第一回放送 ◆oRFbZD5WiQ



 孔雀のような羽を纏った青年であった。
 長身であり、顔の造形も整っている。惜しむらくは、服装が奇抜すぎるところだろうか。
 もっとも、そのマイナスを以ってしても、青年の頭に『美』がつくであろうが。
 ――彼の名はシトマンドラ。螺旋王四天王、神速のシトマンドラだ。

「怖れ、狂い、嘆くといい。脆弱な人間風情が!」

 孔雀の羽飾りを――否、自身に生えた翼をなびかせ、シトマンドラは哄笑する。
 ……最初、螺旋王にこの事を教えられた時は、驚愕すると同時に苛立ったものだ。
 並行宇宙。無限に存在するIFの世界。
 その中には、自分たち獣人は存在せず、人間どもが繁栄している世界もあるのだという。
 真に、真に馬鹿馬鹿しい話だ!
 人を超越した獣人を差し置き、地上を支配している――それも、自分たちが見えない場所でだ!

 だが、と笑う。笑う笑う笑う! 高らかに、そして見下すように。
 彼の手にあるのは、複数の映像メディアだ。
 そう、それは首輪や監視カメラを用いて撮影した映像。それらを、一つ一つの世界で再生できるメディアに記録した。
 そう、それらを参加者に親しい者に送りつけてやるのだ!
 参加者に与える絶望では、まだ足りぬ。足りぬ、足りぬ、足りぬ! 
 自身の親しい人物が、争い、狂い、死に絶えるその姿――それらを、映像で見る事しか出来ない自分自身。
 ああ、苦しいであろう! なぜ自分が、そして知り合いがこんな目に遭わねばならぬのだ、と大いに嘆く事だろう。

 されど知れ、人間よ。
 貴様らは暗く、狭い穴倉に住まう事が相応しい。地上に出た事、それが貴様らの罪なのだ。
 ……無論、これは螺旋王が望んだ事ではない。完全なシトマンドラの独断だ。
 だが――どうせこの会場は、外部からでは壊せないだろう。

(しかし……)

 ふと、シトマンドラは眉をひそめた。
 人間同士の殺し合い。初めて聞いた時、心躍ったものだ。
 だが、螺旋王が行った事と言えば、参加者を集め、舞台に放り込んだくらい。後は、ほとんど何もしていない。
 そう。このゲームに乗らぬ、という愚者どもすら、なぜだか満足気な眼差しで見やっているのだ。
 シトマンドラは思う。螺旋王は、本当に殺し合わせる気があるのか――と。
 実験というからには、何らかの要素を見出したいのだろうが。それにしても手ぬるいのではないか、と思うのだ。

「なにをしておる、シトマンドラ」

 粘着質な声に振り向くと、二足歩行のアルマジロが瞳に映った。
 螺旋王四天王の中では、一番の古株である男、グアーム。不動のグアームである。

「少し、な。それよりも、なにをしに来たのだ?」
「ロージェノムが呼んでおる。放送を行う、とな」

 瞬間、シトマンドラの表情に喜悦が浮かんだ。
 ああ、そうか。もうそんな時間か。
 殺し合いを否定し、徒党を組む愚者どもに現実を突きつける、甘美な時間が始まるのだ。

「ああ、今行く」

 孔雀の羽をなびかせ、シトマンドラは行く。
 その喜悦の色は深く鮮やかだ。そう、螺旋王に対する疑問など、軽く塗りつぶすほどに――

     ◆     ◆     ◆

 久しいな、諸君。
 殺し合いは――あまり、はかどってはいないようだな。
 けれど、構わぬさ。初めから、いきなり殺しあおうとする者が少数派である事は予想していた。
 それに、私はある程度、満足している。
 幼き少女が、螺旋の力に目覚めたのを、この目で見られたのだからな。
 だが――それだけでは足りぬ。
 故に、貴様らには更なる闘争をしてもらわねばならぬのだ。
 くくっ――誰がそんな事をするものか。このゲームに乗らぬ者は、そう考えただろうな。
 それは当然だ。そう簡単に趣旨変えされては、我が困る。

 さて、禁止エリアについて説明しようではないか。
 死亡者から話しては、自我を喪失し、放送を聞き取れなくなる者もいるやもしれんからな。

 B-1
 D-5
 G-6

 ――以上を禁止エリアを定める。
 最初に言った通り、ここに足を踏み入れれば、首輪が爆発する事になる。
 そう、始めに我に歯向かってきた、あの男のように血肉の塊と化すだろう。
 もっとも、この場には字が読めぬ者がいるのでな。警告後一分以内に離れれば、首輪は爆発しない。
 戦わずして吹き飛ぶ事ほどつまらぬモノはないのだからな。十分に、気をつける事だ。

 さて、最後の一人を目指す者、このゲームを破壊しようと目論む者。どちらにとっても感心があるだろう、死亡者の
発表に移らせてもらおう。

 アニタ・キング
 エドワード・エルリック
 キャロ・ル・ルシエ
 枢木スザク
 シモン
 シュバルツ・ブルーダー
 ジェレミア・ゴットバルト
 素晴らしきヒィッツカラルド
 柊つかさ


 ……そうだ。この九人が、今回の死亡者だ。
 殺し合いに乗らぬという誓い。それもまた、いいだろう。
 だが、貴様らが安穏と過ごしている内に、知り合いが危機に晒され、死に掛かっている可能性もあるのだと知るがいい。
 こうやって話している間にも、死の淵に瀕している者がいるやもしれぬな。
 それでは――存分に、殺し合え。

     ◆     ◆     ◆

 螺旋王の傍らに立つ四つの影。
 シトマンドラとグアームを含んだ、螺旋王四天王。
 その内の一人。左目を眼帯で覆った女性が口を開いた。
 彼女の名はアディーネ、流麗のアディーネである。
 瞳は鋭く、そして冷たい。深海の海水を刃にしたようだ。
 けれど、今の眼は、どことなく親愛に満ちているように思えた。

「チミルフ。あんたは今の言葉、どう思う?」

 サソリの尾をゆらり、と蠢かしながら、不可思議そうに問う。

「分からんよ。今の言葉どころか、このゲームの意味すらもな。だが、」

 そう答えたのは、巨躯を分厚い鎧で覆った武人であった。
 名をチミルフ。怒涛のチミルフと言う。
 ゴリラの獣人である彼は、巨大な鉄槌を傍らに置き、死亡者を読み上げる螺旋王を見上げ、呟いた。

「ただ殺し合いをさせるなら、もっと狭い場所で構わないはずだ。だというのに、この場所を選んだ」
「……つまり、実験ってのは、殺し合いだけじゃ図れない、って事かい?」 
「おそらくな。だが、俺よりグアームに聞いたほうがいいんじゃないか?  
 俺は考えるより、叩き潰すほうが性に合ってる」

 だろうね、と。アディーネはくつくつという押し殺した笑いを漏らした。


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000:THE OPENING ロージェノム 163:第二回放送
外伝:螺旋のはじまり 不動のグアーム 271:天のさだめを誰が知るⅠ
神速のシトマンドラ 210:第三回放送、あるいは
流麗のアディーネ 外伝:すべては穴掘りシモンとの邂逅から始まる
怒涛のチミルフ 外伝:すべては穴掘りシモンとの邂逅から始まる





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