friend ◆4XfkJ/Yphc



 殺し合いの為に用意された街、その南西部にある学校。
 教師も生徒もいない校舎は暗闇と静寂に包まれていたが、つい数分前、一階の職員室に灯りが点いた。
 それからずっと、その部屋の中だけが絶え間ない騒音に晒されている。
「糞っ、何なんだよこれは! ふざけやがって……!」
 騒音の元は、バトルロワイアル開始と同時にここに転送された、間桐慎二だった。
 彼は虚空に罵声を吐き続けながら、周囲にある様々な物に苛立ちをぶつけている。 
 腕を振って机の上に積まれたプリントを散らしたかと思うと、側にある棚を思い切り蹴り付けて凹みを作った。
 ある程度整頓されていた職員室も、今では嵐が通ったかの様な有様だ。
 癇癪を起こした子供の様に暴れる慎二の姿は、余りに醜く無様である。
 これが、普段は色男の顔をして多くの女性に囲まれている彼の、本質の姿であった。
「なんで、なんで、僕がこんな目に!」
 しかし行動はともかく、慎二がパニック起こすのも止むを得ない事ではあった。
 ほんの短い間に起こった様々な出来事を受け止める程には、彼の精神は強くなかったのだ。

 あの膨大な閃光は、今でも脳裏に焼き付いている。
 高層ビルの屋上から天へ伸びた力の奔流は、慎二が従えていたサーヴァントを一瞬で滅ぼしたのだ。
 その凄まじい光景は、慎二に恐慌を起こさせるに充分だった。 士郎に見つかり、必死で非常階段を駆け下りる。
 有り得なかった。 悔しかった。 そして恐ろしかった。 少しでも足を止めれば、後ろからあの光に焼き尽くされると思った。
 転がるようにして階段を降り切ると、今度は目の前に巨大な影が現れた。 その時点で意識が途絶え──

 気が付けば、大勢の人間に囲まれていた。 ロージェノムが姿を現したのはすぐ後のことである。
 聖杯戦争の最中であるというのに、全く別の殺し合いに放り込まれてしまった。
 しかもその中には、今や慎二にとって最も恐ろしい存在となった衛宮士郎もいるのだ。
「畜生、どうしろって言うんだよ……!」
 士郎と戦うということは、あの反則じみたサーヴァント、セイバーをも相手にするということだ。
 人間がアレに勝つ方法など、何一つ思い浮かびはしない。
 さらに士郎以外にも、それこそ宝具に匹敵する閃光を放った、あの鎧の男の様な存在がいるかも知れない。
 これから始まる戦いは、もはや人間の力を超越したレベルで行われることだろう。
 そんな中で、何の力も持たぬ"一般人"でしかない慎二が、どうやって生き延びろというのか。
 他者と戦うことすら出来ず、一方的に踏み潰されるだけではないのか。
「なっ…… 違う、僕は……!」
 もはや思考さえ纏まらなくなった。 何の力も持たぬという一瞬前の考えを、首を振って打ち消す。
 間桐慎二は力を持っているのだ。 間桐ならば力を持っていて当然なのだ。 ところが当然あるべきその力が、慎二にはない。
 力が必要なのだ。 間桐慎二が間桐慎二である為に。
「……そうだ、バッグを」
 そこで初めて、自分の隣に置いてあったデイバッグを意識した。 中を改めれば、生き延びる為に有用な何かが見つかるかも知れない。
 それは慎二が恐慌の果てにようやく取った、生存へ向けた前向きな行動だった。
 サーヴァント相手でも通じる武器があれば……などと考えながら、ファスナーを開けて手を突っ込む。
 地図、名簿、ペン、メモ帳、缶詰、水── 色々と出てくるが、どれもいま慎二が欲しいと思う物ではないので、個々の物品をいちいち確認はしない。
 さらにバッグを漁ると、何か尖った物が手に当たった。
「痛っ! 何だ……!?」
 もしかすると武器かも知れない。 今度は用心してその硬質な物体に触り、ゆっくりとバッグから取り出してみる。
 しかし期待と異なり、それは慎二の力となる様な物ではなかった。
「なんだこりゃ。 水晶……?」
 それはまさしく水晶だった。 加工された物であろう、やたらと棘棘しく、形状は綺麗に左右対称で、紅い光をその内に留めている。
 観賞用だろうか? 何にせよ、大して役に立つ物とも思えなかった。
 仮に魔力などが籠められたアイテムだったとしても、慎二は魔力を感じ取ることが出来ないので、判断は不可能だ。
「ったく、もっと良い物入れとけよ……! 他には無いのかよ」
 無用の長物として放り捨てられた水晶は、乾いた音をたてて床の上を滑ってゆく。 それを見もせず、慎二はさらにバッグの奥を探った。
 その腕がまた何かに触れる。 今度は先程の水晶よりも遥かに大きな物体だ。
 今度こそは当たりかと、期待を滲ませながらその何かを引き摺り出してみるが……
 突然、"それ"が重くなった。
「うわっ!?」
 "それ"はゴトンと音をたてて床に落ちた。
 咄嗟に手を離せたのは奇跡的な事で、一瞬でも遅れていれば指を潰されていただろう。
 慎二は鼓動を早めながら、バッグからはみ出した"それ"をまじまじと見詰めた。 
 まだ部分的にしか露出していないが、"それ"は明らかにバッグの容量を越える大きさを持っていた。
 見える部分だけなら、太い直方体の様な感じだ。
 表面は完全に白い布で覆われ、さらにその上から黒いベルトを巻き付けてある。
「何だこりゃ……?」
 至極当然の疑問だった。 どうやってバッグに入っていたのかも気になるが、やはりそれよりもこの物体の正体が知りたい。
 答えを得るべく、慎二はさらに"それ"を引き摺り出そうとするが、持ち上げようとしても結構な重さがある。
 面倒なので、バッグの方を持って剥がすようにしていった。
 程無く、"それ"は全容を現した。
 "それ"は余りに特徴的かつ印象的な形状をしていて、慎二の目は強く引き付けられた。
 この時、バッグの中から一枚の紙が床に落ちたが、それには気付かなかった。
「十字架……?」
 慎二が呆然と呟いた、その通りだった。
 それは白い布と黒いベルトで包み込まれた巨大な十字架だった。 全長は慎二の背丈を裕に越え、重量もそれ相応になる筈だ。
 慎二はその威容を暫く眺めていたが、やがて、忌々しげに顔を歪める。
 脳裏に浮かんだのは、自らが磔になる為の巨大な十字架を背負って歩く聖者の姿だった。
「なんだよ、懺悔でもしろってのかよ。 ふざけやがって……!」
 懺悔する事など何もない。 神の救いを乞うている訳ではない。 慎二は横たわる十字架を思い切り蹴り付けたが、爪先が痛くなるだけだった。
 他に役立つ物はないかとさらにバッグを覗き込むが、もう何も入っていなかった。 慎二の支給品は、紅い水晶と、巨大な十字架だけだった。

「糞ッ! どうしろってんだ、武器も無しに生き残れってのか……!」
 空のバッグを床に叩き付けて、慎二はまた喚いた。
 何もかもが上手くいかない。 自分がこんな目に遭う理由が解からない。 理不尽だ。
 激情のままに荒い息を吐いていた慎二だったが、やがてそれも治まる頃には、気の抜けた様な顔になっていた。
 もう独りで怒る事にも疲れていた。
 散らかされた床に座り込み、そのまま仰向けに寝転がる。 ぼんやりと天井の照明を眺めた。
 もう考えるのも億劫だったが、それでも死ぬのは嫌だった。
 聖杯戦争に勝って叶えるつもりだった幼い頃からの悲願、それを果たすまでは絶対に死にたくない。
 では生き延びる為にはどうすればいいのか、それが判らない。
 人外の域に達した者達の足元を潜り抜け、しぶとく生き抜いていくには何が必要なのか。
 武器が欲しかった。 しかし無い。 あるのは紅い水晶と巨大な十字架だけ。
 防具が欲しかった。 しかし無い。 食料の缶詰が盾になって致命傷を防ぐなど、映画でも有り得ない展開だ。
 戦力が欲しかった。 しかし無い。 自分に武器はいらないから、せめてライダーの様に思い通りに動かせる誰かがいれば……

「────!!」
 がばと跳ね起きる。
 それは、まさに天啓の如き思い付きだった。
(そうだ…… 人を使えばいいんじゃないか!)
 今の間桐慎二には戦う力は無い、それは悔しいが認めよう。 しかしそれは戦う術が無いという事とイコールではない。
 では、誰を使うのか。 この殺し合いに参加する数十人の中で、慎二が最も操り易い人物とは。

 それは、衛宮士郎に他ならない。

(あいつだ、あの馬鹿なら盾にできる!)
 ライダーを倒された直後であるから殊更に恐れていたが、考えてみれば、この戦いは聖杯戦争とは全く別のものなのだ。
 ならば、敢えて士郎と敵対関係を続ける意味など無い。
 そして、士郎が馬鹿でドが付く程お人好しな性格であることは、今更言うまでも無いことだ。
 大方、この殺し合いを止めようと今も無駄な努力をしているのだろう。
 そこに取り入れば良い。 こちらに敵意が無いことを示せば、まさかあの士郎が問答無用で襲い掛かりはしないだろう。
 セイバーの方が気がかりだが、幾らなんでもサーヴァントを失い完全無防備な相手を殺そうとする事は…… 多分、無い。

 そうして協力の姿勢を見せ、士郎の信頼を得て行動を共にする。 そうすればセイバーに守られているのと同じ事だ。
 あの宝具があれば大抵の敵は返り討ちに出来よう。 
 やがて用が済めば、愚かにも油断している士郎を後ろから殺してしまえばいい。 マスターを失ったセイバーは、時間がたてば消滅する筈だ。
(ハハ、そうだ、それだよ衛宮! 僕がわざわざ苦労する必要は無い、むしろライダーを消しやがったお前には僕を守る義務があるんだ!)

『やあ衛宮、久しぶりだね。 突然だがお前とは一時休戦することにしたよ。 力を合わせてこの難局を乗り越えよう!』
『おお、さすが慎二だ! そういう風に言ってくれると信じてたぞ! 持つべきものは友達だな! 抱いて!』
『お待ち下さいシロウ! その者はライダーのマスターであって聖杯戦争における敵同士! 馴れ合うべきではありません!』
『そう言うなよセイバー! 慎二は信頼できる漢だぞ!』
『そうさセイバー、僕の目を見るんだ。 この目のどこに疚しい心が見える?』
『おお、なんという澄み切った瞳だ! 貴方のような方が嘘偽りを申す筈が無い! いや、むしろ貴方が私のマスターだ! 抱いて!』

 脳内シミュレートは完璧だった。
「よし待ってろよ衛宮、すぐ行くからな──!」
 長い煩悶の果てに、ようやく見つけた希望である。 目標が定まれば行動は迅速にすべきだ。
 先程散らかした支給品をさっさとデイバッグに積める。
 水晶をどうするかと迷ったが、持ち帰って女にプレゼントする程度の価値はあると思い、やはりバッグに入れた。
 そして照明も消さぬまま職員室を飛び出し、校舎の入り口まで一直線に走る。
 自転車でも置いてないかと考えながら、靴箱の列を抜けて──

 目の前に、闇が広がった。

「…………」
 別に、完全なる闇という訳ではない。
 無人の街でありながら街頭などはそこら中で灯っているし、学校を出て移動する上では何の問題も無いだろう。
 それでも慎二は、多くの殺人者がうろついている闇夜の中に、一人で歩み出す勇気を持たなかった。
「……やっぱり、あいつの方から僕を探すのが筋ってもんだよな」
 わざわざ声を出して自分を納得させると、くるりと踵を返して職員室に戻った。


【H-2 学校内 一日目 深夜】
【間桐慎二@Fate/stay night】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイバッグ/支給品一式(食料:缶詰)/テッカマンエビルのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード
[思考]
1:とりあえず学校に居座る
2:衛宮、早く来ないかな
3:死にたくない、絶対生き延びる
[備考]:
※参戦時期はアニメ12話直後、バーサーカーと遭遇した瞬間。
※名簿も地図も確認していません。
※士郎と一緒にセイバーがいると思っています。
※クリスタルをただの観賞用の水晶だと思っています。
※十字架が武器であることに気付いていません。

[パニッシャー@トライガン]
 十字架の形をした「最強にして最高の個人兵装」。 ウルフウッドが使用していた。
 縦棒の長い方が12ミリの重機関銃、反対側の短い方がロケットランチャーとなっている。
 中央部にはドクロを思わせる形のグリップがあり、機銃とランチャーを切り替えて操作する。
 普段は白い布に包まれ、さらにその上から取っ手を兼ねた黒いベルトを幾重にも巻き付けている。

※パニッシャーは職員室に放置。
※職員室の散らかされた床にパニッシャーの説明書が落ちています。


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間桐慎二 051:王の視察





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