死ぬほど辛い ◆10fcvoEbko



警察署の中に入ってきた男に対し、アルベルトは接触しないという方針を採った。




買い物は仲の良い友達と一緒にするのが何より楽しい。
一人でウィンドウショッピングというのも悪くはないが、やはり気心の知れた友達と他愛のない会話をしながらの方が何倍も楽しいと思う。
買う気がなくても、あるいは高すぎて手が出ないものでも、見て喋ってしているだけで何となく満足した気持ちになるものだ。
冷静に見れば下らないと思うような品物でも、そういう時には最高に面白いものであるかのように楽しむことができる。
別に寂しがり屋と言う訳ではない。
ただ、一人の買い物はささっと用事を済ませるだけに終わってしまいがちでつまらない、というだけの話だ。
友人と気軽に買い物を楽しめる穏やかな日常など、もう望むべくもないものなのだろうけど。

「…っと。こんなもんかな」
柊かがみは試着室の鏡に映った自分の姿を見てそう言った。
チェックの入った薄い赤色のブラウスとネクタイ。それにスカート。
びしょ濡れになった制服をとにかく着替えてしまいたかったので、深く考えずに適当に選んだら何だか普段着ているものと似たような形になってしまった。
濡れた制服はいっそ捨ててしまおうかとも思ったが、結局捨てきれずに丸めて持っている。
穏やかな日常の象徴であるそれを捨てることは、殺し合いなどとは無縁だった頃の自分を完全に消し去ることのように思えて、どうしてもできなかった。
持っていようがいまいが、元通りの生活に戻ることなどできないと気付いてはいたが。
未練がましいと思いつつ、後で千里のデイパックに入れてもらおう思った。

かがみは今、ショッピングモール内の服売り場にいる。
千里はかがみが代えの服を選ぶ間に、店内を見て回ると言って出かけて行った。
恐らく、モール内の店舗一つ一つをいちいち調査しているのだろう。それはもうきっちりと。
一瞬逃げてしまおうかと思ったが、どうしても逃げ切れるビジョンが浮かんでこず、代わりに捕まったときの報復ばかり浮かんできたのですぐに断念した。
千里への恐怖は、トラウマに近いレベルでかがみの中に植えつけられていた。


買い物を楽しむために必要なものがもう一つあった。周囲の喧騒というか、活気だ。
街中にせよ店の中にせよ、賑やかなところの方がこちらもそれにあわせて気分が高揚するというものだ。
そうしてみるとこのショッピングモールは買い物を楽しむのに適した場所とは言えないだろう。
店内は無人無音であり、活気は一切無縁の空間だったからだ。
人の気配がしないのはもちろん音楽の一つも流れていない。ただただ、様々な種類の店ががらんと広がっているだけである。
おかげで、単独行動をしても危険が少ないだろうと判断できた。
判断したのは千里だ。不死者となったかがみには多少の危険は問題ではなくなっていたので別に構わなかった。
襲われたって別に、という捨て鉢な気分であったのも確かだ。
それに、千里が死んだ方が色々なものから解放されるという打算も、少しはあった。

「こなたはどうしてるかな…。ゆたかちゃんも」
少し前までは、絶望感で頭が埋め尽くされていたため気が回っていなかったが、千里に振り回されいくらか落ち着いた気持ちになると、急に二人のことが気になりだした。
服売り場という、自分達の日常に近い場所にいることも関係しているかもしれない。
振り返ってみると、このモールのようないかにもショッピングのための場所といった場所より、もう少々アンダーグラウンドな店に行くことが多かった気もするが、その責任の大部分はこなたにある。
決してそういう店にしか行ってない訳ではない。断じてない。
考えてみれば殺し合いと言う状況に、不死の酒などというファンタジーのような代物が存在する世界。いかにも、こなたが好きそうなシチュエーションである。
待ってましたとばかりにある特定の方面にだけ異常に発揮される情熱を燃やし、この状況を多いに満喫しているかもしれない。

「…さすがにそれはないか。現実と虚構の区別くらいつくだろうし。…多分」
断言できないところが恐ろしい。
だが、実際に人が死んでいるところを見ている訳だし、意外とゆたかを探して走り回っているのかもしれない。
あれでなかなかお姉さん振るところがある。
放送によりつかさの死を知った二人がどうしたか、という疑問は無意識に思考の外に追いやった。

「…二人に会ったら、どうしよう」
殺すのか。つかさを生き返らせるために。
そんなことが本当にできるのか。
体の中が縮み上がるような感覚を覚える。今はまだ、そのことについて考えたくなかった。
無理やり別のことを考えようとしたとき、ちょうど良いタイミングで千里と合流することができた。
「お待たせ。あら、なかなか似合うじゃない」
「…そりゃどうも」
受けた仕打ちのせいか千里への恐怖は依然残っており、素直に言葉を受け取れなかった。
こいつと買い物を楽しめる日は永遠にやってこないだろう。
我知らず角度の鋭くなった目をしながら、濡れた制服を詰めた袋を渡した。

「で、どうだったの?何か気になる物でもあった?」
かがみの視線を一切意に介さず、袋をデイパックに収めながら千里は答えた。
「外壁の一部が壊れていたくらいで、別に珍しい物はなかったわね。人はどこにもいなかったけど、それを除けば普通のショッピングモールよ。
どこかに私の友達が隠れてるんじゃないかっていうぐらい」
「普通のショッピングモールにいそうな友達って言うのもよく分からんが…。
まぁ、そうそう珍しいものなんて見つかんないわよ」
「そうかしら?あぁ、あと食料品売場だけはなかったわね。これはまぁ当然かしら」
「支給された以上の食べ物は渡さないってことね」
「それ以上が欲しければ自分で知恵を絞れってことね。
例えば、他の人の分を殺して奪うとか」
平然と言い放つ。千里がそういうことに妙に慣れているように思えるのは気のせいだろうか。

いざとなれば仕方ないかもね、と返しはしたが、実際そのときになって自分がどうするのかは想像できなかった。
代わりに、不死者は空腹でも死なないのだろうかと、どうでもいいことを考えた。

「この後はどうするの?」
言ってからかがみは、まるで本当に買い物を楽しみに来てる人のセリフみたいだなと思った。
「そうね、これ以上ここにいる必要はないし。川を越えて西に向かいましょう。
地図のA列の探索がまだ途中だわ」
「ちょっと待て。もしかしてエリアを全部見て回るつもり?」
「もちろんよ。そうじゃないときっちりしないじゃない。ただでさえ、ワープしたせいで予定が狂ってしまったと言うのに。
他の不死者を探そうにも、手掛かり一つない訳だし」
それは何だ、横断歩道の白いところだけ踏んで渡ろうとしたのを途中で邪魔された的な気持ち悪さなのか。そんなものに自分は付き合わされるのか。
かがみには、殺し合いの場においてさえ我が道を貫く千里の精神が理解できない。

「ちなみに禁止エリアは…ごめん、何でもない!」
千里の目が菱形に変形しかけたのを見てかがみは慌てて質問を打ち消した。逆鱗だったらしい。
もうさっきのように仕打ちは受けたくない。場を取り繕うようなぎこちない笑顔で歩き出した。
「い、行きましょう。ほら」
「ところで、かがみさん」
声を発した千里は、率先して動こうとしたかがみの行動を無視するかのように一歩も足を動かしていなかった。
声色は真剣だが目が普通に戻っているので、次の話題に移ったと見ていいらしい。

「な、何?」
「その服の代金は、ちゃんと支払ったわよね?」
今この場においてその質問の答えが我々の命運を左右する、とでも言わんばかりの重々しい口調だった。
「え…いや、払ってない、けど」
「本当に?それは、泥棒と言うのよ」
噛んで含めるように言われた。穏やかになった声が逆に恐ろしい。
「あ、いや。非常時、だし…」
「キチント払ッテオキナサイ!」
「ひいぃ!」
今度こそ完全に目を菱形にして迫ってくる千里の迫力に、逃げるようにかがみは服を手に入れた店へと駆け戻って行った。
安物で助かった。
出費を低く抑えるのも、買い物では大切なことである。

「いい?たとえ、どんな状況であれ勝手に物を持っていけばそれは窃盗よ。
人間辛いときにもこうした倫理感は失わずにいたいものね」
「…さっきアンタが私を刺したのは何か、傷害とかにはならないのか?」
「あれは、不死であることを確かめるための実験だからいいのよ。きっちりしてるわ」
「…微妙に自分に甘いな、こいつ」
かがみはこっそりとは毒づいた。
二人はショッピングモールを後にし、北西に伸びる道路を進んでいた。
川を越えたあたりで、道路は南西方向へと角度を変える。
「新しいエリアにも入ったことだし、そろそろ探索を始めましょうか。
とりあえずは、警察署に行きましょう」
「ほんとに全部見て回るのか…」
途方もないうえ、意義が見出せないプランにため息が出る。

「やみくもに歩き回る訳じゃないわ。
さっきのショッピングモールもそうだけど、警察署はわざわざ地図に明記された施設なのよ。何か、意味ありげだとは思わない?」
「言われてみれば…そうね」
機械のように自分の行動方針に従っているだけかと思いきや、案外考えてもいるのだなと、かがみは素直に感心した。
「というか、意味が隠されていないといけないのよ。
禁止エリアみたいな真似をそう何度もされたら、私の気が済まないわ」
「でしょうね…」
きっとこれから気に入らないことがある度に私にとばっちりがくるんだろうなあと、歩きながら思った。
かがみは千里の少し後ろを歩いていた。千里に先導される形である。
友達を引っ張る立場にいることが多かったかがみにとって、千里のような決断力のある人間に従って行動するというのは、どうにも落ち着かない。
気付かないうちに、自分の中でもプランを練ってしまう。
普段あれだけこなた達に自分でも考えろと怒っていたのに、いつの間にかまとめ役が職業病のように身に付いてしまっていたらしい。

(大体、私の周りの人達ってどこかマイペースっていうかおっとりしてるっていうか、そういう人が多いのよね。
……つかさなんて、特にそうだった)
学校の友達や家族について思いを馳せ、今は失われている妹のことを考えた。
つかさだけがいればそれで良い、そう思ったときの壊れたテレビ画面のような荒んだ感情は過ぎ去っており、生々しい、刺すような感覚でもって妹の死を捉える。
優勝してつかさを生き返らせるということが、ひどく現実味のないことのように思えてきた。
いけない、と思った。すぐに考えがぶれてしまうのは、殺す殺すと言いながら心の底では吹っ切れていない証拠だ。
優勝を目指すとはっきり言えないのは、こなた達と会ったときにどうするか決められていないことも関係しているのだろう。
アイザックという男を撃ったあとの、参加者を皆殺しにするという考えは、果たして自分の中でどれ程現実味のある言葉だったのか。
目の前を歩く女も友達がこの場に来ているはずなのだが、心配ではないのだろうか。
他の不死者を食わせようとするあたり、殺人に抵抗がないかのような印象を覚えるが、それは友達に対してでもそうなのだろうか。
もし友達だって平気で殺せるというなら、そのような心境に至るにはどうすればいいのだろう。
同じようにすれば、優勝を目指すことに迷いがなくなるのだろうか。
かがみは立ち止まった。

「…ねぇ」
「ん…何?」
かがみの様子の変化を察したのか、千里も立ち止まりかがみの方を向く。
「…あなたは何でそんなに普通にしていられるの?」
「…ごめんなさい、言ってる意味が良く分からないわ」
「友達が心配じゃないのかって言ってるのよ!」
迷いなく優勝を目指すための方法を聞くはずが、実際にかがみの口から出たのはそんな言葉だった。
小首を傾げる千里に、かがみの口調がさらに激しく、非難するものへと変わっていく。

「会ってからずっと自分のしたいことばかり言って!
友達がいるなら早く合流したいとか、どこにいるんだろうとか、そういうことは考えないの!
…何で、そんなに自分のことばかり考えていられるのよ!」
「そうでないと私の気が済まないから、というのが答えなのだけれど。別に、心配でない訳ではないのよ?
まぁ、可符香ちゃんが怯えるとこなんて想像できないし、先生も死ぬ死ぬ言って自殺まがいのことはするけど結局死なないから、何となく安心できるというのはあるかしら」
それにあわよくば先生と、と続けられた部分ははかがみの耳には届かなかった。
「そんな…それだけの理由で…」
千里の言葉は余裕とも冷徹ともとれるものだった。
その泰然とした態度こそかがみの欲していたもののはずなのに、口を開けば否定するようなことを言い、反発する意思ばかりが強くなった。
まるで、千里の態度が本当は気に食わないものであるかのように。
泣き出しそうなかがみを見かねたように、千里が言った。

「強いて言えば二人を信頼しているから、ってことになるのかしら」
安っぽい表現だったが、それはあるいはかがみのことを思った故の言葉だったのかも知れない。
続けられた言葉には、はっきりとかがみのことを案じる響きがこめられていた。
「私のことより、あなたはどうなのかしら?」
「…え?」
何を言われたのか分からないというように、きょとんとした表情でかがみは顔を上げた。
「…まったくもう。しっかりしなさいな」
だだっ子の扱いに困った母親のようなため息を一つついて、千里はかがみに近づいた。
また何かされるのではとかがみは身を震わせ、ぎゅっと目をつぶる。
だが千里はそんなかがみの手をそっと自分の手で包み込むと、穏やかな声で言った。

「あなたはこう言いたいのでしょう?自分の友達が心配だって」
「え…」
「つかささんだけいればなんて言っても、他のお友達のことが気になるのでしょう?
私にはそうとしか聞こえなかったけれど?」
初めて聞く優しい声色に乗せられた千里の言葉は予想外のものであり、かがみは戸惑った。
ただ、握られた手の暖かさだけが強く感じられた。
自分が言っていたのはそういうことなのだろうか。
つかさのために優勝を目指す決意を固められずにいるのは、そもそも現実味を感じられないというのもあるけれど、それ以上にすぐこなた達のことを思い出してしまい、考えたくなくなるからだ。
だから、友達などどこ吹く風と言わんばかりの千里の態度を羨ましく思った。
思った、はずだ。
では、何故さっきの千里の言葉にあんなにも強く反発したのかという、その理由は良く分からなかったのだけれど。

「私…私は…」
感情を表す言葉が見つからず、かがみは顔を上げることしかできなかった。弾け飛んだ千里の頭部が目に入った。
「……」
続いてかがみの体にも衝撃が走り、意識を失った。




ニコラス・D・ウルフウッドは相変わらず鬱々とした感情を抱えながらも、無言でたった今殺した少女達の荷物を回収した。
もっとも、片方の少女は手ぶら同然だったため回収したのは実質一人分である。
警察署に銃はなかった。
というか、地図で警察署と記された場所に在った建物は、ウルフウッドの想定していた警察署とは大分様相が異なっていた。
警察署と言えば、ならず者やら賞金稼ぎやらが起こすトラブルにすぐに対応できるように作られており、逆恨みの襲撃にさらされることも多い場所である。
常にどこか壊れたり薄汚れたりしているものだ。

拳銃は詰めている者が携帯するにせよ、ショットガン級の武器の一つや二つは示威のために分かりやすいところに置いているはずだ、と思っていた。
ところが、訪れた場所は奇妙にこざっぱりした建物で、中は数々の部屋に仕切られ多くの事務机が置かれているだけという、何というかよっぽど上流の企業のような雰囲気だった。
こんなにお上品で警察業務が務まるとは、とても思えなかった。
務まるとしたら、その国の連中はよっぽど平和ボケをしているに違いない。
銃が手に入りそうにないことに歯噛みしながら、探索の途中で荷物の整理をした。
あの銃使いの女から奪った物は支給品一式と変わったデザインのコンピュータ、そして一枚の音楽CDだった。
「自殺交響曲『楽園』」というタイトルと、「一度再生するとデータは失われます」という補足文が書かれていた。
何や、死にたくなったらこれ聞け言うんか。
今すぐにでも流しっぱなしにしたい気分ではあったが、不機嫌極まりない声でそう呟くに留めてデイパックに収めた。
入り口付近の部屋をいくつか漁っただけで、ウルフッドは失望とともに建物を後にした。
まさか、たかが銃ごときを建物の奥深くで後生大事に保管、などということもあるまい。
ショッピングモールにも一応行って見るが、やはり誰かから奪うしかないかもしれない。
と、思ったところで前方から少女が二人やってきたので、気付かれないように近づいて射殺した。
特に抵抗されることもなく、実に簡単に済んだ。

「銃を持っててくれたら良かったんやけどな…。武器っちゅても、刀は上手いこと使われへん」
片方の少女が腰に差していた二本の刀に失意混じりの視線を注ぎながら、ウルフウッドはそう言った。
今の襲撃でヴァッシュの銃は弾が尽きてしまった。
「…胸糞悪い」
仕方なしにもう片方の少女にはデリンジャーを使ったが、やはりどうしようもなく気分が悪い。
それに、一度に装填できるのが二発だけであり、射程も短いデリンジャーは性能的に見ても頼りになる武器とは言いがたかった。
いっそ刀振り回してサムライ気取ったろかい。
むかつく思いを抱きながらウルフウッドは次の獲物を求めてその場を立ち去ろうとした。
そのときに、ふと違和感を覚える。
確かに殺したはずの少女の体が、まるで生きているかのように震えていた。
(死体の痙攣…いや、そういうのとはちゃう。
まさか生きとるんか?確かに命中したはずやぞ)
さっき死体を改めたときは確かに死んでいた。その場を切り抜けるための演技だったとはとても思えない。
弾が骨にでも引っ掛かったかと、できるだけ現実的に解釈してウルフウッドはデリンジャーの銃口を向けようとして、止めた。
この銃を持つとどうしても持ち主であるメリル・ストライフのことを意識してしまう。
メリルと併せて想起される人物は、ヴァッシュ・ザ・スタンピード以上にウルフッドの心をざらつかせた。
ウルフウッドはデリンジャーを収め、入手したての刀を鞘から抜き放った。
それを、少女の体を道路に縫い付けるかのように両手で深々と少女の背中に突き立てる。
垂直にそそり立つ刀は、少女に僅かな悲鳴を上げさせただけで今度こそ確かにその命を奪った。
少女が動かなくなったのを確認して刀を引き抜いた。
途中筋肉か何かに引っかかったが、傷口を抉るようにして無理やり作業を完了させた。
そして、今度こそ立ち去ろうと歩き出す。
だが、一歩踏み出した直後に少女の死体に起きた異変を見て、再びウルフウッドの足が止まった。
(再生…しとる)
流出し後は道路にしみこんでいくだけのはずの血液が、少女の体に少しずつ戻っていく。
見る間に再生は完了し、ウルフウッドが自らの手で付けた傷は跡形もなく塞がった。
そして、うっ、と言ううめき声とともに少女の体に力が戻った。
ウルフウッドは今度は袈裟懸けに背中を切りつけた。ぐぁっという声を上げ少女が苦しそうに転がるが傷はすぐに回復した。
血の集まる部分を狙って切った。慣れない得物で上手く傷つけられなかったが、それでもかなりの量の血が吹き出る。たが排出された液体は全て体へと戻っていった。
再生が完了するのと同時に逃げようとしたので反射的に足元へ刀を振り下ろした。骨に食い込む程の切れ味を見せたが、振り抜いた少しあとには傷は消えた。

「普通の方法ではあかんっちゅう訳か…」
俄かには信じがたい光景に驚きながらも、ウルフウッドは冷静に行動し、少女が立ち上がるより早く眼前に回りこみ退路を塞いだ。
刀の切っ先を突き付けて、聞く。
「何で死なへんねん、お前。まさか、不死身ちゅう訳でもないやろ?」
「あ……あ……」
恐怖で竦んで何も喋れない、といった様子だ。
「ちっ」
舌打ちした。少女の正体が分からないためだが、今自分がした猟奇的ともとれる行動への嫌悪も多分に含まれている。
まるで化け物退治でもするかのように体を切り刻んだが、恐怖に怯えるこの顔は紛れも泣く人間の、少女のものだ。
最早誰であろうと殺すことにためらいはないが、女をいたぶって楽しむかのような真似をしてしまったことは、ウルフウッドの自己嫌悪をさらに酷くさせた。

「答えられへんのやったらええわい。
気絶させて、禁止エリアにでも放り込めばさすがに死ぬやろ」
たとえこの少女が本当に不死身だったとしても、螺旋王が用意した舞台にいる以上、ルールを越えて生存することはできまい。
刀を下ろしながらウルフウッドはそう考えた。
禁止エリアと口にしたときに少女が怯えるような仕種をしたことからも、推測は正しかったようだ。
とっとと終わらせてしまいたい、色々含めて全部。刀を鞘に納めた。
その際に、血どころか脂や肉の一片さえも刀身に残っていないことに気付く。つくづく常識外れだ。
「面倒な手間かけさせよるで、ほんまに」
少女の前に戻り、鞘ごと刀を振りかぶる。
感情のこもらない目で少女を見下ろし、一言だけ言った。
一気に刀を振り下ろそうとしたウルフッドは危険を感じとっさに前のめりに転がり込んだ。
「何やっ!?」
突如発生した風に煽られ何度か前転を繰り返したが、すぐに体勢を立て直す。
片膝の姿勢で振り返ると、荒れ狂う赤色と黒色の衝撃波が、周囲に暴風を撒き散らしながらたった今までウルフウッドがいた場所をずたずたに引き裂いていた。
叩きつけられる風圧に、訳が分からず呆然とする。道路に破壊の痕を付けるだけつけると、しばらくして衝撃波は止んだ。
代わりに、傷跡を刻み込まれ荒れ果てた姿となった道路の対岸に一人の男が立っていた。

「ほう…かわしおったか」
男の持つ葉巻に独りでに火が点いた。
「何やねん…お前」
一切の気配を感じさせずに唐突に現れた男を、何も分からないままウルフウッドは睨み付けた。
男の放つ鉛のような強烈な威圧感に耐え、油断なく身構える。頬を汗が伝うのを感じた。
「ふん。一度は捨ておこうかと思ったが、やはり貴様のやり口は少々気に入らんのでな。
邪魔をさせてもらう」
「そのお嬢ちゃんを助けよ言うんか?そないな正義漢にはみ見えへんけどな」
ウルフウッドは、自分を何の脅威とも感じていない様子で堂々と葉巻をくゆらせる男から、少女に視線を移す。
少女の体もまた、目の前の男の仕業と思われる衝撃波に吹き飛ばされ、今は男の足元でぐったりと横たわっていた。

「こんな娘なぞどうなっても構わん。
だが、不死の能力者は貴重なのでな、貴様なんぞにくれてやるには惜しい。
それに、さっき貴様があの女を殺したせいでワシの予定が少々狂ってしまってな。
その仮も、ついでに返しておく」
偉そうな態度で話す男の声を最後まで聞かず、ウルフウッドは刀ではなくデリンジャーを構えた。四の五の言っていられる状況ではない。
ほう、と男が小馬鹿にしたように顔を歪ませた。
「まさか、そのような子供騙しで十傑集たるこのワシを倒すつもりか?」
「お嬢ちゃんが気に入ったなら連れてっても構わんけどな、ここにおるからにはどうせいつかは戦わなあかんのやろうが。
ほんなら、今終わらせていけや」
男が、手練などという言葉でも生ぬるい程の相手だということはひしひしと感じられたが、そのうえでわざと挑発するような口調で言った。
狙い通り、男は吸いかけの葉巻を不機嫌そうぺっと吐き捨て、ウルフウッドに向き直った。
銃の次に、あるいは同じくらい渇望しているそれを無造作に扱う様を見せられ、鬱積がさらに高まる。
この男を倒すにはパニッシャーが三つは必要だろうが、どうでもいいことだった。
「あんまり美味そうに吸うなや…むかつくっちゅうねん!」
「死にたがりの馬鹿に付き合っておる暇はない!づぇあ!」
相手をデリンジャーの射程内に収め一気に勝負をかけようとしたウルフウッドに、男はそう叫ぶと腕を振った。
ただそれだけの動作で発生した衝撃波にウルフウッドは容易く捉えられ、大きく吹き飛んだ。
コンクリートの塀に叩きつけられる。息を吐く間もなく追い打ちで放たれた衝撃波に、全身を切り刻まれた。
体を丸めて痛みに耐えながら、次の衝撃に備える。
しかし、ウルフウッドがそれ以上の攻撃に襲われることはなかった。
衝撃波はそれっきりで、ウルフッドの周囲の風もすぐに止んだ。
ゆっくりと目を開ける。

男の姿は、足元に転がっていた少女の姿と共に、影も形もなくなっていた。
後に残っていたのは、半ば倒壊しかかっている塀の中に埋もれるウルフウッドと、頭を弾け散らしたもう一人の少女の死体だけだった。
衝撃波によりウルフウッドの体中に切り傷が生まれたが、どれも浅く致命傷には程遠いものばかりだった。
あの男が、自分をまともに相手にしていなかった証拠である。
うなだれ、視線を落としたまま、ウルフウッドは静かに呟いた。
「……何やっちゅうねん」
別に、今ので殺してくれても良かったというのに。


【A-6/警察署近くの道路/一日目/昼】
【ニコラス・D・ウルフウッド@トライガン】
[状態]:更に不機嫌。かなりイライラ 全身に浅い裂傷
[装備]:デリンジャー(残弾1/2)@トライガン デリンジャーの予備銃弾18
[道具]:支給品一式 (食糧:食パン六枚切り三斤+四枚、ミネラルウォーター500ml 2本) 士郎となつきと千里の支給品一式
ヴァッシュ・ザ・スタンピードの銃(残弾0/6)@トライガン、ムラサーミャ&コチーテ、暗視スコープ、エドのコンピュータとゴーグル、びしょ濡れのかがみの制服
音楽CD(自殺交響曲「楽園」@R.O.Dシリーズ)
[思考]
基本思考:ゲームに乗る
1:自分の手でゲームを終わらせる。
2:銃を持った人間を確認次第、最優先で殺してそれを奪う。
3:女子供にも容赦はしない。迷いもない。
4:ショッピングモールで武器を調達。
5:できればタバコも欲しい。
[備考]
※迷いは完全に断ち切りました。ゆえに、ヴァッシュ・ザ・スタンピードへの鬱屈した感情が強まっています。




不死の少女を脇に抱え、アルベルトは走っていた。
一度は無視して先を急ごうとしたものの、あの男の弱者をいたぶることを楽しむかのような行動がどうにも癇に障り、介入したのだが不死の能力者とは思わぬ拾い物をした。
数ある能力者の中でも不死の能力を持つものはごくごく稀であり、BF団に連れて帰れば色々と役立てることもできるだろう。
すべてはBF団帰還後に、ビックファイアのためになると思えばこそ。
この場で足手纏いを連れて回るのはデメリットが多いが、さすがに自分の身を危険に曝す程大事にするつもりもない。
連れて帰れれば儲けもの。ただそれだけのことである。
あの男から少女を奪ったのに、他に理由は特にない。

ただ、思った以上に時間をくってしまった。
もうしばらくすれば時刻は正午丁度となり、二回目の放送が始まる。
急がなければ、十五時に豪華客船で待つという約束をこちらから破ることになってしまう。
しかし、そこでアルベルトは考える。
この伝言を聞いた唯一の人物であるなつきと言う女は、誰にもそれを伝えることなく死んだ。同行者らしき男も生きてはいまい。
それについての仮はさっき返してきた。相手にする価値などない、亡者のような男だった。
伝言を新たに広めるだけなら、例えば今拾ったばかりのこの少女を新たなメッセンジャーに仕立てる、ということも可能だろう。
不死の能力者ならば、さっきの女のように簡単に脱落することはないはずだ。おあつらえ向きである。

そして、己は全速力で豪華客船を目指す。時間は変更してしまってもいい。
だが、休息を取り落ち着いて思考を巡らす時間を得たアルベルトには、この場所が自分の思い通りに動かせる程容易くはないということに気付いていた。
現にアルベルトの伝言は広まらず、この場にきてから十二時間近い時間が経過しようとしているにも関わらず、様々な事情から移動すらろくにできていない。
十傑集であるこの自分ですらそうなのだ、他の者が生きて戴宗と合流できる確率は相当に低いと見積もりを改めなくてはならない。
低確率を補うだけの数の参加者と接触できれば有効な手段だったのだが、思った以上に好戦的な者達多いことが分かりつつある現状でそれを望むのも難しいだろう。

恐らく、戴宗もまた思い通りいかない状況に四苦八苦しているのではないだろうか。
奴の性格からして、弱者保護などという下らんことに精を出し、いらんトラブルに巻き込まれている可能性は高い。
アルベルトの目的は戴宗と会えればそれで達成されると言うものではなかった。
己が満足いく形での決着こそが、アルベルトの目的である。
上海での戦いではそれを叶えることはできなかった。戴宗が自らの任務を何より優先したためだ。
ならば、脅すような形で勝負にこぎつけたとして、同じことが起こらないとどうして言えようか。

アルベルトには、この場で拾った屑どものことを気にかけ実の入らない勝負しかしない戴宗の姿が、ありありと想像できた。
仲間を守るための盾となるなど、奴が最も好んでしそうなことだ。
加えて、この場での体力の消費が大きいことも気になる。
戴宗も条件は同じとはいえ、互いに疲弊仕切ったうえでの戦闘は本意ではない。
もし、現状では戴宗との戦いを満足のいく形で行えないというのであれば、あるいは。
そこまでアルベルトが考えたところで、少女が弱弱しく顔を起こした。

「あ…ありがとう。助けて…くれて」
さっきからずっと震えていたのだが、多少気力が戻ったのか血の気の引いた顔でそのようなことを言ってくる。
アルベルトはそれに対し特に思うこともなく、ふんと鼻を鳴らし答えた。
「別に、貴様のためにやった訳ではない」
今後の行動について考えを巡らしながら、アルベルトは走り続けた。


【A-5/市街地南部/1日目/昼】
【衝撃のアルベルト@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-】
[状態]:疲労中、全身にダメージ、右足に刺し傷(それぞれ消毒液や軟膏・包帯で応急措置済み)、スーツがズダボロ
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、シガレットケースと葉巻(葉巻4本使用)、ボイスレコーダー、シュバルツのブーメラン@機動武闘伝Gガンダム、 赤絵の具@王ドロボウJING、自殺用ロープ@さよなら絶望先生、不明支給品0~2(本人確認済み)
[思考]:
基本方針:納得の行く形で戴宗との決着をつける。
1:戴宗を再び失うことに対する恐れ。そうならないために戴宗を探し、情報を集める
2:伝言をどうするか、かがみの処遇と併せて決めかねている。
3:脱出の情報を集める
4:いずれマスターアジアと決着をつける
5:他の参加者と馴れ合うつもりはない
6:脱出不可能の場合はゲームに乗る
[備考]:
※上海電磁ネットワイヤー作戦失敗後からの参加です
※ボイスレコーダーにはなつきによるドモン(と名乗ったチェス)への伝言が記録されていますが、 アルベルトはドモンについて名前しか聞いていません。

【柊かがみ@らき☆すた】
 [状態]:不死者、恐怖、私服に切り傷
 [装備]:なし
 [道具]:なし
 [思考]
  基本:つかさのために、もう少し頑張ってみる
   1: 事態の急変に混乱
   2: こなた達を殺して優勝を目指すことへのためらい
   3: アイザック他、不死者を捜して喰う
 [備考]:第一放送を聴きましたが、つかさの名前が呼ばれたということ以外は覚えていません(禁止エリアはB-1のみ認識)
     会場端のワープを認識


【エドのコンビュータとゴーグル】
エドお手製のパソコン。
地球の地上に捨てられているジャンクをトマトの箱に詰め込んで作成した。
エドのゴーグルと繋ぐことにより視線によるマウス操作を可能とする。

【自殺交響曲「楽園」のCD】
世界偉人軍団の一人ルードヴィヒ・ヴァン・ベートーベン作曲の、人類一斉淘汰作戦の要となる楽曲。
特殊な波長により、これを聞いた者は自らの体を傷つけ死に至る。
本ロワでは、余程の神経衰弱状態でなければ抵抗可能な形に制限されている。
音楽CDで支給され、一度再生するとデータは失われる。

【木津千里@さよなら絶望先生 死亡】


【残り59人】


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127:虐殺天使きっちりちゃん(後編) 柊かがみ 162:奪え、全て、その手で
127:虐殺天使きっちりちゃん(後編) 木津千里
133:貫けよ、その弾丸で ニコラス・D・ウルフウッド 180:善と悪と神の使い
133:貫けよ、その弾丸で 衝撃のアルベルト 162:奪え、全て、その手で





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