金田一少年の天敵 ◆RwRVJyFBpg
「ねーこーの 毛皮着るー 貴婦人のつくるスープー♪ いーぬーの 毛皮着るー 貴婦人のつくるスープー♪」
青い空の下に青い海が横たわる海岸線を風浦可符香が行く。
手に金色の剣を持ち、朗々と唄いながらくるくるとステップを踏んで。
傍から見れば、その姿はまるで晴天を祝福する天使のよう。
口ずさむ歌詞の禍々しささえ聞かなかったことにすれば、そこにはただただ爽やかな雰囲気だけが残る。
ここだけを切り取って見れば、誰もここが残虐な戦場だとは気づくまい。
手に金色の剣を持ち、朗々と唄いながらくるくるとステップを踏んで。
傍から見れば、その姿はまるで晴天を祝福する天使のよう。
口ずさむ歌詞の禍々しささえ聞かなかったことにすれば、そこにはただただ爽やかな雰囲気だけが残る。
ここだけを切り取って見れば、誰もここが残虐な戦場だとは気づくまい。
「……なあ、風浦、その歌やめないか。何か不安定になる」
コンクリートで固められ、脇には巨大な高級マンションが立ち並ぶ海沿いの道を金田一一が行く。
手には小型の大砲をぶら下げ、げんなりと肩を落として。
傍から見れば、その姿は疲れ果てて家路につくサラリーマンのよう。
彼の若々しい肉体さえ見なかったことにすれば、そこには擦り切れた中年のような雰囲気しか残らない。
ここだけ切り取って見れば、誰も彼が幾多の難事件を解決した名探偵だとは気づくまい。
手には小型の大砲をぶら下げ、げんなりと肩を落として。
傍から見れば、その姿は疲れ果てて家路につくサラリーマンのよう。
彼の若々しい肉体さえ見なかったことにすれば、そこには擦り切れた中年のような雰囲気しか残らない。
ここだけ切り取って見れば、誰も彼が幾多の難事件を解決した名探偵だとは気づくまい。
◆
「えーいいじゃないですか。だってこんなにいいお天気なんですよ!歌の一つも思わず出ちゃいます!
中身 聞いたその人 具になった~♪」
「だからって何で出る歌がそんな不気味なのなんだよ!せめてもっと明るいのにしろ!明るいのに!
だいたいそんな大声で歌って、誰かに聞きつけられでもしたら……」
「え?いいじゃないですか。人が集まってくれた方が『準備』も早く済みますし!」
「あ……え~と、それはそうなんだけど……その……
ほ、ほら!もし、ポロロッカ星へ入国したい奴にいきなり襲われでもしたら……」
「大丈夫です!もし、そういう人が現れても、話せば分かってくれます。人間、目を見て話せば分かり合えないことなんてないんです!
だから金田一君も一緒に歌いましょ!
おーばーさんのいなくなった~住宅街~♪ スコーップが売れーたよー金物屋さん♪」
中身 聞いたその人 具になった~♪」
「だからって何で出る歌がそんな不気味なのなんだよ!せめてもっと明るいのにしろ!明るいのに!
だいたいそんな大声で歌って、誰かに聞きつけられでもしたら……」
「え?いいじゃないですか。人が集まってくれた方が『準備』も早く済みますし!」
「あ……え~と、それはそうなんだけど……その……
ほ、ほら!もし、ポロロッカ星へ入国したい奴にいきなり襲われでもしたら……」
「大丈夫です!もし、そういう人が現れても、話せば分かってくれます。人間、目を見て話せば分かり合えないことなんてないんです!
だから金田一君も一緒に歌いましょ!
おーばーさんのいなくなった~住宅街~♪ スコーップが売れーたよー金物屋さん♪」
風浦は俺の抗議を軽く受け流すと、また今までと同じように、唄い、踊り始めた。
思わず溜め息が出る。
思わず溜め息が出る。
(クソッ……こんなことで俺は本当に風浦の殺人を止められるのか?)
先ほどから何度も心に浮かんでいる問いがまた、心に浮かぶ。
俺がわざわざ妄想に付き合ってまで同行しているのは、風浦に殺人を犯させないためだ。
もし、風浦が嘘をついていないとするならば、こいつは既に人間を一人殺している。
しかも、襲われたから仕方なく、というやむを得ない事情からではなく、ポロロッカ星が云々という自分勝手な妄想を理由にだ。
そんなことが許されていい筈がないし、そうやった殺された人は絶対に浮かばれない。
俺がわざわざ妄想に付き合ってまで同行しているのは、風浦に殺人を犯させないためだ。
もし、風浦が嘘をついていないとするならば、こいつは既に人間を一人殺している。
しかも、襲われたから仕方なく、というやむを得ない事情からではなく、ポロロッカ星が云々という自分勝手な妄想を理由にだ。
そんなことが許されていい筈がないし、そうやった殺された人は絶対に浮かばれない。
(だが……)
正直な話、俺はこいつと合流して以来、一方的に振り回されてばかりだ。
さっきのやりとりだけに限ったことじゃない。
俺の意見を風浦は独自の論理でいちいち受け流し、ほとんど言うことを聞いてくれない。
思わず怒鳴りつけてやりたくなることもあるけど、風浦に合わせることを決めた以上、あまり強く出るわけにはいかない。
だから結局、ほとんどの場面で俺がこいつに同意せざるを得ない。
そんな状況で、もし、風浦が人を殺すと言いはじめたら、俺は果たしてうまく説得できるのか?
唄ひとつ歌うのもやめさせられないのに?
さっきのやりとりだけに限ったことじゃない。
俺の意見を風浦は独自の論理でいちいち受け流し、ほとんど言うことを聞いてくれない。
思わず怒鳴りつけてやりたくなることもあるけど、風浦に合わせることを決めた以上、あまり強く出るわけにはいかない。
だから結局、ほとんどの場面で俺がこいつに同意せざるを得ない。
そんな状況で、もし、風浦が人を殺すと言いはじめたら、俺は果たしてうまく説得できるのか?
唄ひとつ歌うのもやめさせられないのに?
(もしかしたら、こいつを使わなきゃいけないかもしれないな……)
俺はわずかに顔を俯かせ、右手の大砲を、確かめるように握りこむ。
もし、説得がうまくいかなかった最悪の場合、暴力を使うことも考えておかなきゃならない。
もちろん、風浦を殺す気はないけど、だからといって、殺人をただ見ていることなんて俺にはできない。
こんな武器、使ったこともないし、素手での戦いもからっきしだけど……覚悟だけはしておかなけりゃな。
そうやって決意を固め、顔を上げた俺の目に飛び込んできたのは……
風浦の顔のアップだった。
もし、説得がうまくいかなかった最悪の場合、暴力を使うことも考えておかなきゃならない。
もちろん、風浦を殺す気はないけど、だからといって、殺人をただ見ていることなんて俺にはできない。
こんな武器、使ったこともないし、素手での戦いもからっきしだけど……覚悟だけはしておかなけりゃな。
そうやって決意を固め、顔を上げた俺の目に飛び込んできたのは……
風浦の顔のアップだった。
「うわっ!!!」
思わず飛び退る俺。だって、顔上げたらいきなり目の前にいるんだぜ!?
それも唇と唇が軽く触れそうな……って何考えてんだ俺は!?
それも唇と唇が軽く触れそうな……って何考えてんだ俺は!?
「な、な、な、なんだよ風浦。いきなり!?」
邪な思考を誤魔化すように、訊く。
だが、次に彼女の口から出た言葉はどうにも予想外のものだった。
だが、次に彼女の口から出た言葉はどうにも予想外のものだった。
「だって、金田一君、何かとっても思いつめた顔してたから」
「……え?」
「……え?」
焦る俺に投げかけられたのは、優しい言葉。
てっきりまた頭のおかしい妄言を聞かされると思っていたのに。
不意を衝かれた俺は、思わず固まってしまう。
てっきりまた頭のおかしい妄言を聞かされると思っていたのに。
不意を衝かれた俺は、思わず固まってしまう。
「そうですよね。記憶を奪われて、いきなりこんなところに連れてこられて……不安ですよね」
風浦は俺の目を何かを探すかのように覗きこむと、穏やかに言う。
それは紛れもない、慰めの言葉。
コイツは、元気がなさそうにしている俺を見て、心配してくれているのだった。
それは紛れもない、慰めの言葉。
コイツは、元気がなさそうにしている俺を見て、心配してくれているのだった。
「主人のミリアさんは試練に巻き込まれるし、螺旋王を説得できるかどうかも分からないし
元の世界のお友達とは離れ離れだし……心配ですよね」
元の世界のお友達とは離れ離れだし……心配ですよね」
今までの底抜けに明るいだけの口調じゃない。子供をあやす母親のような暖かい口調。
俺は、イライラの原因がそもそも風浦にあることも忘れ、ただその心地よいリズムに身を任す。
俺は、イライラの原因がそもそも風浦にあることも忘れ、ただその心地よいリズムに身を任す。
「でも、大丈夫!」
彼女は今まで唄うときにしていたように、ひらりと綺麗に一回転をきめる。
制服のレースが日の光を反射してキラキラと輝いた。
風浦はその細く美しい両腕を真っ直ぐ伸ばすと――
制服のレースが日の光を反射してキラキラと輝いた。
風浦はその細く美しい両腕を真っ直ぐ伸ばすと――
「私がついてます!きっと何とかなりますよ!」
――俺の手を取り、ニッコリ微笑んだ。
その笑顔は、燦々と輝く太陽に照らされて、まるで天使のように見えた。
彼女の笑顔を見ていると、もう何も心配はいらない、きっと何とかなるさ、そんな気持ちが無根拠に湧いてきて――
その笑顔は、燦々と輝く太陽に照らされて、まるで天使のように見えた。
彼女の笑顔を見ていると、もう何も心配はいらない、きっと何とかなるさ、そんな気持ちが無根拠に湧いてきて――
「バ、バカッ!何、恥ずかしいこと言ってんだよ!」
俺は何故か“危機感”を覚え、目を逸らし、手をほどいて、少しだけ距離をとった。
(……イカン、イカンぞ。俺としたことが、思わず一瞬『ドキッ』としちまった。
思い出せ、金田一一。
コイツ、確かに顔はかわいいが、中身はアレだぞ、ポロロッカだぞ。電波の人だぞ。
しかも、コイツは人を一人殺したかもしれない殺人容疑者なんだぞ。仮にも探偵と呼ばれてるこの俺がそんな……
……ああ、でもさっきのは正直グッときたというか何というか……ってだからダメだって俺!!)
思い出せ、金田一一。
コイツ、確かに顔はかわいいが、中身はアレだぞ、ポロロッカだぞ。電波の人だぞ。
しかも、コイツは人を一人殺したかもしれない殺人容疑者なんだぞ。仮にも探偵と呼ばれてるこの俺がそんな……
……ああ、でもさっきのは正直グッときたというか何というか……ってだからダメだって俺!!)
どうもマズいことに、動揺は一瞬では収まってくれないようだ。
気の遣りどころに困った俺はそのとき、無意識にもう一度、風浦の顔に目を遣った。
あの『ドキッ』が気のせいであることを確かめるために。
だが……
気の遣りどころに困った俺はそのとき、無意識にもう一度、風浦の顔に目を遣った。
あの『ドキッ』が気のせいであることを確かめるために。
だが……
ガガガガッ
ドサッ
確かめるべき笑顔は、突然の銃声によりかき消された。
反射的に音源の方を見る。
前方にあるマンションの陰で、バイザーをした長身の男が嗤っていた。
杖のような銃の口が、こっちへ向けられる。
反射的に音源の方を見る。
前方にあるマンションの陰で、バイザーをした長身の男が嗤っていた。
杖のような銃の口が、こっちへ向けられる。
◆
「ハアッ……ハアッ……ハアッ……ううっ!」
コンクリートで固められた非常階段で俺はうめき声をあげた。
右肩を見る。服が破れ、わずかに削れた肉と骨が露出している。
傷から流れ出した血は既に俺のシャツの四分の一を染めていた。
右肩を見る。服が破れ、わずかに削れた肉と骨が露出している。
傷から流れ出した血は既に俺のシャツの四分の一を染めていた。
あのとき、銃を向けられた俺はとっさの判断で、手近にあった高級マンションの一つに飛び込んだ。
というか、俺たちが歩いていた道は、景観のためか、障害物が少なく、他に射線を遮れそうなところがなかったんだ。
海に飛び込むことも考えたが、運動音痴の俺がそれをするのは自殺行為でしかない。
まあ、結果的に、ここしか逃げる場所がなかったんだけど
だからといって、ここに逃げたことが状況を悪くするかといえば、実はそうでもない。
エントランスに入ってしまえばとりあえず射線は切れるし、建物の中で逃げ回れば、簡単に銃撃を受けることもない。
あとは逃走経路が問題になるくらいだけど、運のいいことに、俺の入ったマンションは団地型の巨大なモノ。
四つの棟が渡り廊下でお互い連結されている造りになっている。
つまり、俺はこの四つの棟を場所を悟られないように逃げ回り、適当なところでどこかの棟で下に降りればいい。
それで問題なく逃げ切れるだろう……そう思っていた。
というか、俺たちが歩いていた道は、景観のためか、障害物が少なく、他に射線を遮れそうなところがなかったんだ。
海に飛び込むことも考えたが、運動音痴の俺がそれをするのは自殺行為でしかない。
まあ、結果的に、ここしか逃げる場所がなかったんだけど
だからといって、ここに逃げたことが状況を悪くするかといえば、実はそうでもない。
エントランスに入ってしまえばとりあえず射線は切れるし、建物の中で逃げ回れば、簡単に銃撃を受けることもない。
あとは逃走経路が問題になるくらいだけど、運のいいことに、俺の入ったマンションは団地型の巨大なモノ。
四つの棟が渡り廊下でお互い連結されている造りになっている。
つまり、俺はこの四つの棟を場所を悟られないように逃げ回り、適当なところでどこかの棟で下に降りればいい。
それで問題なく逃げ切れるだろう……そう思っていた。
「金田一くぅ~ん、そこにいるんだろぉ?隠れても無駄だよ?僕、かくれんぼは得意なんだから」
いやらしく、ねちっこいあの声が聞こえてくる。
音の響き方から考えて多分、二、三階下のフロアから。
音の響き方から考えて多分、二、三階下のフロアから。
「クソッ!何で!?」
「言っただろぉ?僕はかくれんぼが得意なんだ。
ねぇ?そろそろ、男らしく出てきて戦ったらど~ぉ?君も武器はいいのを持ってるんだろう?」
「言っただろぉ?僕はかくれんぼが得意なんだ。
ねぇ?そろそろ、男らしく出てきて戦ったらど~ぉ?君も武器はいいのを持ってるんだろう?」
コツコツ。靴音が響く。真っ直ぐこっちに向かっている。
俺は急いで立ち上がり、隣の棟へ向かう渡り廊下を駆け抜ける。もちろん、銃撃を受けないよう身を低くして。
俺は急いで立ち上がり、隣の棟へ向かう渡り廊下を駆け抜ける。もちろん、銃撃を受けないよう身を低くして。
「あれぇ?また逃げるんだ。そろそろ分かってもいんじゃないかなぁ、無駄だってこと」
階下から俺をあざ笑う声が聞こえる。
俺はわざと聞かないフリをして、廊下を走りぬけ、階段を上がり、下がり、また廊下を駆ける。
……もう何度目だろう?
そう。実際のところ、俺はこの声から、風浦を撃ったバイザーの男から逃げられずにいた。
男は、どうやっているのか分からないが、俺の位置を把握し、下に降りようとしたところを正確に狙ってくる。
適当にフェイントをかけながら走り回ってやれば、簡単に敵を撹乱できると考えていた俺にとって、これは想定外の事態だった。
奴は俺を見つけてもすぐに撃ち殺そうとはせず、さっきのように言葉をかけて逃がし続けている。
おそらくは俺の疲労を待つつもりだろう。
じっくりと、いたぶってから殺す……最悪に趣味の悪いやり方だ。
俺はわざと聞かないフリをして、廊下を走りぬけ、階段を上がり、下がり、また廊下を駆ける。
……もう何度目だろう?
そう。実際のところ、俺はこの声から、風浦を撃ったバイザーの男から逃げられずにいた。
男は、どうやっているのか分からないが、俺の位置を把握し、下に降りようとしたところを正確に狙ってくる。
適当にフェイントをかけながら走り回ってやれば、簡単に敵を撹乱できると考えていた俺にとって、これは想定外の事態だった。
奴は俺を見つけてもすぐに撃ち殺そうとはせず、さっきのように言葉をかけて逃がし続けている。
おそらくは俺の疲労を待つつもりだろう。
じっくりと、いたぶってから殺す……最悪に趣味の悪いやり方だ。
「クソッ……こんなところで時間を食っている暇はないのに……風浦」
俺は風浦が撃たれるところは確かに見たが、死亡まで確認したわけじゃない。
そう、銃で撃たれたからって、死んだとは限らない。当たり所が悪くなければ助かる可能性は十分にある。
……確かに、風浦は妄想にとりつかれた、人殺しかもしれない人間だ。
だが、だからって!だからってこんな形で死んでいい筈がない!
だから助ける。助けにいかなきゃいけない。病院に運んで、応急措置をして、それから……
そう、銃で撃たれたからって、死んだとは限らない。当たり所が悪くなければ助かる可能性は十分にある。
……確かに、風浦は妄想にとりつかれた、人殺しかもしれない人間だ。
だが、だからって!だからってこんな形で死んでいい筈がない!
だから助ける。助けにいかなきゃいけない。病院に運んで、応急措置をして、それから……
「くくく……君、もしかして、まだ風浦可符香を助けようとか考えてるわけじゃないよねぇ?」
「!?」
「!?」
まただ。早すぎる!
もう追いつかれたっていうのかよ!?
もう追いつかれたっていうのかよ!?
「甘い!まったく甘すぎるよ君は。他人のことより自分の心配をしなよ」
「……クッ、お前どうやって?」
「さぁ?どうしてだろうねぇ。そんなことよりいいの?早く逃げないと追いついちゃうよ?」
「くっ……」
「……クッ、お前どうやって?」
「さぁ?どうしてだろうねぇ。そんなことよりいいの?早く逃げないと追いついちゃうよ?」
「くっ……」
ハンターに追われる兎のように、今の俺にはただ駆け出すしかできない。
(だが……いつまでもそうだと思うなよ『バイザーの銃士』!!
どんな方法を使ってるか知らないが、俺は必ず謎を解き、ここを脱出して、風浦を助けてみせる!
ジッチャンの名にかけて!)
どんな方法を使ってるか知らないが、俺は必ず謎を解き、ここを脱出して、風浦を助けてみせる!
ジッチャンの名にかけて!)
◆
「……これでよし……と」
部屋の扉を開け、廊下へと出ながら、頭の中で作戦を確認し直す。
『バイザーの銃士』に対抗するため、今回俺が用意した作戦は二つ。
逃げながら作った急ごしらえで粗も多いが、とりあえずの目的を達成するのに問題はないはず。
『バイザーの銃士』に対抗するため、今回俺が用意した作戦は二つ。
逃げながら作った急ごしらえで粗も多いが、とりあえずの目的を達成するのに問題はないはず。
「ねぇ、僕そろそろ疲れてきちゃったよ。もう終わりにしない?」
『バイザーの銃士』の足音が聞こえる。ここからが俺とお前の勝負だ。
廊下で捕捉されないように、できるだけ速く走り、さっさと隣の棟へと身を隠すと、階段を昇り降り。
とりあえずの居場所を分からないようにする。
ここまではいつもと同じだ。だが、ここからが違う。
廊下で捕捉されないように、できるだけ速く走り、さっさと隣の棟へと身を隠すと、階段を昇り降り。
とりあえずの居場所を分からないようにする。
ここまではいつもと同じだ。だが、ここからが違う。
数分後、既に計画通りの位置についた俺は、じっと息を殺し、ある現象が起こるのを待っていた。
時計を確認し、タイミングを見計らう。
時計を確認し、タイミングを見計らう。
(そろそろのハズだけど……)
俺がそう思ったのとほぼ同時にその現象は起こった。
さっきまで俺のいた部屋が大音響とともに爆発したんだ。
今いる棟のちょうど向かいにあたるそこを、階段の縁から確認する。
見ればドアは吹き飛び、部屋の中からは灰色の煙がモクモクと吐き出されている。
さっきまで俺のいた部屋が大音響とともに爆発したんだ。
今いる棟のちょうど向かいにあたるそこを、階段の縁から確認する。
見ればドアは吹き飛び、部屋の中からは灰色の煙がモクモクと吐き出されている。
「よし!うまくいった!」
俺は爆発が起こったのを見ると、一気にダッシュ。
階段を下へと向かって猛然と駆け下りる。
階段を下へと向かって猛然と駆け下りる。
ズバリを言えば、第一の作戦の目的は陽動。
実際に自分がいるのとは逆の棟で爆発を起こし、『バイザーの銃士』の注意をそちらに引きつけることだ。
単純で使い古された手だけど、この局面では効果がある。
ちなみに、爆発の種はごくごく簡単。
剥き身の砲弾を部屋のコンロで火にかけてきただけだ。
実際に自分がいるのとは逆の棟で爆発を起こし、『バイザーの銃士』の注意をそちらに引きつけることだ。
単純で使い古された手だけど、この局面では効果がある。
ちなみに、爆発の種はごくごく簡単。
剥き身の砲弾を部屋のコンロで火にかけてきただけだ。
(……『バイザーの銃士』はたとえ陽動の可能性を考えても、あの爆発を無視できないはずだ。
何故なら、ここは殺し合いの真っ只中。常に新しい敵が襲ってくる危険と隣り合わせの場所だ。
そんな場所で、あれをただのこけおどしと100%言い切ってしまえるか?――おそらく答えはノー。
そんな風に決め付けた結果、第三の敵にしてやられましたじゃ話にならないからね)
何故なら、ここは殺し合いの真っ只中。常に新しい敵が襲ってくる危険と隣り合わせの場所だ。
そんな場所で、あれをただのこけおどしと100%言い切ってしまえるか?――おそらく答えはノー。
そんな風に決め付けた結果、第三の敵にしてやられましたじゃ話にならないからね)
作戦の成功を信じ、俺はひたすら下へと降り続ける。
一階、二階……フロアーを下るたび、俺の心に成功の実感が芽生え始める。
だが……
一階、二階……フロアーを下るたび、俺の心に成功の実感が芽生え始める。
だが……
「陽動とはまた古い手だねぇ。しかも見え見えだ。
何かいろいろ考えたみたいなんで期待してたけど、この程度なら、僕、ちょっとガッカリだなあ」
何かいろいろ考えたみたいなんで期待してたけど、この程度なら、僕、ちょっとガッカリだなあ」
……三フロアー下ったところで、忌々しい声がする。
「……お前」
「さあ、次はどうやって遊んでくれるの?それとも、もうお終い?」
「ふざけんなッ!」
「さあ、次はどうやって遊んでくれるの?それとも、もうお終い?」
「ふざけんなッ!」
歯を食い締め、きびすを返す。
第一の作戦は失敗に終わった。
……けど、こうなることを予想してなかったわけじゃない。
第一の作戦は失敗に終わった。
……けど、こうなることを予想してなかったわけじゃない。
(これでハッキリした。間違いなく『バイザーの男』はレーダーのようなものを持っている)
参加者を探知するレーダーの存在。
俺はこの追いかけっこが始まって間もなく、その可能性に思い当たっていた。
俺はこの追いかけっこが始まって間もなく、その可能性に思い当たっていた。
(『バイザーの銃士』の動きは、俺より速く動くことで先回りしてる奴のそれじゃない。
どっちかって言えば、俺の動きを予想して、その行き先にいち早く動いてる感じだ。
じゃあ、その動きをするのに必要なのは何だ?
もちろん、一番いいのは相手の考えを読み取ることだろうが、これは現実的に考えてあり得ない。
じゃあ、もし、相手がレーダーのようなものを持っていたとしたらどうだ?
そうすれば、俺の動きを完璧に捉えられるだけじゃなく、ある程度先を読むことも可能になるんじゃないのか?)
どっちかって言えば、俺の動きを予想して、その行き先にいち早く動いてる感じだ。
じゃあ、その動きをするのに必要なのは何だ?
もちろん、一番いいのは相手の考えを読み取ることだろうが、これは現実的に考えてあり得ない。
じゃあ、もし、相手がレーダーのようなものを持っていたとしたらどうだ?
そうすれば、俺の動きを完璧に捉えられるだけじゃなく、ある程度先を読むことも可能になるんじゃないのか?)
そう考え、それを確かめる意味も込めて第一の作戦を決行した。
だが、それが失敗に終わった以上、相手がレーダーを持っているのはほぼ確定だと思っていいだろう。
……そして、だとするならば『バイザーの銃士』に次の作戦を破ることはできない!
だが、それが失敗に終わった以上、相手がレーダーを持っているのはほぼ確定だと思っていいだろう。
……そして、だとするならば『バイザーの銃士』に次の作戦を破ることはできない!
俺は第一の作戦が失敗して以来、ずっと走り続けている。
これは俺が恐慌状態に陥っていると相手に錯覚させるためのフェイクであると同時に、
次の作戦の肝を悟らせないためのシールドでもある。
……さすがにもう小一時間もの間、走ったり止まったりを繰り返しているから息がかなり苦しいが、もう一頑張りだ。
この作戦さえ成功すれば、今度こそ地上へと抜けることができるはず。
これは俺が恐慌状態に陥っていると相手に錯覚させるためのフェイクであると同時に、
次の作戦の肝を悟らせないためのシールドでもある。
……さすがにもう小一時間もの間、走ったり止まったりを繰り返しているから息がかなり苦しいが、もう一頑張りだ。
この作戦さえ成功すれば、今度こそ地上へと抜けることができるはず。
第二の作戦、それはエレベーターを使った脱出。
とは言っても、ただエレベーターを待ってたんじゃ『バイザーの銃士』に嗅ぎつけられてしまう。
だから、エレベーターを使うことを悟られないよう、四つの棟を走って移動しながらボタンを押し、
走りながら到着を待ち、長いマラソンの終着点でエレベーターに乗る。
もし、作戦の途中でエレベーターの使用を悟られてしまったら終わりのリスキーな作戦だが
このリスクは、『バイザーの銃士』がレーダーを使っている限り、相当緩和される。
とは言っても、ただエレベーターを待ってたんじゃ『バイザーの銃士』に嗅ぎつけられてしまう。
だから、エレベーターを使うことを悟られないよう、四つの棟を走って移動しながらボタンを押し、
走りながら到着を待ち、長いマラソンの終着点でエレベーターに乗る。
もし、作戦の途中でエレベーターの使用を悟られてしまったら終わりのリスキーな作戦だが
このリスクは、『バイザーの銃士』がレーダーを使っている限り、相当緩和される。
(何故なら、俺は今、お前に道筋を読ませないため、がむしゃらに走り続けているからな。
お前は、少ししか動かなかった光点が激しく動き出したことで、レーダーから目を離せなくなったはずだ。
果たして、その点の動きを観察しながら、エレベーターにまで気を回す余裕があるかな?)
お前は、少ししか動かなかった光点が激しく動き出したことで、レーダーから目を離せなくなったはずだ。
果たして、その点の動きを観察しながら、エレベーターにまで気を回す余裕があるかな?)
もちろん、幾ら緩和されたといっても、リスクがなくなったわけじゃない。
運悪く、俺が乗ったエレベーターの真下に奴がいたら、多分、俺はおしまいだ。
だが、これ以上、風浦を待たせるわけにはいけない。アイツを助けるためには、今は一秒だって惜しい。
……ここは賭けるしかないんだ。
運悪く、俺が乗ったエレベーターの真下に奴がいたら、多分、俺はおしまいだ。
だが、これ以上、風浦を待たせるわけにはいけない。アイツを助けるためには、今は一秒だって惜しい。
……ここは賭けるしかないんだ。
「……ポロロッカ星人だったっけ。もしいるなら、あの電波娘を守ってやってくれよな」
そう呟くと、俺はこの作戦の目的地に向かい、最後の走行に入った。
◆
階段を駆け上り、左折。
無機質に伸びる廊下の向こう側に、隣の棟の建物と、エレベーターホールが見える。
……あそこが目的地だ。
俺はなけなしの酸素を肺から吐き出しながら、最後の短距離走を走りぬいた。
肺が痛い。足が痛い。肩の傷も痛む……だが、まだ倒れるわけにはいかない。
無機質に伸びる廊下の向こう側に、隣の棟の建物と、エレベーターホールが見える。
……あそこが目的地だ。
俺はなけなしの酸素を肺から吐き出しながら、最後の短距離走を走りぬいた。
肺が痛い。足が痛い。肩の傷も痛む……だが、まだ倒れるわけにはいかない。
「ハアッ、ハアッ、ハアッ……」
膝に手を置き、肩で息をしながら、エレベーターをちらっとだけ見遣る。
エレベーターの現在位置を示す電光表示には「8」の文字。
ちゃんと想定どおり、今俺がいるこの階の数字が掲げられている。
どうやら、何とかうまくいったようだ。
エレベーターの現在位置を示す電光表示には「8」の文字。
ちゃんと想定どおり、今俺がいるこの階の数字が掲げられている。
どうやら、何とかうまくいったようだ。
「よし、これで……」
荒い息を吐き、腰から体を折り曲げながら扉を開けるボタンを押す。
すると、機械音が鳴り、エレベーターの扉が両側に開いた。
本当なら、顔を上げてちゃんと乗り込むところだが、疲労が溜まりすぎてそれさえもままならない。
すると、機械音が鳴り、エレベーターの扉が両側に開いた。
本当なら、顔を上げてちゃんと乗り込むところだが、疲労が溜まりすぎてそれさえもままならない。
「もともと体力がないのは分かってたけど、まさかここまでとは……
今度からもうちょっと体を鍛えた方がいいかもな……こりゃ」
今度からもうちょっと体を鍛えた方がいいかもな……こりゃ」
「僕も同感だねぇ。次の人生があったら是非、そうしてよ」
驚きで、上がらなかったはずの首を上げると、そこには邪悪に嗤う『バイザーの銃士』がいた。
◆
ハハハハハッー!!クヒーッヒッヒッヒッヒッヒッ!!!!
ブハァーッハッハッハッハッ!!ヒィヤーッハッハッハッハッハッハッ!!
ブハァーッハッハッハッハッ!!ヒィヤーッハッハッハッハッハッハッ!!
全く滑稽だ。滑稽すぎるにも程がある。
見た?ねえ、見たかい、あの顔?誰のって決まってるじゃないか!!この自称名探偵君の顔だよ!!
こんなに哀れを誘う顔が他にあるもんかい!!
勝負に完敗した負け犬の顔だ。全ての希望が絶望に変わった人間の顔だ。
まったくもって可笑しすぎるよ。可笑しすぎて笑いしか出てこない。
見た?ねえ、見たかい、あの顔?誰のって決まってるじゃないか!!この自称名探偵君の顔だよ!!
こんなに哀れを誘う顔が他にあるもんかい!!
勝負に完敗した負け犬の顔だ。全ての希望が絶望に変わった人間の顔だ。
まったくもって可笑しすぎるよ。可笑しすぎて笑いしか出てこない。
僕がゆっくりとエレベーターから外に出ると、金田一もずるずる下がり、後ろにこけて尻餅をついた。
……本当に、情けない姿だねぇ。
……本当に、情けない姿だねぇ。
「残念だったねぇ。あの短時間でいろいろ考えたのは褒めてあげるけど、如何せん僕に使うには幼稚過ぎたみたいだ」
「……何故だ!何故こんなことをする!何故、風浦を殺した!?」
「……何故だ!何故こんなことをする!何故、風浦を殺した!?」
僕が勝利宣言をしてやると、金田一は勇ましく僕の方をにらみ返して、質問を返してきた。
ていうか何でお前は負けたのに偉そうなの?……あーあ、だから嫌なんだよねぇ。負け犬の遠吠えは。
ていうか何でお前は負けたのに偉そうなの?……あーあ、だから嫌なんだよねぇ。負け犬の遠吠えは。
「何でかって?そんなの簡単だよ。あの風浦可符香とかいう女を殺したのは――うるさかったからさ」
シータやあのガキと別れてから、個人に対して集中させるのを避けて、
できるだけ広く薄く展開していた僕のギアスに初めにひっかかってきたのがあの女だった。
……正直、近づくのは止めようと何度も思ったよ。
何故かって?だから言ってるじゃない。あの女の心の声は他の奴に比べてあまりにも煩かったんだよ。
自己主張が激しくて、言ってる内容も意味不明。その上、極端に明るい思考と極端に暗い思考が混ざり合ってる。
ギアスをあまり深くまで向けて展開してないのに頭痛がしたよ。
あの女の深層意識まで読み取った時のことを考えたら、身震いがしたね。
できるだけ広く薄く展開していた僕のギアスに初めにひっかかってきたのがあの女だった。
……正直、近づくのは止めようと何度も思ったよ。
何故かって?だから言ってるじゃない。あの女の心の声は他の奴に比べてあまりにも煩かったんだよ。
自己主張が激しくて、言ってる内容も意味不明。その上、極端に明るい思考と極端に暗い思考が混ざり合ってる。
ギアスをあまり深くまで向けて展開してないのに頭痛がしたよ。
あの女の深層意識まで読み取った時のことを考えたら、身震いがしたね。
……だから、本当は逃げようと思ったんだ。
あんな奴に係わり合いになってる場合じゃない。早くC.C.を見つけなくちゃってね。
……でも、そこまで考えてふと気づいたんだ。それじゃダメなんじゃないかってさ。
だって、もしかしたら、そういう奴がC.C.を持ってるかもしれないだろ?
だったら、C.C.を少しでも早く手に入れたい僕としては、近づかないわけにはいかない。
だけど、また頭が痛くなるのは嫌だ。
じゃあ、どうすればいいか?
あんな奴に係わり合いになってる場合じゃない。早くC.C.を見つけなくちゃってね。
……でも、そこまで考えてふと気づいたんだ。それじゃダメなんじゃないかってさ。
だって、もしかしたら、そういう奴がC.C.を持ってるかもしれないだろ?
だったら、C.C.を少しでも早く手に入れたい僕としては、近づかないわけにはいかない。
だけど、また頭が痛くなるのは嫌だ。
じゃあ、どうすればいいか?
――その答えに辿り着くのは思ったより簡単だったよ。
そもそも、ここは殺し合いのための場所なんだ。だったら殺せばいい。
僕の頭を痛くするような奴等は、一人残らず殺していけばいいんだ。
そもそも、ここは殺し合いのための場所なんだ。だったら殺せばいい。
僕の頭を痛くするような奴等は、一人残らず殺していけばいいんだ。
「うるさかったから殺しただって!?……それはどういう……」
「あー細かいことはいいだろぉ?どうせ君はこれから死ぬんだからさ」
「あー細かいことはいいだろぉ?どうせ君はこれから死ぬんだからさ」
……と、まあ、そんな事情を知らない金田一がめんどくさい質問をしてきたから、僕はステッキの先を突きつけてやった。
しかし、コイツはどうしようかなぁ?
もともと、風浦可符香を殺すのを見られたから、ついでに殺してやろうと思っただけなんだけど
予想外に楽しませてくれたしなぁ……せっかくだから、もうちょっと遊んでやるか。
しかし、コイツはどうしようかなぁ?
もともと、風浦可符香を殺すのを見られたから、ついでに殺してやろうと思っただけなんだけど
予想外に楽しませてくれたしなぁ……せっかくだから、もうちょっと遊んでやるか。
「……しかし、金田一君。君、元いた国では名探偵なんて呼ばれてるんだってねぇ?」
「!? 何でそんなことを知ってるんだ!?」
「ふふ……君のことならなーんでも、知ってるよ。
金田一一。私立不動高校の2年生。探偵、金田一耕介の孫で自身もIQ180の名探偵。
過去、警視庁に協力して数々の難事件を解決している。
幼馴染の七瀬美雪とは友達以上恋人未満の関係をもう長く続けているが、本当は――」
「お、お前……そんなことまで……どうして?」
「!? 何でそんなことを知ってるんだ!?」
「ふふ……君のことならなーんでも、知ってるよ。
金田一一。私立不動高校の2年生。探偵、金田一耕介の孫で自身もIQ180の名探偵。
過去、警視庁に協力して数々の難事件を解決している。
幼馴染の七瀬美雪とは友達以上恋人未満の関係をもう長く続けているが、本当は――」
「お、お前……そんなことまで……どうして?」
金田一の顔がみるみるうちに青くなっていく。
動揺で心が乱れているのが分かる。
動揺で心が乱れているのが分かる。
「さぁね。そんなことはどうでもいいじゃないか。
……しかし、そんなにお偉い名探偵様が、今回は随分と苦労してるみたいだねぇ?
殺し合いは怖がる、妄想少女を改心させられない上、自分の不注意で殺される……
あぁ、困ったねえ、ここに来てからいいトコが一つもないじゃないか」
「………………」
……しかし、そんなにお偉い名探偵様が、今回は随分と苦労してるみたいだねぇ?
殺し合いは怖がる、妄想少女を改心させられない上、自分の不注意で殺される……
あぁ、困ったねえ、ここに来てからいいトコが一つもないじゃないか」
「………………」
クックックッ、動揺してる動揺してる。
歯なんか食いしばっちゃってかわいいなぁ。
……フフ、しかし、コイツ、名探偵とか名乗っておきながら本当に間抜けだ。
これだけやられたら、そろそろ、僕の能力に気づいてもよさそうなモンなのに。
いやあ、常識に縛られるってのは怖いねぇ。
歯なんか食いしばっちゃってかわいいなぁ。
……フフ、しかし、コイツ、名探偵とか名乗っておきながら本当に間抜けだ。
これだけやられたら、そろそろ、僕の能力に気づいてもよさそうなモンなのに。
いやあ、常識に縛られるってのは怖いねぇ。
「そんなことじゃ偉大な“ジッチャン”の名が鳴くよぉ?
ああ、こんなんじゃもういっそ“ジッチャン”の看板を使うのはやめた方がいいかもしれないなあ」
「……確かに、今までの俺は失敗ばかりだった。いいところがなかったのも認める。だけど……」
ああ、こんなんじゃもういっそ“ジッチャン”の看板を使うのはやめた方がいいかもしれないなあ」
「……確かに、今までの俺は失敗ばかりだった。いいところがなかったのも認める。だけど……」
嗚呼、追い詰められた人間ってのは、どうしてこうも同じ行動ばかりとるんだろう。
どいつもこいつも、痛いところを衝かれると、揃ってお決まりの自己弁護を始めるんだ。
でも、僕は知ってる。
そこを突き崩せばその人間は“終わり”なんだってことをね。
どいつもこいつも、痛いところを衝かれると、揃ってお決まりの自己弁護を始めるんだ。
でも、僕は知ってる。
そこを突き崩せばその人間は“終わり”なんだってことをね。
「『だけど、そんな俺にもできることはある』って?わかってないなぁ、金田一君。
君は今回、その『できること』つまり、得意分野で僕に負けたんだよ?」
「!!」
「名探偵って呼ばれてるくらいだもんねぇ、頭での勝負にはさぞ自信があったんだろうねぇ?
でも、僕には敵わなかった。この世界では、所詮、君はその程度なんだよ
分かったかい?君は狭い井戸の中で自分が凄い奴のつもりでいた、滑稽な蛙なんだ」
君は今回、その『できること』つまり、得意分野で僕に負けたんだよ?」
「!!」
「名探偵って呼ばれてるくらいだもんねぇ、頭での勝負にはさぞ自信があったんだろうねぇ?
でも、僕には敵わなかった。この世界では、所詮、君はその程度なんだよ
分かったかい?君は狭い井戸の中で自分が凄い奴のつもりでいた、滑稽な蛙なんだ」
見れば、金田一は既に前を向いていない。
虚ろな瞳を床に向け、唇を噛んで、瞼を震わせている。
アッハッハッ……君はやっぱり最後まで面白い奴だよ金田一君。サイコーだ。
……でも、もうそれもお終い。
虚ろな瞳を床に向け、唇を噛んで、瞼を震わせている。
アッハッハッ……君はやっぱり最後まで面白い奴だよ金田一君。サイコーだ。
……でも、もうそれもお終い。
「つまりね、金田一君、この世界で君ができることなんて何一つ無いんだよ。
誰かが君を頼っても、君は期待に応えられない。むしろ、結果を悪くするだけ。
風浦可符香のように死なせてしまうのがオチなのさ。
結局、君はただ、自分の無能を呪いながら、惨めに一人、死んでいくしかないんだ。
……こんな風にね」
誰かが君を頼っても、君は期待に応えられない。むしろ、結果を悪くするだけ。
風浦可符香のように死なせてしまうのがオチなのさ。
結局、君はただ、自分の無能を呪いながら、惨めに一人、死んでいくしかないんだ。
……こんな風にね」
ステッキを突きつけ、僕は引き金を引いた。
……だが、その弾は金田一に当たらない!??
……だが、その弾は金田一に当たらない!??
「そんなことありません!!
金田一君はポロロッカの真理に気づいた立派な男性です!!
それに、金田一君は私が還させません!!」
金田一君はポロロッカの真理に気づいた立派な男性です!!
それに、金田一君は私が還させません!!」
一瞬後、無様に転んでしまった僕は、後ろを振り向いてようやく事態を理解した。
……なんてことだ。
いつのまにか上がってきた血だらけの風浦可符香が、僕の腰に組み付いていた。
……なんてことだ。
いつのまにか上がってきた血だらけの風浦可符香が、僕の腰に組み付いていた。
◆
「ふ、風浦……どうして?」
「金田一君はミリアさんの大事な従者です。こんなところで現実に還ってもらっては困るのです」
「グ……ちくしょう!!この電波女が!!」
「金田一君はミリアさんの大事な従者です。こんなところで現実に還ってもらっては困るのです」
「グ……ちくしょう!!この電波女が!!」
マオは体を捻り、可符香を振りほどこうとするが、
その腕の力は、女のものとは思えないほど強く、いくら暴れても外すことができない。
見れば、可符香の真新しかった制服は血に塗れ、無残な赤に染め上げられている。
その様は、彼女に刻まれた傷の深さと、天国への近さを如実に示すものである。
にもかかわらず、可符香の腕は外れない。
その腕の力は、女のものとは思えないほど強く、いくら暴れても外すことができない。
見れば、可符香の真新しかった制服は血に塗れ、無残な赤に染め上げられている。
その様は、彼女に刻まれた傷の深さと、天国への近さを如実に示すものである。
にもかかわらず、可符香の腕は外れない。
「早く!金田一君!私の乗ってきたエレベーターに乗って逃げてください!」
見れば、エレベーターのドアが開いている。
彼女はこれに乗ってやってきたのだ。
彼女はこれに乗ってやってきたのだ。
風浦可符香がここまで来れた過程は、言ってしまえば奇跡に近い。
金田一の行った第一の作戦――砲弾の爆発――によって意識を取り戻した可符香は、
ミリアの従者である金田一を救わなければという一心で、
エレベーターホールまで這い進み、エレベーターを呼んだ。
彼女が「8階」のボタンを押したのは、もともとこのエレベーターがいた階が8階だったから
そこで誰かが降りたのかもしれないという、理由というにはあまりに薄いものに縋った結果に過ぎない。
さらに言うなら、もし、ボタンを押すタイミングがあと少し早かったなら
その行動は殺人者マオを呼び出し、自らの命を無駄に散らすことになっただろう。
逆に、もし、ボタンを押すタイミングがあと少し遅かったなら
金田一はマオによってあえなく銃殺され、可符香は無残な死体と対面することになったであろう。
爆音、エレベーターの位置、ボタンを押すタイミング。
あまりに狭い偶然の道を通り抜け、しかし、奇跡は確かに起きた。
これはいったい誰の御技か?
あるいはポロロッカへの金田一の祈りが、時空を越え、空間を越え、彼らの星まで聞こえたのかもしれない。
金田一の行った第一の作戦――砲弾の爆発――によって意識を取り戻した可符香は、
ミリアの従者である金田一を救わなければという一心で、
エレベーターホールまで這い進み、エレベーターを呼んだ。
彼女が「8階」のボタンを押したのは、もともとこのエレベーターがいた階が8階だったから
そこで誰かが降りたのかもしれないという、理由というにはあまりに薄いものに縋った結果に過ぎない。
さらに言うなら、もし、ボタンを押すタイミングがあと少し早かったなら
その行動は殺人者マオを呼び出し、自らの命を無駄に散らすことになっただろう。
逆に、もし、ボタンを押すタイミングがあと少し遅かったなら
金田一はマオによってあえなく銃殺され、可符香は無残な死体と対面することになったであろう。
爆音、エレベーターの位置、ボタンを押すタイミング。
あまりに狭い偶然の道を通り抜け、しかし、奇跡は確かに起きた。
これはいったい誰の御技か?
あるいはポロロッカへの金田一の祈りが、時空を越え、空間を越え、彼らの星まで聞こえたのかもしれない。
「逃がさないよ……ここまでやったんだから。
ここで逃がしちゃ、何が何だかわからないだろおっ!!」
ここで逃がしちゃ、何が何だかわからないだろおっ!!」
マオはどうにか右腕の自由を取り戻すと、そのまま懐から鉄扇を取り出し、それで可符香を打ち据える。
「風浦!」
「……私のことは気にしないでください。それよりも早く行ってください。
残念ながら、そんなに長くは持ちません」
「……私のことは気にしないでください。それよりも早く行ってください。
残念ながら、そんなに長くは持ちません」
打撃の痛みを感じないかのように、可符香は悲鳴一つあげず、鉄扇の殴打を受け続ける。
「このォ!!うっとおしいんだよォ!!死ねッ!死ねッ!」
その様子が火に油を注いだのか、マオはより激しく、苛烈に可符香を痛めつける。
マオにとって我慢ならないのは、金田一の処刑を邪魔されたことよりもむしろ、
彼女の心の騒音を間近で聞かなければならないことの方だった。
一度は排除したはずの波動が、彼の頭をギリギリと痛めつける。
その痛みのお返しをするように、鉄の塊が可符香の肉体を叩き、削り取る。
マオにとって我慢ならないのは、金田一の処刑を邪魔されたことよりもむしろ、
彼女の心の騒音を間近で聞かなければならないことの方だった。
一度は排除したはずの波動が、彼の頭をギリギリと痛めつける。
その痛みのお返しをするように、鉄の塊が可符香の肉体を叩き、削り取る。
「さあ、金田一君、……早く」
「けど……けど……このままじゃお前の命が……」
「けど……けど……このままじゃお前の命が……」
金田一は動けない。
マオに打ち砕かれた心が、事態の変化についていけない。
可符香はその様子を見てとると、柔らかく頬を緩ませ、優しく微笑んで――
マオに打ち砕かれた心が、事態の変化についていけない。
可符香はその様子を見てとると、柔らかく頬を緩ませ、優しく微笑んで――
「やだなぁ、私が死ぬなんてそんなことあるわけないじゃないですか。
私は現実に帰って、また普通の学生生活をおくるだけです。
ポロロッカ星に行けないのは残念ですが、まあ、生きてれば、またきっと機会がありますよ。
――だから、金田一君は先に行って待っていてください。
私がそっちに行けるその日まで」
私は現実に帰って、また普通の学生生活をおくるだけです。
ポロロッカ星に行けないのは残念ですが、まあ、生きてれば、またきっと機会がありますよ。
――だから、金田一君は先に行って待っていてください。
私がそっちに行けるその日まで」
金田一には、血に濡れて、眼球が飛び出しかけたその笑顔が、やっぱりさっきと同じ天使に見えた。
◆
「あ"……あ"あ"……」
ディスプレイの数字が減っていく。
エレベーターは、とうとう行ってしまった。
エレベーターは、とうとう行ってしまった。
「よかった……これで一安心です」
可符香が息も絶え絶えに呟く。
その声はいつもと同じ、明るくて伸びやかなモノだった。
その声はいつもと同じ、明るくて伸びやかなモノだった。
「お前……よくもやってくれたな!!よくも僕の邪魔を……
そうだ……そもそも悪いのはお前なんだ。お前が僕の頭を痛くするから……
……許さない、絶対許さないぞォ!!!!」
そうだ……そもそも悪いのはお前なんだ。お前が僕の頭を痛くするから……
……許さない、絶対許さないぞォ!!!!」
グシャ。
マオが怒りと憎悪に任せた一撃を彼女の頭に叩きつけると、そこから湿った音が響いた。
見れば、彼女の側頭部が醜く変形している。
だが……
マオが怒りと憎悪に任せた一撃を彼女の頭に叩きつけると、そこから湿った音が響いた。
見れば、彼女の側頭部が醜く変形している。
だが……
「ああ。あなたもそんなにしてまでポロロッカ星に行きたいのですね。
その気持ち、すごく分かります。
もう少し早くお話できればよかったですね。そうすれば、皆でポロロッカ星に行けることをご説明できたのに。
残念です。
でも、せっかくですから、せめて今からでもお話をしましょう」
「話だと!?ふざけ……!?」
「大丈夫ですよ。お互いの眼を見て話せば、どんな人だって分かり合えるんです」
その気持ち、すごく分かります。
もう少し早くお話できればよかったですね。そうすれば、皆でポロロッカ星に行けることをご説明できたのに。
残念です。
でも、せっかくですから、せめて今からでもお話をしましょう」
「話だと!?ふざけ……!?」
「大丈夫ですよ。お互いの眼を見て話せば、どんな人だって分かり合えるんです」
その達者な口を封じるため、鉄扇を振り上げたマオは、不運なことに彼女の“眼”を見てしまった。
眼は口ほどにモノを言う。
何の能力も持たない音無芽留にさえ多くのことを伝えた彼女の眼は、心を直接知ることのできるマオに一体どれだけのことを伝えたのか。
何の能力も持たない音無芽留にさえ多くのことを伝えた彼女の眼は、心を直接知ることのできるマオに一体どれだけのことを伝えたのか。
「イギャアアアアハアアアアアアハアアアアハアアアアハアアアアアアアアハアアアアアアハ!!!!!!!!!」
【C-3/海岸沿いの高級マンション/1日目-昼】
【金田一一@金田一少年の事件簿】
[状態]:自信崩壊、茫然自失、肩に浅い銃創
[装備]:ドーラの大砲@天空の城ラピュタ、リボルバー・ナックル(右手)@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ6/6)
[道具]:支給品一式、大砲の弾2発、予備カートリッジ数12発
[思考]
1:俺は……何もできない??
【金田一一@金田一少年の事件簿】
[状態]:自信崩壊、茫然自失、肩に浅い銃創
[装備]:ドーラの大砲@天空の城ラピュタ、リボルバー・ナックル(右手)@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ6/6)
[道具]:支給品一式、大砲の弾2発、予備カートリッジ数12発
[思考]
1:俺は……何もできない??
[備考]
※高速道路の入り口は、最低でも1エリアに一つはあると推理しています。
※アイザックの不死については信用していません。もちろん、ポロロッカ星人であるとも思っていません。
※高速道路の入り口は、最低でも1エリアに一つはあると推理しています。
※アイザックの不死については信用していません。もちろん、ポロロッカ星人であるとも思っていません。
【マオ@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:???
[装備]:東風のステッキ(残弾率80%)@カウボーイビバップ、マオのバイザー@コードギアス 反逆のルルーシュ
[道具]:支給品一式×3 オドラデクエンジン@王ドロボウJING、アンディの衣装@カウボーイビバップ
鉄扇子@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-
日出処の戦士の剣@王ドロボウJING
支給アイテム0~1個(マオのヘッドホン、武器以外)
[思考]
1:???
[状態]:???
[装備]:東風のステッキ(残弾率80%)@カウボーイビバップ、マオのバイザー@コードギアス 反逆のルルーシュ
[道具]:支給品一式×3 オドラデクエンジン@王ドロボウJING、アンディの衣装@カウボーイビバップ
鉄扇子@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-
日出処の戦士の剣@王ドロボウJING
支給アイテム0~1個(マオのヘッドホン、武器以外)
[思考]
1:???
[備考]
マオのギアス…周囲の人間の思考を読み取る能力。常に発動していてオフにはできない。
意識を集中すると能力範囲が広がるが、制限により最大で100メートルまでとなっている。
さらに、意識を集中すると頭痛と疲労が起きるため、広範囲での思考読み取りを長時間続けるのは無理。
深層意識の読み取りにも同様の制限がある他、ノイズが混じるために完全には読み取れない。
※また、錯乱などといった思考の暴走には対処しきれない事に気づきました。
※異世界の概念はあまり信じていない様子。
※シータの知りうるラピュタ関連の情報、パズーやドーラの出会いをほぼ完全に知りました。
マオのギアス…周囲の人間の思考を読み取る能力。常に発動していてオフにはできない。
意識を集中すると能力範囲が広がるが、制限により最大で100メートルまでとなっている。
さらに、意識を集中すると頭痛と疲労が起きるため、広範囲での思考読み取りを長時間続けるのは無理。
深層意識の読み取りにも同様の制限がある他、ノイズが混じるために完全には読み取れない。
※また、錯乱などといった思考の暴走には対処しきれない事に気づきました。
※異世界の概念はあまり信じていない様子。
※シータの知りうるラピュタ関連の情報、パズーやドーラの出会いをほぼ完全に知りました。
【風浦可符香@さよなら絶望先生 死亡】
【残り58人】
【残り58人】
[備考]
※C-3海岸沿いの道に以下のアイテムが落ちています
エクスカリバー@Fate/stay night
デイバック×2、支給品一式(食料-[全国駅弁食べ歩きセット][お茶])、支給品一式
ライダーダガー@Fate/stay night、アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-、血塗れの制服(※可符香の物)
※C-3海岸沿いの道に以下のアイテムが落ちています
エクスカリバー@Fate/stay night
デイバック×2、支給品一式(食料-[全国駅弁食べ歩きセット][お茶])、支給品一式
ライダーダガー@Fate/stay night、アンチ・シズマ管@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-、血塗れの制服(※可符香の物)
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Back:嗤う高遠 Next:そして私のおそれはつのる
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109:アイザックとミリアの二人は知らず世界の中心となる(後編) | 金田一一 | 170:さよなら少年探偵 |
109:アイザックとミリアの二人は知らず世界の中心となる(後編) | 風浦可符香 | |
115:ジャミング・ウィズ・エドワード | マオ | 174:Nightmare of Mao |