#1:2011/02/18(金) 01:43

03-558 :あか:2011/02/18(金) 01:43:52 ID:fjk07bfz
「はぁっ・・・んん・・・」

初めて会ったオッサンの上で腰を振って、作った声で喘いで。

「んん・・・みゆちゃん、イくっ・・・イクよっ」

ゴムの中で射精したのを感じると、冷めてると思われない程度に抜く。
オッサンでも客は客、ちょっとは愛想良くしないとね。

「はぁ・・・気持ち良かったですぅ」

うわ、キモ、私。
でもこれくらいぶりっ子の方が意外と気前良く金を出してくれるものだ。
単純だねー、オトコって。

シャワーを浴びてホテルを出る前に金を渡される。
うわ、こんなにくれるんだ。

リピーターになって貰うか悩んだが、結局それは止めることにした。
一人につき一回しかしない、リピーターは作らない。
それが私が援交を始める時に決めたルール。

一回きりの方が後腐れもないし、後々やっかいになることも少ないだろうし。

03-559 :あか:2011/02/18(金) 01:57:24 ID:fjk07bfz
翌日、放課後に今日はウリを休もうかなー、なんて一人で考えていると唐突に話し掛けられた。

「ねぇねぇ、紅宮さんって明日・・・暇?」

この男は一体誰だっただろうか。
えーっと、見たことはあるから一緒のクラスだろうし・・・。
あぁ、思い出した。確か、楊くんか。
柳ではなくて楊ということをやたら主張してたっけ、と思い出して、ほっとした私は返事を返す。

「ん、何、楊くん?どしたの?」

ちょっと微笑んでみたり。
オヤジならこれで私を「買う」のを決める笑顔。

「あの、さ。俺、サッカー部なんだ」

03-560 :あか:2011/02/18(金) 02:05:13 ID:fjk07bfz
「あー・・・そうらしいね」

噂では聞いたことがある。
一年時からレギュラーの中でも中心選手で、二年になってからはプロも注目しているとかいないとか。

「それでさ、明日、試合なんだ。その・・・よかったら、応援に来てくれないかな」

どうやら彼は私に少なからず好意を抱いていて、良いところを見せたいから試合に誘った、というところだろうか。

明日は土曜日だし、特別用事があるわけではない。
かといって、わざわざ見に行く程私はサッカーが好きなわけでもない。

「明日、かあ・・・」

どうしよっかなー・・・なんて悩んでいると、彼があまりに緊張している様子が目に入って。
それが何だか可愛らしく思えた私はついつい了解してしまった。

「良いわ、行く。どこであるの?」

03-561 :あか:2011/02/18(金) 02:11:11 ID:fjk07bfz
「本当に?! ありがとう!」

そう言って彼は嬉しそうに私に試合会場のメモを渡し、手をとってきた。

・・・手をとってきた!

日頃は援交をして色んな所を触られているのに、そういう純情な行動には弱いんだ、私は。

つい顔を真っ赤にすると、彼も自分のとった行動に気づいてか顔を赤くして「ご、ごめんっ」と手を離した。

「じゃ、じゃあ、明日、お願いねっ・・・」

そう言って彼は部活に向かい、私は手をヒラヒラ振って送り出した。
明日、か。

03-563 :あか:2011/02/18(金) 03:06:44 ID:fjk07bfz
結局オヤジに声をかけることもかけられることもなかった私は、帰宅後に明日のことについて考えてみた。

服はどんなのが良いのかな。
競技場なんて行くのは初めてだから見当もつかない。

そういえば、明日はどんな試合なんだろう?
練習試合とかじゃ、たぶん誘ったりしないよね。

色んな服を引っ張り出して見ているところで、私は思ったより明日を楽しみにしていることに気づいた。

いつも脂ぎったオヤジに抱かれているからか、楊くんのようなタイプのオトコと接したのは久しぶりで、それもまた一因なのかもしれない。

ワンピースを当てていると、携帯から着信音が鳴って。
着信したメールを確認すると友達の朱美から「楊にアドレス教えて良い?」って。
一々礼儀正しいんだから、と思いながら許可の返信をすると、すぐにまたメールが届いた。

03-564 :あか:2011/02/18(金) 21:06:01 ID:fjk07bfz
もう一度携帯を開くと未登録のアドレスからの着信だった。
ということは、楊くんからだろう。礼儀正しく「急にごめん」と題が書かれたメールを開く。

『急に誘って、・・・あとメール送ってごめんね。
試合、絶対勝つから!』

絵文字がないところにオトコノコらしさを感じなから、頑張ってね、楽しみにしてると書いて、最後に絵文字を足して送信。

そのまま明日の準備を続けていると楊くんからの返信もなかったので、きっと彼も準備をしているのだろう。

明日の服を選び、他の服を片付けていると外はもう真っ暗な時間だった。
楽しみなことの準備だから時間が早いのかな、なんて。

03-565 :あか:2011/02/18(金) 21:12:07 ID:fjk07bfz
「うわぁ・・・」

競技場だからヒールやブーツは浮くだろうと思ってスニーカーを履いて来て良かった、実際周りにそういう人は少ない。
スカートじゃなくてジーンズにして、寒さに負けないように一応コートも持ってきたが今日は温かくて、荷物になるくらいだった。

私が一人でスタンドに座っていると、綺麗な芝のグラウンド(ピッチ、っていうんだっけ?)でウォーミングアップをしてる楊くんが手を振ってきた。
私がぺこりと頭を下げると彼は嬉しそうに笑っていたが、すぐに近くにいた大人に怒られていた。

ん、あんな先生、うちにいたかな?
見たことないけど。
外部から教えに来てくれているのだろうか。

03-566 :あか:2011/02/18(金) 21:18:57 ID:fjk07bfz
試合が始まるまでは、グラウンドの綺麗な芝に目をとられたり、相手チームのあの人大きいなあ、なんて思いながら眺めたり。

試合前に改めてうちの学校(・・・のはず。見たことない人ばかりなのは私が学校で男子に基本的に無関心だったからだろう。)のチームを見ると楊くんは赤いユニホームに着替えていた。
背番号は7番。ラッキーセブンなんだ。左腕に巻いているのは何なんだろう。

整列が終わって、グラウンドに選手が広がった。
試合開始の笛が鳴る。

しばらくは、楊くんにボールが渡ることはなかった。
それはそうだ、グラウンドには22人も人がいて、仲間だけでも11人いるのだ。
それにしても、動きがやたらと速い。高校生って、人って、こんなに機敏に動けるものなのか。

03-567 :あか:2011/02/18(金) 21:26:25 ID:fjk07bfz
しばらくぼーっと眺めていると、後ろから気の良さそうなおばちゃんに話し掛けられた。

「ねぇねぇ、あなた、誰かの彼女?」

まさか。
私は笑顔でそれを否定すると、おばちゃんは不思議そうな顔になりながらどうして試合を見に来たか尋ねてきた。

「楊くん・・・赤い方の7番の彼に誘われたんです」

「まぁ、楊くんの彼女なの?!」

だから彼女じゃないんだって、とは思ったものの愛想笑いをしていた。

「彼ねー、将来有望よ。今度はU-17にも呼ばれるかもしれない」

U-17が何なのかは分からないが、それはきっと凄いことなのだろう。
おばちゃんは若いって良いわねぇ、なんて言いながら離れて行こうとしたので、私は引き止めて尋ねた。

「あの、これ、うちの学校とどこの学校の試合なんですか?」

03-569 :あか:2011/02/18(金) 21:33:29 ID:fjk07bfz
おばちゃんは目を丸くして、しばらくしてから笑いながら答えてくれた。

「これはね、今年の国体代表候補のチームと流甲大学のサッカーの試合よ。楊くんは早生まれだから、二年生でも国体代表にも入れるの。楊くんはキャプテンよ」

何だか良く分からないがとにかく楊くんは国体代表・・・つまりは県代表ということらしい。

私はおばちゃんにお礼を言って、再び試合を眺める。

県代表なんて、どれくらい練習したのだろうか。
どれだけそれに打ち込めばなれるのだろうか。

一生懸命に走る彼を見ていると、何だか自分があまりに汚いものに思えた。
私がバイト気分でオヤジを騙してセックスをしていた時、彼は走って、蹴って、そうして今私の目の前でサッカーをしている。

03-571 :あか:2011/02/18(金) 23:47:48 ID:fjk07bfz
居心地が悪い。
楊くんは本当に自分なんかを誘ったのだろうか。本当は人間違いだったんじゃないか。

そう思う一方で、私はもっと彼のプレーを見たいとも思わされた。
さすが県代表というべきか、確かに上手いのだが、際立っているという程ではない。
だけど、彼の動きは私を、見るものを魅了するのだ。

ああ、走って、もうちょっと!
相手、邪魔しないでよ。大学生と違って、楊くんは細いんだよ。怪我したらどうするの!

いつの間にか手に汗が流れるほど私は集中していた。
強い笛が二回鳴って、何なのか分からない私はグラウンドを見ていると選手がベンチに向かっている。

「前半が終わったのよ」

例のおばちゃんに話し掛けられた私はそんなことも知らない自分に恥じつつお礼を告げて、自動販売機に向かった。

03-574 :あか:2011/02/19(土) 00:19:42 ID:Ska35bvh
お茶を手に戻る途中、楊くんの名前が聞こえたのでちょっとゆっくり歩いて何を話しているのか盗み聞きをしてみる。

「やっぱり楊くんってかわいいよね、一生懸命なとことかさー」

「そうだよねー、サッカーも上手いし顔もかわいいし」

どうやら楊くんのファンらしい。顔も見たことないし、たぶん別の学校の子。
漫画以外でそんな子を見るのは初めてで、改めて楊くんは私と別世界の人なんだ、って思い知らされる。

席に戻るとちょうど選手がグラウンドに散らばっているところだった。
ん、楊くん、さっきと立ち位置が違わない?
ちょっと相手のゴールに近い位置にいる気がする。

「彼、フォワードになったみたいね。本職よ」

フォワード・・・前にいるんだし、点を取るのが仕事なのかな?
私はまたおばちゃん頭を下げて、彼を見つめる。

チラっとこちらを見た楊くんは、ニヤリと笑った気がした。

03-576 :あか:2011/02/19(土) 01:21:39 ID:Ska35bvh
試合再開の笛と共に走り出した楊くんは相手のボールを奪うべく猛然とダッシュ。
それが実ることはなく相手はボールを大きく蹴ったけど、それは国体チームが拾った。
そのボールを受けた楊くんはドリブルでひょいひょいと相手を抜き去る。歳の差、体格の差なんてお構いなしだ。
結局彼のシュートはゴールキーパーに止められちゃったけど、彼は別格だってそのプレーだけで分かった。

何度もドリブルを仕掛けて、パスをして、シュートを打って。
色んなプレーをしているけど、大学生の意地かゴールだけは中々決まらなかった。
残り時間も少ないかな、と思って時計を見たとき(高校生の試合時間は35~40分だっておばちゃんが言ってた)、楊くんがボールを持った。
ドリブルを始めて、相手をかわしていく。
キーパーの一人前の選手の股を通して抜いた、と思った瞬間、彼は相手選手に吹っ飛ばされていた。

03-577 :あか:2011/02/19(土) 01:22:31 ID:Ska35bvh
「きゃっ・・・」
つい声が零れてしまった。
強い笛が鳴る。
審判が楊くんが倒れたとこまで走って向かい、倒した大学生に赤いカードを出した。
レッドカードっていうんだよね、確か。
大学生はすごすごベンチに向かって歩き出し、その一方で楊くんは立ち上がってボールを置いた。
試合を見て何度かこういうシーンがあった。たぶん、あのボールを楊くんが蹴るんだ。
大丈夫なんだろうか、あんなに吹っ飛ばさたのに、痛くないのかな。
心配でお茶のペットボトルを強く握る。
ゴール前に大学生が並ぶ。あれを避けてゴールを決めなきゃいけないんだ。
笛が鳴り、楊くんはゆっくり助走を始める。

03-578 :あか:2011/02/19(土) 01:23:02 ID:Ska35bvh
そして蹴ったボールは大学生の頭を越えて--曲がりながら落ちた。
キーパーも飛びついて手を伸ばしたけど、それでも届かない。
ネットが揺れて、白い波が起きた。
彼は満面の笑みで笑いながらチームメイトに囲まれて、私の方を指さしてきた。
競技場で試合をしているとはいえ、観客は少ない。
保護者らしき人たちやサッカー関係者と、さっきいた楊ファンくらいだ。
あからさまに私を指していることが分かって、ちょっと照れながら小さく拍手をすると、彼は満足げに頷いて自陣に戻って行った。
戻る途中、他の選手に何か言われて頭を叩いていたのはご愛敬。

03-579 :あか:2011/02/19(土) 01:23:56 ID:Ska35bvh
そのまま試合終了の笛が鳴った。
おばちゃんは「やったわね!」なんて言って、どこかに向かって去って行った。
「ふぅ・・・」
凄い・・・凄い!
私は何か凄いものを見てしまった気がする。昨日までただのクラスメイトだったのに、今となっては彼に若干尊敬の念をも抱いている。
なんであんなに速く動けるの? 何であんなに蹴ったボールが曲がるの?
立ち上がってグラウンドを覗くと、楊くんは大学生と楽しそうに話をしていた。
さっき、楊くんを吹っ飛ばした人も一緒にいた。遺恨の念なんて全く無いかのように、彼の笑顔は清々しくて。
一言言って帰るつもりだったけど、疲れているだろうし今日は止めとこう。

03-580 :あか:2011/02/19(土) 01:24:25 ID:Ska35bvh
楊くんから視線を外そうとすると、こちらを向いた彼は私に手を振ってきて。
またね、と口だけ動かして去ろうとすると、周りの大学生やチームメイトが楊くんをちゃかしていた。
何だかほほえましい。
私には友達はいてもそんな風に笑いあえる友達はいないし、見えない絆? 友情を強く感じる友達もいない。
もう一度彼らに向かって頭を下げて、私は階段を降りていった。

電車を降りて家に向かって歩きながら、私は彼のプレーを思い出す。
魔法みたいに曲がるボール。陸上部かと思うくらい速い足。
凄かった。
ありきたりだけど、そうとしか思えない。
その後頭に浮かんできたのはゴールを決めた後の笑顔。
「・・・かわいかったなあ」
ん? いま私なんて言った?
いやいやいや、凄いなあ、とは思うけど、まさかね。
でも何で、こんなにも頬が熱いんだろう。
謎の熱を頬と胸に感じながら、私は家の扉を開けた。

03-581 :あか:2011/02/19(土) 01:25:20 ID:Ska35bvh
帰宅後にメールを入れておく。
『お疲れ様。最後、凄かったね!また見たいなあ』
前回に続いて絵文字を足すことも忘れずに。最後のまた見たい、はリップサービスじゃなくて本音で。
あんなゴールと良い笑顔を見せられたら、魅了されるのには十分だろう。
ご飯を食べて予習を済ます。
普段は予習なんてしないんだけど、何でか分からないけど今日はしたい気分だった。
携帯を開くと返信が入っていた。
『ありがとう!じゃあ、また試合があるときはお願いしようかな(笑)』
また黒メール。メールする男なんて大学生の兄か父親に用件だけのメールをするくらいだけど、なんで男子って絵文字使わないのかな、可愛いのに。

03-582 :あか:2011/02/19(土) 01:27:16 ID:Ska35bvh
『そうして(笑) じゃあ、今日はゆっくり休んでね、お休み』
疲れているだろうし、長々メールをするのも悪い気がして早めに打ち切る。
ベッドに入ってから、明日は何をするか考える。
走ってみるのも良いかもしれない、ちょっとインターネットでサッカーについて調べてみようかな・・・。
携帯が鳴って開くと彼からの返事。『見に来てくれてありがとう。お休みなさい』って。本当に、礼儀正しい。
やっぱり、明日はサッカーについて調べよう。それで、月曜日に話し掛けてみよう。
そんな風に考えていると、私はまどろみの中に入っていった。

 
#2:2011/02/19(土) 15:17

03-588 :あか:2011/02/19(土) 15:17:10 ID:Ska35bvh
月曜日。
私は重い目を開けながら学校に向かっていた。
昨日、有名なサッカー選手の動画を見ていたり、ルールを調べたりしていると時間はあっという間に過ぎた。
古今東西に関わらず色んなサッカー選手のプレーを見てみたが、どれも魔法をかけてるみたいだった。・・・でも、生で見たからかやっぱり楊くんが1番魔法みたいだって思ったのは内緒で。
メッシって選手は成長障害を乗り越えて偉大な選手になった、とか、中村俊輔(この人は私も名前くらいは知ってた)は挫折を繰り返して日本代表になったとか。そういうサッカー選手のバックボーンを知るのも楽しかった。
どうやら私はサッカーというものにハマってしまったらしい。
学校に到着して、教室を見回して楊くんを探すがまだ来ていないようだ。

03-589 :あか:2011/02/19(土) 15:17:45 ID:Ska35bvh
「おはよー」
声をかけられて顔をあげると楊くん。
「あ、おはよ」
うわ、また顔が熱い。心なしか胸の鼓動も速くなった気がする。
彼は私の席の前の椅子を引いて腰掛け、尋ねてきた。
「試合、見に来てくれてありがとう。ど、どうだったかな?」
「うん、楽しかったよ。初めて一試合通して見たけど、あんなに速く走ってるんだもん」
「走るだけなら陸上部の方が凄いよ」、と笑う彼の顔は嫌いじゃない。
「あの、良かったらまた試合があるとき教えてね?」
「え、本当に?」
やっぱりメールで送ったのはリップサービスだと思われていたらしい。「約束だよ?」と打算抜きの--オッサン達には絶対に見せない--笑顔を見せ、私は昨日調べたことや見た動画について話し出した。

03-590 :あか:2011/02/19(土) 15:18:39 ID:Ska35bvh
一ヶ月もすると、私と彼の環境と関係性は以前とはかなり変わっていた。
彼は初めてU-17(17歳以下日本代表、ってことだ。調べて初めて分かった)に選ばれて、学校にも近所のJリーグのクラブのスカウトがたまに視察に来ていた。
私はというと、援交を止めてすっかりサッカーにのめり込んでいた。
援交で貯まったお金を、特別使うような趣味があったわけじゃないし、そのお金でACミランのユニフォーム(このチームが1番かっこよかった)を買ってみたり、読書なんて趣味じゃないのにサッカー選手の自伝を読んだり。
もちろん、私は彼の試合も見に行った。県代表だけじゃなくて学校の試合も(ちなみに私の学校自体はそんなに強くないようだ)。
彼は試合中は凄い楽しそうに走るし、仲間を鼓舞する。勝った時はニコニコ笑うし、時折見せる練習試合でも負けた時の悔しそうな顔も印象に残った。
楊くん、が涼平くんになったのも、紅宮さん、が咲子さんになったのもこの頃。

03-591 :あか:2011/02/19(土) 15:19:10 ID:Ska35bvh
その間、彼とは音楽とかテレビとかテストとか、色んな話をしていたけど、やっぱりサッカーの話をしている時が1番生き生きしていた。
好きなサッカーについて話す時はニコニコしてるし、好きなクラブ(インテル)が負けたというと自分が試合に負けたかのように落ち込んで。
私がミラニスタだと聞くとインテリスタの彼は「ライバルだね」、って笑った。
また、私について彼以外で言うなら、女友達が増えた。
元々人とあんまり話したりしなかった私だけど、涼平くんと話していることでサッカー好きということが露呈したらしい。
彼女達はサッカーというよりは選手(イケメンの、が冠詞。内田とかカカとか)が好きらしいが、私より前から好きだけあって、色々と詳しかった。

03-592 :あか:2011/02/19(土) 15:27:35 ID:Ska35bvh
そんな中。
「あのー、良かったら、さ。Jリーグの試合見に行かない?」
と、涼平くんに誘われた。どうやらスカウトの人からチケットを貰ったらしい。
私は海外サッカーばかり見ていてJリーグの試合はあまり見たことが無かったし、良い機会だ。
この頃には私は彼に対する気持ちに気づいていたし、「デートかあ・・・やったぁ!」と、心の中で喜べる程には素直だった。
二つ返事で了承して、私は携帯のスケジュールにそれを入れておいた。
「楊くーん、あのさぁ・・・」
他の女の子が彼を呼び、私に「ごめん」と言って私の元を離れて行った。
そう、彼は今や学校内の有名人を越えてしまっている。
何人が実際に見たことがあるのか分からないが、U-17ワールドカップの予選で好プレーを見せ、将来の日本代表候補と期待の選手なのだ。
以前はみんな「ちょっとサッカーが上手い人」みたいな認識だったのが、いつの間にかまるでアイドル。
楊ファン、拡大中。なーんちゃって。

03-593 :あか:2011/02/19(土) 15:28:06 ID:Ska35bvh
無いことにしたくてもできない。
私は汚い人間で、彼は陽の当たる世界の住人。
援交でそこそこやっていけたし、自分でもそこそこ綺麗な顔はしているんだと思う。けど、それだけだ。
私より可愛い人なんて校内でも何人もいるし、性格なんて比べるまでもない。
ちょっとした彼の気まぐれ次第で私はどん底まで落とされるのだ。
次に試合に誘うのは私じゃないかもしれない、そういう不安を抱きながら、私は彼に声をかけられるのを待つ。
ため息をつくが、とりあえず今回は誘ってくれたのだ。・・・デートに!
今までまともなデートなんてしたことがなかった気がする。
中学時代は彼氏なんて名前だけで、学校から一緒に帰るかヤるだけ。
高校生になると援交でヤっただけ。
どういう風なのかな、デートって。なんて考えると私の心は晴れてきた。

03-594 :あか:2011/02/19(土) 15:29:04 ID:Ska35bvh
約束の日、私は約束の時間より30分早く到着していた。
何だか家にいても落ち着かなくて、早くに家を出てしまったのだ。
携帯を開いて早過ぎたかな、と思いながら携帯プレーヤー歌を聞く。
涼平くんが試合前に聞くんだー、って言ってた歌。アイドルっぽいけど本当は実力派の男性グループの歌声は、耳を心地良く抜けていく。
「あー・・・待たせた?」
ちょうど歌が終わる頃、彼の声が耳に入ってきた。
うわぁ・・・。
私服姿は初めて見たが、凄い似合ってる。ダメージの入ったジーンズに赤黒ボーダーのTシャツ。その上にちょっとカッチリしたジャケットを羽織っている。
「凄い・・・カッコイイね」
「いやいや・・・咲子さんの方が、その、可愛いと思う」
照れながらそう言う彼に、ありがとう、と返す。「ちょっと歩くけど大丈夫?」の問いにも頷いて、私たちはスタジアムに向かった。

03-595 :あか:2011/02/19(土) 15:30:28 ID:Ska35bvh
「ねぇねぇ、涼平くん。なんで私服そんなにオシャレなのに学校じゃ髪も寝癖爆発してるの?制服も真面目に着てるし」
って、ちょっと聞いてみた。
実際、彼は制服のきっちりボタンを止めているし、みんなしている腰パン(何がカッコイイんだろう)もしていない。
「え、寝癖爆発は時間がないから。で、服装がだらし無いと、試合中に良いことなさそうじゃん? 運が悪くなるっていうか。だらし無いのは嫌なんだ」
って、寝癖も治さないとダメだよね、と彼は笑った。
そしていつもその笑顔にドキドキさせられるんだ、私は。
それにしても、そんなところまでサッカーと繋げて考えるんだ。よっぽどサッカー好きなんだろうなあ。
「じゃあさ、涼平くんってインテル好きだよね。なんで赤黒ボーダーなの?青黒じゃなくて」
もちろん赤黒ボーダーを着てはいけないわけじゃないけど、学校生活までそういう風に考えるのに、赤黒よりは青黒を着ていそうなものだ。

【作者注:ACミランとインテルはライバル関係で、ミランは赤黒の縦ボーダー、インテルは青黒の縦ボーダーを1stユニフォームにしています。】

03-600 :あか:2011/02/19(土) 19:17:35 ID:Ska35bvh
「あー、うん。今日招待してくれたクラブがさ、赤基調のユニフォームで、相手は相手青基調だからね」
ふーん、なるほど。
確かにそういう理由なら納得できる。誘ってくれたのに、わざわざ相手チームのカラーを着るのは変な話だ。
「それに・・・さ」
うん? と尋ね返すと彼はいつもの照れ笑いを浮かべながら言う。
「咲子さん、ミラン好きって言ってたからさ。赤が好きなのかなー、って」
ボッ、と体温が上がるのが自分でもわかる。
まさかそんなことまで考えてくれたとは。
「変じゃない?」
って尋ねられても首を振るのが精一杯で、顔なんてとてもじゃないけど見られない。
私のほうこそ変じゃない? とは尋ねられないまま、私達はスタジアムに到着していた。

03-601 :あか:2011/02/19(土) 20:09:59.65 ID:Ska35bvh
チケットを見せて中に入り、顔を赤くしながら涼平くんが言った「混雑するからトイレ行ってた方が良いよ」のアドバイス通りにトイレへ。
用を済ませて待ち合わせ場所へ向かうと涼平くんはもういて、手に持ってた缶紅茶を渡してくれた。
「一応、山の上だし。飲まなくても、持ってるだけで暖かいと思うから」
って。いつも飲んでるメーカーの紅茶。そんなところに気づいてくれたのかどうかは分からないけど、こういう気遣いをしてくれて嬉しい、っていうのは女子ならみんな思うはず。
席を探しながらうろうろして、ようやく見つけたそこに座る。
「うわぁ・・・」
初めて涼平くんたちの試合を見に行った競技場の芝も綺麗だったけど、さすかプロの職場と言うべきか、スタジアムの芝はそれよりもさらに綺麗で。
選手達がウォーミングアップに出てきた。アウェー側の選手には日本代表もいて、中々厳しい試合になりそうだ。

03-603 :あか:2011/02/19(土) 20:13:33.14 ID:Ska35bvh
「あの人、俺の小学校の卒業生なんだ」
と、ホームチーム(誘ってくれたチームね。)の人を指す。その人が涼平くんの憧れる人らしい。
「小学校のOB戦でね、一回だけ試合したんだけど、全然相手にならなかった」
「そっか。でも、涼平くんならいつか越えられるよ」
本気でそう思う。目を見つめて、微笑みかけると彼は「うん、絶対越える」って。
可愛い顔して負けず嫌いなんだ、涼平くんは。
それから試合が始まるまでは色んなことを話した。
涼平くんがその先輩とたまに自主トレしていることを聞いたり、この間のミラノダービー(ミランとインテルの試合のこと)について、今後の涼平くんの試合予定についてだったり。

03-604 :あか:2011/02/19(土) 20:14:09.70 ID:Ska35bvh
試合が始まって、私は初めて見るサポーターとその応援に圧倒されていた。
チャント(応援歌のことらしい)や太鼓、チャンスの歓声にピンチのため息。
これがサポーターなんだ、って。
私は初めて見る生のプロの試合の雰囲気に感動していたが、涼平くんは黙って試合を眺めている。
そういえば、先輩はベンチスタートなのかピッチに立っていなかった。
試合に集中している彼の邪魔をするのも気が引けたので、私も黙って試合を見る。
「あ・・・」
前半30分くらいか、先輩がベンチを出てウォーミングアップを始めた。
前半に出番はないかもしれないけど、後半に備えてなのかな。
再び試合に集中して見るが、両チームとも決め手に欠けていてそのまま前半が終わった。

03-605 :あか:2011/02/19(土) 20:14:44.83 ID:Ska35bvh
ハーフタイム、ベンチの選手がさっきまで試合が行われていたピッチの上で動いているが、先輩の姿はない。
「たぶん、後半の頭から出ると思う」
って涼平くんが教えてくれた。

後半が始まると、やっぱり先輩(石垣さんっていうらしい。)は他のメンバーに混ざって試合に出てきた。
アナウンスで交代が告げられるとサポーターが大きく盛り上がった。
「お調子者だからね、サポーター受けは良いみたい」
って言ってるけど、涼平くんは嬉しいのかちょっと笑顔になっていた。

03-606 :あか:2011/02/19(土) 20:20:26.02 ID:Ska35bvh
試合終了の笛。
「いやー、今日当たってたな、石垣さん」
隣の涼平くんはさも当然そうに呟いたけど、あの活躍は凄かった。
後半からの出場で体力はあったんだろうけど、相手をかわして綺麗なパス。決勝点のお膳立ては、素人目から見て完璧だった。
「じゃ、咲子さん、行こう。時間あるなら、何か飲んでく?」
「あ、うん。」
立ち上がって彼について行く。
スタジアムを出た後、駅の近くにあったカフェに入る。
席に着いて、注文を済ますと彼は私に尋ねてきた。
「初めてのJリーグ観戦どうだった?」
「凄かった! サポーターもだし、選手も凄い上手かったし。」
そう言ったら彼は複雑そうな顔をしながら「まあ俺達はアマチュアだからね、サッカーのやり方もちょっと違うし」って。
コーヒーを飲みながらそういう話をしていると、もう外は暗くなり始めていた。
「おっと・・・そろそろ帰らないと、だよね」

03-607 :あか:2011/02/19(土) 20:22:09.33 ID:Ska35bvh
私の家は門限がそんなに厳しいわけでもないが、彼が心配して言ってくれたせっかくの言葉を拒否するのも悪い気がして、一緒にカフェを出た。
私は「自分の分は自分が出す」、って言ったんだけど誘ったのは自分だからって固持して、結局奢ってもらうことになった。
駅まで一緒に歩いて、切符を買って改札を抜けた。
「じゃ、また学校でね」
って笑顔で言うと、彼が「あ・・・、ちょっと待って」って言いながらバッグを漁る。
「良かったら、これ、貰ってくれない?」
って差し出してきたのは石垣さんのいるチームのユニホームをモチーフにしたストラップ。
「良いの? 貰っても」
確認すると彼は頷いたので、私は「ありがとう!」ってお礼を言って受け取る。
「俺たち、好きなクラブがライバル同士だからさ。Jリーグなら良いかな、って。他にJリーグに好きなチーム出来たらどうしても良いから」
って。
「本当にありがとう! 大事にするね」
それから私達は改めてバイバイ、って言って電車に向かった。

帰路、私は彼に貰ったストラップを見つめる。
好きな男の子にプレゼントを貰うって、こんなに嬉しいことなんだ! って。
援交のお金で買ったブランド物のネックレスやピアスより、大切なもので。
どうしようかなあ、やっぱり携帯に付けるのが良いかなあ、って。
どうやら思っていたより、私は楊涼平中毒らしい。

 
#3:2011/03/09(水) 23:33

03-628 :あか:2011/03/09(水) 23:33:17.11 ID:7zjmNO+q
「じゃ、行ってくる!」
そう言って、彼はヨーロッパへ。
U-17ワールドカップの代表に選ばれた彼は、いつの間にかすごいことになっていた。
国内では早くもJクラブが争奪戦を始め、大学も視察に来ている。
また、知名度も抜群に高くなった。
学校内じゃ名前を知らない者はいないし、街中でもよく声をかけられる。
この間は深夜のスポーツ番組でもサッカーコーナーで特集が組まれていた。

「でね、あっくんがね。・・・聞いてる?」
おっと、危ない。
「内田が? どうしたの?」
内田篤人をあっくんと呼ぶ彼女に話しかけられるようになったのは最近だけど、彼女は内田の顔ばかり見ていて、サッカーにはあまり興味がないらしい。
だから、私も彼女の話の内容にもあまり興味が持てず、つい流し聞きをしがち。
その後も内田について熱く語っていたが、急にあの名前が出てきた。
「そういえば、今日、楊の試合だね」

03-629 :あか:2011/03/09(水) 23:33:56.62 ID:7zjmNO+q
「あ、そうだね」
「この間までその辺にいたのに、急に遠くにいっちゃったよね」
そう言って、彼女は他の女子グループに向かって行った。
この間まで側にいた・・・?
そんなこと、ない。
私からすると遠い、光っている、キラキラした世界。
そこに彼は最初からいたし、あなたもいた。
私は、踏み外してしまった。
それだけのことだ。

その日の夜、日付の変わった午前3時に彼の試合が始まった。
世代別とはいえ、日本代表だ。地上波で中継されている。
今日は予選リーグの最終戦、勝てば決勝トーナメントが決まる試合。
初戦の相手に引き分けたのが響いてか、後がない状況に追い込まれている。

 
#4:2011/03/11(金) 23:30

03-631 :あか:2011/03/11(金) 23:30:35.67 ID:omFNRgFf
国家斉唱が終わり、ピッチに選手が広がった。
試合開始の笛が鳴り、彼は機敏に動く。
相手は世界トップクラスのイタリア、それもイタリアサッカー史上最高の逸材と呼ばれる選手も出ているらしい。
あっと言う間に前半が終わって、後半。

イタリアの10番がボールを持ち、ワンフェイント入れて左足で放ったボールは日本ゴールのネットを揺らした。
絶対に勝たなければならない試合の失点。
俯く日本の選手に向かって涼平くんが手を叩いて何か叫んでいる。
「まだまだこれからだ!」
なんて言葉が聞こえてくるような顔。
集音マイクで拾われてないけど、私には分かる。

03-632 :あか:2011/03/11(金) 23:31:07.30 ID:omFNRgFf
試合再開。
涼平くんはドリブルを仕掛け、相手を一人二人とかわし、仲間にパス。
彼の顔がアップで映り、その表情をどこかで見た気がして。
直後、画面が再び俯瞰的になったとき、涼平くんがボールを受けた。
ワンフェイントをいれて、右足でシュート。
綺麗な弾道を描いたそれは、白い波を起こした。
同点弾!
彼はイタリアの10番のプレーをそっくりそのまま、いや、むしろ距離があった分涼平くんの方が難しいかな?
とにかく、真似してみせた。イタリアの至宝のプレーを!
「ふふふっ」
つい、笑い声が漏れた。
何て楽しそうにサッカーをするんだろう、彼は。

イタリアも格下に負けられないという意地か、積極的に攻め上がってきた。
それを跳ね返し続け、後半ロスタイム。
ついに彼がボールを受けた。
股抜きで相手を抜き、シュートを撃とうとしたその時、彼の体は宙を舞った。

03-633 :あか:2011/03/11(金) 23:31:34.92 ID:omFNRgFf
強い笛。
涼平くんを倒したイタリアの10番にイエローカードが出て、日本のフリーキック。
彼は悶絶し、苦悶の表情を浮かべながら左足を押さえている。
文句をつけるイタリアの選手を無視しながら審判はフリーキックの準備を整える。
その間に何とか涼平くんも立ち上がり、仲間と何か話しながらボールをセットした。
笛が鳴って。
彼が蹴ったボールは虹を描きながらゴールに吸い込まれていく。
キーパーが伸ばしたその指の先をまるで嘲笑うかのように走りながら、ネットを揺らした。
スタジアムの大歓声がテレビ越しに伝わってきて。
涼平くんは笑顔でベンチに走って行く。
選手みんなにもみくちゃにされながら、彼はカメラに向かって指差した。
もう時間は残ってない。イタリアがキックオフをしたその瞬間、レフェリーの強い笛が三度鳴り響いた。

03-634 :あか:2011/03/11(金) 23:32:32.45 ID:omFNRgFf
イタリアの10番とユニフォームを交換し、何かを笑顔で話している。
そういえばイタリア語の勉強してたんだったっけ? インテルの試合をイタリア語の放送で見たいからって言ってたはず。


『監督に続きまして、今日の試合で見事なツーゴールを決め、決勝トーナメントに導いた楊涼平選手です! おめでとうございます』
「ありがとうございます」
ふふ、緊張してる緊張してる。
彼は分かりやすく固くなっていて。
『一点目のシーンは、どんなイメージだったんでしょうか?』
「イタリアの10番の選手の先制点を意識していました。同年代で世界トップクラスの選手なんだし、お手本にしてやろうと思って」
『では、二点目のフリーキック。そしてそのきっかけとなったドリブルは?』
「あれは、昔の試合で似たようなプレーをしたことがあったんです。印象的な試合だから記憶に残ってて。で、日本人に股抜きされたら、彼らも冷静に対処できなくてファールをもらえるんじゃないかなって」
昔の試合? それって、もしかして・・・。
私の記憶の中でも1、2を争う、その大切な思い出。

03-635 :あか:2011/03/11(金) 23:34:06.98 ID:omFNRgFf
『それは、どんな試合だったんでしょうか?』
「国体代表の時のちっちゃい試合だったんですけどね。大切な人を初めて誘ったので印象に残っています。見てるー?」
『なるほど。それでは一点目に意識したという彼とユニホーム交換をしていましたが、彼とは何か話しましたか?』
「今度はセリエAのサンシーロで一緒にやろうって言われました。インテルでトップになるって。」
『最後に、日本のファンにメッセージを』
「皆さんの後押しがあって決勝トーナメントを決められました。ありがとうございます。優勝目指して頑張るので、これからもよろしくお願いします」
『ありがとうございました、今日ツーゴールの楊選手でした。』

・・・待て待て待て待て。
あのフリーキックのシーンはどう考えても私が初めて誘われたあの試合のものだ。
股抜きからファールを貰うその場所、弾道まで完全に。
そういえば、試合中のあの顔はもしや同じことをしてやろう、ってことでどこかで見た気がしたのだろうか。
・・・ということは。
「大切な人って、私・・・?」
顔が熱い。
でも確かに誘われた時点で好意は持たれてたんだよね、たぶん!
ていうかあのビッチだった頃の私はそう思ってたし!
午前5時30分。早朝の私は混乱気味だ。

03-636 :あか:2011/03/11(金) 23:34:46.35 ID:omFNRgFf
結局、涼平くんはあのイタリア戦の最後のプレーで足を痛めたらしく次戦を欠場。
決定力を欠いた日本は決勝トーナメント一回戦で姿を消した。
そして今日。
ヨーロッパから日本に帰ってくる彼を迎えに空港に向かった。
まだかな、まだかな。
「だーれだ?」
「きゃっ」
急に視界が真っ暗になった。
こんなことをするのは、彼しかいない。
「涼平くん、でしょ?」
「違いまーす」
そう言われ、明るくなった視界をもって振り返ると、同世代の男の子と、涼平くん。
「やめろよ、ユウ」
「はいはい。悪かったって、涼。で、初めまして、紅宮さん。センターバックの白石です、よろしくねー」
・・・ああ、分かった! 日本代表の白石勇気。この間の試合も出てたはずだ。
「君が涼の『大切な人』なんでしょ? あの試合のあと、チーム内はその話題て持ち切りでさあ・・・」
「その話は良いから! 早く帰れよ」
真っ赤になった涼平くんをからかうように分かった分かったと言いながら、彼は私に「じゃ、またねー」なんて言いながら去って行った。

03-637 :あか:2011/03/11(金) 23:36:31.30 ID:omFNRgFf
「あー・・・何か・・・その・・・ご、ごめん」
そう言う彼の顔は何だか可愛い。
「ううん、何が?」
そう返すと、もう何も言わずに真っすぐに出口に向かって行って。
今日は疲れてるだろうしこのまま送って帰ろうかな、なんて思っていた。
そこで。
「あんた、ユリだろ? また相手して欲しいんだけど、連絡先も知らなかったしさ」
急にオヤジに手首を捕まれた。
そして、青ざめる顔。
ユリ、それは。
私の--援交用の名前。
「ユリ? 誰ですか?」
近くにいた楊くんがそれを否定するように近づいてきた。
「来ないでっ・・・!」
悲鳴のような声で拒否し、オヤジの顔を見る。
何だか愉快そうに涼平くんを見て、問いかけた。
「あんた、こいつの彼氏か?」
不審に感じたのだろうか、彼は私をちらっと見た後に答える。
「違います、今は」
そう言うと、オヤジはさも愉快そうに笑いながら言う。悪魔の言葉を。
「コイツはなあ、援交してたんだよ。俺みたいなオヤジに何回もヨガってきて」
ああ・・・もうダメだ。
私は捕まれた手首を振りほどき、涼平くんを振り返ることもなく、後ろから聞こえる私の名前を呼ぶ声も無視して出口に向かって走った。

最終更新:2011年02月25日 10:02