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 星鋼京王城『白亜宮』……その外観を目にした時、まず誰もが圧倒されるのがその圧倒的な迫力であろう。
 広大な星鋼京の地にあって、単体の施設としては最大級の規模を誇る建造物であり、
 間近で見上げれば誰もが息を呑まずにはいられない大きさなのである。

 しかし、それは“無骨”や“豪快”といった印象を想起させるものではない。
 むしろ、壮大さに驚いた次は、その精緻な装飾や流麗な壁面に、誰もがため息をつかずにいられないのであった。
 その外観は正しく“白亜の宮殿”と呼ぶに相応しい、眩いまでの純白で彩られた城壁であり、さながら星鋼の山々を彩る万年雪の如くであった。

 その秀麗な外観は、遠景として見た時にも一際美しく、星鋼の大地に映えるのである。
 王城を一望できる位置から眺めた時、それは一つの緻密な芸術品のように、見る人の目を楽しませるのである。
 周囲に張り巡らされた清い水を湛えた堀が光り輝く事で、その美しさに一層の奥深さを与えるのだ。

 そんな王城を望む景色に、最適な場所がある。
 ――藩国山岳地帯に佇む天文台である。

 山岳地帯の頂上という事もあって、あまり交通の便の良い場所ではないが、他には無い、幻想的な風景を望む事が出来るのである。

 針葉樹林帯を隔てて見える黄金色の海……穀倉地帯を前景に、壮麗な光に包まれた宮殿が見えるという、何とも絵画的な風景である。

 王城のある風景。それは、これから新たな歴史を歩む星鋼京の人々にとって、まもるべき原風景となっていく事だろう。






 無論、内観も外観に比して遜色の無い作りとなっている。
 過剰な装飾を廃し、一見控えめながら細部に技巧を凝らした侘びた意匠は、それだけで星鋼京という藩国……
 ひいては王城の主たる藩王並びに藩王妃の人となりを語らずとも納得させてしまうだけの力を持っている。
 その飾り気の無い力強さは、藩国の代表としての立場に加え、帝國の威信をその一身で支える立場に列する事となった、
 藩王夫妻に相応しいものであると言えた。

 特に、藩国外の要人との接触や儀礼・典礼が執り行われる謁見の間や、談話室などは、広々とした開放的な空間でありながら、
 要所要所に重厚な装飾が配される事で、空気に適度な緊張を与える気配りの為された構造になっているのである。

 また、芸術品を思わせる美しい作りばかりでは無い。
 警備関係に関しても、訪れる人を不快にさせない配慮の元、最大限の防衛体制が敷かれている。



 さて、この壮麗な王城であるが、当然“城”という建造物が本来の目的とする部分を失念して建造された訳ではない。


 城は防衛の為にある。


 その言葉が示すとおり、美しくも堅牢な城壁と堀は敵対の侵入を阻み、その内部には外敵を迎撃するための絶対機構を仕込んでいる。

 その絶対機構の名こそが“決戦号”
 ――そう、宮殿内駐機場には“帝國の空の護り”が待機している。故に有事の際は決戦号は王城よりの出撃と相成る。
 また、この駐機場は同様に“帝國の剣”と誉れ高き、蒼龍号が同時に収納できるだけの余裕を有している。
 決戦号と蒼龍号、その二騎を抱いた城は正に鉄壁といえるだろう。

 とは言え、それらが活躍する機会は起こらないに越した事は無い。
 今後も起こらないよう、各員が誓いを新たにする――……そうあり続けて欲しい。






 白亜宮、そのもう一つの顔ともいうべき場所がある。
 それは宮の中央、螺旋塔の真下に造られた庭園である。

 これは前記と矛盾するが、この国では最重要警備地区である王城という場所の中心部にまで誰であっても立ち入ることができる。

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 星鋼京は若い国である。
 例え、二つの国の歴史を引き継いでいたとしても、国そのものの誕生は日が浅い。
 そして、未熟未満であるが故に未だ動乱の渦中にあり、正しきも悪しきも混沌としてあり続けている。

 正しきを定め、悪しきを排除する事は容易いが、他国から“弱腰”とも“考えが足りぬ”とも称される臆病で愚かな王は、更に愚行に出る。

 「悪し様であれ民は民。良し悪しで捨てれば誰が拾う?」

 あえて、懐を開く。
 それは信じたのならば刺されても良い、という意思の表れであった。
 例え今が暗くとも、決して上らぬ太陽は無い。王はいつか国に平穏が戻った日の為に庭を築く事を決めた。
 必要な事の多くを語らぬが、王は自分が不出来であった頃に拾われ、救われた事を忘れてはいなかった。

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 以上の理念より、白亜宮の中央庭園は広く解放された。
 その庭園は、二つの螺旋が折り重なる塔と同じく、一つの言葉を象徴していた。





 川が流れ、滝は飛沫き、草木は青く、花々は鮮やかに。
 配置された其々が、其々を引き立てあう調和が其処にあった。
 飛び石の一つ、川の向き一つ、花の色、草の類、樹の高さ、全てに気が払われた。

 一言で言えば「粋」な庭であった。
 せせらぎの音、葉の触れる音、風の音……様々な音が合わさり合い、一つのより大きな音を奏でる――
 それこそが、中央庭園の主題であり、これからの星鋼京のあり方でもあった。



 そして、中央庭園の建築にはある知識が用いられた。
 星詠みの英知――……彼らと彼女らは総じて豊富な知識を有しており、様々な事象に通じていた。
 分析し読み解くこと、逆に物を見立て意味を持たせる事、そういった世界解析で培われた技術が如何無く発揮された。

 庭という世界において不協和音となりうる意味を判別し取り除き、あるいは違う意味に見立てる……
 ――主張し過ぎぬよう、控えめにならぬように丁重に配置を行った。

 この造園方式はを東国人で言えば“風水”に分類される類の技術であった。

 一つの物事に様々な異なる意味を織り込む、という趣向は星鋼京のもう一つの民、伏見の民も好む傾向であり、
 それらの遊び心――悪く言えば無駄、良く言えば余裕は、心にゆとりを持たせるために必要であった。
 正に理路整然とした科学技術の中に盛り込まれた良い意味での無駄であり、ゆとりや癒しを与えるのには最適であると評価された。
 この非常に趣き深い行いは、風雅、あるいは洒落ていると賞賛された。

 またこの様な方式が取られたのは、藩国の民の持つ技術・文化を無碍にしないため……という目論見もあった。
 そも庭園という所に力を入れたのは森国人などの共和国からの移民の文化や知識も広く受け入れやすかろういという算段があった。
 技術・知識を活かせぬというのは生半ではなく辛く、寂しい。
 象徴建築である城を建てるに当たって、様々な技術を盛り込もうとするのはある種必然であったと言えよう。

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最終更新:2009年10月24日 19:04
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