01-106 名前:変わる自分、本当の自分 前半 5/5 :08/08/19 23:23:58 ID:ynVFSF+l
性懲りもなく、また書かせてもらいます。思ったより時間がかかってしまったので、前半部分だけですが。続きは推敲した後、明日にも全部あげる予定です。


「あれ、小木さん?」
 夜の静かな電車内。女友達と会話していた私に声をかけてきたのは、同い年ぐらいの高校生の男だった。
「え・・誰だっけ?」
 その人懐っこそうな顔に見覚えはあるのだが、名前が出てこない。ちらりと隣にいた友達の顔を見ても、首を横に振るだけだった。
「あ、覚えてない?ほら、小学校で一緒のクラスだったじゃん。あげぱん食いまくった・・」
「あーーーーー!思い出した!あげぱん食べ過ぎて保健室に運ばれた・・レンちゃん!」
「そうそう、そいつ俺。いやー懐かしいなあ」
「あはは」
「何々、昔の同級生?」
「そうそう、小学校の・・」 
 私は今の友達に笑顔で説明しながらも、背中に冷たい汗を感じていた。
(何で・・・・・分かったんだろう・・)
「いやー見違えたよ、小木さんきれいになっててマジびびった」
「えー、そ、そーかなー?」
 私はどう反応していいか分からず、ぎこちない笑顔で答える。それを見て、友達が吹き出す。
「何ネコ被ってんのあんた。もしかして昔好きだったとか?」


01-107 名前:変わる自分、本当の自分 前半 2/5 ↑上の数間違えた・・ :08/08/19 23:25:30 ID:ynVFSF+l
「ば・・かなこと言わないでよ」
「え、マジで?いやー嬉しいなー」
「違うってばっ。もー」
 傍から見たら、どれだけ普通に見えるだろうかと心配しながら、私はなんとか会話を続ける。早く電車が目的地に着いてくれることを願いながら。
 妙にゆっくりと時間が流れた後(私にはそう感じた)、目的の駅に電車が止まった。やっとこの心臓に悪い会話から抜け出せる。
「あ、私ここだから。じゃあね二人とも」
「あい」
 と、答えたのは女友達。それに続いてレンちゃんも返事をする。・・とんでもない返事を。
「あ、俺もここで降りるよ」
「えっ!?」
 同じ小学校に通っていたということは、引越しや一人暮らしでもしない限りは基本的に住所は近いものだと、叫んでから気づいた。
(どうしよう・・)
 顔にこそ出てないだろうが、私の頭の中は緊張のあまり混沌としていた。

01-108 名前:変わる自分、本当の自分 前半 3/5 :08/08/19 23:26:36 ID:ynVFSF+l
 小学生のころの私の容姿は、正直可愛くなかった。そしてぽっちゃりしていた。性格も暗めだった。
 男子によるからかいの的で、毎日憂鬱だった。私はコンプレックスのかたまりだった。
 綺麗になりたい、そう願って出した答えが整形だった。
 高校生になる少し前に私は顔をいじり、化粧を学び、そしてダイエットに励んだ。
 高校生になった時、私は明るく綺麗で、人気者になった。
「付き合ってほしい」と私に何人も言いよってきた。そして色んな男の子と付き合ってみた。しかし、すぐに物足りなくなった。
 その理由を自分なりに考えてみた結果、つまりもったないから、ということだった。せっかくきれいになったんだから、ずっと同じ男とだけ付き合うなんてもったいない、ということだった。
「ただいまー」
 レンちゃんに近くまで送ってもらった後、私は自宅の玄関の鍵を開け、中に入った。
 予想通り、ママは仕事でおらず、妹だけがいた。
「おかえりー」
 妹は相変わらずゲームをやっていた。
 ゲームといっても、敵をバシバシやっつけていったり車のレースをするようなジャンルのものではなく、意中の男を落としていくというややアレ系なゲームだ。
オタクを明るく公言している妹は、家では暇さえあればこういうのをやっているか、男と男が絡み合うような漫画を読んでいる。妹でなければ、正直近づかないタイプだった。
 そんな妹でも、学校では不思議と人気者だった。小、中、高とずっと学校が被り続けているが、妹のクラスをいつ覗いても妹はクラスの中心で、蔑まれたり嫌われたりしている風が無かった。
 明るさのせい、というのはあった。しかし何より、顔が美少女だったからだ、と思う。私が整形に踏み出すほどコンプレックスを抱いた理由のひとつは、妹の顔だった。一緒に並ぶといつも妹が可愛がられ、ほめられた。
「今日、レンちゃんに会ったよ」
 そう言うと、ようやく妹がテレビ画面から目を離し、私のほうに向き直った。
「え!レン君に!?どうだった、どうだった?」

01-109 名前:変わる自分、本当の自分 前半 4/5 :08/08/19 23:27:56 ID:ynVFSF+l
 犬のように寄ってくる妹。
「うん、相変わらず良い奴だった」
「かっこよくなってた?」
「うん、まあね」
「やっぱり!お姉ちゃんが好きだった人だもんね」
 ずきんとした。
「うん・・」
「ねえ、メアドとか番号、交換したよね?今度こそ付き合ってって言ってみようよ!」
「・・・・・嫌よ、そんなの」
 電話番号は確かに教えてもらった。しかし、交換ではなかった。今は携帯の電池が切れてるからと嘘をついて私は自分のメアドや番号を教えるのを何とか拒もうとした。
昔の私を知る人とはあまり関わりたくなかったからだ。レンちゃんに教えれば、芋づる式に昔の同級生達にも私のことが知れ渡る可能性がある。
『あいつ整形したんだってよ』
 そう陰で言われそうで嫌だった。そう思っている相手と話をするのはいやだった。新しくなった私に、忌まわしい過去は必要なかった。
 でも、レンちゃんは私の意図を知ってか知らずか、
「じゃあ気が向いたら電話してよ」
 と自分の番号とメールアドレスを書いたメモを私に渡してきた。しかしかけられるわけが無い。
「ねえねえ、かけよーよ!私もレン君の声久々に聞きたいなあ」
 またずきんと胸に刺さるものがあった。嫌な思い出がよみがえる。
「ねーねー」
「うるさい!かけないって言ってんでしょ!」
 私はそう言うと、妹を突き飛ばして自分の部屋へ入り、横になった。
 携帯を開くと、タケシからの着信があった。なんてしつこい男だろう、と思いながら、私はそのまま眠ってしまった。


01-110 名前:変わる自分、本当の自分 前半 5/5 :08/08/19 23:29:16 ID:ynVFSF+l
 翌日。
 廊下で数人のクラスメートと雑談をしていると、クラス一目立たないと言われている女、高橋が目の前を通り過ぎた。
 通った後、みんな好き勝手に喋る。
「あの子、地味だよねー。男っ毛全然なさそう」
「きっと処女だよね。キャハハ」
 そうだろうなあ、と思い、私も笑う。
 この中で、きっと一番暗い笑みをしているのは私だろう。
 高校生になってからの私には、優越感という強烈な快感が常に纏わりついている。
 コンプレックスの反動だと自分でも思う。しかしだから何だ、とも思う。
 この世の中で可愛いということはとても大きい。社会的強者ってやつだと思う。その快感に浸れる喜びは、なってみないと分からない。
過去の劣等感がそれを増幅させているというのなら、私はそこに感謝しなくてはいけない。
「おい、カオル」
 聞きなれた声に名前を呼ばれ、げんなりしながら振り返る。そこには残念なことに、やっぱり、タケシがいた。
「おい、なんで返事くれねーんだよ」
「何で私が返事すんの?あんたこそ、またかけてきたら着信拒否にするって言わなかったっけ」
「ばっか、おまえ、照れんなよ」
 きもい。
「きもい」
 現実の声と心の声が同時に出ていた。
 タケシは一日だけ付き合ってやったことのあるチャラ男だ。
 やたらしつこいので付き合ってやったが、あまりの台詞や性格のキモさに耐え切れず、速攻でふってやったが、依然としてまとわりついてくる。
「なー、今日遊びにいかねーか?良い店見つけたんだ」
「あのさ、いい加減・・」
 しつこすぎるタケシに私が本気できれかけた時、目の前に信じられない光景が広がった。
 先ほど私が嘲笑っていた地味な女、高橋が男と話していた。そしてその相手は・・レンちゃんだった。
「ん?どうした?カオル」
 タケシの声など耳に入っていない。
 私は目の前で起きている事態にただただ唖然としていた。

01-115 名前:変わる自分、本当の自分 後半 1/15 :08/08/20 22:55:51 ID:DZDVEV9N
感想ありがとうございます。それでは思った以上に長くなってしまった後半、どうぞ。


 夜。
 騒がしい店の中、私は壁によたれかかり、考えていた。
(あの女、高橋・・)
 後で他のクラスメイトに聞いたところ、高橋は最近他校の男と付き合いはじめたらしい。そしてその相手は・・・よりにもよっ

てあのレンちゃんだった。今日はたまたま近くに来たから寄って行っただけらしく、すぐに彼はいなくなった。
 彼の姿を見つけた後、私はすぐに隠れたため、彼が私に気づくことはなかった。
「ね、ねえ私、やっぱり場違いだよね・・」
 高橋はそう言って困ったような顔を見せる。私はそれに対し、得意の作り笑顔を見せる。
「大丈夫だよ。こういうところはただ楽しめば良いんだから。あ、ちょっと私トイレね」
 そう言って私は高橋からちょっと離れたところに行った後、タケシを呼ぶ。
「なあなあ、なんで高橋も呼んだんだ?別に仲良くなかったろ?」
 そう、仲は特に良くない。良くないどころか、私の中では最も嫌いなクラスメートに今日格下げしたところだ。
 しかしだからこそ私はこの店に誘ったのだ。
「ねえタケシ、あんた私のこと好き?」
「ええ?いきなり何言い出すんだよ。むしろ愛し合ってるだろ!」
 相変わらずのノリ。私は軽い吐き気を催しながら、言葉を続ける。
「何なら、本当に愛してあげても良いよ。ただ、その前にあの女犯して」

01-116 名前:変わる自分、本当の自分 後半 2/15 :08/08/20 22:57:10 ID:DZDVEV9N
「お、おい、お前何いってんだよ」
「あの女と私が一緒に帰るとき、途中公園に寄るからさ、あんたはマスクでもして高橋に襲いかかって。私は上手く逃げることができた被害者ってことにするから」
 タケシが、普段見せないようなマジな驚き顔で私を見る。
「な、何いってんだよ、馬鹿じゃねーの」
「成功したらやらしてあげる。・・まあ犯すの無理そうなら、顔でも腹でも殴るってのでもいいよ」
「おい、お前どうかしたんじゃねーのか?」
「いいからやってよ」
 私はそういいながら、触りたくも無いタケシの一物を握ってやった。布ごしとはいえ、みるみる固くなっていくのが分かる。
「うおっ!やべえっ、やべえって!」
「この続きがしたいでしょ?」
「う・・ぐ・・わ、分かった」
 話は決まった。
(高橋、あんたぐらいの女がレンちゃんと付き合うとか、許されるわけ無いじゃん)
 私はまた最高の作り笑顔で高橋のところへと戻って行った。

01-117 名前:変わる自分、本当の自分 後半 3/15 :08/08/20 22:58:12 ID:DZDVEV9N
「凄かったね。私ああいう場所はじめてだから凄く新鮮だった!」 
 帰り道。高橋は無邪気にはしゃぎながら、私に言う。
「そう、良かった」
 私は作り笑いで相槌をうつ。糞女が、と内心で思いながら。
「音楽とかあんまり聴かないから分からないけど、かっこ良かったね。私もレンちゃんの影響でちょっとギターとか初めてみたんだけど、全然うまくいかなくて・・」
「レンちゃん?」
 レンちゃんという呼び名に、思わず反応してしう。
「あ、うん。一応彼氏。実は幼馴染なんだ。高校では離れちゃったけど、この間私から告白して・・」
 恥ずかしがりながら話す高橋の顔に、私の憎悪はさらに燃え上がる。
(レンちゃんだあ?あんたごときがレンちゃんなんて呼んでいいと思ってるの?彼氏とか呼んでいいと思ってるの?)

(・・・ん?)
 
「ちょ、ちょっと待って、幼馴染って・・どういう・・」
「え?どういうって言われてもそのままの意味だけど・・。家が近くて小さいころから友達だったの」
 当たり前のことのように高橋は言う。事態が物凄い速さで、それもおかしな方向へと展開していくのを感じ、視界がゆがむ。
「高校では離れたって・・?」
「うん、レンちゃんとは小・中と一緒だったから。クラスも同じ時結構あったし」
 同じ時があった?それって、もしかして・・
 もしかして・・・?
 頭がまとまらないまま歩いているうちに、少し開けたところにいた。
「ここ・・?」
 私のあほっぽい呟きに高橋が答える。
「公園だね。行く時もここ通ったよね」

01-118 名前:変わる自分、本当の自分 後半 4/15 :08/08/20 22:59:05 ID:DZDVEV9N
 高橋の言うとおり、そこは公園だった。さすがに夜なので誰もいない。
 ・・公園?あれ、何か公園という場所で何か約束があったような・・
「うおおおおおお!」
 茂みの方から突然の叫び声。そしてそれと同時に飛び出す大きな影。
「・・あ」
「きゃあああああ!」
 頭も身体も鈍っていた私は反応が出来ずにその場に立ち尽くしてしまったが、高橋の方は、そのぽーっとした見かけと違い、思

いのほかすばやい反応で駆け出していった。
「うおおおおい!」
 そう叫びながら出てきた影は、トランクスを被って覆面をしたタケシだった。下にはやる気満々のあれがあり、まさに性犯罪者

と言わざるをえない格好だった。
「馬鹿・・」


01-119 名前:変わる自分、本当の自分 後半 5/15 :08/08/20 22:59:45 ID:DZDVEV9N
 あまりの馬鹿っぽい登場に私が呆れはてていると、タケシはおかしな行動を取った。なんと高橋を追わずに、私に襲いかかってきたのだ。
「きゃあっ!」
「うおおおお、カオルううううう!」  
「な、何すんの馬鹿!」
「だって俺、あんな女よりお前とやりてえんだよ!お前が握るからスイッチ入っちまったんだよ!」
 タケシは勝手なことをほざきながら、私の顔のいたるところに自分の唇を何度も何度もおしつけようとしてくる。そしてその左手は私の服やブラの下をはいずりまわり、反面右手は冷静に私の抵抗をおさえこんでいる。
「きゃああああ!小木さん!」
 高橋が、かなり遠くの方から悲鳴を上げている。
「・・やっぱりここじゃやりずらいな。そこのトイレに入ろうぜ」
「なっ!てめ、誰が・・っ!」
 タケシが強引に私を公衆トイレへと引きずり込もうとする。私は必死に抵抗するが、やはりずるずると引っ張られていき、トイレの中へと近づいていってしまう、
「やだ、やだーーーっ!あんたとだけは死んでもやだーーーっ!」
 私は全力で叫ぶが、タケシの力が一向に緩む気配はない。 
(どうしよう・・フェラしてあげるとか言って、隙を突いて金玉にぎりつぶして逃げだそうか・・)
 などと考えていると、暗闇の中から誰かが私の方にむかって走ってきた。
「う、うそ!」
 私は驚いた。今日は驚くことばかりだったが、その中でもさらに一際驚いた。
「レンちゃん!!」
 現れたのはレンちゃんだった。まるでドラマや物語みたいな絶好のタイミングに、思わず涙が出そうになる。
「やべっ、早く個室に入らないと!」
 タケシも頭が混乱しているようで、かなりおかしなことを言っている。
「ぎゃあっ!」
 しかしレンちゃんが持っていたバットで後ろからタケシを殴ったため、それは阻止された。

01-120 名前:変わる自分、本当の自分 後半 6/15 :08/08/20 23:01:14 ID:DZDVEV9N
「ミーちゃんだったんだ。全然気づかなかった」
 私の部屋には今、私とレンちゃん、そしてミーちゃんこと高橋道子・・・さんがいた。
(ちなみにタケシはあの後やってきた警察の人に連れて行かれた。レンちゃんは近くでミーちゃんを待ちあわせしていたからすぐに来ることが出来たらしい)
「まあ無理ないけどね、もう何年も経ってるし、親離婚して苗字変わってるし」
 ミーちゃんはそう言って静かに微笑んだ。微笑みは変わっていないなあ、と感じる。
 ミーちゃんは、小学校のころ、レンチャンと、そして私とも同級生だった女の子だ。当時ミーちゃんは男勝りな性格で、レンちゃんとも私とも仲が良かった。
 私が男子にからかわれたりすると、さりげなく私をかばってくれたのがレンちゃん、そしてミーちゃんだった。
 二人は当時、私と友達として親しくしてくれていた。それがどれほど私の救いになったことだろう。
「全然気づかなかったよミーちゃん、前は男の子みたいだったのに・・今はずいぶん大人しい子になって・・」
「ふふっ、そうでしょ?ちょっと行き過ぎて、家族からも気味悪がられたし、化粧はまだ下手なまんまだけどね。おとこ女ってあだ名にはいい加減うんざりしてたから、カオルちゃんと同じく、私も自分を変えてみたってわけ」
「え?」
「カオルちゃんも、暗いって言われるのが嫌で明るくなったんでしょ?」
「・・うん」
 恥ずかしい気持ちがゆっくりとこみ上げてくる。やっぱり、昔の知り合いと話す時は平静でいられない。
「それと顔も変えた」 
 どっくんと心臓が跳ね上がる。ミーちゃんてばなんてストレートな子なんだろう。こういうところは全然変わってない。
「うん。・・・やっぱり、分かるよね」
「実は私、今年同じクラスになった時から気づいてたんだ。でもカオルちゃん気づいてくれなかったから、気づいてくれるまで黙ってようと思って。
でもいつまで経っても気づいてくれなくて・・だから今日誘われた時は、ついに気づいてくれたんだって思ったんだよ。勘違いだったけど」
「・・・う、うん・・」
 三年になってもう一ヵ月は経っている。相当鈍いと言われても仕方ない。

01-121 名前:変わる自分、本当の自分 後半 7/15 :08/08/20 23:02:53 ID:DZDVEV9N
「でも、そんなにすぐ気づいたの?私凄く変わったし・・」
「変わったけど、面影はあるよやっぱり」
「うっそだあ」
「ほんと」
 冗談を言ってる風には見えない。そんな馬鹿な、と思った。
「うん、あるある、俺もすぐ気づいたもん」
 レンちゃんまで同調する。
「どこ?どこにあるっていうのよ!完璧に別人になったはずなのにっ!」
 私の変身が否定されたような気になり、ついむきになってしまう。
「どこって言われても・・うーん、なんていうか、こう、全体の雰囲気っていうか表情っていうか」
 期待していたのと違い、なんともはっきりしない答えが返ってきた。
「何よそれ!全然違う顔なのにどうして分かるのよ!目も鼻も口も違うのに!」
「そうなんだよね、そうなんだけど・・分かるというか・・」
「・・・・・」
 私は絶句してしまう。
 目の前の二人も私と同じくしばらく無言だったが、不意に思い切ったようにレンちゃんが言った。
「でも!そのおかげで会えたんだから良いじゃん!」
 そう言って私の手を握る。
「わっ!」
 その行動に思わず私は硬直し、赤くなる。色んな男と付き合ってきたはずなのに、レンちゃんの前では何故中学生の頃のような反応をしてしまうのだろうか。
 ミーちゃんもレンちゃんの意見に同調する。
「そうそう!そのとおり!またこうして話すことが出来て、私凄く嬉しいな!」
「・・・・・っ!」
 ミーちゃんは無邪気に私の手を握って笑顔を見せる。
 くっそう。悔しいけど、やっぱり嬉しい。
 賢い女になったつもりだった。強くてずるくてモテモテで・・誰にも馬鹿にされない、むしろ人を馬鹿にして陰で笑っているような、そんな女になったつもりだった。
 でも。この数年間で作り上げた心の城塞が、がらがらと音を立てて崩れていく。繕うことなど出来そうにもないほどの速さで崩壊していく。
「うわーん!許して、許してミーちゃんッ!」
 私は鼻水を垂らしながら泣いた。二人がきょとんとして私を見ているのを感じるが、私は顔を上げることが出来なかった。
いつまでも。いつまでも。

01-122 名前:変わる自分、本当の自分 後半 8/15 :08/08/20 23:04:30 ID:DZDVEV9N
「お飲み物お持ちしましたーっ・・ってあれ、おねえちゃん泣いてるの?」
 長い沈黙の中、空気を読まずに妹が入ってきた。本当にこいつは・・。
「泣いてないわよ。あんたもノックぐらいしてよ」
「えー?せっかく持ってきてあげたのに。レン君にミーちゃん、お久しぶり」
「あら、ありがとうちーちゃん。大きくなったね」
「それは育ち盛りですから。ミーちゃんもずいぶん変わって。それにレン君も」
「あはは」
 ミーちゃんと話すのと違い、妹はレンちゃんと話す時は少しだけ緊張しているように見えた。私はその何ともいえない雰囲気から逃げるようにトイレに立った。
「・・くそ」
 トイレに座り、私は苦い顔になる。
 あの空気の中に入っていくのは、私にとって苦痛だった。それにはもちんろ訳がある。
 中学生になった時、妹が彼氏を一度だけ連れてきたことがあった。その相手は・・レンちゃんだった。
 妹も私の気持ちを知っていたのでこっそり会っていたようだったが、その日はたまたま私がずる休みをしていたため、はちあわせしてしまったというわけだ。
 妹は結局レンちゃんとは別れたようだったが、そこのところは詳しく聞いてないし、知りたくも無い。
(あの気まずい空気はもう味わいたくない。妹の反応はやっぱりぎこちないし・・・)

01-123 名前:変わる自分、本当の自分 後半 9/15 :08/08/20 23:06:08 ID:DZDVEV9N
 とは思うのだが、いつまでも戻らないわけにはいかない。
 はあ、と一つため息をついた後、私は意を決してトイレを出た。
 するとそこには、帰り支度をしているミーちゃんと、それを見送る妹の姿があった。
「ちょ、ちょっと、もう帰るの?」
「うん、今日は楽しかったよカオルちゃん。また遊びに来させてね」
「う、うんそれはもう。いつでも遊びに来て。・・あれ?レンちゃんは?」
 そう言うとミーちゃんはいたずらっぽく笑った。
「カオルちゃんだからね。許してあげるのは。他の人にだったら絶対あげないもん」
「え?どういう意味?」
 不可解な事を言い残し、ミーちゃんは帰って行った。後に残された私は、視線を妹に移す。妹もすべてを知っているような顔でにやにやしている。
「お姉ちゃんは幸せ者だよ。ほら、部屋に戻って」
(何なんだろう。何がなんだか分からない)
 分からないまま私は自分の部屋のドアを開けた。そこには真剣な顔をしたレンちゃんが立っていた。
「あ、レンちゃん・・わあっ!」
 何も言わず、レンちゃんは私を抱きしめてきた。どういうことだろう、頭が回らない。

01-124 名前:変わる自分、本当の自分 後半 10/15 :08/08/20 23:07:41 ID:DZDVEV9N
「ごめん、もう、我慢できそうに無い。好きだ!ずっと前から、小学校の頃から!」
「ええ?えええええ!?」
 全身、頭も顔も、一瞬で真っ赤になり、のぼせあがる。一体何を言ってるんだろうこの人は。そして私の身に一体何が起きているのだろう。
「ごめんな、今日の俺がどうかしてるってのはわかってるんだけど、どうしても止められそうにない。小木さんが襲われそうになったの見てから、おかしいんだ俺。誰にも小木さんを触らせたくないし、その反面俺が触りたい」
「・・・・・!?」
 展開がいきなりすぎて、上手く聞き取れない。言葉ひとつひとつはちゃんと耳から入ってくるんだけど、その言葉が脳を通らずそのまま反対側の耳から抜けていくような感じだ。
「嫌っていわないと、このまましちゃうからな」
「え・・う・・え・・・」
 頭の中ではそれこそホラー映画ばりに叫んでいた私だったが、現実の口では何も言えなかった。嫌だったらと言うが、今は嫌とかそんなんじゃなく、とりあえず脳に酸素が欲しい。まず脳にこの事態を充分理解させてから、発言したい。
「んっ!」
 唇が唇で塞がれる。息が出来ない。思考もますます出来ない。心臓だけがうるさい。
「ひっ!」
 思わずおかしな声が出る。それもそのはず。レンちゃんの両手が私の服を脱がしにかかっていて、その際に私の胸やへそに直接触れたのだ。
「だめ、だよお・・こんなの!」
「だめ?本当にだめ?すっごく嫌ならいますぐやめるけど」
「・・・・・」
 嫌だ、とは思わなかった。そして言えなかった。ずるい聞き方だと思う。
(でもミーちゃんとの事はいいのだろうか。妹とは・・)

01-125 名前:変わる自分、本当の自分 後半 11/15 :08/08/20 23:09:13 ID:DZDVEV9N
 なんて思考が一瞬よぎるが、すぐに目の前の現実にかき消される。
(ああごめん、私やっぱり意志弱い)
 すでになされるがままの体勢を取った私に、レンちゃんは手際よく私を脱がしていく。
 あっという間に裸になってしまった私の身体を、レンちゃんが子供のように吸い付き、愛撫する。
「あんっ」
 自分でも聞いたことの無いような女っぽい嬌声。脳が、「私のイメージする最も可愛い女」を私にさせようとしている。
「だめ、だめだめえっ!」
 指がゆっくりと私の中を開いていく。恥ずかしいほどに準備を整えた私のそれは、貪欲な「女の顔」をしていた。
「やべ、すげーエロくて、鼻血でそう」
「ばかっ!」
 レンちゃんの本気顔に物凄い「オス」を感じ、私は身震いした。まるで初めてセックスをする時以上に、私の身体はこわばり、それと同時に興奮していた。
今の私の顔を写真で撮ったら、一体どんな顔をしているんだろう、とふと思った。きっと、とんでもなくエロい女の顔をしているに違いない、とも思った。
「あ、あ・・」
 彼のそれが私の一部分に触れ、そしてそのままあるべき場所に帰るようにゆっくりと私の中に収まっていく。
「はああああ・・・あ・・」
 熱にうなされ、声が漏れる。

01-126 名前:変わる自分、本当の自分 後半 12/15 :08/08/20 23:14:35 ID:DZDVEV9N
 耳も視界もぼやける。くっついてから、動いていたのは私だったのだろうか彼だったのだろうか。
 恥ずかしさや倫理観などもはるか遠くの世界で、私と彼は快感を共に味わい、貪る。
 真っ白な世界の中、気持ち良い、という感情だけを時々知覚する。しかしそれ以外の瞬間は感覚とかではなく、ただただ一面の真っ白い海だった。
 それは息継ぎも何も必要無い海だ。まるで母親の羊水のような、ただただ安心して気持ちよさを味わえばいい場所。
「気持ち・・よすぎるよおおっ!」
 不意に意識がしっかりしたと思った瞬間、私は絶頂を迎えた。
 自分の叫び声で思考力が戻り、その思考力が快感を一気に受け止めてしまったがために、私はそのまま高いところへと上り詰めてしまったのだ。
 それと同時に、身体の中に何かが吐き出されるような感覚があった。
 それは気のせいだったのかもしれない、とも思った。イメージのせいかもしれない、生でしたのは初めてだったから、と冷静に考えた。でも、「やっぱり本当に感じた、熱かった」とも思えた。
 彼の熱情が私の奥の奥まで吐き出されたという事実。その事実を認知することで襲ってくる幸福感。
 息も絶え絶えなまま、私は彼のそれにしがみつき、くわえた。
 口の中に広がる苦い味が、私に事実を確認させる。
 彼のものが復活するのに時間はかからなかった。
 私はそれから時間を忘れ、何度も何度も彼と交わった。

01-127 名前:変わる自分、本当の自分 後半 13/15 :08/08/20 23:16:10 ID:DZDVEV9N
「ねえ、本当に私を昔から好きだったの?」
 ベッドの中、手をつなぎながら私は聞いた。
「うん。ずっと言いたくて言えなかった。中学、高校では離れちゃったからずっと言いそびれてた。
・・でもミーちゃんは高校でカオルと一緒になったって言うからこっそり会いに行こうと思ってた。
それで最近はよく会うようになったんだけど・・付き合ってる、なんて噂されたってミーちゃんは言ってたな」
(そうか。それで・・)
 状況が把握できていく内に、私はさらに聞きたくなった。こういう勢いのときでしか聞けそうに無いことを。
「ねえ、妹とは何で別れたの?」
 レンちゃんの顔がひきつる。やはり答えにくい質問なのだろうか。 
「それはえーと・・言いたくない」
「言いたくない?・・まあどうしてもって言うなら良いけど。でも何かひっかかるなあー」
 相手の過去を気にする男も女も最低だと常々思っていた。でもいざ自分が本気でほれた相手を前にしたら、どうしても気になってしまう。

01-128 名前:変わる自分、本当の自分 後半 14/15 :08/08/20 23:20:56 ID:DZDVEV9N
「・・・分かった。言うよ。俺はサイテーな男だってこと」
「え、どういうこと?」
「えとつまり、付き合ったのは小木さんの妹だからで・・ごめんなさい」
 しばらくの間意味が伝わらなかったが、そのうちに氷解した。
「え、ま、まさか!」
「ある時言われたよ。私はお姉ちゃんの代わりじゃないって」
「うわあ・・サイテー」
(でもだからこそ妹は、私にあんなにレンちゃんをすすめたのかな。さっさとくっついてくれ、と)
(それにミーちゃんのあの別れ際の台詞。あれはどう考えても・・)
「だから言いたくなかったんだって・・」
「さっさと私に直接こくれば良かったのに。そうしたらこんな面倒にならないで済んだのに」
「だって・・さ。思春期って難しい年頃だし・・ね。でもようやく今日、小木さんに好きだって言えて、長年のつかえが取れた気分だよ」
「ねえずっと気になってたんだけどさ、その小木さんって、そろそろやめない?恋人になったんだから」
「え、じゃあなんて・・」
「名前で呼んでよ」
「・・・カオル?うわっ、はずかしっ!」
「押し倒しといて今さら恥ずかしいも何もないでしょ」
「そうだな、うん、カオル・・カオル・・やっぱカオルちゃんで」
「ぷっ、あははは」

01-129 名前:変わる自分、本当の自分 後半 15/15 :08/08/20 23:22:19 ID:DZDVEV9N
 部屋の外では、妹が紙コップをドアに押しつけ、盗み聞きしていた。
「・・告白するって言うから場を提供したのに・・。そのはるか先まで言っちゃうとは・・。
ママとパパが二人とも旅行だからいいようなものの・・ま、お幸せに、お二人さん」
 

 妹には悪いと思いながらも、私はその夜、数年ぶりに微笑みながら眠った。
 今の自分も、そして昔の自分もまるごと愛してくれる恋人や友達の存在をかみ締めながら。

最終更新:2009年07月17日 13:38