Nightmare of Mao ◆1sC7CjNPu2



 二回目となる放送が終わってから小一時間ほど経った頃、マオはいまだに高級マンションにいた。
 正確に言うなら、マオは高級マンションの一室で休養を取っていた。

 「くそっ!あの電波め……!」

 毒づきながら、マオは部屋の冷蔵庫から拝借した氷嚢を額に当てる。
 ガンガンと頭の中からツルハシで叩かれているような頭痛が、少しは和らいだ気がした。
 風浦可符香と眼を合わせた直後と比べると、これでも随分マシになった方だ。
 ――うるさいとは思ってたけど、まさか悶絶するほどとは……っ!
 ついその時のことを思い出しそうになり、マオは慌てて思考を切り替える。

 ――放送も聞き逃すし、踏んだり蹴ったりだ。

 どれほど人が死のうが、マオにとっては知ったことではない。
 ただ、禁止エリアの情報を得ることが出来なかったのが気がかりなのだ。

 「まあ、それはギアスを使って人から教えてもらえばいいことなんだけどね……っと」

 マオはそれなりに寝心地の良さそうなベッドに横になり、仮眠を取るため片手で近くにあった目覚まし時計を弄る。

 もちろん、マオがこのような行動を取るのには理由がある。
 少し時を遡るが、マオは頭痛に苛まれながらも逃げ出した金田一を追うためにギアスを広げた。
 そしてマオは金田一の思考を捕らえ――あまりの頭痛に、その思考を理解することが出来なかったのだ。
 微かに絶望したような声が聞こえ、マオはその時にやっと放送が流れていることに気がついたのだ。
 慌てて放送に耳を傾けようとしたが、また頭痛が酷くなりそれどころではなくなった。

 「……流石に、こんな状態で動き回ったらC.Cを探すどころじゃないしね。
  ここが禁止エリアに指定されている可能性は、けっこう低いと思うけど……」

 8×8マスの会場の内、すでに3マスが埋まっておりそこにさらに3マスが禁止エリアとなる。
 確率としては61分の3、ハズレを引くことはまずないはずだ。

 不安がない訳ではないが、現在のマオのコンディションでは出歩くのも億劫な状態だ。
 腹を決めて、頭を休めることにしたのだ。

 ――C.Cの夢を見れるといいんだけどなぁ。

 そう思い、マオは静かに目を閉じる。

 結果から言ってしまうと、マオはC.Cの夢を見ることは出来なかった。
 とびっきり最悪な、悪夢(ナイトメア)を見ることとなる。


 ■


 何処かの、人気のない山の中に二人の人間がいる。
 緑色の髪に紫のチャイナ服を着た美女と、まだあどけなさの残る少年だ。

 ――僕が、C.Cを絵に書いてた時だ。
 ――我ながら、ドへたくそな絵を書いてたなぁ。
 ――でも、そんな絵を見てC.Cは嬉しそうに笑ってくれたんだ。
 ――C.C。その時の笑顔を、僕はいつでも思い出せるよ。
 ――そう、いつだって、いつも、いつまでも。
 ――ほら、今だってすぐに君の笑顔と優しい声を……?

 唐突に、マオは違和感を覚えた。
 夢の中のC.Cが、顔を伏せていたからだ。

 ――おかしいな、今までこんなこと一度もなかったのに。

 マオの中で何かが警鐘を鳴らしていたが、こんな時もあると自分を納得させる。
 何か、強烈な不安が膨れ上がってくる。

 ――きっと、C.Cの声を聞いてないからだ。

 夢の中にいた子供は、いつの間にかマオ自身になっていた。
 マオは不安を押し隠すように、C.Cに近づく。
 夢の中でもいいから、とにかくC.Cの微笑む顔を見たかった。

 C.Cの顔を隠している髪を掻き分け、愛しい人の顔を見ようとしたとき――つるっと、髪が落ちた。

 「なぁ!」

 よく見ると、それは精巧なカツラだった。
 慌てて、カツラが乗っていた場所を見る。


 『こんにちは、ところでここはポロロッカ星ですか?』













 「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!」

 声にならない無言の絶叫と共に、マオは飛び起きた。
 肺からただ空気を搾り取るように絶叫しながら、マオはメチャクチャに暴れまわる。
 とにかく体を動かさないと、気が狂いそうだった。
 部屋の内装が見るも無残なものになった所で、マオはやっと暴れるのを止めた。
 ぜぇぜぇと、荒くなった息を整える。

 「なんだ、なんだったんだよ今のは!」

 マオは、C.Cとの思い出を夢として見ていたはずだ。
 しかしC.Cが存在した場所には、何故か――風浦可符香が、存在していたのだ。

 「C.C……助けてよ、C.C……っ!」

 そして、マオの悪夢はまだ続いていた。
 夢に見ていた思い出だけでなく、マオの思い出の全てのC.Cが――風浦可符香と入れ替わっていた。


 人混みの中で、心の声に苦しんでいるマオをあやしているのは風浦可符香だった。

 幼い頃、お互いに抱きしめ暖めあって眠る相手は風浦可符香だった。

 久しぶりに再会した時、銃を構えているのは風浦可符香だった。

 クロヴィスランドで、マオが銃で撃ち抜いた相手は風浦可符香だった。

 ルルーシュにギアスを掛けられ、逃げ出した先にいたのは風浦可符香だった。

 人混みの中で、心の声に苦しんでいるマオをあやしているのは風浦可符香だった。

 幼い頃、お互いに抱きしめ暖めあって眠る相手は風浦可符香だった。

 久しぶりに再会した時、銃を構えているのは風浦可符香だった。

 クロヴィスランドで、マオが銃で撃ち抜いた相手は風浦可符香だった。

 ルルーシュにギアスを掛けられ、逃げ出した先にいたのは風浦可符香だった。


 「いやぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁ、めぇぇぇえっぇえぇぇっぇえぇぇ、ろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 今度は明確な拒絶を込めた絶叫を上げ、マオはデイパックを手にとって駆け出した。
 ドアを破る勢いで部屋から出る。部屋の近くには、まだ可符香の死体が転がっていた。
 マオは血走った目でデイパックからステッキを取り出し、死体に向かって弾をばら撒いた。

 撃つ。

 撃つ。

 撃つ。

 まだ撃つ。

 死体が原型を留めなくなった所で、やっとマオは撃つのを止めた。
 また荒くなった息を整えようともせず、マオは意識を集中させる。

 ――C.C、シーツー、しーつー、C.C、僕の愛しい人!


 『ちょっとしたディープラヴってやつですね』


 元凶を挽肉にしても、やはり駄目だった。
 マオはあまりの絶望に膝を着き、虚ろに笑いながら空を見上げた。
 いつの間にやら頭痛は消えうせていたが、マオにはもうそんなことはどうでもよかった。

 炎は、消える寸前が一番綺麗に輝くと言う。
 マオと可符香が眼を合わせた時、可符香の命の炎はまさに消える寸前であった。
 制限されているとはいえ、心を知ることに慣れていたマオが悶絶したのにはそんな一因もあったのだろう。
 そしてその燃え尽きる寸前の炎は、マオの精神に意図せず焼き痕を残していった。

 マオの思い出のC.Cが、風浦可符香に入れ替わるように。

 とはいえ、人の心はコンピューターのように簡単に置き換えられるものではない。
 マオに残された焼き痕とて数日か、ひょっとしたら数時間もしたら消え去るかもしれない。
 しかし、そんなことがマオに分かるはずもなかった。


 ――奪われた。
 ――C.Cとの思い出が、奪われた。

 呆然とした意識で、マオは笑っていた。笑うしかなかった。
 C.Cはマオにとって唯一の思考が読めない人間で、それ故に全てだった。
 その全てが奪われた今、マオは空っぽの抜け殻になってしまった。

 「……しーつー」

 力無げに呟いた所で、マオは首が疲れたので見上げるのを止めた。

 そして――緑色の鉱石を、その眼に留めた。

 それはマオに支給された品の一つで、役に立たないだろうとデイパックにしまっておいた物だ。
 ステッキを取り出した時に一緒に出てきたのだろうかと思いながら、何かに引き寄せられるようにマオは鉱石を拾う。

 ――C.Cの髪と、同じ色だ。

 そう思うと、その鉱石は他のどんな鉱石よりも価値のあるものに見えてきた。
 まじまじと観察していると、その鉱石に赤黒いものが付着しているのに気づいた。
 おそらく、可符香の血だろう。
 緑の鉱石に付着するそれを見て、マオはC.Cをたぶらかすルルーシュを連想した。
 マオはイラついて鉱石を拭い――ふと、閃いた。

 「ルルーシュだ!」

 一言恋敵の名を叫び、マオは立ち上がった。
 生気のなくなっていた眼は、いまや爛々に光り輝いている。

 「ルルーシュならC.Cを思い出せる!」

 マオが閃いたのは、そんな方法だった。
 ルルーシュにC.Cの情報を考えさせ、それをマオが読むことでC.Cを取り戻す。
 憎き恋敵に頼ってしまう方法だが、拘ってる余裕はなかった。

 マオは鉱石を強く握り、反対の手でステッキとデイパックを拾う。
 可符香の残骸を踏みぬけて、マンションを駆け下りる。
 マンションから外に出たところで、可符香のデイパックが置き去りにされているのに気がついた。

 「大切な遺品を置いてきぼりにしちゃうなんて、名探偵としてどうかと思うよ。金田一くぅん」

 金田一を嘲り、その間抜けさに感謝しながらデイパックの中身を確かめる。
 その段階で、マオは自身がヘッドホンのことを失念していたことに気がついた。
 後頭部をガシガシと掻き、反省する。
 C.Cの声より、もっと根本的なものが奪われたのだから無理もない話とも言えるが。

 「ヘッドホンは無いか……ちぇっ、役立たず」

 ヘッドホンが入っていなかったことに落胆したが、マオは緑色の鉱石を取り出して心を落ち着けさせる。
 いつの間にかその鉱石は、マオにC.Cのことを思い出させることから精神安静に一役買うようになっていた。
 ……明確に連想すると、風浦可符香が出てくるため難儀なものだが。

 ――とにかく、今はルルーシュとヘッドホンだ。

 眼を閉じ、マオは周囲の心の声に耳を澄ませる。
 この悪夢から目を覚ますために。愛しい人を取り戻すために。


 『呼びましたか?』


 幻聴は、断固として無視した。

【C-3/海岸沿いの道/1日目-日中】
【マオ@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:肉体的・精神的疲労(小) 精神汚染(小)
[装備]:東風のステッキ(残弾率60%)@カウボーイビバップ マオのバイザー@コードギアス 反逆のルルーシュ
[道具]:デイバック×3 / 支給品一式×4 / 支給品一式(食料-[全国駅弁食べ歩きセット][お茶])
    オドラデクエンジン@王ドロボウJING / 日出処の戦士の剣@王ドロボウJING
    アンディの衣装@カウボーイビバップ / 緑色の鉱石@天元突破グレンラガン
    エクスカリバー@Fate/stay night / ライダーダガー@Fate/stay night
    アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION / 鉄扇子@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-
    血塗れの制服(※可符香の物)
[思考]
1:ルルーシュ、またヘッドホンを見つけてC.Cを取り戻す
2:聞き逃した放送の内容を、ギアスで確認する

[備考]
マオのギアス
 周囲の人間の思考を読み取る能力。常に発動していてオフにはできない。
 意識を集中すると能力範囲が広がるが、制限により最大で100メートルまでとなっている。
 さらに、意識を集中すると頭痛と疲労が起きるため、広範囲での思考読み取りを長時間続けるのは無理。
 深層意識の読み取りにも同様の制限がある他、ノイズが混じるために完全には読み取れない。
 ※また、錯乱などといった思考の暴走には対処しきれない事に気づきました。
 ※異世界の概念はあまり信じていない様子。
 ※シータの知りうるラピュタ関連の情報、パズーやドーラの出会いをほぼ完全に知りました。
 ※金田一と、その近辺の情報を知りました。

風浦可符香による精神汚染
 マオの思い出の中のC.Cが、全て可符香と入れ替わりました。マオがC.Cを忘れたわけではなく、何故かC.Cを思い出すと可符香になってしまいます。
 数時間から数日で正常な状態に戻ります。

緑色の鉱石@天元突破グレンラガン
 第11話でシモンがニアにプレゼントした緑色の鉱石。


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158:金田一少年の天敵 マオ 185:黒き鳥は空を舞う





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