3-271 :初夏の風:2010/09/12(日) 15:03:01 ID:rCxzesR9
どんな男でもよかった。
それがどんな恋でもよかった。
適当に友達と遊んで、適当に男と一緒にいれば、長い夜はしのげる。
後悔はしていなかった。
向こうも私以外と関係を持っても別に、それを攻める気はないし。 どっちもどっちな話だから。だから付き合ってる男が束縛とかしだすと途端に面倒臭くなる。遊びなのに本気にされるとマジで気持ち悪い。

それがここ最近遊んでいてもつまらない。
美味しいお酒を飲んでても、レベルの高い男と遊んでいてもいつも思い浮かぶのは同じクラスの冴えない男子。

3-272 :初夏の風:2010/09/12(日) 15:04:28 ID:rCxzesR9
線が細くて垢抜けなくて、いつも静かに教室の隅で本を読んでいる。人と話をしているのを見かけてもいつも笑顔でうなずいているだけ。どちらかといえばオタク系に分類されるような奴で、絶対に私から関わ りたいとは思わないようなそんな男。
なのに…
いざ男とやっていても、アイツの顔がちらつく。
それはいつも笑ってない。
きつく口を閉じて今にも泣きそうな悲しい顔。

アイツが私を制する。
アイツが私を咎める。

日に日にアイツの存在が大きくなる。こんな自分、今まで想像出来なかった。

3-273 :初夏の風:2010/09/12(日) 15:07:19 ID:rCxzesR9
あの日、以前から遊びで付き合っていた男にマジで好きだと迫られたので断ったら、やられそうになった。マジな顔で乗っかかってくんのがほんとに気持ち悪くて、思わず叫んだら新海に助けられた。
私を庇って男に殴られた新海に、さすがの私もお礼をしないわけにはいかない。少し引きつった営業スマイルでお礼を言うと新海はたった、たった一言だけ…
「あんま自分を安売りしないほうが良い」
とだけ呟いた。
むかつく…新海ごときが私に説教?一気に頭に血が上った。営業スマイルから一転、目を細めて新海をきつく睨み上げる。
「いや、つーか別にアンタに関係なくない?私が何してようと」
私の睨みに新海が怯んだように顔をふせた。ほんの少しの静寂…でも次の瞬間、意を決したように新海が顔をあげる。
「そうだね…でも、今より自分を大切にしたらきっともっと楽しくなると思うから、もっと風見さんは楽しそうに笑えるはずだから…だから」
「はぁ?」
「自分を大切にした方が…良いと思います」
少し困った顔で、でも優しくて真剣な眼差しで新海は微笑んだ。何故かズキっと胸の奥がうずいて声が出せなくなる。うざい…マジでうざい!新海のくせに…でも何で何も言いかえせないんだろ?
「…っ……」
「ごめん、余計な事言って。でも今日は帰った方が良い。良かったら送っていきます」

3-274 :初夏の風:2010/09/12(日) 15:12:52 ID:rCxzesR9
私の無言の意味をはきちがえたのか…新海は、慌てた様に私を伺い見た。
私は拒否するでもなく、新海をもう一度睨むと黙って歩き出した。新海はどうしたものかと佇んだままだ。私は足を止めイラついたように振り向く。
「送ってくれないわけ?」
新海はえ…あ、うんっ…と小さな声で返事を返すとおずおずと私の後を追いかけてくる。
その日だけは素直に家に帰ってやった。

それからは知らないうちにアイツを目で追って、
戯れに時たまアイツと話すようになった。突然話しかけられるようになって新海も最初はびびってたし驚いたみたいだけど、次第に普通に話をするようになった。

3-275 :初夏の風:2010/09/12(日) 15:18:34 ID:rCxzesR9
何で話しかけるようになったかなんて自分でも分からない。始めは、ちょっとからかってやろうと思っただけなのかもしれない。でも、でも最近では新海の声 を少しでも長く聞いていたいと思い始めている自分に気が付いた。
新海が…良い。新海の側が良い。
遊びで男と簡単に寝るなと諌める真剣な眼差しも。
どんな悩みも打ち消すような優しい笑顔も。
入ってはいけない私の心に深く突き刺さる。

3-276 :初夏の風:2010/09/12(日) 15:20:00 ID:rCxzesR9
でもこの想いは誰にも言えない、アイツに…新海にも言えない。
だって新海は綺麗だもん。
私みたいに汚れてないもん。
それに……私は新海のタイプじゃない。新海はもっと清楚で可愛いタイプの子が好きだと思うから。私みたいに、世間一般的で言ういわゆるギャルで馬鹿で遊びまわってるような女じゃ多分新海は迷惑だろうから。それが、私の理性をかろうじて止めている。
それでも、私の想いは止められない。
新海に触りたい。 新海に抱きしめてほしい。キスをして、頭を撫でて好きだよって言ってほしい。その想いが強くて、苦しくて、悲しくて、歯痒くて。
眠れない夜も何度かあった。
その反動か今までにないくらい荒んだ遊び方をした事もあった。
――無理矢理色んな男とやろうとした事もあった。
それでもやっぱり目の前には新海が浮かんだ。
やっぱり悲しい顔をして、私の名前を呼ぶ。
「好き」という感情を確信した時には、もう私は他の男と遊べなくなっていた。
友達との遊びにも男が来るようなら足を運ぶことはなくなっていた。
新海を、新海だけを想うようになっていた。
それは……昔、初恋の彼にも感じた事がない想い。
「本物」の恋。
一生他の男となんか遊べなくてもいい。
アイツだけが…新海だけがいい。
分かってる。
私にはその資格がない。
ずるい人間で汚くて、色んな人を裏切って弄んできたんだもん。
それでも私には新海が必要だから。
新海がイヤならHとかしなくていい。
新海のそばにいられれば……それだけでいい。

3-277 :初夏の風:2010/09/12(日) 15:22:45 ID:rCxzesR9
「あれ、風見さん? どうしたの?こんな時間に」

放課後の教室で、窓からぼんやり校庭を見ていた私に新海が声をかけてきた。
初夏の夕方。 暑くも寒くもない涼しげな風。
新海は不思議そうに首をかしげながらちょっと間を空けて私の隣に立つ。

「そういう新海は?」
「俺は……なんとなくです……何となくここに来たら風見さんが……」

ぶわっと涼しげな風が新海の声をさえぎった。ふと横目で新海を盗み見る。
少し目を細め気持ちよさそうな新海の横顔、優しい笑顔。
そんな時の彼はちっとも悲しい顔なんかしていない。
私の、見たくない顔じゃない。

「……」
「風見さん、何か悲しそうですね……どうしたんですか?」
「え…?」

3-278 :初夏の風:2010/09/12(日) 15:23:43 ID:rCxzesR9
汚れを知らない瞳。 そんな瞳で私を見る。
汚れきった私を。
新海はこんな私の部分を知ったらどう思うんだろう。
いつも新海を見てること。
いつも新海を想っていること。
いつだって新海に触りたいと、抱きつきたいと思ってること。
散々男と遊んできたのに今更って軽蔑するかな?気持ち悪いっておもうかな?
優しい言葉に私の自制心がきかなくなってくる。
全部……新海のせい。
私はそっと新海の胸に飛び込んだ。
「…うおぇぉわっ!?」
びくついた後、新海が変な奇声を上げて固まる。
このまま一生私の物になったらどんなに嬉しいだろう。
笑顔ですら自分の中に閉じ込めたい。
誰にも見せたくない、触れさせたくない。
ずっと私のそばにいて、私だけのために笑っていてほしい
「じゃあ新海が慰めてよ……」
驚いてる?
胸に顔を埋めているから今の新海の表情は私には見えない。
でも新海も今の私の表情なんて見えないでしょ。
こうしてるだけで、幸せに思う私の表情なんか。
私たちのふたりの息遣いがこんなにも近いのも。
ぶわっと勢い良く私と新海を包み込んだ初夏の風しか知らない。

最終更新:2010年09月13日 18:07