2009/04/08
※ネタバレ注意
【少年と定規とSRC島】

「ちょっと不思議な力を持った、普通の少年の物語。」

ある種の参加企画、SRC学園に投稿された設定を用いて描かれた一作。
作者の狼二世氏はどうもSRC学園内では丁寧な仕事振りに定評が有るようで、
それは作品のみならず外部にも知られている…んで、いいんだっけか?
この作品も、学園外にも優しい丁寧なシナリオとしての評価を数種見かけている。

SRC学園に関してはやや引き気味だったが、真に面白い作品ならば、企画系か否かは
関係ないのではないだろうか? という心構えとともに、完結済みで尚且つ、先人の感想が
非情に、いや非常にいいところで止まっていることもあって、プレイを決意した。
もうレビュー依頼も取り下げられてるが、作者の方の目に留まってくれば幸いである。

なお、はじめに言っておくことになるが
  • この文の作者は、数ヶ月前にレビュー依頼スレから書きこんでいた人物とは別人である
  • この文の作者はクリアするまで、SRC学園のことはよくは知っていない(wikiは後で見た)
  • おそらく作者の意図を受け取り損ねている可能性もありうる
ことを記しておく。

●グラフィック・演出
キャラクター単位だと、複数人参加企画なので、この辺は割とクオリティがバラけるのは
仕方ないところか。偶に気合の入った専用戦闘アニメとかがあるので、そのへんが
眼の保養になったのが個人的には幸いである。
シナリオ単位では…ちょっと印象薄いせいかパッとは出ないが、
致命的なマイナスもないので問題はないだろう、うん。

●シナリオ
導入部(1~3話)に関しては、確かに「学園外にも優しい」し、丁寧な感じも伺える。
だが、そこ以降は確かにどこか丁寧? なオーラを感じる一方で、話のピースの置き方が
効果的になされていない印象を強く持ってしまった。例えば…

  • 入学前に十話も割くのは学園モノとしてどうなのだろうか? 何となくだが、この作品は
 学園生活の脇で起こる様々な出来事を追っていく構成でも通じるような気がする。
 その方がユルいオーラもある程度中和してくれたのではないだろうか
  • 十二話は「結局は能力は使う人次第ですよ」という話なのだが、題材にするタイミングが微妙。
 これは、プレイヤーがクセ者揃いの性格の能力者に慣れる前にやるべき代物ではないだろうか
  • 十八話で何かが足りないといわれていたが、あれは強いて言うならば「積み重ね」や
プレイヤーの心に残る「証拠」ではないだろうか。
 「いや、オレだけじゃない。傷つけられたり、傷つけたり
 大切なものをなくしたり、欲しかったものを諦めたりしなきゃいけなかった人たちが、
 また歩き出せる場所が、ここなんだ」
 この文節で当てはまるというか思い当たる人間が宗太郎だけというのはどうも頼りない。
 琴也(本作ではスルーされたがある意味爆弾的なもの持ち)、ゆかり(明確描写有り、ただ宗太郎も立ちあうべき)、
 球二郎(最初は加害者、故に信用されない流れがあっても面白いだろう)、織村(それっぽいドラマの新造か?
 ただ織村の場合は能力のお陰で助かっている、というのをウリにした方がらしいのが難点とも言えるか)
 あたりで何かしら掘り下げたり、四項目のいずれかに当てはまれる人材を出しても良かったかも知れない。
  • 二十話における宗馬の長所はむしろ五~六話で出し、本人にとってはプラスではないと認識させてたほうが
 まだ自然に話全体がまとまっただろう。あるいは二十話の描写で、本人の足の速さというものが活きる
 展開を盛り込むべきだった。誰かのピンチを抱えて逃げて凌ぎきるとか。
  • 先人も言ってたがやはりオウカ関連は頻度が足り無すぎ。名前伏せて三話ぐらいで出して「?」と宗太郎にも
 プレイヤーにも不思議な形で認識させ始めるぐらいやってもバチは当たらないような気がする。
 ついでに啓次も、先輩たちの話題に昇るとかそういう形で存在感を深める努力をしてもいいかと

ここら辺上記が印象的に「む?」と思わされた場面の数々。クセ者揃いが集いコミュニケーションを
賑やかに交わしているのも確かに悪くは無いのだが、やはりそれは土台となる物語あってこそだと
考える身としては、どうも何か配分バランスの悪さを感じさせる設計が、気になる。
が。作者の二十五話のコメントアウトにある

  僕の中で、少年と定規とSRC島の10話までは宗太郎の物語です
  11話からは、ケイス、オウカ、啓次の三人が連続する物語の縦軸に位置していて、
  宗太郎たちの能天気な日常は、それに覆いかぶされる横軸の物語です
  じゃ、それで宗太郎は主人公と呼べるんでしょうか。
  物語の根底に居るという意味では、宗太郎は主人公としては不適切ですが
  僕は、少年と定規とSRC島はあくまで宗太郎を中心とした
  ちょっと不思議な力を持った少年の物語として書きました。
  設定ではなくて、物語の中で主人公になってくれたと、僕は思っています
  宗太郎は能力者だけど、特につい良い力を持っている
  わけじゃありません。戦い方を知っているだけの人間です
  広耳堂に所属はしていますが、本当にオウカたちとは関わらずに過ごす事も出来ます。
  じゃあ、なんで宗太郎が戦う事を選んだのか。ここまで付き合ってくれたプレイヤーは
  うすうす感づいているかもしれませんが、それはこの物語のクライマックスに
  今は、オウカとケイス 望んでも同じ場所にとどまる事が出来ない人間
  そして 望んだ場所に固執しすぎた人間の物語の結末です

この文章を読んでから察するに、ただの学園物ジュブナイルシナリオとして終わらせたくない、
という願いはあったのだろう。だが、その結果が色濃い十九話以降が…
  • 露出の少ないキャラらの急激な台頭(=超展開に見えてしまいがち)
  • 素直に宗太郎ら中心一本でいけた方が燃えたのに、という思いからくる不完全燃焼感
  • 突如スケールのでかいイベントが飛び込んだことによる、撹乱感漂う最終局面までの展開
  • どう考えてもオウカ一人の問題で完結してしまったような未来の一幕
こう捉えられてしまうせいで、尚更この作品の出来の勿体無さが際立っているように感じられる。
特に最終局面においては、ケイスと宗太郎という「流れ着くかもしれなかった材料」を
上手く利用することができたのではないか、と思い当たり、実に惜しい。オウカだけでなく、
ケイスに関しても「未来から希望を受け取らせる」ようにしても良かったのではないだろうか?

とりあえず「順番はおいといて」丁寧。特にケイス周りは主人公らが上手く行き過ぎた
(=あんまり内部トラブルとか喧嘩して仲直りとか濃密コミュニケーション→ようやく友達とか が無い)
こともあってか、なかなか見ごたえの有るシーンを魅せてくれたので正直驚きであった。名無しなのに!
この能力を話全体の統合性とかに回すことが出来ればと思うと、惜しくは有るが。

●キャラクター
本当にシナリオ的にいらないと思った子はネクラ(但し、没txt内の着ぐるみでイメチェンという
イベントがあれば盛り返したかもしれない)や他の新聞部員ぐらいのものだが、その他の人物が
上手いことシナリオで活かされていたかと言うと、やっぱそうとは言えない。
  • 宗太郎
もうちょい元気さは控えめにして、劇中でどんどん明るさと逞しさを見につけていったほうが
見栄え的には良かったかも知れない。あとは十八話や最終話で激を飛ばせる男になるためにも、
やはり脇役の成長とかそういうのに立ち会う機会を増やしてやるべきだと思われる。
  • 宗馬
「能力はないけれどそんなのは関係無しに友達だぜ!」というある意味贅沢なポジションで
登場できているのは素晴らしい。だが、二十話でどうも盛大にコケてしまった感じが強く
それ以降は「何でここにいるんだろう」に降格した感じがするのは悲しかった。
  • 江呂井
まさか未来でこの人が!? というインパクト性や、戦闘以外だと割とマトモになってるあたり
ギャップ系としてはちと面白い。だが、あの武装群はどうしても人を選ぶんで、参戦させるにしても
合計1~3話ぐらいのスポット参戦程度で留めてもいいぐらい、かも。
  • 球二郎
「傷つけたり」、もあるけれど最終的にみんなから許される側になるというドラマを入れてもいい子。
戦力としての彼がいなければ戦いづらい場面も存在するが、それだけではまだ何か足りない気がする。
  • 琴也
先輩格の面子の中で、明確にトラブルの中心になりえた(=それを解決に導く過程でさまざまな進展が見込める)…
後から学園wikiを見直してそう思わざるを得なかった人物。彼関連で一大事があり、それを解決させた方が
由奈との関係の説得力、本人の成長、宗太郎に対して恩人かつ先輩という魅力的な色々があったと思う。
むしろカミングアウトは宗太郎にだけでなく、広範囲にやるぐらいしても良かった気がする。
その前に成瀬あたりがどうも胡散臭さを察知とかしてて皆に広めてると尚美味しい…かも。
  • ケイス
確かに宗太郎の対的な要素が多く、物語の敵役としては相応しい人物。
だがシナリオで書いたような救いを得れても問題なかった気がするのだが…というか、
ちとあの退場の雰囲気には疑問を抱いてしまう。微妙に後味悪いというか何と言うか、うーん。
  • 啓次&オウカ
シナリオ参考。主要人物としてあるためにはもうひと頑張りいるレベル。
やはり「彼らを何とかしてあげたい!」と思わせる流れがあと数本欲しいところ。

明確にジャリッとした何かを感じさせたのは以上。全員語るのは流石にパスさせてください。
基本的に一部の例外を除いて割と丁寧に描写されているので、安心感をもって見守れるのだが、
作品の超主要人物が上記イレギュラーに食い込んでいるのはちと残念である。

あとは欲を言えば辞典インクルードなんかがあっても良かった…かなー

●戦闘バランス・システム
基本的に難易度は低い。装備品関連で派手にキャラをカスタマイズできる上、序盤から
何かしら強力なウリを持ったキャラ(超確率反射、高性能長射程、五属性カバー、等)が
参入してくれる設計のため、長所を活かす方向で進めれば自然と楽にクリアできる。
逆に、なまじ強い面子を操れる場面が多いだけに出撃がシナリオ側の都合で大きく
限定される場面になると、装備品とかガチで集中させないと苦戦させられるだろう。
そんな一方で、属性を付加する結晶系はどうも使っていて微妙だった。癒しと力はともかく、
他はわざわざ弱点や戦いにくくなる敵を増やすメリットが思い浮かび辛い。
不思議な本やペンダントと同時入手する形だったら変わったかもしれないが、泰彦がいる時点で
多分積極的にはつけて回らなかっただろう。てかラスボス付近は無属性のほうが楽だし、ラスボスは属性ないし。

あと、第六話から出撃する面子/しない面子別にアイテム交換がいろいろできるという
素晴らしいシステムがあるのは大助かりなのだが、これに関してはもう第三話の時点で
導入したほうがいいと思うんだ。ついでに九話の前後半にも…

●BGM選曲
本作品の中でそんなりにいい評価を送れる所。特に最終戦パートの二曲に関しては褒めたい。
作中ではmp3も使用されていたが、あの曲に関しては十八話限定にするよりも
二十三話で再び流してもいいんじゃないだろうか。どうも心境にそう思えてくる。

●総評
どちらかと言えば個人的には「ハズレ」ではあるのだが、それがどうにもならないレベルではなく
どうにかなりそうなレベル、それも積み重ねの効いている感じが主成分ということもあって
仕事振りはわかるのだがかなり勿体無い作品であることが第一印象としてのしかかった。
あまりにそう思わせてしまうだけに、気力があれば詳しい改善案を引っさげて作者さんと対談
しようとしたかもしれない。ない可能性も濃厚だけれど。

どういう層に向けてお奨めできるのかどうか非常に迷ってしまう結果になったが
キャラと雰囲気重視で、それ以外のことはあまり気にせずプレイしたいのなら、多分遊んでも
損はしないだろう。内輪向けな部分があっても割とスルーできるレベル(だと思った)。
逆に本当に丁寧な作りを期待して挑んだり、学園モノの王道である群象劇と、それに伴う成長劇
人間関係が深まる様子の描写に期待してプレイするのはやめといたほうがいいと思われる。

多分SRC学園シナリオとしては本当に遊べる部類なのだが、
作品として輝くにはまだまだたくさんの改善点が残っている…と思う。
いや、ホントパートというかシーン単位ではいい仕事できてると思うんですよ。マジで。

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最終更新:2009年04月08日 01:36