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「W.O.D ~World Of Darkness~」(2023/05/13 (土) 21:56:49) の最新版変更点
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**W.O.D ~World Of Darkness~ ◆RwRVJyFBpg
◆
「しっかし、女子トイレが建物に一つしかないってどうよ?
男女差別も甚だしいっつーか。なあ、ゆたかもそう思わない?」
辛気臭い刑務所の廊下を私とゆたかはとぼとぼと歩いていた。
向かう先は女性用トイレ。
おそらく男囚用だったと思われるこの監獄に一つしかない、女達の、ある意味パラダイス。
「しょうがないですよ。うちの学校の旧校舎とかもそうでしたし」
「はーっ、これだから古い建物は困るんだ!
しかもあるのが三階ってどういうことよ!?
普通は来客用に一階に作るだろうが!?」
長いミーティングを終えた私達は一旦解散し、休憩をとっていた。
ほどよい緊張から解放された後っていうのは、どういう理屈か知らないが何かもよおしてくる。
それは老いも若きも変わりはなく……そんなわけで、私とゆたかは女同士『ツレション』と洒落こんでるってわけ。
「……でも、凄いですよね」
私が相も変わらずブツブツ文句を言っていると、ゆたかが急に真面目な声で切り出した。
「ふぇ?何が?」
唐突な話題の変化に思わず変な声が出る。
「菫川先生、凄いですよ。
あんな風にいろいろ考えて、いろいろ言えるなんて、凄いです!
私なんて、途中からはついていくのが精一杯で……」
「……別にすごかないよ」
「そんなことないです!
菫川先生だけじゃなくて、明智さんも!高嶺君も!
首輪がどうとか、螺旋王さんの目的がどうとか、わたし、考えたこともありませんでした。
イリヤちゃんだって、一人で怖い人のところに説得に行ったりして、すごく立派……
……それに比べたら、私なんて何もできなくて……」
ゆたかの声が曇る。
足取りが鈍くなり、目線は下を向いてしまう。
心なしか、腕も震えているのが分かる。
さっきまでの気楽な空気はどこへやら、だ。
ああ、そうか、と思う。
ゆたかが何を考えてるのか。
ゆたかがさっきの会議に出ていて何を思ったか。
私には痛いほどに分かった。
「ゆたか」
「……なんですか」
「何もできないのは私も一緒だよ」
「……そんなことっ!」
「本当だよ。
私は明智や清麿みたいに頭がいいわけじゃないし、イリヤみたいに魔法が使えるわけでもない。
それに、ゆたかが一緒にいたDボゥイって人みたいに腕っ節が強いわけでもない」
そう、何もできない、何もできてないのは私も同じだから。
だけど……
「でも、菫川先生はちゃんと明智さんのお話についていってました!
おかしいと思ったところはちゃんと質問したりして。
それができるだけでも……」
「そんなのは慣れの問題さ。
私の方が事前に知ってた情報の量が多かったからそれだけ多くのことが言えた。そんだけのことだ」
「でも……」
「でもな、ゆたか」
しゃがみこみ、小さなゆたかの肩に手を乗せて、真っ直ぐ目を見る。
これだけは言わなきゃいけないと思ったから。
「いつまでもできないままでいちゃいけないんだ。
あんたも、私もね。
こんな私たちにだって、できることはある。
今までの自分を振り返ってみな。自分のできること、必ずあるはずだ。
そいつを見つけて、できるようにしなくちゃ。
例えば……あんたはイリヤの無事を祈ってやったじゃないか。
あれだって十分、あいつの助けになってるはずだ。
だから、もう、そんな顔すんな。…………ほら」
袖口で、零れかけた涙を拭ってやる。
すると、ゆたかも自分が泣きそうなことに気づいたのか、慌てて目頭に手を遣り、涙を拭き取った。
「ごめんなさい、菫川先生。
何か情けないこと言っちゃって」
「いいって、いいって。
誰にでも愚痴りたくなることはあるさ」
「それじゃあ」
「ああ、出すもん出して、スッキリしよ」
やっと見えてきたトイレの入り口をくぐり、私たちはそれぞれの個室に入る。
バタンと、ドアの閉まる音が狭い室内に響いた。
◆
(あ~しかし、私も頑張らなきゃダメだよなあ、マジで)
穿いてたモンをおろし、便器に腰掛けてから、私は大きな溜め息をついた。
ゆたか相手に随分と偉そうなことを言ったが、実際は人のことを言えた義理じゃない。
(ゆたかの言うとおり、明智も清麿も、イリヤもすごいよ。
あれだけのことをサラっとやってのけるんだから)
イリヤは危険人物が密集している映画館に自分で志願して行った。
大切な人を救い出し、元の世界での敵を説得するために。
明智と清麿は首輪や各種の資料を研究し、あれだけの推理を展開してみせた。
この後は『エド』とやらが施設に情報を送った方法を調べるつもりらしい。
もし分かれば、同じ方法を使ってさっきの仮説を流し、生き残りの参加者に戦いを止めるよう促すつもりだそうだ。
また、首輪解除の効果をはっきりさせるため、螺旋力による解除を実際に試してみることも検討中。
確かに、首輪を外したら実際どうなるのかがはっきり分かれば、明智の言う『螺旋力を材料にした実験中止』の余地も出てくる。
できることはまだまだあるって感じだ。
それに比べて私はどうか?
多分、私が今やらなきゃいけないことは、螺旋王の筋書きを覆すシナリオを作ることだ。
私の本で奴の計画をひっくり返し、物語をハッピーエンドに導くことだ。
それを実現する小説を書くため、私はもうずっと頭を捻り続けている。
殺人者から逃げながら、明智の話を聞きながら。
でも、ネタが浮かばない。
こういうときに限って、一行たりとも書くべき文章が出てこない。
書きたいものはある。
何かこう、漠然としたものが胸に溜まってウゾウゾしてるのは分かるんだ。
でも、それが言葉にならない。形にならない。
(あーっ、クソッ!!
これじゃ自分の部屋でパソコンの前に座ってるのと変わらないじゃないか!
しっかりしろ!菫川ねねね!!)
せっかく一人になれたんだ。
この機会に集中して考えてみよう。
そう思って目を閉じ、意識を集中し、頭をわさわさと掻く。
脳みそのギアを入れ、中身を撹拌し、物語を抽出しようと試みる。
心臓あたりに溜まった情念を、小説という鋳型に嵌めて、吐き出そうと試みる。
試みる。
試みる。
試みる。
――結局私は出すものを出し終わった後も、文章の一切れたりとひねり出すことはできなかった。
◆
錆びかけの蛇口を捻り、水を出す。
手を晒すと、凍るような冷たさだった。
「ゆたか~」
手を洗いながら呼びかけるが、返事は返ってこない。
どうやら、私がうんうん唸っている間に早々と出てしまったらしい。
そういえば、ついつい長篭りしてしまった気がしなくもない。
(あ~~まずったなー。便秘と勘違いされたかね、こりゃ)
そんな馬鹿なことを考えながら、廊下に出る。
けど、そこにもゆたかの姿はない。
暗く、陰鬱な白い廊下だけが延々と続いている。
「ゆたか?」
待ちかねて先に帰っちゃったんだろうか。
そう思い、明智たちのいる部屋へ帰ろうと、踵を返した矢先。
「きゃっ!?」
というゆたかの短い悲鳴と
金属で殴りつけるような鈍い音が響いた。
「ゆたかっ!!」
私はその音に何か危険なものを感じ、音がした方へとダッシュする。
廊下を行きに来た方向へ少し走り、角を曲がったそこはエレベーターホール。
やはり薄暗いそこには、飾りっ気ゼロのエレベーターが二基あった。
見ると、手前側のエレベーターの扉が開いている。
「ゆたか!?」
閉まりかける扉を手で押さえ、私はエレベーターの中に飛び込んだ。
奥の壁にもたれかかるようにしてゆたかはいた。
誰かに殴られたんだろうか。頭を押さえて体を震わせている。
円錐型のアクセサリが床に落ちてはいたが、おかしなことに犯人の姿は影も形もなかった。
「ちくしょう!どこのどいつだ!?」
激昂し犯人をとっ捕まえてやろうと走り出す。
しかし。
「……待……って、センセ……」
ゆたかの小さな手が裾を掴み、私の動きは止められた。
「大丈夫かゆたか!?誰にやられた!?」
「ちが……うの……私……ころんで、階のボタンが、変に」
「階のボタン?」
その言葉に反応し、ふとそちらを見る。
そこにはあからさまに不自然な大きく、赤いボタンがあった。
◆
頭の痛みが収まるのを待って、私はゆたかにことの次第を尋ねた。
「おい、一体、これはどうなってんだ?」
「先生、心配かけてごめんなさい」
ゆたかが語ったところによると、真相はこうらしい。
ゆたかは自分の用事を済ませた後、トイレの外でしばらく私を待っていた。
しかし、私が一向に出てくる様子がないので、先に帰ろうと廊下を歩き始めたところ、行きには見逃していたエレベーターを発見した。
薄暗い階段を一人で降りていくことに若干の心細さを感じていた彼女はこれ幸いとエレベーターを呼び、これに乗る。
ところが、一階のボタンを押し、明智たちのところへ帰ろうとしたところで、疲れが出たのか急にめまいに襲われてしまった。
ぐらついた拍子にボタン下の金属板に強く体をぶつけたところ、突然、金属板が手前に勢いよく開く。
板に押されて吹き飛ばされた彼女は壁に頭をぶつけ、悲鳴をあげたところで私が気がついた……というわけらしい。
確かに見れば、行き先指定ボタンの下部にある金属部がごっそりこちらにせり出している。
しかも、せり出した部分の上には、これ見よがしな赤いボタン。
怪しい。
怪しすぎる。
もう、ここまで来るとボタンの横に“Danger”とか入ってないのが逆に不自然だ。
「ゆたか、階段で帰って明智にこのことを伝えてくれ」
「え……菫川先生はどうするんですか?」
「私はこのボタンを押してみる」
「ええ~~~~~~っ!!」
「しーっ!声が大きい!!」
「で、でも、それって危ないんじゃ……」
「大丈夫。螺旋王の目的から考えて、事故死するような危ないボタンは置いたりしないはずっ!多分」
「多分って!」
「いいから言うこと聞く!」
「あう~」
何と言うか、我ながら無茶な説得でゆたかを帰らせると、私はボタンに向き直った。
何でこんなことを言ってしまったのかは分からない。
普通に考えれば、明智や清麿に報せ、全員で確認してから動くのが筋だろう。
けど、それをしなかったのは何故か。
あるいは、何もできない自分に焦っていたのかもしれない。
あるいは、好奇心が勝ったのかもしれない。
――あるいは、それは作家としての直感だったのかもしれない。
何にせよ、私は息を吸い込むと迷うことなく手を伸ばし、ボタンを押した。
途端、扉が機械音を響かせながら閉じ、エレベーターは動き出した。
「エレベーターの隠しボタン、ねぇ」
私には奇妙な確信があった。
そう、私にとって、エレベーターの秘密は馴染みのあるものだったから。
神保町の秘密の本屋。
センセーに教えてもらったあの本屋。
センセーがいなくなったあとも、本を買うためしばしば立ち寄ったあの本屋。
エレベーターの秘密、隠された秘密の階といえば、私にとってはあそこしかない。
もしかしたら、あそこのことを知っていたからこそ、私はボタンを押すことを躊躇わなかったのかもしれない。
案の定、エレベーターは地下を突き破る。
本来、あるはずのないより下の階層へと降りていく。
チーンという音が鳴り、扉が開く。
しかし、そこにあったのはあの懐かしい本屋じゃなかった。
そこにあったのは――――闇だ。
◆
闇。
そこにあったのは一面の闇だった。
手を触れることのできそうな、掬えそうなほど濃い闇。
エレベータは地下を突き破り、地獄に落ちた。
そう言われたら信じてしまいそうなほど、目の前は絶望的な闇だった。
半ば予想していた未来を裏切られ、私の額には冷たい汗が浮かぶ。
ごくりと、唾を飲み込む喉の音さえ響くほど、ここは静かだ。
(な、何なんだよここはっ!?)
今更ながら、懐中電灯を持ってこなかったことを心底後悔する。
取りに帰ろうか、という考えが一瞬、頭を掠めたが、すぐに首を振って否定する。
(あんな無理言って出てきたんだ、ここで引いちゃあ、女が廃る)
我ながら無駄な男気、いや、女気か?と自分で自分に突っ込みを入れつつ、私は足を一歩前に踏み出した。
ふわりと、体が浮く錯覚を感じる。
エレベーターの光が届く範囲を出て、一歩一歩。
踏み込む闇は奈落のそれと多分変わらない。
足を踏み出すごとに、脳が落ちると誤解する。
闇から出ずる危険を恐れて、本能が神経を過敏にさせる。
上下左右どこもが奈落。
動いてないのに落ちている感覚。
歩いているのか、浮いているのか分からない。
手を突っ張って、自分の位置を確かめようと思っても、壁がどこにも見当たらない。
(ぐっ、思ったよりヤバイ!?やっぱ、ここは一遍、引き返して……っ?)
私らしからぬ弱気が体を蝕んだそのとき、闇に塞がれた目が何かを捉えた。
(あれは……何?)
遥か前方。
黒一色に塗りつぶされた視界の中に一箇所だけ、緑の点がある。
その点はまるで闇に潜む怪物の目のように動かず、じっとこっちを見つめている。
怖い、という感情よりも、見たい、という感情が勝った。
私はまるで誘蛾灯に引き寄せられる羽虫のように、ふらりふらりと光に向かう。
幸い、足元は人工的に均されているようで、引っかかるようなものはない。
近づくにつれ、緑の点が徐々に大きく、多くなっていく。
一つだった点が二つに。二つだった点が四つに。
夜光虫みたいだな、と私は思う。
水を掻くと、その軌跡にあわせて光る夜光虫。
その光が増えていく様をスローで再生してるみたいだ。
さらに近づく。
既に緑の光は点じゃない。
何か、明らかに人工の何かが緑色の光を発している。
(これは……何だ?)
私が記憶の底からその答えを引き上げる前に、視界が急に開けた。
(メロン、ジュース?)
私が始めに抱いた感想はそれだった。
視界一面に、光るグラス入りのメロンジュースが並んでいる。ご丁寧にチェリーまで浮かべて。
美味そうなメロンジュースたちはしかし、重力の法則に従う気がないらしく、巨大な球形の壁にびっしりと貼り付いている。
その中身を一滴もこぼすことなく。
もし、この世にメロンジュースが採れる畑があるなら、丁度、こんなようなものに違いない。
多分、私がはじめに歩いていた闇は廊下だったんだろう。
エレベータとこの球状のデカイ部屋を繋いでたってわけだ。
そしてその廊下は部屋の中でも途切れることなく続いていて、この空間のど真ん中、球の中心に向かって延びていた。
私はその上を導かれるように歩く。
(メロンジュースの海に降り立った美人女流作家……止めた。シュールにもほどがある)
部屋の中に完全に入ってしまい、球の半径を歩く段になってくると、段々目が慣れてきて、周りがクリアに見えてくる。
そうなってはじめて、私は今までメロンジュースだと思っていたものの正体を知った。
(これって確か!!)
私はそのメロンジュースたちを支給品リストで見たことがあった。
忘れるはずもない。
支給品の枠を三枠もとっていて、記述も多かったから印象に残っている。
「シズマ管……」
確か、そういう名前だったと思う。
シズマ博士って人が発明した完全無公害、完全リサイクル可能のエネルギー源、シズマドライブ。
でも、それには重大な欠陥があって、使い続けると、ある一定の時点で地球上の酸素を全て破壊しつくしてしまう。
この殺し合いに支給されてる三本はその欠陥を取り除くための、言わば修理装置。
で、修理の効果を発揮するためにはそのために作られた特別の機械に設置する必要が……っ!
「まさか!」
目を宙に泳がせ、支給品リストの記述を必死で再生した私は、気づいた。
だとするとここは!!
今までのぼんやりとした歩みを止め、私は全力で走り出した。
球の中心、廊下の終点を目指して。
中空に浮かんでいる廊下が衝撃に耐え切れずに揺れるが、そんなこと構やしない。
私の予想が正しければ、多分、ここには……
「あった……」
球の中心には私の思っていたものと同じものがあった。
多分、予備知識がなければ何に使うんだかさっぱり分からない機械。
そしてその上に空いた三つの穴!
「やっぱり……ここがアレを起動させるための場所なんだ」
凄いものを見つけてやった!という興奮が体を包んだのは一瞬だった。
すぐに冷たい疑問が背中を這い上がる。
これがここにあるってことは、螺旋王はアンチ・シズマ管をここで使うことを想定してるってこと。
アンチ・シズマ管の使用を想定してるってことはもしかして……
「この会場でも酸素の破壊が起こる……ってこと?」
私も明智もこれまでアンチ・シズマ管のことを「思わせぶりなだけのハズレ支給品」と判断してきた。
何せ、この殺し合いに支給されているもののなかにはハズレが多い。
ライトノベルだの、絵の具だの、ヘッドホンだの、ブリだの……一番酷いのはお菓子箱に割り箸をつけただけの玩具という体たらく。
これだけ見てると、螺旋王は本当は殺し合いをさせる気なんかないんじゃないかと思えてくる。
……って、でも、今回の明智の推理で本当にそうだったことが分かったことになるのか。
何だか……まあいい!!
とにかくそういうことだったから、アンチ・シズマ管もその中の一種だろうと考えて思考の脇に追いやってきた。
だが、ここにそれを起動させる装置があるとなれば話は別。
アンチ・シズマ管は実用品として支給された可能性がグンと高くなり、それに伴って
「アンチ・シズマ管を必要とする危機が実際に起こる可能性も高くなる……か」
くそっ!
それって実はかなりやばいんじゃないのか?
酸素が破壊されるなんてことになったら、起こる結果は一つ。
螺旋力もへったくれもなく、皆まとめてあの世行きだ。
この殺し合いが始まってから、もうすぐ二十四時間が経つ。
酸素破壊のタイムリミットがいつまでかは知らないが、現実に起こりうる範囲なんだとしたら、かなり差し迫っている恐れがある。
「いや、でも待てよ」
パニックに陥りそうな頭をもう一つの思考が押しとどめた。
(明智の推理が正しければ、螺旋王の目的は一人でも多くの参加者が螺旋力に目覚めること。
だったら、酸素破壊で全滅なんて、螺旋王からすりゃ最悪の結末なんじゃないのか?
ということはアンチ・シズマ管はやっぱりブラフ……ああっ、いや、でも)
理屈から考えれば酸素破壊はありえない。
けど、そう断定することもできない。
何せ、間違えば参加者全滅だ。
あまりに重い。重すぎる。
「あーちくしょー!!分からん!!どっちなんだ一体!?」
溜まったイライラを解消するように、廊下の手すりに拳を叩きつけた……その瞬間だった。
私の脳みそに、緑の稲妻が閃いた。
(――マッハキャリバーの力を借りて“変身”したの。バリアジャケットって言うんだって)
(――超科学や魔法が存在すると確認できた今)
「……アンチ・シズマ管」
(――イメージしてって言うから、動きやすそうのを思い浮かべてみたの。そしたら、こんなん出ました~!)
(――首輪に計測装置を仕込めばいいんです)
「……フォーグラー博士」
(――そうです。首輪を外した参加者はその時点でゲームクリア)
(――そうだ。アケチからの伝言。 ネネネに物語を書いてほしい――って)
出たくて、出たくて、うずうずしていたものが。
出たくても、出たくても、出て来れなかったものが。
それを切欠に。堰を切ったように。
溢れ出した。
*時系列順で読む
Back:[[W.O.D ~Wisemen On Discipline~]] Next:[[W.O.D ~Write Or Die~]]
*投下順で読む
Back:[[W.O.D ~Wisemen On Discipline~]] Next:[[W.O.D ~Write Or Die~]]
|239:[[W.O.D ~Wisemen On Discipline~]]|明智健悟|239:[[W.O.D ~Write Or Die~]]|
|239:[[W.O.D ~Wisemen On Discipline~]]|菫川ねねね|239:[[W.O.D ~Write Or Die~]]|
|239:[[W.O.D ~Wisemen On Discipline~]]|高嶺清麿|239:[[W.O.D ~Write Or Die~]]|
|239:[[W.O.D ~Wisemen On Discipline~]]|小早川ゆたか|239:[[W.O.D ~Write Or Die~]]|
**W.O.D ~World Of Darkness~ ◆RwRVJyFBpg
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「しっかし、女子トイレが建物に一つしかないってどうよ?
男女差別も甚だしいっつーか。なあ、ゆたかもそう思わない?」
辛気臭い刑務所の廊下を私とゆたかはとぼとぼと歩いていた。
向かう先は女性用トイレ。
おそらく男囚用だったと思われるこの監獄に一つしかない、女達の、ある意味パラダイス。
「しょうがないですよ。うちの学校の旧校舎とかもそうでしたし」
「はーっ、これだから古い建物は困るんだ!
しかもあるのが三階ってどういうことよ!?
普通は来客用に一階に作るだろうが!?」
長いミーティングを終えた私達は一旦解散し、休憩をとっていた。
ほどよい緊張から解放された後っていうのは、どういう理屈か知らないが何かもよおしてくる。
それは老いも若きも変わりはなく……そんなわけで、私とゆたかは女同士『ツレション』と洒落こんでるってわけ。
「……でも、凄いですよね」
私が相も変わらずブツブツ文句を言っていると、ゆたかが急に真面目な声で切り出した。
「ふぇ?何が?」
唐突な話題の変化に思わず変な声が出る。
「菫川先生、凄いですよ。
あんな風にいろいろ考えて、いろいろ言えるなんて、凄いです!
私なんて、途中からはついていくのが精一杯で……」
「……別にすごかないよ」
「そんなことないです!
菫川先生だけじゃなくて、明智さんも!高嶺君も!
首輪がどうとか、螺旋王さんの目的がどうとか、わたし、考えたこともありませんでした。
イリヤちゃんだって、一人で怖い人のところに説得に行ったりして、すごく立派……
……それに比べたら、私なんて何もできなくて……」
ゆたかの声が曇る。
足取りが鈍くなり、目線は下を向いてしまう。
心なしか、腕も震えているのが分かる。
さっきまでの気楽な空気はどこへやら、だ。
ああ、そうか、と思う。
ゆたかが何を考えてるのか。
ゆたかがさっきの会議に出ていて何を思ったか。
私には痛いほどに分かった。
「ゆたか」
「……なんですか」
「何もできないのは私も一緒だよ」
「……そんなことっ!」
「本当だよ。
私は明智や清麿みたいに頭がいいわけじゃないし、イリヤみたいに魔法が使えるわけでもない。
それに、ゆたかが一緒にいたDボゥイって人みたいに腕っ節が強いわけでもない」
そう、何もできない、何もできてないのは私も同じだから。
だけど……
「でも、菫川先生はちゃんと明智さんのお話についていってました!
おかしいと思ったところはちゃんと質問したりして。
それができるだけでも……」
「そんなのは慣れの問題さ。
私の方が事前に知ってた情報の量が多かったからそれだけ多くのことが言えた。そんだけのことだ」
「でも……」
「でもな、ゆたか」
しゃがみこみ、小さなゆたかの肩に手を乗せて、真っ直ぐ目を見る。
これだけは言わなきゃいけないと思ったから。
「いつまでもできないままでいちゃいけないんだ。
あんたも、私もね。
こんな私たちにだって、できることはある。
今までの自分を振り返ってみな。自分のできること、必ずあるはずだ。
そいつを見つけて、できるようにしなくちゃ。
例えば……あんたはイリヤの無事を祈ってやったじゃないか。
あれだって十分、あいつの助けになってるはずだ。
だから、もう、そんな顔すんな…………ほら」
袖口で、零れかけた涙を拭ってやる。
すると、ゆたかも自分が泣きそうなことに気づいたのか、慌てて目頭に手を遣り、涙を拭き取った。
「ごめんなさい、菫川先生。
何か情けないこと言っちゃって」
「いいって、いいって。
誰にでも愚痴りたくなることはあるさ」
「それじゃあ」
「ああ、出すもん出して、スッキリしよ」
やっと見えてきたトイレの入り口をくぐり、私たちはそれぞれの個室に入る。
バタンと、ドアの閉まる音が狭い室内に響いた。
◆
(あ~しかし、私も頑張らなきゃダメだよなあ、マジで)
穿いてたモンをおろし、便器に腰掛けてから、私は大きな溜め息をついた。
ゆたか相手に随分と偉そうなことを言ったが、実際は人のことを言えた義理じゃない。
(ゆたかの言うとおり、明智も清麿も、イリヤもすごいよ。
あれだけのことをサラっとやってのけるんだから)
イリヤは危険人物が密集している映画館に自分で志願して行った。
大切な人を救い出し、元の世界での敵を説得するために。
明智と清麿は首輪や各種の資料を研究し、あれだけの推理を展開してみせた。
この後は『エド』とやらが施設に情報を送った方法を調べるつもりらしい。
もし分かれば、同じ方法を使ってさっきの仮説を流し、生き残りの参加者に戦いを止めるよう促すつもりだそうだ。
また、首輪解除の効果をはっきりさせるため、螺旋力による解除を実際に試してみることも検討中。
確かに、首輪を外したら実際どうなるのかがはっきり分かれば、明智の言う『螺旋力を材料にした実験中止』の余地も出てくる。
できることはまだまだあるって感じだ。
それに比べて私はどうか?
多分、私が今やらなきゃいけないことは、螺旋王の筋書きを覆すシナリオを作ることだ。
私の本で奴の計画をひっくり返し、物語をハッピーエンドに導くことだ。
それを実現する小説を書くため、私はもうずっと頭を捻り続けている。
殺人者から逃げながら、明智の話を聞きながら。
でも、ネタが浮かばない。
こういうときに限って、一行たりとも書くべき文章が出てこない。
書きたいものはある。
何かこう、漠然としたものが胸に溜まってウゾウゾしてるのは分かるんだ。
でも、それが言葉にならない。形にならない。
(あーっ、クソッ!!
これじゃ自分の部屋でパソコンの前に座ってるのと変わらないじゃないか!
しっかりしろ!菫川ねねね!!)
せっかく一人になれたんだ。
この機会に集中して考えてみよう。
そう思って目を閉じ、意識を集中し、頭をわさわさと掻く。
脳みそのギアを入れ、中身を撹拌し、物語を抽出しようと試みる。
心臓あたりに溜まった情念を、小説という鋳型に嵌めて、吐き出そうと試みる。
試みる。
試みる。
試みる。
――結局私は出すものを出し終わった後も、文章の一切れたりとひねり出すことはできなかった。
◆
錆びかけの蛇口を捻り、水を出す。
手を晒すと、凍るような冷たさだった。
「ゆたか~」
手を洗いながら呼びかけるが、返事は返ってこない。
どうやら、私がうんうん唸っている間に早々と出てしまったらしい。
そういえば、ついつい長篭りしてしまった気がしなくもない。
(あ~~まずったなー。便秘と勘違いされたかね、こりゃ)
そんな馬鹿なことを考えながら、廊下に出る。
けど、そこにもゆたかの姿はない。
暗く、陰鬱な白い廊下だけが延々と続いている。
「ゆたか?」
待ちかねて先に帰っちゃったんだろうか。
そう思い、明智たちのいる部屋へ帰ろうと、踵を返した矢先。
「きゃっ!?」
というゆたかの短い悲鳴と
金属で殴りつけるような鈍い音が響いた。
「ゆたかっ!!」
私はその音に何か危険なものを感じ、音がした方へとダッシュする。
廊下を行きに来た方向へ少し走り、角を曲がったそこはエレベーターホール。
やはり薄暗いそこには、飾りっ気ゼロのエレベーターが二基あった。
見ると、手前側のエレベーターの扉が開いている。
「ゆたか!?」
閉まりかける扉を手で押さえ、私はエレベーターの中に飛び込んだ。
奥の壁にもたれかかるようにしてゆたかはいた。
誰かに殴られたんだろうか。頭を押さえて体を震わせている。
円錐型のアクセサリが床に落ちてはいたが、おかしなことに犯人の姿は影も形もなかった。
「ちくしょう!どこのどいつだ!?」
激昂し犯人をとっ捕まえてやろうと走り出す。
しかし。
「……待……って、センセ……」
ゆたかの小さな手が裾を掴み、私の動きは止められた。
「大丈夫かゆたか!?誰にやられた!?」
「ちが……うの……私……ころんで、階のボタンが、変に」
「階のボタン?」
その言葉に反応し、ふとそちらを見る。
そこにはあからさまに不自然な大きく、赤いボタンがあった。
◆
頭の痛みが収まるのを待って、私はゆたかにことの次第を尋ねた。
「おい、一体、これはどうなってんだ?」
「先生、心配かけてごめんなさい」
ゆたかが語ったところによると、真相はこうらしい。
ゆたかは自分の用事を済ませた後、トイレの外でしばらく私を待っていた。
しかし、私が一向に出てくる様子がないので、先に帰ろうと廊下を歩き始めたところ、行きには見逃していたエレベーターを発見した。
薄暗い階段を一人で降りていくことに若干の心細さを感じていた彼女はこれ幸いとエレベーターを呼び、これに乗る。
ところが、一階のボタンを押し、明智たちのところへ帰ろうとしたところで、疲れが出たのか急にめまいに襲われてしまった。
ぐらついた拍子にボタン下の金属板に強く体をぶつけたところ、突然、金属板が手前に勢いよく開く。
板に押されて吹き飛ばされた彼女は壁に頭をぶつけ、悲鳴をあげたところで私が気がついた……というわけらしい。
確かに見れば、行き先指定ボタンの下部にある金属部がごっそりこちらにせり出している。
しかも、せり出した部分の上には、これ見よがしな赤いボタン。
怪しい。
怪しすぎる。
もう、ここまで来るとボタンの横に“Danger”とか入ってないのが逆に不自然だ。
「ゆたか、階段で帰って明智にこのことを伝えてくれ」
「え……菫川先生はどうするんですか?」
「私はこのボタンを押してみる」
「ええ~~~~~~っ!!」
「しーっ!声が大きい!!」
「で、でも、それって危ないんじゃ……」
「大丈夫。螺旋王の目的から考えて、事故死するような危ないボタンは置いたりしないはずっ!多分」
「多分って!」
「いいから言うこと聞く!」
「あう~」
何というか、我ながら無茶な説得でゆたかを帰らせると、私はボタンに向き直った。
何でこんなことを言ってしまったのかは分からない。
普通に考えれば、明智や清麿に報せ、全員で確認してから動くのが筋だろう。
けど、それをしなかったのは何故か。
あるいは、何もできない自分に焦っていたのかもしれない。
あるいは、好奇心が勝ったのかもしれない。
――あるいは、それは作家としての直感だったのかもしれない。
何にせよ、私は息を吸い込むと迷うことなく手を伸ばし、ボタンを押した。
途端、扉が機械音を響かせながら閉じ、エレベーターは動き出した。
「エレベーターの隠しボタン、ねぇ」
私には奇妙な確信があった。
そう、私にとって、エレベーターの秘密は馴染みのあるものだったから。
神保町の秘密の本屋。
センセーに教えてもらったあの本屋。
センセーがいなくなったあとも、本を買うためしばしば立ち寄ったあの本屋。
エレベーターの秘密、隠された秘密の階といえば、私にとってはあそこしかない。
もしかしたら、あそこのことを知っていたからこそ、私はボタンを押すことを躊躇わなかったのかもしれない。
案の定、エレベーターは地下を突き破る。
本来、あるはずのないより下の階層へと降りていく。
チーンという音が鳴り、扉が開く。
しかし、そこにあったのはあの懐かしい本屋じゃなかった。
そこにあったのは――――闇だ。
◆
闇。
そこにあったのは一面の闇だった。
手を触れることのできそうな、掬えそうなほど濃い闇。
エレベータは地下を突き破り、地獄に落ちた。
そう言われたら信じてしまいそうなほど、目の前は絶望的な闇だった。
半ば予想していた未来を裏切られ、私の額には冷たい汗が浮かぶ。
ごくりと、唾を飲み込む喉の音さえ響くほど、ここは静かだ。
(な、何なんだよここはっ!?)
今更ながら、懐中電灯を持ってこなかったことを心底後悔する。
取りに帰ろうか、という考えが一瞬、頭を掠めたが、すぐに首を振って否定する。
(あんな無理言って出てきたんだ、ここで引いちゃあ、女が廃る)
我ながら無駄な男気、いや、女気か?と自分で自分に突っ込みを入れつつ、私は足を一歩前に踏み出した。
ふわりと、体が浮く錯覚を感じる。
エレベーターの光が届く範囲を出て、一歩一歩。
踏み込む闇は奈落のそれと多分変わらない。
足を踏み出すごとに、脳が落ちると誤解する。
闇から出ずる危険を恐れて、本能が神経を過敏にさせる。
上下左右どこもが奈落。
動いてないのに落ちている感覚。
歩いているのか、浮いているのか分からない。
手を突っ張って、自分の位置を確かめようと思っても、壁がどこにも見当たらない。
(ぐっ、思ったよりヤバイ!?やっぱ、ここは一遍、引き返して……っ?)
私らしからぬ弱気が体を蝕んだそのとき、闇に塞がれた目が何かを捉えた。
(あれは……何?)
遥か前方。
黒一色に塗りつぶされた視界の中に一箇所だけ、緑の点がある。
その点はまるで闇に潜む怪物の目のように動かず、じっとこっちを見つめている。
怖い、という感情よりも、見たい、という感情が勝った。
私はまるで誘蛾灯に引き寄せられる羽虫のように、ふらりふらりと光に向かう。
幸い、足元は人工的に均されているようで、引っかかるようなものはない。
近づくにつれ、緑の点が徐々に大きく、多くなっていく。
一つだった点が二つに。二つだった点が四つに。
夜光虫みたいだな、と私は思う。
水を掻くと、その軌跡にあわせて光る夜光虫。
その光が増えていく様をスローで再生してるみたいだ。
さらに近づく。
既に緑の光は点じゃない。
何か、明らかに人工の何かが緑色の光を発している。
(これは……何だ?)
私が記憶の底からその答えを引き上げる前に、視界が急に開けた。
(メロン、ジュース?)
私が初めに抱いた感想はそれだった。
視界一面に、光るグラス入りのメロンジュースが並んでいる。ご丁寧にチェリーまで浮かべて。
美味そうなメロンジュースたちはしかし、重力の法則に従う気がないらしく、巨大な球形の壁にびっしりと貼り付いている。
その中身を一滴もこぼすことなく。
もし、この世にメロンジュースが採れる畑があるなら、丁度、こんなようなものに違いない。
多分、私が初めに歩いていた闇は廊下だったんだろう。
エレベータとこの球状のデカイ部屋を繋いでたってわけだ。
そしてその廊下は部屋の中でも途切れることなく続いていて、この空間のど真ん中、球の中心に向かって延びていた。
私はその上を導かれるように歩く。
(メロンジュースの海に降り立った美人女流作家……止めた。シュールにもほどがある)
部屋の中に完全に入ってしまい、球の半径を歩く段になってくると、段々目が慣れてきて、周りがクリアに見えてくる。
そうなって初めて、私は今までメロンジュースだと思っていたものの正体を知った。
(これって確か!!)
私はそのメロンジュースたちを支給品リストで見たことがあった。
忘れるはずもない。
支給品の枠を三枠もとっていて、記述も多かったから印象に残っている。
「シズマ管……」
確か、そういう名前だったと思う。
シズマ博士って人が発明した完全無公害、完全リサイクル可能のエネルギー源、シズマドライブ。
でも、それには重大な欠陥があって、使い続けると、ある一定の時点で地球上の酸素を全て破壊し尽くしてしまう。
この殺し合いに支給されてる三本はその欠陥を取り除くための、言わば修理装置。
で、修理の効果を発揮するためにはそのために作られた特別な機械に設置する必要が……っ!
「まさか!」
目を宙に泳がせ、支給品リストの記述を必死で再生した私は、気づいた。
だとするとここは!!
今までのぼんやりとした歩みを止め、私は全力で走り出した。
球の中心、廊下の終点を目指して。
中空に浮かんでいる廊下が衝撃に耐え切れずに揺れるが、そんなこと構やしない。
私の予想が正しければ、多分、ここには……
「あった……」
球の中心には私の思っていたものと同じものがあった。
多分、予備知識がなければ何に使うんだかさっぱり分からない機械。
そしてその上に空いた三つの穴!
「やっぱり……ここがアレを起動させるための場所なんだ」
凄いものを見つけてやった!という興奮が体を包んだのは一瞬だった。
すぐに冷たい疑問が背中を這い上がる。
これがここにあるってことは、螺旋王はアンチ・シズマ管をここで使うことを想定してるってこと。
アンチ・シズマ管の使用を想定してるってことはもしかして……
「この会場でも酸素の破壊が起こる……ってこと?」
私も明智もこれまでアンチ・シズマ管のことを「思わせぶりなだけのハズレ支給品」と判断してきた。
何せ、この殺し合いに支給されているもののなかにはハズレが多い。
ライトノベルだの、絵の具だの、ヘッドホンだの、ブリだの……一番酷いのはお菓子箱に割り箸をつけただけの玩具という体たらく。
これだけ見てると、螺旋王は本当は殺し合いをさせる気なんかないんじゃないかと思えてくる。
……って、でも、今回の明智の推理で本当にそうだったことが分かったことになるのか。
何だか……まあいい!!
とにかくそういうことだったから、アンチ・シズマ管もその中の一種だろうと考えて思考の脇に追いやってきた。
だが、ここにそれを起動させる装置があるとなれば話は別。
アンチ・シズマ管は実用品として支給された可能性がグンと高くなり、それに伴って
「アンチ・シズマ管を必要とする危機が実際に起こる可能性も高くなる……か」
くそっ!
それって実はかなりやばいんじゃないのか?
酸素が破壊されるなんてことになったら、起こる結果は一つ。
螺旋力もへったくれもなく、皆まとめてあの世行きだ。
この殺し合いが始まってから、もうすぐ二十四時間が経つ。
酸素破壊のタイムリミットがいつまでかは知らないが、現実に起こりうる範囲なんだとしたら、かなり差し迫っている恐れがある。
「いや、でも待てよ」
パニックに陥りそうな頭をもう一つの思考が押しとどめた。
(明智の推理が正しければ、螺旋王の目的は一人でも多くの参加者が螺旋力に目覚めること。
だったら、酸素破壊で全滅なんて、螺旋王からすりゃ最悪の結末なんじゃないのか?
ということはアンチ・シズマ管はやっぱりブラフ……ああっ、いや、でも)
理屈から考えれば酸素破壊はありえない。
けど、そう断定することもできない。
何せ、間違えば参加者全滅だ。
あまりに重い。重すぎる。
「あーちくしょー!!分からん!!どっちなんだ一体!?」
溜まったイライラを解消するように、廊下の手すりに拳を叩きつけた……その瞬間だった。
私の脳みそに、緑の稲妻が閃いた。
(――マッハキャリバーの力を借りて“変身”したの。バリアジャケットって言うんだって)
(――超科学や魔法が存在すると確認できた今)
「……アンチ・シズマ管」
(――イメージしてって言うから、動きやすそうのを思い浮かべてみたの。そしたら、こんなん出ました~!)
(――首輪に計測装置を仕込めばいいんです)
「……フォーグラー博士」
(――そうです。首輪を外した参加者はその時点でゲームクリア)
(――そうだ。アケチからの伝言。 ネネネに物語を書いてほしい――って)
出たくて、出たくて、うずうずしていたものが。
出たくても、出たくても、出て来れなかったものが。
それを切欠に。堰を切ったように。
溢れ出した。
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