インタビュー ウィズ 空き缶


土場藩国。帝国の南、長崎に位置する国であり、
空き缶が王を務めるという部分以外は、とくに名産品もなくごくありふれた国である。
もっとも知能「ひくい」で安定している空き缶が王を務めるのは摂政たちの努力と、
表に出てこない裏王といわれる王の弟の尽力もあるのだが。

さて、この土場藩国、犬のなかで最も自由の国である。
通常の自由ではなく、どちらかというと空気を読まない。むしろ空気ガン無視の自由さである。
もっというと帝国でありながら「プリポチ…えーと、誰でしたっけ?」というのが割と
通ってしまう国でもある。
彼らの旗はただ一つ「面白いは正義」であり「親が泣かなきゃ何でもやります」という
若手の体当たり芸人のような根性であった。
そんな彼らも当然戦争イベントであれば剣を取り敵を倒すが、彼らを動かす理由は
「世界が滅びるから」という理由ではなく「お前の態度が気に入らない」であることを追記しておく。
そんな国の王は一体どんな生活をしているのか、今日はそれに迫ってみたいと思う。

藩王の取材に王宮を訪れた俺を迎えたのはスキンヘッドに黄色いジャンパーを着た男だった。
いきなりとんでもないのがきた、と思ったがどうやら彼はこの国の摂政らしい。
藩王を取材したいという俺に対してい彼は「いんじゃねぇの?」の一言であっさり片付いてしまった。
彼の案内で、藩王の部屋にたどりつく。摂政が目の前でドアを開けた。
この国を支配する王とは一体どんな存在なのか。高まる期待を前に、唐突に扉が閉じられた。
「まあ、藩王がいないわけだが…」
 まるで、今日は雨だな、とか時候の挨拶のように言われてしまった。
「い、いやいないって…」
「なぜか、いない!」
「いやなぜって…」
 押し問答になりかけたが、唐突に廊下に響いた声に遮られる。
廊下の向こう側からダンボールで作ったプラカードを持った空き缶がいた。
これぞイラストなどでおなじみの藩王なのだが…なぜか2缶…いや2名いる。
「われわれはー、か、かじょー?な…えっと」
「ろ、ロードーにはんたーいするー」
「そうだー、そうだー」
「いちにち3かいのおやつとー」
「いちにち2かいのおやつをー」
「せいきゅうするー」
「するー」
 1日3回のおやつと、1日2回のおやつって、それ普通におやつ5回でいいじゃないか。
それ以前に食事はどうした。全部おやつか。もう、どこからつっこんでいいのかよくわからない。
予想外に王の知能は低いようだ。
「あ、せっしょーだ」
 バタバタ、いやゴロゴロと空き缶が2つほど転がってくる。となりにいる摂政は
 慣れたものでポケットから何かの包みを取り出して空き缶に手渡した。 
「ああ、角砂糖やるよ」
 ぽん、と投げられた角砂糖を空き缶が拾う。見ようによってはシュールな光景だ。
「か、角砂糖だー」
「角砂糖だー」
「いいひとだー」
「いいひとー」
「わーい」
 来た時と同じようにごろごろと転がって行く。途中でちゃんとダンボールを回収し、今から王宮の中を練り歩くらしい。
「えーと、あれは・・・」
「ダンボーです」
 明らかにダンボールじゃねぇし、空き缶だし!!しかも2体に増えてるし。喉の奥まで出てきたセリフを飲みこむ。
「王が地下で拾ってきてな」
「で、どっちが本物です?」
「…それがわかれば俺らも苦労しない件。で、いいのか。取材」
「お、おいかけてきますー」
 何か適当に厄介払いされた気がしながらも、空き缶の後を追う。しかし相手は王宮を知り尽くしているのか
予想以上に移動スピードが速く、追い付いたころには彼らは中庭で日向ぼっこをしていた。
どうやら1人の少年の膝で休んでいるらしい。年は17か18だろうか。
 3人並んでいると妙な雰囲気だった。なぜか3人(一人と2缶?)の近くには猫までいる。
藩王と親しげにしているが、一体だれだろう。新しい閣僚がきたという話もきかないし、
不審そうにのぞいていると相手に気付かれてしまった。
「おー、侵入者がいるぞー」
空き缶をのせたまま、少年が声がかけてくる。あわてて飛び出して頭を下げる。
「ち、ちがいますよ。取材ですよ、取材。許可はとりました!!」
少年は少し笑うと、空き缶を示して首をかしげた。
「取材?」
「あ、はい…」
「ムリだと思うよ」
どうやら空き缶は2体ともすやすやと寝息を立てている。昼寝の時間のようだった。
「ま、今度でいいじゃない、おやつおいしいよ」
「は、はぁ」
その後、彼が調理場でくすねてきたというプリンをふるまってもらった。
冬なのに、彼らがいる日向は暖かく、だんだん眠くなっていった。
藩王への取材はできそうにないし、そのまま昼寝というのもいいものかもしれない。

あの時、顔を合わせた少年がきぐるみから出てきた中身だと知ったのは、その日の夕方
すっかり寝過ごした俺を起こしに来てくれた褐色の肌の犬士の話を聞いた後だった。

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最終更新:2008年01月31日 01:33