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宿命の対決!グレン V.S ラガン(前編) - (2023/07/01 (土) 13:26:45) のソース
**宿命の対決!グレン V.S ラガン(前編) ◆RwRVJyFBpg 破壊された街の上に、青い空が広がっていた。 藍色の屋根が真ん中から崩れ落ち、叩き潰されたようになっている一軒屋。 足元の柱が倒壊し、膝をつく巨人のように傾いた貸しビル。 コンクリートで舗装された道路はところどころ捲れ、生の地面が晒されている。 帯状に焼け焦げて炭の塊と化した商店街は、そこで大きな火事があったことを示している。 今を遡ること約二十四時間、一対のソル・テッカマンが演出した崩落のステージは 現在も何ら変わることなく、静かにその破壊の跡を留めていた。 役者達が去り、役目を終えていたその舞台に、異形を成す影が二つ。 巨大な顔を模したかのような小さな何かと大きな何かが佇んでいる。 ところどころに罅が入り、穴だらけになった道路のど真ん中。 小さな赤と大きな赤が向かい合うように立っている。 それぞれの後ろには西から伸びた小さな足跡と東から伸びた大きな足跡。 棄てられたステージの中心で、彼らの道は今、交わった。 ――これは、運命に裏切られながらも、自分の道を探し続ける男と女の物語。 ◆ 金属でできた強面の顔に手足をつけ、頭部一面に奇妙な紋様を戴いた小型のロボット。 ラガン。 見慣れたそれがこの場所にあることは、あのクソジジイに教えられて知っていた。 だが、まさかこんなタイミングで出会うことになるとは。 “ショウボウショの北にラガンがある”というジジイの言葉を思い出す。 ガッシュを追って北に行くため、戻ったここは多分、C-6。 なるほど、確かに位置としてはそんなにずれているわけじゃない。 驚きと困惑、そして何より期待。 カミナが正面から歩を進めてくるそれを見たときに抱いた感情は一口に言い尽くせない複雑なものだった。 教えられた事実と違い、今のラガンは明らかに稼動している。 つまりそれは何者かが乗り込んで、ラガンを動かしているということである。 ラガンはカミナが乗っているグレンのような普通のガンメンとは少し違う。 気合さえあれば起動する通常のガンメンとは違い、ラガンを動かすためにはある起動キーが必要だ。 コアドリル。 カミナ自慢の弟分が肌身離さず身につけていた宝物。 だとすれば…… (お前なのか?シモン?) 静かな興奮は否が応でも高まる。 放送で呼ばれた人間が生きていたことはカミナの知る限り一度もない。 放送で螺旋王が嘘を流す理由も見つからない。 仮に螺旋王の目を出し抜いて生き残っていたのだとしてもその方法は分からない。 シモンを殺した誰かがコアドリルを奪っていれば、あるいは、シモンが誰かにコアドリルを託していれば ラガンは動く。何の問題もなく。 だが、だが、それでも…… 「……あれがカミナの言っていたラガンですか。特徴は一致しますが。 どうします?接触を図りますか?もしかしたらガッシュのことを何か……」 「………………」 クロミラが何か言っているが、今は耳に入らない。 操縦桿をぎゅっと握り締めながら、通信回線を開く決意を固める。 腕がわずかに震え、汗がシートにぽたりと垂れた。 「……シモンか?」 半ば祈るような気持ちで呼びかける。 短い電子音が鳴り、側面の壁にウインドウが開いた気配を感じる。 そこに映っているであろう、懐かしい男の顔を見ようとしてカミナはちらと視線を向ける。 しかし…… 「なるほど。貴様だったか、ハダカザル」 そこにあったのは弟分の笑顔などではなく、憎き宿敵の姿。 瞳が無意識に拡大する。 ◆ 「ヴィラル……」 忌々しげに歯を食いしばり、こちらを睨みつけるカミナを前にして、ヴィラルは自らの心が躍るのを感じていた。 雄雄しいビャコウの姿に勇気をもらい、決意を新たにした矢先に出会った次なるガンメン。 そいつはまるで待ち構えていたかのように、自分達の進もうとしている道の上をやってきた。 やりすごし、ルルーシュとの合流を優先することを考えぬわけではなかった。 しかし、決めかねていた矢先に入ってきた通信で相手の正体が明らかになった瞬間、 ヴィラルの中から逃げるという選択肢は消え去った。 彼の戦士としての部分がその選択を殺したのだ。 考えてみて欲しい。 道の向こうから惹かれあうようにやってきたガンメン。 それに乗り込むは、かつて再戦を約束した人間の兵、カミナ。 空は晴れ渡り、崩れた街は静寂を保っている。 この戦場に二体の戦士を邪魔する輩は一人とていない。 まるで天がヴィラルの不退転を試すために作り上げたかのような状況ではないか。 ここで背を向けることを選んで、何の決意、何の勇気か。 (おもしろい……) 不意に獰猛な笑みが浮かぶ。 思えば、ここに来てから随分不本意な戦いを重ねてきた。 クルクルという名の白服の男に負け、伸びる槍を持った蛇女に負け。 シャマルと一緒になってからもそうだ。 裏切り者の女を逃がし、東方不敗を名乗る老人には体よく手玉に取られた。 傷の男との戦いはルルーシュが出てこなければ、地震の前に負けていただろう。 先ほどの珍妙な仮装男に受けた屈辱など、わざわざ思い出すまでもない。 (ここまでくれば、最早認めざるを得まい。 俺は、弱い) 力が足りない。技が足りない。知恵も、経験さえも足りない。 運さえもどうやら味方ではないようだ。 先ほどシャマルが作った有利は第三者の介入によりいとも簡単に吹き飛んだ。 撤退し、頼れる策士と合流しようとすれば、その途上には敵がいた。 しかもその敵は油断のならない強敵で、こちらより巨大なガンメンに乗っているというおまけつきだ。 泣きたくなるような不運としか言いようがない。 (だが、それがどうしたッ!?) しかし、ヴィラルは諦めない。 それしきのことで自らの心を折ったりしない。 今は亡き上司、チミルフの魂に誓ったから。 胸の誇りに懸けて、最後まで戦い抜くことを。 (運命が試練を課すなら、俺は笑って戦うだけだ! たとえ何度敗れようとも、食らいつき、生き残り、最後には勝利の栄光をこの手にしてやる!) ゆえに彼は叫ぶ。 満面に牙をむき出し、宿命を威嚇するように。 「久しぶりだな。よくぞここまで生き残った。さすがは俺の認めた男だ」 不敵な文句が癇に障ったか。 モニター越しのカミナはより一層、不機嫌な顔になり歯と歯をギリリと鳴らす。 「何でテメエが……テメエみたいな奴がそれに乗ってやがる!?」 「ククク。変なことを訊くヤツだ。 もともとガンメンは我ら獣人の乗り物。俺が使っていたからといって不思議なことはあるまい? むしろ、そのセリフは俺が貴様につき返してやりたいくらいだよ、ニンゲン」 「うるせぇ!! グレンは元のところにいたころから、俺のダチで魂だ! いちいち文句をつけられる筋合いはこっちこそねえ!! そしてぇっ!テメエが乗ってるそのラガン! ……そいつは俺の相棒の、かけがえのねぇダチで魂だ。 テメエみたいなくされ獣人野郎が気軽に乗り回していい代物じゃねんだよ!! 今すぐこっちに返しゃあがれ!!」 「やれやれ、ニンゲンとはやはり愚劣で野蛮な生き物だな。 こちらのモノを指差していきなり寄こせとは……」 「……あんだとぉ!?」 「落ち着いてくださいカミナ。熱くなりすぎです」 「おめぇは黙ってろ!!こいつは俺とヴィラルの問題だ!!」 激昂するカミナをみて、より一層血が滾るのが分かる。 操縦桿を握る手が震えるのが分かる。 どうやら、相手も闘志は申し分ないようだ。 カミナのほかにも誰か乗っているようだが、ガンメン同士の戦闘ならば、さして問題にはなるまい。 「シャマル、ここは……」 「……分かってるわ。ここで見つかってしまった以上、やりすごすのは無理でしょうからね」 小さな声で了解をとると、シャマルの緊張した声が返ってきた。 どうやら異論はないらしい。 「とにかく!ラガンはここに置いてってもらうぜ! 嫌だってんなら、力ずくで引きずり出してやる!」 同乗者との言い合いにケリがついたのか、カミナが再び吠え掛かる。 ならば、こちらの答えはただ一つ。 「おもしろい!できるものならやってもらおうか! 生身の戦闘ならともかく、ガンメン同士の戦いで俺に勝てると思うなよ!?」 「ヘッ、そんなこと言って、この前もやられて逃げ出したのはどこのどいつだ?アァン?」 「抜かせ!昨日の決着をつけてやる!」 「きやがれ!獣人野郎!」 静寂は破られ、機械の軋みとエンジンの唸りが舞台を塗り替える。 戦いのゴングは今、鳴らされた。 ◆ 「おおおおりゃああああああああああああ!!!!!!!!」 最初に仕掛けたのはカミナ。 気合一閃、グレンの巨大な足が振り下ろされる。 フットスタンプ。 斧のように重く、鞭のようにしなやかな右足がラガンを襲う。 「甘い!!」 対するヴィラルは動じない。 冷静に軸をずらして直撃を避けると、着地の衝撃を利用してわずかに跳躍。 一瞬遅れた蹴撃は目標を見失い、虚しくコンクリートを砕く。 響く轟音に怯む間もなく、ラガンはグレンの足に取り付くと、そのまま上に昇る、昇る。 「食らえ!」 装甲を掴む腕に力を込め、上向きのベクトルを生成。 勢いをつけるとそのまま体を縮め、グレンの胸に向かってその身をぶつける! 体当たり。この小さなラガンが最も大きな打撃力を発揮できる技。 金属と金属がぶつかる鈍い音が起こり、グレンの足がわずかにふらつく。 衝撃と揺れにカミナの口からは無意識の呻き。 「てめえ!やりゃあがったな!!」 しかし、カミナの復帰も早い。 すぐさま体勢を立て直すと、未だタックルの余勢で宙に浮いているラガンを両腕でガッチリキャッチ。 すかさず右手に持ち替えると、まるで野球選手がそうするように振りかぶり、思い切り投げつけた! きりもみ回転しながら飛んでいくラガンは電柱をへし折り、無事だった民家を半壊させてやっと停止した。 「きゃあっ!!」 「ぐうううううううう……おのれぇ!!」 今度呻きをあげるのはヴィラルたちの方だ。 あまりの震動に頭の中がグラグラ揺れる。 だが、のんびりしてはいられない。 「おとなしく観念してラガンから降りやがれ斬りぃ~~~~~~~!!!!!」 いつの間にか胸のサングラス型ブレードを装備したグレンがすぐ傍に立っている。 右腕でブレードを振り上げ、次の瞬間斬りかかるために。 「ッ!!」 ほとんど反射的に操縦桿を引く。 続けて地面が割れる重い音。 ヴィラルの直感が勝ったのだろう、ラガンは間一髪で身を捩り、かわしていた。 機体から数十センチ。カミナの一閃は代わりに民家の客間を引き裂いた。 だが、追撃はまだまだ終わらない。 すぐにブレードを引き抜くと、グレンは二撃目のモーションへと移る。 繰り出される斬撃、斬撃、斬撃の雨。 体勢が崩れたままのラガンは転がって避け続けることしかできない。 「カ、カミナ。よろしいのですか?あのラガンは大切なものなのでしょう? それをこんなに乱暴な……」 「うるせぇ!!シモンのラガンはなあ!そんな簡単に壊れたりしねえんだ!! ヴィラルと勝負して、ぶちのめして、取り返すのはそれからでもできらぁ!! それに、男が一度すると決めた喧嘩だ!手加減なんぞできるかよ!!」 「そんな無茶苦茶な!!」 グレンの一歩、グレンの一撃が繰り出されるたび、土埃が舞い、街はさらなる破壊に沈む。 ブロック塀が崩れ、屋根が割れ、道路は大きく陥没する。 飛び散る瓦礫が視界を奪う中、ラガンは転がり、耐えることしかできない。 頼りは長年の経験に基づいた着弾予想と、研ぎ澄まされた直感のみ!! 「どうしたぁ!?逃げてばかりじゃ勝負にならないぜヴィラル!!」 「クッ、調子に乗るなよニンゲン!!」 カミナの挑発に、ヴィラルの獣の血が叫ぶ。 「うあああああああああああああああああ!!!!」 「何ィ!?」 次の刹那、咆哮とともにヴィラルはカミナの裏を衝く。 刃を振り、ヴィラルを逃がすまいと動いていたカミナの思惑を裏切り ラガンは突如、地を蹴って、グレンの懐に飛び込んだのだ! 「これは……まずいです!」 「くっ、野郎!」 一転し、焦るはカミナ。 武器にはそれが十分に威力を発揮できるリーチというものがある。 剣であろうが槍であろうが、敵がそのリーチを外れてしまえば、武器はその要を成さない。 グレンが振るっているサングラス型のブレードは足元の敵を払うようにはデザインされていない。 そして、さらに悪いことにはカミナはラガンの逃走ルートを絶つため、気持ち遠目を狙って剣を降っている。 つまり、グレンの足元は今のカミナにとって、完全な、死角。 「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!!」 攻め手を殺したヴィラルは刹那、前方に向けてさらなるダッシュ。 グレンの股座を潜り抜け、カミナの背後に回り込む。 慌てるグレンは剣を置き、即座に急速旋回を…… 「遅いッ!!」 しかし、先んじたのは、やはりヴィラル。 バーニアを一気にトップまで噴かすと一気に加速。グレンの背に強烈な一撃を加えた。 先ほどの体当たりのときとは比べものにならぬほどの強い衝撃がカミナを打つ。 金属が悲鳴をあげる。弾丸と化したラガンが装甲をひしゃげ、凹ませていく。 これだけの打撃を食らっては、流石のグレンも堪らない。 急速旋回の機動に入っていたことも悪しきに働き、バランスを大きく崩すと、そのまま前へ倒れこんだ。 腹に響く重低音と舞い上がった埃が場を満たし、一瞬だけ他の音が消える。 「もらったぞ!」 百戦錬磨の獣人はこの隙を見逃さない。 倒れた電柱を足場に助走をとり、エンジンを一気呵成に回して天高く舞い上がる。 機体の影と太陽が重なった刹那、緑の閃光がわずかに瞬いたかと思うと、ラガンのボディが姿を変える。 脚部が消え、代わりに顕れたのは天をも穿つ巨大なドリル。 「死ぃねええええええええええええええええ!!!!!!」 ヴィラルが気勢を発すると同時、唸りをあげてドリルが回る。 火花を散らし、空気を抉り、降下の運動エネルギーを乗せて、ラガンはグレンに落ちていく。 触れる全てを貫き壊すドリルの先が目指すのは、カミナの乗り込むコクピット! 未だ動かぬグレンを眼下に収め、ヴィラルの口に微笑が浮かぶ。 「なぁめんじゃねえええええええええええええ!!!!!」 だが、ヴィラルは知らない。 人類で二番目にガンメンを繰った男が愛機と命懸けで綴ってきた戦いの歴史を知らない。 だから、彼にはグレンの次の機動が予測できなかった。 「何ッ!?」 勝利を確信した次の瞬間、ラガンに被さる大きな影。 驚愕とともに目を見開いた時には時既に遅し。 グレンの右足が間近にまで迫っていた。 カミナは強襲を悟るやいなや、グレンを素早く逆立ちさせて体を捻り、 その勢いを利用してのオーバーヘッドキックで思い切り蹴りつけたのだ。 完全に隙を突かれた形となったラガンは、さながらサッカーボールのように吹っ飛び、回転しながら瓦礫の山へと突き刺さる。 「今のは少し危なかった……とりあえずナイスシュートです、カミナ。」 「おう!よく分からねえが、あたぼうよ!!」 回避即攻撃の妙手。 だが、それは何もカミナがあの状況で頭をめぐらせ、最善手を模索した結果生まれた一撃ではなかった。 この攻撃を生んだのは言うなれば反射。 地上に出てきてから向こう、照る日も曇る日もグレンを駆り続けてきたカミナの戦いの歴史があれを可能にしたのだ。 移動するときも、休息をとるときも、もちろん戦いに赴くときも、彼はグレンと多くの時間を過ごしてきた。 その時間は機体の機動やクセ、限界を本人も知らぬうち、体に叩き込んでいる。 そして、人機一体とまではいかずとも、そのことはより正確で大胆な操縦を可能にする。 カミナにとってグレンは手に馴染んだ武器であり、一番近くで戦ってきた戦友なのである。 ゆえに、その愛機で戦えるアドバンテージは大きい。 ましてや、相手であるヴィラルが乗り慣れない小型ガンメンでの戦いを強いられている以上、余計に。 だが。 「さぁて、いっちょ決まったところでラガンを返して……ん?」 カミナが思わず怪訝な声をあげる。 それもそのはず。 不意をついた一撃に気をよくするのも早々に、ラガンを取り返そうと目を向けた先。 ついさっき激突の粉塵を上げたばかりの瓦礫から、ラガンの姿が忽然と消えていたのだ。 「クソッ、まさか逃げやがったのかあのヤロ……」 「カミナッ!後ろに跳んでください!」 「なにっ?」 悪態も吐き終わらぬ刹那、コクピットにクロスミラージュの電子音声が鋭く響く。 突然の緊迫にカミナの意識が一瞬だけ遅れる。 しかし、真剣勝負の場ではその一瞬が命取り。 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!??」 次の瞬間、グレンのボディに突き上げるような激しい振動が襲う。 何かが装甲を無惨に削る音がする。 グレンの片目が巻き込まれ、顔に大きな傷が刻まれる。 揺れるコクピットの中、突如足元から何かが放たれたのだと理解したのと、襲来した物体を看取したのとはほぼ同時。 「とっさに体を捻り、直撃を避けたか。 つくづく小賢しいハダカザルだ」 奇襲の失敗を悟り、ヴィラルが空中で毒づく。 ふと視線を眼下に落とせば、地上にはちょうどラガンの体が通る大きさのトンネル。 グレンに蹴られ、住居の残骸に叩きつけられたヴィラルは強烈なGに意識を刈り取られそうになりながらも 溢れる闘争心で正気を保ち、すぐに次なる攻め手へと行動していたのだ。 衝突の際の土煙でカミナの視界が不十分であることを見るやいなや、変形させたままになっていたドリルを再稼動。 土に潜って姿を隠すと、そのまま地下を移動し、グレンの足元から奇襲へと持っていった。 ヴィラルは人間掃討軍の極東方面部隊長である。 ガンメンの操縦に卓越し、戦士として数多の経験を積んだ歴戦の勇者だからこそ、彼はその地位についた。 そして、地道に積み上げられてきたその時間は、わけのわからぬ異世界に飛ばされ 苦しい戦いを強いられている今でさえ、決して消えることはない。 ドリルを使っての土中移動と小回りのきく体躯を生かしたトリッキーな戦い。 ラガン特有の持ち味を、ごく僅かの戦闘である程度理解することができるのも、 そうやって培ったセンスがあればこその所業。 確かにカミナのように長年連れ添った愛機で戦っているわけではないが、 戦いそのものの歴史だけで考えればヴィラルには一日の長があるのである。 「この野郎!シモンの技を!」 「さっきからシモン、シモンとうるさい奴だ。そんなことより戦いに集中するんだな」 カミナが不安定な体勢のまま放った拳をひらりとかわし、ヴィラルはグレンと距離をとる。 再び向かい合う赤と赤。 戦場は緊張を保ったまま、静寂へと帰ってきた。 ◆ (ほぼ互角……ですか) 声に出さず、クロスミラージュは状況を分析する。 これまでの攻防は一進一退。 どちらかが攻め込めばもう片方がそれをうまくいなし、反撃に繋げていく。 お互い、隙あらばと決定打を狙うものの、クリーンヒットは奪えない。 ゆえに、戦いの天秤がどちらかに大きく傾くことはない。 そんな流れで戦闘は推移している。 機体の扱いという意味ではカミナが一歩リードしているものの、 相手は天性のカンと経験でその差を十分にカバーしている。 パワーとリーチでは機体の大きさもあって、おそらくグレンの方が一枚上手。 しかし、代わりにスピードと一瞬の爆発力はラガンのほうに分があるだろう。 カミナもヴィラルも相手に対して因縁めいた感情を抱いているようだが、 戦闘に別段大きな精神的影響が出るような類のものでもなさそうだ。 そして、これまでの戦いを見る限り、お互い戦況を大きく左右できるような支給品は持っていないか、 もしくは使う気のないものと予想できる。 ゆえに結論は、互角。 (戦闘能力がほぼ対等で、コンディションにも別段の差異がないとするならば、 勝負を決めるのは一瞬の油断、あるいは常のパフォーマンスを維持し続ける体力と見るのが妥当でしょうか。 しかし、もしも私の予想が当たっていたとしたら……) 些細なミスが生死を分ける持久戦を予測する一方、 クロスミラージュのコンピュータはもう一つの可能性、カミナにとってはより悪い未来予測を捨てきれずにいた。 その大元になっているのは、この戦いが始まって以降、彼がずっと抱いているある疑惑。 ラガンのコクピット内にずっと観測され続けている、ヴィラルではない誰かの魔力反応。 クロスミラージュは考える。 カミナの話によれば、ヴィラルは螺旋王の部下でこの殺し合いの完全なる賛同者。 だとすれば、そんな男に殺されることなく同行している可能性がある人種は二種類に限定される。 まずは人質。 人命を重視する人間、もしくは人質と近しい人間との戦いにおいて、このカードは非常に高い効力を発揮する。 相手の攻撃の手を鈍らせることはまず確実だし、うまくすればこちらは損害を被ることなく相手を無効化できる。 また、仮に相手が開き直って人質を見捨てることに決めた場合でも、相応の精神的ダメージを与えられる公算が高い。 (ですが、今回の場合、その確率はあまり高くないでしょうね。 もし一緒に乗っているのが人質だったとするならば、 ヴィラルは私たちにその存在を既に仄めかしていなければおかしい。 いることが明らかにされない人質などただの荷物でしかありませんからね。 特定の誰かに向けた人質というのも考えられなくはないですが、それでも、とりあえず存在は告げてみるでしょう。 知り合いでなくとも、カミナのようなタイプなら有効な揺さぶりになるのは明白ですし。 ……とすると、やはり確率が高いのはもう一方のパターンですか) 考えられるもう一つの人種として挙げられるのは、仲間。 これが最後の一人しか生き残ることのできない殺し合いで、ヴィラルがその積極的な支持者だからといって、 彼が一人でいるとは限らない。 強力な参加者を倒すため手を組んだ、彼の他にも紛れていた螺旋王の部下と合流した、善良な参加者を騙している等、 ヴィラルが仲間を作るに至るケースはいくらでも想定することができる。 (しかし、仲間がいたからといって、それが直接、今の戦況に影響する可能性は少ないはず。 これは人型機動兵器同士の戦闘です。 生半可な人間が割り込んだところで、戦局に影響を与えるどころか無駄に命を散らすのがオチでしょう。 ……もっとも、あの東方不敗クラスの人間なら分かりませんが。 ですが、これだけ戦力が拮抗しているにもかかわらず一向に出てくる様子がないところを見ると、 そういう人間が乗っているというわけでもないのでしょう。 とすれば、謎のもう一人をこの場の不安要素として大きく勘案する必要はなく、 やはり現状は互角の状態と見るのが妥当のはず! ……そう、ただ一つの例外ケースを除いては) クロスミラージュの想定する例外ケース、それは相手が魔術師、もしくはそれに準ずる能力の持ち主であるという可能性。 もし、ヴィラルの同乗者が魔術師であるならば、ロボットから降りずとも戦況に影響を与え得る。 索敵、補助、そして攻撃。視界さえ通れば魔術師にできることは多い。 そして、不幸なことにクロスミラージュは今、ヴィラルの横に存在しうる魔術師を一人知っていた。 ちょうど、彼が観測した程度の魔力反応を持ち ヴィラルと同じく殺し合いに賛同し このような戦いの際にはまず様子を見、相手の戦力を見極めてから戦いを挑むような性向を持つ。 そんな魔術師を。 (まさか。 しかし、カミナの言葉を信じるならば…… いや、ですが、それではあまりにタイミングが悪すぎる。 でも、どうして?) 混乱する。 不安定な人間を、機械的、論理的な演算でサポートするため作られた、インテリジェントデバイスが混乱する。 戦闘の合間、ヴィラルのものに混じって聞こえる女の声。 相手の通信窓からほの見える金髪、茶色い制服。 本当は分かっていたのかもしれない。 本当は分かっていたけれど、人間に近づいてしまったデバイスは認めたくなかっただけなのかもしれない。 しかし、いくら目を瞑っても現実はいつだって一方的に押し寄せてくる。 人間だろうが機械だろうが、その事実は平等だ。 「……なるほど、おおよその動きはわかったわ。カミナさん……だったかしら?」 僅かな間続いたカミナとヴィラルの睨み合い。 その沈黙を破るように響いた声は、クロスミラージュにとってそういった類の現実だった。 「……テメエは」 「ヴィラルさんと対等に戦えるくらいの腕はあるみたいね。 一対一なら勝負は分からないけど……一対二ならどうかしら!」 ギリとカミナが歯を噛み締めて身構える。 彼にはもう敵の正体が分かっている。 相対するラガンはピクリとも動かない。 ならば攻撃は一体どこから…… 「カミナッ!下ですッ!!」 「ちっ!」 緊張に身を張っていたカミナが即座にレバーを引く。 グレンが飛び退いた刹那、グレンが立っていたそこを、大地から生えた無数の刃が貫いた。 民家の庭だった草むらを引き裂いて出でし、輝く白刃の名は、鋼の軛(くびき)。 古代ベルカ式の範囲魔法。 「……やはりあなたでしたか。ミスシャマル」 いつのまにかラガンを中心に浮かんだ正三角形の魔方陣を視覚素子で確認しながら クロスミラージュは問いかける。 「久しぶり、クロスミラージュ。 ティアナは死んだのに、貴方はまだ壊れてなかったのね」 返ってきた声はなおも冷たい。 ◆ 轟音のあとに激しい水柱が続く。 土手の上から吹き飛ばされてきた赤い巨体は受身を取ることも許されず、一直線に川面へと突っ込んだ。 跳ね上げた水が一瞬の雨となり、川沿いの砂利へと降り注ぐ。 「ち、っくしょう……」 水煙が収まるのを待つこともせず、カミナは機体の体勢を立て直す。 立ち上がり、次なる攻撃へ備えるべく構えをとる。 しかし、その姿勢は戦いが始まった当初に比べればどこか弱弱しく、焦りの色が濃い。 立ち振る舞いからはカミナらしい大胆さや気楽さが消えうせ、代わりに重苦しい緊張感ばかりが宿っている。 目からは闘争心こそ消えてはいないものの、呼気は荒く、額には脂汗が光っている。 疲弊しているのは操縦者のカミナばかりではない。 右肩と右目、頭頂部にドリルでつけられた削岩痕。脚部パーツには何かで切り裂かれたような無数の切り傷。 凹みや磨耗跡などは多すぎて数える気にもならない。 グレンもまた見る影がないほど傷つき、消耗していた。 「どうした?もう終わりか?」 頭上から不敵な声が飛ぶ。 見上げれば、橋の欄干に立ち、腕組みしているラガンの姿。 ところどころ傷つき、汚れているものの、その装甲に大きな損傷はない。 小さいながらも自信に溢れたその威容はグレンとは対照的な強靭さを思わせる。 「バカ言ってんじゃ……ねえーーーーーーーーッ!!」 重い空気を打ち払うように、カミナが吼える。 胸部のサングラスブレードを取り外し、気合と共にぶん投げる。 「当たるかッ!」 回転しながら飛んだブレードは橋の中心部に突き刺さり、いとも簡単に足場を瓦礫に変えた。 だが、そのとき、既にラガンはそこにはなく、宙にその身を躍らせている。 攻撃の隙を突こうと、ヴィラルは眼下のグレンに照準を合わせる。 しかし、カミナの意識は既にその一歩先を行く。 「食らいやがれ! 男の魂完全燃焼、ライジングドラゴンアッパーカァーーーーーーーットォッ!!」 投げたブレードはあくまでおとり。その目的はラガンを跳躍させること。 カミナは今までの行動パターンから、ヴィラルの着地地点にあたりをつけ、あらかじめそこに先回り。 重力に任せて落下してくるラガンに渾身のカウンターアッパーを食らわせようと待ち構えていた。 ヴィラルも一瞬遅れて狙いに気づき、バーニアを吹かすも残念ながら一手遅い。 しかし。 「!! ダメですカミナッ!」 「ッ!!」 クロスミラージュの上ずった電子音がカミナの耳を打つ。 次の瞬間、拳を握り、腰を捻ってアッパーカットのモーションに入っていたグレンの足元から 数本の輝く刃が躍り出た。 ほとんど勘で足を捌き、直撃だけは避けるカミナ。 しかし、完全な回避にはほど遠く、かすった装甲が火花をあげ、上体がバランスを崩して機体がグラグラ揺れる。 「ハハハ、何だそれは?新手の踊りか?」 そしてそれは上空のヴィラルにとって、決定的な隙になる。 カミナもとっさに防御姿勢をとるが、不安定な今の体勢ではとても満足な対応は望めない。 ラガンのドリルが唸りをあげ、グレンの左肩に突き刺さる。 甲高い音が木霊して、肩の装甲がひしゃげ、割れ、吹き飛んだ。 「このまま左腕を破壊させてもらうぞ!」 「野郎ォ!やらせてたまるか!」 「おっと」 たまらず右の腕を振り上げ、肩のラガンを振り払いにかかるグレン。 だが、ラガンは迫る拳に合わせるように小さく前転すると、右腕の上を転がって右肩へと抜け、難なくこれを回避する。 逆に無理な姿勢になったグレンはついに足を縺れさせ、その場に尻餅をついてしまう。 「……カミナッ!」 「またかよッ!!」 敵はカミナに休む間を与えない。 グレンがへたりこんだそこに再び打ち込まれるのは鋼の軛。 どこから出るか分からない床槍に対し、カミナができるのは無様に転がって回避を試みることだけだった。 鋭く尖った白い刃はかすってさえグレンの皮膚を削り、金属を抉る。 直撃をもらうことは許されない。 「畜生、ヴィラルてめえ、卑怯だぞ! 男なら勝負はタイマン!拳一つで勝負しねえか!」 「残念だけど、ヴィラルさんは男でも、私は女の子なの。だからそんなの関係ないわね」 「うっせえ!誰もテメエにゃ聞いてねえんだよ!」 「無駄口を叩いている暇があるのか、ハダカザル?」 「ウオッ!グウッ……」 「カミナ! やめてくださいミスシャマル!今の貴方に私達と戦う理由なんてない筈です」 「……それを決めるのはあなたじゃないわ」 ◆ 必死で攻撃を凌ぐ劣勢のグレンに対し、優勢なラガンが猛攻を見舞う。 つい先刻まで互角の戦いをしていた両者の関係は今やこのような一方的なものへと変化していた。 天秤が傾いた大きな原因は序盤で様子見をしていたシャマルの参戦。 彼女はラガンとグレンがほぼ互角であることを見て取ると、 いきなりは加勢せずにまずはお互いの戦い方を理解することに専念した。 ラガンとグレンのスペック、ヴィラルとカミナの戦い方、フィールドのコンディションなど、 この戦いにおけるあらゆる要素をあらかじめ観察し、その上で最善の補助手段を勘案してから行動に出たのだ。 (今度こそ、うまくやってみせる。 傷の男のときの二の舞はもう、ごめんだわ) 一見、慎重すぎるかのようにも見えるシャマルの行動。 その裏には傷の男との戦いの反省があった。 あのとき、ルルーシュが看破してみせた傷の男側の情報。 それを推察するための種はあのとき、確かにシャマルにも与えられていた。 しかし、あのとき彼女はそれらの情報から何の機知も得ることができず、ただ流されるまま戦うことを選んでしまった。 あのとき戦況が改善したのはルルーシュが持っている“何らかの力”に起因していたことはもちろんだが、 だからといって、状況を読んでも無駄だということは決してなかったはずだ。 相手にこちらの命を奪う意思がないこと、こちらの情報を事前に察知されていること、向こう側の目的など、 知っていれば戦闘を有利に進めることができたかもしれない要素はいくらでもある。 (東方不敗、傷の男…… ここには私達が正面から戦ったんじゃ勝てない敵がたくさんいる。 そういう敵を確実に倒していくには、あの子、ルルーシュみたいにちゃんと頭を使わなきゃダメなんだわ。 そうじゃなきゃ、二人で一緒に生き残ることなんてできやしない……!) 実はシャマルもルルーシュほどではないにしろ、戦略的な目は持っている。 部隊で常に司令塔に相当するポジションに就き、任務を果たしてきた実績は伊達ではない。 戦況の分析、戦力の分析、それを踏まえた上での支援などはむしろ得意分野だと言えよう。 彼女が今までその能力を十分に発揮できなかったのは、慣れぬ前衛で戦っていたからに他ならない。 敵と直接肉薄しながら戦うという常とは異なるシチュエーションがシャマルの判断能力を著しく阻害していたのだ。 そういう意味で言えば、ヴィラルがラガンを手に入れたことはまさに僥倖であった。 固い装甲に守られ、近接戦闘については気を配らなくてよいこの環境は、 揺れさえ気にしなければシャマルの得意とする後衛のフィールドに近い条件を与えてくれる。 そして、条件さえ整えば、彼女は補助魔法のプロフェッショナル。 その強力さは今までの肉弾戦闘における彼女の比ではない。 事実、今回彼女がとった支援策は戦況に対し、確実に有利な影響を与えている。 鋼の軛を用いて、飛ぶことのできないグレンの足場を揺るがす策は見事に当たり、 素早く飛び回るラガンへの対応を非常に困難にさせた。 結果、カミナは前のような有効な一打を入れることができずに、望まぬ防戦を強いられている。 (ここでなら、私は十分に力を発揮することができる。 ここでなら、もっとヴィラルさんの力になれる!!……こんな風に) 「カミナ、ここは一度距離をとるべきです!」 「なぁにぃ~!?俺に逃げろってのか!?」 「そうではありません! ここはヴィラルとやり合うには狭すぎます。 両岸が土手に挟まれていて移動の選択肢があまりにも少ない。 こんなところで戦っていたら、ミスシャマルの魔法のいい的です!」 「……くそっ、しゃあねえなッ!」 劣勢の状況を仕切りなおすため、カミナはグレンを駆って大きくジャンプ。一気に対岸の土手まで飛び上がる。 だが。 「やっぱりそうきたわね。予想通りよッ!」 非情なことにその行動は完全にシャマルの想定どおり。 それもそのはず。 彼女はカミナがそう行動するよう、軛の出る位置を調整して、追い詰めていたのだから。 「何ィッ!?」 「……誘い込まれた?」 着地点に待ち構える白い拘束条を目の当たりにして、カミナが驚愕の声をあげる。 とっさに空中で体を捻り、避けようとするが今更間に合うはずもない。 大地に降り立ったグレンの脚部を、すかさず刃が縫いつける。 足掻けど抜けぬ拘束魔法をその身に受けて、グレンの動きが完全に止まる。 「ヴィラルさん!今よ!」 「オウッ!」 シャマルの号令を受け、ヴィラルがラガンを空へと飛ばす。 グレンの直上まで弧を描いて到達すると、そこから一気にバーニアを逆噴射。 緑の閃光を撒き散らしながら、一条のドリルと化したラガンが加速していく。 回転するドリルは風を纏い、絡まる二人の螺旋力を纏い、さながら荒ぶる竜巻のよう。 狙うはグレンの脳天から股間を通す、彗星のような一閃。 拘束された今のカミナに避けるすべはなく、あとに待ち受けるのは逃れえぬ死のみ。 わざわざ誘導などという回りくどい手段をとってまで鋼の軛を決めたのは、 このトドメの一撃を確実に決めるため! 「食らえッ!必殺!ラガンッッッ、インパクトォォォォォォォォッッッッッッ!!!!」 地を裂くヴィラルの怒号が響き、続いて緑の稲妻がグレンの頭上へと降り注ぐ。 ドリルが装甲を砕き、ラガンの影がグレンに重なり、埋もれる。 瞬間、耳を劈く爆音が轟いた。 **時系列順に読む Back:[[天のさだめを誰が知るⅤ]] Next:[[宿命の対決!グレン V.S ラガン(後編)]] **投下順に読む Back:[[眠れ、地の底に]] Next:[[宿命の対決!グレン V.S ラガン(後編)]] |272:[[フォーグラー決死圏、心打つ者]]|ヴィラル|274:[[宿命の対決!グレン V.S ラガン(後編)]]| |272:[[フォーグラー決死圏、心打つ者]]|シャマル|274:[[宿命の対決!グレン V.S ラガン(後編)]]| |270:[[WILL]]|カミナ|274:[[宿命の対決!グレン V.S ラガン(後編)]]| ----