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 星鋼京。

 旧・伏見藩国と旧・奇眼藩国の合併によって生まれた、新しい名を得てから数えればまだ歴史の浅い藩国である。
 しかし、歴史の深さとは関係なく、記念すべき事には事欠かなかった。

 ――藩王と帝國王女の結婚。
 ――藩国合併事業の完成。
 ――新規藩国民の移住。

 どれもが、藩国として慶ぶに足る慶事であり、新たな一歩を踏み出そうとしている星鋼京にとって、歴史に刻むべき事であった。
 その記念事業として持ち上がったのが、王城の建造である。

 王城とは、即ち藩国の象徴として、国家としてのありようを示す一大モニュメントとしての機能を持たせる事が出来る。
 星鋼京では、そこに三つの慶事が示すものを刻む事にしたのである。

 即ち。

 二人の男女が、夫婦として新たなる契りを交わし、運命を共にする事――……
 異なる文化を持つ国家が、一つの国となり、新たな運命を刻む事――……
 新たな地を求めて来た人々を、同じ国民として受け入れ、共に歩む第一歩を記す事――……

 その全てが、異なる者同士が寄り添い、契りを交わし、新たな一歩を踏み出す事を示していた。

 これを建国の礎として、王城に刻む事とし、落成の暁には盛大な記念式典も開催される運びとなった。

 ――かくして、星鋼京の王城は建設される事となったのである。


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 古今より、ロイヤルウェディングとは国を挙げての慶事とされるものである。
 国の長がその伴侶を定め、新たなる運命へ向けてその第一歩を示す事は、国そのものが新たなる運命へとその一歩を踏み出す事と同義であり、
 建国して間もない国であるからこそ、これ以上適切な慶事は無いと言えるほどの物であった。

 更に、セタ王のお相手というのが、これまた別格であった。

 ――クロ・エプイスペン・フシミ藩王妃。
 “降嫁”が決まるまでの尊名をクロ王女という―。

 わんわん帝國皇帝ウェスタ陛下の愛娘にして、紛れも無き王家の血統に列する一人である。

 この一事を以って、王城建設はただの記念事業ではなくなっていたのである。

 外戚とは言え、王家に名を連ねる事となる藩王の記念すべき始まりを記す事になる王城である。
 星鋼京の特色を失う事無く、最大限の意匠を凝らす事が目指された。


 即ち。
 華麗ではなく荘厳に。
 派手さは無くとも端正に。
 しかして地味や素朴ではなく、気品を失わず。

 凡そ難解の極致といった指示であろうが、要するに星鋼京という国の持つ美しさというものを最大限に引き出せ……という意味に捉えて、
 間違いは無かったであろう。

 その完成したものは、その優美さは遙かに望む星鋼の山々に例えられ、内部の意匠は星鋼京の匠の技を感じさせる物であったとされる。


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 更に、この事業には、事業そのものにも重要な目的があった。

 ――新規藩国民の就業訓練と雇用促進である。

 王城とは巨大建造物であり、その建造には多くの人手と労力、時間と技術を要する。
 その中にあって、単純労働力は元より、作業機械操縦技術の習得なども促進される事が予想された。
 内政としては、これに補助金などを支給する形で促進する事が提案されている。
 更に、その建造に併せて一時的ではあるが、国内経済に特需のようなものが発生する事も予想された。
 そうなれば、事務や経理といった事務関連にも需要が発生する事が考えられ、就業窓口が広がると共に、国内経済の活性化も予想された。

 これを持続的に発展する形へシフトさせる事が後々の課題であるが、当面の問題には有効な対策であった。

 また、そのシフトの一案として警護官の大規模採用がある。
 皇帝陛下、第一宰相陛下のご両名の来られる式典にて、お命を狙う不貞の輩を排すべく、氏素性のはっきりとしている者の中から大幅に採用。
 式典中の臨時警護官として、国内各所に配属された。
 これらの臨時警護官は、式典終了後、式典中のトラブルへの応対度や勤務姿勢などを評価し、国内の警官業務などへの就職推薦などを行い、
 本人が望めば、宮殿警護官などへの採用も考慮された。

 これは現状の警官などの不足への対策も兼ねており、来るべき大国際化時代への国内の治安維持活動の布石でもあった。


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 合同記念式典においても、最終日に予定がされており、“始まりの日”として位置付けられている。
 つまり、“一組の男女が契りを交わす事から、全てが始まる”という意味において設けられたものなのである。

 当然の事ながら、この日には皇帝陛下、宰相閣下を筆頭とする帝國中枢への招待が為されており、
 その列席が叶えば帝國史上まれに見る壮麗な 式典となる事が期待されている。

 王城建設が始まった頃から、式典に向けた訓練が何度も繰り返されていた事から、意気込みが伝わってくるというものである。

 当然のように、この四日間は藩国全土が祝賀ムードに包まれることになるだろう。
 普段はどちらかと言えば物静かな星鋼京民も、この四日を前にお祭騒ぎに興じようと、静かな興奮に包まれつつある。

 特に、この祭りの目玉となるであろうものが“味星市”である。
 これは、期間中を通して開催されるものであり、星鋼京の特産物である小麦やリンゴ、乳製品などをを元に、
 パンやジャム、チーズにバター、果実酒に醸造酒に蒸留酒、その他沢山の名産品などを一同に集め市を開くという趣向の物である。
 それだけでなく名物料理を振舞う出店や、旧・奇眼藩国や旧・伏見藩国の郷土料理や名物料理……
 また、新規藩国民がもたらした料理の再現など“星鋼京”の味が心行くまで堪能できる催しとなっている。
 また、これらの催し物には政府から助成金が出ており、国内の食産業の発展や食文化の保全への助力の一端となる。

 そしてもう一つの目玉といえば、“始まりの日”に予定されているパレードであろう。
 この時に街頭で誰もが振るであろう旗やタペストリーなどは飛ぶように売れ、売り手は嬉しい悲鳴を上げているそうである。
 殊、先の慰撫訪問によって大層な人気を博しているクロ藩王妃の関連グッズは凄まじい売れ行きなのだとか。

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最終更新:2009年10月24日 19:02
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