01-81 名前:埋められない場所 1/10 :08/08/16 01:43:12 ID:nK6h/LEg
触発されて書きました。このスレの話があまりに面白かったので。


 寝る前に携帯をチェックするのは日課だった。今日もメールの件数が二桁。そしてその半分以上が男。
 私には彼氏が常に数人いる。ただし、記憶に残る恋人というものはほとんどいない。
 記憶に残ってるのは二人だけ。付き合って一か月で死んじゃった初恋の男の子。そして、付き合った男の中では唯一年下の男の子。
 その子は別れ際、
「違うでしょう」
 と言った。
 違う・・?何が違うっていうの?
 その時の状況を私は何とか思い出そうとしたが、どうしてもぼんやりとしか思い出せない。
 その時の私の隣には誰かいたような気がした。そして私の正面には、その男の子が暗い顔で私を見ていた気がする。その口が、「違うでしょう」と言っている。その時の私の顔は・・・
「やめた。変なこと考えるの」 
 私は途中で考えるのをやめ、ベッドに入った。

01-82 名前:埋められない場所 2/10 :08/08/16 01:46:16 ID:nK6h/LEg
 翌日、私は恋人とお洒落なカフェにいた。 
 彼はなかなかカッコいい顔で、社交家だった。お金はそれほどもっていなかったが、それに関しては「他の恋人」の担当なので気にしていなかった。
 学生時代、私は自分でも社交家だったと思う。友達も多かったし、彼氏もいた。出会いも別れもたくさんあった。社会人になった今でも、それは変わっていない。
 ただ、貰う物やお金の額、そして恋人の数は変わった。
 私は、恋人というものは、自分を満たしてゆえに存在するのだと思う。しかし、存分に満たすことを考えるのなら、一人では無理だし、そんなのは酷というものだろう。
 だから恋人が複数いるというのはむしろ自然なことだと思う。私を「ビッチ」なんて罵倒して去って行った男が何人かいたけど、よくよく不思議でならない。
女を・・・いや、人間を理解してないのではないのだろうか、と思う。私はその男達にそれほど過度な期待をしていたわけではない。
私が必要としている部分のひとつかふたつ程度を埋めてもらいたかっただけなのに、彼らは理不尽にも怒り、時には何かを投げつけて、去って行った。
 それ以来、私はできるだけそんな理不尽を起こさなさそうな男だけと付き合うことにしている。
 今、目の前にいる男もその条件にあてはまっていた。彼の役割は、ぺらぺらと面白い話をして、そこそこに楽しい空気を作り、そこそこの時間を私に与えることだけだ。それでいいのだ。
 ふと、視界の端に知っている顔が映った。
「あ・・」
 忘れもしない顔だった。昨日の夜、寝る前に思い出した男の子だったのだ。思わず目が釘付けになる。
「ん、どうしたの?」
 現在の恋人が不思議そうに聞き、私の視線の先をたどろうとする。
「あ、ごめん、ちょっと化粧室に・・」
 たどられる前に止めようと、私は席を立ち、トイレへと向かった。その途中で、例の男の子かどうかもう一度確認する。やはり、間違いなかった。彼だった。
 化粧室と書かれた標識の前で、私はメールを送った。「トイレの前に来て」と。
 もうアドレスが変わってしまっていたどうしようかと考えたが、幸いなことに彼はやってきた。・・不機嫌そうな顔で。

01-83 名前:埋められない場所 3/10 :08/08/16 01:48:32 ID:nK6h/LEg
「ひ、久しぶり」
 最初の挨拶は私からだった。
「・・そうですね。大森さん」
 彼の声は暗い。
「げ、元気だった?」
 声が上ずる。私らしくもない。
「・・まあまあですよ。大森さんこそ、相変わらずみたいですね」
「相変わらず?う、うん。元気だよ」
「違います。相変わらずモテているってことです」
 どきりとした。
「え?なんで?」
「一緒に話してた人、恋人でしょう?」
 何ということだろう、彼もまた、私に気づいていたのだ。
「うん。えへへ、私モテルから。あはは」
「・・そうみたいですね。彼は何曜日の恋人ですか?」
 ぐさり、と何かが私に刺さった気がした。何故だろう。同僚の女の子に言われても、少し前に別れた恋人に言われても何も感じなかったのに。
「あはは、きついなぁ」
「・・否定はしないんですか?」
「・・・・・」
 軽い怒りの感情が沸いてきた。何だろう、こいつは。
「ねえ、もうどれだけ経ったと思ってるの?まだ根にもってるなんて、器の小さい男ね。そんなんじゃどうせ、彼女もいないんでしょ?あの時みたいに」
 彼は、当時恋人がいなかった。積極的なほうじゃなかったし、少し暗かったから。そんな彼とわざわざ私が付き合ったのは、神様のいたずらというか、気まぐれというか。
 まあそんな男だから、どうせ一人だろうと思って言ったのだ。
「いますよ」
 しかし彼の口からは驚きの答えが返ってきた。
「え?うそ。もー、また見得はって・・」
「大森さんとは違って、一人とだけ付き合ってますよ」
 私の声をかき消すように彼は言葉を続けた。信じられなかった。でも、その表情があまりに自然だったので、本当かもしれないと思えた。
「・・・ふうん。それは良かったね」

01-84 名前:埋められない場所 4/10 :08/08/16 01:51:04 ID:nK6h/LEg
「ありがとう。大森さんも今の彼と幸せに。・・他の彼とも」
 また私の癪に障る言い方だった。
「ええ、そうね、ありがとう」
 私はそう言って彼との会話を切り上げ、その場から歩き出した。
「あ」
 しかし十メートル程度離れたところで、私は振り返った。思い出したことがあったのだ。
「ねえ、違うでしょうって、どういう意味?」
「え?」
「言ったじゃない、違うでしょうって。私が聞き返す間もなく、あなた帰っちゃったから聞けなかったけど。ねえ、どういう意味?」
 彼はしばらく沈黙した後、私に教えてくれた。
 しかしその時の私には、その答えは全くもって意味不明だった。

 月曜の夜。私の上に乗っている男の顔を見ながら、私は昔の事を思い出そうとしていた。
 一昨日はぼんやりとしか思い出せなかったが、昨日彼と会ったお陰で大分記憶が鮮明になってきていた。
 彼が「違うでしょう」と言ったその日。私は彼には内緒で、彼の知らない男を自分の家に上げて、キスをしていた。そこへ彼が訪ねてきて、彼は例の言葉を残して去って行ったのだ。
 彼の言葉は、もちろん単独で突然出てきたものではなく、私の言葉に対してのものだ。
「ごめん、怒らないで。私、寂しくて・・」
 私はそう言ったのだ。
 寂しくて、という言葉に対し、違うでしょう、と彼は言ったのだ。
 私の浮気現場を見て、怒ってそれっきり、という恋人は他にもいた。いい別れ時だ、なんて言って笑ってる男もいた。
 けれど大半は後で許してくれた。「寂しい思いさせた俺が悪い」なんて言って。
 でも「違うでしょう」なんて、そんな謎かけみたいな言葉を残して去って行ったのは彼だけだった。
 違うでしょう、か。何が違うっていうんだろう?寂しい、というのは私の本心だ。
 寂しいっていうのは、つまり女の求める「男」という欲求の部分において、埋められないパーツがあるゆえにおきる感情だ。
それを好色だの男好きだのヤリマンだのビッチだのと言うのは勝手だし、まあ仕方ないとは思うのだけど、とりあえず「寂しい」っていうのを否定されるのはおかしい、と、思う。
 考えても仕方ないことなのだろうか。別れ際に言う言葉に、大した意味なんてないのだろうか。
「ああー、いいよ、いいよ・・いきそう・・」
 私の上に乗っている男が、真剣な顔で気持ちよがっている。私の身体も別に不感症というわけではないのでそれなりに反応はしているのだが、どうも集中できない。

01-85 名前:埋められない場所 5/10 :08/08/16 01:53:04 ID:nK6h/LEg
 昨日、彼は私に質問の答えを言った。
「寂しいからじゃない。いろんな人相手にニュートラルにしてないと不安なだけなんだと思うよ、大森さんは」
 ニュートラル・・。車で言えば、どこにもギアが入ってない状態のこと。動いてないってこと。
 私が、動いてないとでも言うのだろうか?いや、私は行動派なタイプだし、色んな経験もしてきた。少なくとも、インドア派な彼よりは色々なところに出かけたと思うし、色々な人とも会ってきた、と思う。
 ・・いや、もちろん彼もそういう意味で言ったんじゃないだろう。もしかして、私がどんな人相手に対しても、かたよりがない、と言いたかったのだろうか。
 偏りがない、そう、悪く言えば八方美人。八方美人にしていないと不安、だといいたいのだろうか?
 そりゃそうよ!と心の中で叫ぶ。
 私は自分の充足のために、色んな男に粉かけてるもの。それに世間、社会っていうのはそういうものでしょう。みんな多かれ少なかれ八方美人じゃない。人気が出るのはそういう人でしょう?
「ああ、いく、いくーっ!」
 目の前にいる男が叫び、私の腰を強く引き寄せた。
 八方美人か。脳裏に、昨日の彼の言葉に加え、声色まで鮮明によみがえり出す。
『いろんな人相手にニュートラルにしてないと不安なだけなんだと思うよ、大森さんは。でも本当は、そんなことしたくないんでしょう?』
 不意に、私は目を見開いた。心臓がどきん、と大きくはねあがり、そのまま鳴り止まない。
「あ。大森さんもいった?イった?」
 顔を上気させながら言う男を、私は無表情で押しのけた。
「う、うわ、なんだよ!」
「ごめん、明日朝一で必要な書類作るの忘れてた。悪いけど先帰るね」
 もちろんこれは嘘だ。
「お、おい、待てよ!」
 男の言葉に耳も貸さず、私はホテルの部屋をあとにした。そして家に帰ってシャワーを浴びた後、すぐに「違うでしょう」の彼に電話をした。

01-86 名前:埋められない場所 6/10 :08/08/16 01:55:17 ID:nK6h/LEg
「大森さん、今何時だと・・」
「良いから。もともとあんたのせいなんだから」
「な、なにそれ・・・」
 二十四時間営業の喫茶店で今、私は彼と向かい合わせに座っていた。
「もうこっちはベッドに入ってたのに」
「あらそう。私はホテルのベッドから出て、シャワーを浴びたばかりよ」
 さすがに、この言葉の意味は分かるだろう。
「・・・・・どうしました?なんか今日は感じ違いますね」
「ややこしい前置きはなしにしたい気分なの、今日は。ねえ、言葉の意味、分かったわよ」
「え?」
「八方美人を嫌々やってるんでしょうってことかと最初は思ったけど、そうじゃないわね」
「ええ、違いますね」
「誰にでもいい顔をする、じゃなく、私が誰とも深いところまで踏み込んでないってことでしょ?身体じゃなく心が。私が相手にのめりこまないようにしてるって、言いたいんでしょう?」
「はい」
「やっぱり。でもそれっていけないこと?だって人間、一人によりかかっては危険じゃない。その人に裏切られたときどうするの?きっと酷い傷がつくわよね。そうじゃなくても、その男に冷めたときどうなるの?
それまでのめりこんでた自分が酷くみっともなくなるじゃない。それに・・それに・・」
「死んじゃったら、どうするのって?」
 私は耳を疑った。
「何で知ってるの?」
「風のうわさで」
「・・ふん。そうよ。死んじゃったらどうするの、いなくなったらどうするの?その時、他に私の心の支えになってくれる人がいなかったらどうするの?
あんた責任とってくれるの?私の『保険』、誰に否定できるっていうのよ!」
 最後の方は、もう叫び声になっていた。周りの客が何事かと私を見る。私はその視線に気づき、軽く頭を下げ、小さくなる。

01-87 名前:埋められない場所 7/10 :08/08/16 01:56:42 ID:nK6h/LEg
「否定はしません」
「だったら!」
「でも、本当に今は幸せですか?今まで、楽しかったですか?」
「はん、決まってるじゃない。私はいつだって・・」
 幸せと言いかけて、言葉が詰まった。答えは決まっていたはずなのに。まるで何かに口をふさがれたように、私の言葉はとまってしまった。
「死んじゃった彼と付き合った日々は、無駄でしたか?」
「・・・・・」
「・・・・・」
 反則だ、と思った。死人を持ち出すなんて反則だ、と。
「・・・無駄なんかじゃ・・」
「え」
「無駄なんかじゃ、ないもんっ!!」
 ぶわっ、と涙が溢れ出した。ゆっくりとではない。まさに滝のように、設けられていたダムが決壊したように流れ落ちていった。
「わあっ!ご、ごめんなさい!言い過ぎました!」
 彼があわてて備え付けのティッシュペーパーを差し出してきた。私はそれをひったくるように受け取り、終いにはぶびびびび、と鼻をかんだ。とても、同僚達や男達には見せられない行為だった。

 しばらくして。
 涙がすっかり乾いた後、私は口を開いた。
「あんたね、年下なのに生意気なのよ。何よ、たった数か月付き合っただけのくせに。『私の本心を知ってます、隠れた気持ちを知ってます』面してるのよ。今まで誰にも言われたことないわよ、そんなこと」
「数か月も、ですよ。それだけ付き合えば分かります。気づかない奴らの方がどうかしてるってもんですよ。本当に好きなら。それに・・大森さんのことは前から知ってましたし」
「え、何それ。私は知らなかったわよ、あんたなんか」
「・・例の転校生が死んだって事件の頃。上級生の大森さんが、一人でクラスで泣いてたのを偶然見て。それで大森さんのことを知りました」
「・・・・・」
 なるほど。あの場面を見られてたのか。どうりで・・・。

01-88 名前:埋められない場所 8/10 :08/08/16 01:58:32 ID:nK6h/LEg
「ねえ」
「はい?」
「・・あんた彼女と一緒に住んでるの?今」
「あ、いや・・」
「一人?」
「・・ごめんなさい。実は、今彼女いるってのは嘘なんです」
「え」
「実は別れたばかりで。俺も人のこと言えないんです本当は。大森さんのことまだ引きずってたから、それを見破った彼女にも愛想つかされて。
何回も大森さんのこと諦めようとしたんですけど。でも、だからこそ大森さんには本当にしたいことをしてほしかったというか・・いや、勝手な言い分なんですけど」
 最後まで聞かず、私は言った。
「なら・・あんたの家、行きたい」

「ね、ねえまずいですよ、やっぱりこんなこと」
「何今更言ってるのよ。本当に駄目だと思ってるのなら、家に入れないくせに」
 私は彼の一人暮らしの部屋に入るや否や、彼を押し倒し、その顔にキスの雨を降らしていた。
「や、やめ・・」
「ふんだ、本当はやめてほしくないくせに。ほら、こんなに固くなってる」
「あ、あうう」
 彼は魂が抜けるような声を出す。やれやれ、そんなに気持ち良いか。

01-89 名前:埋められない場所 9/10 :08/08/16 02:02:03 ID:nK6h/LEg
「そういえば、あんたとはHまでいかないで別れたもんね。手でしてあげただけ。ふふ。でも、あんた手でされるの凄く気持ち良さそうにしてたよね。あんた童貞だったし」
 そう言いながら私は動く手を止める。意地悪のつもりで、だ。
「あ、あ、と、止めないで」
「ぷはっ、やっぱりHしたいんじゃない。ほらほら!」
「あ、ああっ!」
「・・・え?」
 右手に、パンツ越しに熱が伝わってきた。こ、これはもしや・・。
「あんたはやすぎ!」
「だ、だって・・」
 はずかしそうに顔を赤くする彼。とても先ほどまで私に冷静に諭していた男と同一人物とは思えない。しかしそのギャップがまた妙に愛しく思え、私は心の中でもだえた。
「あははは。まあまだまだ固いようだし、いけそうね。さ、脱がすわよーん」
「ちょ、じ、自分で脱げるって!」
「だめ。お姉さんに任せなさい。さっき偉ぶった罰よ」


01-90 名前:埋められない場所 10/10 :08/08/16 02:03:06 ID:nK6h/LEg
 そう言って私はさっさと彼の下着を脱がし、モノを丸出しにさせた。
 そしてその上にまたがり、そのまま入れた。下着を脱ぐのも面倒だったので、ずらしただけの状態だった。
「ちょ、いきなり!しかも生で・・」
「だって。早くしたかったんだもん」
「そ、そんな・・」
 私は腰を一心不乱に振り、彼を味わった。予想通り、すさまじい快感と充足感が私の心を覆う。それは、技術とか相性とかの話ではない。浅い付き合いではどうしても埋められなかったその場所に、必要なものがようやく入ったという感覚だった。
「んっ!ふ・・っ!うっ」
「あ、あ、大森さん・・・!」
 溶け合う。下半身から上半身が。触れている場所すべてが快感で溶け合う。気持ちよさを、幸せな気持ちを、嬉しい気持ちを深く共有できたような感覚。
「やんっ!だめ、まだ膨らんじゃ、だめえっ!」
 永遠に続いてほしい感覚。なのに、突如膣内で「中断」の宣告があったため、私は彼に抗議した。
「そんなこと言ったって・・気持ち良過ぎて、あ、やばい、抜かなきゃ!」
 そう言って彼は私から離れようとするが、それはならなかった。私が彼に強くしがみつき、離れなかったから。
「お、大森さん、ちょっと。ふざけてる場合じゃ・・あああっ!」
 その瞬間、彼のは一気に膨張し、私の中に精を吐き出した。
「はあ・・はあ・・」
 彼は快感のせいでしばらく言葉も発せない様子だったが、落ち着くとすぐにこう言った。
「お、オオモリさん。まずいよ、中に出しちゃったら・・」
「大丈夫」
「え、な、何で?あ、そうか、ピルとか使ってるんですか?」
「ううん、気持ちよかったから大丈夫。さ、もう一回。まだ固さ保ってるし、いけるでしょ」
「・・・・・」
 彼は一瞬言葉を失ったようだったが、すぐにまた、「私」という快感の虜になった。・・お互い様だったけど。
 結局、あの後彼の精がほぼ尽きるまで私は彼を貪った。息も絶え絶え、腰も抜けきった様子の彼に、私は声をかける。
「あんたには責任とってもらわないと。私ですら忘れてたこと思い出させたんだから、ね。浮気したら許さないわよ」
「よ・・よく言うよ・・」
「何か言った?」
「ええ、言いましたよ。幸せにします、と」
「もう、ばかっ!」
 そう言って私は彼に枕を投げつける。胸の中に、満ち足りた暖かい感覚が広がっていく。大人ぶっていた私が、ようやく本当に大人になった瞬間だった。

最終更新:2009年07月17日 14:46