嗚呼。それにしても酒が欲しい…… ◆AZWNjKqIBQ



振るう暴力を裁きの雷と言い放ち、自身を神と名乗る傲岸不遜な男――ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ。
狂王の実験場に落とされて間もなく一つの命を奪い、月の出る夜空に哄笑を響き渡らせる。
そのけたたましい笑い声にか、それとも彼の足下に転がる死体から広がる異臭のせいか、
そこに一人の男が近づいて来ていた。

簡素な着物に赤いスカーフを纏った長身の東洋人。
片方の手にバックを提げ、もう片方の手には水筒を吊ってゆっくりと道を歩いてくる。
様は静かであったが、その細い瞳に映るは剣呑な揺らめき。
その男の名は戴宗。国際警察機構、最強の九大天王が一人――神行太保・戴宗。

自分に酔っていたムスカも、影の中から月明かりの元へと踏み出されればその男に気付く。
「……なんだ東洋人か。私の世界には必要ないな。ここから帰り次第国ごと滅ぼしてやろう」
無礼で挑発的な発言。だが、戴宗はそんな相手の不遜な態度を無視して静かに問うた。

「こいつをやったのはお前さんかい?」

戴宗が指す「こいつ」とは、勿論彼の眼前に横たわる黒焦げた遺体のこと。
細い目が見つめる先には、まだ若かったであろうと思われる小柄な亡骸が薄煙を上げている。

「神に逆らった愚か者の末路だよ」

にへらと笑いながら答えるムスカの眼には、狂気と自信が満ち溢れ爛と輝いている。
一方、そんな彼へと向けられる戴宗の眼は至って静。

――何時何時此の身が如何なろうと、何処で死のうと誰も悲しまない。だから、如何な任務にも耐えられる。

戴宗が仲間に繰り返し聞かせた言葉であり、また彼自身にとっての矜持でもあり覚悟。
彼は今までこの言葉の通りに生きて来たし、これからもそうであることは変わりはない。
命はすでに国際警察機構に預けた身。例え、死を賭せと命じられても迷いなく殉じる覚悟が彼にはある。
が、しかし! 眼前に横たわる少年はそうではなかったはずだ。いや、ここにいる誰もが!
訳も解らぬままに見知らぬ場所に落とし込み、素性も知らぬ同士を殺し合わせるあの男――螺旋王。
奴も勿論許す事ない大悪。いずれは落とし前ををつけさせなければならぬ!
して、目の前の男。神と嘯き、自分勝手な都合で年少の者をいとも容易く殺めたこいつ。
混乱する機に乗じ、跳梁跋扈して己が勝手な願いを達成せんと無辜の者を襲うこいつ。
こんな奴を何と言う?

簡単明瞭! たった一言――外道と言う。

 ◆ ◆ ◆

戴宗は片手に提げたバックを落とす。
続いてもう片手に持った虎柄の水筒から一口取って喉を鳴らすと、それも地面に落とす。
そして、空いた両手を握り締め、ゴキリを音を鳴らすと一歩前へと足を踏み出した。

「このラピュタ神に素手で挑もうというのかね?」
対するムスカは、眼前に迫る相手の心の内に秘めたものが読めぬのか余裕綽々。
相対する者の返事を待たずして手を突き出し、稲妻を走らせた。
ドンッ、と響く音とともに身動ぎ一つ取らなかった戴宗の身体に薄煙が上がる――が、それだけだ。
神を名乗る男はこの時初めて目を見開き、意も介せぬように歩みを止めぬ相手にたじろいだ。
戴宗が一歩前に出れば、一歩下がる。もう一歩前に出れば、もう一歩下がる。

神の雷が通じない。何故か――と、ムスカは困惑する。だが真実はそうではない。
雷だからこそ通じないのだ。
国際警察九大天王。その末席に身を置く神行太保・戴宗。またの名を――『人間発電機』

ピタリと足を止め次いで突き出された戴宗の拳が、ブンという羽虫の様な音と共に薄い光を纏う。
その原理はムスカが背負うエレキテル――電磁誘導装置、それと同じ。
異なる点を上げるならば、
エレキテルの方はあくまで誘導装置であって蓄電はできても、それ自体では発電することができぬと言うこと。
そして逆に、戴宗の有する特異な能力はその名の通り自らの身体で以って電気を起こす事ができる。
その発電量。例えば目の前の総合病院。それが使用に必要とする量を賄うことも容易い。

戴宗の全身を駆け巡る電流は身体の中で螺旋を描き、強力な電磁力を発生させる。
そして、エレキテル同様に大気を操り戴宗は拳の先に電磁場によって作り上げた気の拳を纏う。
これが人間発電機と呼ばれる戴宗の力。名づけて――噴射拳。
彼は内に巡る膨大な電力を雷として発するのではなく、己が身体を武器とするために操る。
九大天王の中でも単純戦闘に特化した能力で、末席と言えど、こと単一同士の格闘戦となれば一、二位を争う。
仇敵であるBF団の十傑集においても、彼と格闘戦を演じられるのは衝撃のアルベルトのみと言われるぐらいだ。

その有形無形の圧力に、戴宗と対峙するムスカの頬に冷や汗が垂れる。
しかし、彼もまた伊達に神を名乗る男ではない。
一度効かぬなら二度目を。二度目も効かぬなら三度目をと、再び稲妻を空中に奔らせた――が!
彼の目の前で、戴宗が姿を消した。
放たれた稲妻は虚しく宙に霧散し残光だけを残す。
サングラスをかけているので、閃光に視力を奪われたなどということはない。しかし、見失った。

戴宗は何処に? 霞と消えたか。いや、彼はムスカの背後に立っていた――。

戴宗は常に人間発電機と呼ばれはしない。彼を呼ぶものは皆こう呼ぶ――神行太保、と。
神行法。それが今の一瞬の種明かし。
強力な電磁の力を脚へと転じればその脚力は常軌を逸し、駆ける速さは音の速さにも達する。
先に拳へと発した様に、気を足元に置けばその歩み神をも目を見張る。故に神行法。
この能力こそ、文字通り彼の右に立つ者は居ない。故に彼は呼ばれる――神行太保・戴宗、と。

彼がそれに気付くよりも疾く戴宗は拳を突き出し、ムスカに衝撃の一撃を見舞った。
神の鉄槌ならぬ、義憤の鉄拳。喰らったムスカはアスファルトの路上を何度も転がる。
次いで倒れた者を鞭打つように降り注ぐのは、爆散したエレキテルの残骸だ。

車に跳ねられた様な衝撃に、指一本動かせなかったムスカではあったが
この期に及んでなお彼の傲慢な姿勢は変わらず、あくまで不敵。その態度は崩さなかった。
「……き、貴様。神に向かって拳を振るうとはこの身の程しらず、め。報いを、受けるぞ」
対する戴宗は一つ嘆息すると、その手をムスカの額へと伸ばす。
「お前さんには、ちぃと眠ってて貰うぜ」
瞬間、電流が戴宗よりムスカへと流れ出し、その衝撃が不敵なムスカの意識を奪った。

「……やーれやれ、だ」

そう一人ごちると、戴宗は気絶したムスカと小さな遺体を抱え上げ目の前の病院へと入り込んだ。

 ◆ ◆ ◆

冷たいコンクリートの床の上。狭くて暗い物置の中にムスカの身体を横たえると
戴宗は彼が持っていた荷物の検分を始めた。
すでに死んでいた少年――エドの遺体はここではなく霊安室へと預けてきている。
そして、外道であるムスカの命を奪わないのは、何も情けからという訳ではない。
いるかどうかは知れぬが、あの少年の身内や仲間がここにいるやも知れない。
ならば、仇は譲るべきだと……そう考えた結果であった。そして、いなければその時こそ自分が討てばよい、とも。

「なんだこりゃあ……」

まず鞄に手を差し込んで最初に出てきたのが、大量のチョコレートだった。
確かにチョコレートはエネルギー豊富で、この様な状況ならばありがたいものかも知れなかった。
だが、大酒呑みの戴宗はどちらかと言えば辛党で、甘いものは好みではない。

「酒でも出てくりゃあ、ありがたいんだがなぁ……」

とは言いながらも、一つ包みを剥がしては口に放り込む。
世界最強候補の一人である戴宗ではあったが、ここに来てより何やら調子が悪い。
腹が減っているわけでもないというのなら、やはり酒抜きのせいかと戴宗は考える。
よもや何らかの術のせいかも知れぬが、そうなると戴宗には手が出ない。戴宗は根っからの武闘派だ。
「……言ってみるもんだな」
と、戴宗がバックから抜き出した手には一本の洋酒の瓶が握られていた。しかし――、
「空っぽかよぉ……」
残念ながら、もうすでに封は開けられており、中身も失われた後だった。
戴宗は他にもないかとバックを漁るがもう出てこず、空になった瓶を逆さに振るも一滴も酒は垂れてこない。
漏れてくるのは僅かに臭う山葡萄の香りのみ……。

「……未練だぜ」

考えれば、あの男はこの酒を飲んでいたのか。しかし、あのような妄言が飛び出すとはどんな悪酔いか。
どうせ碌なものではない――そう考えを切り替え、戴宗は酒瓶への未練を払う。

一通り検め終わると戴宗は曲げていた膝を伸ばし立ち上がる。
その手にはチャラチャラと音を立てる細長い投げナイフが幾本も握られていおり、
「こいつは没収……」という訳で戴宗のバックの方へと収められた。

戴宗は物置部屋を出る際に、床に投げ出されたムスカの方を見やる。
ピクリともしない。死には至らないが相当の電流を流し込まれている。
戴宗の見立てでは、気を取り戻すのに半日。それから身体を動かせるまでにもう半日。そういう按配だ。
それでも、一応と扉に安物の鍵を掛けて戴宗はその場を離れた。

「衝撃の旦那に、十傑集がもう一人。それなのに、こちらときたら俺一人かぁ……」
その上、まだまだ未知の存在が多数いるという……。最初に出会った男が男だっただけに気は滅入る。
せめて一清でもいれば釣合いが取れるのに、と考えても詮無き事。
「……まずは、酒だな」
暗澹たる思いを胸に、戴宗は病院を出て月夜の下を一人歩いていった。

 【D-6/総合病院近く/1日目-深夜】

 【神行太保・戴宗@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-】
 [状態]:若干の疲労
 [装備]:
 [道具]:デイバッグ、支給品一式(食料-[握り飯、3日分][虎柄の水筒(烏龍茶)])
      アサシンナイフ@さよなら絶望先生×11本
      戴宗に支給された何か(1~3つ)※戴宗は確認しています
 [思考]:
  基本:不義は見逃さず。悪は成敗する
  1.どこかで酒を調達したい
  2.死んでいた少年の身内や仲間を探す
  3.半日ごとぐらいにムスカの様子を見に病院へと戻る
  最終:螺旋王ロージェノムを打倒し、元の世界へと帰還する

 ※登場時期は、アニメの1話開始直前です

 ◆ ◆ ◆

パタン……と、薄い扉が閉まる音がしてからしばらくのこと。
戴宗に痛めつけられ、ピクリとも動けなかったはずの男が弱々しいながらも身体を起こした。

「よ、よくも……あいつめ。私は神なんだ、ぞ」

サングラスの位置を直すと、男――ムスカは彼を痛めつけた東洋人が去った扉を睨み付ける。

「……しかし、幸運の女神はまだ私を見放してはいないようだ」

何故、ムスカが戴宗の鉄拳や電撃を受けたにも関わらず、こうも早く回復できたのか?
鉄拳の一撃は元よりそれ程の威力は込められてなかった。戴宗の目的はあくまで武器を奪う事をだったからだ。
しかし、次の電撃はそうではない。殺しはしないまでもそう簡単には回復できないだけの量を戴宗は込めた。

ムスカは自信の両の手の平を見つめる。エレキテルの力ではあるが、何度かここから雷を放ったのだ。
その雷――何故、ダメージになるのか? 答えは簡単。電気抵抗がそこに熱を生み出すからだ。
電流が全身を駆け巡ることによって発生する熱。それによって、一人の少年は命を失った。
そしてその雷を放ったムスカは、エレキテルのもたらす二次作用として電流に対する抵抗が少ない体質へと
変質していたのだった。
それは、エレキテルを装備し全身に電気を纏う者に対する、エレキテル装置そのものの電磁ガード。
その不可視のフェイルセイフが、あの時エレキテルが破壊された直後も身体に少し残っていたのだ。
結果、ムスカの身体を駆け巡った電流は地に拡散し、戴宗の意図したものよりもはるかに少ないものとなった。

何度か手を握り身体が動く事を確認すると、ムスカはズボンの裾に手を伸ばして、
隠し持っていた1本の投げナイフを取り出した。
僅かながらに焦げが浮いてはいるが、使用に当たっては問題ない。

「待っていろよ。神への反逆は、神罰を持って迎えられる事を貴様に思い知らせてやる」

そう言うと、ムスカは自分の鞄を背負いなおし、ナイフを片手に扉へと立ち向かった。


 【D-6/総合病院・物置部屋の中/1日目/黎明】

 【ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ(ムスカ大佐)@天空の城ラピュタ】
 [状態]:激しく疲労、背中に打撲
 [装備]:アサシンナイフ@さよなら絶望先生
 [道具]:デイバック、支給品一式(食料-[大量のチョコレート][紅茶])、葡萄酒の空き瓶
 [思考]:
  基本:すべての生きとし生ける者に、ラピュタ神の力を見せつける
  1.まずは、この部屋より脱出する
  2.東洋人(戴宗)に復讐する
  3.パズーらに復讐する
  最終:最後まで生き残り、ロージェノムに神の怒りを与える



 ※エドワード・エルリック(@鋼の錬金術師)の遺体は病院の霊安室に移動されました
 ※エドワード・エルリック(@鋼の錬金術師)の荷物は病院の前の道路上に放置されています


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神行太保・戴宗 080:紙視点――そして紙は舞い落ちた
007:ラピュタの雷 ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ(ムスカ大佐) 066:蘇れ、ラピュタの神よ





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