ライトミステリー

「よおおまたせさん」
「やっと、来たか」
「低い声無理に出してんじゃねーよきもちわるい」
「――それで、今回はどんな話をしに来たんだ」
「ばっか野郎まずはイステーブルコーヒーだ近くの店までお預けだ」
「呼び出しておいてそれか。救いが無い」
「んなもんがあったらお前はそんなキャラになってねぇし俺も俺で違うだろうが」
「身のない話をして、適当にごまかすんじゃない」
「気にすんなよ今はペースに乗せられてろよそのうちお前の独壇場だ」
「……了解、とりあえず、お前の言う店に行こうか」
「あいよこっちこっち商店街のいっちゃん外れだぜ」
「近くない。それは決して近くない」
「ちけぇんだよ全くもってちけぇ俺がちけぇって言ってんだからちけぇんだよ分かったか?」
「んなに連呼するな。分かった、おとなしくついて行くからさ、早く足を動かしてくれよ」
「最初から殊勝な心がけが出てくると神様にも仏様にも閻魔様にも良いように取り計らって貰えるぜってなこっちだこっち」
「クソッ、最初からその場所を指定してくれれば、無駄な時間を使わずに済んだってのに……」
「無駄は無駄だが様式美みたいな物があるだろうが待ち合わせして目的地までたわいのない会話とかがよ」
「お前との間にそんな美しさはいらない」
「言ってろよ今更そんなこと言ったって困るだの意味ないだの言うつもりはないんだろうが」
「そんな仲、なりたくなかったよ」
「そいつは良いね俺もだよ」


「よっしゃ着いたここだここマスター元気してるか死んでないかー?」
「すげぇレトロ。また随分と雰囲気を大事にしてるね、ここは。旧時代的というか、懐古主義者のソサエティとかがありそうだね。ワクワクするかも」
「棒読みでワクワクとか言ってんじゃねーよ瞳輝かせて心拍数が頻脈になってるなら話は別腹だが」
「んなわけ、ないじゃん」
「ですよねー流石スーパードライ」
「どんな形容詞だよ、のどごしスッキリ過ぎて味わいないってか? あっ、コーヒーください。ぬるめで」
「お前もお前で脈略ないなマスター呆れてんぞでも俺もコーヒー砂糖漬け」
「てまえらは、なんだ? 雰囲気テロリストか? 分かっててやってんだろう、そのコント」
「いえ、全くもって。あっ、初めましてマスター。私、このヘビーマシンガンの友達やってます。是非、縁切りの仕方を大人の視点から聞いてみたいです」
「無理だ、諦めろ」
「うっわ、使えないねー、この人」
「おいおいやめてやれよマスター泣いちゃうだろこの間も妻に出て行かれそうになって足にまとわりついて『嫌だ、やめてくれ! 君が出て行ったら僕のご飯は誰が作ってくれんだい!?』とかわめいちゃったばっかりでご近所さんに冷たい目で見られてるんだから俺の妄想の中で」
「あっ、すげぇマスター。妄想の中とはいえ読点使わせたぞ」
「てまえは、リアルに抹殺したい。迅速に、速やかに、最速で、最高速で!」
「あれ、否定しないんですね」
「最後に妄想って言ってるじゃないか!」
「妄想も、その一言を意図的に記憶から消してしまえば、真実になりえますよ」
「なんで意図的に事実改ざんしてんだよ! まじで近所付き合い駄目になるだろうが――あっ、コーヒー砂糖漬け出来たぞー」
「さすがマスター客の注文にだけはしっかりしてるね金の亡者」
「それもやめろ、仕事してるだけだ――ぬるめお待ちどうさま。でも、この温度で作ってもろくに美味いの作れないぜ?」
「下手だなーマスター」
「物理法則まげてやんよ。とか言えないからな、俺」
「んなネタ要らないからってことで向こうで話そうそうしよう」
「了解。お世話になります、マスター」
「えっ、何何、もしかして客として居座るつもりな訳?」
「そりゃそうだコーヒーだって買ったんだものここのイステーブルでくつろぐよん?」
「いいぞ、その程度のグラス。持ち帰りを許すから外に出て行って――まったまった、他の客は別腹だ代金払え出て行くな!!」
「マスター太っ腹ー」
「いよっ、マスター男前」
「黙れよてめぇらアジってんじゃねーぞ!」


「っでマスターをいじめた所で本題に入ろうか」
「やっぱりあのマスター弄るの、通過儀礼みたいなもんだったのね。私の空気読みっぷりってすごい」
「大丈夫だあのマスターは特に分かりやすいからそれでお前をわざわざ休みの日に読んだ理由なんだがな」
「いや、その辺りは分かってる。今回もどうせあれでしょう、二人して優雅な一日を過ごすフリをして、人がどのようにして死んだかを、考えようってんでしょ?」
「いやまそうなんだけどさってどうしてわかった?」
「最初から、どんな話って聞いてるでしょうが。あれは、どういう話で呼んだのかを聞いたんじゃなくて、その内容がどんな話か知りたかっただけ」
「そいつぁー良いな話が早いやりやすい」
「でしょうね、私もそれぐらい出来る女って訳よ」
「かっこつけても意味ねーけどなよし話そう」
「お願いする。あっ、マスター。普通のコーヒー作って」
「お前、猫舌じゃないのか? わざわざぬるめ指定なんだし」
「はぁ? ふざけてるの?」
「うぜぇ、なめんな! チクショー!」
「負け犬の遠吠えって、良いわよね」
「黙れサドとりあえずあらましから行こうか何時も通り伝聞だぜ」

「えぇ、そうです、人死に。理由は分かりませんよ、例によって。あんなの自殺と同じような物ですから」

「相変わらず冷たいわね、あの子」
「リアリストなのかリアリティズムなのかまっそういうのが若い奴の間に流行ってるんじゃないかね」
「それで? わざわざその話を私に聞かせるぐらいだし、普通の死に方してないんでしょう?」

「はい、そうですそうです。また密室ってやつですよ。みなさん、二時間ドラマとか見過ぎですよねー。不思議が含まれないと満足出来ないのは、それだけファンタジーを渇望しているからであって、みんなメンヘラなんですよ――メンヘラ、ですか? ググってください」

「嫌な現実突きつけるわね。でも、娯楽無しじゃ生きていけないわよ、人間」
「それが人死にに関係してないなら別に良いんだと思うぜ良心が痛まなくて」
「両親が傷むかもしれないけどね」

「抜け道はいくらでもありそうです。中央に首吊り死体、ドアはカギがかかるのが一つ、窓が一つ、換気扇が一つ。場所的な制約のせいで、首吊るのに苦心してるかもしれないです」

「これ、密室なの? 攻略可能な密室は密室って言わないわよ?」
「そうなんだけどなこれはそっちよりも死に方がすげぇんだよ」
「それが、首吊りに苦心するってやつ? まさか――」

「いいえ、そうじゃありません。天井に引っかかりが無い、ではありません。天井が、人を支えられないほど柔らかい物で出来ていた、が正しいのです」

「だってさすげぇよなどんな天井だよ実物見てみてぇ」
「――防音室?」

「いわゆる防音室、らしいです。パチ物ですけどね。天井は音波を吸収する様に、十センチもの厚さでスポンジが詰まっています。その先はコンクリートの天井で、一切傷つけられた様子は無かったらしいです」

「正解よくわかったな」
「この程度なら、どうにでもなるわよ」
「普通の人には分からないと思うけどな」

「どうやって首を吊れたのかがよく分かっていません。ブランブランしてる所を見つけた人が、半ば発狂しながら死体を地面に降ろしたらしいですから。あっ、その人が第一発見者、です。もう一人いますけど、タッチの差ですよ」

「なんというか、駄目な気がするのはなぜ?」
「駄目っていうのはどういうことだよ」
「分からないなら、良い。他に人は? 容疑者に該当しそう、という意味で」

「沢山、でもないですけど、いますよ? 全登場人物は三人。防音室の責任者に、約束をしていた友達、偶々彼を捜していた先生ですか。このうち、最初の二人が第一・第二発見者ですね」

「分かってるじゃない。素晴らしい」
「お前は人が増えると楽しそうに笑うのどうにかした方が良いぜ」
「いやよ、これはドラマなんだから、楽しい展開に、ドロドロ人間展開。それが格別におもしろい」
「良い趣味してるぜまったく」

「とりあえずはこの辺りで。また明日、ここでお話しましょうか?」

「でっ、この話をしたのはいつなの?」
「昨日」
「ってことは、もしかして……」
「あっ、センパーイ、このお店の事だったんですねー『陰気くさくて流行る時代は三千世界の果てにも巡ってこなさそうでマスターが最高にMな喫茶店』っていうのは」
「マスター、泣いて飛び出ていったわよ」
「ひでぇな俺はそこまで言ってねぇ『マスターはMだからなじると喜ぶそんな店』ってだけだ」
「だから、六割なじりを追加してみたんですけど」
「みんなして最低ね、人をいじめてなにが楽しいの?」
「お前が言うなよ」


「マスターは放っておいて、話の続きをしましょう」
「了解でーす。私も色々調べて来たんですよー」
「でったプライバシー侵害手帳書かれた相手は恥ずかしさで死ぬ」
「いえ、私の前にお金を積むんです。つまり、サイフが死ぬ」
「大虐殺ね。あなたはユダ?」
「そのネタは相当に危険ですからね? 自覚してますか?」
「……つい、言ってしまったわ」
「ついじゃねーよついじゃついで済ませられる話じゃなくなるからなそれ」
「国家間戦争が始まりますからねー。まっ、それより身近なゴシップ記事ですよ、私たちが今欲しいのは」
「確かに。さっ、話て。どうせ三文小説、ここでぬるいコーヒーと一緒に消化してしまうのが一番よ」
「同感だね甘い話は要らないよすでにコーヒーがビチャビチャに砂糖漬けだ」
「……うっぷ。そのレベルの甘さは気持ち悪いです」
「どうしてこう、私みたいに空気読めないのかしらね、あなたって。しっかりしてよ、話が進まないじゃない」
「へーへー黙りますよーだ俺ばっかり悪者扱いでさーやんなっちゃうってんだよまったくもって困ったもんだぜ本当にやれやれ」
「随分長い転換式、謝罪編でしたね。まっ、とりあえず続きいきますか」
「うおー無視かーい」
「怪しい人物が三人ほど居たはずだけど、何か話は聞けたの?」
「もちろんです。何時もの通り、ゴシップ好きがなにか嗅ぎ回ってる装いで接近してきましたよ」
「ちくしょう無視が一番辛いんだよでもドSだから分かってるんだろうなぁこいつら」
「「もちろん」です」
「でっ、話を始めて?」


「それでは第一発見者の人から――」
「いえ、セオリー通り、まずは状況からお願い」
「お前らしくもないなそっちは俺に任せっぱなしなのに」
「今回はつまらなさそうだから……良いから、お願い」
「了解ですよ。集めてありますからね、そっちも。じゃあ、流れからいきましょう」

「まっ、まずは密室が構築され、その中には死体があります」
「出発点はそこでいいの?」
「人を絡めた背後関係はまた後ほど、とういうことで」
「了解とにかく密室がありました人が死んでいましたでそこからどうなるよ」
「死亡推定時刻なんて警察関係者じゃないから知りません。噂では、早朝に近かったらしいですけど」 「お前のように的中率百パーの噂屋が居るかよ裏付けだってしてあるくせに」
「なめたらあきまへん。ワテ、浪速の商人やさかい」
「地元民が聞いたら一瞬にして消し炭なイントネーションだった。気をつけなさい」
「関西人が東京の商学校学校へ? はっ、奴らの選民思想は飽き飽きだ!」
「キャラが変わってるし敵を作りすぎだ」
「情報屋がそれじゃ困る。しっかりしていってね?」
「別に差別してんじゃなくてパクってんですけどね。まぁ、良いです。次、十一時まで話は飛びまして、ここで第一発見者と第二発見者が現れます」
「おぉそれっぽくなってきたなどうなるどうなる」

「第一発見者の美里島さんですか?」
「――えっ? そ、そうですけど」
「あぁ、良かったです、間違えてなくて」
「あの、あなたは……」
「あっ、通りすがりのマスコミです、よろしく」
「マスコミ……ッ!」
「駄目ですってそんなに勢いよく立ち上がったら。立ちくらみがして、気づかぬうちに床に倒れているかも、しれませんよ?」
「そんな、あなたは何を言って――」

「いや本当にお前なにやってんだよ恫喝とかそういうことはしないのが紳士協定だろうが」
「私、女ですよ?」
「んじゃ淑女協定だな」
「先輩は男」
「しまったー!」
「なにこのコント怖い――ではなく、なにやっているの。マスコミなんていうウソをつく必要が全くないじゃない」
「でも、学生新聞社ですって言ってあしらわれるよりは良いんですよ。前のもこうやって情報手に入れたんですから」
「この策はこの策で穴がありそうだけど……ところで、服装は?」

「私服に、腕に朝目新聞社ってワッペンくっつけてます」
「ずいぶんな大御所サイト巻き込むなお前はアカいぞ腹が」
「「ダウト」です」
「ちっ」

「あなたが二人目の幸島敏益さんですか?」
「二人目というのは……いや、嬢ちゃん、どっからここへ来たんだ? 警察が関係ない人を入れないようにしていると言っていたが」
「えぇ、ですから逆説的に私は関係者である、という事ですよ」
「おぉ……まぁ、そうなんでしょうな。どこからどう見ても刑事さんには見えないが……」

「ちびって言われてるないやまじにちびだから仕事してる人間には見えな――!」
「ちっ、かわしやがった」
「ひでぇぞお前死角から伸びるフリッカーアッパーとか切れ味日本刀並すぎて近寄れねぇよ!」
「鍛えに鍛えた、たった一つの武器は、唯一己を立たせるための礎!」
「お前はお前でキャラ変えてんじゃねぇでもそっちのほうが好きかも」
「なっ――! とかで、満足?」
「満足したー萌えたー」
「先輩、骨抜きですね」
「使い捨てるにはもってこいよ。さっ、続けて」



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最終更新:2009年07月06日 23:41