失ったもの/失いたくないもの  ◆WcYky2B84U



「それで、これからどうする気なのよ?」

つい先ほど、シモンと舞衣が出会った路地から数分歩いた位置にある喫茶店。
その店内に存在する椅子の一つに座りながら、舞衣がシモンに尋ねる。

「決まってる!!仲間を集めて、螺旋王をぶっ倒す!!」

テーブルを挟んで向かい合うようにしながら、答えるシモンの『言葉』は勇ましい。
だが、それは言葉だけだ。
喋っている彼の様子を見れば、大部分の人間はその言葉が信用に足るものではないと感じるだろう。
血走った目。青ざめた顔。絶えず音を鳴らし続ける白い歯。
そのどれもが、彼を『正常』では無いと証明している。

『おれ、こわいんだよ。
 戦わなきゃ、戦いを止めなきゃ、仲間を作らなきゃ…
 あんたを信じなきゃいけないのに、おれ、こわいんだ』

つい先ほど、彼自身が吐いた弱音。
運良く、最初の遭遇者である鴇羽舞衣を仲間にする事が出来た今でも、
シモンの中にある『疑心暗鬼』の黒い種は消え去っていない。
だが、そんな精神状態にあっても少年は、一心不乱に仲間を集めようとする。
『アニキならそうするから』『アニキに近づかなきゃいけないから』…まるで呪いの言葉のように、ただそれだけを唱え続けて。
それほどまでに、『アニキ』という人物が今まで彼に与えてきた影響は大きかったという事か。
先ほどの話を聞くに、今まで『アニキ』から受けた恩恵は、シモンにとっては計り知れない物だったのだろう。
しかし、その偉大な人物亡き今、少年の心は逆にその『アニキ』に縛り付けられてしまっている。
今のシモンは、悪い意味で後先を考えずに暴走している状態だ。
本来ならば、ここで舞衣が彼をなだめて押しとどめるべき立場にいるはずなのだが……。

(……ごめんね……私もさ、どうしていいのか…よく…わからないんだ)

自分が何をすれば、彼の中の黒い種を取り除く事が出来るのか。
冷静にそれを考える余裕は、今の舞衣には存在していなかった。
弟を殺され、弟を殺した自分の妹のように思っていた友人を殺して…
余りにも重過ぎる出来事を体験した舞衣の頭は、まだ薄ぼんやりと霧が掛かっている状態のまま、変わらない。

(何て言えば、シモンを止められるのか…何て言えば、シモンを救えるのかはわからない…でも)

ぐっ、とテーブルの下にある手を握り締める。
せめて、何があってもシモンは守る。今度こそ、守りきる。
もう……二度とあんな想いは味わいたくは無いから。

「……そういえば…舞衣の武器って何なんだ?」
ふとそんな質問をされ、思わず舞衣がシモンの顔を見る。
「武器………?」
自分の持つ特殊能力、エレメントとチャイルドの事はまだ話していなかったはずだが…?
いぶかしげに目を細める舞衣に、今度はシモンが不思議そうな顔をした。
「コレの中に入ってなかったのか?俺のには、とりあえず武器になりそうなのはナイフしか入ってなかったけど…」
ああ、そういうことか。
ディパックを掲げているシモンを見てようやく合点が行く。
「支給された武器、って事ね……」
ふぅ、と思わずため息を付く。
つい先ほどまで茫然自失状態だった故に、支給品確認までは気が回っていなかった。
「ちょっと待って、今確認するから」
そういいながら自分のディパックを手元に引き寄せ、中を覗き込む。
コンパスや筆記用具にメモ用紙、ランタン、時計、水……大雑把に詰められているアイテムの中に、ふと奇妙な物を発見する。
「指輪…………?」
ディパックからその指輪をとりだししげしげと眺めてみるが、特に変わった点は見られない。
「もしかしてそれ、武器、とか……?」
「まさか……」
シモンにそう返事しながらも、なんとなく指に嵌めてみる。
そのまましばらく待ってみたが、特に何かが起きる気配は無い。
「どうみてもただの指輪ね……何でこんな物が支給されるんだか」
理解しかねる支給品に少し頭痛を感じ、思わず頭を抑えた。
指輪を外すのも億劫なので、気を取り直してそのまま再度物色を行う。
次に舞衣の目に入った奇妙なアイテムは……
「………ビニール袋?」
「は?」
「あ、待って。何か入ってる……」
ビニール袋ごと「何か」を取り出し、掲げ上げて中身を見てみる。
中に入っていたのは、木の枝とそれになっている幾つかの実。一瞬食料かとも思ったが、それにしては量が少なすぎると思い直す。
それにしてもこれ、どこかで見たような………?
「舞衣、今それを出したときにこれが零れ落ちたんだけど」
「え?」
声を聞きシモンの方を見ると、その手に握られているのは白い紙。
二つ折りされているそれを受け取り、中身を確認すると……?


『マタタビ:猫にマタタビ!これでシビアなアイツもイチコロだ☆』


思わず脱力し、顔面からテーブルに突っ込んだ。
「ま、舞衣!?どうした!?」
「あー……大丈夫よ……ちょっと主催者に対する疑問が湧いただけだから……はぁ…」
まさかこの殺し合いに自分に支給されたのが指輪にマタタビとは……。
螺旋王とやらは、自分に殺し合いをさせる気が本当にあるのか?
それにしてもマタタビね…そういえば昔、テレビの動物番組か何かで見たような記憶が……。
「け、結局それ……なんだったんだ?」
「あぁ、マタタビよマタタビ…参加者に猫でもいれば武器としても使えるだろうけどね…」
テーブルに突っ伏したまま、投げやりにシモンの質問に答える。
「マタ……タビ?マタタビって……何だ?」
「知らないの?よく言うじゃない、猫にマタタビって」
予想外の言葉に思わず顔を上げ、シモンの顔を見つめる舞衣。
まさかこのご時世にマタタビを知らない人間に出会うとは…。
舞衣の例えを聞いても、シモンは相変わらず顔をしかめて考えているままだ。
「結局、その…それ、食えるの?」
「ん?まぁ、食べられないって事は無いわ」
ふと、『マタタビ』なる名前の語源と言われる昔話を思い出す。
あの話が真実だとするならば、食べる事によるメリットはあれどデメリットは無いはずだ。
「むしろ体にいいかもね……精力とか付きそうだし」
「せいりょく?」
「あんた、精力ってのもわかんないわけ?精力って言うのは……」
ポカンとした表情のシモンに言葉の意味を解説しようとした舞衣の体が固まる。
『精力』……その言葉からまず最初に連想されたのは……まぁ……何というか……
花も恥らう年頃の乙女がそう簡単に口にしていい事では無いというか……
実際に日常生活でも使用される言葉であるし、今自分が考えている事の方がイレギュラーなのだろうが…
パッと思いついた物はそう簡単に頭から離れない訳で……
しかしこのまま意味を解説しないでいるというのも…目の前で不思議そうな顔をしている少年を見ていると無理そうで…
突然の極限状態の中で、舞衣は………………


「つ、つまりはその……気合いよ。気合い」


適当に思いついた近い意味の言葉を代用し、言葉を濁した。
間違いは言っていないはずだ…………多分。
「気合い………?」
鸚鵡返しに、シモンが呟く。
「そう、気合い……といっても、流石に申し訳程度だとは思うけどね…ハズレよ、これも」
このままこの話題を終わらせようと、マタタビをディパックの中に仕舞おうとする舞衣だったが………

「待ってくれ!」

その手を、シモンの悲痛な叫びが止めた。
「………どうしたの?」
思わず、シモンの顔を見る。呆然としてしまう程に、シモンの叫びには悲哀が満ちていた。
バッと、シモンが自分の手を舞衣に差し出す。
「た、頼む!!それ、俺にくれないか!?」
そう舞衣に懇願する少年の顔は、ただ事では無い。
息を荒くし、目を見開きながら必死の形相で舞衣に詰め寄ってくる。
「べ、別に構わないけど……」
シモンの様子に少し引きながらも、舞衣は彼にマタタビを渡した。
「あ、ありがとう……!」
手の上にマタタビが乗るや否や、それを握り締め、自分の胸元へ持っていく。
まるで、無くした自分の大切な宝物を、それで代用しているかのように。

「シモン………?」
「……昔……昔さ…村から飛び出して……アニキ達と一緒に旅していた時……」

ポツリ、ポツリとシモンが呟き始める。

「一回…腹が減りすぎて、気合いも何も入らなくなった時が合ったんだ……」

誰に聞かれたでもなく。誰に聞かせるでもなく。

「でも、その時は……ブータが、自分の尻尾を俺達にくれて…それを食べた事で気合いが入って…それで、敵も倒せて…」

舞衣からしてみれば、よくわからない固有名詞が含まれる言葉で。

「ア、アニキはいっつも言ってた……気合いだって…気合いがあれば、大抵のことは何とかなるって、笑ってた……」

…………ああ、そうか。

「だ、だから……だから、俺も何かあった時は…コレを食べて、気合いを入れて…そ、そうすればきっとアニキみたいに…!!」

シモンは、言い聞かせているのだ。舞衣にではなく、他でもない自分自身に。

「そうだ……コレがあれば俺もアニキに近づけるんだ……!!」

舞衣は、黙ってシモンを見つめる。
いつまでも、いなくなった人間を求める浅ましい姿。
不安で、怖くて仕方なくて……そして、その『代わり』を別のものに求める、哀れな姿。
そして、そのネガティブで醜い姿が、舞衣の中の何かに引っかかる。


―――――なんにもない、なんにも、ないよ。
―――――信じてもいいよ、あたしのこと。


「…………っ…」
なんだ。わかってみれば、簡単な事だ。

自分も、この少年と何ら変わらない存在じゃないか。

いなくなった弟の事を、忘れられなくて、追い求めて。
こんな場所で偶然出会った少年に、弟の姿を勝手に重ね合わせて。

「………私……もね……」
「え……?」
舞衣の呟きに、今度はシモンが反応する。

「……弟がさ、一人………いるんだ………」

―――――お姉ちゃん。

「昔から、病弱でね………だから……私が頑張って守ってあげなきゃって思って……」

―――――いつもごめんね、お姉ちゃん。

「いつも……あの子のために働いて……それで、不安にならないようにって、笑顔でいて……でも、それはさ…」

―――――お姉ちゃんが、重いんだ。

「あの子にとって、全然良い事じゃなくて……逆に……重荷になって……」

森の中。戦っている二つの影。見知った顔。緑色の炎。消えていくチャイルド。光。緑色の光。忌まわしい記憶。

「それで……その後……巧海は………」

――――お姉、ちゃん……
――――嘘……!駄目だよ、こんなの………!!
――――ごめんね……ありが……とう……
――――っ……あ……あ……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

「巧海………は…………」

――――命………どうして……巧海を……?
――――巧海………が……どうしたんだ……?







『アンタが殺ったんじゃない!!アンタが!!!巧海を……!!!カグツチィィィィィィィィィィィィ!!!!』







「…………ごめんね……これ以上は……言えない、みたい……」



気まずい沈黙が、喫茶店内を支配する。
俯いたまま、何も喋らない舞衣。
その舞衣を見てもどうしていいのかがわからず、ただ手の中のマタタビを弄ぶシモン。

先に口を開いたのは、舞衣の方だった。
それは恐らく、逃避からだろう。
これ以上黙っていると、あの忌まわしい記憶が次々に蘇ってきそうだったから。

「……私のほうの支給品は、今の二つでおしまいね」

何度目かのため息を付きながら、事も無げにそう言う。
元より、HIMEの能力を持っている自分に取っては武器など無用の長物だ。
特に重要な事では無いと自分の中で結論付けた舞衣だったが……その事実を知らないシモンに取ってはそうも行かなかった。
「舞衣には武器……無い、のか?」
唖然としながら呟いたかと思うと。
「じゃ、じゃあ!!俺の武器、変わりに使っていいから!!」
なんと、自分の持っているナイフを舞衣に差し出したのだ。
「え……でも、あんたさっき持ってる武器はそれだけだって…」
「い、いいんだよ!俺は、その、そこら辺で適当なのを調達すれば…だから、舞衣は丸腰じゃ……!!」
遠慮している舞衣を物ともせず、半ば強引に自分のナイフを受け渡そうとするシモン。
一体、何をこんなに焦っているのだろう?そこまでしてくれなくてもいいのに。
そこまで大事にして貰うほど、自分は―――――。


「……別に……いいわよ、そんなの。私なんて……いつ殺されても、構わないんだから」


そう。そうなのだ。
自分にはもう、生にしがみ付くだけの気力など残っていない。
希望も、願いも、理由も、悲しみも…絶望すら、最早感じているのかどうかさえわからない。
胸の中にあるのはたった一つ、消えかけの蝋燭のような弱弱しい炎…目の前の少年、シモンを守りたいという想いだけ。
しかし、その炎は決して舞衣に希望を与えない。
今の彼女にとって、『誰かを守りたい』という事は、『誰かが無事ならば、自分はどうなっても構わない』という事と同意なのだから。
自己犠牲……エゴに満ちた贖罪とも言い換えられるその炎は、辺りを照らすことなくチリチリと舞衣の体を焼いていく。
まさしく、蝋燭の最後の灯火のように炎は更に燃え上がる。輝きを増しながら。さらに舞衣を傷つけらながら。
だが………………

突如、テーブルが音を立てて揺れる。





「ふざけんなッッッッッッッ!!!!!」





目の前にあるのは、今までに無い強い表情をしたシモンの顔。
「え………?」
何が起きたのか、頭の理解が追いつかない。

「そんな……そんなふざけた事言うなッ!!」

シモンの怒号と共に、自分の体が強く引っ張られるのを感じた時、
ようやく『シモンが怒りでテーブルに拳を叩き付けた後に、舞衣の襟元を掴んだ』という事実に気づく。
だが、今の自分の言葉の何がシモンの逆鱗に触れたのか…それはまだ舞衣にはわからなかった。

「いつ殺されても構わないとか、死んでもいいとか、そんな事は絶対許さねぇ!!」

キッと舞衣を間近で睨み付けながら、シモンの叫びは続く。


「俺はもう、仲間が死ぬのなんて見たくないんだッ!!」


その顔のほとんどは、先ほどまでの病的な様子のシモンから変わらない。
しかし、今の少年の目の奥からは……先ほどとは明らかに違う、強い輝きが見えた。
今にも暴走しそうな危うい力が多分に含まれていながらも、それでも尚その光は強い。

荒い息を付きながら舞衣を見据えるシモンの手は、未だに彼女を離そうとはしない。
そのまま、しばらくの時間が流れる。
数秒だったか、数十秒だったか、数分だったか……それを正確に認識できる余裕は、今の彼らには無かった。
沈黙を破ったのは、またしても舞衣の方。

「………手…離して…苦しいからさ…」

ようやくそれだけ言葉を搾り出す。
それを聞いた瞬間、彼はハッとしたように舞衣を掴んでいた手を離した。
「あ、その……ゴメン……」
頭に上っていた血が下がり冷静になったシモンが、バツが悪そうに舞衣に謝る。
その目からは、もうあの輝きは消えうせていた。
「………………」
シモンには何も答えず、ただつい先ほどまで掴まれていた首元をさする。
彼女の脳裏にあるのは、今のシモンの言葉。
(………死ぬのは……見たくない、か……)
譲れない強い気持ちが込められた叫びを聞いた時……炎が、少しだけ揺らめいた。
所詮、自分がしたい事は自分が救われたいが為のエゴにすぎない。
だが、どうせ同じエゴなら……せめて、少年が望む道を選んでみるべきか。


――――今の言葉は、シモンが自分のした事を知らないから言えた事だ。結局は、ただ死ぬのが怖いだけ。


心の中のどこかで、そんな声が聞こえる。
ああ、それも恐らくは真なのだろう。そして、舞衣はその事実を話す気にはなれない。
けど………もう、それでいいじゃないか。もう……それで。
投げやりのまま、乱暴にそう決め付ける。どうせ、今の自分には物事をまともに考える事など出来ないのだから。

だから、舞衣はシモンにこう言った。

「…わかったわ。私も、もう自分の命は捨てないようにする」
それでも………もし、誰かの命と自分の命のどちらかを選ぶならば、その時は……誰かの命を救う。

心の中で、そう一言だけ付け加えて。



それから、舞衣は自分のHIMEの能力……すなわち、エレメントとチャイルドについてをシモンに説明した。
あまりにも突飛な内容に、流石のシモンも最初は不審そうな顔をしていたが、
実際に目の前でエレメントの生成を行い、軽い火炎放射や飛行をして見せたところ、驚きながらも納得してくれた。
シモンに話した内容は、以下の通り。

  • 自分のエレメントが出来る攻撃は、火炎放射による物のみ。
  • また、腕を交差する事によりバリアーを作り出し、大抵の攻撃は防げる。ただし、守れるのは自分ひとりだけ。
  • エレメントの効果で空を飛ぶことは出来るが、誰かを抱えたまま長時間飛行するのは難しい。よって移動には適さない。

チャイルドについては流石にこの場で呼び出す事はしなかったが、
とりあえず、『巨大な怪物を呼び出して攻撃させる』とだけ説明しておいた。
それを聞いたときシモンは『舞衣もガンメンを持ってるのか?』と言っていたが、
『ガンメン』なる物の意味を掴みかねた舞衣が逆に尋ねると、『じゃあ、別の物なのか…?』と言ったきり、黙り込んでしまった。


そして説明を終え、エレメントを消滅させた舞衣は、自分のディパックをテーブルの上に置きある物を探していた。


「仲間を集める、って言ってたわよね」
そういいながら、舞衣が自分のディパックから目的の物をを取り出す。
「あ、ああ……その…それ、何?俺のにも入ってたけど……」
舞衣が取り出したものを指差しながら、シモンが問う。
「見てのとおり、参加者名簿じゃない。もしかしたら、私の知り合いとかもいるかも知れないから…」
頭の中に、最初の犠牲者となった奇妙な鎧の男が浮かぶ。
あの男は、あの場にいた誰かと顔見知りのようだった。
ならば、自分の友人達も誰かがこの場にいるのでは……という簡単な推理である。
手早く、名簿の中に目を通す。
見知った名前は三つ。

すなわち……玖我なつき、結城奈緒、そして藤乃静留の三人である。

最後の人物の名前を見た瞬間、舞衣の表情に疑問が浮かんだ。
(どうして、会長さんが……?玖我さんに結城さんや私はHIMEだから呼ばれたとしても、会長さんには何も…?)
まさか、彼女もHIMEだと言う事か?…よく考えてみれば、その可能性は十分か。
「ま、舞衣…その……」
シモンが遠慮がちに舞衣に声を掛ける。
それを催促だと解釈した舞衣は考察を止め、名簿の中の名前を読み上げた。
「とりあえず、私の知り合いは三人いたわ。玖我なつきさんと、藤乃静留さんと、結城奈緒さん。
 最初の二人は仲間になってくれそうだけど、最後の一人は……あまり期待しない方がいいかもね」
言いながら、最後に見た結城奈緒の姿を思い浮かべる。

些細なトラブルから、片目を負傷したその姿。
……少なくとも、あのまま誰かと手を組めるほどの余裕は無かったはずだ。
「とりあえず、玖我さんと結城さんは私と同じ力が合って…この二人が出すのはそれぞれ銃と爪だけど…、
 武器が無くても、十分に戦える人たち。それから、最後の藤乃さんももしかしたら同じ力を…」
「い、いやそうじゃなくて!!」
突然自分の台詞を中断され、舞衣がキョトンとした様子でシモンを見つめる。
「……どうしたの?」

「いや、その……俺、文字が読めないから……これに何て書いてあるのかわかんないんだ…」

そう言いながら自分の名簿を掲げてみせるシモンに、少なからず舞衣は唖然とした。
(文字が読めないって……小学校も出てないの?)
「そ、その……俺の仲間…大グレン団の誰かもここにいるかもしれないし…でも俺これ読めないし…どうすればいいんだか…」
滑稽なほどにうろたえているシモンを見ながら、恐らく今までで一番大きなため息を付く。
「……わかったわ。じゃあ、とりあえず思いつくだけ知ってる人の名前を言ってみて。私がその人たちがいるかどうか探すから」
「あ、ああ……えっと…まず男が……ギミーに、ロシウに、キタン…それにえっと…リーロン…も男だよな…?それから他には…」



結局、シモンが一通りの名前を言い終わるのには十数分程の時間が掛かった。
「……これで、全部のはず……多分……」
流石に数十人はいる大グレン団全員の名前がわかる訳では無いが、とりあえず主要のメンバーは一通り告げたはずだ。
少し痛くなった喉を押さえながら、シモンはそう考える。
「……その、それだけ苦労させておいて言うのもなんだけど、シモンが言った名前のほとんどはここにはいないわ」
それを聞いた瞬間、シモンの心に安堵とも絶望とも取れない感情が浮かび上がる。
こんな殺し合いに巻き込まれた仲間がいないという安心と、こんな場所に仲間がいないという絶望。
だが、次に舞衣の放った言葉を聞いた瞬間…………

「ただ、二人だけ……ニアって娘とヨーコって人は、この殺し合いに参加してるみたい」


絶望が、心の中の全てを覆った。


「ニ……ア……?ニアだっ……て………!?」
ニアが。自分があそこで偶然出会った、あの少女が。自分に優しく話しかけてくれた、あの少女が。
この殺し合いの中に………イル?

「何で……何でニアがここにいるんだよ!?」
思わず、両手を目の前のテーブルに叩き付けた。
どうしてだ?何故?だって、ニアは……あの男の………!!
「と、突然、どうしたの……?このニアって娘が、何か………?」
「………ニアは……螺旋王の実の娘だ………」
「娘……娘って……主催者の子供って事………!?」
自分の子供を、この殺し合いの中に放り込む?
螺旋王の常軌を逸した行いが信じられず、思わず呆然と舞衣が呟く。
「……そうだ……早く、早くニアを助けないと……」
そんな様子の舞衣を尻目に、シモンが自分のディパックの中を漁る。
その頭の中では、自身が考えうる最悪の想像が何度もリピートされていた。

ニアが………殺される。死ぬ。
アニキのように。また、自分がグズグズしているせいで、また。
ニアガ、シヌ?

「どこだよ……どこにいるんだよニアは……!?」
乱暴にディパックの中にある地図を引っ張り出し、テーブルの上に広げる。
その上をシモンの視線が目まぐるしく動き回るが、かといってそれで目当ての人物がどこにいるかわかる訳でも無く。
「舞衣!!これ、この地図に何が書いてあるんだ!?ニアの場所とか、載ってないのか!?」
地図の上に書かれた文字列を指差しながら、苛立ったままシモンが舞衣に叫ぶ。
言っている内容が支離滅裂な事にすら、今の彼は気づけない。

「え……い、いくらなんでもそんなのは載ってないわ。ただ、幾つか地名が書かれてるだけで……
 ホテルとか、豪華客船とか…灯台とか……」
舞衣が例として読み上げた地名の一つを聴いた瞬間、シモンの頭に何かが引っかかった。
「ごうかきゃくせん……?」
「簡単に言えば大きな船よ…数千人単位で人が乗れるような豪華な…タイタニック何かが私は思い浮かぶけど」
大きな、巨大な船。その単語が、シモンの記憶の中のある物と結びつき……はじけた。

「………それだ……もしかしたら、そこにニアがいるかも!!」
「は、はぁ?何で、そこにその子がいるなんて事が……?」
突然シモンが導き出した結論に、舞衣が疑問の声を上げる。
「俺達大グレン団が暮らしてる本拠地、ダイグレンもでっかい戦艦だ!!
 同じでかい船なら、ニアもそこを目指すかもしれない!!」
シモンの考察は完全にインスピレーションによるもので、根拠など何も無い。
だが、舞衣はそんな事よりも……シモンが言った、別の言葉が気になっていた。


「戦艦、ですって………?」


戦艦で暮らしている。確かに、今シモンはそう言った。
シモンが、最初にあった時から度々口にしていた単語……『大グレン団』。
その大グレン団なる組織の本拠地が、巨大戦艦?
シモンは、『アニキ』を螺旋王に殺されたという。
そして、その『アニキ』が生前に結成していたのが、他でも無い大グレン団で。
つまり、大グレン団という組織の正体とは…………
(螺旋『王』を倒す為に、行動している……ゲリラ組織のような物…!?)
まさか、こんな年端もいかない少年が、そんな組織に属しているというのか?
だが……もしそうだとするのならば、納得できる部分もある。
まず、シモンが余りにも当たり前の知識を知らなすぎる事。
つまりこれは、彼がそういった教育も受けられないような環境、
例えば……独裁者とそれに抗う民衆との争いが絶えないような貧しい内紛地域で生まれ育ったような………

(何を考えてるのよ私は…幾らなんでも、突拍子が無さ過ぎるわ)

思わず頭を抑え、荒唐無稽な考えを追い出そうと深呼吸する。
「そうだ、『豪華客船』だ……!早く行かないと、ニアが……!!」
そんな舞衣を尻目に、慌ててナイフを手に持ち、散乱している小物を自分のディパックに詰め込んで出発の準備をしているシモン。
だが、焦りで震える手は正確な作業を阻害し、手に持っていたディパックが軽いはずみで地面に落とされてしまう。


軽いディパックが落ちただけとは思えないような、激しい落下音が響き渡る。
そして、その拍子にディパックから零れ落ちたあるアイテムを見たとき………再び、舞衣の頭は混乱した。

「何よ……これ……」
思わず、そのアイテムを起こそうとそばに近寄る。
「ま、舞衣?それが何だか知ってるのか!?」
シモンにとっては、よくわからない存在だったらしいそれは…舞衣にとって…
いや、自分の知っている限りでは知らない人間はいないようなポピュラーなアイテムであるそれは………


「知ってるも何も……これ……バイクじゃない……!」


大人一人、いや、二人までなら乗せられるような、背もたれの存在する特徴的なバイク。
どう考えても、人が背負えるようなディパックに入る代物では無い。
だが……それでも確かに、このバイクは『今まさに舞衣の目の前でディパックから零れ落ちた』のだ。

「バイク?バイクって……」
「乗り物よ……それぐらいは、わかるでしょ…」
シモンの質問に機械的に答えながらも、舞衣の頭はまだ混乱から回復してはいない。
異常だ。何かが、異常だ。どこかがおかしい。
突然の殺し合い。そこで出会った奇妙な少年。そして、明らかに異常な特性を持つディパック。
わからない。何一つわからない。
「乗り物……つまり、これもガンメンか!!だったら、これに乗ってニアを……!」
今のシモンには、舞衣の混乱を察して行動する事など出来ない。
ただ、目の前に現れた、つい先ほどまでただのゴミだと思っていたそれに取り付き、どうにか動かそうと弄繰り回す。

(………違う……内紛地域とか、そんなレベルの話じゃない……)
必死でバイクのあちこちを調べ、動かし方を模索しているシモンを見ながらボンヤリとした頭で考える。
シモンの動きは、完全に『バイク』という物体を知らず、あたかも初めてそれに触れるような雰囲気が感じられた。
まるで、自分達とは違う文化……それどころか、自分達とは全く違う『場所』から来たような………?

「クソッ!!どうやったら動くんだよ!?」
苛立ったシモンの叫び。それを聞いた瞬間、ハッとした。
そうだ、少なくとも今は……そんな事を考えている場合じゃない。
シモンが『どこから来た』のであれ、今彼が感じている焦燥と恐怖は本物なのだ。
ならば、自分のすべき事は一つ。


「貸して。私も、バイクの運転なんかした事無いけど…少なくとも、アンタよりは動かせるわ」

目の前の少年を………シモンを、助ける事だ。



「……よし、エンジンはかかった」
喫茶店前の道路、そこでシモンと共にバイクに跨りながら、舞衣が呟く。
最初から刺さったままだったエンジンキーは問題なく回り、ご丁寧な事にガソリンも満タンの状態だ。
ついさっき見た地図を思い出しながら、豪華客船への道を考える。
「豪華客船に行く道は、二つあるわ。博物館前からモノレールに乗るルートと、このまま直に豪華客船に向かうルート」
前を見たまま、自分の後ろで背もたれに掴まって座っているシモンに話しかける。
「も、ものれーる?」
「モノレールの方を選んだら、豪華客船までは早く着くけど、途中でニアって子に会える可能性は限りなく低い。
 直で行く方を選ぶのなら、目的地までは時間が掛かっても、もしかしたら途中でその子に会えるかもしれない」
詳しい施設の説明は省き、要点だけを素早く説明する。
「え、えーと……」
「今すぐ考えなくてもいいけど、このまま映画館に着くまでには決めておいて」
「わ、わかった!」
答える声には若干の不安が感じられるけれども、それでも理解はしていると判断した。
「それじゃあ……行くわよ……」
発進の合図を口で出した後で、ゆっくりとアクセルを入れる。
見よう見まねで騙し騙しの、非常に危うい発進方法だ。もしもバイク運転の心得がある人物が見たら、血相を変えて止めるだろう。
(そういえば、玖我さんってバイクの運転出来るんだっけ……)
この会場のどこかにいるであろう、自分の友人の顔をふと思い浮かべた。
今のシモンほど彼女達を心配している訳では無いが、それでも合流できるのならば早いに越した事は無い。
(どこかで、会えればいいけど……)
そして仲間を求める二人を乗せて……バイクは、勢いよく走り出す。





【B-5 道路上・交差点付近 一日目 黎明】
【鴇羽舞衣@舞-HiME】
[状態]:精神的消耗(先ほどよりは軽くなっている)、ずぶ濡れ、若干の混乱
[装備]:クラールヴィント@リリカルなのはStrikerS、ポスティーノのバイク@王ドロボウJING(運転中)
[道具]:デイバッグ、支給品一式
[思考]
 基本:シモンを手伝う
 1:シモンが決めたルートの通りに、豪華客船へ向かいニアを探す。
 2:玖我なつき、結城奈緒、藤乃静留に会えたら仲間になってもらうよう交渉する。ただし奈緒は警戒。
 3:とりあえず、生きる決心は付いた。だが、もし自分の命で誰かが助かるのであれば、その時は……。
 4:シモンって…一体、何者?

[備考]
※「巧海を生き返す」ためゲームに乗るという手には、まだ思考が及んでいません。
※カグツチが出せないことに気づいていません。また、エレメントに制限が掛かっている事にも気づいていません。
※クラールヴィントの正体に気づいておらず、ただの指輪だと思っています。HIMEの能力と魔力に近い物があるかどうかは不明。
※参戦時期の影響で、静留がHIMEである事は知りませんでしたが、ゲームに呼ばれている事から「もしかしたら…」と思っています。
※シモンが別の世界からやって来たのではないかと考えていますが、荒唐無稽な考えだとも思っています。
※バイクは2~30km程のスピードで走っています。



(ニア…………!!)
捜し求める少女の名を心の中で叫びながら、シモンは自分の胸元に手を当てる。
そこにはもう、故郷の土の中で見つけた、自分の大切なお守りは存在しない。
それでもシモンは、そこに何かがあるかのように、強く強くその場所を握り締めた。
(俺が、俺がニアを助けてやらなきゃ……!!今度は、俺がアニキにならなきゃ……!!)
たとえここに、今までずっと持っていた大切な物が無くても……
自分と、旅立つきっかけをくれたあのガンメンとの絆が無くても……
自分で、強くならなくてはいけないのだ。
(大丈夫、大丈夫だ……コイツもあるんだから……!)
ポケットの中に仕舞いこんだ、『マタタビ』なる実の事を思い浮かべる。
きっと、これを食べればあの時のように……アニキと一緒だった時のように……!

少年の言葉は、どこまでも勇ましい。だが、その心は未だに闇に包まれたまま。
それを払うであろう光……かの少女の姿は、まだ少年には見えていなかった。





【シモン@天元突破グレンラガン】
[状態]:健康、疑心暗鬼気味、焦り
[装備]:フィーロのナイフ@BACCANO バッカーノ!、マタタビ@サイボーグクロちゃん(?)
[道具]:デイバッグ、支給品一式、ランダム支給品0~1個(本人確認済み・武器以外ないし、シモンの理解できない物)
[思考]
 基本:兄貴のように大グレン団を結成し、螺旋王を倒す
 1:モノレールルートで豪華客船に向かうか、直行ルートで行くかを決める。
 2:豪華客船へ向かい、ニアを探す。ヨーコの事も少し気になる。
 3:仲間を集めたいが、やはり疑心暗鬼が抜けない。
 4:俺の、コアドリル………。

[備考]
※かなり疑心暗鬼気味ですが、舞衣はある程度信用したようです。
※文字が読めないため、名簿や地図の確認は不可能だと思われます。
※カミナ、及びヴィラルが参加している事に気づいていません。
 (死んでいるカミナの名と、敵であるヴィラルの名は舞衣に伝えなかったため)
※コアドリルが無いことに気づいていますが、今はそれどころでは無いと誤魔化しています。



【アイテム補足】
【クラールヴィント@リリカルなのはStrikerS】
ヴォルケンリッターが一人、湖の騎士シャマルの使用するアームドデバイス。別名「風のリング」。
攻撃能力は無いに等しいが、治療や通信、更に転送等の支援用途で本領を発揮する。
当たり前の事だが、魔力の無い人間には使用できない。

【ポスティーノのバイク@王ドロボウJING】
さすらいの謎の郵便屋、ポスティーノが愛用している緑色のバイク。
郵便物を入れるためだと思われる鞄が後輪の両サイドについているが、既に中身は没収されている。
ごく普通のバイクであり、他に特筆すべき点はないと思われる。

【マタタビ@サイボーグクロちゃん(?)】
何の変哲も無い、ごく普通のマタタビです。
疲れた旅人がこれを食べた所、元気が出てまた旅が出来るようになった…という逸話は有名ですね。
この逸話の通り、食べればちょっとは元気が出るかもしれません。
ちなみに、私達の良く知っているキウイフルーツもマタタビ科の植物なんですよ?
以上、CV遠藤綾でお送りいたしました♪


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025:光を求めて影は シモン 088:阿修羅姫(前編)
025:光を求めて影は 鴇羽舞衣 088:阿修羅姫(前編)





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