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「いきなりは変われない」(2022/07/13 (水) 23:43:11) の最新版変更点
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**いきなりは変われない ◆h8c9tcxOcc
G-3エリア、空港内。
明かりの落ちたロビーに、雲に隠された弱々しい月明りだけが差し込んでいる。
そのだだっ広い空間の真ん中にぽつんと置かれた、ウレタン入りの柔い長椅子に腰かけ、こなたは身震いをしていた。
鞄を脇へ放りだし、貧乏揺すりをつづける脚をごしごしと擦る。やがて震えは全身におよんだ。
腰を折り、自分の体を両腕で抱きしめる。それでも、震えは止まりそうにない。
たったいま起こったことが、頭から離れなかった。あの部屋で見た、自らの目を疑ってしまうような光景が。
まず、衣装の完成度がすばらしい。
小手先の技術だけで作れる代物ではない。途方もなく深い愛とこだわりをひしひしと感じた。
何の衣装なのか思い出せないのが惜しいが、俳優との一体感も相乗効果をなし、見事としかいいようがない出来だった。
そして常軌を逸した派手な演出。生身の人間が一瞬にして特撮ヒーロー姿に変身、悪の親玉と
決死の激闘を繰り広げたのち、はるか十数メートル後方の壁まで吹き飛び、挙げ句に首まで刎ねとばされるという壮大さ。
壁に叩きつけたのがダミーとのすりかえをする為だったのは見てのとおりだが、いつすりかえられたのかはいよいよ見抜けなかった。
さらにボルテッカのエフェクトは、こちらまで巻き込まれるのではないかと感じるほどの鳥肌ものであったし、充実の三分間であった。
しいて難癖をつけるとすれば、悪役がヒーローに変身アイテムを寄越すシナリオに露骨なヤラセを感じてしまうことくらいか。
参加者もコスプレをした者がほとんどだし、ブレードら出演者の他にもいくらかのサクラは紛れているのだろうけれども、
それを差し引いたとしてもあの臨場感はそうそうお目にかかれるものではない。
特撮もなかなか捨てたものではないと、自他ともに認める二次元の信奉者はかすかな浮気心を抱いた。
そのうえこれから本編が始まると思うと、期待で震えもくるというものである。
ようするに、こなたはあの出来事を『演出』と捉え、同時に『ゲーム』を手の込んだサバイバルゲームと考えたわけである。
ひととおり批評を済ませたところで感激の身震いも収まり、思い出したように鞄を拾い上げる。
中には、活動するにあたり最低限必要と思われるアイテムが詰められていた。
地図によれば、舞台はかなり広範囲におよんでいるし、食料は二、三日分はあるだろうか。
つまり参加者は、この広大な土地を縦横無尽に歩き回り、三日そこらはぶっ通しで『ゲーム』に興じることになる。
相当巨大なスポンサーのついた催しであることを、あらためて認識させられる。
次いで取り出した名簿を見て、失笑する。胡散臭い名前が軒を並べるなかに、よく知る名があったのだ。
柊かがみに柊つかさ。そして従妹のゆたかの三人。
顔ぶれにやや違和感を覚え、ああ、みゆきさんだけ居ないのかと一人合点した。
なんだか“らしい”なと思ってまた噴き出してしまったのだが、このことは口外無用としておく。
それから、簡易照明器具を除けた先にあったのは、『ゲーム』の主役といって差し支えないアイテム、エアガンだった。
嬉々としてこれを取り上げ、まじまじと眺めてみる。
重さといい弾薬部分の精巧さといい、異様にリアルな造りである。
オープニングであれほどの演出をやってのける団体なら、このくらいのディテールは当然かもしれないが。
とはいえ、こういうものは、実用性を重視するのがユーザーフレンドリーではないのか。
不要なところのリアリティに力を注ぐ姿勢はかなり独り善がりに感じられる。ここは大きな減点といえた。
試射に適当な的がないかと見回していると、真後ろあたりからがしょん、がしょんという奇妙な音が聞こえてきた。
こなたはすぐさま、椅子の陰に身をひそめた。膝をぶつけた拍子に鞄が倒れ、中身が少しこぼれてしまう。
がしょん、がしょん。均等な、ややゆったりとしたペースで、音はだんだんと大きくなった。
細心の注意を払いながら、背もたれの上に顔を目の高さまで出して様子をうかがう。
右手のほうに、甲冑のコスプレをした大男の姿が見えた。いや、フルフェイスの兜を着けているので性別までは判断できないか。
靴底に金属部分を付けて雰囲気を出そうとしているのだろうが、足音はどこか軽薄で、安っぽい印象が否めない。
甲冑はほぼまっすぐ、向かって左のほうへと歩みを進めていく。椅子との距離は八メートルといったところか。
エアガンのグリップを握り締め、音をたてないよう慎重に標的へと向ける。
余裕を見せ付けるために、頭部を撃ってやろうか。この距離なら、砲身に癖さえなければ確実に狙えるつもりだ。
仮に外したとしても相手はあの動きづらそうな衣装、充分逃げおおせる自信はある。
とはいえ、最初の一歩を踏み外せば気分も盛り下がるし、もしかしたら他の参加者に告げ口をされて危機に陥る可能性もある。
的も大きいことだし、ここは無難にボディを狙っておくべきか。やりそびれた試し撃ちも兼ねて。
ここまでコンマ三秒で考えたのち、照準を合わせて引き金を引く。
「……あれ?」
しかし引き金は微動だにしない。
まさかとは思ったが、引き金の重さまで精巧に再現するとは正気の沙汰とは思えなかった。
「そこに、誰かいるの?」
仕留めそびれたうえ、漏らした呟き声に気付かれてしまったらしい。
撤退が頭をよぎる。しかし甲冑はのらりくらりと歩み寄ってくるものの、特に敵意や緊張感を示してはいない。
銃を構え直し、再度慎重に狙いを定める。的がこちらへ向かって動いている分、先ほどより随分楽だった。
照準が整ったそのとき、雲の切れ間からいささか強く月灯りが差した。
甲冑はあっと声をあげる。狙われていることに、ようやく気付いたようだ。
「撃っちゃダメだ!」
攻撃するなと訴えているようだったが、いまさら待ったはなしだ。まずは一人、順調に点をあげさせてもらうことにする。
今度こそは確実にやれるよう、肩に力を込め、引き金を両手で思い切り引いた。
烈しい破裂音が轟き、次いで短い金属音が響く。右の頬に鋭い痛みが走った。
衝撃に圧された手で胸を強打し、うしろによろめいて、椅子の下の固い床でしたたか尻餅をつく。
青い髪の束が、ふぁさ、と落ちた。
「へ? へ?」
こなたは煙を上げる銃口と駆け寄る甲冑を交互に見比べるばかりだった。
頬から血の糸が垂れ、顎の先から滴になって床へと落ちた。
がしょん、がしょん、がしょん。金属音はすぐそばから響き、かすかな振動すら伝わってくる。
巨体がいよいよ目の前に迫る。文字通り、目の前が真っ暗になった。
甲冑は目にもとまらぬ早業でこなたの腕を捕らえ、拳銃を取り上げる。抵抗する気にはなれなかった。
「撃っちゃダメだったら。跳弾して危ないだけだよ!」
甲冑の言葉は、耳に入らなくなっていた。
銃が本物であるということは、この『ゲーム』は『ゲーム』でなく、ほんとうの殺し合いということになる。
同時に、胸躍らせながら眺めていた『演出』で首を刎ねられたモロトフが、作り物である必然性も失われるわけである。
そしてゲームの目的は、“唯一人の”優勝者を選び出すことであって。
参加者一覧には親しい友人や、妹同然の従妹の名があって。
目の前で人が死んだ?
この手で他人を殺そうとした?
自分や知人が、生命の危機に瀕している?
――わけがわからなくなった。
薄ぼけた月明りの中、こなたはただ呆然と巨大な甲冑を眺めつづけていた。
【G-3/空港-ロビー/一日目-深夜】
【泉こなた@らき☆すた】
[状態]:右頬に銃創、呆然
[装備]:なし
[道具]:デイバッグと支給品一式、不明支給品0~2個
[思考]:え? サバゲじゃなかったの?
【アルフォンス・エルリック@鋼の錬金術師】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイバッグと支給品一式、エンフィールドNO.2(弾数5/6)、不明支給品1~3個
[思考]:青髪の少女に対処
【エンフィールドNO.2】
軍用回転式拳銃。装弾数六発のダブルアクション。ムスカ大佐が使用していたのがこれといわれている。
*時系列順で読む
Back:[[汝は~なりや?]] Next:[[Flying in the sky]]
*投下順で読む
Back:[[汝は~なりや?]] Next:[[明智健悟の耽美なるバトルロワイアル――開幕]]
|泉こなた|049:[[今 そこにいる私]]|
|アルフォンス・エルリック|049:[[今 そこにいる私]]|
**いきなりは変われない ◆h8c9tcxOcc
G-3エリア、空港内。
明かりの落ちたロビーに、雲に隠された弱々しい月明りだけが差し込んでいる。
そのだだっ広い空間の真ん中にぽつんと置かれた、ウレタン入りの柔い長椅子に腰かけ、こなたは身震いをしていた。
鞄を脇へ放りだし、貧乏揺すりをつづける脚をごしごしと擦る。やがて震えは全身におよんだ。
腰を折り、自分の体を両腕で抱きしめる。それでも、震えは止まりそうにない。
たったいま起こったことが、頭から離れなかった。あの部屋で見た、自らの目を疑ってしまうような光景が。
まず、衣装の完成度がすばらしい。
小手先の技術だけで作れる代物ではない。途方もなく深い愛とこだわりをひしひしと感じた。
何の衣装なのか思い出せないのが惜しいが、俳優との一体感も相乗効果をなし、見事としかいいようがない出来だった。
そして常軌を逸した派手な演出。生身の人間が一瞬にして特撮ヒーロー姿に変身、悪の親玉と
決死の激闘を繰り広げたのち、はるか十数メートル後方の壁まで吹き飛び、挙げ句に首まで刎ねとばされるという壮大さ。
壁に叩きつけたのがダミーとのすりかえをする為だったのは見てのとおりだが、いつすりかえられたのかはいよいよ見抜けなかった。
さらにボルテッカのエフェクトは、こちらまで巻き込まれるのではないかと感じるほどの鳥肌ものであったし、充実の三分間であった。
しいて難癖をつけるとすれば、悪役がヒーローに変身アイテムを寄越すシナリオに露骨なヤラセを感じてしまうことくらいか。
参加者もコスプレをした者がほとんどだし、ブレードら出演者の他にもいくらかのサクラは紛れているのだろうけれども、
それを差し引いたとしてもあの臨場感はそうそうお目にかかれるものではない。
特撮もなかなか捨てたものではないと、自他ともに認める二次元の信奉者はかすかな浮気心を抱いた。
そのうえこれから本編が始まると思うと、期待で震えもくるというものである。
ようするに、こなたはあの出来事を『演出』と捉え、同時に『ゲーム』を手の込んだサバイバルゲームと考えたわけである。
ひととおり批評を済ませたところで感激の身震いも収まり、思い出したように鞄を拾い上げる。
中には、活動するにあたり最低限必要と思われるアイテムが詰められていた。
地図によれば、舞台はかなり広範囲におよんでいるし、食料は二、三日分はあるだろうか。
つまり参加者は、この広大な土地を縦横無尽に歩き回り、三日そこらはぶっ通しで『ゲーム』に興じることになる。
相当巨大なスポンサーのついた催しであることを、あらためて認識させられる。
次いで取り出した名簿を見て、失笑する。胡散臭い名前が軒を並べるなかに、よく知る名があったのだ。
柊かがみに柊つかさ。そして従妹のゆたかの三人。
顔ぶれにやや違和感を覚え、ああ、みゆきさんだけ居ないのかと一人合点した。
なんだか“らしい”なと思ってまた噴き出してしまったのだが、このことは口外無用としておく。
それから、簡易照明器具を除けた先にあったのは、『ゲーム』の主役といって差し支えないアイテム、エアガンだった。
嬉々としてこれを取り上げ、まじまじと眺めてみる。
重さといい弾薬部分の精巧さといい、異様にリアルな造りである。
オープニングであれほどの演出をやってのける団体なら、このくらいのディテールは当然かもしれないが。
とはいえ、こういうものは、実用性を重視するのがユーザーフレンドリーではないのか。
不要なところのリアリティに力を注ぐ姿勢はかなり独り善がりに感じられる。ここは大きな減点といえた。
試射に適当な的がないかと見回していると、真後ろあたりからがしょん、がしょんという奇妙な音が聞こえてきた。
こなたはすぐさま、椅子の陰に身をひそめた。膝をぶつけた拍子に鞄が倒れ、中身が少しこぼれてしまう。
がしょん、がしょん。均等な、ややゆったりとしたペースで、音はだんだんと大きくなった。
細心の注意を払いながら、背もたれの上に顔を目の高さまで出して様子をうかがう。
右手のほうに、甲冑のコスプレをした大男の姿が見えた。いや、フルフェイスの兜を着けているので性別までは判断できないか。
靴底に金属部分を付けて雰囲気を出そうとしているのだろうが、足音はどこか軽薄で、安っぽい印象が否めない。
甲冑はほぼまっすぐ、向かって左のほうへと歩みを進めていく。椅子との距離は八メートルといったところか。
エアガンのグリップを握り締め、音をたてないよう慎重に標的へと向ける。
余裕を見せ付けるために、頭部を撃ってやろうか。この距離なら、砲身に癖さえなければ確実に狙えるつもりだ。
仮に外したとしても相手はあの動きづらそうな衣装、充分逃げおおせる自信はある。
とはいえ、最初の一歩を踏み外せば気分も盛り下がるし、もしかしたら他の参加者に告げ口をされて危機に陥る可能性もある。
的も大きいことだし、ここは無難にボディを狙っておくべきか。やりそびれた試し撃ちも兼ねて。
ここまでコンマ三秒で考えたのち、照準を合わせて引き金を引く。
「……あれ?」
しかし引き金は微動だにしない。
まさかとは思ったが、引き金の重さまで精巧に再現するとは正気の沙汰とは思えなかった。
「そこに、誰かいるの?」
仕留めそびれたうえ、漏らした呟き声に気付かれてしまったらしい。
撤退が頭をよぎる。しかし甲冑はのらりくらりと歩み寄ってくるものの、特に敵意や緊張感を示してはいない。
銃を構え直し、再度慎重に狙いを定める。的がこちらへ向かって動いている分、先ほどより随分楽だった。
照準が整ったそのとき、雲の切れ間からいささか強く月灯りが差した。
甲冑はあっと声をあげる。狙われていることに、ようやく気付いたようだ。
「撃っちゃダメだ!」
攻撃するなと訴えているようだったが、いまさら待ったはなしだ。まずは一人、順調に点をあげさせてもらうことにする。
今度こそは確実にやれるよう、肩に力を込め、引き金を両手で思い切り引いた。
烈しい破裂音が轟き、次いで短い金属音が響く。右の頬に鋭い痛みが走った。
衝撃に圧された手で胸を強打し、うしろによろめいて、椅子の下の固い床でしたたか尻餅をつく。
青い髪の束が、ふぁさ、と落ちた。
「へ? へ?」
こなたは煙を上げる銃口と駆け寄る甲冑を交互に見比べるばかりだった。
頬から血の糸が垂れ、顎の先から滴になって床へと落ちた。
がしょん、がしょん、がしょん。金属音はすぐそばから響き、かすかな振動すら伝わってくる。
巨体がいよいよ目の前に迫る。文字通り、目の前が真っ暗になった。
甲冑は目にもとまらぬ早業でこなたの腕を捕らえ、拳銃を取り上げる。抵抗する気にはなれなかった。
「撃っちゃダメだったら。跳弾して危ないだけだよ!」
甲冑の言葉は、耳に入らなくなっていた。
銃が本物であるということは、この『ゲーム』は『ゲーム』でなく、ほんとうの殺し合いということになる。
同時に、胸躍らせながら眺めていた『演出』で首を刎ねられたモロトフが、作り物である必然性も失われるわけである。
そしてゲームの目的は、“唯一人の”優勝者を選び出すことであって。
参加者一覧には親しい友人や、妹同然の従妹の名があって。
目の前で人が死んだ?
この手で他人を殺そうとした?
自分や知人が、生命の危機に瀕している?
――わけがわからなくなった。
薄ぼけた月明りの中、こなたはただ呆然と巨大な甲冑を眺めつづけていた。
【G-3/空港-ロビー/一日目-深夜】
【泉こなた@らき☆すた】
[状態]:右頬に銃創、呆然
[装備]:なし
[道具]:デイバックと支給品一式、不明支給品0~2個
[思考]:え? サバゲじゃなかったの?
【アルフォンス・エルリック@鋼の錬金術師】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイバックと支給品一式、エンフィールドNO.2(弾数5/6)、不明支給品1~3個
[思考]:青髪の少女に対処
【エンフィールドNO.2】
軍用回転式拳銃。装弾数六発のダブルアクション。ムスカ大佐が使用していたのがこれといわれている。
*時系列順で読む
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*投下順で読む
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