金ぴかと本と熱血格闘家とあたし ◆tu4bghlMIw
「ねぇ、金ぴか」
「何だ蜘蛛女」
「そろそろ……さ。掘り出して貰いたいんだけど」
「何だ蜘蛛女」
「そろそろ……さ。掘り出して貰いたいんだけど」
この<<蜘蛛女>>という呼称にも大分慣れてきた体感時間でいう多分九時くらい。
あたし――結城奈緒は暗闇の中、本のベッドに寝転んでいた。
あーいや、訂正。
うん、正直相当に意味の分からない話だと思うんだけど、落ち着いて聞いて欲しかったりする。
あたし――結城奈緒は暗闇の中、本のベッドに寝転んでいた。
あーいや、訂正。
うん、正直相当に意味の分からない話だと思うんだけど、落ち着いて聞いて欲しかったりする。
ぶっちゃけ本の山の中に『埋もれて』いる。
……いや、マジで。
……いや、マジで。
全方位三百六十度。四方が闇。
別に宇宙空間に一人取り残された訳でもないし、少しぐらい光明があっても良いものだがソレさえ皆無。
隙間から漏れてくる筈の光さえ別の本に掻き消され、どうしようもない状態だ。
パズルみたいにきっちりと足の間やら手の上に本が積み重なって身動きも取れない。
別に宇宙空間に一人取り残された訳でもないし、少しぐらい光明があっても良いものだがソレさえ皆無。
隙間から漏れてくる筈の光さえ別の本に掻き消され、どうしようもない状態だ。
パズルみたいにきっちりと足の間やら手の上に本が積み重なって身動きも取れない。
しかも逆さまである。
体位的には倒立というかその、えーとアレだ。
なんかあの古い映画のワンシーンを思い出す。主役の名前は……えーと何だっけ。
ああ、金田一! そういえば、名簿にも同じ苗字の奴がいた気がする。確か【金田一一】だったか。
一が二つも重なってバランスの悪い名前だと鼻で笑った記憶がある。
体位的には倒立というかその、えーとアレだ。
なんかあの古い映画のワンシーンを思い出す。主役の名前は……えーと何だっけ。
ああ、金田一! そういえば、名簿にも同じ苗字の奴がいた気がする。確か【金田一一】だったか。
一が二つも重なってバランスの悪い名前だと鼻で笑った記憶がある。
さて、こんな最悪な状況である。とりあえず金ぴかに助けて貰わない事には始まらない。
とりあえずは下手に出て様子を見るべきか。
とりあえずは下手に出て様子を見るべきか。
「だが断る」
「な――ッ!? まだそんな事言う訳!?」
「な――ッ!? まだそんな事言う訳!?」
あたしはどこに居るかも分からないアホに向かって、声を荒げた。頭に血が昇る。
ソフトに対応しようなどという意識は一瞬で霧散した。
というか、何故あたしがこれ程気を遣わなければならないのだろう。
大体、こんな事になったのも、全てゴールデン馬鹿ことギルガメッシュが悪いのだから。
ソフトに対応しようなどという意識は一瞬で霧散した。
というか、何故あたしがこれ程気を遣わなければならないのだろう。
大体、こんな事になったのも、全てゴールデン馬鹿ことギルガメッシュが悪いのだから。
検分などと称して、いきなりデイパックの中身を床にぶちまけたのが事の始まり。
四角形の口から飛び出してきたのは本本本本本本本本本本本、とにかく本。本の嵐だった。
この四次元何とかにも似た荷物入れにはどうも、中に入っている物の体積を調整する力があるらしい。
金ぴかは命の愛剣である巳六なんかもココに入っていたと言っていたし、今現在あたしのデイパックの中にも何か変なものがゴテゴテ付いた趣味の悪い巨大十字架が入っている。
四角形の口から飛び出してきたのは本本本本本本本本本本本、とにかく本。本の嵐だった。
この四次元何とかにも似た荷物入れにはどうも、中に入っている物の体積を調整する力があるらしい。
金ぴかは命の愛剣である巳六なんかもココに入っていたと言っていたし、今現在あたしのデイパックの中にも何か変なものがゴテゴテ付いた趣味の悪い巨大十字架が入っている。
本の波に飲まれたあたしは今、腕や足をまともに動かす事も出来ない。
エレメントを起動してあたり一面微塵切りにしてやってもいいが、そんな事をすれば本の崩落で下敷きになってしまうのは火を見るよりも明らかだ。
故に最善の脱出策は金ぴかに掘り出して貰う事。コレは譲れない。
それなのに、この王様と来たら……
エレメントを起動してあたり一面微塵切りにしてやってもいいが、そんな事をすれば本の崩落で下敷きになってしまうのは火を見るよりも明らかだ。
故に最善の脱出策は金ぴかに掘り出して貰う事。コレは譲れない。
それなのに、この王様と来たら……
「貴様は我の家臣だろう。なればこの程度の逆境、自らの力でどうにか出来て貰わなければ困る。
そもそも書物の濁流に飲まれるなど油断していた証拠。恥を知れ」
そもそも書物の濁流に飲まれるなど油断していた証拠。恥を知れ」
コレ、だ。
やれやれ、というニュアンスに満ち溢れた溜息が聞こえてきたような気がするが封殺。
「よりにもよってお前がその台詞を吐くか」と突っ込みを入れたくなる気持ちも同じくグッと飲み込む。
……我慢、我慢だ。
とりあえず自力で這い出すのが困難を極める以上、金ぴかを無駄に刺激するのはマズイ。
やれやれ、というニュアンスに満ち溢れた溜息が聞こえてきたような気がするが封殺。
「よりにもよってお前がその台詞を吐くか」と突っ込みを入れたくなる気持ちも同じくグッと飲み込む。
……我慢、我慢だ。
とりあえず自力で這い出すのが困難を極める以上、金ぴかを無駄に刺激するのはマズイ。
というかコイツ、場所的にはそれ程離れてはいないのかもしれない。
嘆息の音が聞える距離。本の山に遮られているとはいえ、ソレって多分案外近くの筈。
はぁ、しょうがないか。
とりあえず、抜け出す努力だけはしてみようか。
このまま紙の山に抱かれていたら、酸欠でぶっ倒れてしまう気もするし。
死因=酸欠(陸の上)とか冗談以下だ。
嘆息の音が聞える距離。本の山に遮られているとはいえ、ソレって多分案外近くの筈。
はぁ、しょうがないか。
とりあえず、抜け出す努力だけはしてみようか。
このまま紙の山に抱かれていたら、酸欠でぶっ倒れてしまう気もするし。
死因=酸欠(陸の上)とか冗談以下だ。
考えてみると、本当にあたしが自力で抜け出す事が不可能なら、金ぴかだって無理を言ったりしない筈だ。
態度は不遜だし、自分勝手で人を見下すし、傲慢だけどやる事には一応筋が通っている。
自力で何とか出来る問題だから全く手を貸さない、とも思考可能だ。
態度は不遜だし、自分勝手で人を見下すし、傲慢だけどやる事には一応筋が通っている。
自力で何とか出来る問題だから全く手を貸さない、とも思考可能だ。
「分かったわよ。とりあえず、やるだけの事はやって――ッ!?」
「……ほう、思ったよりも早かったようだ」
「思ったよりって……!!」
「……ほう、思ったよりも早かったようだ」
「思ったよりって……!!」
あたしが「仕方ない、やれるだけの事はやろう」と少しだけやる気を出そうとした瞬間の出来事だ。
常識的な頭で考えれば分かる回答だったのかもしれない。
いや、少なくとも金ぴかは知っていたと思う。だから私に何もしなかったのだろ今更理解する。あの野郎、どうしてくれようか。
常識的な頭で考えれば分かる回答だったのかもしれない。
いや、少なくとも金ぴかは知っていたと思う。だから私に何もしなかったのだろ今更理解する。あの野郎、どうしてくれようか。
本の濁流が最初に発生した時、一瞬でその本は図書室を埋め尽くしそれでも尚足りず、廊下側の扉を突き破って外へと侵攻した。
扉は当然木製である。布製の暖簾だったり、某童話よろしくお菓子で出来ていたりはしていない。
しっかりと立て付けられている筈のドアを吹き飛ばす程の圧倒的質量だ。
つまり――室内の窓が吹き飛ばない訳がないのである。
扉は当然木製である。布製の暖簾だったり、某童話よろしくお菓子で出来ていたりはしていない。
しっかりと立て付けられている筈のドアを吹き飛ばす程の圧倒的質量だ。
つまり――室内の窓が吹き飛ばない訳がないのである。
幸か不幸かドアがすぐさま崩壊したため、窓ガラスは今の今まで無事だった。
そう、この瞬間。「パリーン!」だか「ガッシャーン!」かは知らない。
とにかく凄まじいまでの轟音と共に"ソレ"は砕け散った。
そう、この瞬間。「パリーン!」だか「ガッシャーン!」かは知らない。
とにかく凄まじいまでの轟音と共に"ソレ"は砕け散った。
そして、波の向きが変わる。
「……っ、ぷはぁっ!! え、ちょ――これって!! ちょっと、金ぴかどこ!?」
「ふむ、久しいな蜘蛛女」
「ふむ、久しいな蜘蛛女」
数分間だけ本の山に埋まっていた事がまるで数時間にも感じられた、とかそんな戯言はどうでもいい。
流れ始めた本の渦を掻き分け、なんとか上半身だけ脱出する。
本は図書室の3メートル近い天井のほぼ頂点付近まで達し、土石流の如く移動している。その方向は、窓。
すぐ目の前には「バラ売りしたらいくら位の値段になるんだろう」とか考えたくなってしまう金色鎧、加えてソレを着込む人間――ギルガメッシュの姿。
分厚い本の上に胡坐をかいてコチラを見下ろしている。やはり奴はすぐ近くにいたらしい。
流れ始めた本の渦を掻き分け、なんとか上半身だけ脱出する。
本は図書室の3メートル近い天井のほぼ頂点付近まで達し、土石流の如く移動している。その方向は、窓。
すぐ目の前には「バラ売りしたらいくら位の値段になるんだろう」とか考えたくなってしまう金色鎧、加えてソレを着込む人間――ギルガメッシュの姿。
分厚い本の上に胡坐をかいてコチラを見下ろしている。やはり奴はすぐ近くにいたらしい。
「久しいな……じゃなくて! どうなってんの、コレ!?」
「……まったく、騒々しいぞ。何度も言っている、"恥じらいを持て"と。
何、簡単な話だ。窓が割れて外に向けて本が動き出しただけの事。
器が小さければ、それさえ破壊する……我の支給品に相応しいではないか。
見るがいい、未だに本を吐き出し続けている。我の宝物庫には遠く及ばないが、中々の質量よ」
「……まったく、騒々しいぞ。何度も言っている、"恥じらいを持て"と。
何、簡単な話だ。窓が割れて外に向けて本が動き出しただけの事。
器が小さければ、それさえ破壊する……我の支給品に相応しいではないか。
見るがいい、未だに本を吐き出し続けている。我の宝物庫には遠く及ばないが、中々の質量よ」
金ぴかは未だにドバドバと本を吐き出し続けている自分のデイパックを逆さに持って、得意げな表情で「ふふん」と笑った。
あたしのすぐ側にいた筈なのに、セットされた太陽のような煌きの髪には一切の乱れはなし。
枝毛一本存在しない完璧な黄金率を保っている。
本当にコイツ、どんだけの身体能力なんだろう。
言葉通り、本には一切巻き込まれなかったようだ。こっちの髪はボサボサなのに、畜生。
あたしのすぐ側にいた筈なのに、セットされた太陽のような煌きの髪には一切の乱れはなし。
枝毛一本存在しない完璧な黄金率を保っている。
本当にコイツ、どんだけの身体能力なんだろう。
言葉通り、本には一切巻き込まれなかったようだ。こっちの髪はボサボサなのに、畜生。
「いいからっ! 早くソレの口を閉めて!じゃないと、」
「……少しだけ、遅かったな――飲み込まれるなよ、"上"だ」
「ちょっ――!!」
「……少しだけ、遅かったな――飲み込まれるなよ、"上"だ」
「ちょっ――!!」
"上"という謎の言葉を残して金ぴかが動いた。
金の全身鎧をガチャガチャ鳴らして立ち上がり、デイパックを背負い直すとすぐさま窓から飛び降りた。
そう……本に流され流され、あたし達は既に外に放り出される寸前の所まで来ていたのだ。
金の全身鎧をガチャガチャ鳴らして立ち上がり、デイパックを背負い直すとすぐさま窓から飛び降りた。
そう……本に流され流され、あたし達は既に外に放り出される寸前の所まで来ていたのだ。
そして、ギルガメッシュが無駄に凄いのはここから。
『飛び降りた』という表現では、予想される移動方向は当然"下"。だけど事実は小説より奇なり、だ。
滝のようにこぼれ落ちる無数の本。
イメージとしてはアメリカのナイアガラの滝か、ギアナ高地のエンジェルフォールが思い付くがそんな事はどうだっていい。
『飛び降りた』という表現では、予想される移動方向は当然"下"。だけど事実は小説より奇なり、だ。
滝のようにこぼれ落ちる無数の本。
イメージとしてはアメリカのナイアガラの滝か、ギアナ高地のエンジェルフォールが思い付くがそんな事はどうだっていい。
だってさ。
まるでコンクリート塊のようにダバダバと落下していく本を足場にして、ピョンピョン"上"に向かって上昇していくのだから。
人間離れしているとは思っていたが、またもやありえない光景を目撃してしまった。
大体アイツは右手に大剣を持って、見るからに重そうな鎧を身に着けているのだ。その重量が何kgになるか、想像もつかない。
それでいてあの身のこなしだ。規格外にも程がある。
まるでコンクリート塊のようにダバダバと落下していく本を足場にして、ピョンピョン"上"に向かって上昇していくのだから。
人間離れしているとは思っていたが、またもやありえない光景を目撃してしまった。
大体アイツは右手に大剣を持って、見るからに重そうな鎧を身に着けているのだ。その重量が何kgになるか、想像もつかない。
それでいてあの身のこなしだ。規格外にも程がある。
あたしは呆然としたくなる気持ちを抑えて、現状を再確認する。
"上"という事は、多分屋上を指しているのだろう。
何となく感じてはいたが、金ぴかは高い所が好きらしい。
"上"という事は、多分屋上を指しているのだろう。
何となく感じてはいたが、金ぴかは高い所が好きらしい。
上空を舞う黄金の影を眼で追いながら、私も両手にエレメントを出現させる。
さすがに身体一つで飛び回るギルガメッシュのような非常識な真似は出来ない。
ああいう軽業師のような真似は尾久崎晶みたいな忍者の専売特許であるべきで、あたしには全くの不釣合いなのだ。
さすがに身体一つで飛び回るギルガメッシュのような非常識な真似は出来ない。
ああいう軽業師のような真似は尾久崎晶みたいな忍者の専売特許であるべきで、あたしには全くの不釣合いなのだ。
「っ……たく」
とりあえず本の山から身体を抜く。
大量の本が流れ出した関係上、容易くその拘束は解かれた。
大量の本が流れ出した関係上、容易くその拘束は解かれた。
収穫なしでこの場を後にするのもアレなので、とりあえず数冊本を回収。
適当に見繕って……っと。
ハードカバーの分厚い本や洋書、図鑑などが大多数を占める中で、何故か明らかに場違いな日本の漫画なんかもあったり。
えーと、聖痕のクェイサー? 何、コレ。ぽいっと放り投げる。
その後、いくつか掻き集めるように露骨なハズレ以外を除いてデイパックに詰める。
適当に見繕って……っと。
ハードカバーの分厚い本や洋書、図鑑などが大多数を占める中で、何故か明らかに場違いな日本の漫画なんかもあったり。
えーと、聖痕のクェイサー? 何、コレ。ぽいっと放り投げる。
その後、いくつか掻き集めるように露骨なハズレ以外を除いてデイパックに詰める。
そして上方を確認。屋上のフェンスに丁度いい取っ掛かりを見つける。ビンゴだ。
十指全てから鋼柔自在の糸を射出する。確実に引っ掛かった事を確かめると、一気に糸を巻き取る。
ここまでやれば後は簡単だ。
エレベータかリフトの要領で勝手に身体は高度を増してくれる。
十指全てから鋼柔自在の糸を射出する。確実に引っ掛かった事を確かめると、一気に糸を巻き取る。
ここまでやれば後は簡単だ。
エレベータかリフトの要領で勝手に身体は高度を増してくれる。
「よっ……と、ん……?」
身体は一気に上昇。無事に屋上へと着地出来た。
当然先に向かっていた筈の金ぴかは学校において最も高い場所にいた。
つまり、学校の『凸』に当たる部分、給水塔の隣だ。
『立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花』という言葉がある。
だが総じてこの名言の後には『口を開かなければ』などの注釈が入るのがお約束だ。
主に女に対して使われる格言だが、今のあたしの心境としてはコレを使うためだけに金ぴかを女性化しても構わない所存だ。
当然先に向かっていた筈の金ぴかは学校において最も高い場所にいた。
つまり、学校の『凸』に当たる部分、給水塔の隣だ。
『立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花』という言葉がある。
だが総じてこの名言の後には『口を開かなければ』などの注釈が入るのがお約束だ。
主に女に対して使われる格言だが、今のあたしの心境としてはコレを使うためだけに金ぴかを女性化しても構わない所存だ。
黙っていれば相当なレベルだと思うんだけどなぁ。うん、黙っていれば。
そりゃあ、ああいう尊大な態度見せられて惚れる奴はいないだろう。いるとしたら余程の変人だと断言出来る。
あの俺様気質さえどうにか出来ればなぁ……って、無理っぽいかな。
そりゃあ、ああいう尊大な態度見せられて惚れる奴はいないだろう。いるとしたら余程の変人だと断言出来る。
あの俺様気質さえどうにか出来ればなぁ……って、無理っぽいかな。
「何見てんの、金ぴか?」
「客だ」
「客だ」
言われるがままに金ぴかの視線の先を追うと、校舎のすぐ側に赤いハチマキを身につけた男がいた。
デイパックも持たずに身に着けたマントはボロボロ。見るからに怪しさ爆発である。
どうもあたし達が屋上へ避難したシーンは目撃していないらしい。こちらの存在にはまだ気付いていないようだ。
デイパックも持たずに身に着けたマントはボロボロ。見るからに怪しさ爆発である。
どうもあたし達が屋上へ避難したシーンは目撃していないらしい。こちらの存在にはまだ気付いていないようだ。
「我の領地に断りもなく足を踏み入れるとはな。これは処断が必要――む?」
「あ……人が出て来た」
「あ……人が出て来た」
なんともう一人新しい登場人物が。
本の激流がようやくストップしたらしい図書室の下、要するにあたし達がさっきまで居た場所の真下から一人の男が現れたのだ。
ハチマキ男も十分に妙な格好だったが、この男も中々凄い。
本の激流がようやくストップしたらしい図書室の下、要するにあたし達がさっきまで居た場所の真下から一人の男が現れたのだ。
ハチマキ男も十分に妙な格好だったが、この男も中々凄い。
なんと神父である。しかもうちの学校の教会にいたヨボヨボのお爺さんみたいなのではなくて、結構若い。そしてでかい。
そして――黒い。
そして――黒い。
全身黒尽くめにも程があるだろう、と思わざるを得ない黒さ。
しかも何か手に槍持ってるし。
最初に爆破された変身ヒーローといい、金ぴかといい、あの髭オヤジは変人ばかり中心に呼び寄せたのだろうか。
しかも何か手に槍持ってるし。
最初に爆破された変身ヒーローといい、金ぴかといい、あの髭オヤジは変人ばかり中心に呼び寄せたのだろうか。
「また変な奴が……」
「――言峰」
「へ?」
「――言峰」
「へ?」
思わず素っ頓狂な声があたしの口から飛び出す。
呼んだ、確かに今、神父の名前を。
つまりソレって……アイツは金ぴかの知り合いだって事?
呼んだ、確かに今、神父の名前を。
つまりソレって……アイツは金ぴかの知り合いだって事?
□
「ここは……学校?」
――おかしい。
俺は今一体どこにいるんだ?
そんな疑問がいつまで経っても頭の中を支配している。
否。足を進めれば進めるほど、落ち葉を踏み締め傾斜を下れば下るほど、違和感は更にその存在を増す。
俺は今一体どこにいるんだ?
そんな疑問がいつまで経っても頭の中を支配している。
否。足を進めれば進めるほど、落ち葉を踏み締め傾斜を下れば下るほど、違和感は更にその存在を増す。
そしてその感情は今、見慣れぬ学び舎の登場によってピークに達した。
在り得ない。俺はほんの数刻前まで、少なくとも川の畔にいた筈なのだから。
在り得ない。俺はほんの数刻前まで、少なくとも川の畔にいた筈なのだから。
もちろん風浦可符香にデイパックごと荷物を全て渡してしまったため、そもそもあの傷の男と交戦する以前の正確な現在地を把握していた訳ではない。
加えてゲームが開始してから一度も地図に眼を通していないため、建造物から居場所を割り出す事も不可能だ。
加えてゲームが開始してから一度も地図に眼を通していないため、建造物から居場所を割り出す事も不可能だ。
だが明らかに周囲の様子が異なる事だけは分かる。
思い返してみれば、ある一点を超えた際に突然辺りの景色が一変したような気がしないでもない。
突然の山林の出現、河川の消滅。これらが導き出す答えは――
思い返してみれば、ある一点を超えた際に突然辺りの景色が一変したような気がしないでもない。
突然の山林の出現、河川の消滅。これらが導き出す答えは――
「誰かに聞いてみるしかないか……」
結局、そういう結論に落ち着く訳だ。
何、急な地形の変化や空気の異常などの体験が初めてという訳でもない。
何、急な地形の変化や空気の異常などの体験が初めてという訳でもない。
それにあの傷の男がこの近くにいる、という事実は変わりようがない。
奴の怒りと憎しみ、行き場のない感情は俺が止めてみせる。
――キングオブハート、ドモン・カッシュの名にかけて。
奴の怒りと憎しみ、行き場のない感情は俺が止めてみせる。
――キングオブハート、ドモン・カッシュの名にかけて。
俺はひとまず、誰か適当な参加者と接触すべく学校の門をくぐる。
少なくとも辺りには誰かが闘った跡は見えない。
だが先に拳を交えた双剣の少年や銃を持った少女、そしてエドの事を考えると十代付近の参加者が多く存在するような気もする。
ならば、彼らにとって学校とは馴染み深い場所。
目に付いた時、ふらりと立ち寄る可能性も高いように思える。
少なくとも辺りには誰かが闘った跡は見えない。
だが先に拳を交えた双剣の少年や銃を持った少女、そしてエドの事を考えると十代付近の参加者が多く存在するような気もする。
ならば、彼らにとって学校とは馴染み深い場所。
目に付いた時、ふらりと立ち寄る可能性も高いように思える。
鬱蒼と茂った桜の木やよく手入れされた花壇など、殺し合いの舞台には不釣合いな植物がいくつか見受けられる。
日当たりから考えるに、こちらは裏門なのだろう。
それに「学校」という建物を成立させるために確実に必要になるであろう、校庭が見当たらない。
こちらからも校内に入る事も可能なようだが、わざわざ勝手口から進入するのも盗人のようで気持ちが悪い。
日当たりから考えるに、こちらは裏門なのだろう。
それに「学校」という建物を成立させるために確実に必要になるであろう、校庭が見当たらない。
こちらからも校内に入る事も可能なようだが、わざわざ勝手口から進入するのも盗人のようで気持ちが悪い。
武道家とは礼を重んじる存在であり、拳の道は礼に始まり、礼に終わるもの。
多少の労力を惜しみ、自らの志を曲げる事など到底出来る筈がない。
多少の労力を惜しみ、自らの志を曲げる事など到底出来る筈がない。
俺は校舎をグルリと迂回し、表側に回る。
そしてそこで――信じられない光景を眼にした。
そしてそこで――信じられない光景を眼にした。
「本の……滝?」
あまりにも異様な光景。
物理法則やら各種科学法則を無視しているようには見えない。
ただ世界の変化を多く目の当たりにしてきた俺ですら思わず唖然としてしまう。
物理法則やら各種科学法則を無視しているようには見えない。
ただ世界の変化を多く目の当たりにしてきた俺ですら思わず唖然としてしまう。
ギアナ高地にあった巨大な滝を思い出す。
規模としては校舎の二階から一階に向けて落下しているだけなので、まるで及ばない。
だが落ちて来ているものが"水"ではなくて"本"であるだけである種の威圧感を覚える。
本棚が多数頭を覗かせている以上、おそらくあそこは図書室なのだろうが、それにしても本の量が異常ではないだろうか。
規模としては校舎の二階から一階に向けて落下しているだけなので、まるで及ばない。
だが落ちて来ているものが"水"ではなくて"本"であるだけである種の威圧感を覚える。
本棚が多数頭を覗かせている以上、おそらくあそこは図書室なのだろうが、それにしても本の量が異常ではないだろうか。
「ふむ、貴様が襲撃者か? いや……違うようだな。
何一つ荷物を持たない者が罠を使った奇襲を試みるとは考え難い。
物量に決定的な差がある事を自覚しているのならば、すぐさま追撃を行った筈。
それが無かった時点でアレは何らかのアクシデント、もしくは――既に下手人は逃亡した後と見るのが妥当か」
「な……!?」
何一つ荷物を持たない者が罠を使った奇襲を試みるとは考え難い。
物量に決定的な差がある事を自覚しているのならば、すぐさま追撃を行った筈。
それが無かった時点でアレは何らかのアクシデント、もしくは――既に下手人は逃亡した後と見るのが妥当か」
「な……!?」
本の滝の奥、一階のベランダへ続くドアを蹴飛ばして現れたのは二メートル近い身長の大男だった。
胸に十字架の付いた着衣。どこかの宗教の神父なのだろう。
だがその肌の色、髪の質などから察するに明らかに日本人であるのは確かだ。
胸に十字架の付いた着衣。どこかの宗教の神父なのだろう。
だがその肌の色、髪の質などから察するに明らかに日本人であるのは確かだ。
そしてもう一つ気になる事がある。それは右手に持った蒼い槍の存在だ。
先端部分が鋭利な刃物というよりも、ビーム砲でも付いているかのような独特の形状をしている。
加えて男の放つ独特の闘気。武道家の身体を巡る気のようなものとは明確な差異を感じる。
先端部分が鋭利な刃物というよりも、ビーム砲でも付いているかのような独特の形状をしている。
加えて男の放つ独特の闘気。武道家の身体を巡る気のようなものとは明確な差異を感じる。
妙な威圧感を全身から醸し出す男。
その眼はいわばDG細胞に侵された者のように暗く、そして暗澹としている。
しかしその口調はまるで弁士のように滑らかで理知的な印象だ。
研ぎ澄まされた闇、触れれば身体ごと持っていかれてしまいそうな永久の暗黒。
どちらがこの男の本性なのだろうか。的確な判別を付ける事が出来ない。
その眼はいわばDG細胞に侵された者のように暗く、そして暗澹としている。
しかしその口調はまるで弁士のように滑らかで理知的な印象だ。
研ぎ澄まされた闇、触れれば身体ごと持っていかれてしまいそうな永久の暗黒。
どちらがこの男の本性なのだろうか。的確な判別を付ける事が出来ない。
しかし警戒すべき人物である事は紛れも無い事実。俺はすぐにでも戦いに移れるよう、両の拳を構えた。
「一つだけ答えて貰おう。俺はドモン・カッシュ、ネオジャパン所属のガンダムファイターだ。
神父よ、貴様は殺し合いに乗っているのか!?」
「殺し合いに乗っている――か。実に素直で、飾らない言葉だ。
初対面の相手にその台詞をぶつける事が出来る勇猛さ、そしてその無謀さは賞賛しよう。だが、」
神父よ、貴様は殺し合いに乗っているのか!?」
「殺し合いに乗っている――か。実に素直で、飾らない言葉だ。
初対面の相手にその台詞をぶつける事が出来る勇猛さ、そしてその無謀さは賞賛しよう。だが、」
男は言葉と共に少しだけ嬉しそうに瞳を輝かせた。
その眼はまるで俺を『俺ではない誰かと重ね合わせた』ように感じられた。
その眼はまるで俺を『俺ではない誰かと重ね合わせた』ように感じられた。
「その"殺し合いに乗っている"とは、一体どういうものを差すのだ?」
「な……に?」
「おそらく君は私が積極的に他人に害を成す人間か否か、という趣旨でその言葉を発したのだろう。
だがそれでは真の回答は得られぬのだ、若き拳士よ。
例えばその者が自らの中で殺しをどのように消化し、どの部分に位置付けているかによって答えには誤差が生じる。
そう、では逆に私が問おう。
自衛の為に自らの拳を振るい、刃を持ち、撃鉄に指を掛けるものは殺し合いに乗っていると言えるのか。
白か黒か、裏か表か。殺意というものはそんな単純な図式で表す事が出来るものなのか。
意見を聞きたい――ドモン・カッシュよ」
「な……に?」
「おそらく君は私が積極的に他人に害を成す人間か否か、という趣旨でその言葉を発したのだろう。
だがそれでは真の回答は得られぬのだ、若き拳士よ。
例えばその者が自らの中で殺しをどのように消化し、どの部分に位置付けているかによって答えには誤差が生じる。
そう、では逆に私が問おう。
自衛の為に自らの拳を振るい、刃を持ち、撃鉄に指を掛けるものは殺し合いに乗っていると言えるのか。
白か黒か、裏か表か。殺意というものはそんな単純な図式で表す事が出来るものなのか。
意見を聞きたい――ドモン・カッシュよ」
面と向かって言葉を交わしたおかげで、男がただの神父ではない事は容易く理解出来る。
例えば、一つ一つの台詞と共に動かされる手――武道家特有の拳ダコと特殊な筋肉の付き方などが挙げられる。
眼を覆わんばかりの長身に加えて、背中や腕回りの身体つきも非常にしっかりしている。
先に出会った双剣の男などはまだまだ身体の完成具合が半端で、技術ばかりが先行している感覚があったのと対照的だ。
例えば、一つ一つの台詞と共に動かされる手――武道家特有の拳ダコと特殊な筋肉の付き方などが挙げられる。
眼を覆わんばかりの長身に加えて、背中や腕回りの身体つきも非常にしっかりしている。
先に出会った双剣の男などはまだまだ身体の完成具合が半端で、技術ばかりが先行している感覚があったのと対照的だ。
だが、俺は神父の態度に強烈な既視感を覚えた。
そうだ、俺は……つい先程、似たような場面に遭遇したのではないか?
相手に語り掛ける独特の間、話としての軸をぶらしこちらを揺さぶるかのような口調。
似たような相手に俺は出会ったばかりではないのか。
似たような相手に俺は出会ったばかりではないのか。
「他人の事は分からない……が、俺にとっての殺し合い――それならば答えよう。つまり"魂"の有無に決まっている」
「ほう、魂か。曖昧模糊にして形には出来ない、あくまでただの概念と言ってしまえばそこまでだが……興味深い意見だな。
続きを聞こう――ああ、そうだ。名乗り忘れる所だった。
私の名前は言峰綺礼。見ての通り"ただの"神父だよ」
「ほう、魂か。曖昧模糊にして形には出来ない、あくまでただの概念と言ってしまえばそこまでだが……興味深い意見だな。
続きを聞こう――ああ、そうだ。名乗り忘れる所だった。
私の名前は言峰綺礼。見ての通り"ただの"神父だよ」
疑問に満ちた声で、それでも俺は自らの中で揺らぐ事のない絶対解を言峰と名乗った男にぶつけた。
「概念とはいえ馬鹿には出来んさ。相手がどんな理由で、どんな信念で戦いに身を投じているのか。
魂は武道家が一度拳を合わせれば自ずと身体の中に流れ込んで来るものだ。
心のない争いは殺し合いに過ぎず、拳士の手合わせとは別の次元を成す」
「魂を拳の道と解く訳か……やはり若いな」
「なんだとッ!?」
「元々私にも君に一つ、聞いておきたい事項があったのだよ。
つまり『君はこの空間において何を成し、何を求め、何を遂行するのか』という質問だ。
だがその問は既に意味をなさない。全くの不要だ。
ドモン・カッシュ、君は弱い人間を護り、この遊戯に頚木を打ち、螺旋王を撃滅する事を目的としている――違うか?」
魂は武道家が一度拳を合わせれば自ずと身体の中に流れ込んで来るものだ。
心のない争いは殺し合いに過ぎず、拳士の手合わせとは別の次元を成す」
「魂を拳の道と解く訳か……やはり若いな」
「なんだとッ!?」
「元々私にも君に一つ、聞いておきたい事項があったのだよ。
つまり『君はこの空間において何を成し、何を求め、何を遂行するのか』という質問だ。
だがその問は既に意味をなさない。全くの不要だ。
ドモン・カッシュ、君は弱い人間を護り、この遊戯に頚木を打ち、螺旋王を撃滅する事を目的としている――違うか?」
その台詞は同じだった。
そう、それは――数刻前に出会った少女が俺に投げ掛けた言葉とほとんど同じ意味を表すもの。
そう、それは――数刻前に出会った少女が俺に投げ掛けた言葉とほとんど同じ意味を表すもの。
彼女は言峰と非常によく似ていた。
当然、姿形はまるで違う。大男と少女、似ても似つかない。
だが少し言葉を交わしただけで、相手の間合いに引き摺り込まれるような、固有の感覚は見事なまでに酷似している。
思えば少女も不思議な眼をしていた気がする。
それは光。恒星のように煌く求心者の瞳だ。この男とは真逆――それでいて同じ台詞を吐き、どちらも俺を諭そうとする。
当然、姿形はまるで違う。大男と少女、似ても似つかない。
だが少し言葉を交わしただけで、相手の間合いに引き摺り込まれるような、固有の感覚は見事なまでに酷似している。
思えば少女も不思議な眼をしていた気がする。
それは光。恒星のように煌く求心者の瞳だ。この男とは真逆――それでいて同じ台詞を吐き、どちらも俺を諭そうとする。
ああ……『風浦可符香』とどこか似ているのだ、この男は。
「なるほどな……お前の言いたい事は十分過ぎる程分かった」
「ほう、外見に似合わず物分かりがいいな。そうだ、拳と拳のぶつかり合いなど強者の勝手な言い分に過ぎんよ。
精神的弱者にとってそんな騎士道精神にも似た理念など全くの無意味。
生きたい、死にたくない。そんな叫びを無視し、拳のみで全てを語ろうなど――」
「ほう、外見に似合わず物分かりがいいな。そうだ、拳と拳のぶつかり合いなど強者の勝手な言い分に過ぎんよ。
精神的弱者にとってそんな騎士道精神にも似た理念など全くの無意味。
生きたい、死にたくない。そんな叫びを無視し、拳のみで全てを語ろうなど――」
「言峰綺礼ッ!!! お前にガンダムファイトを申し込むッ!!!!!」
「…………何?」
言峰は出会ってから初めて、不愉快を表す怪訝な皺を顔面に刻んだ。
その呻きにも似た問い掛けからは他にも多くの感情が読み取れるが、この場では取捨する。
その呻きにも似た問い掛けからは他にも多くの感情が読み取れるが、この場では取捨する。
そもそも神父とは人を導き、正しい道を歩むように助言する職業だと記憶している。
俺は未熟だ。まだまだ師匠や兄さんには遠く及ばず、間違いも多く犯す。
ではその為に成すべき事は何か。
それは――
俺は未熟だ。まだまだ師匠や兄さんには遠く及ばず、間違いも多く犯す。
ではその為に成すべき事は何か。
それは――
「だから、全てを護れるように強くなれ――そう言いたいのだろう? あの少女が俺に語った事と同じように!
明鏡止水とは清らかなる水の心。
一転の曇りもない鏡にも似た無の境地。
そして全てを包み込み、受け入れる母性とも共通する不動心だ。救ってみせる、キングオブハートの名にかけて!」
明鏡止水とは清らかなる水の心。
一転の曇りもない鏡にも似た無の境地。
そして全てを包み込み、受け入れる母性とも共通する不動心だ。救ってみせる、キングオブハートの名にかけて!」
心が研ぎ澄まされる。
俺の中で燻っていた迷いが浄化されていくようだ。
ボロ切れとなったマントを脱ぎ捨て、臨戦態勢へ。
俺の中で燻っていた迷いが浄化されていくようだ。
ボロ切れとなったマントを脱ぎ捨て、臨戦態勢へ。
「少女……? 私以外にも似たような事を行っている者が居ると言うのか。
しかし、失望したぞドモン・カッシュよ。もっとも……君は既に聞く耳を持たないようだが」
「……言葉が無礼だったのならば謝る。
神父・言峰綺礼、貴方を相当な使い手とお見受けして頼みがある。一度――手合わせを願いたい」
しかし、失望したぞドモン・カッシュよ。もっとも……君は既に聞く耳を持たないようだが」
「……言葉が無礼だったのならば謝る。
神父・言峰綺礼、貴方を相当な使い手とお見受けして頼みがある。一度――手合わせを願いたい」
機嫌を損ねたのだろうか。
言峰は深々と肺から息を吐き出し、更に表情を険しくする。
言峰は深々と肺から息を吐き出し、更に表情を険しくする。
「一つ、問おう。ドモンカッシュよ、君は私が"何人目"だ?」
「……この会場内で拳を合わせるのは貴方で三人目だ。
一人は高速道路で戦った茶色い髪をした双剣の男。もう一人は河川で戦った褐色の肌と額に大きな傷を持った男」
「――ほう」
「……この会場内で拳を合わせるのは貴方で三人目だ。
一人は高速道路で戦った茶色い髪をした双剣の男。もう一人は河川で戦った褐色の肌と額に大きな傷を持った男」
「――ほう」
俺の言葉を聞いた途端、言峰の口元が若干歪んだような気がした。
だがそんな違和感もピリピリとした闘いの空気に掻き消される。
だがそんな違和感もピリピリとした闘いの空気に掻き消される。
「そう……だな。では、仕方ない。相手になってやろう。
だが――殺されても文句は言わせんぞ」
だが――殺されても文句は言わせんぞ」
死が怖くて武道家は名乗れない。
俺は戦いの開始を告げるいつもの台詞を腹の底から全力でぶち上げる。
俺は戦いの開始を告げるいつもの台詞を腹の底から全力でぶち上げる。
「行くぞ――ガンダムファイト、レディィィィィゴォォォォォ!!!!!」
□
「何言ってるかほとんど聞こえない……か。ガンダムファイトって何よ、一体……
ん、ガン……ダム? アレ、何だっけ……それ」
ん、ガン……ダム? アレ、何だっけ……それ」
隣で蜘蛛女が騒いでいるが、現状問題となるのは言峰達の戦闘の具合ではない。もっと別の所にある。
いかにありとあらゆる才に長け、王者たる素質を存分に持ち合わせた存在である我であろうと、微妙に手の届かない点というものは在る。
いかにありとあらゆる才に長け、王者たる素質を存分に持ち合わせた存在である我であろうと、微妙に手の届かない点というものは在る。
「って、うわー戦い出しちゃったよ、あの二人。
てか金ぴかの知り合いなんでしょ? 助けに入らなくて良いの?」
「構わん――それよりも、」
てか金ぴかの知り合いなんでしょ? 助けに入らなくて良いの?」
「構わん――それよりも、」
この場で争点となるのはそう、聴覚だ。
仮にも人の形を取り、現世に存在している以上我にも五感に関してはある程度の限界がある。
つまり異常なほどに鼓膜を働かせる分野は蝙蝠や梟と言った畜生共に任せておけばいいのであって、我にはそこまで秀でた能力は必要ないと言える訳だ。
仮にも人の形を取り、現世に存在している以上我にも五感に関してはある程度の限界がある。
つまり異常なほどに鼓膜を働かせる分野は蝙蝠や梟と言った畜生共に任せておけばいいのであって、我にはそこまで秀でた能力は必要ないと言える訳だ。
だがさすがに英雄王たるもの、雑種以上の聴覚は当然のように持ち合わせている。
むしろ劣る要素がないとも言えるが。
蜘蛛女はまるで聞き取る事が出来なかったようだが、我は確かにあの雑種が【双剣の男】【高速道路】【河川】と言った単語を口にするのを確認している。
むしろ劣る要素がないとも言えるが。
蜘蛛女はまるで聞き取る事が出来なかったようだが、我は確かにあの雑種が【双剣の男】【高速道路】【河川】と言った単語を口にするのを確認している。
「にしても、あのハチマキ男……『どりゃああああああ!』だとか『うおぉぉおおおおお!』だとか五月蝿過ぎ。
あ、てか金ぴか。少しアンタの声と似てない、アレ?」
「我と……だと? あのような薄汚い格好をした吼えるしか能のない駄犬がか? 笑えない冗談だな」
「んーそう? 本人だとやっぱ、分かんないのかな。
聞けば聞くほど――あははっ! 今度は『でぇりゃあああああああ!』だって。おっかしーの」
あ、てか金ぴか。少しアンタの声と似てない、アレ?」
「我と……だと? あのような薄汚い格好をした吼えるしか能のない駄犬がか? 笑えない冗談だな」
「んーそう? 本人だとやっぱ、分かんないのかな。
聞けば聞くほど――あははっ! 今度は『でぇりゃあああああああ!』だって。おっかしーの」
何と失礼な奴だ。
我の声とあのような俗物の声を聞き分ける術さえ持たんとは……嘆かわしい。
ケラケラと笑いながら、地面に座り込んで言峰達の格闘戦を見物している蜘蛛女を放置し、ひとまず考察を進める事とする。
デイパックも降ろしており、完全に観戦ムードとは何と緊張感のない。
我の声とあのような俗物の声を聞き分ける術さえ持たんとは……嘆かわしい。
ケラケラと笑いながら、地面に座り込んで言峰達の格闘戦を見物している蜘蛛女を放置し、ひとまず考察を進める事とする。
デイパックも降ろしており、完全に観戦ムードとは何と緊張感のない。
双剣の男――十中八九、衛宮士郎と見て間違いないだろう。
確かに最高の一手として、二本の剣を用いる剣士が他の雑種どもの中にも存在する可能性は存在はする。
もっともこの仮定からして極僅か、少数ではあると思うが。
確かに最高の一手として、二本の剣を用いる剣士が他の雑種どもの中にも存在する可能性は存在はする。
もっともこの仮定からして極僅か、少数ではあると思うが。
しかしこの遊戯において使用する武器は主に自らの支給品に頼らざるを得ない。
それでは二刀流を得意とする剣士に『"剣"が"二本"与えられる』という確率は如何程だろうか。
おそらく皆無であろう。
我にさえ、宝具が何一つ支給されなかったという事実がある。
なれば自らにとって最良の得物が与えられる参加者など、そもそも存在しないと容易く結を下す事が出来る。
加えて、大半の雑種共は剣を二本支給されても、満足に扱えず片方だけを使うだろう。
それでは二刀流を得意とする剣士に『"剣"が"二本"与えられる』という確率は如何程だろうか。
おそらく皆無であろう。
我にさえ、宝具が何一つ支給されなかったという事実がある。
なれば自らにとって最良の得物が与えられる参加者など、そもそも存在しないと容易く結を下す事が出来る。
加えて、大半の雑種共は剣を二本支給されても、満足に扱えず片方だけを使うだろう。
だが衛宮士郎の魔術は投影――贋作を作り出す、忌々しい能力と言えよう。
そして奴が闘う際には、まず間違いなくあの弓兵が使っていたものと同じ双剣を用いる筈なのだ。
そして奴が闘う際には、まず間違いなくあの弓兵が使っていたものと同じ双剣を用いる筈なのだ。
「蜘蛛よ。時に会場内で高速道路と河川、この条件に当て嵌まる場所は何処だ?」
「……不躾ね。えーと……川はともかくとして、高速なんてもっとずっと上の方よ。
モノレールを使わなきゃ行けないような場所かしら。大体、何で急にそんな事――ッ!?」
「察したか? 学校の視察は終了だ。行くぞ、時間が惜しい」
「……不躾ね。えーと……川はともかくとして、高速なんてもっとずっと上の方よ。
モノレールを使わなきゃ行けないような場所かしら。大体、何で急にそんな事――ッ!?」
「察したか? 学校の視察は終了だ。行くぞ、時間が惜しい」
我はすぐさま結論を行動へと移した。
蜘蛛があたふたと荷物を背負いなおしているが、いずれ追い付いて来るだろう。
蜘蛛があたふたと荷物を背負いなおしているが、いずれ追い付いて来るだろう。
明確な目的地は現時点では存在しない。
宝具を回収しておきたい、という意思はあるがその行動に具体性を持たせる手段を持っていない故だ。
だが、衛宮士郎のある程度の居場所が判明したのは僥倖と言えるのではないか。
そう、少なくとも"方角"だけは決定したのだ。
宝具を回収しておきたい、という意思はあるがその行動に具体性を持たせる手段を持っていない故だ。
だが、衛宮士郎のある程度の居場所が判明したのは僥倖と言えるのではないか。
そう、少なくとも"方角"だけは決定したのだ。
下で戦っている言峰も気にはなるが、この程度で命を落とすならばその程度の男だった、という事。
……しかし、もう一人の雑種。中々不愉快な声をしている。
あの瞬間、相対したのが我ではなかった幸福を噛み締めるがよい。
……しかし、もう一人の雑種。中々不愉快な声をしている。
あの瞬間、相対したのが我ではなかった幸福を噛み締めるがよい。
「あーもう、ちょっと待ってってば!! あ、げ――」
「……全く、自らの荷も満足に管理出来んのか。む……?」
「……全く、自らの荷も満足に管理出来んのか。む……?」
余程慌てていたのだろう。
蜘蛛女のデイパックから一冊の本が丁度、我の足元に飛び出して来た。
黒い装丁に分厚い紙、そして赤字で示された文字。
表紙にはタイトルが刻まれている。つまり――BATTLE ROYALE、と。
蜘蛛女のデイパックから一冊の本が丁度、我の足元に飛び出して来た。
黒い装丁に分厚い紙、そして赤字で示された文字。
表紙にはタイトルが刻まれている。つまり――BATTLE ROYALE、と。
我はソレを拾い上げた。
普段ならば気にもしない。もしくは蜘蛛女に拾わせるであろう些細な事象ではあった筈。
普段ならば気にもしない。もしくは蜘蛛女に拾わせるであろう些細な事象ではあった筈。
では何故か。何、大した意味などない。
デイパックの中には今も多数の本が眠っている。
その中から一冊を選び出すのと比べれば、初めに読む一冊を決定してしまった方が具合が良い。
単なる暇潰し程度の役割は期待してもよかろう。
ただ、それだけの話だ。
デイパックの中には今も多数の本が眠っている。
その中から一冊を選び出すのと比べれば、初めに読む一冊を決定してしまった方が具合が良い。
単なる暇潰し程度の役割は期待してもよかろう。
ただ、それだけの話だ。
【H-1 道路/一日目 午前】
【結城奈緒@舞-HiME】
[状態]:健康、眼帯を外したい
[装備]:衝撃のアルベルトのアイパッチ@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-
[道具]:支給品一式、パニッシャー@トライガン、全てを見通す眼の書@R.O.D(シリーズ) 、奈緒が適当に集めてきた本数冊
[思考]
基本思考:面倒なのであまり戦いたくない。ヤバくなったら真面目にやる。
1:とりあえず金ぴかと一緒に行動する
2:攻撃してくる人間を殺すのに躊躇いは無い
3:藤乃にはあまり会いたくない
[状態]:健康、眼帯を外したい
[装備]:衝撃のアルベルトのアイパッチ@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-
[道具]:支給品一式、パニッシャー@トライガン、全てを見通す眼の書@R.O.D(シリーズ) 、奈緒が適当に集めてきた本数冊
[思考]
基本思考:面倒なのであまり戦いたくない。ヤバくなったら真面目にやる。
1:とりあえず金ぴかと一緒に行動する
2:攻撃してくる人間を殺すのに躊躇いは無い
3:藤乃にはあまり会いたくない
※本の中の「金色の王様」=ギルガメッシュだとまだ気付いていません。
※ドモンの発した"ガンダム"という単語と本で読んだガンダムの関連が頭の中で引っ掛かっています。
※ドモンの発した"ガンダム"という単語と本で読んだガンダムの関連が頭の中で引っ掛かっています。
【ギルガメッシュ@Fate/stay night】
[状態]:健康
[装備]:巳六@舞-HiME、黄金の鎧@Fate/stay night
[道具]:支給品一式、シェスカの全蔵書(1/2)@鋼の錬金術師 、『原作版・バトルロワイアル』
[思考]
基本思考:打倒、螺旋王ロージェノム。【乖離剣エア】【天の鎖】【王の財宝】の入手。
1:モノレールを用い、北上する。出会えば衛宮士郎を殺す。具体的な目的地のキーワードは【高速道路】【河川】
2:異世界の情報を集めておく。
3:宝具、それに順ずる道具を集める
4:目障りな雑種は叩き切る
5:ドモンに不快感
6:エレメントに興味
[状態]:健康
[装備]:巳六@舞-HiME、黄金の鎧@Fate/stay night
[道具]:支給品一式、シェスカの全蔵書(1/2)@鋼の錬金術師 、『原作版・バトルロワイアル』
[思考]
基本思考:打倒、螺旋王ロージェノム。【乖離剣エア】【天の鎖】【王の財宝】の入手。
1:モノレールを用い、北上する。出会えば衛宮士郎を殺す。具体的な目的地のキーワードは【高速道路】【河川】
2:異世界の情報を集めておく。
3:宝具、それに順ずる道具を集める
4:目障りな雑種は叩き切る
5:ドモンに不快感
6:エレメントに興味
※学校の図書館には様々な異世界の歴史を記した本があります。
(ただしどれだけ関係ない話があるか、どこまで詳細かは不明。
少なくとも参加者の名前や能力については述べられていない。
また1stガンダム~ガンダム00まで全黒歴史を紹介するなど、関係ない情報も相当数紛れている)
※主催者による監視を警戒しています
※ギルガメッシュの最後の支給品は『シェスカの全蔵書@鋼の錬金術師』です。
※参戦時期は原作死亡時。
(ただしどれだけ関係ない話があるか、どこまで詳細かは不明。
少なくとも参加者の名前や能力については述べられていない。
また1stガンダム~ガンダム00まで全黒歴史を紹介するなど、関係ない情報も相当数紛れている)
※主催者による監視を警戒しています
※ギルガメッシュの最後の支給品は『シェスカの全蔵書@鋼の錬金術師』です。
※参戦時期は原作死亡時。
□
――強い。
男が気合と共に打ち出した拳を捌きながら私は思案する。
修めた拳法がまるで通用しない、とまでは言わない。
だが体術を用いた戦闘においては目の前のドモン・カッシュは私の一歩、いや数歩先を進んでいる事は否定出来ない。
そもそも自らに拳の才にて一流を自負していた訳ではない。
とはいえ、努力で到達出来る段階までは極めた――その程度の認識は存在した。
だが体術を用いた戦闘においては目の前のドモン・カッシュは私の一歩、いや数歩先を進んでいる事は否定出来ない。
そもそも自らに拳の才にて一流を自負していた訳ではない。
とはいえ、努力で到達出来る段階までは極めた――その程度の認識は存在した。
「だぁりゃああああああああああ!!」
「ちっ……!!」
「ちっ……!!」
右足による上段蹴り――目標は私の延髄か。
左手を同じく上段に構え、迎撃の姿勢を保つ。
腰を据え、飛来する衝撃を予測。加えてすぐさまカウンターの準備に移行する。
左手を同じく上段に構え、迎撃の姿勢を保つ。
腰を据え、飛来する衝撃を予測。加えてすぐさまカウンターの準備に移行する。
私には「ストラーダ」という突撃槍にも似た魔術礼装が支給されていた。
だが、今現在ドモン・カッシュの相手をしているのは我が身一つだ。
支給品は戦闘が始まる前にデイパックに既にしまっておいた。
それは小さな遊び心だった。
男の実力を見極め、負の方向へと背中を押す――その一点においては、男と同じ舞台に立った方が最適だと思えたのだ。
あそこまで面と向かって拳の道を説く程の拳闘狂だ。
つまり拳を介して行われる戦闘こそが奴の矜持。それを完膚なきまでに叩き折ってこそ、絶望への道は開かれる。
だが、今現在ドモン・カッシュの相手をしているのは我が身一つだ。
支給品は戦闘が始まる前にデイパックに既にしまっておいた。
それは小さな遊び心だった。
男の実力を見極め、負の方向へと背中を押す――その一点においては、男と同じ舞台に立った方が最適だと思えたのだ。
あそこまで面と向かって拳の道を説く程の拳闘狂だ。
つまり拳を介して行われる戦闘こそが奴の矜持。それを完膚なきまでに叩き折ってこそ、絶望への道は開かれる。
だが――
「……くっ!?」
「もらったぁぁぁああああ!!」
「もらったぁぁぁああああ!!」
フェイントだと……!?
自らの顔面が驚愕に歪む事を意識する。
男は完全に足が伸び切った――少なくとも私の眼にはそう見えた。
自らの顔面が驚愕に歪む事を意識する。
男は完全に足が伸び切った――少なくとも私の眼にはそう見えた。
非常識な体勢から蹴りの軌道が完全に変わる。
そして狙うは左脇腹。蛇の尾のように撓る強烈な蹴撃が一直線に飛来する。
そして狙うは左脇腹。蛇の尾のように撓る強烈な蹴撃が一直線に飛来する。
私はすぐさま迎撃の構えを防御の構えに変更。
左腕を下げ、肘骨を用いた瞬間的な動きで奴の目標点を保護する。
左腕を下げ、肘骨を用いた瞬間的な動きで奴の目標点を保護する。
「うぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!」
「な……に――っ!!」
「な……に――っ!!」
完全にガードし切れると判断した私の認識がまだ間違っていたのか。
ドモン・カッシュの蹴りは私の右肘を見事に跳ね上げ、そのまま脇腹に突き刺さった。
ドモン・カッシュの蹴りは私の右肘を見事に跳ね上げ、そのまま脇腹に突き刺さった。
これはつまり、一瞬の私の"甘さ"だったのかもしれない。
なぜならあの時点で私は左腕を右肘と交差させ、更に安定性に優れたクロスガードに移る事も可能だったからだ。
だが――私はソレをしなかった。
クロスガードは確実に相手の攻撃を捌き切る。その一点においては非常に有効だ。
だが次の動作、つまり攻撃・防御・移動のどの動作に移行するとしても若干のタイムロスが生じてしまう。
なぜならあの時点で私は左腕を右肘と交差させ、更に安定性に優れたクロスガードに移る事も可能だったからだ。
だが――私はソレをしなかった。
クロスガードは確実に相手の攻撃を捌き切る。その一点においては非常に有効だ。
だが次の動作、つまり攻撃・防御・移動のどの動作に移行するとしても若干のタイムロスが生じてしまう。
戦闘の状況は明らかにこちらの不利。
スピードや手数、加えて流派不明の見かけぬ拳術を用いる相手に水を開けられているのは理解出来ていた。
全ての打撃を丁寧に受け流す事が出来ていれば、このような思考にさえ至らなかったかもしれない。
しかし縦横無尽に繰り出される乱撃に私は若干の焦燥感を覚えていたのだろう。
故に常識通りの防御で済ませてしまった――これが敗因だ。
スピードや手数、加えて流派不明の見かけぬ拳術を用いる相手に水を開けられているのは理解出来ていた。
全ての打撃を丁寧に受け流す事が出来ていれば、このような思考にさえ至らなかったかもしれない。
しかし縦横無尽に繰り出される乱撃に私は若干の焦燥感を覚えていたのだろう。
故に常識通りの防御で済ませてしまった――これが敗因だ。
加えてそこには「明らかに私の方が体格で勝っている」という驕りが存在したようにさえ感じる。
いや、驕りと言う程のものではないか。
ただ純粋に私がドモン・カッシュの実力を完全に評価出来ていなかっただけの事。
いや、驕りと言う程のものではないか。
ただ純粋に私がドモン・カッシュの実力を完全に評価出来ていなかっただけの事。
結果として――私の防御は打ち抜かれ、身体ごと数メートル吹き飛ばされた訳だ。
私は無様にも地面に膝を付き自らの状態を分析する。
肋骨を数本持っていかれたか? 行動に支障が出るレベルには到底思えないが。
私は無様にも地面に膝を付き自らの状態を分析する。
肋骨を数本持っていかれたか? 行動に支障が出るレベルには到底思えないが。
しかし、あの細身の身体のどこにこれほどの力が眠っているのだろう。
ドモン・カッシュ、奴は――超一流の武道家だ。
「……見慣れぬ拳だな」
「流派東方不敗に敵はない。それに――中国拳法を得意としている知り合いがいてな。何度も拳を交えている。
故にお前の動きにも対応出来た。さぁ立て、言峰!! もう一度だっ!!」
「残念だが……くくく、私にはもう闘う意志はない」
「何……? どういう事だ!?」
ドモン・カッシュ、奴は――超一流の武道家だ。
「……見慣れぬ拳だな」
「流派東方不敗に敵はない。それに――中国拳法を得意としている知り合いがいてな。何度も拳を交えている。
故にお前の動きにも対応出来た。さぁ立て、言峰!! もう一度だっ!!」
「残念だが……くくく、私にはもう闘う意志はない」
「何……? どういう事だ!?」
ドモンは私の言葉に追撃の意思をなくしたのか、構えを解いた。
そうだ……それでいい。
そうだ……それでいい。
「拳だけの争いでは私に勝機はない。勝てない戦に意気揚々と赴く兵士が何処にいる?
君にとっては武術の手合わせこそが自らの流儀なのかもしれないが、私は違う。
もう、満足しただろう――それに、私が殺し合いに乗っているように感じたか?」
「いや……殺し合いには乗っていない。それだけは確かだ」
「だろう? 私はただの……いや、"少しだけ武術を学んだ"神父に過ぎんよ。
さて……今度は私の質問に答えて貰いたい」
「ああ、いいだろう。拳で語り合った仲だ。俺が知っている事なら何でも答えよう」
君にとっては武術の手合わせこそが自らの流儀なのかもしれないが、私は違う。
もう、満足しただろう――それに、私が殺し合いに乗っているように感じたか?」
「いや……殺し合いには乗っていない。それだけは確かだ」
「だろう? 私はただの……いや、"少しだけ武術を学んだ"神父に過ぎんよ。
さて……今度は私の質問に答えて貰いたい」
「ああ、いいだろう。拳で語り合った仲だ。俺が知っている事なら何でも答えよう」
ドモンは小さく一度頷いた。私を疑っている様子は微塵も見えない。
確かに私自身は殺し合いには乗っていない。その事実に虚構はないのだ。
確かに私自身は殺し合いには乗っていない。その事実に虚構はないのだ。
「双剣の男と――そうだな、ドモン・カッシュ。
君がどのような経緯でここまでやって来たのか説明して貰おうか」
「……そんな事でいいのか? まず俺が――」
君がどのような経緯でここまでやって来たのか説明して貰おうか」
「……そんな事でいいのか? まず俺が――」
■
「――と言った所だな」
その言葉が最後まで紡がれたのを確認してから、私は口を開いた。
明らかに彼の発言の中に不可解な要素が多数含まれていたからだ。
明らかに彼の発言の中に不可解な要素が多数含まれていたからだ。
「待て、ドモン・カッシュ。図書館と言ったな? それは学校の図書室の間違いではないのか?
それに高速道路など……ここから、どれだけ離れていると思っているのだ」
「いや? 間違いなく図書館だった筈だぞ。
それに、離れていると言っても大した距離を移動したつもりもないしな」
それに高速道路など……ここから、どれだけ離れていると思っているのだ」
「いや? 間違いなく図書館だった筈だぞ。
それに、離れていると言っても大した距離を移動したつもりもないしな」
ドモンはそう、当たり前のように言った。
……どういう事だ?
彼の話を適当に纏めるとこうなる。
……どういう事だ?
彼の話を適当に纏めるとこうなる。
- ゲーム開始時、エドワードという少女と図書館で出くわした。
- 風浦可符香という少女にとにかく手当たり次第にファイトを行うよう諭された。
- 双剣の男=衛宮士郎と高速道路で手合わせをした。
- 褐色の肌の男と戦っているうちに、突然山林が現れた。
高速道路も図書館も地図の北側に位置する建造物だ。
そしてこの非常に入り組んでいる会場内において、直線距離でH-2の学校まで移動して来たとは考え難い。
ドモン・カッシュはおそらく衛宮士郎と似た気質を持っている。
それ以上に真っ直ぐで単純な部分もあるようだが。
おそらく嘘はついていない――そう断言出来る。ではこの時間的、立地的な矛盾はどうなる?
そしてこの非常に入り組んでいる会場内において、直線距離でH-2の学校まで移動して来たとは考え難い。
ドモン・カッシュはおそらく衛宮士郎と似た気質を持っている。
それ以上に真っ直ぐで単純な部分もあるようだが。
おそらく嘘はついていない――そう断言出来る。ではこの時間的、立地的な矛盾はどうなる?
「言峰、質問はこれで終わりか? そろそろ俺も移動したいのだが」
「……ああ。時間を取らせて済まなかったな」
「何、容易い事だ。ではっ!」
「……ああ。時間を取らせて済まなかったな」
「何、容易い事だ。ではっ!」
ドモンは最後に私に合図を送ると、凄まじい勢いで駆けて行った。
あの速度ならば本当にマップの上から下まで走破してもおかしくないのではないか、そんな考えさえ生まれる。
あの速度ならば本当にマップの上から下まで走破してもおかしくないのではないか、そんな考えさえ生まれる。
さて……これから私はどのように動くべきか。
何も出会う人間を衛宮士郎に限定する意志はほとんど存在しないと言える。
神父としての仕事を執行するのに相手を選ぶ必要もない。
何も出会う人間を衛宮士郎に限定する意志はほとんど存在しないと言える。
神父としての仕事を執行するのに相手を選ぶ必要もない。
不幸と混沌と混乱――その結果生まれる至極の愉悦。
それさえ味わう事が出来れば良いのだから。
それさえ味わう事が出来れば良いのだから。
ドモン・カッシュにしてもそうだ。
あのような誰彼構わず闘いを挑むやり方は場を掻き回すのに非常に有効と言える。
今回の私との戦闘で奴は、自らの中にあった迷いを完全に吹っ切ったと言っても良い。
おそらく今後も積極的に戦いの種を蒔いてくれるだろう。
そのためならば肋骨の一本など痛くも痒くもない。
あのような誰彼構わず闘いを挑むやり方は場を掻き回すのに非常に有効と言える。
今回の私との戦闘で奴は、自らの中にあった迷いを完全に吹っ切ったと言っても良い。
おそらく今後も積極的に戦いの種を蒔いてくれるだろう。
そのためならば肋骨の一本など痛くも痒くもない。
「それにしても……奴の声はギルガメッシュとそっくりだったな」
私は今頃になってそんな感想を抱いた。
しかし、ギルガメッシュの奴は今何処で何をしているか。
いや案外、近くに居るのかもしれない
何しろ既に私は間桐慎二と出会い、衛宮士郎の情報を掴んだ。世界は案外に――狭いのだ。
しかし、ギルガメッシュの奴は今何処で何をしているか。
いや案外、近くに居るのかもしれない
何しろ既に私は間桐慎二と出会い、衛宮士郎の情報を掴んだ。世界は案外に――狭いのだ。
【H-3/道/一日目 午前】
【ドモン・カッシュ@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:疲労(大)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:己を鍛え上げつつ他の参加者と共にバトルロワイアルを阻止し、螺旋王をヒートエンド
1:積極的に、他の参加者にファイトを申し込む (ある程度力を持った者には全力、ある程度以下の者には稽古をつける)
2:傷の男(スカー)を止める
3:ゲームに乗っている人間は(基本的に拳で)説き伏せ、弱者は保護する
4:一通り会場を回って双剣の男(士郎)と銃使いの女(なつき)と合流する
5:言峰に武道家として親近感。
[状態]:疲労(大)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:己を鍛え上げつつ他の参加者と共にバトルロワイアルを阻止し、螺旋王をヒートエンド
1:積極的に、他の参加者にファイトを申し込む (ある程度力を持った者には全力、ある程度以下の者には稽古をつける)
2:傷の男(スカー)を止める
3:ゲームに乗っている人間は(基本的に拳で)説き伏せ、弱者は保護する
4:一通り会場を回って双剣の男(士郎)と銃使いの女(なつき)と合流する
5:言峰に武道家として親近感。
[備考]:
※本編終了後からの参戦。
※参加者名簿に目を通していません 。
※地図にも目を通していません。フィーリングで会場を回っています 。
※正々堂々と戦闘することは悪いことだとは考えていません 。
※なつきはかなりの腕前だと思い込んでいます。
※はやての拡声器はエリア移動をしていたため聞いていません。
※本編終了後からの参戦。
※参加者名簿に目を通していません 。
※地図にも目を通していません。フィーリングで会場を回っています 。
※正々堂々と戦闘することは悪いことだとは考えていません 。
※なつきはかなりの腕前だと思い込んでいます。
※はやての拡声器はエリア移動をしていたため聞いていません。
【H-2 校庭/一日目 午前】
【言峰綺礼@Fate/stay night】
[状態]:左肋骨骨折(一本)、疲労(中)
[装備]:ストラーダ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:荷物一式
[思考]
基本:観察者としての姿勢を崩さない。苦しみを観察し、検分し、愉悦とする。
1:殺し合いに干渉しつつ、ギルガメッシュを探す。
2:シータに会えばパズーの伝言を伝える。
3:ドモン・カッシュの不可解な移動について考察する。
4:風浦可符香に興味
[状態]:左肋骨骨折(一本)、疲労(中)
[装備]:ストラーダ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:荷物一式
[思考]
基本:観察者としての姿勢を崩さない。苦しみを観察し、検分し、愉悦とする。
1:殺し合いに干渉しつつ、ギルガメッシュを探す。
2:シータに会えばパズーの伝言を伝える。
3:ドモン・カッシュの不可解な移動について考察する。
4:風浦可符香に興味
※制限に気付いています。
※衛宮士郎にアゾット剣で胸を貫かれ、泥の中に落ちた後からの参戦。
※衛宮士郎にアゾット剣で胸を貫かれ、泥の中に落ちた後からの参戦。
[備考]:H-2学校の図書室でブックドラフトが発生しました。
図書室及び図書室周辺の廊下と階段付近は大量の本に埋め尽くされています。
図書室及び図書室周辺の廊下と階段付近は大量の本に埋め尽くされています。
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099:ブックドラフト | 結城奈緒 | 152:読書の時間 |
099:ブックドラフト | ギルガメッシュ | 152:読書の時間 |
124:来るなら来い! 復讐のイシュヴァール人! | ドモン・カッシュ | 176:邪魔する虫 |
099:ブックドラフト | 言峰綺礼 | 159:そして私のおそれはつのる |