01-149 名前:本当の初恋 前半 1/11 :08/08/22 23:25:18 ID:9DoWPBEf
意見を踏まえてまた投稿します。またかききれなかったので前半部分を。


「何であんたの顔で付き合ってくれとか言えるの?ねえ、教えて」
 目の前の不細工は口をぱくぱくさせている。何こいつ。
「え・・え・・・」
「え・・じゃないってば。あんたの家に鏡はないの?」
 ますます口をパクパクさせる不細工。相当驚いているようだったが、私にはどうでもいい事だった。こいつが死のうが生きようがどうでもいい。
「ひ・・ひでえだろいくらなんでも・・普段の中林さんは・・」
 普段の私とは違いすぎる、とでも言いたいのだろうか。
 何でこいつはそんなに人を簡単に信じられるのか。十数年も生きてきて、社交辞令や建前なんかの存在を知らないのだろうか。
 私は美少女だ。稀に見る顔とスタイルの良さを誇る美少女だ。
 ほとんど化粧が必要ないほど可愛いが、化粧もオシャレも大好きだし、センスはいいほうだ、と思う。
明るくて人気者で、人間として最高に価値があるこの私が、何故こんな不細工(確かミナミとか言う名前だっただろうか。部活でよく来ていた他校の生徒だ)
と付き合わねばならぬのか。
 今までに、私に付き合ってくれと言ってきた男の数は数え切れない。
 真顔で言う男が6割、冗談ぽく言う臆病なイケメン(&イケメン気取り)が3割、後は金や背景、人数の勢いや空気などで私を落とそうとするくずが1割だ。
 正直、今まで私に見合う男はいなかったので、それら全てを断ってきた。
 私にふられた男の中には、私がレズだなんて噂をばらまくのまでいた。
 だからこそ最近は、それなりに交友関係の広そうな男相手には、「それなりの態度で」お断りするようになった。
影響力のなさそうな男には、相変わらず本心をぶちまけてすっきりしているが。今のように。
「うっさい、死ね。消えろ。バスケやってればもてるとでも勘違いしたのか不細工」
 ミナミという男はさらに早く口をぱくぱくさせた後、その場を全力で走って去っていった。
「あーあ、いい男いないかなー」
 かつて私が自分に見合うと感じた男は1人だけだ。しかしその相手はテレビの向こう側の相手で、しかも私と出会う前に病気で死んでしまった。


01-150 名前:本当の初恋 前半 2/11 :08/08/22 23:27:52 ID:9DoWPBEf
「あ、今日私寄るところあるから。それじゃ」
 友達との帰り道。ある交差点まで来たとき、私はおもむろにそう言った。
「え、なに?あ、分かった、カレシ?」
「うん、まあそんなとこ」
 勝手に勘違いしてくれたことをありがたく思いながら、私は一人、ある場所へと向かった。
 そこは、人にはあまり言えない私の趣味の場所だ。
「はーい、おじーちゃん」
「こらこら、せめて制服だけは着替えてから来なさい」
「あ、ダイジョブダイジョブ。替えの服持ってるからトイレで着替えてくるね」
 いくら私でも、そこが制服のままではいられない場所だってことぐらい、知っていた。
「うーん、今日も良い音が聞こえる・・」
 トイレの中からも聞こえる、心地良いジャラジャラという音。
「あい、着替えてきたよ。どう、今日は?」
「ああ、今日は強い人がいるよ。まだ若いんだろうに」
「え、あー、あの人ね。本当に若そう」
 示された方を見ると、帽子を目深にかぶった男の人がいた。その格好のせいで顔はよく見えないが、ひげは見えないので若いことは確かだろう。
「どんな感じ?」
「うん、実際に見てみると良いよ。とにかく振り込まないんだ」
 おじいちゃんに促され、私は彼の後ろに立って様子を見ることにした。
 オーラスだったため、打ち筋をしっかり見極めることは出来なかったが、確かに強い、と感じた。危険牌を全て止めている。
 ・・・そう、ここは雀荘。そして先ほど話した老人は私の実のおじいちゃん。小さいころからよく顔を出していて、ルールややり方を教わった。
 すぐに夢中になった。そしてそれは今も続いていて、最近ではこの雀荘常連を相手にしてもトップのアベレージを残すまでになっていた。
 麻雀は楽しい、最高だ、と思う。まあ、友達にはあまりいえない趣味だったが。


01-151 名前:本当の初恋 前半 3/11 :08/08/22 23:30:15 ID:9DoWPBEf
「お、ユウちゃん。来たんだ。ねえ、ちょうど俺抜けるところだから、俺の代わりにうってみてよ。仇とってくれ。あ、半荘清算だから」
 この店の常連のおじさんが私に席を差し出す。もう何度も打ち負かしている相手だがら、お互い顔をよく覚えていた。
「ふふーん、いいよ。やりましょう。あ、よろしくお願いしまーす」
「おねがいしまーす。か。ユウちゃんはやっぱり可愛いなあ」
 両隣の常連のメタボのおっさん二人がにやにやしてそう言う。ああなんて見た目が悪い人たちなんだろう。麻雀するより運動でもしなよ、と言ってやりたい。
 なんて感情はおくびにも出さず、私はにこにこしながら椅子に座る。
 と、そこで私はある事に気づいた。目の前の男、つまり強いと評判の、先ほど私が後ろから打ち筋を見ていた帽子の男の反応がなかったのだ。
 こういう無言の反応の場合、たいてい、というかほとんどの場合は照れ隠しか、単に「俺はがつがつ行かないぜ」アピールである。
 やれやれ、クール気取ってるつもり?と思いながら私は自分に配られた牌を見た。
 いきなりこれか、と思った。高得点が狙える、それでいてばれにくい迷彩を施す事ができやすそうな理想的手牌。
 事実、その局はメタボおじさんの振込みで一気に点棒を得ることができた。
 勝負あった!と思った。
 私はふり込まない、点数を守ることにかけては自信があるのだ。
 そしてその予想通り、局が進んで行っても私の点数が減ることは無かった。
 やがてラストの局が来た。私は勝ちを確信しつつ、順番を消化していく。そして残り数巡となったところで、例の帽子男がリーチをかけた。勝負に出たのだ。
 ラストでリーチということは、当然トップ狙いだろう。私は慎重に彼の手配を見て、予想をする。
 その結果、ある牌を捨てた。
 私は、先ほど後ろで観戦していた際、彼の癖を見つけたのだ。すなわち、欲しい牌をやたらと目で追ってしまう癖だ。
多分彼は、そのために深く帽子を被っているんだろうと思う。
 彼の捨て牌の傾向、そして目で追った牌の情報をもとに、私は最も安全そうな牌を捨てた。しかしその瞬間。肌がざわっ・・とした。
「ロン・・」
「え?」
 彼は手を倒していた。私の捨て牌に対して。つまり、私からあがった、ということであり、私の点を奪う、ということである。
「う、うそ」
 私に電流が走った。
信じられない思いだったが、彼の倒した手は確かに私の捨て牌であがっていて、それは逆転するに充分な形だった。
 そのどこかで聞いたような声の「ロン」を聞いた瞬間が、私の人生最大の転機だった。

01-152 名前:本当の初恋 前半 4/11 :08/08/22 23:33:14 ID:9DoWPBEf
 それからも、彼は度々私のおじいちゃんの雀荘に来ていた。
 最初はたまたまだろう、と思っていた私だったが、何回やっても彼は強かった。
 もちろん私も勝つことはあった。しかし総合計から言えば遥かに負けていて、しかも勝った時はやたらと手が最初から良いという時だけだった。
 ある程度話もするようになった。
 無口で偏屈な男かと思ったが、話してみると意外にも感じの良い、素直な性格の男だった。・・やっぱり、やや暗かったが。
 話しの大半は、麻雀のことだった。私と彼が初めて会った時、何故私が負けてしまったのかと聞いたら、
『勝負が始まる前の局で、私がギャラリーとして後ろから彼の手を見ているとき、わざと癖があるように見せて引っ掛けた』とのこと。
「麻雀漫画の読みすぎ!」
 と彼にはつっこんでおいたが、実際に引っかかってしまった私が言ってもどうしようもないことかもしれない、とも思い、素直に参考にすることにした。

 そしてある日。
「ねえ、ちょっと」
 私は帰りがけの彼に声をかけた。相変わらず、深く帽子をかぶっていて、表情がいまいち読み取れない。
「ねえねえ、普段は何してる人?」
 私らしくも無い質問だった。気まぐれではあったが、しかしこの正体不明の謎の麻雀バカが普段何をして生計を立てているのかというのはちょっと気になるところだった。
「・・実は学生なんだ」
 と、彼は言いにくそうに言った。
 私は、何故彼が言いにくそうに言うのか分からなかった。この店には中年だけじゃなく大学生とかだってけっこうきてるのに。
「へー、大学生なんだ。もしかして学費これで稼いでるとか?あはは」
 あははと笑いながらも、「実際こいつ稼いでるなあ」と頭の中で呟いた。 
 と、その時ぐーっと私のおなかが鳴った。そういえば麻雀にしばらく没頭していて飲まず食わずだったことを思い出す。
「あはは、おなか減ったんだ?」
「え、うん・・・」
 彼は笑ったが、つい私は彼の顔をまじまじと見てしまった。彼の笑い顔は初めてみたからだ。
「どっかで食べて行こうかな」
 と何も考えずに呟いた瞬間、彼と目があった。
 ・・もしかして。

01-153 名前:本当の初恋 前半 5/11  :08/08/22 23:36:27 ID:9DoWPBEf
「そっか。それじゃあね」
「え、ちょっ!」
 私は驚いてついつい突っ込みのような声を出してしまった。当然誘われるものと思っていたからだ。
今までの私の人生では、こういう風に私のおなかが鳴ろうものなら、その時近くに男達がいたならたいてい、「一緒に食べに行こうと」誘ってきたからだ。
 もちろん、誘ってこない男もいたにはいたが、そういうのは大抵私に「声をかけたいけど声をかけない」というオーラを放っていた。大小の差はあれど。
 それがまさかのガン無視。私はついつい一言言いたくなってしまった。
「ねえちょっと。こういう時って一緒に食べてく?とか言うもんでしょフツー」
「え・・。じゃあ、一緒に食べてく?」
 もちろん答えは決まっている。
「・・・・・嫌」
「な、なにそれ・・じゃあなんで・・」
「う、そ。たまには男と二人っきりで食べるのもいいかもね」
 普段は女友達と喋りながらだったり、友達の付き合いで渋々蝿のように寄ってくる男と大勢で食べたりしてるもんなあ、と心の中で続ける。

「ねえねえ、帽子取ってみてよ」
 ゴハンを一緒に食べた帰り道、私は彼にそう提案した。彼はいつも帽子を被っているため、どんな顔か、どんな髪型か、私は知らないのだ。
「ここなら、麻雀やってるわけでもなし、視線とか分かっても何の不都合もないでしょ」
「うん・・そうだね。でも俺が帽子取らないのは別に視線とか関係なくて・・」
「?」
 なんだろう。何故彼はそこまでして顔を見せたがらないのか。私の頭の中ではクイズ番組が始まった。
 ①指名手配犯、②酷い傷や火傷がある、③物凄く不細工で人に見せられない、④実はのっぺらぼう・・私は可能性の低い①と面白回答の④を捨て、②か③にしぼった。
 多分②だろう、いや③かな、などと考え込んだが、答えは出るはずもなく、結局私は彼に頼むしかなかった。
「ねえお願い、帽子とってみて。驚いたりとかしないから」
 ②でも③でもカバーできる気遣いのおかげか、彼は帽子をとってくれた。
「わあああああ!」
 私は約束を破り、絶叫して驚いてしまった。
「驚かないって言ったじゃん・・」
「ご、ごめん」
 答えは②でも③でもなかった。
 彼が顔をかくしていた理由は全く別だったのだ。

01-154 名前:本当の初恋 前半 6/11  :08/08/22 23:39:21 ID:9DoWPBEf
 翌日。
 私にとって、教室は安息の場ではなくなった。
「どうしたのユウ?」
 女友達が聞いてくるが、私は適当に返事を返し、元気を装う。
 私はある同級生の男の子の背中をちらりと見た。振り返らないでよ、頼むから、などと念じながら。
 しかしその願いもむなしく、彼は振り返り、一瞬私と目が合った。しかし直後に何も無かったかのように前を向き直した。なんて心臓に悪い状況なんだろう・・。
 そう、例の帽子男は、私の同級生だったのだ。
 彼が帽子を被っていた理由は単に、高校生だとばれたらおじいちゃんの雀荘に入れてもらえなくなるからだった。
 私の前で中々顔を見せなかったのも、単に雀荘に出入りしていることを学校にばらされたくなかったから。
 ひどい!と私は心の中で叫んだ。すっかりだまされていた気分だった。
 彼とは昨日、雀荘に入り浸っていることをお互いに誰にも話さないよう約束した。彼の方はそれで良かっただろうけど、私の方の精神的ダメージは大きい。
同年代の男子なぞに負けていたことが分かり、悔しくて仕方がなかったのだ。

 とはいえ、それからも彼とは雀荘でよく会った。
 彼は相変わらず強く、手加減などしてくれなかったが(されたらされたで嫌なのだが)、以前より言葉の端々に優しさがこもるようになった。
 お互い顔を知っているせいか、以前よりずっと親近感が沸いたのだ。
 彼とはもちろん、学校では話はしない。
 しかし麻雀が終わった時は、度々彼と食事に行くようになった。まあ食事といっても安いファーストフードばかりであったが。
 そしてある夜、急に気づいてしまった。彼のことをずいぶんと信頼している自分に。
 そしてあのそれほどかっこよくも悪くもないような微妙な顔が、可愛く、あるいはかっこよく見えたりしていることを。
「ばっかじゃないの、あたし!」
 と、一人自分のベッドの上で叫んでみるが、もう気持ちは隠せなくなっていた。
 がつがつせず、かといって気後れしない彼みたいなタイプは、考えてみれば初めてだった。好きな事を一緒にして、わらったり怒ったりを共有するあの小さなスペース。いつしか私は彼を・・
「だからばっかじゃないのあたし!あんなレベルの男!」
 私は再び一人で叫んでいた。
 しかし叫べば叫ぶほど、自分の心臓が高鳴り、否定できない感情がとめどなく沸いてくるのを感じた。
「くっそう恋か。私としたことが・・・」
 口元の緩みを私ははっきりと自覚したまま、私はそのまま眠りについた。

01-155 名前:本当の初恋 前半 7/11  :08/08/22 23:42:21 ID:9DoWPBEf
「よ、ユウ!今日こそ俺と遊びに行こうぜ。いいとこ見つけたんだ」
 翌日の休憩時間。
 背後から聞きなれた声がしたが、私は振り向きたくなかった。例のしつこい男だと確信していたからだ。クラス内では八方美人を演じている私だが、こいつ相手には冷たくしてもマイナスイメージにはならない。
「なーなー、無視すんなよ。行ってみようぜ、楽しいんだから」
「うるさい」
 振り返らないでいると、そいつは私の前に移動して視界に入ってきた。なんてうざい男なんだろう。
「タケシ、先月あんたが嫌がる女の子に襲いかかって未遂で捕まったって話、有名なんだよ。あんたと話してると私までみんなから浮いちゃうでしょ。話しかけないで変態」
「いやあ、あの女はひでえビッチだったぜ。だまされたんだよ。よくいるだろ、誘っておいて急に気を変えて、無理矢理とか言う女。俺は被害者なんだよ」
「あっそう。でも仮にあんたが被害者だとしても話しかけられたくないの。あっち行って」
 私の拒絶発言に、一緒にいた友達も加勢してくれる。
「そうだよタケシ。あんたどっか行ってよ」
「そうよド変態。レイプ魔」
「おいおい、俺はユウの本心を見抜いて誘ってるんだよ。あれだよ、あれ。ツンデレってやつだ」
「うっざぁ・・・」
「きもい・・」
 白けたムードが漂う中、不意に別方向から私を呼ぶ声がした。
「中林さん」
 ふと見ると、すぐそばに例の雀鬼・・本名、北君が立っていた。
「え・・?」
「ちょっと、来てもらえるかな」
 意外な展開だった。私は驚きのあまり、ちょっとの間口をパクパクさせていた。
 どこかで見たリアクションだ、と思いながら。
 とりあえず、私は素直に彼の後についていこうと席を立った。
「おいユウは俺と・・」
 タケシの声には、誰も耳を貸さなかった。


01-156 名前:本当の初恋 前半 8/11  :08/08/22 23:43:46 ID:9DoWPBEf
「ね、ねえ何で学校で話かけてきたの?」
 屋上に着いた途端、私はそう聞いた。
「うん、ごめんね」
 彼はさらっと謝る。どうやら本当に話したいことがあるようだ。
 もしかして、と思った。
 ここは屋上、そして男の子と女の子が二人きり、となれば、あのイベントしかない。
そう、私はもう飽き飽きしているあのイベントだ。
「あ、あのさ、もしかして・・あれかな?」
「え?あれって?」
 私の問いに、彼はすっとぼける。分かってるくせに。
「もしアレなら・・私は、オーケーだよ。うん。実は私も・・」
 ごくりとひとつ唾を飲み込み、続ける。
「あなたが好きだったの」
「・・・・・!」
 彼はびっくりしたらしい。固まった表情のまま、唖然として私を見ている。
「えへへ、私人に好きって言ったの初めてなんだあ」
 浮かれる私を尻目に彼の顔はやがてどんどん暗くなっていった。
「え、あれ?どうしたの?そんな顔して」
 暗くなることなど何一つ無いはずなのに、と思っていると、彼は信じられない発言をした。
「・・・ごめん」

01-157 名前:本当の初恋 前半 9/11  :08/08/22 23:44:55 ID:9DoWPBEf
 空気が一気に冷えきった。ほんの少し前に彼の顔は固まったいたが、今は私の顔が固まっていた。
 今、今なんて言った?
「え、な、何て今?」
「ごめん、付き合えない」
 高ーい場所に上げてもらったあと、いきなり落とされたような感覚だった。
足から力が抜け、いつしか私はへたりこんでいた。
「中林さん!」
 あわてて駆け寄ってくる北君。
 信じられない、こんなの信じられない・・
「嘘、でしょ?」
「・・ごめん、本当なんだ。実は今日、話したかったのは・・」
「聞きたくない!」
 そう叫ぶや否や、私の拳は彼の顎を狙って放たれていた。しかし惜しくもあたらない。
「うわっ!ちょっと、頼むから聞いてよ、ミナミのことなんだ」
「・・・ミナミ?」
 空白状態になっていた頭にぽんと入り込んだミナミ、という言葉をあまり機能してない頭で分析する。
「ミナミ・・方角?それとも大阪の・・」
「違うよ、高校生のミナミだよ。君が先日振った」
「え・・?・・・あ・・・あっ!」
 私はようやく思い出した。自分に先日、告白してきた男の名前だ。
「ああ、いたいた!確かミナミとか言う他校のバスケ部員」
「そう、あいつ、俺の友達だったんだ」
「・・・・・」
 一瞬意味が分からず、私は沈黙してしまったが、やがて顔が青くなるのを感じた。

01-158 名前:本当の初恋 前半 10/11  :08/08/22 23:45:49 ID:9DoWPBEf
「あいつの振られ方、聞いたよ。正直、聞くに絶えなかった・・」
「ちょ、ちょっと待って、なんて言ってたの?」
「え、だから不細工とか、何であんたの顔で付き合ってくれとか言えるの?とか、死ね。消えろ、とか」
「・・・」
 一字一句間違っていなかった。
 しかし何とかイメージを挽回したい私は、必死に言いわけする。
「う、うそだよ、そこまで言ってないよ。もうちょっとソフトだったし・・」
「・・本当に?」
「うん」
「ふーん・・・」
 お?反応あり?もしやちょっと修復できた?と期待した途端、
「でも他の人からも聞いたんだ。君に振られた人から君の話を」
「・・・・・」
 また高いところから落とされた気分になった。
「本当に、やばいぐらい酷い罵倒だった」
「で、でもさ、それってふられたからつい悔しくて誇張しちゃってるだけだよ、みんな」
「・・・・・」

01-159 名前:本当の初恋 前半 11/11  :08/08/22 23:47:14 ID:9DoWPBEf
 彼の表情はちっとも変わらない。私はますます焦る。
「それに、ふる時ってあとでしつこくされて嫌だからはっきり言った方が良いと思って。だからかなりきつめに・・あ」
「やっぱり酷いこと言ったんだ・・」
「ち、違うのよ」
 暗に認めてしまった自分の迂闊さをのろいながら、私は必死に釈明する。しかし彼の心は変えられなかった。
「・・ごめん。俺はミナミと昔からの親友だから、それだけでも君と付き合うのはまずいし・・やっぱり、君の本性ってのがどうしても許容できない。
ごめん。俺頭がちょっと固いのかもしれないけど」
 そう言って彼は、一人私を残して教室に戻っていった。
「せっかく・・好きになったのに・・」
 私の目から大粒の涙があふれてきた。 
 演技ではなく、本当に泣いたのは久しぶりだった。

01-166 名前:本当の初恋 (中) 1/6 :08/08/24 00:35:57 ID:NadPjgE/
続きです。後編を、と思っていましたが思いのほか長くなり、まだ書き終わりません。ごめんなさい。
ゆえに予定を変更して、後半ではなく中盤として投稿させてもらいます。


「ちょっとユウ、ユウってば!」
「え・・なに?」
「もう、またぼーっとして話聞いてない。最近おかしいよ」
「うん・・そうかな・・」
 彼にふられて以来、私は抜け殻だった。どんな話を聞いても、何をしても夢中になれず、毎日をただ消費していくだけの日々。
彼と顔を合わしにくいという理由から、雀荘にも行っていない。
 今日は友達の付き合いでバスケ部の練習試合を見に来ていたが、やはり試合内容も何も頭に入ってこない。
「ねえねえ、バスケ部の沢川君、かっこいいよね」
「え?・・ああ、そうだね」
「もー、どうでも良さそうに言わないでよ」
 だってどうでも良いもん、と頭の中で付け加える。
 しかしあまりに話につきあわないのもまずいと思い、私は少しだけ集中して試合を見る。
 と、その時一人の男の姿が目に入った。忘れもしない強烈な不細工顔。確かミナミとかいう男だ。
 交代でコートに出ると、その顔に似合わず華麗なテクニックを見せて、ゴールを量産していった。
「ありゃー、相手のチームが主力出してきちゃったね」
 友達の言葉に私は久々に耳を傾けた。そうか、主力だったのか。本当にバスケはうまいんだなあ。顔はあれなのに。
 やがて試合終了のブザーが鳴った。結果は私の高校の負けだったが、正直勝敗はどうでも良かった。試合が終わったということに意味があるのだ。私はすぐさま客席を離れ、下へと降りていく。
「ごめん、ちょっと私用事できた」
「え?ちょっと、まさかあんた沢川君に・・」
 酷く勘違いした友達の台詞を背中で聞き流しながら、私は目的の相手に近寄っていった。
「ねえ、ミナミ君だっけ」

01-167 名前:本当の初恋 (中) 2/6 :08/08/24 00:37:41 ID:NadPjgE/
「え・・あ!な、何の用だよ!」
「ちょっと良い?話があるの」
「何だよ今更」
「お願い」
 最初不満げに答えた彼も、結局は私に従い、外へとついて来た。私は自分の「お願い」顔の強力さをよく知っている。
「で、今更なんの話?こんな不細工に用でもあるのかよ糞ビッチ」
 人気の無い校舎裏について、彼が放った第一声がこれだった。
 普段の私ならその十倍ぐらいの罵倒を返しているところだが、今回は見逃すことにした。
「ねえ、謝りたいの私。あの時はちょっとイライラすることがあっただけなの。本当にごめんなさい」
 私が頭を下げると、彼はいくらか驚いたようだったが。
「・・どういう風の吹き回しだよ。どんな裏があるんだ?」
「本心よ。謝りたかったの」
「うそつけ。あんたにふられた男の話、聞きまわったんだぞ。酷い女らしいじゃないか。
今更謝ったところで信用するとでも思ってんのかよ」
 なんて余計なことをするんだろう。北君が聞いた私の悪評というのも、情報元は全部こいつなんじゃないだろうか。
「本当なの。許して。お願い」
「へっ。じゃあ何でも言うこと聞くか?」
「え、そ・・れは・・・」
 普段の私ならきれている。ご機嫌な時でもやっぱりきれている。
「何でもってわけじゃないけど・・ある程度なら・・」
「じゃあまず、試しに3回まわってワンって言ってみろよ。話はそれからだ」
「・・・・・」
 私は呆れた。なんて古典的なことを言うんだろうこいつは。
「嫌なのかよ。なら何ならできるんだ?」
「えーと、一回食事に付き合うとか」
 破格のご褒美を与えたつもりだったが、彼は驚くべきことにそれを断った。
「今更あんたと飯なんか食いたくねーよ。じゃあそうだな、フェラでもしてもらおうかな」
「は?フェ・・ラ・・・?」

01-168 名前:本当の初恋 (中) 3/6 :08/08/24 00:39:51 ID:NadPjgE/
 あまりの突飛な提案に、私はしかめっ面になる。
「フェラだよ。しゃぶるんだよ。さあ、やれよ。それともまさか知らないとか言うんじゃねーだろうな」
 やり方は知っているが、したことなど無かったし、したいとも思わなかった。しかもこんな醜男を相手に・・。
「ちっ、やっぱ無理かよ。なら許してやらねーよ」
 そう言って立ち去ろうとする彼に、私は何とか声を絞り出す。
「ま、待って」
「何だよ」
「あの、せめて手をつなぐぐらいに・・」
「なめてんのかよ」
 本当は手すらつなぎたくなかったが、それすら断られてしまった。
「ごめん。じゃあえーと・・手で、してあげるから。それでどう?」
 吐き気がする提案だったが、効果はあった。ミナミは少し考えた後、「それで良い」と言った。
 言われた方の私は、自分から提案したものの、全身がぞわっとするような寒さに襲われていた。
 手でするなんて言ったけど、あんなものには少しも触りたくない。
「ほら、早くしてくれよ」
「きゃあっ!」
 見ると、ミナミは既にあれを露出させていた。グロテスクで生々しく、感情と本能の塊みたいな醜い物体を。
「ほら!」
 ミナミは私にわざわざ近寄ってきて、それを私の前に出した。
「い・・いやあ・・・汚いし臭いし・・」 
「お前が手でするって言ったんだろ!」
「だって・・」
 だって触りたくないんだもん。と思いながらも、渋々、手を伸ばす。
 しかし、触れるほんの少し手前でとまってしまう。やっぱりこんなの嫌だ。

01-169 名前:本当の初恋 (中) 4/6 :08/08/24 00:42:08 ID:NadPjgE/
「ね、ねえお願い。こんなことなくても許してくれて良いでしょう?」
「なんだよそれ。勝手なこと言うなよ。そうだな、じゃあとりあえず何で俺なんかに許しを請うのか、その理由から教えてくれよ。
そうすりゃ、もうちょっと軽くしてやってもいいぜ」
「・・・それは・・・」
 言えるわけが無い。わけはないのだが、私の口は意思に反して喋りだしていた。
「北君が、私を酷い女だって。私があなたにひどいこと言ったって・・」
「な、んだよ!それ!」
 予想しない答えだったのか、ミナミも驚いたようだ。
「もしかして北にふられたのかよ?おいおい、それで今更俺に謝りに?
言っとくけど、俺にちょっと謝ったところであんたの本性が変わるわけじゃないだろ。北だってそんなこと分かるだろうし」
 そう、そんなこと私だって分かっている。
「将を討つにはまず馬から射て、ってつもりなんだろうが、仮に俺が許したところであんたに足蹴にされた馬はたくさんいるんだ。諦めな」
 そう言って彼は立ち去ろうとした。手でしろ、なんて言いつつそこまでスケベじゃなかったのか、あっさりした引き際だった。

それともプライドの問題だろうか。
 しかし私はその時、自分でも思いがけない行動をとっていた。歩き始めた彼に追いつき、手でそれを掴んだのだ。
「おわっ!いてっ!ちょ、ちょっと待てよ!無駄だって言ってるだろ?俺が仮に許したとしても一時的なことで・・」
「うるさいっ!だまれっ!」
 そう言って私は彼のしまったモノを引きずり出し、ペースなどお構いなしに右手でこすりだした。
「ちょ、ちょっと待てよ、早けりゃいいってもんじゃ・・」
 彼の抗議にも耳を貸さず、私は一心不乱にそれをしごいていた。
「ちょ、ちょっと待って、出ちまう・・くっ!」
「っ!」
 顔に熱いものが飛び散る。どうやら射精したようだ。
 これで約束は果たしたといえるだろう。
 早ければ良いってもんじゃ、なんていっていた彼だったが、今回は早くしごくだけで良かったようだ。

01-170 名前:本当の初恋 (中) 5/6 :08/08/24 00:44:33 ID:NadPjgE/
「さあ、約束は果たしたわよ。北君に、私が誠意をもって謝ったって伝えてね」
 そう言って立ち上がり、私は回れ右をして歩き出す。
「お、おい!聞いてるのかよ!あんたの評判、もう知れ渡ってるのに今更・・」
「評判あげてみせるわよ。悪評広めてた男達に謝って」
「ま、待て、待てよ!おい!そういう奴らに謝りに行って、許してくれるとはかぎらねーぞ!
俺みたいな無茶ふっかけてくる奴もいるかも」
「・・・そしたらまた、今みたいにするわ」
「・・・!」
 彼が息を呑むのが聞こえた。
 ホント、私は何を言ってるんだろう。先ほどからまるで、別の人間が私の身体に入り、私をコントロールしてるかのよう。
「おい、やめろよ!やめてくれよ!あんたそこまでする必要ない!俺が、俺が北に言うから!」
 身体がぴくりと反応する。
「言うって、どんな風に?」
「良いように伝えるさ、過去の評判をなんとか別解釈で覆すような言い方とかしてな。
正直、あんたが他の男のもの触ったりすると思うと、すげー嫌なんだ」
「え・・?」
「だって・・一回好きになった奴をそんな簡単に嫌いになれるかよ。
だからある意味、あんたの言ってた事は正しいんだ。よっぽどきつく言わない限り、なかなか諦めたりできないもんだぜ」
「・・・・・」
 私は黙って聞き入る。その気持ちが、今なら少しは分かるからだ。
「だから、無駄なことはやめてくれよ、頼むから」
「だって・・」
 また私は泣き出す。
「私だって、どうしていいのか分からないんだもん!他にやり方は思いつかないんだし、仕方ないでしょう!
どうすれば良いって言うのよ。どうすれば彼が振り返るって言うのよ!」

01-171 名前:本当の初恋 (中) 6/6 :08/08/24 00:46:08 ID:NadPjgE/
 叫んでいる途中、視界がにじんだ。涙がでていたのだ。
「そんなに、惚れてるのかよ。でも、あんたはただ単に欲しがって駄々こねてるだけだろ。
自分のものにならないからパニック起こしてるだけだ。ガキの恋愛って奴だぜ。断られたら素直に引けよ。俺みたいにな」
「何よ、あんたは大人だって言いたいの!?行動が出来ないだけの臆病者でしょ?一回断られたぐらいで諦めるような・・」
 そこまで言ってハッとした。
 告白されて断って、それでもしつこくよってくるような男は私が最も嫌っていたタイプではなかっただろうか。
「・・・あんたなら、何回も同じ相手に言い寄られるのがどれだけ苦痛か分かるんだろう?」
 空気が止まったような気がした。ああ、そうだ、私は最低だ、しつこい女だ。
「でも・・諦められないのは・・どうすれば良いの?」
 涙を流し続けながら私は聞く。ミナミからは無慈悲な答えが返ってくる。
「・・俺こそ聞きたいね」
「・・・・・」
 長い沈黙があった。そのうちに、ぽつん、と何かが耳に触れた。
 それが雨だと認識した時には、酷い豪雨になっていた。
降り出してからまだ一分も経ってないのに、身体がずぶ濡れになっている。
「雨か。話は終わったろ、俺は戻らせてもらうぜ。風邪をひくわけにはいかないからな」

 ミナミが立ち去った後も、雨の中でひとり、私は立ち尽くしていた。

01-175 名前:本当の初恋 後編 1/18 :08/08/24 19:26:11 ID:NadPjgE/
思った以上に長くなってしまいましたが、後編です。
視点の問題で、若干いつもより読む感覚が違うかもしれませんが、楽しんでいただけたら幸いです。

 その日も俺は、雀荘にいた。
 中林ユウと会ってしまう可能性は充分にあり、正直会ったら気まずいだろうな、と感じながらも、やはりやめられなかった。
「なあ兄ちゃんよ。最近ユウちゃん見ないんだけど、知らないかい?何か喧嘩でもしたとか」
 対局中、常連の一人がそう言った。
「いえ、知りませんよ」
 俺にはそう答えるしかなかった。
 あの一件以来、中林の顔が時々浮かんでくる。
 確かに美人だとは思う。スタイルも良い。
 しかしその裏の顔を聞かされた途端、酷いだまされ方をしたような気がした。
 もちろん、あれだけの女なら、そりゃあモテるだろうと思うし、振り方がきつくなるのも分からないでもない。
 建前やお世辞をある程度はみんな使うものだし、それを完全に真に受けて「だまされた」なんて言うのもちょっと間抜けで、筋違いなんじゃないかという気持ちもある。
 ただ、それでもミナミをあれだけ罵倒した女を許すわけにはいかなかった。
 ミナミとは小さいころからの長い付き合いで、奴には俺が一番苦しいときに助けてもらった恩がある。俺にとっては最も信用できる人間と言って良い。
 ゆえに、当然ミナミを裏切るようなことはできないのだ。
 しかし、それでも中林の事が気になってくるのは何故なんだろうか。
「お、それロン」
「えっ・・あ、しまった」
 向かいに座っている中年のおばさんの声で俺は現実に戻された。
「今日は珍しく不調だねえ。それとも、あたしがついてるのかな」
 おばさんがけらけらと笑う。
 結局、その後もいつもの調子を維持できず、俺は散々な結果で店を出た。

01-176 名前:本当の初恋 後編 2/18 :08/08/24 19:27:42 ID:NadPjgE/
 外に出て、自分のチャリに近寄った時、俺はその異変に気づき、ため息をついた。
「またか」
 そう、また、だった。
 俺の周りで、最近妙なことが多い。
 届いた郵便が既に開けた跡があったり、インターホンの音に出てみても誰もいなかったり、 そして、サドルの上に変な液体がついていたり。
「勘弁してくれよ、もう。どんな嫌がらせだよ」
 最近では常時持ち歩いてるタオルでそれを拭く。
 拭きながら、一体誰がこんなことをしているのだろうと考える。
 こんなことをされる理由があるとすれば、きっと恨みだろうと思った。しかしそこまで恨まれるほどのことをした覚えがない。
 と、その時、別の考えが浮かんだ。ストーカー、という可能性だった。
 嫌がらせの始めにそれを考えなかったのには、ストーカーとはイケメンにつくものと考えていたから、というのがひとつ。
もうひとつは、つまり、現実感がなかったからだった。
 ストーカーの被害というのは全国ではたくさんあるらしいが、とりあえず自分の周りでは聞いたことがほとんど無かった。
それも男に対してとなると絶無であり、何度考えても、「ストーカー?そんな馬鹿な」という先入観が強く、考えすらしなかったのだ。
 しかしストーカーという仮定を信じ、改めて考えてみると、記憶の端々に思い当たるところがあった。時々俺を遠くから見ている視線があったように思えたのだ。
「うそだろ、ありえねーよ・・」
 自分を励まそうとして言ったつもりだったのに、言ってみるとますます暗い気持ちが俺の胸に押し寄せてきた。

01-177 名前:本当の初恋 後編 3/18 :08/08/24 19:29:58 ID:NadPjgE/
 自分が一人で住んでいるアパートの前まで来ると、そこにはミナミが来ていた。
 もちろん勝手に来たわけではない。俺が家へと戻る途中に携帯で呼んだのだ。ミナミの家は近いので、俺より先に着いたらしい。
「お」
 俺の姿を認めると、ミナミが軽く手を上げた。
「俺のが早かったな。どうよ、今日も勝ったか」
「いや、負けた。調子の悪い時もたまにはある」
 俺はミナミを部屋に上げると、早速相談した。
「・・・ってことなんだが、どう思う?」
 一通り説明すると、ミナミは思いのほか神妙な面持ちになって、こう言った。
「思い当たる相手、いるだろ・・中林だよ」
「え・・?」
「告白されたんだろ」
 確かにされた。しかし何故ミナミはそれを知っているのか。
「な・・んで知ってるんだよ、そのこと」
「本人から聞いた。俺がお前に中林ユウの悪評を伝えた後のことらしいな」
 そう。
 俺はあの日、ミナミに謝ってくれ、なんて事を頼むためにあの中林を屋上に呼んだのだ。
 それと同時に、俺には真実を確かめたい気持ちがあった。雀荘で話したときの彼女は、決して酷い女などではなかったし、彼女と話していると楽しかった。
 それが全て演技だったと知らされた時、俺は何かの間違いではないか、と疑った。信じたくなかった。
 ミナミからの情報を自分で聞いた、なんて言ったのは、軽いカマのつもりだったが、それは思いのほか彼女に効いた。効いてしまった。
「それとも、お前にこくるなんて奇特な女が最近他にいたってのか?お前は今まで一回しか女と付き合ったことないだろ」

01-178 名前:本当の初恋 後編 4/18 :08/08/24 19:31:48 ID:NadPjgE/
「・・いや、確かにいないけどさ。つかお前だってもてる方じゃないだろうよ」
 突っ込んでる場合じゃないとは思いつつも言わずにはいられなかった。
「俺のことはいいんだよ!で、どうなんだよ」
「確かにいないけど。でもだからって中林さんはしないだろ」
 ストーカーなんてするタイプではない、と思った。
 あれほど良い女なら俺に執着する必要なんてないし、そもそも俺に告白したのだって単なる気まぐれとかお試しぐらいの気持ちのはず、とも思った。
 俺は言葉を続ける。
「プライド高そうだし。俺のことなんてへたすりゃもう忘れてるんじゃないの?」
 俺は笑い声を混じえながらそう言ったが、ミナミの表情は少しも変わらなかった。
「いや、何するか分からない女だと思うぞ、中林って女は。なんせ今までいくら言い寄られても誰も相手せずにそっけなくしてた女が、わざわざ自分から告白したんだ。
男に関しては誰でも手にいれられる状況だったからこそ、断られたときのショックはでかかっただろ。
だからこそ、何としてでもほしいとダダをこねるんじゃないか?つまり、誰かを使って嫌がらせとか・・あるいはストーカーとか」
「・・・・・」
 ミナミがあまりに本気な顔で言うので、俺は笑い飛ばすことができなくなった。

01-179 名前:本当の初恋 後編 5/18 :08/08/24 19:33:58 ID:NadPjgE/
 ミナミが帰った後、俺はシャワーを浴びながら一人、考えた。
 あんなきれいな女がストーカーだなんて、どこまで考えてもやはり現実感が無かった。
「まあ、まだ決まったわけじゃないよな。
たとえぱどっかの粘着質な男とかに恨まれてやられたいたずらかもしれないし」
 俺は自分に言い聞かせるようにそう言うと、窓から月を見た。
 その瞬間、俺は戦慄した。窓の外にいる何かが動き、去っていくのが見えたからだ。
「うわあああああああっ!」
 俺は慌てて身体を拭き、服を着た。そして慌てて携帯を手に取る。
 第一にまず警察にかけようかと思ったが、しかし男が覗かれたからと言うのは恥ずかしい気がして、結局ミナミに電話をかけた。
 しかし携帯のそばにいないのか、ミナミは出なかった。俺は仕方なく、
「これを聞いたらすぐ来てくれ」という旨のメッセージを留守番電話サービスに残しておいた。
「ちくしょう、こんな時にいないのかよ。くそ、どうすりゃ良い?」
 混乱する思考の中、ふと一つの考えが閃いた。
「そうだ、そうすれば・・」
 自分の人生の中でも稀に見る名案だった。

01-180 名前:本当の初恋 後編 6/18 :08/08/24 19:35:52 ID:NadPjgE/
 私は今、北君の家の裏にいる。
 彼と会わなくなってから、彼のいそうな場所に行って、ひっそりと遠くから見つめることはあったが、話は最近全くしていない。
 しかしいつまでもそうはしてられないと、意を決して話しかけようとしたが、やはりできなかった。
 ある日、彼が雀荘に入っている間に、ちょっとしたいたずらをした。
 彼の乗っていたサドルに乗ってみたのだ。
 してはいけない、と思っていたのに、一度触ってしまうともう歯止めが利かなかった。
 私は彼のサドルの上に下着をずらした状態で乗り、自慰をした。
 彼と会わなくなってからの私は、以前はほとんどしていなかった自慰を、しょっちゅうするようになっていた。
そんな私にとって、彼の股間が直接触れていたそれは、充分すぎるほどの刺激物だった。
 サドルに残った「私の跡」。それに気づいた彼が驚くのを、私は影から見て、ひとりほくそ笑んだ。
 気づかれても良い、気づいて、とすら思ったが、彼は私に全く気づかなかった。
 しかしその日が始まりだった。私はその日から彼に、「私がいたという痕跡」を執拗に見せ付けた。
 彼に届く郵便物を見て、他の女の匂いがあるかということをチェックするのは、ここのところ私の日課だった。
 夜、彼の部屋からシャワーの音が聞こえると私はすかさず窓から覗いた。今日まで気づかれたことは無い。
 そう、今日までは。しかしつい先ほど、彼は私の視線にはっきり気づき、驚きの声をあげた。
 とうとう彼は私の存在に気づいたのだ。
 そうと決まれば、私のすることはたったひとつだった。私は彼の部屋の扉の前まで行き、インターホンを鳴らした。
 ピンポーーン、というのんびりした音が、私には祝福の鐘に聞こえる。
 そのうちに、中から彼が出てきた。何故か、ドアチェーンをつけていたが。
「・・久しぶり。えへへ、とうとう気づかれちゃったね。そう、最近のいたずらは全部私だったの。もう、サドルあんなに必死に拭かなくてもいいでしょ」
 彼の目が、一瞬で見開かれる。

01-181 名前:本当の初恋 後編 7/18 :08/08/24 19:37:16 ID:NadPjgE/
「ねえ、部屋に入れて・・」
 私の声が聞こえなかったのか、彼はその驚きの表情のまま玄関のドアを閉めた。
 私には彼の意図が分からなかった。
「ねえ、どうしたの?何で閉じたの?」
「か、帰ってくれ!」
 部屋の中から、彼が変なことを言う。一体どういうつもりなんだろう。
「ねえ、どうしたの?あ、分かった。勝手に裸見たの怒ってるんでしょ?分かってるって、もうすぐ私の裸も見せてあげるから。好きなようにして良いんだよ」
 しかし彼の返事は無かった。さすがに私も苛立ちを覚え始める。
「ねえ!どうしたの!早く開けて!」
「頼むから、頼むから帰ってくれ!」
「何で?ねえ、何を言ってるの?開けない理由なんてひとつも無いじゃない!」
 彼の奇妙な抗議に、いよいよ私も荒々しくドアを叩き始める。
「ねえ、早く開けないと、隣の部屋の人とかにうるさいって怒られちゃうよ。早く開けてよ!」
 しかし彼は帰ってくれと叫ぶばかりだった。
 と、その時、私は後ろから声をかけられた。
「あの」
 振り返ると、一人の女が立っていた。その顔には見覚えがあった。
「何?」
「私もよく分からないんだけど・・北君に呼ばれたんで。携帯で場所教えてもらいながら来たんですけど、家族の人ですか?」
 何を言っているのだろうこの女。こんな女が呼ばれるわけは無い。

01-182 名前:本当の初恋 後編 8/18 :08/08/24 19:39:11 ID:NadPjgE/
「・・そうね、家族ね。まだ予定だけど」
「予定・・?でも開けてくれないみたいですけど・・」
 そう言って女は不思議そうな顔をする。全く鈍い女だ。
「家族になるって言えば意味分かるでしょ。だから彼は当然私を招きいれるべきなのに、何故か私を部屋に入れないから、ちょっとだけもめてたの」
「え、まさか、北君、実は彼女いたの?ミナミのやつ、そんなことちっとも言ってなかったのに・・」
 女がようやく自分の立場を理解し始める。さあ、さっさと帰った帰った。
「でも、じゃあ何で私は呼ばれたんだろう」
「うるさいわね、知らないわよそんなこと!」
「・・あ、もしかしてあなたストーカーって奴じゃ?北君、電話の声慌ててたし」 
「っっ!」
 そのストーカーという言葉を聞いた途端、私の頭に一気に血が上った。
「なんて?あんた今、なんて言ったのよ!」
「ひっ!」
 私は女の首をつかみ、躊躇い無く力を込めていく。
「ストーカーっていうのは、愛し合ってる人間同士には使わないのよこの馬鹿女!」
「う・・ぐっ・・・!」
 見る見る女の顔色が悪くなっていく。仕方なく、私は手を離す。
「げほっ、げっほっ!」
 女は自分の首を触りながら、むせた。私は改めてドアの方に向き直り、女に言う。
「分かった?私はストーカーじゃないの。邪魔なあんたは早く帰りなさい。これ以上しつこくすると・・そうね、あんたこそストーカーってやつになるわよ」
 女はしばらくむせていが、やがてまた喋り始めた。

01-183 名前:本当の初恋 後編 9/18 :08/08/24 19:42:25 ID:NadPjgE/
「確かに彼には断られたけど、でも、私は嫌がらせなんてしない」
 妙にきっぱりとした声だった。私は思わず振り返る。
「確かに、彼と何とか付き合いたいと思ったし、悪いイメージを取り除きたいと思ったけど、でも彼に嫌がらせなんてしない。
・・近づく度胸も無かった、嫌な顔されるのが怖かったっていうのもあるけど」
 私は顔をしかめながら、女の話を聞く。
「子供みたいに、ただ欲しい欲しい言ってもだめだって、ある人に言われて。
凄くむかついたし、泣いたけど・・でも、私も人をたくさんふりまくってるから、それが本当だって知ってる」
「・・・・・」
「だから、嫌がらせなんてしない」
「でも」
 と、私の口がいつしか言葉を挟んでいた。
「あんた、諦められないんでしょう?だったらどうするの?それとも簡単に諦められるようなレベルの話?」
「違う、違うけど、でも、やっぱりストーカーはルール違反だって思う。だから私は彼に・・好かれるような自分に、今後はなっていきたいの」
 女の言葉は、私を強く揺さぶる。何を理想論を言っているんだろうこの女は。そんなことが通るのは、少女漫画かドラマの中だけなのに。
「身近な人を好きになるのは初めてだったから・・私も最初どうして良いのか分からなかったけど。
でも、自分の身勝手を押し付けるのはやっぱり相手にとって気分悪いから・・どれだけ嫌かは、私も嫌ってほど、本当に嫌っ!てほど、知ってるし・・」
 その初めてという言葉に私はようやく合点がいった。
 きっとこの女は、今まで相当ちやほやされてきたのだろう。

01-184 名前:本当の初恋 後編 10/18 :08/08/24 19:43:42 ID:NadPjgE/
 そして、男を手に入れられなかったのも初めてなんだろう。
 自分に自信があるから。自分なら自分すら変えることができると信じて疑わないから、いつかきっと振り向いてくれるという希望を信じられるような環境で育ってきたから、そんな発想ができるのだろう。
 私は違った。
 私は決して美人じゃなかった。
 初恋も二度目の恋もかなわなかった。
 だからこそ、初めてできた恋人は失いたくなかった。失ってはいけなかった。
 私は自分に自信が無い。だからこそ、どんな手を使ってでも彼を失うわけにはいかなかった。
 なのに、なのに・・
「・・うっ!」
 私の身体に強烈な悪寒が走った。また、またあれだ。こんな時に!
「ちょ、ちょっと、大丈夫!?」
 女が話しかけてくる。うるさい、あんたなんかに心配されたくない。
「ちょっと、北君!この人倒れちゃったよ!」
「え、マジか!おい、大丈夫か!美奈子!」
 視界に、北君の顔が映る。私の名前を呼んでくれた。
「やっぱり・・心配してくれるんだ・・・」
 久々に私は微笑むことができた。意識を失う直前ではあったが。

01-185 名前:本当の初恋 後編 11/18 :08/08/24 19:46:11 ID:NadPjgE/
 病院に運び込まれたその美奈子という女の子は、持病の発作が起きただけで、生死にはかかわらないとのことだった。
 ここしばらくの間勝手に外に出ては、ふらっと帰ってきたりしたため、どこに行っているのか母親も心配していたそうだ。
「あの子は、渡部美奈子って言って、数年前付き合ってたんだ」
 病院から戻ってきた時、北君は私を部屋に入れてくれた。私は黙って彼の話を聞く。
「病気がちで、学校にもあんまり通えなかった。でもちょっとしたことがきっかけで、よく話すようになった。
それで、付き合うようになった。でもやがて彼女は好きな人ができたと言って、俺から離れた。だから、まさか彼女がストーカーなんて、と思ったよ」
 そうだ、その話が本当なら北君にそこまで執着する理由がない。
「でも、病院で彼女と、彼女の母親の話を聞いて納得いったよ。彼女はその男にあっさり振られて自殺未遂をしたんだそうだ。
ただでさえ病院に通う身だったのに、その一件のせいで入院生活を余儀なくされてしまった。
彼女は病室で、俺に会いたいっていつも言っていたそうだ。やっぱり自分を理解してくれたのは・・その・・俺だって」
 最後の方は妙に恥ずかしそうに言う北君を尻目に、私は考え込む。
 渡部美奈子は、もう一人の私だといえるかもしれない。事実、私はその一歩手前まで行ったといえる。
 引きとめてくれたのは、悔しいが、ミナミの奴の言葉。そして、「自分のものにしたい」という感情をわずかに上回った「彼の嫌がることをしたくない」という気持ち。
「美奈子だって本当は無理だって分かってたって。本当にごめんなさいって謝ってくれたよ。」
「・・今後、また凶暴化する恐れは?」
 私は失礼な言い方だろうとは思いつつも、首絞められたんだからこれぐらい当然だろうという気持ちもあったため、さらっと言った。
「多分もうない。美奈子、昔みたいに笑ってたから。俺の笑顔を見て、なんか安心したって。
いや、そんなこと言われた時はちょっと恥ずかしかったけど、でも・・ちょっとうれしかった」
 む。
 なんだそのにやにや顔は、と少し気分を害した私は、聞いた。
「彼女は離れてみて、本当の気持ちに気づいたってことらしいけど、北君はどうなの?」
「どうって?」
「・・今も、美奈子って人、好きなの?」
 彼は少し考え込んだ。その間が、やたらと私を緊張させる。

01-186 名前:本当の初恋 後編 12/18 :08/08/24 19:48:07 ID:NadPjgE/
「・・・情は、やっぱりあると思う。でも・・恋とか愛じゃなくて・・友達を心配するような・・」
 やったあ、と頭の中では跳ね回っていたが、それを表に出すのはまずいと感じ、私は表情を変えずに別の質問をした。
「そういえば、何で私を呼んだの?ミナミ・・君、とか呼ばずに」
「いや、かけたんだけどでなかった。もう寝たのかも」
 ということは、ミナミの次ぐらいには私を信用しているということだろうか。しかし次の言葉が、私の出来かけの自信を崩壊させた。
「それと・・実は・・ちょっと、ほんのちょっとだけ疑ってて。その、最近されてた嫌がらせの犯人じゃないかって・・」
「・・・・・」
 私は無言で彼をにらんだ。
「ごめん!その、悪い評判聞いてたし、他に思い当たらなくて!」
「・・・・・」
 両手を合わせて謝る彼を、私は尚もにらみ続けた。
「ごめんなさい、本当に!」
「・・・ま、良いわ。でもこれで、評判よりはマシな女って分かったでしょ?」 
「うん。ごめん。それに・・さっきの二人の会話、途中から聞こえたけど、中林ユウさんは思ったより嫌な奴じゃなくて・・」
 お?と思った。流れが良くなってきている。
「うん、そうでしょそうでしょ?」
「・・というか自分に素直な人で これまで生きてきただけなんだなあって」
 あれ?
「振られたことが無いから、あんまり罪悪感無く、人に酷いこと言ってたんだなあって」
 アレ、あれあれ。また流れが・・。

01-187 名前:本当の初恋 後編 13/18 :08/08/24 19:49:11 ID:NadPjgE/
「で、でもっ!」
 と言いかけた私の唇に、暖かいものがあたった。それが彼の唇だと気づいた瞬間、私は驚きを通り越し、
「あひゃえいっ!」
 というような、奇怪な叫び声を上げ、そのまま後ろに倒れてしまった。
「・・だから、変わり始めた中林さんを信じるよ」
「え、え、え?」
 私はあまりといえばあまりの急展開に、今までの人生で最大級に動揺していた。手や足に力が入らない。
「んっ!」
 彼はへたり込む私に、追い討ちのように二度目のキスをする。
 二回目だったから、さすがに先ほどよりは意識をしっかり保ち、その唇の感触を感じることができた。
「・・こ、これが、キスかあ・・・」
「えっ!」
 彼の驚きの声。まあ驚くのも無理は無いか。
「悪い?ファーストキスだよ」
 動きが止まった彼に、今度は私からキスをした。
 もう止まれなかった。
 止まる気も無かった。

01-188 名前:本当の初恋 後編 14/18 :08/08/24 19:49:56 ID:NadPjgE/
「んっ、あっ・・!」
 恥ずかしがりながらも、しかし勢い良く脱いでいった私の身体に、彼が唇で触れていく。
 彼が触れた場所には、小さな熱が残る。
 その何ともいえない気持ちいいようなくすぐったいような、恥ずかしいようなそんな感覚に、私はいちいち騒いでしまう。
「やっ!・・ひっ!ううっ・・・」
 まるでしゃっくりが止まらない人のようだ、と自分の事ながら思った。
 やがて彼の手が私の中心に触れると、先ほどの比ではない、強烈な刺激がきた。
自分で触るのと人に触られるのはこんなにも違うものかと私は軽く感動する。
「・・あの、キスがはじめててってことは、その・・」
 指先でそこをいじりながら、彼が言う。
「・・・もちろん。そういうこと。今、死ぬほど恥ずかしいんだから。分かってる?」
「・・うん、俺も最初はそうだった」
 ということは今は恥ずかしくないということか、不公平だ、と思った。
 やがて、彼の指は入り口の前をいじるだけではなく、中まで入ろうとした。
「んくっ!ちょ、ちょっと待って!指入れたらだめっ!」
 私の抗議に彼は耳を貸さなかった。
 そしてそれに呼応するように、湿り始めた私のそこは、少しずつ彼の指を招き入れる体勢を作っていった。

01-189 名前:本当の初恋 後編 15/18 :08/08/24 19:52:02 ID:NadPjgE/
 あまりの可愛さに、俺は理性を保つ上でぎりぎりのところまで来ていた。
 目の前の中林さん・・いや、ユウは、はっきり言って物凄く可愛い。上気した美しい肌に、恥ずかしくて仕方ないといった真っ赤な顔。
 もう細かい前戯なんてすっとばして、深くつながりたい、激しくしたいという感情が噴出しそうだった。
 しかし現実の俺は、ただ静かに、ユウの状態を整えていく。少しでもつながる際に苦しくない状態へと。
「やだっ・・やだっ・・恥ずかしくて、死ぬ・・・っ!」
 ユウは泣きながら、笑ったような顔や怒ったような顔を作る。
 やばいほど可愛い、という言葉が浮かんだ。やばい、本当にやばいんだ。頼むから、それ以上興奮させないでくれ。
「うくっ・・はぁ・・っ!」
 まだ不慣れといった感じのあえぎ声をしばらく聞いた後、俺はようやく自分のものを取り出し、ゴムをつけた。
「え、入れるの・・?」
 肩で息をしながら、ユウは聞く。
「大丈夫だから。力抜いて」
 一刻も早く入りたいと主張している俺の分身を必死になだめながら、俺はユウを安心させる。
「うん・・力、抜く。だから、やさしく・・してね」
 だから、だからそんなに可愛い顔をするなってば。
 俺はそれでもなんとか自分自身をおさえ、ゆっくりとそれを近づけ、埋没させていく。
「う・・くっ!」
 ユウが顔を逸らし、苦しみを表現する。
 一方、俺のほうは初めてでもないのに、入れただけでいきそうになってしまった。
 その射精感をなだめながら入れて行ったおかげで、自然とゆっくり入れていく形になる。
「ううっ・・うう・・」
 ユウの呻き、声、一挙動全てが可愛らしく、愛しく思える。
 冷たくされていた相手に優しくされると、そのギャップのせいで凄く良く見えるというが、もしかしたら俺は今それにかかって、尚のことユウが可愛く見えるのかもしれない、と思った。

01-190 名前:本当の初恋 後編 16/18 :08/08/24 19:53:46 ID:NadPjgE/
「いた・・い・・痛いよ・・やっぱり、痛いんだ・・」
 ユウが泣き顔で俺に訴える。
 その痛みは共有することはできなくても、安心させることならできるかもしれないと思い、俺は少しでも安心させられそうな言葉を、思い浮かぶ限りユウになげかけていく。
 ユウはそのたびに、「うん、うん・・」と頷く。ユウの両手は俺の手をしっかりと、それこそ痛いほどに強く握りこんでくる。
 やがて、なだめすかして何とかもたせていた射精感が、有無を言わせない勢いで襲ってくる。
「ううっ!」
「えっ・・?」
「ご、ごめん、もう、いくっ!」
「え、で、出るの?」
 その返事に答える間もなかった。俺は巨大化していたその熱情を(コンドーム内とはいえ)ユウの中で放った。
「あ、あ、いったの?」
 ユウがまだ事態を理解できてない顔で言う。
「うん・・」
 ユウの中から俺は萎んだものを引き抜き、それをはずす。
「あ・・ホントだ。こんなに、出したんだ」
 取り出したコンドームを指で触りながらユウが子供みたいに言う。
「う、ん・・でも、あんまり見ないでくれ。なんか恥ずかしい」
 自分の精子を恥ずかしがる奴はあんまりいないだろうが、俺の場合は違った。自分の精子がいつまでもその場に残ってたりすると、なんかトイレを覗かれた後みたいな気分になり、妙な気恥ずかしさを覚えるのだ。
「ふふーん、恥ずかしいんだ」
 ユウが小悪魔っぽく笑う。その笑みが、物凄く妖艶に思えて、身震いがした。

01-191 名前:本当の初恋 後編 17/18 :08/08/24 19:54:56 ID:NadPjgE/
「ああ、はずかしいからそれ・・返して」
「やーだよ。私ばっかり恥ずかしがるのは不公平だから、お返しに・・」
 と、その瞬間、ユウはコンドーム内にたまった精子を、自分の身体の上に落とそうとした。
「わああああ!何してるんだ!」
 俺は慌ててひったくる。
「えー、だって顔とか身体にかけてたよAV女優は。普通、するもんなんじゃないの?」
「するもんじゃ・・ない・・と、思う。多分」
 一体何を普通とするかは知らないが、俺はとりあえずそう言っておいた。
「でも。なんか私痛がってばっかりでつまらなかったでしょ?だからせめて・・」
「いや、いいんだ、そんなことしなくて。それに最初大抵の人は痛いもんなんだから」
 むしろ初めての仕草が可愛かったから、むしろそれで良いんだ、とすら思った。
「ねえねえ、ところでさ。これで・・私たち、恋人で、良いんだよね?」
 そういえば話の途中でいきなり俺からキスしたんだったっけ。
 今となっては、素直に気持ちを認めざるを得ない。
「うん、ホントは俺も・・雀荘で一緒に麻雀したり喋ったり、飯食べたりしてて、楽しかった。実は元々好きになりかけてた、と思う。
でもミナミの話を聞いて、分からなくなって。でも、色々あったけど・・・うん、好き・・かも・・」
「かも?」
 またあの凄い目で睨まれ、俺は慌てて言い直す。
「ごめん、すげー好きです。めちゃめちゃ可愛い、と思う」
「・・そう」
 今度は逆ににんまりとして、それでいて照れたような顔をユウはする。
 ああやばい、可愛い。さっきからそればっかりだ。なんて落ちやすい男なんだろう俺。
「じゃあさ、もっかい、キスして」

01-192 名前:本当の初恋 後編 18/18 :08/08/24 19:59:16 ID:NadPjgE/
 ユウの言葉に反対意見などあるはずもなく、俺は彼女の顔に唇を近づけていった。
 そして合わさった瞬間、ガチャリと玄関のドアが開き、聞きなれた声が聞こえてきた。
「よー、ちょっとバスケ部でカラオケしててさ、電話出られなかったんだけど、一体どうし・・た・・・」
 よりにもよって。よりにもよって今頃来るか。しかも俺とユウは裸だ。
「うら、う・・裏切り者っ!」
 ミナミはそう捨て台詞を残し、走って去ってしまった。悪いことをしてしまった。
「見られちゃったね・・」
 ぽん、とユウに肩をポンと叩かれた。
 その肩をポン、はどういう意味だと聞きたかったが、結局聞くことは無かった。

最終更新:2009年07月17日 13:40