「撃鉄のクロニクル サンプルシナリオ集」

半リアル系世界観を礎としたオムニバス企画「撃鉄のクロニクル」の
サンプルシナリオの三本立て。規約からして、これからいい作品も
産まれそうな雰囲気を期待させてくれる。個人的には。
このサンプルシナリオ達はそれぞれ、
西暦2030年代を中心とした「現代編」の出来事、それから100年後を
舞台とする「近未来編」の出来事、それから200年とかそれ以上後の
時代を内包する「宇宙統一編」の出来事を、企画を立ち上げたヒガタ氏自らが
短編の3本立てとしてリリースしたものらしい。ようするに、この3つを遊んでおけば
この企画はこういう雰囲気がスタンダードですよということが読み取れる設計、の模様。

●シナリオ&キャラクター
とりあえず項目ワケをしておく。ちなみに筆者は宇宙統一編→現代編→近未来編の順にプレイ

○現代編サンプルシナリオ『シェアリング』【一話完結(前後編)】
エネルギー資源の枯渇から、残り少ない資源の奪い合いが起こす戦乱の時代に突入した西暦2030年の地球。
そこにおける兵器産業活性化の中、HBMと呼ばれる人型戦闘車輌が投入された中東新興国家の紛争において
二人の傭兵が巡った運命を描いているお話。

SFという言葉とはほど遠い、現代戦的な感覚がところどころに漂っている西暦2030年を
渋みを重視した選曲と、リアルさを感じさせるマップチップの使用法やキャラのやりとりで
どこまでも体感させてくれる作品。こういう味わいは好きと言うこともあり、違和感無く短編として
楽しませてくれた。主役二人の最後の意思疎通と、そこから繋がるエピローグの構成が
味わいのある「これから」を演出してくれてる。
短編ながら、忘れ去るわけにはいかないキャラに出会えた気分。感謝したいもんです。

また、人型戦闘車輌が絶対的な強さのある存在ではなかったり、人型戦闘車輌同士での戦いが
このシナリオにおいて歴史浅きものであるあたりが、「時代の初頭」って感じを実に脳に
焼き付けてくれたのが印象深い。現代戦風味って、やっぱいいなぁ。
現実に巻き込まれたらきっと冷静ではいれないと思うが、自分自身。

○宇宙統一編サンプルシナリオ『月は妖艶に嗤う』【一話完結】
スペースオペラ…に、分類していいのかな? 西暦2448年の第三銀河系内において、
隠れてデンジャラスな賞金稼ぎの活劇が1話中で繰り広げられるお話。
どう「デンジャラス」なのかは、進めていけば大体把握できる。

未来で宇宙が舞台とくるだけあって、地球の存在や響きがちと懐かしさを含むような
雰囲気を醸し出す一方で、普通の人類ではない存在の登場や、エーテル兵器などの明らかに
現代や近未来とは遠い技術を感じさせる単語が聞けたりして、実にSF路線を感じさせる。

だが、そんなSF路線でも滅茶苦茶さや富野的雰囲気などは感じさせず、他二作同様に
SRC全体的に見れば落ち着いた雰囲気が先行しており、ここでも「撃鉄」色をアピールするという
ことは成功していると思う。ちなみに、シェアリングとWahrheitが午後の雰囲気ならば、
この作品はBARとか深夜とかそんな単語が浮かびそうなところだろうか。

○近未来編サンプルシナリオ『Wahrheit』【三話完結】
地球に対して無人兵器による侵略を行う、『インベーダー』の襲来。それが始まってから1年、
地球はまだ平和でも、外に広がる宇宙での戦況は芳しくない…その絶望が迫っているかのような雰囲気の中
宇宙における4人の少年少女(志願兵)たちの軌跡を描いた、苦い青春を体感させてくれるお話。

作品におけるいろいろな要素…選曲、戦闘、シナリオ、キャラクターアイコンの落ち着いた雰囲気が
苦しい戦いであることを思い知らせ、切ない話であることをも思い知らせ、そして人には強く
守らなければならないときがあることを考えさせてくれる、三作の中で最もいい不意打ちを喰らった
作品だった。短編である中いろいろと話や人間関係を進めていって、選曲とあわせてトドメ。
同時に「これからどうなるのだろう?」という気持ちを抱かせる余地を残して締めてくれたと思う。

劇中では、現代編の単語が飛び出したりして、明確に現代編と繋がっているのだという情報を
プレイヤーに送ってくれる場面が1箇所存在する。雰囲気を重視する場合は、この作品は最低でも
『シェアリング』を堪能しながら遊び終えた後にやってみるのがいいだろう。

  • グラフィック
まだ参加者の他の素材とかは飛んできていないので、全てヒガタ氏作+戦闘アニメの多くは汎用素材である。
登場人物の顔立ちは、全員が各作品のカラーを表していると思う。三作遊んだ後だと尚更のこと。
ユニット側も同一作者謹製ながら、続けて遊んでいくと時代の進歩を感じさせてくれる。
だがそれ以上に進化を感じさせるのは、戦闘アニメの方で宇宙統一編になると、SF機動兵器や
スーパーなロボットであることを実感させるぐらい、戦闘アニメの派手さが高まっているように見受けられる。
というか、カットインまであったりしたし。こういう魅せ方は好きですよ自分。

  • 戦闘バランス
全体的に少人数で複数の敵と戦う場面が多いため、HPやリソース管理でハラハラできる。
このハラハラ感は現代編・近未来編では雰囲気作りに一役買ってて、むしろ支持したい。
多分宇宙統一編も、SP惜しまなきゃプチ無双気分で楽しめる筈…

ゲームとして一番熱さを感じさせたのは、近未来編。上記で触れた気を抜けないキツめのバランスや
容赦のない、数の暴力の襲い掛かり方が、お話の絶望的な雰囲気と対立しないで同調していることもあり、
ユニットを活躍させてて楽しめたと思う。

短編集形式なので、基本的に戦闘は難しく濃度高くがデフォルトになっていくと予想してみる。

  • BGM選曲
「作品のカラーから浮かず、尚且つメリハリを感じさせる選曲はある意味画像以上の武器になる」
そう以前から思っていたがちとそんな自分のことを確信したくなった。
何が言いたいかというと…うん、高評価。特に悲しい感じや、宇宙統一編に漂うエキゾチック入ってる
感じの曲の選び方に関しては、サイコーにいいセンスしてるんじゃないかと思う。

  • トータルバランス
三作ともが独自の空気と、撃鉄全体にはこういうの求められているんだよ的空気を含んだ作品。
どれもが、それであることを画像のタッチ、選曲、ストーリー、キャラクター、戦闘面などで
主張できているので、満点に近い評価をささげてみるテスト。1作品全体遊んでみて、
画も音も話も人物も戦いも欠けちゃ成り立たない、そう思わせてくれる作品は大好きです。
三作並べると、宇宙統一編だけはリアルちはちと離れたスペースオペラ色も全面に
出ているかなー、とは思う。だがこれはマイナスではなく必然みたいなもんかな。

  • 総評
これからどのような「歴史」が刻まれていくのか、実に楽しみにさせてくれるサンプルシナリオだった。
直球のコミカルさやポップさから離れて、渋いテイストの作品に飢えてたり、「撃鉄のクロニクル?
一体どんな企画なんだろう」ということを大まかに知っておきたければやって損は無いだろう。
自分は投稿側として参加はしないと思うが、応援側&プレイヤーとしての参加を続けてきたい。

あと近未来編ラストの選曲は大事に心に刻んでおきます。

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最終更新:2008年07月07日 19:53