の ステージ(後編) Dボゥイ REASON(後編)
150:崩落 の ステージ(後編) 小早川ゆたか REASON(後編)
150:崩落 の ステージ(後編) 相羽シンヤ REASON(後編)





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