ドラえもん最終回的な

 

by,4スレ目345

 

 

 

 

 

医者「…………どうやら意識が戻ったようですね。ご自分の名前と年齢は分かりますか?」

 

 かがみの目には白い壁と白い天井が映っていた。自分が横になっているのは清潔そうな白いシーツの掛けられたベッド。漂ってくる薬品のうっすらとした香りが、ここが病院の一室であることをかがみに知らせた。

 

医者「気分は悪くないですか? もう一度質問します。ご自分の名前と年齢は分かりますか?」

かがみ「……え? な、何言ってるんですか? 私は柊かがみ、今は高校三年生ですけど……」

看護師「…………やはり、患者はまだ混乱しているようです。時々寝言で自分のことを『柊かがみ』と名乗っていたり、『泉こなた』や『柊つかさ』など存在しない人間の名前を呼んでいたことが度々ありましたし…………」

かがみ「え…………、こなた達が、存在しない……? どういう……」

医者「落ち着いて聞いてください。あなたは高校の入学と同時に自動車事故にあって、3年間ずっと眠り続けていたんです。だから、恐らくあなたは夢の世界で3年間ずっと『空想の高校生活』を送っていたのだと思います…………」

かがみ「な、何言ってるの!? そんな冗談誰が信じるっていうのよ!?」

看護師「たとえば、時おりあなたが呟いていた『リョウオウ学園』についてですが、実際にはどこにもそのような名称の学校は存在していません。またあなたのご実家も神社ではなく、ごく普通のサラリーマン家庭のはずです」

かがみ「…………は、ははは……。お、面白いジョークじゃない……。笑っちゃうわ……」

 

 乾いた声で、まるで自分に言い聞かせるようにかがみは呟いた。

 

かがみ「……そ、そうだ! 電話貸してみてよ! こなたの携帯に掛けてみるから! ば、番号だってちゃんと覚えてるんだから……! 夢とか幻なんかじゃないんだから……、絶対に…………!」

 

 医者は「ふう」とため息を付いてから携帯電話を差し出した。(携帯OKの病棟なのだろう)

 かがみは焦点の合わない瞳でディスプレイを見つめ、震える指で『親友の泉こなた』の電話番号をプッシュした。しかし、電話口から返ってきた声は泉こなたのものではない、無機質で機械的な案内音声であった。

 

電話『この電話番号は現在使用されておりません。もう一度番号をお確かめのうえお掛け直し下さい…………。この電話番号は…………』

かがみ「…………う、嘘よ……」

 

 今度は『妹のつかさ』の電話番号を押した。しかし結果は同じだった。

 

「この電話番号は現在使用されておりません」

 

「この電話番号は現在使用されておりません」

 

「『泉こなた』も、『柊つかさ』も、最初から、存在して、いません」

 

 

 

かがみ「…………う、そ……。嘘よね……? 冗談でしょ……? ねえ……?」

医者「…………まあ、しばらくは混乱しても仕方ありません。少しずつ元の生活に戻れるように頑張りましょう」

 

 医者がそう言った時だった。かがみの中で、何かが壊れ始めた。

 

 元の生活? 『元の』って、何……?

 

 世界が足元からばらばらになっていくのを感じた。

 楽しかったあの日々は、全て幻だった。本当のことじゃなかった。

 あんなにも暖かく優しい世界が、全て幻だった…………。

 

 かがみは泣いていた。

 自分でも気づかないうちに、壊れた蛇口から水があふれ出るように、次から次へと涙がこぼれて落ちていった。

 

かがみ「…………うそよ……、そんなの嘘よっ!!」

看護師「お、落ち着いてください……!」

かがみ「いや! こんなの嘘に決まってる!! うわあああああああ!!!!」

 

 かがみはかんしゃくを起こした子どものように泣き喚いた。

 そして震える声で助けを求めるように、必死で『存在しないはずの』友人たちの名前を叫んだ。

 

かがみ「いやああああ!!! 嘘でしょっ!? 嘘って言ってよ! つかさぁ!! みゆきぃ!! こなたぁあああっ!!」

 

 

 

こなた「フフフ、呼んだかいかがみんや」

 

 拍子抜けするほど間延びした調子であった。聞きなれたその声が、かがみの耳に届いた。

 

 

 

かがみ「…………へ?」

 

 顔を上げると、そこには『ドッキリ大成功!』と書かれたプラカードを持った泉こなた、それと少しバツの悪そうな顔でほほえむ高良みゆきと柊つかさがいた。

 

つかさ「ご、ごめんねお姉ちゃん……。こなちゃんがどうしてもって言うから…………」

みゆき「あの、その、医者の方や病院を手配したのは私です……。ごめんなさい。少々悪ふざけが過ぎたかもしれません…………。まさかここまでショックを受けられるとは…………」

 

 かがみの頭は少しずつ冷静になっていった。

 確かにそこにはつかさもみゆきも、こなたもいた。

 

 こなたは必死で笑いをこらえるように震えている。

 つかさとみゆきも、申し訳なさそうに体を縮めながらも、やはり微妙に笑いをこらえるような表情になっていた。

 

かがみ「な、なんで……! なんでこんな馬鹿なことするのよっ! 私、本気でみんなのことが全部夢だったんじゃないかって思ったのよ!? ちょっとこなたっ! あんたでしょ言い出したのは!」

 

 かがみは赤面して一気にまくし立てた。さっきまで流していた涙は悲しみごと一瞬で蒸発していた。

 

こなた「あは。ごめんねかがみ。だけど良かったじゃん。夢じゃなかったんだよ。私たちは親友だよね? 親友なんだから怒らないよね☆」

かがみ「や、やかましいっ! ソレとコレとは話が別よ!」

 

 怒り心頭の様子で声を荒げたかがみだったが、顔はどこか安心したような、泣き笑いの表情になっていた。

 

 よかった。夢じゃなかったんだ。

 本当によかった…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かがみ「こな……た…………、つ……かさ…………。よかった…………。夢じゃ……なかった……んだね……。本……当……に……よか………った…………」

 

看護師「404号室の患者さん……。また『存在しない友人たち』の寝言を言っていますが…………」

医者「もう少し様子を見た方がいいかもしれません。いきなり本当のことを教えてしまうと、またショックで自殺でもしかねませんから…………」

 

 

 

 

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最終更新:2007年12月07日 23:35
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