車掌と大工 ◆RwRVJyFBpg


「――それでは――存分に、殺し合え」

木材にほぞ穴を穿ちながら、拙者はその放送を聞き終えた。
とりあえず、この温泉が禁止エリア指定されなかったことにほっとする。
せっかく直し始めたのに、完成前に追い出されるなんていうのは気持ちが悪いからな。

「でもま、まだ油断するのは早いか」

この温泉が修理し終わるまであとおよそ18時間。
放送は6時間ごとだから、完成するまでにあと2回放送が入る計算になる。
ということは、つまり、温泉完成までにあと6箇所禁止エリアが増えるってことだ。
あのロージェノムとかいうオッサンがどうやって禁止エリアを決めてるのか知らねえが
拙者がここを建て直すまでは、どうにか見逃して欲しいものだな。

しかし、そう考えると、あの女を逃がしちまったのは痛かった。
おそらく大工仕事に関しては素人だったろうが、手伝わせれば、少しぁ時間短縮にもなっただろうに。
あークソッ、交渉のためのかけひきとしてはうまくやったと思ったんだがなあ……グッ!

「……いってぇ!」

……くそっ、金槌で自分の指を叩いちまった。
ああ、いけねえ、いけねえ。ちょっとした失敗で仕事に身が入らなくなるなんて、未熟な証拠だ。
うまくいかなかったことをいつまでもグチグチ気にしてたって仕方がねえ。
そもそも、交渉事などというのは拙者の専門外。めんどくさいことにならなかっただけでも上出来だ。
拙者はそう自分に納得させると背伸びをし、体を伸ばした。

「おーしっ!いっちょ気合入れていくか!」

沈んでいた気持ちを奮い立たせ、ノミと金槌を握りなおす。
今日中に造り終えるためには、昼過ぎまでに必要な建材を全部作り、組み立てに入んなきゃならねえ。
ボンヤリしてる暇は、はっきり言ってない。
そうやって作業に入ろうとした、まさにその瞬間だった。



「何やってんだ?お前?」

森の方から、不意に声をかけられる。どうやら、また誰か来たらしい。
相手を確認するために顔をあげるが、不思議なことに姿が見えない。

「……どこにいやがる?姿くらい見せやがれ」
「別にいいだろ。姿くらいささいなことだ。相手が見えなくても話はできる」

拙者が問いかけると、やっぱり方向のはっきりしないどこかから答えが返ってくる。
何のつもりか知らんが、失礼な奴だ。

「礼儀ってモンを知らんのか。初対面の人間にはきちんと挨拶をするもんだぞ」
「まさか猫に礼儀を問われるとは思ってなかった。
 まあ、だが、そのことなら問題はない。確かに俺とお前は初対面だが、お前は人間じゃないからな」

……どうにもやりにくい相手みてえだ。話しててイライラしてくる。
ああ、クソ、せっかく気持ちを切り替えたっていうのによ。


「揚げ足とってんじゃ……ねーよ」

拙者は足元に落ちている適当な小石を拾い上げると、右前方にある木の上を目掛け、思い切り投げつけた。

「うお!?」

木の枝が一瞬、不自然に揺れたかと思うと、そこから、一人の男が降りてくる。
地上から5メートルくらいの場所にある枝を蹴り、空に舞い上がった男は、そのまま綺麗な弧を描いて跳び、華麗に着地した。
どうやら、人間にしちゃー運動神経のあるやつのようだ。

「ばれたか。しかし、あんなに思い切り石を投げたら危ないぞ?俺じゃなければ怪我をしていたとこだ」

男の姿を見て、拙者は我が目を疑った。
理由は簡単だ。男の体が全身、上から下まで真っ赤な血にまみれてたんだからな。
そのことを理解した瞬間、拙者はすかさず爪を立てて、身構えた。

「そんなに構えなくてもいい。今のところ、お前を殺すつもりはないからな」
「そんな格好をした奴の言うことが信用できるか!」
「まあ、だろうな。だから姿を見せたくなかったんだが。
 ……じゃあ、いっそ殺し合ってみるか?お前がそうしたいというのなら俺は別に構わんぞ。
 どうせ俺が勝つのは自明なわけだが、お前がやりたいというのを止める理由はないからな」
「……なんだと?」

……こいつ、やっぱり気にいらねえ。
このマタタビ様を捕まえて『どうせ俺が勝つのは自明』だと?人を馬鹿にするにも程がある。
こんな面倒な殺し合いなんぞ正直、どうでもいいし、キッド以外とは戦う気もなかったが
ここまでコケにされて黙っていちゃあ、男が廃る。
さっきの動きを見るに多少運動神経はいいみたいだが、そんな程度で拙者に勝てる気とは片腹痛い。
初対面の人間に対して、いきなり拳語りってのは好きじゃないが
こいつはどっからどう見てもこの殺し合いに乗った殺人鬼。多少、かましたところで問題ねえだろう。
ようし決めたぞ!ボッコボコの返り討ちにしてやる!

「……上等だ。そこまで勝負したいt」
「ああ、ちょっと待て。お前が俺を信用しようがしまいが、俺と殺し合いをしようがしまいが
 それはどっちでもいいんだが、その前に一つ」

威勢よく、ケンカを買ってやろうとした拙者の啖呵は、奴の自分勝手な割り込みにかき消された。
……つくづく腹の立つ奴だ。

「何だ?今更、やっぱ止めたってのは無しだぞ」
「いや、違う」
「じゃあ、何だよ」

イライラに任せ、今にも飛び掛りそうな自分を抑え、拙者は聞き返す。

「全てはひとッ風呂浴びた後だ。議論の余地は無い」


「いい湯だな。やはりここに来て正解だった」
「あーあーそうですか。そりゃようござんしたね」

建物の裏手にある露天風呂で、男は自分の体についた血を洗い流していた。
壁も仕切りもないせいで、その姿が周りから丸見えになっているのも構わずに、フルチンで湯浴みを楽しんでいる。
『全ては風呂の後だ』と言われた時には、ついに拙者もぶち切れて、あらん限りの文句をぶつけたんだが
『いやだ。断る。議論の余地は無い』とあまりに頑なに言い張るもんだから、結局、折れざるを得なかった。

「はーあ」
「溜め息などついてどうした。悩み事か?俺でよければ相談に乗るぞ」
「うるせえ」

そんなことがあったもんだから、拙者の闘志はすっかり萎んでしまっていた。
後に残ったのは、何ともいえないやりきれなさだけ。
拙者は今、いい年こいた裸の男が子供のようにはしゃいでいる横で、ひたすらカンナがけを続けていた。
本当は、こんな男の傍で作業するのは嫌だったが、一応、この男は血塗れで現れた殺人容疑者。
こちらの油断を狙われても厄介だし、目を離した隙に誰かを手にかけるようなことがあったら後味が悪ぃ。

「しかし、この状況で建築作業とは、お前、本当に物好きだな。何でこんなことしてるんだ?」

男が自分の脱いだ服を手に取りながら訊いてくる。
どうやら、体だけじゃなく、服も洗濯するつもりみてぇだ。

「ほっとけ。大工のサガってやつだ」
「大工とは何だ?」

答えを返した拙者に、男が真顔で聞き返してきやがった。
大工を知らんとは、貴様どこの田舎者だ!と思ったが、よく考えれば無理もねえ。
風貌を見る限り、男は明らかに外国人。それならば、大工を知らないのも道理ってもんだ。
仕方がないので、拙者は大工がいかなる仕事なのかについて、懇切丁寧に説明をしてやった。


「……つまり纏めるとだな、家を建てる者として、荒れ果てている家を無碍にはできn」
「ハハッ、ハハハッ、クハハハハハハハ……」

拙者の大工についての説明が終わるか終わらないかといううちに、男がいきなり笑い始める。
……いいかげん、空気を読んで欲しい。

「何がおかしい?」

拙者はあからさまに不機嫌な声で問い返す。
自分の仕事を笑われて、気持ちのいい奴なんていない。

「いや、すまん。俺と同じような奴がこの会場にいたのが無性におかしくてな」
「同じような?」

何が同じだと言うのだ。
拙者はお前のように血塗れで歩き回ったりしないし、自分勝手でもないし、お風呂大好きでも無ェ。
『お前と一緒にするな』の一言を吐こうか吐くまいか迷っていると、先に男が喋りだす。

「俺は車掌でな。ここに呼ばれた時も、とある列車の中で勤務している最中だった。
 で、名簿によると、どうやら、ここには俺の列車に乗っていた乗客が何人か来ているらしい。
 それを知った時、俺は考えた。俺は車掌だ。乗客の安全を守るのが車掌の仕事だ。
 ならば、ここでも、この殺し合いの場でも客の命を救うのが俺の車掌として本懐なんじゃないかとな。
 だが、こんな状況で自分の仕事がこうだからと考えられる奴はそういない。
 もっとも、こういうことが本職の軍人とかマフィア、殺し屋とかなら話は別だが」

捲くし立てるように話す男に面食らいながら、拙者はただただ聞くことしかできない。
いつのまにか、カンナの手も止まっちまってる。

「何故なら、そんなことができるのは強者だけだからだ。
 そういう余裕ってのは強者だけが持てるものだからだ。 
 この場でそんな余裕を持ってるのは俺だけだと思ってたんだが
 まさか、俺以外に殺し合いそっちのけで自分の仕事に没頭できる奴がいるとはな。
 いや、唯一絶対の強者である俺としては驚きなんだ。ホントに」

男は興奮した調子で立ち上がり、尻をお天道様に晒しながら弁舌をうつ。
その様子は、男の喋っている内容と相俟ってとてもバカらしく見えた。
多分、遠まわしに馬鹿にしてるんだろうが怒る気にもなれない。
それほど、拙者の目にはその男がアホに映った。

しばらくゲンナリしていると、男が何か思い立ったのか風呂から上がり、傍らのデイパックの方へ向かっていく。
そして、鞄を開いて地図を取り出すと、何やら真剣に眺め始めた。

「人手は足りているのか?」
「は?」

唐突な質問に一瞬、思考が固まる。

「温泉修繕の人手だよ。お前一人で足りているのか?」

まどろっこしそうになされた補足を聞いて、拙者はその意味を理解した。

「いや、軍服の姉ちゃんにも逃げられちまったし、正直足りてな……!」

そこまで言ってしまってから、拙者は自分のミスに気がついた。
足りていないという言葉を聞いた瞬間、男が唇を吊り上げ、不敵な笑みを浮かべたからだ。
拙者はその笑顔を見た瞬間、次に男が何を言い出すのか察しがついてしまった。




「そうか。なら俺が手伝ってやろう。俺はお前が気に入った」

ほら、きた。


その後、拙者は再びこの男と喧々囂々の言い合いを演じ……再び負けた。

乗客を守るんじゃなかったのかと言えば
「そのためにはここで待つのが現状、最良のテだと判断した。
 ここより西にいる奴らが北に抜けるにはここか、G-8を通るしかない。
 そのG-8が間もなく禁止エリアになる以上、必然的に西の奴らはここを通る。
 そうすりゃ、温泉に寄る人間も増えるだろう?
 どこにいるか分からん人間を闇雲に探すより、人の集中する場所で待った方が効率がいい」
と言われ。

軍服の女が戻ってくるまでどうせ暇だから一人でやると言えば
「軍服の女って蒼い軍服を着た金髪の女のことか?あいつが戻ってくるのか?
 ……なるほど。それはちょうどいい。俺もあの女には興味があったんだ」
と返され。

お前に大工仕事ができるのかと問えば
「誰にモノを言っている?俺ができると信じてできなかったことなど何も無い!」
と噛み付かれ、やらせてみたら本当にうまかった。

そもそも、あのような我の強い男を向こうにまわして言い合って、納得させられるわけがない。
確かに、交渉事などというのは拙者の専門外だが、仮に交渉のスペシャリストが相手をしたとしても
あの男に自説を曲げさせることは簡単ではないだろう。

「……どうした、もう終わりか?
 まあ、俺が一度やると決めた以上、何を言われたところでやめる気はないがな」
「……勝手にしろ」

拙者は力なく男に言い渡す。
まあ、いい方向に考えれば、欲しかった人手が労せず手に入ったと言えないこともない。

「決まりだな。ま、これからよろしく頼むぞ……エーっと……」
「……マタタビだ」
「そうか!じゃあ、よろしく頼むぞ!マタタビ!」

そう言うと、男はもうずいぶん長いこと漬かっていた浴槽から体を上げ
言い合っている間に洗っておいた服の方へと足を向ける。
服に手をかけ、身に着けようとする間際、何か思い立ったのか、奴は急に振り向いた。
何事かと思って目を遣ると、男は拙者の目を真っ直ぐ見返し、言い放った。

「そういえば俺の名前をまだ言っていなかったな。
 俺の名はクレア・スタンフィールド!世界の中心に位置する男だ!」


太陽が眩しい朝の空気の中、全裸で胸を張り、イチモツを揺らしながら、朗々と世界の中心を名乗る青年。
その姿は、もはやバカらしいという次元を超越し、ある種の神々しさすら放っていた。
自信に満ちたその精悍な肉体を、投げやりな気持ちで見つめながら
マタタビは彼が血塗れだった理由をまだ聞いていないことを思い出した。






【H-6 温泉 1日目 朝】

【マタタビ@サイボーグクロちゃん】
[状態]:げんなり
[装備]:大工道具一式@サイボーグクロちゃん、マタタビのマント@サイボーグクロちゃん
[道具]:デイバッグと支給品一式、メカブリ@金色のガッシュベル!!(バッテリー残り95%)
[思考]:
1、クレアにげんなり。
2、この建物を直す。 建物に来た奴には作業を手伝わせる。
3、建物が完成したらリザを待つ。
4、出来ればキッド(クロ)とミーとの合流。
5、戦いは面倒だからパス。
6、暇があれば武装を作る。
[備考]
大工道具は初期支給品の一つです。
中身はノコギリ、カンナ、金槌、ノミ、釘
※建物の修理はあとおよそ15時間で完了しますが、妨害行為などで時間が延びることがあります。
※クレアが手伝うことによって、完成予定時間が短縮されました。
※修理に手を貸す人がいれば修理完了までの時間は短くなります。H-6の周囲に建物を修理する音が響いています。
※リザと情報交換をしてません。


【クレア・スタンフィールド@BACCANO バッカーノ!】
 [状態]:自分への絶対的な自信 全裸
 [装備]: なし
 [道具]:支給品一式  マタタビの目玉入り瓶@サイボーグクロちゃん
     フライング・プッシーフットの制服(洗濯済み)
 [思考] 基本:脱出のために行動する 、という俺の行動が脱出に繋がる。
  1:マタタビを手伝う。
  2:温泉に来るものに接触し、乗客の情報を集める。
  3:建物が完成したらリザ(名前は知りません)を待つ。
  4:名簿に載っているのが乗客なら保護したい
 ※クレアの参戦時期は『フライング・プッシーフット』の『車掌二人』の死亡後です。
 ※全身の血を洗い流しました。



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050:マタタビからの挑戦状 マタタビ 131:せーのでコケてごあいきょう
086:世界の中心で、叫ぶ クレア・スタンフィールド 131:せーのでコケてごあいきょう





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