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「俺にはさっぱりわからねえ!(後編)」(2023/05/14 (日) 14:45:49) の最新版変更点
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**俺にはさっぱりわからねえ!(後編) ◆j3Nf.sG1lk
「あー、ちょっと待て、
ワリィが、さっぱりわからねえ!」
そう言ったのはカミナだった。
ニアから齎された話、そして放送、それらを吟味した結果、出てきた言葉がそれである。
まずは現在の状況を説明しよう。
ブリを追って海へと飛び込んだガッシュが禁止エリアに突入すると言うクロスミラージュの言葉に驚かされ、即座に追いかけようとしたのだが、
その直後、目覚めたニアが放った『シモンのアニキさん』発言と放送(チミルフの参加)という二つの衝撃により、
一瞬とはいえガッシュの事をカミナは頭の中から霧散させてしまったのだ。
だが当然、そのまま動乱に流されるまま混乱しているわけには行かない。
カミナはとりあえず、混乱する思考に靄を掛け見ないようにし、ガッシュを追う事を決める。
ニアを立ち上がらせようと伸ばしっぱなしになっていた右手で、呆然としていたニアの手を拾い上げるように掴み、そのまま強引に立たせる。
そして、「とりあえず話は後だ!」の一言で二人そろって走り始めたのだ。
勿論、走っている間に難しい話を抜きにした自己紹介程度の情報交換はできる。
ニアは走りながら必死に自分の事を話した。
自分の事、シモンの事、シモンが語ってくれたカミナのこと、そして、大グレン団の事。
それら全ては確かにカミナの知ってる大グレン団であり、シモンそのものの話だった。
ただ一点、自分が既に死んでいるということを聞かされるまでは……。
「なぜです?私は私の知っている事を……」
不意に立ち止まったカミナに合わせてニアも立ち止まり、考えるように俯いているカミナに向かってニアは言った。
「テメェが嘘を付いてねぇってのは何となくだがわかる。
お前が語ったシモンはまさしく俺の知ってるシモンだし、大グレン団についてもおかしな点はねぇ。
ヨーコ、リーロン、ロシウ、キタン、ダヤッカ……、確かにそいつ等は俺の知ってる奴等と一緒だよ。
だがな、そこに俺がいねぇってのはどういうことなんだ?
テメェの話で言えば、俺様が既に死んでる事になる、チミルフを倒してな。
コイツは一体なんだ?わけがわからねぇ」
「ですから、私がシモンに助けられたとき、アニキさんは既にお亡くなりになって……」
「それがわからねぇって言ってんだよ!」
カミナの声は咆哮のように響き渡り、辺りを震えさせた。
それは、目の前に居るニア、そして黙って話を聞いていたクロスミラージュも、一瞬とはいえ思考を停止させるほど大きな声だった。
ちなみに、既にこの時点でカミナの頭の中から完全にガッシュの事は消えている。
つまり、それだけカミナにとってショックな話なのである。
まぁ、それも当然の事だろう。
目の前の少女の話では既に自分が死んでいる事になるのだ。
それを、「はい、そうですか」と受け止められる人間など居やしない。
カミナは怒りを覚えているのだ、この理解不能なことを言う少女に対して……。
◆ ◆ ◆
一度ニアの話とカミナの記憶について整理をしよう。
カミナの前に居る少女、名前はニア。
大グレン団の調理主任という立場にして、螺旋王の娘。
自我が芽生えたからという理由のみで螺旋王から捨てられたニアは、偶然にもシモンに発見され、命を救われる。
外の世界を知らなかったニアは、そこで始めて人間を知り、人間を弾圧しようとする自分の父、螺旋王の行いを知った。
螺旋王のやる事に賛同できなかったニアは、螺旋王にその真意を問う為に、大グレン団に参加する。
とまぁ、ここまでは、あくまでニアが語るこれまでの経緯である。
それは確かにニアの記憶であり、この記憶に間違いなんて一つもない。
『ニアを知る』大グレン団の面々に確認をとっても、全員が全員、ニアの話を真実だと言うだろう。
そこにカミナという人間が居なければだが……。
そう、問題はやはり、ニアの前に居る男、カミナがその記憶の欠片すらも共有しては居ないという事なのだ。
カミナは知らない。
シモンが助けたというニアという少女の事を。
カミナは知らない。
チミルフ以外の四天王の事を。
カミナは知らない。
ダイグレンと呼ばれる巨大地上戦艦型ガンメンを大グレン団の母艦にしている事を。
それがチミルフの操ったダイガンザンであるという事を。
カミナは知らない。
そのダイガンザンを手に入れるために自分が死んだという事を……。
つまりは、ニアの語る全てはカミナという男が死んだ後の話なのだ。
ゆえに、二人の間に埋めようのない決定的な矛盾が生じているのである。
◆ ◆ ◆
「俺が死んでるように見えるってのか!?
ふざけんなよ!テメェ!
俺はまだ死んでもいねぇし、これから先も死ぬ気はねぇ!
ついでに言えば、チミルフを倒すのはこれからだ!
俺もアイツもまだ死んじゃいねぇんだよ!!!」
体がわなわなと震え、ニアを鋭い眼差し睨むカミナ。
一気に言い放ったせいか、多少息が荒くなっている。
カミナの記憶では、シモンのラガンを使い、チミルフのダイガンザンを乗っ取る計画、それを、ほんの数十時間前に立てたばかりなのである。
それがどういうわけか、この馬鹿げた殺し合いに無理やり呼ばれたお陰で全て狂ってしまった。
本当なら今頃、そのチミルフと決着をつけ、大グレン団の旗をダイガンザンに突き刺していてもおかしくはないというのに……。
つまり、カミナにとってチミルフとの決戦はあくまで『これから』の事なのである。
カミナは認めない。
認められるはずもない。
自分が死んだなどというふざけた話など信じられるはずがないのだ。
「螺旋王の言葉を信じるなんざ本当は胸糞ワリィ事だが、現にヤツが言ったじゃねぇか! チミルフをこの殺し合いに参加させるってな!
テメェは言ったよな、俺はチミルフを倒して死んだって、シモンからそう聞いたって、そう言ったよな?
ならこれはどういう事だ!俺は生きてるし、アイツも死んでねぇ! この食い違いをどう説明してくれんだよ」
最初は笑顔でカミナの顔を見ていたニアだったが、途中から言い返せないままに悲しい表情を浮かべてカミナの眼差しを受け入れている。
だが、間違っても視線を逸らすような事はしない。
それがニアの強さだからだ。
「それは私にもわかりません。
ですが、私の言っていることは全て本当の話です。どうか信じてください」
「わかってる!わかってるよ!
テメェが嘘を付いているなんて思ってねぇ!!
だがな、納得できなきゃ同じじゃねぇか……。
テメェの話を信じるとしたら、俺は既に死んでいて、螺旋王がこの馬鹿な実験の為に俺もチミルフも生き返らせたって事になる。
だとしたらよ、俺は本当に唯の螺旋王の操り人形じゃねぇか……」
青い髪に左右が鋭く尖った赤いサングラス、そして体に彫られた刺青。
ジーハ村どころか地上隅々にその名をとどろかす悪名高きグレン団の不撓不屈の鬼リーダー。
それがカミナだ。カミナの誇りだ。
そいつを、その男の魂を、螺旋王は人形を作るようにこの世界に蘇らせたと言うのだ。
そんな事を認められるはずはない。認めていいはずがない。
ゆえに、カミナはやり場のない怒りのままに我を失うほど感情を顕にしてしまうのである。
「そんなんよ……、どうやっても納得できるわけねぇだろうがよぉぉ!!!」
カミナの怒りが爆発する。
だが、カミナの怒りはぶつけ様のない怒り。
一瞬何もかも忘れ、カミナは吼えるままに右手に握り締めていた板切れを地面へと叩きつけてしまう。
それは、これまで自分と共にここまできた一時の相棒とも言うべき存在だった……。
◆ ◆ ◆
『落ち着いてください、カミナ』
叩き付けられたショックで、というわけではない。
いや、勿論、理不尽な扱いに苦言を呈したくはなるが、今はそれどころではない事をその存在は知っていた。
クロスミラージュがこれまで一言も発せず黙っていたのは、全ての情報を整理するためである。
『貴方の考えは確かに理に適っています。
彼女の話を全面的に信じるとしたら、今この場に居る貴方が螺旋王が作り出した命である可能性は十分にあるでしょう。
ですが、私はその考えとは別の可能性を提示します。
勿論、正しい正しくないではなく、もう一つの可能性として……』
硬いコンクリートに叩きつけられた待機状態のクロスミラージュが無造作に道路の真ん中に転がっている。
そんな状況だというのに文句一つ言わず、二人にハッキリと伝わるようにゆっくりと言葉を発した。
ちなみに、走ってる時に済ませた自己紹介にクロスミラージュの事も当然含まれているため、ニアの驚きはない。
「あん?どういうことだクロミラ」
クロスミラージュの言葉にカミナは血が上った頭を強制的に冷やされた。
怒りに任せたまま叩き付けてしまった存在が仲間だった事を思い出し、自分の行動を恥じた為だ。
だが、それで完全に苛立ちが収まるわけではない。
落ちたクロスミラージュを拾い上げ、自分の眼前へと持って行き、鋭い眼差しをぶつける。
『螺旋王の持つ力は確かに強大です。
私が知る常識を遥かに超える技術も数多く持っていることでしょう。
もしかしたらカミナの考えるように、本当に命を操れるのかもしれません。事実このゲームの優勝者の願いを叶えると言っているわけですから。
ですが、私はその可能性より、もっと確実な方法があると考えます』
「確実な方法だと?」
『つまり、カミナと彼女、貴方方二人が、まったく別の世界から連れてこられたという可能性です』
カミナとニア、二人の頭の上に疑問符が浮かんだ。
『順を追って説明しましょう。
カミナは言いましたね。
自分とチミルフが戦うのはこれからだ、と。
つまり、彼女が知ってるような、チミルフという螺旋王の部下との決戦に赴く記憶から勝利する記憶、その過程、そして、死ぬ記憶がない、そういう事になりますよね』
「あたりめぇだろ!
何度も言うが、俺は一度だって死んじゃいねぇんだよ!」
『ですが、それはおかしいんですよ。
彼女の話を信用した場合、カミナが自分が死んだ事を知らないはずはない。
もし、本当に知らないんだとしたら、螺旋王によって蘇生させられた際、記憶の一部を消去されたという事になります。
ですが、実際問題、一体それが螺旋王にとってどれだけの意味を持つというのでしょう?
螺旋王にしてみれば、カミナが自分が死んだ事を知っていようと知っていまいと、どうでもいいはずです。
勿論、此度新たな参加者として名を連ねたチミルフとの戦いをもう一度演出させる為という理由付けもできますが、
それならば、わざわざ一日経った今になってチミルフを参加させる意味が分かりません。
カミナとチミルフを戦わせるのが目的だというなら最初からチミルフを参加させればいいのにそれをしなかった、
つまり、螺旋王はカミナの記憶を操作する事でおきるチミルフとの邂逅を重要視していないと考えられます。
そうなると必然的に、手間を掛けてカミナの記憶を消したという可能性そのものが疑わしくなり、
引いては螺旋王によって蘇生させられたという考え自体を否定すべきだと、私は考えます』
一気にまくし立てたクロスミラージュ。
当然、今の話を理解できる思考をカミナもニアも有してはいない。見事なまでに魂が抜けたように間抜けな顔を晒していた。
それを察し、即座に言葉を続ける。
『つまり、貴方は死んだわけじゃない、そういうことです』
クロスミラージュが何を言っているのか、それを理解できたわけではないが、カミナはその一言で一応納得したように表情を元に戻す。
そして、大きく溜息を付きながら答えた。
「フゥ~、あー、なんだかわかんねぇが、
つまり、俺は死んでねぇってお前は言いてぇんだよな?
ならよ、何でコイツは『俺が死んだ』、なんて記憶をもってやがんだよ」
『そこです。
彼女が、“カミナは死んだ人間”、という記憶を持っていること自体、螺旋王の力を知る突破口だと私は考えます』
そう前置きした上で、クロスミラージュはニアへと質問の矛先を変えた。
『ニアさん、貴方はカミナを死んだ人間だと聞かされた、といいましたね?
では、こういう話を聞いた事はありませんか?
“カミナはチミルフとの決戦前夜に突然行方をくらました”と……』
その問いが出た瞬間、二人の人間の頭に先ほどより大きな疑問符が浮かんだ。
質問の意味が理解できないのである。
「……いえ、そのような話は……」
『そうですか。なるほど……。
だとしたら、螺旋王の力は既に私の理解する次元を遥かに越えたところにあると考えられます……』
なぜかそこでクロスミラージュの言葉がとまった。
まるで、次に続く言葉を言いたくないかのように、人間のように言葉を詰まらせたのである。
『……螺旋王の持つ力、それは、多元宇宙を自由に行き来する事ができる力、というのが考えられます』
「た、たげん、う、うちゅう? な、なんだそりゃ?」
クロスミラージュの発した言葉を聴き、カミナ、ニア共に、何一つ理解できないというのがアリアリと分かるほど呆けた顔に変わる。
それを確認したクロスミラージュは、次に続ける言葉を躊躇った。
クロスミラージュは冷静に考えたのだ。
これ以降の話は、おそらく今の二人では到底理解できないという事を……。
『……カミナ、ガッシュを追いましょう。
魔力の反応は無事禁止エリアを抜け、この先にいるようです』
「あ、ああ……
だが、話は……」
『魔力の反応が二つあります。
一つはガッシュですが、もう一つについては分かりません。おそらく他の参加者かと……』
「なに!?敵か!?」
『はい、ですから早く向かいましょう』
「お、おう!」
クロスミラージュは話を逸らした。
それが現時点でもっとも正しい選択だと信じて……。
◆ ◆ ◆
カミナとニア。
この二人の記憶の矛盾を帰謬法を用いて説明しよう。
それは螺旋王が時間跳躍の手段を持っていると仮定することから始まる。
まず、ニアが大グレン団という一団に参加している時代の螺旋王がニアを誘拐、このゲームに参加させる。
つづいて、時間跳躍つまりタイムトラベルで過去へと行き、カミナをチミルフとの決戦前夜からさらってくる。
これで、一応二人の記憶の矛盾はなくなると考えられる。
だが、これは実際問題ありえない。
なぜなら、ニアがカミナのこと『死んだ人間』と記憶しているからだ。
もし時間跳躍を利用して二人を集めたのだとしたら、カミナを誘拐した時点でタイムパラドックスがおきる。
つまり、ニアは存在自体消滅するか、もしくは記憶が書き換わらなければおかしいのである。
存在が消滅する理由は単純だ。
もしカミナが決戦前夜に誘拐されていたとしたら、リーダーを失った一団はどうなっていただろう。
事実と同じように螺旋王の部下に勝てたかだろうか、いや、最悪の場合、そのまま敗北したのではないだろうか。
敗北していた場合、ニアはシモンに助けられてはいない事になり、ニアの命がそこで終わる。それは記憶どころの騒ぎではないだろう。
だが、現にニアはここに存在している。
ゆえにもう一つの仮説、記憶が書き換わったという可能性を考えるべきだ。
それを確認するために、クロスミラージュは先ほどニアに質問したのだ。
“カミナはチミルフとの決戦前夜に突然行方をくらました”と聞かされてはいないか?と……。
ニアが持つ記憶、これが最大の焦点。
『戦いの果てに死んだ人間』から『カミナはチミルフとの決戦前夜に突然行方をくらました』というふうに記憶が書き換わっていたとしたら、
螺旋王が時間跳躍を駆使して彼等を集めたと一応は考察がまとまる。
だが、ニアはそんな話は聞いた事がないと言った。
これはつまり、タイムパラドックスがおきなかった事を指しており、時間跳躍そのものに矛盾が生じてしまうのだ。
つまり、ニアの記憶という一点のみに絞った考察ではあるが、時間跳躍の可能性は限りなく薄くなると考えられるのである。
では、二人を集めた方法とは、螺旋王の力とは何のか?
時間跳躍が否定される以上、現在ここにいるニアという存在とカミナという存在が等しく存在している事を考えるに、新たな仮説を立てることができる。
それこそがクロスミラージュが辿り着いた二人の状況を説明できる仮説だ。
ニアはカミナが誘拐された事を知らない。
それは、言い換えれば、カミナとニアは同じ時間軸上に存在していなかった事を指し示している。
つまり、平行世界の移動、いや、時間跳躍を含めた全ての次元に干渉するという力だ。
螺旋王の力とは、無限に生まれ続ける多元宇宙に自由に干渉する力。
それが、現在カミナとニアの記憶を整理して導き出された結論である。
クロスミラージュは自身が立てた仮説を二人に聞かせる事を躊躇った。
そもそも、文字すら読めないというカミナと、その彼とほぼ同一の世界から来ており、自分の事を語っている時に度々物を知らないような発言を繰り返していたニア。
この二人に、今自分が考えた話を聞かせたとして、それを理解できるとは到底思えないからだ。
なぜなら、クロスミラージュが立てた仮説は、ある一定の基本概念を知ってる事が大前提の講釈なのである。
おそらくだが、この二人、カミナとニアは人が想像し作ってきた基本的な空想話ですら頭に入っていないだろう。
過去と未来という概念を理解しているか怪しい。
知ってたとして、時間跳躍の可能性を想像した事があるか怪しい。
想像した事があるとして、タイムトラベルの持つ矛盾点まで想像している可能性は?
上げれば切がない。
加えて、『自分がもしあの時こうやっていたら』という考えから派生した世界を綿密に想像した事があるかどうか怪しい。
それがどういう世界で、何がどう違ってくるのか、また、本当にそんな世界はないのだろうか、そういう単純な思考をした事があるか怪しい。
自分がもう一人いるかもしれない、という可能性は?
つまりは平行世界の概念。
“この世界と似て非なるもの”の存在をたとえ信じていなくても頭には入っているかどうかという事が、これから話す事に大きくかかわってくるのである。
流石のクロスミラージュでも、全てを一から説明するのはいくらなんでも時間がなさ過ぎる。
説明したとして、彼等がそれを理解できるのは何時間後か、何十時間後か……。
それでは意味はない。
説明している間に殺し合いに乗った人間の襲撃を受け、下手をした二人が死んでしまう可能性もあるからだ。
そんな無茶はできない。
ではどうするか、時間を掛けてでも二人に説明するのか、それとも、仮説中からもっとも事実に近い事だけを話し、理解できるかどうかを二人に任せるのか。
クロスミラージュは悩む。
些細とはいえ、後々重要になってくるであろう判断を迫られているのだ。
勿論、この仮説が正しいかどうかはわからない。
だが考えて置いて損はないだろう。
なにせ、目の前の二人に限ってのみ言えば、自身のこれからの運命を左右しかねない話になるからだ。
二人は考えてはいない。
螺旋王を倒すという事がどういう事なのかを。
そして、この世界で死んだ者が、本当に自分の知ってる者だったのか、という事を……。
二人は気づいていない。
この世界の螺旋王を倒せても、自分達の世界にも螺旋王がいる可能性があるという事を。
生きて元の世界に帰ったとき、目の前に死んだはずの大切な人が現れる、そんな可能性がある事を……。
勿論、覚悟しなくてはならないのはクロスミラージュも同じだ。
多元宇宙に干渉する力を螺旋王が持っているのだとしたら、
この世界で無残にも命を落としたクロスミラージュが良く知る彼女たちは本当にクロスミラージュの知っている彼女等なのだろうか。
もし違うのだとしたら……。
【C-1南東/道路上/2日目/深夜】
【カミナ@天元突破グレンラガン】
[状態]:精神力消耗(小)、体力消耗(大)、全身に青痣、左肩に大きな裂傷(激しく動かすと激痛が走る)、頭にタンコブ、ずぶ濡れ、強い決意、螺旋力覚醒・増大中
[装備]:なんでも切れる剣@サイボーグクロちゃん、
【カミナ式ファッション"グラサン・ジャックモデル"】
アイザックのカウボーイ風ハット@BACCANO! -バッカーノ!-、アンディの衣装(靴、中着、上下白のカウボーイ)@カウボーイビバップ
[道具]:支給品一式(食料なし)、ベリーなメロン1個(ビクトリームへの手土産)@金色のガッシュベル!!、
クロスミラージュ(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ3/4:1/4)
ガッシュの魔本@金色のガッシュベル!!
[思考]基本:殺し合いには意地でも乗らない。絶対に螺旋王を倒してみせる。
0:と、とりあえずガッシュのところに。
1:何がなんだかさっぱりわからねぇ!
2:ニアは……なぜだか嘘を言ってるとは思えねぇ!コイツは俺が守る!
3:チミルフだと?丁度いい、螺旋王倒す前にけりつけたら!
4:モノレールでF-5で戻った後、ドモンを探しつつデパート跡を調べに行く。
5:グレンラガン…もしかしたら、あそこ(E-6)に?
6:もう一回白目野郎(ヒィッツカラルド)と出会ったら今度こそぶっ倒す!
7:ガンメンモドキ(ビクトリーム)よぉ……そうならそうって早く言えってんだ。
[備考]
※E-6にグレンラガンがあるのではと思っています。
※ビクトリームへの怒りは色んな意味で冷めました。
※文字が読めないため、名簿や地図の確認は不可能だと思われます。
※ゴーカートの動かし方をだいたい覚えました。
※ゲイボルクの効果にまるで気づいていません。
※シモンとヨーコの死に対しては半信半疑の状態ですが、覚悟はできました。2人の死を受け入れられる状態です。
※拡声器の声の主(八神はやて)、および機動六課メンバーに関しては
警戒しつつも自分の目で見てみるまで最終結論は出さない、というスタンスになりました。
※第二放送についてはヨーコの名が呼ばれたことしか記憶していません。ですが内容はすべてクロスミラージュが記録しています。
※溺れた際、一度心肺機能が完全に停止しています。首輪になんらかの変化が起こった可能性があります。
禁止エリアに反応していませんが、本人は気付いていません。
ただし、クロスミラージュがその事実を把握しています。
※会場のループを認識しました。
※ドモン、クロスミラージュ、ガッシュの現時点までの経緯を把握しました。
しかしドモンが積極的にファイトを挑むつもりだということは聞かされていません。
※クロスミラージュからティアナについて多数の情報を得ました。
※クロスミラージュはシモンについて、カミナから多数の情報を得ました。
※ガッシュの本を読むことが出来ましたが、なぜか今は読めません。
※ニアと簡単な情報交換をしました。夢のおかげか、何故だか全面的に信用しています。
※螺旋王に挑む決意が湧き上がっています。
※ロニー・スキアートとの会話は殆ど覚えていません。
※螺旋力覚醒
※クロスミラージュが『螺旋王は多元宇宙に干渉する力を持っている可能性がある』と考察しました。
ですが、それをカミナ達に話すのを迷っています。
【ニア@天元突破グレンラガン】
[状態]:精神的疲労(大)、全身打撲(小)、ギアス?、右頬にモミジ、下着姿にルルーシュの学生服の上着、ずぶ濡れ
[装備]:釘バット
[道具]:支給品一式
[思考]基本:シモンのアニキさんについていき、お父様を止める。
0:一体どういうことでしょう。
1:出来ればシータを止めたい。
2:ルルーシュとビクトリームと一緒に脱出に向けて動く。
3:ルルーシュ達を探す。
4:マタタビを殺してしまった事に対する強烈な自己嫌悪。
[備考]
※テッペリン攻略前から呼ばれています。髪はショート。ダイグレンの調理主任の時期です。
※カミナに関して、だいぶ曲解した知識を与えられています。
※ギアス『毒についての記憶を全て忘れろ』のせいで、ありとあらゆる毒物に対する知識・概念が欠損しています。有効期間は未定。
気絶中に解除された可能性があります。
※ルルーシュは完全に信頼。スパイク、ジンにもそこそこ。カレンには若干苦手な感情。
※ビクトリームの魔本を読めましたが、シータへの苛立ちが共通した思いとなったためです。
今後も読めるかは不明です。
※会場のループを認識しました。
※ロニーの夢は見ていません。
※カミナとクロスミラージュと簡単な情報を交換しました。
*時系列順に読む
Back:[[俺にはさっぱりわからねえ!(前編)]] Next:[[罪歌 阿鼻叫喚の狂った舞台(前編)]]
*投下順に読む
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|244:[[俺にはさっぱりわからねえ!(前編)]]|カミナ|251:[[邪ノ嗤フ刻-オニノワラウコロ-]]|
|244:[[俺にはさっぱりわからねえ!(前編)]]|ニア|251:[[邪ノ嗤フ刻-オニノワラウコロ-]]|
**俺にはさっぱりわからねえ!(後編) ◆j3Nf.sG1lk
「あー、ちょっと待て、
ワリィが、さっぱりわからねえ!」
そう言ったのはカミナだった。
ニアから齎された話、そして放送、それらを吟味した結果、出てきた言葉がそれである。
まずは現在の状況を説明しよう。
ブリを追って海へと飛び込んだガッシュが禁止エリアに突入するというクロスミラージュの言葉に驚かされ、即座に追いかけようとしたのだが、
その直後、目覚めたニアが放った『シモンのアニキさん』発言と放送(チミルフの参加)という二つの衝撃により、
一瞬とはいえガッシュの事をカミナは頭の中から霧散させてしまったのだ。
だが当然、そのまま動乱に流されるまま混乱しているわけには行かない。
カミナはとりあえず、混乱する思考に靄を掛け見ないようにし、ガッシュを追う事を決める。
ニアを立ち上がらせようと伸ばしっぱなしになっていた右手で、呆然としていたニアの手を拾い上げるように掴み、そのまま強引に立たせる。
そして、「とりあえず話は後だ!」の一言で二人そろって走り始めたのだ。
勿論、走っている間に難しい話を抜きにした自己紹介程度の情報交換はできる。
ニアは走りながら必死に自分の事を話した。
自分の事、シモンの事、シモンが語ってくれたカミナのこと、そして、大グレン団の事。
それら全ては確かにカミナの知ってる大グレン団であり、シモンそのものの話だった。
ただ一点、自分が既に死んでいるということを聞かされるまでは……
「なぜです?私は私の知っている事を……」
不意に立ち止まったカミナに合わせてニアも立ち止まり、考えるように俯いているカミナに向かってニアは言った。
「テメェが嘘を付いてねぇってのは何となくだがわかる。
お前が語ったシモンはまさしく俺の知ってるシモンだし、大グレン団についてもおかしな点はねぇ。
ヨーコ、リーロン、ロシウ、キタン、ダヤッカ……確かにそいつ等は俺の知ってる奴等と一緒だよ。
だがな、そこに俺がいねぇってのはどういうことなんだ?
テメェの話で言えば、俺様が既に死んでる事になる、チミルフを倒してな。
コイツは一体なんだ?わけがわからねぇ」
「ですから、私がシモンに助けられたとき、アニキさんは既にお亡くなりになって……」
「それがわからねぇって言ってんだよ!」
カミナの声は咆哮のように響き渡り、辺りを震えさせた。
それは、目の前に居るニア、そして黙って話を聞いていたクロスミラージュも、一瞬とはいえ思考を停止させるほど大きな声だった。
ちなみに、既にこの時点でカミナの頭の中から完全にガッシュの事は消えている。
つまり、それだけカミナにとってショックな話なのである。
まぁ、それも当然の事だろう。
目の前の少女の話では既に自分が死んでいる事になるのだ。
それを、「はい、そうですか」と受け止められる人間など居やしない。
カミナは怒りを覚えているのだ、この理解不能なことを言う少女に対して……
◆ ◆ ◆
一度ニアの話とカミナの記憶について整理をしよう。
カミナの前に居る少女、名前はニア。
大グレン団の調理主任という立場にして、螺旋王の娘。
自我が芽生えたからという理由のみで螺旋王から捨てられたニアは、偶然にもシモンに発見され、命を救われる。
外の世界を知らなかったニアは、そこで初めて人間を知り、人間を弾圧しようとする自分の父、螺旋王の行いを知った。
螺旋王のやる事に賛同できなかったニアは、螺旋王にその真意を問う為に、大グレン団に参加する。
とまぁ、ここまでは、あくまでニアが語るこれまでの経緯である。
それは確かにニアの記憶であり、この記憶に間違いなんて一つもない。
『ニアを知る』大グレン団の面々に確認をとっても、全員が全員、ニアの話を真実だと言うだろう。
そこにカミナという人間が居なければだが……
そう、問題はやはり、ニアの前に居る男、カミナがその記憶の欠片すらも共有してはいないという事なのだ。
カミナは知らない。
シモンが助けたというニアという少女の事を。
カミナは知らない。
チミルフ以外の四天王の事を。
カミナは知らない。
ダイグレンと呼ばれる巨大地上戦艦型ガンメンを大グレン団の母艦にしている事を。
それがチミルフの操ったダイガンザンであるという事を。
カミナは知らない。
そのダイガンザンを手に入れるために自分が死んだという事を……
つまりは、ニアの語る全てはカミナという男が死んだ後の話なのだ。
ゆえに、二人の間に埋めようのない決定的な矛盾が生じているのである。
◆ ◆ ◆
「俺が死んでるように見えるってのか!?
ふざけんなよ!テメェ!
俺はまだ死んでもいねぇし、これから先も死ぬ気はねぇ!
ついでに言えば、チミルフを倒すのはこれからだ!
俺もアイツもまだ死んじゃいねぇんだよ!!!」
体がわなわなと震え、ニアを鋭い眼差し睨むカミナ。
一気に言い放ったせいか、多少息が荒くなっている。
カミナの記憶では、シモンのラガンを使い、チミルフのダイガンザンを乗っ取る計画、それを、ほんの数十時間前に立てたばかりなのである。
それがどういうわけか、この馬鹿げた殺し合いに無理やり呼ばれたお陰で全て狂ってしまった。
本当なら今頃、そのチミルフと決着をつけ、大グレン団の旗をダイガンザンに突き刺していてもおかしくはないというのに……
つまり、カミナにとってチミルフとの決戦はあくまで『これから』の事なのである。
カミナは認めない。
認められるはずもない。
自分が死んだなどというふざけた話など信じられるはずがないのだ。
「螺旋王の言葉を信じるなんざ本当は胸糞ワリィ事だが、現にヤツが言ったじゃねぇか! チミルフをこの殺し合いに参加させるってな!
テメェは言ったよな、俺はチミルフを倒して死んだって、シモンからそう聞いたって、そう言ったよな?
ならこれはどういう事だ!俺は生きてるし、アイツも死んでねぇ! この食い違いをどう説明してくれんだよ」
最初は笑顔でカミナの顔を見ていたニアだったが、途中から言い返せないままに悲しい表情を浮かべてカミナの眼差しを受け入れている。
だが、間違っても視線を逸らすような事はしない。
それがニアの強さだからだ。
「それは私にもわかりません。
ですが、私の言っていることは全て本当の話です。どうか信じてください」
「わかってる!わかってるよ!
テメェが嘘を付いているなんて思ってねぇ!!
だがな、納得できなきゃ同じじゃねぇか……
テメェの話を信じるとしたら、俺は既に死んでいて、螺旋王がこの馬鹿な実験の為に俺もチミルフも生き返らせたって事になる。
だとしたらよ、俺は本当に唯の螺旋王の操り人形じゃねぇか……」
青い髪に左右が鋭く尖った赤いサングラス、そして体に彫られた刺青。
ジーハ村どころか地上隅々にその名をとどろかす悪名高きグレン団の不撓不屈の鬼リーダー。
それがカミナだ。カミナの誇りだ。
そいつを、その男の魂を、螺旋王は人形を作るようにこの世界に蘇らせたと言うのだ。
そんな事を認められるはずはない。認めていいはずがない。
ゆえに、カミナはやり場のない怒りのままに我を失うほど感情を顕にしてしまうのである。
「そんなんよ……どうやっても納得できるわけねぇだろうがよぉぉ!!!」
カミナの怒りが爆発する。
だが、カミナの怒りはぶつけ様のない怒り。
一瞬何もかも忘れ、カミナは吼えるままに右手に握り締めていた板切れを地面へと叩きつけてしまう。
それは、これまで自分と共にここまできた一時の相棒とも言うべき存在だった……
◆ ◆ ◆
『落ち着いてください、カミナ』
叩き付けられたショックで、というわけではない。
いや、勿論、理不尽な扱いに苦言を呈したくはなるが、今はそれどころではない事をその存在は知っていた。
クロスミラージュがこれまで一言も発せず黙っていたのは、全ての情報を整理するためである。
『貴方の考えは確かに理に適っています。
彼女の話を全面的に信じるとしたら、今この場に居る貴方が螺旋王が作り出した命である可能性は十分にあるでしょう。
ですが、私はその考えとは別の可能性を提示します。
勿論、正しい正しくないではなく、もう一つの可能性として……』
硬いコンクリートに叩きつけられた待機状態のクロスミラージュが無造作に道路の真ん中に転がっている。
そんな状況だというのに文句一つ言わず、二人にハッキリと伝わるようにゆっくりと言葉を発した。
ちなみに、走ってる時に済ませた自己紹介にクロスミラージュの事も当然含まれているため、ニアの驚きはない。
「あん?どういうことだクロミラ」
クロスミラージュの言葉にカミナは血が上った頭を強制的に冷やされた。
怒りに任せたまま叩き付けてしまった存在が仲間だった事を思い出し、自分の行動を恥じた為だ。
だが、それで完全に苛立ちが収まるわけではない。
落ちたクロスミラージュを拾い上げ、自分の眼前へと持って行き、鋭い眼差しをぶつける。
『螺旋王の持つ力は確かに強大です。
私が知る常識を遥かに超える技術も数多く持っていることでしょう。
もしかしたらカミナの考えるように、本当に命を操れるのかもしれません。事実このゲームの優勝者の願いを叶えると言っているわけですから。
ですが、私はその可能性より、もっと確実な方法があると考えます』
「確実な方法だと?」
『つまり、カミナと彼女、貴方方二人が、まったく別の世界から連れてこられたという可能性です』
カミナとニア、二人の頭の上に疑問符が浮かんだ。
『順を追って説明しましょう。
カミナは言いましたね。
自分とチミルフが戦うのはこれからだ、と。
つまり、彼女が知ってるような、チミルフという螺旋王の部下との決戦に赴く記憶から勝利する記憶、その過程、そして、死ぬ記憶がない、そういう事になりますよね』
「あたりめぇだろ!
何度も言うが、俺は一度だって死んじゃいねぇんだよ!」
『ですが、それはおかしいんですよ。
彼女の話を信用した場合、カミナが自分が死んだ事を知らないはずはない。
もし、本当に知らないんだとしたら、螺旋王によって蘇生させられた際、記憶の一部を消去されたという事になります。
ですが、実際問題、一体それが螺旋王にとってどれだけの意味を持つというのでしょう?
螺旋王にしてみれば、カミナが自分が死んだ事を知っていようと知っていまいと、どうでもいいはずです。
勿論、此度新たな参加者として名を連ねたチミルフとの戦いをもう一度演出させる為という理由付けもできますが、
それならば、わざわざ一日経った今になってチミルフを参加させる意味が分かりません。
カミナとチミルフを戦わせるのが目的だというなら最初からチミルフを参加させればいいのにそれをしなかった。
つまり、螺旋王はカミナの記憶を操作する事で起きるチミルフとの邂逅を重要視していないと考えられます。
そうなると必然的に、手間を掛けてカミナの記憶を消したという可能性そのものが疑わしくなり、
引いては螺旋王によって蘇生させられたという考え自体を否定すべきだと、私は考えます』
一気にまくし立てたクロスミラージュ。
当然、今の話を理解できる思考をカミナもニアも有してはいない。見事なまでに魂が抜けたように間抜けな顔を晒していた。
それを察し、即座に言葉を続ける。
『つまり、貴方は死んだわけじゃない、そういうことです』
クロスミラージュが何を言っているのか、それを理解できたわけではないが、カミナはその一言で一応納得したように表情を元に戻す。
そして、大きく溜息を付きながら答えた。
「フゥ~、あー、なんだかわかんねぇが、
つまり、俺は死んでねぇってお前は言いてぇんだよな?
ならよ、何でコイツは『俺が死んだ』、なんて記憶を持ってやがんだよ」
『そこです。
彼女が、“カミナは死んだ人間”、という記憶を持っていること自体、螺旋王の力を知る突破口だと私は考えます』
そう前置きした上で、クロスミラージュはニアへと質問の矛先を変えた。
『ニアさん、貴方はカミナを死んだ人間だと聞かされた、と言いましたね?
では、こういう話を聞いた事はありませんか?
“カミナはチミルフとの決戦前夜に突然行方をくらました”と……』
その問いが出た瞬間、二人の人間の頭に先ほどより大きな疑問符が浮かんだ。
質問の意味が理解できないのである。
「……いえ、そのような話は……」
『そうですか。なるほど……
だとしたら、螺旋王の力は既に私の理解する次元を遥かに越えたところにあると考えられます……』
なぜかそこでクロスミラージュの言葉がとまった。
まるで、次に続く言葉を言いたくないかのように、人間のように言葉を詰まらせたのである。
『……螺旋王の持つ力、それは、多元宇宙を自由に行き来する事ができる力、というのが考えられます』
「た、たげん、う、うちゅう? な、なんだそりゃ?」
クロスミラージュの発した言葉を聴き、カミナ、ニア共に、何一つ理解できないというのがアリアリと分かるほど呆けた顔に変わる。
それを確認したクロスミラージュは、次に続ける言葉を躊躇った。
クロスミラージュは冷静に考えたのだ。
これ以降の話は、おそらく今の二人では到底理解できないという事を……
『……カミナ、ガッシュを追いましょう。
魔力の反応は無事禁止エリアを抜け、この先にいるようです』
「あ、ああ……
だが、話は……」
『魔力の反応が二つあります。
一つはガッシュですが、もう一つについては分かりません。おそらく他の参加者かと……』
「なに!?敵か!?」
『はい、ですから早く向かいましょう』
「お、おう!」
クロスミラージュは話を逸らした。
それが現時点でもっとも正しい選択だと信じて……
◆ ◆ ◆
カミナとニア。
この二人の記憶の矛盾を帰謬法を用いて説明しよう。
それは螺旋王が時間跳躍の手段を持っていると仮定することから始まる。
まず、ニアが大グレン団という一団に参加している時代の螺旋王がニアを誘拐、このゲームに参加させる。
つづいて、時間跳躍つまりタイムトラベルで過去へと行き、カミナをチミルフとの決戦前夜から攫ってくる。
これで、一応二人の記憶の矛盾はなくなると考えられる。
だが、これは実際問題ありえない。
なぜなら、ニアがカミナのこと『死んだ人間』と記憶しているからだ。
もし時間跳躍を利用して二人を集めたのだとしたら、カミナを誘拐した時点でタイムパラドックスが起きる。
つまり、ニアは存在自体消滅するか、もしくは記憶が書き換わらなければおかしいのである。
存在が消滅する理由は単純だ。
もしカミナが決戦前夜に誘拐されていたとしたら、リーダーを失った一団はどうなっていただろう。
事実と同じように螺旋王の部下に勝てただろうか、いや、最悪の場合、そのまま敗北したのではないだろうか。
敗北していた場合、ニアはシモンに助けられてはいない事になり、ニアの命がそこで終わる。それは記憶どころの騒ぎではないだろう。
だが、現にニアはここに存在している。
ゆえにもう一つの仮説、記憶が書き換わったという可能性を考えるべきだ。
それを確認するために、クロスミラージュは先ほどニアに質問したのだ。
“カミナはチミルフとの決戦前夜に突然行方をくらました”と聞かされてはいないか?と……
ニアが持つ記憶、これが最大の焦点。
『戦いの果てに死んだ人間』から『カミナはチミルフとの決戦前夜に突然行方をくらました』というふうに記憶が書き換わっていたとしたら、
螺旋王が時間跳躍を駆使して彼等を集めたと一応は考察がまとまる。
だが、ニアはそんな話は聞いた事がないと言った。
これはつまり、タイムパラドックスが起きなかった事を指しており、時間跳躍そのものに矛盾が生じてしまうのだ。
つまり、ニアの記憶という一点のみに絞った考察ではあるが、時間跳躍の可能性は限りなく薄くなると考えられるのである。
では、二人を集めた方法とは、螺旋王の力とは何のか?
時間跳躍が否定される以上、現在ここにいるニアという存在とカミナという存在が等しく存在している事を考えるに、新たな仮説を立てることができる。
それこそがクロスミラージュが辿り着いた二人の状況を説明できる仮説だ。
ニアはカミナが誘拐された事を知らない。
それは、言い換えれば、カミナとニアは同じ時間軸上に存在していなかった事を指し示している。
つまり、平行世界の移動、いや、時間跳躍を含めた全ての次元に干渉するという力だ。
螺旋王の力とは、無限に生まれ続ける多元宇宙に自由に干渉する力。
それが、現在カミナとニアの記憶を整理して導き出された結論である。
クロスミラージュは自身が立てた仮説を二人に聞かせる事を躊躇った。
そもそも、文字すら読めないというカミナと、その彼とほぼ同一の世界から来ており、自分の事を語っている時に度々物を知らないような発言を繰り返していたニア。
この二人に、今自分が考えた話を聞かせたとして、それを理解できるとは到底思えないからだ。
なぜなら、クロスミラージュが立てた仮説は、ある一定の基本概念を知ってる事が大前提の講釈なのである。
おそらくだが、この二人、カミナとニアは人が想像し作ってきた基本的な空想話ですら頭に入っていないだろう。
過去と未来という概念を理解しているか怪しい。
知ってたとして、時間跳躍の可能性を想像した事があるか怪しい。
想像した事があるとして、タイムトラベルの持つ矛盾点まで想像している可能性は?
挙げれば切りがない。
加えて、『自分がもしあの時こうやっていたら』という考えから派生した世界を綿密に想像した事があるかどうか怪しい。
それがどういう世界で、何がどう違ってくるのか、また、本当にそんな世界はないのだろうか、そういう単純な思考をした事があるか怪しい。
自分がもう一人いるかもしれない、という可能性は?
つまりは平行世界の概念。
“この世界と似て非なるもの”の存在をたとえ信じていなくても頭には入っているかどうかという事が、これから話す事に大きく関わってくるのである。
流石のクロスミラージュでも、全てを一から説明するのはいくらなんでも時間がなさ過ぎる。
説明したとして、彼等がそれを理解できるのは何時間後か、何十時間後か……
それでは意味はない。
説明している間に殺し合いに乗った人間の襲撃を受け、下手をしたら二人が死んでしまう可能性もあるからだ。
そんな無茶はできない。
ではどうするか、時間を掛けてでも二人に説明するのか、それとも、仮説中からもっとも事実に近い事だけを話し、理解できるかどうかを二人に任せるのか。
クロスミラージュは悩む。
些細とはいえ、後々重要になってくるであろう判断を迫られているのだ。
勿論、この仮説が正しいかどうかはわからない。
だが考えておいて損はないだろう。
なにせ、目の前の二人に限ってのみ言えば、自身のこれからの運命を左右しかねない話になるからだ。
二人は考えていない。
螺旋王を倒すという事がどういう事なのかを。
そして、この世界で死んだ者が、本当に自分の知ってる者だったのか、という事を……
二人は気づいていない。
この世界の螺旋王を倒せても、自分達の世界にも螺旋王がいる可能性があるという事を。
生きて元の世界に帰ったとき、目の前に死んだはずの大切な人が現れる、そんな可能性がある事を……
勿論、覚悟しなくてはならないのはクロスミラージュも同じだ。
多元宇宙に干渉する力を螺旋王が持っているのだとしたら、
この世界で無残にも命を落とした、クロスミラージュが良く知る彼女たちは本当にクロスミラージュの知っている彼女等なのだろうか。
もし違うのだとしたら……
【C-1南東/道路上/2日目/深夜】
【カミナ@天元突破グレンラガン】
[状態]:精神力消耗(小)、体力消耗(大)、全身に青痣、左肩に大きな裂傷(激しく動かすと激痛が走る)、頭にタンコブ、ずぶ濡れ、強い決意、螺旋力覚醒・増大中
[装備]:なんでも切れる剣@サイボーグクロちゃん
【カミナ式ファッション"グラサン・ジャックモデル"】
アイザックのカウボーイ風ハット@BACCANO バッカーノ!、アンディの衣装(靴、中着、上下白のカウボーイ)@カウボーイビバップ
[道具]:支給品一式(食料なし)、ベリーなメロン1個(ビクトリームへの手土産)@金色のガッシュベル!!
クロスミラージュ(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS(カートリッジ3/4:1/4) 、ガッシュの魔本@金色のガッシュベル!!
[思考]基本:殺し合いには意地でも乗らない。絶対に螺旋王を倒してみせる。
0:と、とりあえずガッシュのところに。
1:何がなんだかさっぱりわからねぇ!
2:ニアは……なぜだか嘘を言ってるとは思えねぇ!コイツは俺が守る!
3:チミルフだと?丁度いい、螺旋王倒す前にけりつけたら!
4:モノレールでF-5で戻った後、ドモンを探しつつデパート跡を調べに行く。
5:グレンラガン…もしかしたら、あそこ(E-6)に?
6:もう一回白目野郎(ヒィッツカラルド)と出会ったら今度こそぶっ倒す!
7:ガンメンモドキ(ビクトリーム)よぉ……そうならそうって早く言えってんだ。
[備考]
※E-6にグレンラガンがあるのではと思っています。
※ビクトリームへの怒りは色んな意味で冷めました。
※文字が読めないため、名簿や地図の確認は不可能だと思われます。
※ゴーカートの動かし方をだいたい覚えました。
※ゲイボルクの効果にまるで気づいていません。
※シモンとヨーコの死に対しては半信半疑の状態ですが、覚悟はできました。2人の死を受け入れられる状態です。
※拡声器の声の主(八神はやて)、および機動六課メンバーに関しては
警戒しつつも自分の目で見てみるまで最終結論は出さない、というスタンスになりました。
※第二放送についてはヨーコの名が呼ばれたことしか記憶していません。ですが内容はすべてクロスミラージュが記録しています。
※溺れた際、一度心肺機能が完全に停止しています。首輪になんらかの変化が起こった可能性があります。
禁止エリアに反応していませんが、本人は気付いていません。
ただし、クロスミラージュがその事実を把握しています。
※会場のループを認識しました。
※ドモン、クロスミラージュ、ガッシュの現時点までの経緯を把握しました。
しかしドモンが積極的にファイトを挑むつもりだということは聞かされていません。
※クロスミラージュからティアナについて多数の情報を得ました。
※クロスミラージュはシモンについて、カミナから多数の情報を得ました。
※ガッシュの本を読むことが出来ましたが、なぜか今は読めません。
※ニアと簡単な情報交換をしました。夢のおかげか、何故だか全面的に信用しています。
※螺旋王に挑む決意が湧き上がっています。
※ロニー・スキアートとの会話は殆ど覚えていません。
※螺旋力覚醒
※クロスミラージュが『螺旋王は多元宇宙に干渉する力を持っている可能性がある』と考察しました。
ですが、それをカミナ達に話すのを迷っています。
【ニア@天元突破グレンラガン】
[状態]:精神的疲労(大)、全身打撲(小)、ギアス?、右頬にモミジ、下着姿にルルーシュの学生服の上着、ずぶ濡れ
[装備]:釘バット
[道具]:支給品一式
[思考]基本:シモンのアニキさんについていき、お父様を止める。
0:一体どういうことでしょう。
1:出来ればシータを止めたい。
2:ルルーシュとビクトリームと一緒に脱出に向けて動く。
3:ルルーシュ達を探す。
4:マタタビを殺してしまった事に対する強烈な自己嫌悪。
[備考]
※テッペリン攻略前から呼ばれています。髪はショート。ダイグレンの調理主任の時期です。
※カミナに関して、だいぶ曲解した知識を与えられています。
※ギアス『毒についての記憶を全て忘れろ』のせいで、ありとあらゆる毒物に対する知識・概念が欠損しています。有効期間は未定。
気絶中に解除された可能性があります。
※ルルーシュは完全に信頼。スパイク、ジンにもそこそこ。カレンには若干苦手な感情。
※ビクトリームの魔本を読めましたが、シータへの苛立ちが共通した思いとなったためです。
今後も読めるかは不明です。
※会場のループを認識しました。
※ロニーの夢は見ていません。
※カミナとクロスミラージュと簡単な情報を交換しました。
*時系列順に読む
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