「邪魔する虫」(2022/09/19 (月) 07:43:04) の最新版変更点
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**邪魔する虫 ◆RwRVJyFBpg
青空の下、鈍い銀色の構造群が輝く。
黒い海を足元に跪かせ、己が威容を主張する工場の只中を、走る影が一つ。
倉庫の屋根を蹴り、太いパイプを伝い、梯子を掴んで影は昇る。
赤と白の縞模様に塗り分けられた煙突を上へ上へと進んでいく。
薄汚れた赤マントが高所の風に吹かれてばさばさとなびく。
されど、ドモン・カッシュは煙突の先だけを見つめ、足早にただ駆け上がっていく。
彼自身の切実な目的のために。
◇
時はわずかに遡る。
言峰との接触を終えたドモンは、ある工場の事務室で体を休めていた。
双剣の少年、傷の男、そして言峰。
一筋縄ではいかぬ強者との連戦に体力を根こそぎ奪い取られ、休息を余儀なくされていたのだ。
もちろんこれは、一刻も早い螺旋王打倒に燃える彼にとっては、いささか不本意なことではあった。
しかし、万全ではない状態で無理に戦い続けても、いい結果が得られないことが分からぬドモンでもない。
その後、水分を補充し、緑の毛布で覆われた柔らかいソファーに体を沈めて休むこと数時間。
体を蝕んでいた不快な消耗の疼きは薄れ、ほとんど消えかけていた。
「……やはりここにもないか」
そして、疲労が概ね回復したことを感じ取った彼は、何を思ったのか突然立ち上がり、部屋の中を漁り始めた。
備え付けの戸棚を開け、机の引き出しをまさぐり、シンクの下の収納を覗き込む。
しかし、どうやら、そのような探索は思わしい成果をあげられていないようであり、ドモンの口からは愚痴がこぼれている。
一体、どうして彼はこのような行動をとっているのか?
その答えは、彼が休憩中に思い至ったある『こと』に起因している。
人心地ついたのちに、今後の方針に思いを巡らせようとした時、彼は不意にその『こと』を思いついた。
いや、正確を規すならば思い出したと言った方が当たっているかもしれない。
その『こと』は、とても重要なことであるにもかかわらず、ここに来て以来ずっと忘れられていたのだ。
だから、一度思い出してしまうと、ドモンの頭と神経はその『こと』に釘付けになった。
「ちっ、ここでは無理だな。他を当たるか……」
部屋を一通り検分し終わると、忌々しげに呟く。
ここで目的を達することは難しいと考えたドモンは、ソファに掛けてあったあったマントを無造作に掴むと
そのまま、出口へと足早に歩を進める。だが
「さて、二度目の放送を行う。
無事にこれを聞いていられる貴様達には、ひとまずおめでとうと言っておこうか――」
彼の手がドアノブにかかる前に、二回目の放送が始まった。
◆
「風浦可符香が死んだ……」
事務室のドアの前に立ったまま、俺は呆けたように呟いた。
目を閉じ、頭を目の前のドアにもたせかけると、そのまま、固めた拳を金属の戸板に叩きつける。
ベギンと重い音がして表面がわずかに凹んだ。
「気づけたはずだろう……こんな殺し合いの場にただの少女が一人きり……どれだけ危険なことなのか」
俺は自らの浅はかさを悔いていた。
いくら自分の道を示されて興奮していたとはいえ、あそこで彼女を置き去りにするのは取り返しのつかない失態だ。
だいたい、俺があのとき、エドを探す手間も惜しんで走り出したのは何のためだった?
ファイトを通じて外道を倒し、仲間を集め、“弱者を守る”ためじゃなかったのか?
弱者を守る――なら何故、真っ先に目の前の少女を守ることを考えなかった!?
「……俺は結局、ファイトの期待に酔っていただけなのか」
もう一度両の拳をドアに叩きつけ、自分を戒めるように歯を食いしばる。
そう、俺は強い奴と気兼ねなく戦える興奮に身を任せるあまり、大事なことが疎かになっていたのだ。
今になって冷静に思い返してみれば、俺の失態が風浦可符香の一件だけではないことに気づく。
まずエドだ。
この世界に来てすぐに出会ったいたいけな少女を、俺はどうした?
……置き去りにしたんじゃないのか。死んだ風浦可符香と同じように!
それも、注意が逸れている間に、どこかへ消えてしまったという、普通に考えれば危険な状態であったにもかかわらず……だ。
放送を聞く限り、エドはまだ生きているようだが……この調子では、いつ殺人鬼の餌食にならないとも限らない。
何せ、この半日で二十人そこそこの人間が死んでいるんだからな。
……いや、もしかしたら、既に悪漢の牙に晒されたが
合流していた風浦可符香がそれをうまく逃がしたのかもしれない。
そして風浦可符香はエドを守るためにその命を……という可能性も十分にあり得る。
だとしたら、彼女は俺が殺したようなものだ。
それから、双剣の男と銃使いの女。
俺はあの二人、特に双剣の男とはお互い丹念に拳を交わし、心を通じさせることに成功した。
だが、その後、俺がとった行動は一体何だった?
――『俺はこれからこの会場を戦って回る。お前はさっきの女と合流しておけ』
――『な、に?』
そうだ。新たなファイトを行うことばかりに気がいき、完全に本来の目的を、“仲間を集める”という目的を失念していた。
もし、あそこであの二人と合流していれば、今頃、俺は有用な情報を手に入れ、螺旋王と戦う道筋を見出していたかもしれん。
だが、それに比べて現実の俺はどうだ?
未だあの男に至る方法どころか、今、自分のいる場所すら満足に知ることすらできていない。
こんなことをいつまでも繰り返していては、螺旋王の打倒など夢のまた夢だ。
「反省を……せねばならんようだな」
俺はドアに頭をつけたまま考える。
額越しに感じるひんやりとした金属の感触は、心なしか精神を研ぎ澄ましてくれる気がした。
一体、何が間違っていたというのだろう?
やはり、誰彼構わずにファイトを挑むというやり方が正しくなかったのか?
否。それは違う。
風浦可符香が俺に授けてくれたこのやり方は間違ったものではないとはっきり言える。
傷の男や言峰との闘いがそれを証明している。
傷の男。
凄まじい力を持つ奴の心を俺に伝えてくれたのは、紛れも無くあのガンダムファイトだ。
あのファイトを通して、俺は奴の拳の裏にある奴の思い、奴が抱える怒りや悲しみ、そして復讐の心を知ることができた。
おそらく、奴のあの頑なな心に、生半可な言葉は通用しまい。
奴の心を溶かすことができるとしたら……それは拳だ。魂の篭った拳同士の闘いだけだ。
……かつての俺がそうだったように。
そして、言峰。
あの男についても、拳をあわせてはじめて分かったことがある。
それは、あの男が紛れも無い『悪』を抱え込んだ男だということだ。
確かに、奴は武道家としては気持ちのよい男。
天から授かった恵まれた肉体を、禁欲的に研ぎ澄まし、丁寧に丁寧に完成させたクンフーは素直に尊敬できる代物だ。
……だが、奴の拳に込められているのはそれだけではない。
例えようもなく黒く、粘りつくように邪な何かが、奴の技には宿っている。
言峰と対峙していると、ときおり、その『悪』が俺を丸呑みにしようと口を開けるような感触に襲われる。
まるで、黒いヘドロでできた獣が俺の体を覆いつくそうとしているような、そんな感覚に。
そしてそれは、かつて俺がデビルガンダムと対峙したときに感じたものと……極めて近い。
俺が奴に仲間として合流を申し出なかったのも、その『悪』の感触ゆえだ。
見たところ、殺し合いに乗っている様子はなさそうだったから捨て置いたが
もし、再び見えることがあれば、注意する必要があるかもしれん。
この二人に関するこういう事実は、もし直接ファイトすることがなかったら、分からなかっただろう。
自慢じゃないが、俺は頭も悪いし口も巧くない。
そんな俺が仲間を集めるためには、このやり方をとるのが妥当であるのは間違いない。
では、間違っていたのは何か?
決まっている。ファイトという手段の使い方が間違っていたのだ。
そう、俺は今まで、ファイト自体に拘るあまり、その後のことを全く考えていなかった。
とにかくファイトしなければ!一人でも多くの人と、一刻も早く!
俺は今までそれだけを考え、本来の目的を見失っていたのだ。
だから、これからはそんなんじゃいけない。あくまでファイトは手段。
敵を打ち倒し、仲間を集め、弱きを守るための手段だ。
これからはそれを肝に銘じ、確固たる目的を持って戦わなければならん!!
「『漢』とは、拳を通して分かり合う者……か。
すまなかった、風浦可符香。人と分かり合って何を為すのか、俺はそこをすっかり忘れていた。
やはり俺はまだまだ修行が足りんようだ」
風浦可符香の言葉を思い出し、顔を上げる。
さっきの放送によれば、この六時間のうちに殺された者の数は十六名。
殺し合いは確実に加速している。
一刻も早く止めなければさらなる犠牲者がでるのは必至だろう。
もう、目先の戦いを楽しんでいる暇は無い。
「だから……そのためにもまず……」
俺は、放送が始まる前、自分がしようとしていたことを不意に思い出す。
その『こと』を果たすため、俺はドアを開け放ち、部屋の外へと歩み始めた。
◆
ばさばさと風に翻弄されるマントを意に介すこともなく、ドモン・カッシュは立っていた。
煙突が誇る地上150mに臆する様子を微塵も見せず、ただ下界を睨みつけている。
北には黒く輝く海を挟んで、芝とコンクリートのだだっ広い平地を備えた滑走路。
東と西には灰と銀の威容がこちらを圧する大工場群。
そして、南には青々と茂った緑も眩しく、山峰が連なる。
その光景はまさに大パノラマと言ってよかったが、別に彼は景色を楽しむためにここへ来たわけではない。
ドモンがここに来た目的、それは有り体に言ってしまえば「人探し」である。
最早、間違ったファイトをせず、敵を倒し、仲間を集め、弱きを守ることを決意したドモンであったが
そのどれも、とどのつまり、他人がいなければ行うことができない。
加えて、彼には一刻も早く他人を見つけたいもう一つの理由があった。
それは――
「……グキュゥーーーーー……」
どこからともなく、動物がいななくような音が聞こえてくる。
その音源を探ってみれば……然り。音はドモンの腹の辺りから聞こえてくる。
「……ちっ!武士は食わねどなんとやらと言うが……
やはり荷物を全部やってしまったのは間違いだったか?」
つまるところ、ドモン・カッシュは空腹だった。
体を休め、とりあえずの疲労が体から去ると、入れ替わるように激しい空腹が彼を襲った。
これまでの激しい戦いが彼の中に貯蔵されたエネルギーを根こそぎ奪い去っていったため
彼の体は代償物としての食べ物を求めて、一斉に騒ぎ出したのである。
その要求に答え、自分の本能を抑えるため、ドモンはあの事務室を探してみたのだが……結果はご存知の通りだ。
あの後、食料を求めて、目ぼしい工場の食堂や売店をあたってみたのだが
運の悪いことに、そこには何一つ食べられるようなものは置いていなかった。
そこで高所に上り、レストランや市場など食料のありそうな場所を探そうとしたのだが、これも失敗。
煙突の周囲には工場地帯と住宅街が広がっており、それらしい建物を見つけることはできない。
結果に絶望した彼は、方針を切り替えて、まず他人を探し、間接的に食料を得ることに決めたのだ。
(これからもまだまだ厳しい戦いは続くはず……
そんなときに空腹が原因で負けたとあっては、一生の不覚だからな。
……とりあえず、人を見つけたら、まず今まで通りファイトを仕掛ける。
そして、相手が悪人なら斃して食料を手に入れる。相手が善人なら謝って食料を手に入れる。
相手がどちらか分からなければ……何とかして食料を手に入れるッ!!)
「その過程で仲間にふさわしい人間に出会えればなおいい」などと
ずれたことを考えている男を尻目に、風は青空を吹き渡っていく。
山から降りてきた強風はドモンの傍を通り過ぎて狭い海を渡り、広がる滑走路にまでその手を伸ばす。
「キャッ!」
「…………どうした?」
「……いや、あの……その……ちょっとスカートが……」
「そ、そうか……それは……スマン」
……そうして伸びた風の手は、奇妙な二人を優しく撫でた。
◇
漢の決意、邪魔する虫は腹の虫。
コンテナの齎す影を抜け、二人が漢の視界に入るまで、あと、少し――――
【G-3/煙突/1日目/日中】
【ドモン・カッシュ@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:空腹(大)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:己を鍛え上げつつ他の参加者と共にバトルロワイアルを阻止し、螺旋王をヒートエンド
1:食料を手に入れる
2:積極的に、他の参加者にファイトを申し込む(目的を忘れない程度に戦う)
3:ゲームに乗っている人間は(基本的に拳で)説き伏せ、弱者は保護し、場合によっては稽古をつける
4:傷の男(スカー)を止める
5:一通り会場を回って双剣の男(士郎)と銃使いの女(なつき)と合流する
6:言峰に武道家として親近感。しかし、人間としては警戒。
[備考]:
※本編終了後からの参戦。
※参加者名簿に目を通していません 。
※地図にも目を通していません。フィーリングで会場を回っています 。
※正々堂々と戦闘することは悪いことだとは考えていません 。
※なつきはかなりの腕前だと思い込んでいます。
【G-3/空港/1日目/日中・放送直後】
【チーム:Joker&Fake Joker】
【ヴィラル@天元突破グレンラガン】
[状態]:脇腹に傷跡(ほぼ完治・微かな痛み)、胸焼け
[装備]:ワルサーWA2000(3/6)@現実 、大鉈@現実
モネヴ・ザ・ゲイルのバルカン砲@トライガン(あと9秒連射可能、ロケット弾は一発)
[道具]:支給品一式、ワルサーWA2000用箱型弾倉x4、鉄の手枷@現実
[思考]
基本:ゲームに乗る。人間は全員殺す。
0:……くそっ、何だこの恥ずかしさは!
1:中央部近辺に向かい、激戦区を観察。そしてそこから逃げてきたものを殺す。
2:シャマルに礼を尽くす。その為にも、クラールヴィントと魔鏡のかけらをどうにかして手に入れたい。
3:蛇女(静留)に味わわされた屈辱を晴らしたい。
4:『クルクル』と『ケンモチ』との決着をつける。
[備考]
螺旋王による改造を受けています。
①睡眠による細胞の蘇生システムは、場所と時間を問わない。
②身体能力はそのままだが、文字が読めるようにしてもらったので、名簿や地図の確認は可能。
…人間と同じように活動できるようになったのに、それが『人間に近づくこと』とは気づいていない。
単純に『実験のために、獣人の欠点を克服させてくれた』としか認識してない。
※二アが参加している事に気づきました。
※機動六課メンバーをニンゲン型の獣人だと認識しました。
※なのは世界の魔法について簡単に理解しましたが、それは螺旋王の持つ技術の一つだと思っています。
また、その事から参加者の中で魔法が使えるのは機動六課メンバーだけであるとも思っています。
※螺旋王の目的を『“一部の人間が持つ特殊な力”の研究』ではないかと考え始めました。
【シャマル@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[状態]:魔力消費 中
[装備]:ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:支給品一式×2、バルサミコ酢の大瓶(残り1/2)@らき☆すた、魔鏡のかけら@金色のガッシュベル!!
[思考]
基本:八神はやてを守る為に、六課メンバー以外の全員を殺す。けれど、なるべく苦しめたくは無い。
0:……
1:中央部近辺に向かい、激戦区を観察。そしてそこから逃げてきたものを殺す。
2:しばらくの間はヴィラルと行動する。
3:クラールヴィントと魔鏡のかけらを手に入れたい。
※宝具という名称を知りません。
※ゲイボルク@Fate/stay nightをハズレ支給品だと認識しています。
※魔力に何かしらの制限が掛けられている可能性に気付きました。
※魔鏡のかけらを何らかの魔力増幅アイテムと認識しましたが、
どうやって使用する物なのか、また全部で何枚存在しているのかはまだ理解していません。
*時系列順で読む
Back:[[幼年期の終わり]] Next:[[言峰綺礼の愉悦]]
*投下順で読む
Back:[[幼年期の終わり]] Next:[[言峰綺礼の愉悦]]
|141:[[金ぴかと本と熱血格闘家とあたし]]|ドモン・カッシュ|182:[[いまひとたびの生]]|
|167:[[ヴィラルシャマルの事情]]|ヴィラル|179:[[戦闘機人は電気椅子の夢を見るか]]|
|167:[[ヴィラルシャマルの事情]]|シャマル|179:[[戦闘機人は電気椅子の夢を見るか]]|
**邪魔する虫 ◆RwRVJyFBpg
青空の下、鈍い銀色の構造群が輝く。
黒い海を足元に跪かせ、己が威容を主張する工場の只中を、走る影が一つ。
倉庫の屋根を蹴り、太いパイプを伝い、梯子を掴んで影は昇る。
赤と白の縞模様に塗り分けられた煙突を上へ上へと進んでいく。
薄汚れた赤マントが高所の風に吹かれてばさばさとなびく。
されど、ドモン・カッシュは煙突の先だけを見つめ、足早にただ駆け上がっていく。
彼自身の切実な目的のために。
◇
時はわずかに遡る。
言峰との接触を終えたドモンは、ある工場の事務室で体を休めていた。
双剣の少年、傷の男、そして言峰。
一筋縄ではいかぬ強者との連戦に体力を根こそぎ奪い取られ、休息を余儀なくされていたのだ。
もちろんこれは、一刻も早い螺旋王打倒に燃える彼にとっては、いささか不本意なことではあった。
しかし、万全ではない状態で無理に戦い続けても、いい結果が得られないことが分からぬドモンでもない。
その後、水分を補充し、緑の毛布で覆われた柔らかいソファーに体を沈めて休むこと数時間。
体を蝕んでいた不快な消耗の疼きは薄れ、ほとんど消えかけていた。
「……やはりここにもないか」
そして、疲労が概ね回復したことを感じ取った彼は、何を思ったのか突然立ち上がり、部屋の中を漁り始めた。
備え付けの戸棚を開け、机の引き出しをまさぐり、シンクの下の収納を覗き込む。
しかし、どうやら、そのような探索は思わしい成果をあげられていないようであり、ドモンの口からは愚痴がこぼれている。
一体、どうして彼はこのような行動をとっているのか?
その答えは、彼が休憩中に思い至ったある『こと』に起因している。
人心地ついたのちに、今後の方針に思いを巡らせようとした時、彼は不意にその『こと』を思いついた。
いや、正確を規すならば思い出したと言った方が当たっているかもしれない。
その『こと』は、とても重要なことであるにもかかわらず、ここに来て以来ずっと忘れられていたのだ。
だから、一度思い出してしまうと、ドモンの頭と神経はその『こと』に釘付けになった。
「ちっ、ここでは無理だな。他を当たるか……」
部屋を一通り検分し終わると、忌々しげに呟く。
ここで目的を達することは難しいと考えたドモンは、ソファに掛けてあったマントを無造作に掴むと
そのまま、出口へと足早に歩を進める。だが
「さて、二度目の放送を行う。
無事にこれを聞いていられる貴様達には、ひとまずおめでとうと言っておこうか――」
彼の手がドアノブにかかる前に、二回目の放送が始まった。
◆
「風浦可符香が死んだ……」
事務室のドアの前に立ったまま、俺は呆けたように呟いた。
目を閉じ、頭を目の前のドアにもたせかけると、そのまま、固めた拳を金属の戸板に叩きつける。
ベギンと重い音がして表面がわずかに凹んだ。
「気づけたはずだろう……こんな殺し合いの場にただの少女が一人きり……どれだけ危険なことなのか」
俺は自らの浅はかさを悔いていた。
いくら自分の道を示されて興奮していたとはいえ、あそこで彼女を置き去りにするのは取り返しのつかない失態だ。
だいたい、俺があのとき、エドを探す手間も惜しんで走り出したのは何のためだった?
ファイトを通じて外道を倒し、仲間を集め、“弱者を守る”ためじゃなかったのか?
弱者を守る――なら何故、真っ先に目の前の少女を守ることを考えなかった!?
「……俺は結局、ファイトの期待に酔っていただけなのか」
もう一度両の拳をドアに叩きつけ、自分を戒めるように歯を食いしばる。
そう、俺は強い奴と気兼ねなく戦える興奮に身を任せるあまり、大事なことが疎かになっていたのだ。
今になって冷静に思い返してみれば、俺の失態が風浦可符香の一件だけではないことに気づく。
まずエドだ。
この世界に来てすぐに出会ったいたいけな少女を、俺はどうした?
……置き去りにしたんじゃないのか。死んだ風浦可符香と同じように!
それも、注意が逸れている間に、どこかへ消えてしまったという、普通に考えれば危険な状態であったにもかかわらず……だ。
放送を聞く限り、エドはまだ生きているようだが……この調子では、いつ殺人鬼の餌食にならないとも限らない。
何せ、この半日で二十人そこそこの人間が死んでいるんだからな。
……いや、もしかしたら、既に悪漢の牙に晒されたが
合流していた風浦可符香がそれをうまく逃がしたのかもしれない。
そして風浦可符香はエドを守るためにその命を……という可能性も十分にあり得る。
だとしたら、彼女は俺が殺したようなものだ。
それから、双剣の男と銃使いの女。
俺はあの二人、特に双剣の男とはお互い丹念に拳を交わし、心を通じさせることに成功した。
だが、その後、俺がとった行動は一体何だった?
――『俺はこれからこの会場を戦って回る。お前はさっきの女と合流しておけ』
――『な、に?』
そうだ。新たなファイトを行うことばかりに気がいき、完全に本来の目的を、“仲間を集める”という目的を失念していた。
もし、あそこであの二人と合流していれば、今頃、俺は有用な情報を手に入れ、螺旋王と戦う道筋を見出していたかもしれん。
だが、それに比べて現実の俺はどうだ?
未だあの男に至る方法どころか、今、自分のいる場所すら満足に知ることすらできていない。
こんなことをいつまでも繰り返していては、螺旋王の打倒など夢のまた夢だ。
「反省を……せねばならんようだな」
俺はドアに頭をつけたまま考える。
額越しに感じるひんやりとした金属の感触は、心なしか精神を研ぎ澄ましてくれる気がした。
一体、何が間違っていたというのだろう?
やはり、誰彼構わずにファイトを挑むというやり方が正しくなかったのか?
否。それは違う。
風浦可符香が俺に授けてくれたこのやり方は間違ったものではないとはっきり言える。
傷の男や言峰との闘いがそれを証明している。
傷の男。
凄まじい力を持つ奴の心を俺に伝えてくれたのは、紛れも無くあのガンダムファイトだ。
あのファイトを通して、俺は奴の拳の裏にある奴の思い、奴が抱える怒りや悲しみ、そして復讐の心を知ることができた。
おそらく、奴のあの頑なな心に、生半可な言葉は通用しまい。
奴の心を溶かすことができるとしたら……それは拳だ。魂の篭った拳同士の闘いだけだ。
……かつての俺がそうだったように。
そして、言峰。
あの男についても、拳をあわせてはじめて分かったことがある。
それは、あの男が紛れも無い『悪』を抱え込んだ男だということだ。
確かに、奴は武道家としては気持ちのよい男。
天から授かった恵まれた肉体を、禁欲的に研ぎ澄まし、丁寧に丁寧に完成させたクンフーは素直に尊敬できる代物だ。
……だが、奴の拳に込められているのはそれだけではない。
例えようもなく黒く、粘りつくように邪な何かが、奴の技には宿っている。
言峰と対峙していると、ときおり、その『悪』が俺を丸呑みにしようと口を開けるような感触に襲われる。
まるで、黒いヘドロでできた獣が俺の体を覆いつくそうとしているような、そんな感覚に。
そしてそれは、かつて俺がデビルガンダムと対峙したときに感じたものと……極めて近い。
俺が奴に仲間として合流を申し出なかったのも、その『悪』の感触ゆえだ。
見たところ、殺し合いに乗っている様子はなさそうだったから捨て置いたが
もし、再び見えることがあれば、注意する必要があるかもしれん。
この二人に関するこういう事実は、もし直接ファイトすることがなかったら、分からなかっただろう。
自慢じゃないが、俺は頭も悪いし口も巧くない。
そんな俺が仲間を集めるためには、このやり方をとるのが妥当であるのは間違いない。
では、間違っていたのは何か?
決まっている。ファイトという手段の使い方が間違っていたのだ。
そう、俺は今まで、ファイト自体に拘るあまり、その後のことを全く考えていなかった。
とにかくファイトしなければ!一人でも多くの人と、一刻も早く!
俺は今までそれだけを考え、本来の目的を見失っていたのだ。
だから、これからはそんなんじゃいけない。あくまでファイトは手段。
敵を打ち倒し、仲間を集め、弱きを守るための手段だ。
これからはそれを肝に銘じ、確固たる目的を持って戦わなければならん!!
「『漢』とは、拳を通して分かり合う者……か。
すまなかった、風浦可符香。人と分かり合って何を為すのか、俺はそこをすっかり忘れていた。
やはり俺はまだまだ修行が足りんようだ」
風浦可符香の言葉を思い出し、顔を上げる。
さっきの放送によれば、この六時間のうちに殺された者の数は十六名。
殺し合いは確実に加速している。
一刻も早く止めなければさらなる犠牲者がでるのは必至だろう。
もう、目先の戦いを楽しんでいる暇は無い。
「だから……そのためにもまず……」
俺は、放送が始まる前、自分がしようとしていたことを不意に思い出す。
その『こと』を果たすため、俺はドアを開け放ち、部屋の外へと歩み始めた。
◆
ばさばさと風に翻弄されるマントを意に介すこともなく、ドモン・カッシュは立っていた。
煙突が誇る地上150mに臆する様子を微塵も見せず、ただ下界を睨みつけている。
北には黒く輝く海を挟んで、芝とコンクリートのだだっ広い平地を備えた滑走路。
東と西には灰と銀の威容がこちらを圧する大工場群。
そして、南には青々と茂った緑も眩しく、山峰が連なる。
その光景はまさに大パノラマと言ってよかったが、別に彼は景色を楽しむためにここへ来たわけではない。
ドモンがここに来た目的、それは有り体に言ってしまえば「人探し」である。
最早、間違ったファイトをせず、敵を倒し、仲間を集め、弱きを守ることを決意したドモンであったが
そのどれも、とどのつまり、他人がいなければ行うことができない。
加えて、彼には一刻も早く他人を見つけたいもう一つの理由があった。
それは――
「……グキュゥーーーーー……」
どこからともなく、動物がいななくような音が聞こえてくる。
その音源を探ってみれば……然り。音はドモンの腹の辺りから聞こえてくる。
「……ちっ!武士は食わねどなんとやらと言うが……
やはり荷物を全部やってしまったのは間違いだったか?」
つまるところ、ドモン・カッシュは空腹だった。
体を休め、とりあえずの疲労が体から去ると、入れ替わるように激しい空腹が彼を襲った。
これまでの激しい戦いが彼の中に貯蔵されたエネルギーを根こそぎ奪い去っていったため
彼の体は代償物としての食べ物を求めて、一斉に騒ぎ出したのである。
その要求に答え、自分の本能を抑えるため、ドモンはあの事務室を探してみたのだが……結果はご存知の通りだ。
あの後、食料を求めて、目ぼしい工場の食堂や売店をあたってみたのだが
運の悪いことに、そこには何一つ食べられるようなものは置いていなかった。
そこで高所に上り、レストランや市場など食料のありそうな場所を探そうとしたのだが、これも失敗。
煙突の周囲には工場地帯と住宅街が広がっており、それらしい建物を見つけることはできない。
結果に絶望した彼は、方針を切り替えて、まず他人を探し、間接的に食料を得ることに決めたのだ。
(これからもまだまだ厳しい戦いは続くはず……
そんなときに空腹が原因で負けたとあっては、一生の不覚だからな。
……とりあえず、人を見つけたら、まず今まで通りファイトを仕掛ける。
そして、相手が悪人なら斃して食料を手に入れる。相手が善人なら謝って食料を手に入れる。
相手がどちらか分からなければ……何とかして食料を手に入れるッ!!)
「その過程で仲間にふさわしい人間に出会えればなおいい」などと
ずれたことを考えている男を尻目に、風は青空を吹き渡っていく。
山から降りてきた強風はドモンの傍を通り過ぎて狭い海を渡り、広がる滑走路にまでその手を伸ばす。
「キャッ!」
「…………どうした?」
「……いや、あの……その……ちょっとスカートが……」
「そ、そうか……それは……スマン」
……そうして伸びた風の手は、奇妙な二人を優しく撫でた。
◇
漢の決意、邪魔する虫は腹の虫。
コンテナの齎す影を抜け、二人が漢の視界に入るまで、あと、少し――――
【G-3/煙突/1日目/日中】
【ドモン・カッシュ@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:空腹(大)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:己を鍛え上げつつ他の参加者と共にバトルロワイアルを阻止し、螺旋王をヒートエンド
1:食料を手に入れる
2:積極的に、他の参加者にファイトを申し込む(目的を忘れない程度に戦う)
3:ゲームに乗っている人間は(基本的に拳で)説き伏せ、弱者は保護し、場合によっては稽古をつける
4:傷の男(スカー)を止める
5:一通り会場を回って双剣の男(士郎)と銃使いの女(なつき)と合流する
6:言峰に武道家として親近感。しかし、人間としては警戒。
[備考]:
※本編終了後からの参戦。
※参加者名簿に目を通していません 。
※地図にも目を通していません。フィーリングで会場を回っています 。
※正々堂々と戦闘することは悪いことだとは考えていません 。
※なつきはかなりの腕前だと思い込んでいます。
【G-3/空港/1日目/日中・放送直後】
【チーム:Joker&Fake Joker】
【ヴィラル@天元突破グレンラガン】
[状態]:脇腹に傷跡(ほぼ完治・微かな痛み)、胸焼け
[装備]:ワルサーWA2000(3/6)@現実 、大鉈@現実
モネヴ・ザ・ゲイルのバルカン砲@トライガン(あと9秒連射可能、ロケット弾は一発)
[道具]:支給品一式、ワルサーWA2000用箱型弾倉x4、鉄の手枷@現実
[思考]
基本:ゲームに乗る。人間は全員殺す。
0:……くそっ、何だこの恥ずかしさは!
1:中央部近辺に向かい、激戦区を観察。そしてそこから逃げてきたものを殺す。
2:シャマルに礼を尽くす。その為にも、クラールヴィントと魔鏡のかけらをどうにかして手に入れたい。
3:蛇女(静留)に味わわされた屈辱を晴らしたい。
4:『クルクル』と『ケンモチ』との決着をつける。
[備考]
螺旋王による改造を受けています。
①睡眠による細胞の蘇生システムは、場所と時間を問わない。
②身体能力はそのままだが、文字が読めるようにしてもらったので、名簿や地図の確認は可能。
…人間と同じように活動できるようになったのに、それが『人間に近づくこと』とは気づいていない。
単純に『実験のために、獣人の欠点を克服させてくれた』としか認識してない。
※二アが参加している事に気づきました。
※機動六課メンバーをニンゲン型の獣人だと認識しました。
※なのは世界の魔法について簡単に理解しましたが、それは螺旋王の持つ技術の一つだと思っています。
また、その事から参加者の中で魔法が使えるのは機動六課メンバーだけであるとも思っています。
※螺旋王の目的を『“一部の人間が持つ特殊な力”の研究』ではないかと考え始めました。
【シャマル@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
[状態]:魔力消費 中
[装備]:ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:支給品一式×2、バルサミコ酢の大瓶(残り1/2)@らき☆すた、魔鏡のかけら@金色のガッシュベル!!
[思考]
基本:八神はやてを守る為に、六課メンバー以外の全員を殺す。けれど、なるべく苦しめたくはない。
0:……
1:中央部近辺に向かい、激戦区を観察。そしてそこから逃げてきたものを殺す。
2:しばらくの間はヴィラルと行動する。
3:クラールヴィントと魔鏡のかけらを手に入れたい。
※宝具という名称を知りません。
※ゲイボルク@Fate/stay nightをハズレ支給品だと認識しています。
※魔力に何かしらの制限が掛けられている可能性に気付きました。
※魔鏡のかけらを何らかの魔力増幅アイテムと認識しましたが、
どうやって使用する物なのか、また全部で何枚存在しているのかはまだ理解していません。
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