副社長は自身が知ることについてしか語らない ◆DzDv5OMx7c
――193X年・アメリカ合衆国 イリノイ州 シカゴ
突き抜けるような晴天の下、大きな道沿いのオープンカフェにて
片眼鏡をかけた壮齢の男と首にカメラをぶら下げた幼い少女が向かい合って朝食をとっている。
男の名はギュスターヴ・サンジェルマン、15にも満たない少女の名はキャロル。
一見親子のような2人だったが、2人の間柄は上司と部下、記者と助手というものであり、
2人ともニューヤークの地方紙・デイリーデイズ誌の記者であった。
片眼鏡をかけた壮齢の男と首にカメラをぶら下げた幼い少女が向かい合って朝食をとっている。
男の名はギュスターヴ・サンジェルマン、15にも満たない少女の名はキャロル。
一見親子のような2人だったが、2人の間柄は上司と部下、記者と助手というものであり、
2人ともニューヤークの地方紙・デイリーデイズ誌の記者であった。
「副社長、凄いですね!」
少女が手に持つ新聞の見出しにはでかでかと『大陸横断鉄道フライング・プッシーフットの先頭車両盗まれる』
『またも王ドロボウの仕業か? ――警察関係者は否定』などといった文字が躍っている。
『またも王ドロボウの仕業か? ――警察関係者は否定』などといった文字が躍っている。
そう、ここ最近アメリカ全土を一人の怪盗が騒がせていた。
その怪盗の名は――『王ドロボウ』。
予告の前には独特のデザインの予告上を出し、無益な殺生はせず、奇抜な手口で何でも盗み出す。
更に言うならば噂ではまだ年若い少年だという。
まるで幻想小説の中から飛び出したかのような存在。
そして何より凄いのは、調べれば調べるほどその正体が不明になっていく点である。
どこから来てどこへ行くのか……そのミステリアスさもまたキャロルの心を掴んで離さなかった。
その怪盗の名は――『王ドロボウ』。
予告の前には独特のデザインの予告上を出し、無益な殺生はせず、奇抜な手口で何でも盗み出す。
更に言うならば噂ではまだ年若い少年だという。
まるで幻想小説の中から飛び出したかのような存在。
そして何より凄いのは、調べれば調べるほどその正体が不明になっていく点である。
どこから来てどこへ行くのか……そのミステリアスさもまたキャロルの心を掴んで離さなかった。
「キャロル、"凄い"とはなんだ?」
浮かれるキャロルに対し、沈黙を保っていた片眼鏡の紳士が厳かな顔を上げる。
「"凄い"……とは確かにわかりやすい言葉だ。
だが我々は記者だキャロル。
その凄さをわかり易く、かつ独自のセンスを持って読者に対して伝えなければならない」
「わかってます! 真実は人の数だけ姿を変える、ですよね?」
「そうだ。ではキャロル、お前ならこの記事にどういう見出しをつける?
お前の真実から見たこれはどういう側面を持つかを表してみたまえ」
だが我々は記者だキャロル。
その凄さをわかり易く、かつ独自のセンスを持って読者に対して伝えなければならない」
「わかってます! 真実は人の数だけ姿を変える、ですよね?」
「そうだ。ではキャロル、お前ならこの記事にどういう見出しをつける?
お前の真実から見たこれはどういう側面を持つかを表してみたまえ」
いきなり振られた無理難題に少女は目を白黒させる。
「えー、ええと……『霞の中に消えたフライングプッシーフット号!
それは王ドロボウの企みか、それとも全米を震撼させるギャングの野望を阻止しようとする神の手か』……とか?」
「――244点」
「何点満点中で!?」
それは王ドロボウの企みか、それとも全米を震撼させるギャングの野望を阻止しようとする神の手か』……とか?」
「――244点」
「何点満点中で!?」
そんないつも通りのやり取りをする2人。
だが大通りの方から微かなざわめきが聞こえてくる。
しかもそのざわめきは次第にこちら側へと向かってきている。
だが大通りの方から微かなざわめきが聞こえてくる。
しかもそのざわめきは次第にこちら側へと向かってきている。
そちらの方に視線を向けたキャロルはそのざわめきの理由を瞬時に理解した。
そこにいたのは一人の東洋系の女性だった。
肩まで伸びたワインレッドの髪、猫を思わせる切れ長の瞳。
年の頃は10代後半にも見えるし、20代にも見える。
瑞々しさと妖艶さを奇跡的なバランスで実現した存在。
ありていに言うなら絶世の美女がそこにいた。
そこにいたのは一人の東洋系の女性だった。
肩まで伸びたワインレッドの髪、猫を思わせる切れ長の瞳。
年の頃は10代後半にも見えるし、20代にも見える。
瑞々しさと妖艶さを奇跡的なバランスで実現した存在。
ありていに言うなら絶世の美女がそこにいた。
一流の職人によってカットされたルビーを思わせる美貌にキャロルは思わずため息をつく。
だがギュスターヴはそんな女に対しても、平然とした態度を崩すことなく応対する。
だがギュスターヴはそんな女に対しても、平然とした態度を崩すことなく応対する。
「ふむ、どうやら情報屋としての我々に用があるようだね。まぁ座りたまえ」
そう、彼らの所属するDD新聞社は"情報で金を買う"、情報屋としての一面を持っている。
彼らが本気になれば例え大陸の反対側で起こったことでもゼロコンマ後には知れ渡っている。
……そんな噂がまことしやかに囁かれるほどなのだ。
それを聞きつけたからこそ"彼女"は、最も近くにいたこの男に接触したのだ。
だがさっき不愉快な出来事があったせいで、座って話をするよりもさっさと帰りたかった。
彼らが本気になれば例え大陸の反対側で起こったことでもゼロコンマ後には知れ渡っている。
……そんな噂がまことしやかに囁かれるほどなのだ。
それを聞きつけたからこそ"彼女"は、最も近くにいたこの男に接触したのだ。
だがさっき不愉快な出来事があったせいで、座って話をするよりもさっさと帰りたかった。
「ふむ、さっき妙に明るい車掌にしつこくナンパされたからさっさと帰りたい?
……とはいえ、それなりに長くなりそうだからね。
貴女の望む情報が……"これ"に関する情報であるならば」
……とはいえ、それなりに長くなりそうだからね。
貴女の望む情報が……"これ"に関する情報であるならば」
そう言って新聞の一面に記された見出しを指差す。
その指先には『KING OF BANDIT』の文字。
女は大きくため息をついた後、キャロルに一言断りをいれ、優雅な仕草で椅子に腰掛ける。
何気ないその動作も一つ一つが洗練されており、キャロルはますます見とれてしまう。
女は懐からいくらかの宝石を取り出す。
どれも一流の細工がしてあり、キャロルの素人目にも一級品であることがわかった。
その指先には『KING OF BANDIT』の文字。
女は大きくため息をついた後、キャロルに一言断りをいれ、優雅な仕草で椅子に腰掛ける。
何気ないその動作も一つ一つが洗練されており、キャロルはますます見とれてしまう。
女は懐からいくらかの宝石を取り出す。
どれも一流の細工がしてあり、キャロルの素人目にも一級品であることがわかった。
「ああ、御代は結構」
だが、それをギュスターヴは軽く手で制する。
その対応に女は訝しげな表情になる。
その対応に女は訝しげな表情になる。
「……と言ってももちろん只であるわけは無い。
只より高い物は無い……嘘偽り無い情報の受け渡しのためには必要だ」
只より高い物は無い……嘘偽り無い情報の受け渡しのためには必要だ」
副社長は更に言葉を紡ぐ。
「あなたも知っての通り、我々は情報を扱っている。
故に今回は"貴方たち"の情報を価値あるものとして認め、それを代償として支払っていただきたい。
そう、例えば"貴方たち"の出会いなどは……どうだろうか?」
故に今回は"貴方たち"の情報を価値あるものとして認め、それを代償として支払っていただきたい。
そう、例えば"貴方たち"の出会いなどは……どうだろうか?」
その言葉に、女は心底疲れきった表情になる。
だが変人の相手は散々してきているためか、抵抗を無駄だと悟ったのだろう。
諦め代わりに盛大なため息をつき、そして物憂げな表情のまま、訥々と語り始めた。
だが変人の相手は散々してきているためか、抵抗を無駄だと悟ったのだろう。
諦め代わりに盛大なため息をつき、そして物憂げな表情のまま、訥々と語り始めた。
時系列順に読む
Back:ソング・フォー・スウィミング・バード Next:それが我の名だ~actress again
投下順に読む
Back:ソング・フォー・スウィミング・バード Next:それが我の名だ~actress again