ロージェノムは螺旋の王として配下の疑問に答える ◆LXe12sNRSs



 ×× ××××年 ×月×日 午後7時頃 螺旋王の居城『謁見の間』

 天高く聳える玉座に、螺旋王ロージェノムは座っていた。
 常に侍らせていた六人の女性は、今はいない。孤独な座につき、眺めるは無数の映像。
 螺旋王を囲うように展開されるモニター郡は、今も現地にて行われている、実験の一部始終を映していた。

「……勇ましいものだな」

 螺旋王は思う。彼らこそ、かつて銀河を守るために戦った――螺旋の戦士の顕現ではないか、と。
 人間が持つDNA……螺旋因子を司る力、それが螺旋力。
 本来、螺旋族と呼ばれる種がDNA操作を持って初めて発揮されるはずの螺旋力が、こうも神々しく輝いている様は。

「私の知る世界は、実に狭かったということか」

 嘲りの笑いを放り、螺旋王の心は滾る。
 進捗する悲願への道程。悪夢から覚めるための野心が、渇望として湧き上がる。
 万事順調。現在の最重要課題は……身の周りの処理、だけだろうか。

「さて――言いたいことはそれで終わりか? チミルフ、アディーネよ」

 聳える玉座の上から、床で膝を突く二人――チミルフとアディーネを睥睨する。

「ええ。そろそろ教えてはいただけませんか? 今回の実験の趣旨とやらを」
「そして、八神はやてが二人存在していたことへの説明も」
「……ふむ。時空管理局にあの『悪魔』が接触すれば、あるいは……と思ったのだが。どうやら私の杞憂だったようだ」

 三者の会話は噛み合わず、螺旋王はチミルフとアディーネの求める解答を示そうとはしない。
 説明する気がないのか、それとも機を窺っているだけなのか。二人はただ待つ。
 一時の間が生まれる中、その場に第三の人物が介入する。

「私からも、螺旋王にご質問が」

 謁見の間入り口。そこに、孔雀の羽を纏った煌びやかな様相の男がいる。
 彼の名はシトマンドラ――チミルフ、アディーネと同じく、四天王が一人『神速のシトマンドラ』だ。
 此度の実験において、会場の監視業務についていたシトマンドラが、愉悦の席を外してまで足を運んだ理由は、やはり同じく。

「シトマンドラ……おまえもこの実験に関して疑問が?」
「ああ。監視映像を賢覧していたら、興味深いことに気づいたのでな」

 チミルフと短いやり取りを交わし、シトマンドラは螺旋王に向きなおる。

「私からの質問はただ一つ。螺旋王が集められた82名の参加者……
 その内の、シモン、カミナ、ヨーコ、ニア、ヴィラル。この五名の詳細についてです」

 真剣な形相で問い詰めるシトマンドラ。チミルフとアディーネは、その質問の意図がのみ込めていない。

「気づいたか……。さすがは神速のシトマンドラと言っておこう」
「お褒めに預かり光栄。ですが、もし該当者五名の言動が真実であるとするならば……これは由々しき問題です」
「どういうことだいシトマンドラ? その五人がなんだってんだい?」

 尋ねて来るアディーネに対し、シトマンドラは鼻を一鳴らししてから答える。

「チミルフ、アディーネ。おまえたちは今言った五人の参加者について、どこまで知っている?」
「顔くらいしか知らないね。あたしらはついさっきまで、螺旋王の命で出征していたんだから」
「俺は顔も知らんな。参加させられているニンゲンどもの把握など、貴様の管轄だろう」

 チミルフとアディーネは、現在進行中の実験内容をほとんど把握していない。
 チミルフに至っては興味がないのか、まったく監視映像を目に通していなかった。
 アディーネは参加者の簡単なプロフィールと生死の状態くらいは把握しているものの、各々がどのような顛末を迎えたかまでは知らない。
 実験内容の推移を完全に把握しているものなど、監視役のシトマンドラとその部下、螺旋王くらいのものだった。

「そうか。では、おもしろいことを教えてやろう。まず、シモンとカミナとヨーコ、この三名についてだ。
 シモンとヨーコは既に死亡しているが、おもしろいことにこの三人――ガンメンを駆り、我らと敵対していたそうだぞ?」
「――は?」

 含み笑いで述べるシトマンドラに、チミルフとアディーネはキョトンとした顔を浮かべた。

「ニンゲンが、ガンメンを? はっ、なにを馬鹿な」
「ガンメンは我ら獣人のみに許された兵器だ。それをニンゲンが使うなど、聞いたことがないわ」
「まあ聞け。残る二人、ニアとヴィラルについてだが……まず、ニアという小娘が実におもしろい。
 こやつがな、あろうことか、実験場で『私は螺旋王の娘です!』とほざいたそうだ」

 チミルフとアディーネの間に、どよめきが飛び交う。

「螺旋王の娘だと? しかし、ニアなどという娘は俺でも聞いたことがないぞ?」
「あたしも同じさ。シトマンドラ、あんたはどうなんだい?」
「無論、私もだ。だがどうにも、虚言であるようには思えなくてな……」

 シトマンドラの視線が、一瞬だけ螺旋王に向く。
 螺旋王は傍観。口を開かずシトマンドラの言葉を静聴していた。

「そして残る一人、ヴィラルだが――こいつは、どうやら元獣人らしいぞ?」
「なっ……!?」

 チミルフとアディーネは、共に唖然とした。

「獣人が参加していたのか? しかし、元、というのはどういう意味だ」
「本人が言うには、この実験の前日、螺旋王によってニンゲンに近い体に改造されたんだそうだ」
「獣人を、ニンゲンに改造だって……? そんなことが、可能なのか?」

 シトマンドラが運び込んできた情報の数々が、場に混乱を齎す。
 そしてついに、言及の矛は螺旋王へと向いた。

「さて、本題です螺旋王。
 少々調べてみたのですが……ガンメンを駆り、我らと敵対するというシモン、ヨーコ、カミナの三人組。
 螺旋王の実子を名乗るニア。螺旋王に改造された元獣人であると豪語するヴィラル。
 以上五名、いくら調べてみても……そんな者がいたというデータは、どこにも残っていませんでした」

 螺旋王は微動だにしない。

「ニアという存在は、螺旋王が今の今までひた隠しにしていたというならまだ頷けます。
 しかし、他四人については別です。
 ガンメンを乗り回すニンゲンの情報が、我々の耳に入ってこないのはおかしな話。
 同族でありながら、ヴィラルの名を知る者がまったくいないのもまた同じく」

 螺旋王は微動だにしない。

「お答え頂きたい、螺旋王。あの五人はいったいどこから連れて来たのですか――?」

 チミルフが、
 アディーネが、
 シトマンドラが、
 主の解答を求めた。
 そして、

「……答えよう。おまえたちの疑問に」

 口を開く、螺旋王。
 と共に、壁面のモニターに映る映像が変わり始めた。
 映し出されたのは、今もなお行われている実験ではない。


 ◇ ◇ ◇


 それは、銀河と螺旋を廻る戦いの歴史。
 ジーハ村に住む二人の少年が、自慢のドリルで天井をぶち破ったときから始まった。
 地中に追いやられる人間たちと、地上を制する獣人たち。支配し、支配される上下関係。
 そんな道理は蹴っ飛ばせ、と意気込む少年二人。仲間も加わり、人間と獣人の全面戦争が始まった。
 少年の一人はその過程で倒れ、しかし残った少年は、獣人の長たる螺旋王を退治する。
 そして、人間の時代が訪れた――束の間。安息は破られ、新たな敵が現れる。
 その名はアンチ=スパイラル。別宇宙からの侵略者。人類、いや銀河に生きる全ての生命の、敵だった。
 青年となった少年は、再び戦う道を選び取る。途中、仲間との衝突もあったが、最終的にその意志は結束。
 繰り出した先、広大な銀河にて、決戦が開始された。過程は散々……アンチ=スパイラルの力はあまりに膨大すぎた。
 死に逝く仲間、潰える希望、しかし紡がれるのは、信念と根性が捻り捻れた――螺旋の力。
 螺旋族しか持ちえないはずの螺旋力、その覚醒と発揮。結末は、螺旋を統べる人間の勝利に終わった。

 戦乱の中、螺旋王の娘であるニアは消えた。螺旋王自身も、青年に全てを託し消えた。
 訪れたのは人間の時代。未来永劫続くであろう――獣人にとっては、許されぬ未来だった。


 ◇ ◇ ◇


「なんなのだ……これは」

 そう呟いたのは、この場に集った三人の四天王の誰か。
 あるいは、三者等しくその言葉を胸に宿していたのだろう。
 シモンという少年を中心に駆け抜けた、一つの戦いの歴史――言い換えれば、人間の歴史。
 それは、獣人である彼らには衝撃的すぎる内容だった。

「これが、螺旋王の仰っていた並行世界とやらの全貌なのですか?」

 シトマンドラが、尋ねる。

「いや、違う。これは並行世界の概念をさらに超越した、『あったかもしれない世界』……多元宇宙の歴史だ」

 螺旋王は答え、続ける。

「私がニアという娘を持てば、ジーハという人間の村にシモンやカミナが生まれていれば、ありえたかもしれない世界。
 並行世界論では括れぬ、本来ならば発見すら出来ぬ世界……そうだな。パラレルワールドとでも言っておこうか」

 チミルフが、アディーネが、唸る。

「並行世界、多元宇宙、パラレルワールド……むぅ、俺には違いがわからん」
「そいつはあたしもさ、チミルフ。螺旋王、あの『キドウロッカ』とかいう奴等を相手にした場所とは違うのですか?」
「あの世界は時空管理局側の名称を借りるなら、第×××観測指定世界……
 参加者でもあるヴァッシュ・ザ・スタンピードとニコラス・D・ウルフウッドの出身世界だ。
 ただし……この二人は、厳密には同郷の者であると言えんのだがな」

 螺旋王の説明をまったく理解していない風なチミルフとアディーネ。
 唯一、螺旋王の繰り出す言葉の意味を理解していたシトマンドラが口を挟む。

「その二人は、同世界出身でありながら言動に細かな食い違いが見受けられていました。
 ヴァッシュ・ザ・スタンピード……奴は、ニコラス・D・ウルフウッドを死人と認識していたようです。
 しかし、ニコラス・D・ウルフウッドは生きている。が、奴も自分は死人であると自覚していたようです。
 これは私の推測ですが……ヴァッシュ・ザ・スタンピードはニコラス・D・ウルフウッドが死亡した後の世界から、
 ニコラス・D・ウルフウッドは自分が死んだと自覚した後、しかしヴァッシュ・ザ・スタンピードが
 ニコラス・D・ウルフウッドの死を認識する以前の世界から、連れて来られたのではないですか?」

 螺旋王が、笑みとともに小さく頷く。

「……? よくわからないねぇ……二人ともニコラスとかいう奴が死んでいることは知っている。
 食い違いなんて、どこにあるっていうのさ」
「大違いさ。ニコラス・D・ウルフウッドは、少なくとも完全に死に絶える前から拉致されている。
 自分は死んだ、という記憶を持っているのがその確かな証拠だ。
 だが、ニコラス・D・ウルフウッドが死に絶える前に連れて来られたとしたら、
 ヴァッシュ・ザ・スタンピードは、どうやって奴の死を認識する?
 死体があったわけでもない。死んだ、ではなく失踪したと認識するはずだ。
 なればこそ、実験内でニコラス・D・ウルフウッドの名を見ても、やっぱり生きていた、と認識する程度のはず。
 つまり、同郷の者である二人を、同じ世界から拉致するには――互いの抱える情報が矛盾しているのさ」

 シトマンドラの説明が入っても、アディーネとチミルフは顔を歪めたままである。
 二人とも、そもそもがこういう話は得意でない。理解しろというほうが無理だった。

「これは時間軸の齟齬、そこから分岐する数通りの世界……それが、『あったかもしれない世界』ということですか?」
「概ね正解だ……と言っておこう。チミルフ、アディーネ、おまえたちが見た八神はやても、その法則に当てはまる」

 シトマンドラから転じ、今度は螺旋王が語る。

「おまえたちが相対したのは、『スバル・ナカジマ、ティアナ・ランスター、
 エリオ・モンディアル、キャロ・ル・ルシエ等四名を欠いた世界』の八神はやてだ。
 彼女らのいなくなった世界には、八神はやてもシャマルも現存している。
 逆に、八神はやてやシャマルがいなくなった世界では、スバル・ナカジマ等は現存している。
 機動六課の面々は六人だが、八神はやて等二人はAの世界から、スバル・ナカジマ等四人はBの世界から。
 二通りの異なるパラレルワールドから召喚したというわけだ」

「じゃあ、あたしとチミルフが見たのは、そのBの世界の八神はやて……」
「そうだ。全ては、Aの世界が八神はやてとシャマルを欠いた時点で分岐した。
 わかるか? これが『あったかもしれない世界』……時間軸の無限分岐によって発生する、多元宇宙だ。
 多元宇宙論を用いれば、タイムパラドクスの弊害は発生しない。
 だからこそ、彼女らは会場内の仲間が元の世界の仲間であると誤認する」
「…………」

 二人の八神はやてのからくりがわかっても、チミルフとアディーネは納得の域まで辿り着けなかった。
 ifの世界、パラレルワールド、多元宇宙論、どの言葉を持ってしても、獣人二人の知能に理解は与えられない。
 絶句したように口を閉ざすチミルフとアディーネを尻目に、シトマンドラが尋ねる。

「では螺旋王。先ほどの映像も多元宇宙の一つ……シモン、カミナ、ヨーコ、ニア、ヴィラルが存在し、
 我ら獣人がニンゲンに敗北したパターンの世界……ということですか?」
「そのとおりだ、シトマンドラよ」
「なるほど。いや、しかし螺旋王もお人が悪い。このような重大事項を今まで我らに黙っておられたとは」
「……なに、これも一つの実験だ。おまえたちが気づき、探求するか否かのな」

 知識を深めるシトマンドラと、いつになく饒舌な螺旋王。
 二者が笑い合う最中、アディーネが辛辣な表情で割って入る。

「螺旋王。多元宇宙とやらの概念は、なんとなくではありますが理解できました。
 ですが、疑問はそれだけではありません。
 螺旋王は、どうやってこの多元宇宙とやらの存在をお知りになったのですか?
 この、ニンゲンたちが蔓延る世界の映像の出所は?
 我々の世界にもアンチ=スパイラルとやらは存在するのですか?
 多元宇宙の間を行き来できるのは、どんなからくりです?
 幾多の多元宇宙に住むニンゲンどもを、どうやって攫ったのですか?
 そして――この実験の趣旨は、いったいなんなのですか?」

 今まで抱えてきた疑問を全て発散するように、アディーネは螺旋王に質問を浴びせた。
 螺旋王は、笑う。
 ただ不敵に。アディーネの無知を嘲笑うかのように。
 もしくは――自らが生み出した生命体が、知恵をつける様を、嬉しがるかのように。

「二つだけ、答えよう」

 螺旋王が、声高らかに解答を述べる。

「アンチ=スパイラルは、我々の宇宙にも存在する」

 紡ぐ。

「そして、実験の趣旨。それは――」

 此度の実験、その根幹を成す、目的を。

「――螺旋力による、新世界の創造だ」


 ◇ ◇ ◇


 ヒントは、最初から幾重にも張り巡らされていた。

 菫川ねねねが水族館で考察した一説――パラレルワールド理論。
 同じ日本を舞台にしておきながら、富士見書房という片方の世界にしか存在しない出版社を始め、存在するのは数多の差異。
 分岐したのは、菫川ねねねや柊かがみが生まれる以前の話か。もしくは地球創世の頃からか。
 それが、螺旋王の言う多元宇宙論。
 並行世界の行き来を可能とする時空管理局でも、踏み込めぬ領域。
 アンチ=スパイラルですら、その全てを掌握してはいない不完全な概念……それを。

 螺旋王は、目にし、耳にし、手にし、我が物とした。


 ◇ ◇ ◇


「多元宇宙を発見し、私がまず抱いた感情は、羨望だった」

 語る。饒舌に、しかし厳格に。

「先ほどの映像にもあったとおり、私はアンチ=スパイラルに敗れ地球に追われた螺旋族の生き残り、言わば敗残兵だ」

 夢浸る乙女のように、野望燃やす男児のように。

「諦観の裏で、反逆の牙を研いでいたことは事実。それは、叶わぬ悲願だった。しかし」

 螺旋を知り尽くした男が、選び取る道。

「私は知った。我潰えるとしても、悲願が達成されるパターン、世界があったのだと。だからこその羨望だ」

 獣の亜種たる者には、理解の及びつかぬ幻想夢想。

「しかし叶わぬ。あのようには事を進められぬ。我々の支配する人間たちは、シモンほど強くはないからだ」

 最善でも最良でもなく、己がこれだと思う結果を模索する。

「しかし焦がれた。あのような結末に。そして私は考え至ったのだ。敗残兵として取るべき、新たな悲願を」

 螺旋王ロージェノムが、多元宇宙を、螺旋力を、人間を、真に理解した、一つの結果。

「アンチ=スパイラルにも侵されぬ、新たな世界。そこで螺旋族による螺旋族のための歴史を、再興すると」

 ――言葉は紡がれ、そして静寂が訪れた。
 誰もが無言のまま、その場に佇む。
 徐々に、徐々に、螺旋王の言霊が三者の顔に浸透していく。

 チミルフは――怒り。
 アディーネは――惑い。
 シトマンドラは――歓喜。

「素晴らしい……実に、素晴らしいッ!!」

 孔雀の羽が大きく揺れ、シトマンドラは体を反り返らせるほどに叫んだ。

「世界を創造するとは……それは正しく、王をも越えた神の所業!
 螺旋王は王を超越し、螺旋神とでも名乗るおつもりか!?
 いやいや、しかしこれはなんという大業。この神速のシトマンドラ、誠心誠意助力を――」
「なにを浮き足立っている、シトマンドラ! 貴様、螺旋王の言葉の意味を理解しているのか!?」

 高揚するシトマンドラを静めたのは、意外にも、この場で最も学が足りなかったであろうチミルフだった。

「アンチ=スパイラルに侵されぬ螺旋族のための新世界……それは言うならば、ニンゲンの世界ということではないか!
 螺旋王の所業は、我らが支配し、駆逐し、蹂躙し、虐げてきた、ニンゲンを救済するものだぞ!?」
「それがどうしたというのだ。元より、螺旋王も人間。我らは螺旋王に作られし獣人。この関係は覆らぬ」
「だが! その新世界とやらで我ら獣人はどうなる!? 劣等種であるニンゲンと対等に置かれ、そこでなにを得る!?
 螺旋王にじかにお聞きしたい! あなたは、来るべき新世界で我ら獣人にどうせよと命じられるおつもりか!?」

 螺旋王の悲願とその成就は、現在確立している人間と獣人の優劣関係を対等にする、もしくはひっくり返すものだ。
 獣人であることに誇りを掲げるチミルフは、多元宇宙の映像の中にあったような、人間の時代を恐れた。
 だからこその怒り。主に反旗を翻さんほどの、尊厳をかけた怒りが湧き上がっていた。
 その、チミルフの怒号をよそに、

「ふむ……おまえはまだ疑問を抱いているようだな」

 アディーネは、難しい顔を浮かべたまま問いを口にする。

「……此度の実験の趣旨、螺旋王の悲願とその思い、察しました。しかし、私にはわかりません。
 新世界の創造などという方法も思い浮かばぬ大業への道が、どうしてこのような殺し合いで開かれるのか。
 螺旋力……というものが鍵を握っているであろうことは理解できます。
 ですが、あのニンゲンどもに、本当に世界を創造できるほどの螺旋力が眠っているのですか?」
「ふむ。当然の疑問だな。アディーネよ、その感心深さを誇るがいい」

 一度の賛嘆。そして解答。

「あの実験場、あれは私の螺旋力によって作り出した世界でな。試験作と言ったところか。
 計算上では現地時間で48時間しか持続できぬ不完全な代物だが、螺旋力による世界創造は既に実現化しているのだ」
「螺旋王ほどのお方でも不完全品しか作れぬと言うのであれば、なおさら疑問です。あのニンゲンたちに、それほどの可能性が?」
「それはわからんさ、アディーネ。だからこその『実験』だ。成功すれば我が悲願は叶い、失敗すれば遠のく。今回に限って言えば、ただそれだけだ」

 螺旋王の計画は、今回が詰めではない。まだ初動の段階。
 アディーネは今ようやく、螺旋王が殺し合いを『実験』と称す理由を理解した。

「さて……ここまで提示した情報は、獣人でありながらに探求の道を進んだ、おまえたちへの褒美のようなものだ。
 チミルフ、アディーネ、シトマンドラ。私の思惑と実験の裏側を知った今、おまえたちはどのような選択をする?」

 螺旋王は三人に問う。獣人として、螺旋王四天王として、この計画に賛同するか否かを。

「改めて問われるまでもない。この神速のシトマンドラ、螺旋王の悲願成就に尽力することを誓いましょう」

 とシトマンドラ。

「拭えぬ疑問はまだあります。しかし、それが螺旋王の意というのであれば……この流麗のアディーネ、今ばかりは助力を」

 とアディーネ。

「……螺旋王。この怒涛のチミルフ、獣人の一人として懇願したいことがあります」

 とチミルフ。

「申してみよ、怒涛のチミルフ」
「……今もなお繰り広げられている実験。そこに、この俺を放り込んでいただきたい」

 チミルフの申し立てに、アディーネとシトマンドラがどよめきの声を上げた。
 螺旋王は表情を崩さず、チミルフの真剣な様相と向き合う。

「自身も殺し合いに参加したい、そう申すのかチミルフよ」
「はい」
「なにを馬鹿な! 気でも狂ったのかいチミルフ!?」
「声を荒げるなアディーネ。螺旋王の御前であるぞ」

 チミルフの進言に動揺し、しかし今は事の経過を見守るアディーネとシトマンドラ。
 チミルフが、その真意を口にする。

「俺は武人です。獣人の武人です。ニンゲンどもの世など望みはしない。それがたとえ、螺旋王の命であったとしても」
「……」

 無言のまま静聴する螺旋王。シトマンドラもチミルフの発言を咎めたりはしなかった。

「今一度証明したのです……! 獣人がニンゲンよりも優れた種であるということを、あの実験場で!
 もし、俺があの場のニンゲンども全員を駆逐したならば、此度の計画は考え直していただきたい!」
「……慢心はないか? おまえが赴くは、獣人がいないにしても死地に他ならんのだぞ」
「戦地にて死ねるなら、武人として本望! この怒涛のチミルフの願い、どうかお聞き受けいただきたい!」

 意志固く声を発すると、チミルフは深く頭を下げた。
 それを受け取り、螺旋王の表情は硬いまま。
 残りの四天王が見守る中、返答が下る。

「……考えておこう。然るべき時が訪れれば、おまえには出撃の命を下す」
「ははっ!」
「……話はこれまでだ。皆、それぞれの任に戻るがよい」

 螺旋王の解散宣言が出たところで、チミルフ、アディーネ、シトマンドラの三人が退席する。
 それぞれ、胸中には別の思惑を宿したまま。


 ◇ ◇ ◇


 ――そして、螺旋王だけが残された。
 周囲の壁面には、再び殺し合いの映像が映される。
 が、それは現在執り行われている『実験』ではない。
 発見した多元宇宙の一つ、此度の実験を計画する上で大きく影響した、資料の一種と言えた。





  俺っ……そんな、こんなことになるなんて、俺、俺……

          文化の真髄を見つけた今の俺に適う奴はゼロで皆無でナッシィィング!!

      必要なのはスタンドプレーの結果として生じるチームワークだけだ

     そのために私が残った     オレはオレの国を手に入れるため――――――

          あ、あはははは、だから言ったでしょ、止まらないと撃つって! ざまあみろだ!

        死んじゃったら大人になれないよ?     ゲームセットかな?かな?

           分かったのなら立ち上がれ。さっさと闘争を再開しろ。HURRY!

   戻ってくるるるるるるるるるるるるるるる♪   今までみたいに私の……私の名前を呼んでよ……!

       私は私が選び歩んできた道を決して後悔しません

                     もう、全てを失ってしまった……馬鹿ですね、僕も

            某としたことが……そんな大事なことを失念してしまうとは

 人形に死ぬということはないわ。ただ、遠くに行ってしまうだけ

                   だけど、そんな毎日が、悪くはなかった。楽しかった

   貴方達が死を望もうとも、私はまだ死ぬわけにはいかない!   眠ぃ、な。……ゆめ、でも。見るか……

               君達にだって、ぼくと同じ、心はあるんだって……そう思ったから

                               エクソダス、しようぜ!

         帰ってきた現実のほうが、よっぽど地獄じゃねぇか!






 ――螺旋力など関与していない、単純に、人間の争う様を観賞する目的で企てられた悪趣味な計画。
 渦中で蠢く殺意の、なんと禍々しきことか。しかし、時折混じる一閃の光は、螺旋力にも似た輝かしい緑。
 螺旋王は知った。闘争を中心とした、人間の生への渇望。それが、螺旋因子へ多大な影響を及ぼすということを。
 バトルロワイアルの名を冠さすサバイバルこそ、最上にして最適な手段なのではないかと考え至った。

「宇宙は広い。私と同じ道を辿った螺旋族も、どこかにいるのかもしれぬな」

 ふと、そんなことを口にする。
 螺旋の戦士としての闘志、仇敵に対する復讐心は、悪夢の果てに置いて来た。
 今、ここにいる螺旋王は――ただ悲願の成就を目指すだけだ。
 アンチ=スパイラルにも干渉を許さぬ、螺旋の理想郷。
 その骨組みとなる、『真に覚醒せし螺旋力』。

「――及ばぬ。私にも、私の求める力にも、まだ」

 螺旋の力に、天元はあるのか。
 あったと仮定して、その天元を突き破るほどの力が発揮されれば――あるいは。

「タイムリミットはあと24時間だ。目覚めよ、そして真なる螺旋力を私に見せてみよ。
 私の螺旋力が作り出した不完全なる世界……その、天元を突き破ってな」

 捻り捻れて、欠片は紡がれる。
 螺旋の構造は、人の生き方になにを齎すのか。
 王は知らない。手探りの状態で、なおも実験は経過する……。


【螺旋王の居城(王都テッペリン?)/1日目/真夜中(放送開始)】

【螺旋王ロージェノム@天元突破グレンラガン】
[状態]???
[思考・状況]
1:第四回放送に取り掛かる。

【螺旋王の正体について】
※螺旋王の正体は、
『シモン、カミナ、ヨーコ、ニア、ヴィラルたちが存在しなかった多元宇宙の螺旋王』
※シモン、カミナ、ヨーコ、ニア、ヴィラルの五人は、他の多元宇宙から集めた参加者であり、
 この螺旋王(主催者)の住んでいた世界には存在していなかった。
 そのため参加者であるニアは主催者の螺旋王と直接的な親子関係はなく、ヴィラルも直属の部下ではない。

【螺旋王の目的について】
※螺旋王の目的は、
『真なる螺旋力に目覚めし者を利用し、アンチ=スパイラルが介入できない新世界を創造すること』
『作り上げた新世界で、螺旋族(人間?)の再興を果たすこと』
※具体的にどのような方法を用い、世界を創造するのかは不明。
※目的達成後、獣人たちをどうするかは不明。
※目的達成後、螺旋力覚醒者をどうするかは不明。

【螺旋王の能力について】
※多元宇宙間を移動することが可能。ある程度の時間干渉、次元干渉も可能と思われる。制限がある可能性もあり。
※どのような技術でそれを可能にしているかは不明。

【実験場について】
※実験の舞台となっている会場は、螺旋王が自身の螺旋力で作り出した世界。不完全。
※実験開始から数え、48時間(2日目終了時)で崩壊してしまう。

【その他不明な部分】
※螺旋王が多元宇宙(グレンラガン本編の世界)の存在を発見できた理由。
※螺旋王が参加者を集めた方法、多元宇宙を行き来する方法。またそれらの入手先。


時系列順に読む


外伝:すべては穴掘りシモンとの邂逅から始まる ロージェノム 241:第四回放送
外伝:すべては穴掘りシモンとの邂逅から始まる 怒涛のチミルフ 241:第四回放送
外伝:すべては穴掘りシモンとの邂逅から始まる 流麗のアディーネ 外伝:SPIRAL ALIVE
210:第三回放送、あるいは 神速のシトマンドラ 外伝:SPIRAL ALIVE





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