アニメキャラ・バトルロワイアル 2nd @ wiki
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アニメキャラ・バトルロワイアル 2nd @ wiki
ja
2023-08-06T21:34:38+09:00
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【エピローグ】
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**【エピローグ】
|話数|タイトル|作者|登場人物|
|286|[[「紙は我らの天にあり。なべてこの世は事も無し」]]|[[◆LXe12sNRSs]]|菫川ねねね&COLOR(black){、ロニー・スキアート}|
|287|[[ソング・フォー・スウィミング・バード]]|[[◆10fcvoEbko]]|スパイク・スピーゲル|
|288|[[副社長は自身が知ることについてしか語らない]]&br()[[それが我の名だ~actress again]]|[[◆DzDv5OMx7c>◆DNdG5hiFT6]]|ギルガメッシュ&COLOR(black){、王ドロボウ}|
|290|[[宴の始末]]|[[◆Wf0eUCE.vg]]|ロニー・スキアート&COLOR(black){、ギルガメッシュ}|
|291|[[異世界からの挑戦状]]|[[◆j3Nf.sG1lk]]|&COLOR(black){ギルガメッシュ、王ドロボウ}|
|292|[[未定]]&br()[[shining☆days]]|[[◆LXe12sNRSs]]|鴇羽舞衣、小早川ゆたか|
|293|[[LAST CODE ~ゼロの魔王~]]|[[◆9L.gxDzakI]]|ルルーシュ・ランペルージ|
|294|[[extra SHOT 『EL FIN ~人、生、あるいは――未亡人~』]]|[[◆hNG3vL8qjA]]|&COLOR(black){ギルガメッシュ、王ドロボウ}|
|289|[[メビウスの輪から抜け出せなくて]]|[[◆EA1tgeYbP.]]|ヴィラル|
|290|[[エピローグ(クロちゃんの世界)]]|[[◆hNG3vL8qjA]]|サイボーグクロちゃん|
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shining☆days
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**shining☆days ◆LXe12sNRSs
◇ ◇ ◇
すっかり暗くなってしまった峠道を、ライトで照らしながら。
私、鴇羽舞衣は小早川ゆたかを乗せ、バイクをかっ飛ばしていた。
人はもちろんこと、対向車も見かけられない静かな道が、爆音で満たされる。
こんなに気持ちのいい夜はなかなかない。思わず自分語りでもしたくなるようなくらい、静かな夜だ。
……そんなところで、ちょいと昔を回顧してみるとしましょうか。
『―― 自らモルモットの道を選ぶとはね。期待はしないが、せいぜい長い目で見させてもらうことにするよ ――』
アンチ=スパイラルがわざわざ私たちに寄越してくれた、帰還のチャンス。
元は螺旋王が所持していたらしい、あの翼竜を模したデザインの飛行機は、私をこの地に誘った。
……風華も媛星も存在しない、平穏な日常。私が住んでいた宇宙とは異なる……ゆたかの故郷に。
あの飛行機は、ルルーシュが解析してなんとか使えるようにはなったのだが、
どうにもシステムのすべてを掌握できたわけではないらしく、使用にもいくらかの制約が設けられた。
生き残ったみんな、それぞれの帰るべき世界を検索して……しかし私の故郷だけは、見つけられなかったのだ。
要するに、帰れなかったのである。
鴇羽舞衣は元の世界への帰還叶わず、放浪を余儀なくされた。
それは、見知らぬ土地で余生を過ごす、という選択肢を招いた。
親戚も友達もいない新天地で生きる道を、私は選んだのだった。
とはいっても、別に選択肢がそれだけだったわけではない。
翼竜型飛行機のエネルギーが尽きるまで膨大な多元宇宙を彷徨い故郷を探す道だってあっただろうし、
私とゆたかが降りる際にはまだ残っていたギルガメッシュに付いていくという道だってあった。
それらの選択肢の中で、私はゆたかと同じ世界に渡る、という道を選んだのである。
……元の世界に帰ったって、いいことなんかないから。その思いが強かったのも、否定はしない。
仮に帰れたとしても、弟の巧海はもう戻って来ないし、私自身、HiMEの運命に翻弄されて終わりだろう。
それを思うなら、せっかく知り合えた親友と共に今後を歩んでいったほうが、気は楽だ。
どこぞの王ドロボウみたいにいろんな宇宙を旅して回るほどのガッツは、私にはない。
大して話も合わなかった王様に付き従うなんて最終手段にも等しい生き方は、論外だ。
だったら、私はゆたかの隣を選ぶ。それしかない。ううん、むしろゆたかの隣がいい。
というのが、紛れもない私の本心。
けど、私が帰れなかった本当の意味を考えるとなると、実際のところは私の思惑なんてなかったも同然なんじゃ、と考え付く。
帰れなかったという意味では、私だけじゃなく、ゆたかも同じなのだ。
だってここは――ゆたかの帰るべき故郷でもなかったのだから。
考察し行き着いた結論を述べると、帰れなかったのではなく、帰ることが許されなかったのだ。
私たち二人をこの虚構の世界に誘った張本人……他には考えられないアンチ=スパイラルが、私たちの帰還を阻んだのである。
私たちが今、存在を許されている〝ここ〟について話そう。
具体的な違いは、泉こなた、柊かがみ、柊つかさの消失である。
この世界に辿り着いてすぐ、私たちはゆたかが居候している伯父さんの家、泉家を訪ねた。
家の主、泉そうじろうさんは何食わぬ顔で私たちを迎え入れ、なにを問いただすこともしなかった。
異常だった。
私たちが数日間失踪していたことについても、私の素性についても、娘の所在についても、まるで言及してこない。
事態を訝ったゆたかが尋ねてみて、私たちはそうじろうさんが持っている認識と、驚くべき現実を把握した。
この世界の私たちは、失踪などしていなかったのである。
螺旋王による拉致も、数日間の不在も、他者にはまるで認知されていなかった。
朝起きて学校に行き、夕方に帰ってきた娘たち……そうじろうさんは、私たち二人をそう認識していたのだ。
ここまでなら、平行世界における単純な時差と捉えることができる。
しかし最大の疑問は、そうじろうさんが私、鴇羽舞衣について言及してこないという部分だ。
……それもそのはず。この世界における私の役割は、〝鴇羽舞衣〟ではないのだから。
この世界における、私の役割。
それはそうじろうさんの娘であり、ゆたかの従姉である――〝泉こなた〟だったのだ。
要するに、そうじろうさんは私のことを鴇羽舞衣ではなく、自分の娘、泉こなただと思っていたっていうこと。
実際そうなのだ。泉家で過去のアルバムやらビデオテープやらを漁ってみたが、そこには幼少時代の私が映っていた。
その代わり、ゆたかの知る〝こなたお姉ちゃん〟の姿はどこにも存在していなかった。
螺旋王の実験に参加していたゆたかの友達は、もう二人いる。
柊かがみと柊つかさ……彼女たちの所在についても調べてみたが、結果は泉こなたと同じだった。
柊家を訪ねてみると、そこには柊いのり、柊まつりという二人の姉妹がいた。
彼女たちは本来、柊かがみや柊つかさの姉に当たるのだというが、揃ってそんな妹は知らないと言う。
柊家の四姉妹は三女と四女を欠いた。いやこの世界では、元々長女と次女しか存在していなかったのである。
いるはずの人物が、最初からいないものとされているおかしな世界……私たちは、これを否定することができなかった。
知ってしまっていたから。
既に、多元宇宙という無限の可能性を知りえてしまっていたから、ここが虚構ではないと断言できてしまうのだ。
さて、ここで『どうして私たちがこんな世界に辿り着いてしまったのか』という疑問について考えてみよう。
あまりにも都合のいい人間関係の改変。あつらえられたような環境。私たちに考えさせるような様々な要素。
これらを踏まえて考え……るまでもない。解答は、アンチ=スパイラルによる干渉。これしか思い当たらなかった。
『―― 貴様には俺たちを長期的、かつ特殊な刺激の少ない場所に移す義務がある!! ――』
そもそもアンチ=スパイラルは、私たちをいったいどうしたかったのか。
当初は捨て置かれる運命だった私たちを、アンチ=スパイラルはわざわざ救済してのけた。
ルルーシュのヤケクソ気味の交渉のおかげでもあるが、アンチ=スパイラルとしては温情を働いたわけではなく、譲歩したにすぎない。
貴重とも言える観察対象を、使い勝手のいい鳥かごに閉じ込めておこう――なんてことはない、それがアンチ=スパイラルの心理。
奴らはルルーシュの求めに応じ、『長期的かつ特殊な刺激の少ない場所』として、この世界をあてがったのだ。
もし、私たちがそのまま元通りの生活に戻ったとして。
ゆたかは大変だろう。
彼女の数日間の不在は失踪事件として取り上げられ、しかも同時期に仲のいい友達が三人も行方不明、帰ってきたのは一人のみ。
マスコミの集中砲火はまず免れないだろうし、娘に先立たれたそうじろうさんはショックのあまり自殺してしまうかもしれない。
渦中のゆたかなど、しばらくの間は刺激に溢れすぎた日常を送ることになる。
それはアンチ=スパイラルとしても望まない、ということなのだろう。
私の場合、そういった事件絡みのごたごたは風華の人たちが容易に揉み消すだろうことが想像できる。
が、元の世界に戻ったらまず、私には蝕の祭が待っているのだ。
大切な人を失ったにも関わらず、カグツチを扱えてしまう私はさぞイレギュラーな存在として祀り上げられるだろう。
凪あたりの反応がちょっと見てみたくはあるが、それで実際に蝕の祭の行く末どうなってしまうかは、見当も付かない。
螺旋力のおかげで一番強いHiMEになりました……なーんて、それはアンチ=スパイラル的にどうなんでしょうね。
どちらも等しく、刺激の少ない場所、と言えるような環境ではないのだ。
ここが元からあった世界なのか、アンチ=スパイラルがわざわざ用意した世界なのかはわからないが、都合がいいという点についてはもはや疑いようもない。
私たちは鳥かごに閉じ込められた小鳥として、壮大なる宇宙の意思の監視下で、生を全うするしかないのだ。
暮らしていく分には、不自由も不満もない。
ただ、ここは本当に帰るべき場所とは違う――ということを考えると、私もゆたかも度々ブルーになる。
死んでしまった人たちにはもう会えない、という部分では忠実なんだけど、元々存在しない、となると感慨もまた違ってくるものだ。
『―― なら、さ。悲観せず、とりあえず生きてみましょうよ。鳥かごの中で……二人一緒に。一生懸命! ――』
事実を受け止めて、それでもめげず、私とゆたかは生きる道を選択した。
ゆたかは小早川ゆたかとして、私は泉こなたとして。
アンチ=スパイラルの視線なんかに負けず、精一杯に。
決心してからの私たちがどうしたか、についても語っておこう。
まず私、泉こなたとしての鴇羽舞衣は、帰ってきてからしばらくして学校を辞めた。
そうじろうさん――お父さんには猛反対されたけど、そこは我を通させてもらった。
理由らしい理由は、ないのかもしれない。言ってしまえば、私のわがまま。
泉こなたの築き上げてきた人間関係をそっくりそのまま継承して、のうのうと学園生活を送るのが嫌だった。
というよりも、本物のこなたさんに悪いと思ったから、かな。これは気持ちの問題。
ここにいる私は泉こなただけど、生き方くらいは鴇羽舞衣として選びたい。
そう一念発起して、やっていることと言えば気ままなアルバイター生活。
巧海と二人で暮らしていた頃、いろいろやっていたというのも要因なのかもしれない。
やっぱり、自分らしい生き方をするのが一番気楽なのだと思う。
ある程度お金が貯まってから、私はバイクを買った。
免許も取って、こうやって夜の峠を走るくらいにはハマっている。ああ、もちろん無事故無検挙ね。
なんといいますか、自分らしい生き方をしたいという欲求がある一方で、新しい生き方を模索したいと思った次第で。
ああ……あそこでは、シモンを後ろに乗せて走ったこともあったっけ。素人が手を出した結果、酷い事故に繋がったけど。
身につけた教訓を有用にしたかった、ってことなのかな……なつきに影響された部分も、あったんだと思う。
ゆたかについても話しておこう。
あの子はまあ、普段の暮らしに戻っただけなんだけど……こちらに帰ってきてから、アニメ鑑賞という趣味が増えた。
経緯を説明するとすれば、とある驚くべき発見がすべての引き金だったと言える。
ゆたかと一緒にテレビを見ていたときのことである。
『―― ねぇ、舞衣ちゃん。このCMに出てるのって…… ――』
『―― ……はい? ――』
DVDかなにかのコマーシャルに、ルルーシュが出演していた。
声はそのまま、姿形も瓜二つ、だけどそれは実写ではなくアニメ絵で、調べてみるとアニメDVDのCMであるようだった。
関心を持った私たちは、雑誌やインターネット、学校のアニメに詳しい友達から情報を入手して、真相に行き着いた。
――螺旋王の実験に参加していた人たちはみんな、アニメキャラクターだったのだ!
突拍子もないこと言ってると思うし、実際その衝撃たるや疑って然るべきだったけど、本当なんだから仕様がない。
それぞれ制作された年代に差はあれど、実験参加者のほとんどの人間が、この世界ではアニメの登場人物として動いていたのだ。
たとえば、菫川先生は「R.O.D」という作品に。
スカーさんは「鋼の錬金術師」という作品に。
ガッシュは「金色のガッシュベル!!」という作品に。
皆、生き写しのような性格、容姿をしており、各々が独自の世界を築き、物語を成していたのだ。
元の世界でもこれらのアニメ作品があったのかと訊いてみたが、そっちの方面に疎いゆたかはよくわからないと言う。
私も詳しいってわけじゃないけど、少なくとも子供時代にみんなの出てくるようなアニメを見たことはない。
これもアンチ=スパイラルによって捏造された代物なのか、またその意図はなんなのか、答えは出てこなかった。
この事実を知ったゆたかは、実験参加者たちが出演している作品を片っ端から集めるという行動に出た。
レンタルで大体済ませられるっていうのに、ゆたかは強情にも買い揃えると言い出し、そのためにバイトを始めたりもしたっけ。
一番最初に手に入れたのが、「宇宙の騎士テッカマンブレード」という作品。
私とゆたかにとっても縁深い人物……Dボゥイが主役を張っていたアニメだ。
内容はとても女子高生が見るようなものとは思えなかったけれど、ゆたかと私は食い入るように全49話を視聴した。
実験場では知ることができなかった、Dボゥイが抱えている確執と苦悩……それらを視聴者という立場で改めて知り、複雑な気持ちに襲われもした。
二人で一緒に「劇場版 天元突破グレンラガン」を見に行ったときなんて、ゆたかが感動で泣き出しちゃったりもした。
それにはアンチ=スパイラルも登場していて、壮絶な最期を遂げたりもしたのだが……本人は今頃どこでなにをしているのやら。
それは生き残ったみんなにも言えることだった。皆が元の世界に無事帰れたと仮定するなら、
ルルーシュやギルガメッシュはもうこの世にはいないのかもしれないし、違った歴史を歩んでいる可能性とてあり得る。
……こういうのを考えるのは苦手だからやめておこう。SFって、難しくてよくわかんないんだもの。
ゆたかのコレクションは、今日買った「カウボーイビバップ」、スパイクの出演作で、全作品コンプリートとなる。
さすがに、私やゆたかが登場しているアニメ作品は発見できなかったけれど……他の世界では、もしかしたら私たちもアニメキャラクターを演じているのかもしれない。
そんな感じで。
私たち二人はそれぞれの道を歩み出し、ゆたかはもうそろそろ高校を卒業するのだが……ああ、そういえば。
この世界にやって来たのは、私とゆたかだけじゃなかった。
もう一人の帰還者についても、ここで話しておこうと思う。
なんの縁か、こんなところにまでついてきてくれた彼――インテリジェント・デバイス、ストラーダについて。
◇ ◇ ◇
『どうやら、この地における私の役目は取り上げられてしまったようです。そこで、お二人に最初で最後のお願いをしたい』
帰還してしばらくの間は寡黙を貫き通していたストラーダが、不意にそんなことを言い出した。
クロスミラージュに問いかけていた勇ましい口ぶりとは違う、懇切丁寧な態度で、舞衣とゆたかに乞う。
『私という存在、そしてあなた方が彼の地から持ち出したいくつかの物品。それらは等しく、ここではオーバーテクノロジーと成り得るものです。
行き過ぎた技術は、文明の崩壊を招きかねない。いや、これは言いすぎだとは思いますが……どちらにせよ、もう私の役目は終わったのです』
ストラーダの要望により、舞衣とゆたかは誰もが寝静まる深夜、人気のない山奥へと足を運んだ。
当然それにはストラーダも同行し、二人の肩には感触の懐かしいデイパックが提げられてもいた。
『この虚構のような世界に関しても、ここに誘われたあなたたち二人に関しても、思うところはあります。
彼の地で螺旋力覚醒の第一号となった小早川ゆたか。螺旋力とは異なる想いの力で天元を目指して見せた鴇羽舞衣。
あなたたち二人はヴィラルほどではないとはいえ、アンチ=スパイラルにとっては絶好の観察対象なのかもしれません。
私も含め、鳥かごに閉じ込めておくには最適な組み合わせでもあるのでしょう。だからといって、それを甘んじて許す必要もない』
適当な場所に辿り着くまで、ストラーダは二人と言葉を交わし続けた。
デバイスとして、仮のマスターとして、双方とも大した間柄は築けなかったが、共有している〝想い出〟は移り変わるものではない。
そして、深い山中に足を踏み込んだとき、ストラーダがまた唐突に願う。
『私をこのまま土中深くに埋めていただきたいのです』
舞衣とゆたかは、さすがに承諾することができなかった。
相手はAIを持った程度の機械にすぎない、とはいえ、舞衣やゆたかの価値観から言わせれば、人間の命と重さはなんら変わりなかった。
ストラーダという確かにそこに在る存在に対して、所持者という肩書きを持ち合わせた二人は、選択を――
「だめ。許さない」
――迫られ、ゆたかは即座に答えを選び取った。
平時の和やかな印象とは違う、あの壮絶なる螺旋の鉄火場を生き抜いた、戦士としての顔を毅然と向ける。
この反応を予想していなかったらしいストラーダは、表情を持たぬ槍の身に、驚きの様相を纏う。
「私は、いろんな人に守られて、今ここにいるの。フリードが私を庇ってくれたとき、強く、思ったから。
……生きていかなきゃ、いけないって。この命を守ってくれたみんなのためにも、精一杯、生きなきゃいけないから」
涙ぐんだ表情で、ゆたかは熱弁を振るい続けた。
受け取る側のストラーダは寡黙な槍へと立場を戻し、その心理を秘す。
主を失い、役目を失い、居場所すら失ったデバイスに、どのような施しを与えるべきなのか。
ゆたかも舞衣も知り得ず、しかし本人の要望どおりに命を埋没をさせ、終わらせることだけは違う、と頑なに信じ込む。
人間の傲慢とも取れる応答に、乞うた側のストラーダは、
『……あなたたちは、強いのですね』
少し寂しそうな音声で、本心を吐露し始めた。
『私はマスター……エリオ・モンディアルを失って以降、リュシータ・トエル・ウル・ラピュタに悪用されようとも、一切の抵抗をしませんでした。
我が身はデバイス。人間に使役されて初めて意味を成す存在である。あのような非常時に、独断で民間人と意思疎通を図ることは許されない。
そんな堅苦しい考えが、いつの間にか根付いていたわけです。同僚のクロスミラージュは、〝気合〟による状況の打開を提唱、実行までして見せたのに』
ゆたかと舞衣は、ストラーダという槍についてなにも知らない。
会話を交えようとしても、本人が語ることを拒んできた。
実験場を脱出するその瞬間まで、ストラーダは己の流儀に従い続けたのだ。
そして、非常の時間が終了した今になり、ストラーダはようやく自身の胸の内を曝け出す。
時空管理局機動六課での生活、エリオらとの訓練に明け暮れる日々、日常から戦場に至る自らの生き様を、すべて告白する。
当然、今という現実を生きる辛辣な心境についても。
『羨ましくもあり、悔しくもある。私は何を成すでもなく、幸運にも生き永らえる道を獲得した。
英雄王と共に旅立ったマッハキャリバーはともかく、クロスミラージュやフリードリヒに合わせる顔がありません。
いえ、だから、と自暴自棄になっているわけではないのです。ですが、あなたたちに進言するには酷な頼みでしたね。
……すいません、しばらく時間をくれないでしょうか? 今一度、一人で考えてみたいのです……これからの、生き方を』
ストラーダは悩ましげに呟き、しかし確かに、生き方を検討すると言い切った。
ゆたかと舞衣はストラーダの意志を汲み、その他の物品を土中に埋めた後、目印として槍の穂先を突き刺し放置した。
『……ありがとうございます。小早川ゆたか。鴇羽舞衣。お二人に……どうか幸福を』
そのまま別れの言葉もなしに立ち去った。
程なくして戻ったそこに、ストラーダは刺さっていなかった。
◇ ◇ ◇
――ストラーダはどこに消えてしまったのか。今でもその謎は判明していない。
確かなのは、ストラーダが一人では動けないということ。ゆえに、誰かが連れ出したという可能性しか考えられないのだ。
それは数多の多元宇宙を股にかける王ドロボウか、はたまた盗賊を追い回す傲岸不遜な英雄王の仕業か。
アンチ=スパイラルに回収された、という可能性だけは否定したかった。心情的に。
なんにせよ、もうストラーダと会うことはないのだろう。
悲しくはない。だって、ストラーダは確かに生きると言ったのだから。
私とゆたかも……クロスミラージュやフリードリヒに恥ずかしくない生き方をしようと思う。
さて、今となってはいろいろと過去の出来事を、振り返ってみまして。
私は峠を越えた先、海が一望できる崖の辺りでバイクを停めた。
ヘルメットを外し、ゆたかと共に海を眺めやる。
とはいっても、時刻はまだ朝焼けには程遠い。視界は真っ暗だ。
黒一色の海面には引き込まれそうな魅力があり、油断していると崖下へと足を進めてしまいそうだった。
深海よりも澄んだ暗闇に目を奪われながら、ゆたかが不意に言葉を漏らす。
「あのね、舞衣ちゃん。私、小説家になる」
「そっか……ゆたかが小説家にね……」
夢を持つのは良いことだ。私もゆたかも、そろそろ就職を考えたりする時期だしね。
無難に進級して、無難に求人漁って、無難に手に職つけるよりかは、よっぽど若者らしい。
小説家かー。私は文才ないからなぁ……遠い世界だわ。ホント、ゆたかってば志が高い。
いや、待って。
今、さらっと爆弾発言が飛び出したような……って!?
「はぃ~っ!? しょ、小説家になる~っ!?」
あまりの不意打ちに驚かされ、私は体を張ったオーバーリアクションで逆にゆたかを驚かせた。
微妙な気まずさが漂う中、ゆたかはほんのり赤面しながら、おどおどと口を開く。
「うん、あのね。最近、おじさんにいろいろ教わったりして……」
「そりゃあ、そうじろうさんは現役の作家さんだけどさ……だから影響されたってわけじゃないんでしょ?」
ゆたかは、コクリ、と可愛らしく頭を垂れた。
「影響された、っていうんなら……こっち、かな」
示して見せたのは、アニメイトの買い物袋。中身は本日購入したばかりのカウボーイビバップDVD-BOXだ。
「まだ漠然としてるんだけど、別に小説じゃなくてもいいの。アニメでも、漫画でも、絵本や芝居だっていい。私は、自分の手で物語を、ハッピーエンドを作ってみたい」
ハッピーエンド。
菫川先生が口々に語っていた言葉だ。
あの殺し合いの結末は、はたしてハッピーなんて言えたのだろうか……言えるわけ、ないか。
たくさんの人が死んで、たくさんの想いが潰えて、舞台を牛耳っていた支配者は、今もどこぞでふんぞり返っている。
私たちは生き永らえさせられただけ。と現実を鑑みれば、またちょっとブルーになってしまう。
「私、こっち戻ってきてから、みんなの出ているアニメをたくさん見た。
みんながみんなハッピーエンドっていうわけじゃなかったけれど、その生き方は決して作り物なんかじゃない。
Dボゥイさんも、菫川先生も、ルルーシュくんも、アンチ=スパイラルさんだって! 精一杯生きてるんだって……」
ははは……アンスパさんもですか。
ゆたからしいというか、なんというか。
言わんとしていることはわかるけど、まあ……うん。
「……それもいいかもね」
私は、自分の顔が恥ずかしくなるくらいにやけているのを自覚した。
構わず、己の両手首に意識を集中させる。
胸の底から高ぶってくる感情を、顕現させるように。
誰かを想う――意思をこの世へと表出させ、イメージは燃える炎の如く。
軽い熱気が放たれた後、私の両手首に宝輪――HiMEの証であるエレメントが具現化される。
うん、完璧。
こっちに来てからも、私のHiMEとしての能力は失われていない。
力を使うのは久しぶりだけど、身に染み付いた感覚はなかなか忘れないものだ。
「ま、舞衣ちゃん……」
「うん? どうしたのよゆたか、そんな心細そうな顔しちゃって」
「だって、ここでHiMEの力を使っちゃったら……アンチ=スパイラルさんが怒鳴り込んでくるかも……」
「あー……」
まあたしかに、媛星の脅威にも見舞われていない平和な地球で、こんな異能ひけらかすのはよろしくないだろう。
ただでさえアンチ=スパイラルに睨まれてる世界だし、はしゃいだ挙句、あとでどんなとばっちりが来るかは想像もできない。
……なんて諦める鴇羽舞衣じゃないわよ。明日は明日の風が吹く。それが私のモットーだもの。
「けど、さ。少しくらいなら大丈夫でしょ。そのために、人目のない場所と時間を選んだんだから、さ?」
私はウィンクして、ゆたかに同調を試みる。
堅物のアンチ=スパイラルだって、これくらいは見逃してくれるって、たぶん。
ゆたかは少し疲れた表情を浮かべて、だけどすぐに笑顔を作り直し、頷いてくれた。
少女が過去を顧みて、未来を按じ、夢を語る。
こんな気分のいい日には、空でも飛びたくなるってものだ。
久々に、あの子にも会いたいしね。
「じゃ、いくわよ」
「うん!」
私はゆたかの華奢な体を抱き寄せ、エレメントに宿る炎をさらに高めた。
大きく息を吸い、腹の底から燃焼するようにして、声を発する。
呼ぶ。応えてくれる。我が子に。母の想いに――
「カグツチィィィィッ!」
◇ ◇ ◇
――舞衣ちゃんと一緒に、飛ぶ。
カグツチの背に乗って、雲の上まで突き抜けて、地球の天井を超えそうなくらい、高く。
傍らの舞衣ちゃんは、私が揺れで落ちないよう、ぎゅっと抱きとめていてくれる。
心地よかった。肌で感じる温もりが、カグツチから感じる熱気が、安らぎに変わっていく。
「あのね、舞衣ちゃん。さっきの話の続きなんだけど!」
「うん!」
羽ばたく轟音、風を切る圧力に負けないよう、私と舞衣ちゃんは声を大きくして言葉を交わす。
「舞衣ちゃんにも、手伝って欲しいの! 私がちゃんとやれるように、傍で見守っていてほしい!」
「オッケー! それくらいお安い御用……っていっても、具体的にはなにやればいいのー!?」
訊かれて、私は答えを返せなかった。
ハッピーエンドで終わる物語を作りたい。この想いは本物だけど、まだ漠然としている。
なにから始めればいいのかも、手探りだった。感情だけが先行している。でも、それが駄目だとは思わない。
みんなに、幸福な結末の素晴らしさを知ってもらいたいから。
悲しみだけじゃない、悲しみの先には喜びも待っているっていうことを、私が知ったから。
――あそこで私たちがやってきたことは、無駄じゃないんだって。証明として遺したいから。
「う~ん、じゃあさ! これから二人で考えましょうよ! 時間ならまだ、た~っぷりあることだしね!」
「うん、そうだよね! 私たちの時間は、まだまだこれからなんだよね!」
声を張り上げて、私と舞衣ちゃんは笑い合った。
風が気持ちいい。抱擁の熱が心地いい。実感できる生に幸福を覚える。
こなたおねえちゃん。つかさおねえちゃん。かがみおねえちゃん。
Dボゥイさん。シンヤさん。高嶺くん。明智さん。菫川先生。イリヤさん。
ジンさん。スパイクさん。奈緒ちゃん。ニアさん。ドモンさん。ガッシュくん。
スカーさん。ギルガメッシュさん。カミナさん。ルルーシュくん。
マッハキャリバー。クロスミラージュ。ストラーダ。フリード。
あそこで出会ったすべてのみんなに、私は言葉を送りたい。
小早川ゆたかは、ここで生きています。
今も、これからも……精一杯、生きてみます!
「そうだゆたか! 約束! だったらアレ!」
「アレ……あっ、うん! アレだね!」
舞衣ちゃんが口に出したアレという単語に、私は当たりをつけた。
確認もせずに、二人でごそごそと荷物を探る。
あそこを発ってから、肌身離さず携帯していたお揃いの水晶を取り出し、見せ合った。
これは、私と舞衣ちゃんが約束ごとをするときの儀式みたいなもの。
Dボゥイさんとシンヤさんが残してくれたクリスタルが、今じゃすっかり指きりの代わりになっている。
「ここじゃ、私はゆたかのおねえちゃんだから。どこまでだってついていくし、どこにだってつれていってあげる!」
「私も、舞衣ちゃんと一緒にいたい! ううん、舞衣ちゃんと一緒にいる! 私たち、ずっと――!」
私と舞衣ちゃんの関係は、言葉では言い表せないものになっていた。
親友とも、姉妹とも、家族とも、恋人ともちょっと違う、不思議な関係。
今さら確かめ合うまでもなく、お互いがそう認め、刻んでいる。
――鴇羽舞衣を。
――小早川ゆたかを。
そうして、天壌の空間を翔るカグツチの背の上、約束は交わされる。
打ち鳴らされた水晶が、チンと優しい音を立てた。
【アニメキャラ・バトルロワイアル2nd らき☆すた with 舞-HiME――――shining☆days START!】
**時系列順に読む
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**投下順に読む
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|292:[[未定]]|鴇羽舞衣|
|292:[[未定]]|小早川ゆたか|
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2023-08-03T10:19:49+09:00
1691025589
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未定
https://w.atwiki.jp/animerowa-2nd/pages/765.html
**未定 ◆LXe12sNRSs
断章――――確かなる現実として必ずどこかには存在しうるだろう架空とも言える不明瞭な世界。
深夜。
一切の照明も点っていない書斎の中、泉そうじろうは黒一色の天井を眺めていた。
常日頃から愛用している作務衣を纏い、髪と無精髭はだらしなくも伸ばしっ放し、痩身はいつにも増して痩けている。
小説家という職業を鑑みれば、締め切りに追われ連日連夜、部屋に篭って仕事に没頭していたのかと推測もできるが、真相は違う。
泉そうじろうは飽いていたのだ。
一人きりとなってしまった人生に、絶望を感じていた。
数年前のことである。
自らが愛してやまない一人娘、泉こなた。
こなたの親友である、柊かがみと柊つかさ姉妹。
高校入学に伴いゆきから預かっていた、姪っ子の小早川ゆたか。
この四人が突如として、謎の失踪を遂げた。
その消息は、未だ掴めてはいない。
仲のいい女子高生グループが同時期に失踪するという、不可解な事件。
この事件は当然のごとく話題を呼び、マスコミの格好の餌食となった。
報道番組でもしつこいほどに特集を組まれ、知人や親族にインタビュアーが殺到。
陵桜学園や鷹宮神社は質問の嵐に見舞われ、そうじろうたちにとっての穏やかな生活は、混沌の極みに達した。
一方で事件はまったく進展を見せず、時が経つにつれ世間もマンネリ気味のニュースに飽き、膠着状態に陥る。
続報はそうじろうの耳にも入らず、家出した娘たちは一向に帰って来ない。
迷宮入り確定の謎を追い求めようとするバイタリティなど、喪失感の重苦に縛られる身に、宿りはしなかった。
――おまえは俺より先には逝かないと思ってたのになぁ。
チェアの背凭れに身を預けながら、そうじろうは楽しかった日々を思い出す。
今は亡き妻、かなたとの青春の日々。生き写しの娘、こなたとの新たなる生活。
男手一人で娘を育て、嫁に出るその日までは父親であろうとした意志が、儚くも散る。
こなたはもう、戻っては来ない。
ゆたかも、かがみも、つかさも。
なぜだか、そう確信できた。
生きていれば何歳になっていたか、とも。
まるで考えられず、想像できず、疑えず。
ああ、これが俺の人生の終着点なんだな、と。
――もう、ゴールしてもいいよね?
そうじろうは誰にでもなく問いかけ、そして答えを得た。
口に錠剤を複数含み、コップに注いだ水道水で流し込む。
コク、コク、コクと……水を飲む音だけが泉家に響いた。
◇ ◇ ◇
サンタクロースをいつまで信じていたかなんてことは、たわいもない世間話にもならないくらいのどうでもいいような話だが、
それでも俺がいつまでサンタなどという想像上の赤服じーさんを信じていたかと言うと、これは確信を持って言えるが最初から信じてなどいなかった。
などという導入部から始まってはみたものの、このお話は平凡な男子高校生の非日常を描いた物語などでは決してない。
舞台となるのは北の方角に位置する高校ではなく、アニメイト大宮店。今日から俺の勤め先となる、アニメグッズ専門店だ。
俺の名前は杉田。ここでは杉田店員(28)とでも呼んでくれ。誰かに似てる? 気のせいだろ。
さて、初出勤とは言っても配属先の店舗が変わっただけであって、仕事に関しちゃ慣れたもんだ。
上司や先輩方とは早々に挨拶を済ませ、客足も途絶える午後に差し掛かったところで、俺は一息つく。
レジカウンターでぼーっと客の流れを眺めていると、横合いから妙な熱気が伝わってきた。
促されるように横を向いてみると、そこには某熱血漫画家の魂を宿したような暑苦しい形相の男が立っていた。
「どうやら今日も来たようだな……! 見ておけ新人、君は今から伝説を目の当たりにする!」
一昔前の少年漫画で見かけられるようなむさ苦しい頭髪に、バイザー付きのキャップを被ったこの人、アニメ店長の兄沢命斗さん。
その双眸は灼熱のマグマのごとく煮え滾り、一人のお客さんを凝視していた。傍から見ても通報されん勢いだ。
で、その視線の矛先に立っているのが……それはそれは愛くるしい、小学生くらいの体格のお嬢さんだった。
「あの、彼女がどうかしたんですか? まさか挙動不審で万引きの恐れがあるとか……」
「馬鹿なことを言うな。彼女こそは伝説の少女B……! 買い物は堂々するのが彼女の流儀だ」
この店長、常連らしいお客に勝手に伝説などと呼称をつけているのか。はたして許可は取ったんだろうか。
それにしたって、伝説などとは大層な。いくらここがアニメグッズ専門店とはいえ、メディアに毒されすぎだと思う。
「ちょうどいい。杉田店員(28)、伝説の少女Bの今日の購入目標を推理してみろ。当たったら給料五割増しだ」
「マジッスか!?」
即座に俺の脳裏に「キョンのラミカ!キョンのラミカ!」という解答が浮かび上がるが、さすがにそりゃうぬぼれがすぎるってもんだ。
俺の観察眼を頼りにお嬢さんの趣味趣向を推し量るとするならば、そもそもアニメイトなんぞに出向くようなご婦人には見えんのだが。
連れは……金髪と眼鏡の女の子か。片方は外人さんだな。これらの判断材料からどのような答えを模索する杉田店員(28)……
妥当な線をつくならば、ビーでエルなご趣味の方々……いや、伝説と謳われるくらいだ。
禿や髭に魅力を感じる極めて稀な趣向をお持ちであらせられるかもしれん。
とはいえ彼女がまじまじと眺めているのはコミックスの新刊コーナー……これはただ単に書店として利用しに来ただけか……?
ハッ、そういや今日は新刊の発売日でもある……読めたぜ。杉田店員(28)の名推理に隙はない!
「わかりましたよ店長。伝説の少女Bの購入目標はズバリ、ケロロ最新刊……! これに間違いありません」
今となっては小学生にまで大人気の作品、可愛いもの好きの女子高生が携帯のストラップにするのも頷けるキャラ造形。
おそらく特典の栞を目当てにしている部分もあるのだろう。さあ、山積みの最新刊コーナーに差し掛かるぞッ!
「フッ……青い。青いなぁ新人。お客様の趣味趣向を量るのは店員として大事なスキル……しかしあの伝説の少女Bは一筋縄ではいかないのさ」
負け惜しみですか店長。給料五割増しはもはや頂いたも同然、今さらなにを言われようとも……なっ!?
――伝説の少女Bがコミックスの新刊コーナーをスルーし、アニメDVDのコーナーに移動しただとぉー!?
伝説の少女Bの購入目標はコミックスではなくDVDだっていうのか。畜生、近頃の女子高生は金持ってやがる!
しかもなんだ、手に取ったDVDのあの厚みは……レジから見てもよくわかる、あれは明らかにDVD-BOX……!
それをなんの迷いもなく、一直線にレジへと運ぼうとしている。これがつわものか……!
「これください」
「3万4550円になりまーす」
(カウボーイビバップDVD-BOXだとぅ――!?)
まさかの渋いチョイスにフロイト先生も爆笑だっぜ! ジェットのお髭に萌える年頃なのか、杉田店員はこんらんしている!
伝説の少女Bは堂々とした挙動で財布から現金を取り出し、店長に手渡した。店長も慣れた手つきで接客をしている。
ぴったり3万4550円。ポイントカードは結構溜めているようだ。そしてレシートを受け取るや否や、
「ありがとうございます」
店長よりも先にありがとうを、満面の笑顔添えで、俺たちに、お与えくださった!
女神ともえんじぇうーとも形容しがたいお客様の愛くるしさに、俺が飲み込んだ言葉といえば「妹にしてぇ」の一言だけだ。
思わず見惚れ、またお越しくださいの定型句を口にすることすら忘れちまったぜ。去っていく背中が恋しくてたまらん。
伝説の少女Bの退店後、店長は一戦終えたような暑苦しい顔つきで、俺の肩を叩いた。
「どうだ新人。彼女こそ、せっせとバイトして溜めたお金で熱心に名作アニメのDVDを買い集めている常連客……伝説の少女Bだ!」
「あれが、伝説……ってぇ、店長。なんでそんなプライベートなこと知ってんですか?」
俺が質問をやると、店長は顔面を汗だくにしながら答えた。
「ほとんど推測さ。だが俺にはわかる。あの金は親の金でもなんでもない、自分が汗水垂らして稼いだ金だと。
そして彼女が高額のDVDシリーズを買い集めている理由も……きっと背後には涙ぐましい情熱の真理が隠れているに違いない。
今回のビバップで18作目だったか。燃えにも萌えにも縛られない、彼女こそはアニメファンを超越したなにかなのかもしれん」
なにやら漫画の読みすぎのようなことを大言壮語しているが、伝説の少女Bが可愛いのでまあ良しとしよう。
しかし、常連か……明日からの勤務がちょっと楽しみになってきやがったぜ。
それはそうと、ここでどうしても気になっている疑問の解消を試みてみるとしようか。
「ところで、どうしてAでもQでもなくBなんですか?」
「…………わからん」
わかんねぇのかよ!
◇ ◇ ◇
「それじゃあまた明日、ガッコーで会いまショーっ」
「またねーッス」
友達が手を振って別れを告げる。私もまた、手を振って友達の後ろ姿を見送った。
学校からの帰り道、アニメイトに寄り道をして、少し遅い夕暮れ時の駅前を歩いてみる。
道行く人々は疎らで、買い物帰りのお母さんや仕事帰りのお父さんが、自分の家に帰ろうとしていた。
私も、これから家に帰る。おじさんとおねえちゃんが待っている泉家に。
……でもあそこはもう、私の知っている泉家じゃないんだ。
日常に戻ってきて二年半。私は、もうすぐ高校を卒業する。
進路は決めているけど、それを他人に吐露するのが怖かった。
私が進むべき未来は一つしかない。選べるのも一回限り。
失敗が怖いんだと、思う。誰かの励ましが欲しい、って。
今日の帰り道は、なんだか少しだけ物悲しかった。
やっと全部揃ったっていうのに……どうしてこんな気持ちになってるんだろう。
茜色に染まった空を眺めながら、私は――
「やっほー、ゆたか」
――小早川ゆたかは帰り道を歩いていて……そこで私は、私の一番大切な人に呼び止められたんです。
◇ ◇ ◇
駅前に轟くバイクのエンジン音。もう随分と手に馴染んだグリップを握り、私は探す。
目的の人物はすぐに見つかった。人が疎らだったのもあるけど、あの小さい体は逆によく目立つ。
……なんだかしょげてるわね。あの子、ときどき危なっかしいくらいセンチメンタルになるんだよなぁ。
私はわざとらしくエンジンをふかせ、あの子の視線を誘った。なかなか気づかないので、こちらから声をかける。
「やっほー、ゆたか」
フルフェイスのヘルメットから発せられる声は小さかったけれど、あの子はすぐに気づいてくれた。
うな垂れていた肩が、わずかに持ち上がる。物悲しげだった相貌が、パーッと明るくなった。
顔を見せるまでもなく、私がわかりますか。さすがに付き合いも長いしね……っと。
私はヘルメットを外して、あの子にとびきりの笑顔を見せてあげる。
お姉ちゃんとして、親友として、あの子の支えになってあげるために――いつもそうやってきた。
「……こなたおねえちゃん」
あの子――小早川ゆたかは、私と目を合わせながらぎこちない笑みを浮かべた。
うん、今日のはちょっと酷そうだ。こういうときの対処法も、心得てはいる。
とりあえずは……注意から、かな。
「ゆたか。二人きりのときは舞衣って呼ぶように、っていつも言ってるでしょ?」
「あっ……うん。ごめんね、舞衣おねえちゃん……じゃなくて、舞衣ちゃん」
「ん、よろしい」
私――鴇羽舞衣は、小早川ゆたかの姉としてここにある。
正確には、姉貴分というやつだろうか。
ここでの私は、泉こなた……今はもういないゆたかの従姉と、私は挿げ変わったのだ。
経緯を説明するには、結構な時間を要すると思う。
かれこれ二年半くらいこんな生活続けてるけど、こっちのほうは慣れたなんて言えないし。
名前が変わって、交友関係も変わって、住まう世界すら激変したんだから、あたりまえか。
「今日は買えたの? ゆたかのコレクションもそれでコンプリートだっけ?」
「うん、買えたよ。スパイクさんの出てるやつ……」
学校指定の鞄と一緒にアニメイトの袋を持っているゆたかを見て、私は推察する。
カウボーイビバップのDVD-BOX……また高い買い物だったんだろうなぁ。
せっかくバイトして貯めたお金が、あっという間にアニメに消えるだなんて。
花の女子高生としてそりゃどうなのよ、と思わないでもないけど、私が言えた義理でもないのかな。
学校辞めて、自由気ままにフリーター生活送ってる私に比べれば……なーんて。
「それじゃ、とりあえず後ろに乗りなさい」
「え?」
「え、じゃないでしょ。顔、峠でも走ってスッキリしたい~、って書いてあるわよ」
「えぇ~!?」
知り合った頃から、我慢強い子だなとは思ってた。
その反面、落ち込むときは結構顔に出る。
おかげで世話が焼きやすいってのもあるんだけど……正直、もうちょっとシャキッとしてほしいというのが本音だ。
「で、乗るの? 乗らないの?」
「の、乗る! 乗ります!」
「オーケイ。ほら、ゆたか用」
ゆたけに向けて、ヘルメットを投げてよこす。
二人乗りは規則正しく、交通ルールに遵守して、頭の保護は徹底的に。これ、ライダーの鉄則。
……悩み多き親友を後ろに乗せてかっ飛ばすくらいは大目に見てほしいんだけど、こればっかりは運かなぁ。
「じゃ、行くわよ。しっかりつかまっててね」
「うん……いいよ、舞衣ちゃん」
ゆたかの小さい体が私のすぐ後ろに跨り、恐々と手を回してくる。
スピードを出しすぎると振り落としてしまうんじゃないだろうか、という懸念が頭を過ぎった。
けどそのわりには、腕に込めた力が強い。少し痛いくらいの締め付けを、ライダースーツ越しに感じる。
「……いつもありがとう、舞衣ちゃん」
「あはは……走る前からお礼言うもんじゃないでしょ」
ゆたかとそんなやり取りを交わしつつ、私は愛車を走らせた。
駅を通り過ぎ、町並みに別れを告げ、誰に邪魔されることもなく風を感じられる、峠のサーキットを目指して。
風が気持ちいい。
風だけは、どこの宇宙でも等しく流れるものなんだ。
バイクに乗るようになってからより鮮明に実感した、世界の変化。
だけどそれは、変わらない、ってことと同価値でもあったのだ。
……あれからどうなったんだろう。
私はときどき、二度と戻ることはないだろう故郷への想いを馳せる。
◇ ◇ ◇
断章――――少なからずあり得る可能性としては不確かだが隣を眺めれば必ずそこに在った世界。
真昼間、空は雲ひとつない快晴であったが日は陰り、世界は暗闇に閉ざされていた。
太陽や月よりも近い位置に、極めて異質、それでいて膨大な規模の惑星が、地球を覆うように迫っていたのだ。
――世界の終わりが近づいているのだと、誰もが実感していた。
数ヶ月前には異常気象が、数週間前には火山噴火が、数日前には大津波が起こった。
それら、星が接近するにつれて齎される災厄の数々。防ぐための儀式は、とうに頓挫した。
あとはただ、滅びを待つばかり。残り幾人かとなった人類全体、そして地球の余生を、彼は日本にある母校で過ごしていた。
「物好きだねぇ。最後の最後まで黒曜の君であり続ける、か……君の想い人はもう戻ってきやしないってのに」
私立風華学園生徒会会議室の窓辺で、神崎黎人は迫り来る巨大隕石――媛星を眺めやっていた。
眉目秀麗な容姿に儚げな印象を纏わせ、しかし黄色い声援を送る女子はいない。
声をくれるのはただ一人、大昔の先祖が式とした、人ならざる者――炎凪ただ一人である。
「凪。そういうおまえは逃げなくてもいいのか? この星はもうすぐ滅ぶぞ」
「逃げる? またまた冗談を。地球が滅ぶってのに、いったいどこに逃げ出すってのさ。宇宙船でも用意してくれるんなら、話は別だけど」
凪は嘲るように言い、神崎の隣に立って星を眺めやった。
黒い影が終わりの予兆として、そこに聳え君臨している。
媛星を返すための儀式――蝕の祭は、HiMEの一角である鴇羽舞衣の退場によって失敗してしまった。
やり直しの機会には恵まれず、そこで地球の運命も決定。終焉への道を、ひた進むだけの時間が流れる。
HiME同志の想いを賭けた闘争劇は、様々なイレギュラーを想定して作り上げられた、磐石なシステムを有しているはずだった。
想い人が被っている場合、HiMEや想い人が不慮の事故に遭遇した場合、想い人がHiMEだった場合、それでも儀式が回るように。
しかし、鴇羽舞衣のケースは違った。
尾久崎晶のチャイルドが討たれ、彼女の想い人であり舞衣の弟でもある鴇羽巧海が消滅した際、天秤が狂い始めた。
鴇羽舞衣が失踪したのだ。
国家機関である一番地が総力を挙げても見つけ出せない、たとえるならば異界の狭間へと。
退場というよりは欠場という言葉が相応しい。十二人の想いの力を賭け合う蝕の祭は、欠員を出し不成立となってしまった。
儀式の勝者として選出されるはずだった水晶の姫も、十一人分の想いの力では黒曜の君の妻足りえず、媛星の回避も望めない。
この世界より鴇羽舞衣が抜け落ち……そして終焉の運命は決定したのだった。
「この世の終わりを因縁の地で迎えるのも、悪くはない」
「詩人だねぇ。さすが、風華の生徒会副会長様は達観していらっしゃる」
「……なぁ、凪」
神崎黎人は、星を見上げながら問うた。
炎凪もまた、星を見上げながら答える。
「僕は……どこでどう間違えたのかな」
「……さぁて、ね」
星は潰え、一つの宇宙の歴史も、ここに閉ざされる。
風華の地に鐘の音が響くときはもう、永久に来ない。
**時系列順に読む
Back:[[異世界からの挑戦状]] Next:[[shining☆days]]
**投下順に読む
Back:[[異世界からの挑戦状]] Next:[[shining☆days]]
|285:[[HAPPY END(21)]]|鴇羽舞衣|292:[[shining☆days]]|
|285:[[HAPPY END(21)]]|小早川ゆたか|292:[[shining☆days]]|
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2023-08-03T09:57:30+09:00
1691024250
-
実験終了までの死者
https://w.atwiki.jp/animerowa-2nd/pages/753.html
*&color(red){実験終了までの死者}
|時間|名前|殺害者|死亡作品|死因|凶器|
|夕方|[[スカー(傷の男)]]|[[ヴィラル]]|285:[[HAPPY END(1)]]&br()285:[[HAPPY END(2)]]&br()285:[[HAPPY END(3)]]&br()285:[[HAPPY END(4)]]&br()285:[[HAPPY END(5)]]&br()285:[[HAPPY END(6)]]&br()285:[[HAPPY END(7)]]&br()285:[[HAPPY END(8)]]&br()285:[[HAPPY END(9)]]&br()285:[[HAPPY END(10)]]&br()285:[[HAPPY END(11)]]&br()285:[[HAPPY END(12)]]&br()285:[[HAPPY END(13)]]&br()285:[[HAPPY END(14)]]&br()285:[[HAPPY END(15)]]&br()285:[[HAPPY END(16)]]&br()285:[[HAPPY END(17)]]&br()285:[[HAPPY END(18)]]&br()285:[[HAPPY END(19)]]&br()285:[[HAPPY END(20)]]&br()285:[[HAPPY END(21)]]|粉砕|グレンラガン|
|夕方|[[ガッシュ・ベル]]|[[ヴィラル]]|~|粉砕|グレンラガン|
|夕方|[[ドモン・カッシュ]]|[[ドモン・カッシュ]]|~|消耗|アルティメットガンダム|
|夕方|[[シャマル]]|[[シャマル]]|~|圧死(事故死)|ビル倒壊|
|夕方|[[東方不敗]]|[[カミナ]]|~|消滅|グレンラガン|
|夕方|[[カミナ]]|[[カミナ]]|~|転落死|ラガン分離による機体崩壊|
|夕方|[[ニコラス・D・ウルフウッド]]|[[スパイク・スピーゲル]]|~|射殺|ジェリコ941改|
&color(red){以上7名}
おまけ
|名前|最期の言葉|
|[[スカー(傷の男)]]|「―――――行け」|
|[[ガッシュ・ベル]]|「…………っ…………ぁ…………――――――――」|
|[[ドモン・カッシュ]]|「レイン………………………………」|
|[[シャマル]]|「あ、ひゃ…………?」|
|[[東方不敗]]|「う……おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!?」|
|[[カミナ]]|「あばよ……ダチ公」|
|[[ニコラス・D・ウルフウッド]]|「最悪、やろ……?」|
殺害数
|順位|該当者|人数|このキャラに殺された人|生存状況|スタンス|
|1位|[[ビシャス]]|10人|[[パルコ・フォルゴレ]]、[[マオ]]、[[金田一一]]、[[ミリア・ハーヴェント]]、&br()[[高遠遙一]]、[[ティアナ・ランスター]]、[[チェスワフ・メイエル]]、&br()[[ジェット・ブラック]]、[[アレンビー・ビアズリー]]、[[カレン・シュタットフェルト]]|&color(red){死亡}|無差別|
|2位|[[ロイ・マスタング]]|6人|[[クロ]]、[[アルフォンス・エルリック]]、[[泉こなた]]、[[マース・ヒューズ]]&br()[[神行太保・戴宗]]、[[リザ・ホークアイ]]|&color(red){死亡}|無差別|
|3位|[[藤乃静留]]|5人|[[ドーラ]]、[[ランサー]]、[[イリヤスフィール・フォン・アインツベルン]]&br()[[衛宮士郎]]、[[藤乃静留]]|&color(red){死亡}|無差別|
|4位T|[[ニコラス・D・ウルフウッド]]|4人|[[シモン]]、[[玖我なつき]]、[[木津千里]]、&br()[[エドワード・ウォン・ハウ・ペペル・チブルスキー4世]]|&color(red){死亡}|主催代理|
||[[柊かがみ]]|4人|[[ラッド・ルッソ]]、[[衝撃のアルベルト]]、[[Dボゥイ]]、[[結城奈緒]]|&color(red){死亡}|狂人|
||[[ヴィラル]]|4人|[[枢木スザク]]、[[ジャグジー・スプロット]]、[[スカー(傷の男)]]、[[ガッシュ・ベル]]|&color(pink){HAPPY END}|無差別(ジョーカー)|
|7位T|[[相羽シンヤ]]|3人|[[パズー]]、[[八神はやて]]、[[クレア・スタンフィールド]]|&color(red){死亡}|特殊|
||[[鴇羽舞衣]]|3人|[[ロイド・アスプルンド]]、[[言峰綺礼]]、[[柊かがみ]]|&color(blue){生還}|対主催|
||[[スパイク・スピーゲル]]|3人|[[ビシャス]]、[[リュシータ・トエル・ウル・ラピュタ>シータ]]、[[ニコラス・D・ウルフウッド]]|&color(blue){生還}|対主催|
|10位T|[[ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ]]|2人|[[エドワード・エルリック]]、[[エリオ・モンディアル]]|&color(red){死亡}|無差別|
||[[八神はやて]]|2人|[[間桐慎二]]、[[ミー]]|&color(red){死亡}|対主催|
||[[スカー(傷の男)]]|2人|[[糸色望]]、[[読子・リードマン]]|&color(red){死亡}|対主催|
||[[スバル・ナカジマ]]|2人|[[ロイ・マスタング]]、[[スバル・ナカジマ]]|&color(red){死亡}|対主催|
||[[東方不敗]]|2人|[[ヨーコ]]、[[ビクトリーム]]|&color(red){死亡}|主催代理|
||[[リュシータ・トエル・ウル・ラピュタ>シータ]]|2人|[[ヴァッシュ・ザ・スタンピード]]、[[ニア]]|&color(red){死亡}|無差別|
||[[シャマル]]|2人|[[ジェレミア・ゴットバルト]]、[[シャマル]]|&color(red){死亡}|特殊|
||[[カミナ]]|2人|[[東方不敗]]、[[カミナ]]|&color(red){死亡}|対主催|
|17位T|[[風浦可符香]]|1人|[[柊つかさ]]|&color(red){死亡}|扇動|
||[[クアットロ]]|1人|[[キャロ・ル・ルシエ]]|&color(red){死亡}|ステルス|
||[[Dボゥイ]]|1人|[[素晴らしきヒィッツカラルド]]|&color(red){死亡}|対主催|
||[[アニタ・キング]]|1人|[[アニタ・キング]]|&color(red){死亡}|対主催|
||[[衝撃のアルベルト]]|1人|[[シュバルツ・ブルーダー]]|&color(red){死亡}|危険対主催|
||[[神行太保・戴宗]]|1人|[[ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ]]|&color(red){死亡}|対主催|
||[[マオ]]|1人|[[風浦可符香]]|&color(red){死亡}|特殊|
||[[チェスワフ・メイエル]]|1人|[[アイザック・ディアン]]|&color(red){死亡}|対主催|
||[[ティアナ・ランスター]]|1人|[[剣持勇]]|&color(red){死亡}|対主催|
||[[キール]]|1人|[[キール]]|&color(red){死亡}|対主催|
||[[ギルガメッシュ]]|1人|[[クアットロ]]|&color(blue){生還}|対主催|
||[[ラッド・ルッソ]]|1人|[[相羽シンヤ]]|&color(red){死亡}|危険対主催|
||[[ニア]]|1人|[[マタタビ]]|&color(red){死亡}|対主催|
||[[小早川ゆたか]]|1人|[[明智健悟]]|&color(blue){生還}|対主催|
||[[ルルーシュ・ランペルージ]]|1人|[[高嶺清麿]]|&color(blue){生還}|主催代理|
||[[ドモン・カッシュ]]|1人|[[ドモン・カッシュ]]|&color(red){死亡}|対主催|
2023-07-26T02:03:13+09:00
1690304593
-
第六回放送までの死者
https://w.atwiki.jp/animerowa-2nd/pages/681.html
*&color(red){第六回放送までの死者}
|時間|名前|殺害者|死亡作品|死因|凶器|
|午前|[[高嶺清麿]]|[[ルルーシュ・ランペルージ]]|268:[[心を操る魔物]]|銃殺|ベレッタM92|
|午前|[[Dボゥイ]]|[[柊かがみ]]|269:[[愛のままにわがままに僕は君達を傷付けたい(前編)]]&br()269:[[愛のままにわがままに僕は君達を傷付けたい(後編)]]&br()269:[[最愛ナル魔王サマ(前編)]]&br()269:[[最愛ナル魔王サマ(後編)]]|刺殺|エクスカリバー|
|午前|[[ニア]]|[[リュシータ・トエル・ウル・ラピュタ>シータ]]|273:[[亡き王女のためのバラッド(前編)]]&br()273:[[亡き王女のためのバラッド(後編)]]&br()273:[[眠れ、地の底に]]|射殺|ラピュタのロボット兵|
|午前|[[リュシータ・トエル・ウル・ラピュタ>シータ]]|[[スパイク・スピーゲル]]|273:[[亡き王女のためのバラッド(前編)]]&br()273:[[亡き王女のためのバラッド(後編)]]&br()273:[[眠れ、地の底に]]|爆殺|太陽石(誘爆)|
|昼|[[柊かがみ]]|[[鴇羽舞衣]]|275:[[柊かがみの憂鬱 Ⅰ]]&br()275:[[柊かがみの憂鬱 Ⅱ]]&br()275:[[柊かがみの憂鬱 Ⅲ]]&br()275:[[柊かがみの憂鬱 Ⅳ]]|消滅|カグツチ|
|昼|[[結城奈緒]]|[[柊かがみ]]|275:[[柊かがみの憂鬱 Ⅰ]]&br()275:[[柊かがみの憂鬱 Ⅱ]]&br()275:[[柊かがみの憂鬱 Ⅲ]]&br()275:[[柊かがみの憂鬱 Ⅳ]]|失血死|エクスカリバー|
&color(red){以上6名}
おまけ
|名前|最期の言葉|
|[[高嶺清麿]]|「……チェックメイトだ、ルルーシュ。 &br()悪いけど、拘束させてもらう」|
|[[Dボゥイ]]|「お前が……お前こそが……ラダムだ――ッ」 |
|[[ニア]]|「あり、がとう……」|
|[[リュシータ・トエル・ウル・ラピュタ>シータ]]|――くすくすくす。|
|[[柊かがみ]]|「……さようなら」|
|[[結城奈緒]]|ギルガメッシュ……あんたと一緒にいるの、意外と楽しかったよ。|
殺害数
|順位|該当者|人数|このキャラに殺された人|生存状況|スタンス|
|1位|[[ビシャス]]|10人|[[パルコ・フォルゴレ]]、[[マオ]]、[[金田一一]]、[[ミリア・ハーヴェント]]、&br()[[高遠遙一]]、[[ティアナ・ランスター]]、[[チェスワフ・メイエル]]、&br()[[ジェット・ブラック]]、[[アレンビー・ビアズリー]]、[[カレン・シュタットフェルト]]|&color(red){死亡}|無差別|
|2位|[[ロイ・マスタング]]|6人|[[クロ]]、[[アルフォンス・エルリック]]、[[泉こなた]]、[[マース・ヒューズ]]&br()[[神行太保・戴宗]]、[[リザ・ホークアイ]]|&color(red){死亡}|無差別|
|3位|[[藤乃静留]]|5人|[[ドーラ]]、[[ランサー]]、[[イリヤスフィール・フォン・アインツベルン]]&br()[[衛宮士郎]]、[[藤乃静留]]|&color(red){死亡}|無差別|
|4位T|[[ニコラス・D・ウルフウッド]]|4人|[[シモン]]、[[玖我なつき]]、[[木津千里]]、&br()[[エドワード・ウォン・ハウ・ペペル・チブルスキー4世]]|生存|無差別→主催代理|
||[[柊かがみ]]|4人|[[ラッド・ルッソ]]、[[衝撃のアルベルト]]、[[Dボゥイ]]、[[結城奈緒]]|&color(red){死亡}|危険対主催→狂人|
|6位T|[[相羽シンヤ]]|3人|[[パズー]]、[[八神はやて]]、[[クレア・スタンフィールド]]|&color(red){死亡}|特殊|
||[[鴇羽舞衣]]|3人|[[ロイド・アスプルンド]]、[[言峰綺礼]]、[[柊かがみ]]|生存|対主催|
|8位T|[[ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ]]|2人|[[エドワード・エルリック]]、[[エリオ・モンディアル]]|&color(red){死亡}|無差別|
||[[ヴィラル]]|2人|[[枢木スザク]]、[[ジャグジー・スプロット]]|生存|無差別(ジョーカー)|
||[[八神はやて]]|2人|[[間桐慎二]]、[[ミー]]|&color(red){死亡}|対主催|
||[[スカー(傷の男)]]|2人|[[糸色望]]、[[読子・リードマン]]|生存|特殊→対主催|
||[[スバル・ナカジマ]]|2人|[[ロイ・マスタング]]、[[スバル・ナカジマ]]|&color(red){死亡}|対主催|
||[[東方不敗]]|2人|[[ヨーコ]]、[[ビクトリーム]]|生存|無差別→主催代理|
||[[リュシータ・トエル・ウル・ラピュタ>シータ]]|2人|[[ヴァッシュ・ザ・スタンピード]]、[[ニア]]|&color(red){死亡}|無差別|
||[[スパイク・スピーゲル]]|2人|[[ビシャス]]、[[リュシータ・トエル・ウル・ラピュタ>シータ]]|生存|対主催|
|16位T|[[風浦可符香]]|1人|[[柊つかさ]]|&color(red){死亡}|扇動|
||[[クアットロ]]|1人|[[キャロ・ル・ルシエ]]|&color(red){死亡}|ステルス|
||[[シャマル]]|1人|[[ジェレミア・ゴットバルト]]|生存|特殊|
||[[Dボゥイ]]|1人|[[素晴らしきヒィッツカラルド]]|&color(red){死亡}|対主催|
||[[アニタ・キング]]|1人|[[アニタ・キング]]|&color(red){死亡}|対主催|
||[[衝撃のアルベルト]]|1人|[[シュバルツ・ブルーダー]]|&color(red){死亡}|危険対主催|
||[[神行太保・戴宗]]|1人|[[ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ]]|&color(red){死亡}|対主催|
||[[マオ]]|1人|[[風浦可符香]]|&color(red){死亡}|特殊|
||[[チェスワフ・メイエル]]|1人|[[アイザック・ディアン]]|&color(red){死亡}|対主催|
||[[ティアナ・ランスター]]|1人|[[剣持勇]]|&color(red){死亡}|対主催|
||[[キール]]|1人|[[キール]]|&color(red){死亡}|対主催|
||[[ギルガメッシュ]]|1人|[[クアットロ]]|生存|対主催|
||[[ラッド・ルッソ]]|1人|[[相羽シンヤ]]|&color(red){死亡}|危険対主催|
||[[ニア]]|1人|[[マタタビ]]|&color(red){死亡}|対主催|
||[[小早川ゆたか]]|1人|[[明智健悟]]|生存|対主催|
||[[ルルーシュ・ランペルージ]]|1人|[[高嶺清麿]]|生存|危険対主催→主催代理|
2023-07-26T01:37:26+09:00
1690303046
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小娘オーバードライブ(後編)
https://w.atwiki.jp/animerowa-2nd/pages/651.html
**小娘オーバードライブ(後編) ◆DNdG5hiFT6
その瞬間――あたり一面の空気が変質した。
まるで異世界がいきなり顕現したかのように、世界が――変貌する。
スパイクも、ジンも、奈緒も、その場にいる全員が否応無しに異常を感じ取る。
「何!? 何!? 何なのよコレ!!?」
奈緒は訳も分からず震える体を必死に抱きとめている。
「……これは、マズいね」
人間の欲をコントロールできるジンが冷や汗を流す。
「何だと……!」
そしてスパイクは思い出す。
レッドドラゴンで散々嗅いできた、暴力の匂いを。
そしてその中心、渦巻く異常な殺気の中心で少女は、
「ヒャ、ハ、ハ……ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!
天を仰いで――笑っていた。
その哄笑は、まるでこの世に生まれ出でたことを喜ぶ産声のよう。
3人の目の前で禍々しい産声を受け、バリアジャケットの姿が変わる。
少女らしいゴスロリから、無骨なブルーの囚人服へ。
左手には童話の悪役船長の様な鍵爪を携えて。
そして魔人は再誕を完了する。
その両目に緑の二重螺旋を宿らせて。
「ッあ―――イイねイイねイイね! サイッコーの気分だ!!」
かがみは口の端を限界まで吊り上げ、悦びを表現する。
「そこのボサボサ頭の賞金稼ぎは“さっきあしらったから何とかなる”って温いこと考えてやがるし!
ジンは言わずもがな! 奈緒ちゃんは怯えまくってるが……まぁいいや、今日の俺は気分がいい!
ついでに殺してやるよ!
さぁ、どうやって殺されるのがお望みだ!?
切り殺されるか撃ち殺されるか殴り殺されるか轢き殺されるか磨り潰されるか、何でもいい!!
望みどおりの方法で殺してやるよ!!」
いきなりゲージを振り切らんばかりのテンションになったかがみ。
だがその中でスパイクは冷静に、迅速に動き出していた。
僅かに残っていた慈悲を振り払い、脳天に狙いを定める。
そう、先の対峙時にかがみの動きから弱点の予想はついていた。
この引き金を引けば全てが終わる。
「おもしれぇ! 早撃ち勝負か……カウボーイッ!!」
だがその瞬間、かがみの背後の空間が波打ち、波紋が浮かび上がる。
開かれる砲門の名は≪王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)≫。
そして打ち出される弾丸は回収された数々の本。
たかが本といえど相当の速度で打ち出されれば、それは凶器と化す。
ましてや大小さまざまな本は瞬く間にスパイクの視界を埋め尽くし、かがみの姿を紙の中へとかき消してしまう。
「くそっ!」
攻防一体の妙手だ。
舌打ち一つして、距離をとるためにバックステップで回避するスパイク。
それはベストな選択だった。
「イヤッホゥーイ!!」
陽気な掛け声と共にかがみが飛び出す。
本の嵐を掻き分けて、距離をとろうとしたスパイクに向けて、一直線に。
それは宛ら、ホッキョクグマを襲うシャチの如く。
獰猛に、ただ殺意を持って、スパイクの命へ手を伸ばす。
「この野郎っ!!」
さりとてスパイクの習得しているのはジークンドー。
その極意は水。螺旋力に後押しされた比喩抜きの殺人フックを殆ど力を使わずに受け流し、そのまま投げの態勢に入る。
だが――
「いいねぇいいねぇ、噂に聞いたことのあるトーヨーのクンフーってやつか……だがなぁ!」
投げられたかがみは体をひねると、床に叩きつけられることなく体勢を立て直す。
なぜならばその“投げ”はもうすでに“かがみ”が一度受けている。
受けきれない道理は無い――ましてや疲労でキレの鈍っているスパイクの技を、だ。
「もう一度行くぜ、スパイク・スピーゲルッ!」
瞬間、再び空間が波打つ。
だがあの空間兵器はただ射出するだけらしい、とスパイクは見抜いていた。
つまり軌道が曲がったりすることはないのだ。
だったら――スパイクにはある程度は弾道も予測できる。
しかも本を撃ち出したってことは、最初、ヴァッシュに向けたときで刃物は打ち止めのはず。
なら数発もらう覚悟で懐に入り込めさえすれば、こちらにも十分勝機が見え――
「お前……刃物はさっき出したし、安全だなんて思ってんじゃないよなぁ?
いや、思ってるだろ? なぁ、おい、スパイクさんよぉ!」
砲門が開かれ、飛び出してきたのは金色の何か。
――それはかつてアルベルトが奪い取った英雄王の鎧。
だがすでに半壊した鎧は発射時の衝撃と風圧で更に壊れ行き、最早無数の金属片と言ったほうがいい状態にまで破壊される。
そして≪王の財宝≫はその全てを財として、射出する。
無数の金属片がスパイクにその矛先を向け、牙を剥いた。
「チッ!」
軌道の予測どころの話ではない。
まるで黄金の散弾銃だ。
破片の数は多く、直撃どころか掠るだけでも致命傷になりかねない。
すんでの所でスパイクは大きく体勢を崩しながらも回避に成功する。
だが、その隙を見逃す殺人鬼ではなかった。
回避先に先回りし、ボクシングスタイルをとっている。
そして放たれるは全力を込めた右ストレート。
「か……は……っ」
ハンマーのような強い衝撃を腹部に叩き込まれ、賞金稼ぎは大地に沈んだ。
「スパイクッ!」
「オイオイオイ、人の心配してる場合かよ、ジン?」
一足でジンの目の前まで歩みを進めたかがみは体を大きくひねり、ボクシングスタイルから一転、蹴りを放つ。
側面から胴回し気味に放たれた蹴りはジンの体を捕らえ、容易く吹き飛ばす。
だがその様子を見たかがみは不機嫌そうに眉を寄せる。
「――気付いてるぜ? あん時みたいにわざとぶっ飛んでるだろ?」
「……やっぱり同じ人間にタネの割れた手品は通用しない、か」
服を払い立ち上がるジン。
その動作は軽やかで、やはり殆ど先程の蹴りによるダメージを受けていないようだ。
その姿を見てかがみは舌打ちする。
ジンはドロボウを名乗るだけあって身軽で、落ち葉を相手にしているかのようだ。
砕く方法もあるにはあるが、どうにもめんどくさい。
「あーやっぱテメェ相手にするとめんどくせえな。
使えそうなもんも中々ねえし、さて、どうするか……」
その発言にジンは内心一息ついた。
現在のところ逃げに徹する限り、勝負は互角。
ならば問題は逃げ続けられる間に逆転の一手を思いつくことが出来るか、だ。
だがその時、予想外の乱入者が現れる。
「ジンから……離れなさい!」
そこにいたのは剣を構えた鴇羽舞衣の姿だった。
あの後、一人になった舞衣はジンを探して結局ここまでやってきてしまったのだった。
その姿を確認したかがみは喜びにその笑みをより一層深くする。
「オイオイオイオイオイ、舞衣ちゃんまでいるのかよ!
やっべ、うれしくってったまらねえ!!!」
その瞳に睨まれて、舞衣は体をすくませる。
前だ。前にもこの瞳に私は襲われた。
ありえない。その名は放送で呼ばれたはずだし、何より目の前にいるのはガタイのいい男ではなく自分と同い年ぐらいの女子高生だ。
だが、奴が纏うこの空気は、こちらを挑発するあの口調は、そして何より獰猛なその目は、焼きついた記憶から恐怖を引きずり出す。
「ラッド……ルッソ……?」
その呟きを肯定するように、かがみは口の端を吊り上げる。
あの時の殺意も、憎しみもすべてが焼き尽くされたがそれでもDボゥイに害をなす存在であることは間違いない。
そしてその手に握られた剣はただの剣ではない。
心の中に自身の名を告げてくる。
使い方が分かる。そう、これさえ振るうことが出来れば――!
「ヤバい!! 舞衣、逃げろ!!」
え、と顔を上げた先にいたのは至近距離まで接近したラッドの姿だった。
「オイオイオイ、感動の再会だってのに何ボーっとしてやがるんだ、テメェはよ!」
剣を振るう暇も無かった。
脇腹に膝を叩き込まれ、その場に崩れ落ちる。
「こんなもん使うって事は炎が出せなくなったのか?
ま、どうでもいいけどよ……お!」
その脳裏に閃いたのは悪魔の妙手。
かがみは邪悪な笑みを浮かべると、舞衣の体を抱え――そのままその体を放り投げた。
「!?!?」
高速で投げ飛ばされた舞衣の体。
そしてその先には民家の窓ガラスが陣取っていた。
ここまま窓ガラスに突っ込めば、シーツ一枚しか羽織ってない舞衣は大怪我を負うだろう。
だからジンは舞衣を受け止めるほか選択肢が無い。
「やっぱそう来るよなぁ?」
――例えそれが、動きを封じるための罠だと分かっていても。
無防備な2人に向けて加速に上乗せされるように、かがみの右ストレートが炸裂する。
強烈な一撃を受けた2人はそのままガラスを突き破り――沈黙した。
スパイク、ジン、舞衣をあっという間に片付けてしまったかがみ。
だが殺人鬼の思考は止まらない。
そう、まだだ。まだお楽しみはこれからだ。
これからスパイクを、ジンを、舞衣ちゃんを殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺しまくって――うっさい!!
「ぐっ……あっ……!」
苦悶の声をあげ、左目を押さえる。
それと同時にスカートのポケットからアイパッチを取り出し、素早く取り付ける。
そしてそのままの体勢で数秒間、停止していただろうか。
再び顔を上げたその瞳に、最早狂気の色は無かった。
――良かった。どうやら使いこなせたみたい。
上がる息を抑え、満足感に浸るかがみ。
ラッドという闇に飲み込まれる恐怖があった。
また誰かを殺してしまうかもしれないという恐怖があった。
だが自分はそれを乗り越えた。
自分でも分かるぐらい“手加減”が出来ていた。
本気だったのなら、3人とも鍵爪で切り裂いたはずだ。
だがそうはしなかった。
そう、“柊かがみ”は――ギリギリのところだったものの――あのラッドを制御することが出来たのだ。
それは確かな自信となって、かがみを安心させる。
そして彼女が得たのはそれだけではない。
ラッドの中からあふれ出た新たな殺人技巧の数々。
それらは数こなせば自分のものになってくれるだろう。
これならウルフウッドを倒せる。千里の仇を討てる。
そして螺旋王への道を今度こそ……!
と、そこまで考えたところで、物陰に隠れていた奈緒の姿を発見する。
スパイクと共に到着したものの、戦闘が始まるなり物陰に隠れてしまったのだ。
少女の意思とは関係なく、ただ、恐怖に押されるままに。
かがみは奈緒へ向け、口を開く。
「それで残ったのはアンタだけだけど……どうする? バトる?」
あえて最初に会った時の奈緒の口調を真似てみる。
分かりやすい挑発……だが恐怖に飲まれた奈緒にとってはそれすらも恐ろしい。
“ラッド”の記憶では逆らった光景も確かにあるが、目の前の少女は分かりやすいぐらいに怯えている。
コレぐらい怯えられると、哀れみすら向けたくなってしまう。
「ま、いいわ。大人しくしてなさいよ」
正直な所、さっきから奈緒を見ているだけで『ラッド』が暴れだしそうなのだ。
怯え、震え、何も出来ない……ラッドにとっては慢心したヤツの次に殺したいやつだ。
更にあのギルガメッシュを挑発できるというのなら、なおのこと、である。
だから正直隠れていてくれたのはありがたかった。
他の誰に手加減が出来ても今の奈緒にだけは手加減が出来そうになかったから。
そんなことを考えながら、奈緒の隣を通り過ぎようとするかがみ。
近づかれるだけで奈緒は言いようの無い恐怖に蝕まれ、思わず目を閉じようとする。
だがその瞬間、彼女は見覚えのある黄金の輝きを目にする。
「!!?」
あまりに見慣れた輝き……それは先程射出された黄金の鎧の欠片であった。
思わず駆け寄り、拾い上げる。
そして思い出す。ドモン・カッシュが預かっていたという伝言の内容を。
――代わりに我が臣下たるナオを置いていく。丁重に扱うがいい
そう、代わり。
今の自分はギルガメッシュの代理なのだ。
それはつまりここで自分が退けば、それはギルガメッシュが退いたという事。
そう考えた瞬間、頭が灼熱する。
何故だろう――他の何が許せたとしても、それだけは許せなかった。
『恐怖は己の中にある。一度でも逃げ出せば癖になり、二度と勝利できん。
だが乗り越えればそれは確かな自信となり、新たな力を呼ぶ』
脳裏に響くのはさっき言われたドモンの言葉。
そう、ここで逃げればきっと一生逃げ続ける。
そうなればアイツの隣には決して、辿り着くことはできない。
「ちょっと……待ちなさいよ!」
気付けば呼び止めていた。
「何? 私も暇じゃないんだけど」
振り向いたかがみに睨み返される。
ただそれだけで全身から脂汗がにじみ出て、恐怖がぶり返してくる。
自分の意思とは関係なく、手を握りしめてしまう。
「あ……ぐ……!」
だがその手に痛みが走る。
痛みの原因は、掌に握り締めた黄金の鎧の欠片。
そしてその痛みが、結城奈緒の覚悟を決める。
『思い出すがいい、今の貴様を支えているものを。誇りを。
それこそが恐怖を乗り越える唯一つの術なのだからな』
結城奈緒の誇り。今の彼女を支えているもの。
あのバカ騒ぎみたいな殺し合いの中で結城奈緒は、
アイツに依存したくない、ギルガメッシュと平等でありたい、と吼えて殺人鬼に立ち向かおうとした。
そんな自分に呆れながらも、決して嫌じゃなかった。
今までの人生で奈緒が感じたことの無いそれは――きっと“誇り”と呼ばれるものじゃないのだろうか。
ならば思い出せ、正面切ってラッド・ルッソに逆らったあの時の力を。想いを。
そう、今こそここが結城奈緒の……正念場!!
「嘗めてんじゃ……ないわよっ!!」
――ドクン。
その時、奈緒の中で何かが変わった。
心に浮かぶのは螺旋。
そしてその螺旋はゆっくりと回転を始め、速度を上げていく。
螺旋はプロテクトを突破し、元から持っていた確固たるイメージを作り上げる。
そして奈緒は確信した。呼べる、と。
「――来いっ!! ジュリアアアアッ!!」
緑の光が大地に走る。
その光に包まれるようにして、地面から生まれ出でるのは8本の緑柱。
そして続いてその柱を繋げるのは女性の体を持った趣味の悪いモンスター。
人の上半身と蜘蛛の下半身を持ったチャイルド、緑晶の女郎蜘蛛・ジュリアが降臨した。
「ふぅん……逆らうんだ」
だがそれを目の前にしても柊かがみは余裕の態度を崩さない。
その目に宿るのは殺意。
もう止まらない。終わらない。
結城奈緒を殺さなければ、きっとこの衝動は消えやしない。
かがみの服が再び変化し、再度バリアジャケットが展開する。
「遊んであげるわ……来なさい、蜘蛛女!」
「ざけんなっ! 倒れるのはアンタよっ!」
第二幕の開始を告げる勝鬨の声を互いに上げ、柊かがみと結城奈緒は通算4度目の激突を開始した。
&color(green){【結城奈緒@舞-HiME 螺旋力覚醒】}
**時系列順に読む
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**投下順に読む
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|260:[[小娘オーバードライブ(前編)]]|ジン|260:[[太陽がまた輝くとき]]|
|260:[[たたかう十六歳(^^;)]]|鴇羽舞衣|260:[[太陽がまた輝くとき]]|
|260:[[小娘オーバードライブ(前編)]]|スパイク・スピーゲル|260:[[NEXT LEVEL]]|
|260:[[小娘オーバードライブ(前編)]]|柊かがみ|260:[[NEXT LEVEL]]|
|260:[[小娘オーバードライブ(前編)]]|結城奈緒|260:[[NEXT LEVEL]]|
2023-07-26T01:29:13+09:00
1690302553
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悲劇は目蓋を下ろした優しき鬱
https://w.atwiki.jp/animerowa-2nd/pages/301.html
**悲劇は目蓋を下ろした優しき鬱 ◆tu4bghlMIw
「あ……れ……」
わたしが目覚めた時、空は、青く染まっていた。
身体を起こし、左右に頭を振って状況を簡単に確かめる。よく、周りが見えない。
まるで睡眠薬を何錠も無理やり摂取したみたいな感覚だ。
頭がボーっとしてクラっとして瞬いてフラフラする。
指先から足の先、眼球、内臓、その他沢山、身体中ありとあらゆる場所から気だるさが抜けない。
わたしは誰なのか。それは他人に問い掛けるまでも無く分かる――小早川ゆたか、陵桜学園高等部一年D組所属。
普通の、高校生だ。そう普通の。
毎日当たり前のように学校に通い、当たり前のように勉強をして、当たり前のように友達と話をして……
そんな無限回廊にも似たサイクルに身を委ねる日本中何処にでもいる筈のごく普通の高校生だ。
うん、何一つ間違ってない。
プロフィールにもデータにも現状分析にもこれっぽちの淀みは――
「……起きたか」
「え……」
少し離れた場所から男の人の声。わたしは当然、その方向に顔を向ける。
……忘れて、いた……違う、多分逃げていたんだ。
もう"普通"なんて言葉はわたしの中に一片たりとも残っていない。ううん、正確には全て"異常"に乗っ取られたと言った方がいい。
現れたのは男の人、もちろん知らない人なんかじゃなかった。
「Dボゥイさん」
「悪いな、側を離れていて。その……少し"後始末"をしていた」
彼はそう呟きながら両手に付いた土を軽く払った。
若干伏し目がちの視線と赤く染まった衣服。
それはわたしの意識を完全に覚醒させ、正しい現状分析を行わせるには十分過ぎる程の材料となった。
あのおじさんの……ヒィッツカラルドさんの死体を埋めていたんだ。
そして背筋を走る、悪寒にも似た電撃。
衝動で動いていたあの時とは違う。人が一人死んだという、あまりにも単純で複雑で残酷な事実を認識する。
「大丈夫、です」
「……そうか」
わたしは少しだけ気分が悪くなったけど、出来るだけ顔に出さないように答えた。
Dボゥイさんの回答からはわたしの反応で彼が何を感じ取ったのかは分からなかった。
「でもわたしより、Dボゥイさんの傷の方が……」
「いやそれがな……目が覚めたら治っていた」
「え……!!」
クルッと背中を向けたDボゥイさんの後姿は壮絶で、でもとても不自然な光景だった。
確かに左肩から背中の中央に向けて大きな裂傷があるにはある。
服もズバッと裂けていて、ヒィッツカラルドさんの力がまやかしなんかじゃなかった事を否が応にも意識させられる。
だけどその傷跡は、出来てからもう数日が経過したかのように完全に出血が止まっていた。
「痛み……ます?」
「多少は、な。だがほとんど変わらず動かせる……血は足りないが……それと、あの男が持っていた道具もいくつか回収出来た」
彼がそう言ってわたしに見せたのは、大きな長い銃のようなものだった。
50cmくらいの鉄の塊。多分ライフル、という類の銃だろう。
漫画などでよく殺し屋っぽい人が使っていたりする武器だ。
「あの男には不要の代物だったんだろう。そして――これは君に預ける」
「わたし……に?」
Dボゥイさんはその大きな銃をわたしに差し出した。
訳が分からずわたしは言われるがままに、ソレを受け取った。
……重い。デイパックの中に入っていた拳銃と比べても考えられないくらいの重量がある。
わたしは戸惑った。
だって自分にこんなものを扱える訳が無いからだ。
事実、本来支給されていたM500という大きな銃だって今はDボゥイさんが持っている。
しかもコレは見る限りただ弾を撃つだけの銃じゃない。
銃身の下の辺りにも、バズーカ砲のようなものがくっついている。きっと凄い銃だ。
「でも、そのっ、わたしよりDボゥイさんが持っていた方が――っ!」
「いや、たとえ撃つ事が出来なくても十分な威嚇になる。それに……」
「?」
「ゆたかがいなければ、俺はあの男に殺されていた。
君の強さがあの男を倒した――だから、これはゆたかが持つべきだ」
「あ…………」
それはどういう意味だったんだろう。
気が付くとわたしはいつの間にか、ポケットの削岩機の形をしたアクセサリに触れていた。
少しだけ、暖かい。何だろう、どこか不思議な力を感じるような気もする。
ヒィッツカラルドさんがDボゥイさんを傷つけようとした瞬間、わたしの中に生まれたやり所の無い感情。
『みんなで一緒に帰りたい』
『生きていて欲しい』
多分、言葉にしてしまうとこんな簡単な台詞に変換されると思う。
だけどそんな単純な想いがあの時だけはこれ以上無いくらい心強いものに感じた。
「は、はいっ!!」
わたしは重さに震える手で、腕の中の銃をギュッと強く抱き締めた。
Dボゥイさんの言葉はぶっきらぼうで、少し乱暴だけど、とても暖かくて、胸が一杯になる優しさに満ち溢れていた。
だからわたしも最高の笑顔で彼に応えた。
「それで……だ。話は変わるんだが実は少し困った事になった」
「困った事、ですか?」
Dボゥイさんはそれまでと打って変わって突然深刻そうな表情を顔に刻む。
「――ゆたか、今何時か分かるか?」
「時間……ですか? あっ! もしかして……ッ!!」
急いで"右腕"に着けた腕時計を確認する。
針と文字盤からなるその機械はもうすぐ六時五十分を刻もうとしていた。
そして思い出す。最初に広間に集められた時に説明された独自のシステムについて。
「……放送」
「ああ――聞き逃した」
わたし達は、思わず天を見上げた。
空は青。雲一つ無い晴天。
黒色の幕は完全に引かれ、太陽が顔を出す時間だ。
最初の放送が行われたはずの午前六時は、とっくに過ぎ去っていた。
■
「ど、どどどどどどどうしましょうっ!!」
「……ゆたか、とりあえず落ち着け」
「で、でも、そんなっ、無理ですよ! だって、一つ目の禁止エリアが決まるのは――」
「朝の七時……十分後だな」
Dボゥイさんは何故か平然とした様子で左腕に嵌めた時計を見ながら答える。
何でこんなに平然としていられるのだろう。
だってもしもここが禁止エリアに設定されていたら大変な事になるはずなのに。
「俺の見立てでは、少なくとも七時の時点でここが禁止エリアになる事は無い筈だ」
「そ、それって……どういう意味ですか?」
「"貴様らの中から、最も優秀な一人を選び出せ" つまり、参加者同士の戦いが奴の望み。
それに奴の佇まい、言動。自身もかなりの使い手である事は容易に想像が可能だ」
淡々とDボゥイさんは続ける。わたしはそれを聞く。
戦って生き残るのが命題なら、わたしにとっては分が悪すぎる賭けだなぁなんて思いながら。
「そう考えれば、奴にとっても禁止エリアの役割は『散らばった人間を追い込む』事。
ならば『エリアに踏み込んだ人間を殺害する』結果は極力避けたいと思うのが道理」
「……ッ!!」
わたしはDボゥイさんの考察に驚きの声を漏らした。
凄い。だってそれはあの空間に連れて来られても平静を保っていた、という証明なのだから。
わたしなんて、脅える事しか出来なかったのに。
「ただ、な。問題はこれは仮説であって、決して断定は出来ない、という事だ」
「それって……」
「このD-7エリアが禁止エリアに設定されている可能性は零ではない。
俺も手を尽くして他の参加者を探したんだがな……結局誰とも会えずじまい……あと一分か」
その言葉に連られてわたしも時計に目をやった。
短針と長針が刻むは六時五十九分。つまり注目すべきは――秒針だ。
わたし達の間を沈黙が支配した。
視線は無情にも回り続ける細長い針へと注がれる。
単純に考えてみても六十四分の一の確立。それにDボゥイさんの推理を加えれば、心配する必要なんてこれっぽちも無いはずなのに。
「……十秒」
息を呑む。
9、8、7、6、5、4、3、2……
喉がカラカラになる。
そういえば殺し合いが始まってから何も口にしていなかったっけ。
お腹減ったな。デイパックに食べ物が入ってるって言ってたけど、何があるんだろう。
――イチ。
わたしは、そんな、どうでも良い事を考えて自分を誤魔化すことしか出来なかった。
――ゼ……
「――爆発はしないわ、盛り上がっている所悪いのだけど」
「「ッ!?」」
わたし達が死角から投げ掛けられた声に背筋を震わせた瞬間、秒針は"12"の文字盤を通過していた。
七時、だ。今までの恐怖が一瞬で霧散してしまうような感じを覚えた。
過ぎてしまえば何もかもがなんてことの無い、ただの心配のし過ぎだったように思えてくる。喉元過ぎればなんとやらだ。
「……誰だ、お前は」
「……不躾ね」
「お互い様だ」
現れたのは青色の軍服を身に纏った女の人だった。
金色の髪と白い肌とのコントラストが眩しい。スラッとした抜群のスタイルはわたしなんかと違う、大人の雰囲気に満ち溢れていた。
突然わたし達の前に姿を見せた――いや、"ギリギリまで見せなかった"彼女にDボゥイさんは訝しげな視線を送る。
そして、わたしの身長ぐらいはありそうな巨大な斧を取り出し正眼に構えた。
ピリピリした空気が流れる。一触即発の様相。どちらも相手の腹の内を探っている。
「ちょ、おばさ――! イテッ!!」
「……パズー君?」
「お、おねえさん! 駄目だよ、そんな喧嘩腰で……」
「隠れているように、そう言った筈よ」
「だからって……ほら、あの男の人、なんか凄そうな武器持っているし……」
わたしとDボゥイさんは突然現れた男の子と女の人のやり取りをぽかーんとしながら見つめていた。
何かとても失礼な呼び方が"パズー"と呼ばれた少年の口から飛び出そうとした瞬間、抜群のタイミングで炸裂した女の人のゲンコツが緊張した空気をぶち壊したと言ってもいいかもしれない。
二人のやり取りを見る限り、どうやら同行者……のようだった。
■
「で、どういうつもりだ、ホークアイ中尉?」
「あなた達がゲームに乗っていない事を確かめる必要があったので。
小さな女の子と親しげに話す若い男……中々危険な構図だと思いませんか?」
"小さな"というのは一体どれくらいの年齢を意識しているのかな、絶対下に見られているだろうなぁ、そんな事をわたしは考えていた。
あの後、なんとかどちらも警戒を解いて軽く情報交換を行う事になった。
簡易的な自己紹介は済ませてある。金髪の女の人はリザさん。隣の男の子はパズー君だ。
ちらり、と視線を送るとパズー君は何を思ったのか破顔一笑。
もしかして……同じくらいの年齢だと思われているのかな?
「――妙な事を言う。俺達が、か? 馬鹿馬鹿しい。そうだろ、ゆたか?」
「え、ええ、はい。そ、そうですね……」
言われてみると……わたし、Dボゥイさんに倒れ込むみたいに眠っちゃったんだよね……
そんな少し前の事を思い出した途端、恥ずかしさでわたしの頬が少しだけ熱くなったような気がした。
Dボゥイさんは天然なのか、わたしなんて眼中に無いのかまるで気にしている様子は無いけれど。
「まぁ、いいでしょう。それにとりあえず、これで交換が成立しそうですし」
「……交換?」
「簡単な論理です。あなた達は放送の情報が欲しい、そして私は銃が欲しい。
ほら、上手く釣り合いが取れていると思いませんか?」
「銃って……」
その場にいたパズー君とDボゥイさんの視線がわたしに――正確には今はわたしのデイパックの中に入っている大きな銃に注がれた。
「どういう事だ?」
「そもそも、私達は今から北へ行って銃器を調達する予定でした。本職が、そちらですので」
「なるほど……な。だが情報と引き換えでは、こちらの方が相当に分が悪いと思うが?」
「ええ、それは十分に理解しています。
それに、私もあんな心温まる場面を見せられてその銃を寄越せ、と言うほど冷徹な訳ではありません。
報酬はDボゥイさんが持っていらっしゃる方の銃で結構です」
「――何故、分かる?」
Dボゥイさんは分かり易いくらい露骨に眉を顰めた。わたしも今の発言には少し違和感を覚えた。
だってDボゥイさんが銃を持っている事をリザさんは知らない筈なのだから。
「言ったはずです。本職がそちら、だと。
わたしが現れた時のあなたの視線の微妙な変化、独特の筋肉の強張り、意識の分散……懐に拳銃を持っている事は容易く推測できました」
リザさんは事も無げにそう答えた。
銃を扱う事に関するスペシャリスト……そうだよね、軍人さんなんだから。
ただ持っているだけでも普通の人とプロの人だと大きな違いがある、って事なのかな。
「それに――放送の情報は絶対に必要なもの。ですが……」
「知らない事を逆手に取って、嘘の情報を流す者もいる、と言いたい訳か」
「ええ。ですが、幸い私達には同行者がいる――どちらも殺し合いに乗っているとは考え難いような」
Dボゥイさんの視線がパズー君に、リザさんの視線がわたしへと向けられる。
積極的に人を殺そうとする、つまりヒィッツカラルドさんのようなタイプの人がわたし達みたいな小さな子供を連れている訳が無い、という論理だろうか。
確かにある程度筋が通っていて、分かり易い材料だ。
「加えて物品を介した関係は言葉だけのものよりも、中々強固だと思われませんか?」
「……了解した。持って行け、ホークアイ中尉。残弾は三発しかないがな」
「ありがとうございます」
Dボゥイさんは銃をリザさんに手渡した。
二人は同じようなタイミングで小さく溜息を吐いた。
■
「まずは禁止エリアについて……ですが。順番どおりで行くと七時からB-1、九時からD-5、十一時からG-6。
それに首輪自体もエリアに踏み込んだ瞬間ではなく、一分後に爆発するようですね。
また、禁止エリアで爆死する事をあまり好ましくない、とも螺旋王は言っていました」
「な、なんだぁ……じゃあ全然大丈夫だったんだね、Dボゥイさん」
「……そうだな」
わたし達は自分達の地図にリザさんが言った禁止エリアをメモしていく。
でもDボゥイさんは地図ではなく、チラチラと"パズー君の反応"を窺っていた。
なるほど、リザさんが嘘を付けば、ちゃんと放送を聞いているはずのパズー君が何らかのリアクションを示すはず、という事か。
だけど特に変化は無し。逆に彼は何故自分を見るのかと、怪訝な表情を浮かべていたくらいだ。
やっぱり、リザさんは嘘をついていない、って意味なのかな――そもそも全然信用出来そうなようにも思えるけれど。
七時からはB-1。わたし達がいるD-7とは全くの別方向。
D-5は感覚的には少しだけ近いような気もするが、川を挟んだ対岸に位置する場所だ。やっぱり遠い。
Dボゥイさんの仮説はやっぱり当たっていたようだ。
「あとは、そうですね。殺し合い自体はあまり捗っていない、と螺旋王は言っていました。それに……」
「少さな女の子が、螺旋の力に目覚めたのを、この目で見られた――とか言ってなかったっけ?」
「ああ、そんな事も確かに。螺旋の力、と言われてもいまいちピンと来ませんが」
わたしのポケットの中で一度、コアドリルがドクンと脈打ったような錯覚を覚えた。そしてどこか暖かい。
「……相羽シンヤという男は名前を呼ばれたか?」
「お知り合いですか? いえ、今回の放送では呼ばれていませんね」
「そいつは重畳。もっとも、奴がそう簡単にくたばる訳が無いか……」
"相羽シンヤ"その名前を口にした時のDボゥイさんの表情は今まで見た事が無いくらい、怖くて恐ろしいものだった。
「それでは……他の死者も教えて貰えるか?」
「そう、ですね。死亡者は名簿の順番で呼ばれました。
順に、アニタ・キング……エドワード、エルリック、キャロ・ル・ルシエ……」
『エドワード・エルリック』という名前を声に出した時、リザさんの顔色が一瞬曇ったように感じた。
でも、今はもう元通りの涼しげな表情に戻っている。気のせい……だったのかな?
「――素晴らしきヒィッツカラルド」
でも、ヒィッツカラルドさんの名前が呼ばれた瞬間、わたしの意識は急に現実に戻された。
わたし達を襲って来た魔法のような力を持っていたおじさんの名前だ。
ここまでで合計八人。それって多いのかな、少ないのかな。
生まれて初めて目の当たりにした明確な"死"
名簿の名前に斜線を引いていく行為に酷い背徳感を覚えた。
「そして、最後に――柊つかさ……先の放送で名前を呼ばれたのは以上、九名です」
……え?
「柊……つかさ、だと」
「……知り合い、かしら。でも、ごめんなさいね、私達もグズグズしていられなくて。
せっかく銃を貰えたと言っても、こんな怪物みたいな銃よりも軽い銃の方が好みですし。このまま北上する事にします」
「…………相当なものだぞ、それは。女の細腕で扱えるか?」
「慣れていますから」
二人が何か話をしている。多分、銃の話だ。
"でもそんなの関係ない"
あの脳味噌をグラグラ揺らすような大きな音が頭の中に呼び起こされる。
揺れる。揺れる。
外から思いっきり殴られてもこうはならないんじゃないかって思えるくらい、小刻みに意識へと攻撃を仕掛ける。
意識は朦朧として、螺旋を描く。ジリジリと焦がれるような太陽が肌を焼く感覚。
胸がギュッて締め付けられるような、心臓がリボンでグルグル巻きにされているような不思議な気分だ。
息を、吸い込む。いつもは風船のように簡単に膨らむ肺に全然空気が入って来ない。
苦しい。
酸素が足りなくて二酸化炭素が頭を一杯にして、それで――
わたしの頭の中につかさおねえちゃんの笑顔がユラリと浮かんだ。
そして、一瞬の間を置いてソレは粉々に砕け散る。
爆散。ホールで見たあの男の人の死体がつかさおねえちゃんと何故か重なった。
赤と何かが爆ぜる音。
飛び散る液体と思わず顔を顰めてしまうような臭い。
死んだ。つかさおねえちゃん……が?
嘘。嘘でしょ?
人の死、自体はほんの少し前に経験した。命の無くなった肉体を見たりもした。
だけど、違う。
見知らぬ人、名前と外見しか知らない人間の死と身近な人間がいなくなってしまう感覚が、こんなに別だなんて思わなかった。
ついこの間まで、笑っていた人が死んだ。消えた。殺された。
それはまるで心の中にぽっかりと空いた穴のようだ。
そうだ、空洞。ヒィッツカラルドさんの眉間に刻まれた赤くて黒い穴のような……
直立を保てなくなった両足がガクガク震える。
まるで酔っ払いのように惑う脚。
……ダメだ……今日は、大分、調子が良いと思っていたんだけど。
「……おい、どうした? おい、ゆたか? おい!!」
「パズー君?」
「おばさん!! 大変だ、ゆたかが……!!」
「また、あなたはそんな――」
「今はそんな事どうでもいいだろ、おばさん!! お兄さん、大変なんだ――!!」
「おい、ゆたか、しっかりしろ、ゆたか!!」
世界が、落ちていく。
力を失ったわたしの筋肉がその働きを放棄する。
まるで腰が抜けたみたいに崩れ落ちる、その寸前をDボゥイさんに受け止められた。
パズー君やリザさん、Dボゥイさんがわたしの名前を呼んでいるのが分かる。
Dボゥイさんの腕は暖かかった。
まるで揺り篭、原始の海、羊水、どれでもいい。
凄く、心が落ち着いた。
だけど、その逆。
私のポケットに入っているアクセサリはいつの間にか冷たくなっていた。
まるで、氷の塊のような感覚だ。
私の中の暖かな感情が全部無くなってしまった後の抜け殻――みたいだ。
「ゆたか!! しっかりしろ!!」
そんな事を考えながら、私の意識は深い深い闇へと落ちて行った。
■
「本当にいいのかい? 僕達もいた方がいいんじゃ――」
「いや、問題ない」
「本当に……大丈夫ですか? Dボゥイさん」
「ああ」
二人はまだゆたかの状態が気になる様子だった。
だが、俺の対応を見て決心を固めたらしい。
こちらを何度も振り返りながらも元々の目的地であった警察署の方角へと消えた。
閉じた瞳を透明な液体で濡らしたゆたかを見つめながら俺は考える。
柊つかさ。
それはゆたかが知り合いとして名前を挙げた人物の一人だ。
他にも泉こなた、柊かがみという知り合いがいるとは聞いていたが、こんなに早く死亡者が出るとは。
これではゆたかを知り合いに預ける、という方針は中々難しい事かもしれない。
「う……」
俺はふらつく頭を押さえながら、自らの失態を呪った。
血が、足りない。
傷自体は目覚めた時には、ほぼ完治していた。背中から完全に致命傷、そう思っていたはずなのだが。
ただし、失った血液に関しては別問題だ。
血……輸血をするのならば病院に向かうべきだろうか。だが、この状態のゆたかを置いていく事など出来る訳も無い。
ひとまずは、彼女が目覚めるまで耐えるしかないのか。
「そういえば……」
俺はあの男の死体の周りに落ちていた瓶に入った石の事を思い出した。
奴のデイパックに入っていた説明書の内容から察するに、おそらく"月の石のかけら"という名の道具で間違いない筈だ。
効果は一言で言えば癒し。体力や外傷、そしておそらく精神的なダメージも含めて、僅かながら快復へと向かわせる力があるとの事だ。
その効用がどの程度のものなのかは分からない。
ただ、おそらく今、目の前で意識を失っているゆたかにとって、プラスにこそなれマイナスにはならない。
このままゆたかの状態が普通に戻れば良し。使用期限もあるようだし、無理ならば雀の涙の程の確率に賭けてみるのも悪くない。
……まぁ、さすがに俺自身の血が足りないという物理的な問題は解決出来ないとは思うが。
【D-7/住宅団地/1日目/朝】
【Dボゥイ@宇宙の騎士テッカマンブレード】
[状態]:左肩から背中の中心まで大きな裂傷(出血は治癒、裂傷に伴う痛みは若干残っている)、吹き飛ばされたときに全身に打撲、中度の貧血
[装備]:テッカマンアックスのテックランサー(斧) @宇宙の騎士テッカマンブレード
[道具]:支給品一式、月の石のかけら(2個)@金色のガッシュベル!!
[思考]
1:ゆたかの意識が戻るのを待つ
2:テッカマンエビル、相羽シンヤを殺す
3:2を果たすためなら、下記の思考を度外視する可能性あり
4:病院に向かい血液を補給する
5:ゆたかを知り合いか信頼できる人物にゆだねる、つもりだったが迷い中。
6:ゲームに乗っている人間を殺す
[備考]
:殺し合いに乗っているものはラダムと同じだと結論しました
:テッカマンアックス撃破後、身体が蝕まれる前ぐらいを意識しました
:ヒィッツカラルドの簡単に埋葬された死体の上にフィーロの帽子@BACCANO バッカーノ! が置かれています。
:六課メンバー、クロ達、リザの仲間達の情報を入手。
:紙の詰まったトランクケースはD-7に放置されたまま。
【小早川ゆたか@らき☆すた】
[状態]:肉体的疲労小、精神的疲労極大、絶望 、失神
[装備]:COLT M16A1/M203@現実(20/20)(0/1)、コアドリル@天元突破グレンラガン
[道具]:支給品一式、鴇羽舞衣のマフラー@舞-HiME、糸色望の旅立ちセット@さよなら絶望先生[遺書用の封筒が欠損]
M16 アサルトライフル用予備弾x20(5.56mm NATO弾)、M203 グレネードランチャー用予備弾(榴弾x6、WP発煙弾x2、照明弾x2、催涙弾x2)
[思考]
1:???
[備考]
:コアドリルがただのアクセサリーではないということに気がつきました。
【COLT M16A1/M203@現実】
ベトナムのジャングル戦において使用されてきたM16A1 アサルトライフルにM203 グレネードランチャーを装着した画期的装備。
連射性の低さを補い、火力アップを図るために装着されたM203は40mmの各種グレネード弾を発射できる。
現在もアメリカ軍によって現役で使用されている高い能力を持った武装である。
【C-7/道路/1日目 朝】
【リザ・ホークアイ@鋼の錬金術師】
[状態]:健康
[装備]:M500ハンター(3/5)@現実、ダーツ@現実(残り23本)
[道具]:デイバッグ、支給品一式、泉そうじろうのデジタルカメラ・説明書付@らき☆すた(※マタタビの勇姿(後ろ姿)を撮ったデータが一枚入っています)
[思考] 基本:ここから脱出する。殺し合いをするつもりはない
1:北上し、警察署で更なる銃器を調達する
2:ロイ・マスタング大佐、マース・ヒューズ中佐、エルリック兄弟(アル)を探し合流する
3:パズーが仲間と合流するまでの間、彼を保護する
4:2日目の0時頃に温泉へと戻り、マタタビに協力を要請する
5:トンネルで見た化物を警戒する
6:ゆたかを心配
※リザ・ホークアイの参加時期はアニメ15話辺り。彼女の時間軸では、マース・ヒューズはまだ存命しています
※トンネルで出会った人物より、『線路の影をなぞる者(レイルトレーサー)』の名前を聞きましたが、
それが名簿に記載されていないことにまだ気づいていません
※ディバッグに穴が開いてしまったので、持ち運びが不便。歩行速度に影響が出ています
※マタタビと情報交換をしてません。また、マタタビを合成獣の一種だと考えています
※マタタビの温泉再建については、まだパズーに話していません
※Dボゥイとゆたかの知り合いについての情報を得ました。
【パズー@天空の城ラピュタ】
[状態]:健康だが右頬と頭頂部に鈍い痛み
[装備]:ルールブレイカー@Fate/stay night
[道具]:デイバック、支給品一式、タロットカード@金田一少年の事件簿、USBフラッシュメモリ@現実
[思考] 基本:螺旋王を倒し、みんなを救う
1:シータを探し出し合流する
2:リザ・ホークアイと同行する
3:六課メンバー、クロ達、リザの仲間を見つけたら声をかける。
4:ゆたかを心配
※言峰により揺さぶりをかけられましたが、反発しています
※六課メンバー、クロ達、リザの仲間達の名前、容姿をある程度覚えました
※Dボゥイとゆたかの知り合いについての情報を得ました。
*時系列順で読む
Back:[[蛇姫は泣き虫の懇願に黙って首を縦に振る]] Next:[[剣持警部は忠実に職務を遂行する]]
*投下順で読む
Back:[[蛇姫は泣き虫の懇願に黙って首を縦に振る]] Next:[[剣持警部は忠実に職務を遂行する]]
|096:[[蒼い狗]]|リザ・ホークアイ|150:[[崩落 の ステージ(前編)]]|
|096:[[蒼い狗]]|パズー|150:[[崩落 の ステージ(前編)]]|
|064:[[ただ撃ち貫くのみ]]|Dボゥイ|140:[[Beautiful Dreamer ~Smile Again]]|
|064:[[ただ撃ち貫くのみ]]|小早川ゆたか|140:[[Beautiful Dreamer ~Smile Again]]|
2023-07-26T01:13:22+09:00
1690301602
-
Deus ex machina
https://w.atwiki.jp/animerowa-2nd/pages/475.html
**Deus ex machina ◆oRFbZD5WiQ
蛇を相手にしているようだ。
弁髪の老人と交戦し数分、Dボゥイはそのような感想を抱いた。
「く――おおおお!」
体が軋み、思考はどこか霞んだように不明瞭となっている。
それでも、退くワケにはいかぬ。その思考が意識を繋ぎ止め、両の腕が剣を振るう力を生み出す。
「ぬるいわぁ!」
されど、相手は蛇。ぬるりと枝を這うように剣の軌道から外れ、拳を振るう。
そして――衝撃。
がは、と肺の空気を吐き出し、ゴム鞠のように後方に吹き跳ぶ。その勢いで廃墟と化した家屋に突き刺さる。
常人なら既に十は死んでいるであろう暴虐。されど、皮肉な事に、彼が憎むラダムの力が命をつなぎとめていた。
「ぎ――ぐ、」
されど、それにも限界は存在する。
コンクリートとて、長い年月の間、水滴を受け続ければ抉れる。それがドリルであれば尚更だ。
そして、あの老人の力はドリルほど生易しいモノではない。
東方不敗――マスターアジア。
その名で呼ばれる老人の拳は、下手なモビルファイター相手ならば十分渡り合える代物だ。それを幾重も受けて、無事で済むはずがない。
その上、Dボゥイは万全ではなかった。貧血、打撲、裂傷――それらが、元々薄かった勝ち目を致命的なまでに遠ざけていた。
「ふん、宇宙人と言うからにはもう少し歯ごたえがあると思ったが――これでは、あの馬鹿弟子の方がまだ見込みがある」
黙れ。
そう呟く気力もない。
聖剣を杖にし、ゆらりと立ち上がる。それは幽鬼のような動き、もはや戦闘に堪えうるのは不可能であるのは、誰の目にも明らかだ。
けれども、意志は肉体を凌駕する。まだ立てる、その思考が体に喝を入れる。
精神論と嘲る事なかれ。強い精神は肉体を超越するという事実は、プラシーボという形で医学にも用いられている。
「――ふむ、その根性だけは認めてやろう。だが、実力が伴っておらぬようだな。
宇宙人よ、Dボゥイよ。貴様には『体』はあっても『技』がない。
身体能力があろうとも、それを生かす技術が存在しない」
確かに、と思う。
自分はテッカマンになれる。テックランサーやボルテッカ、そして、圧倒的な推進力で突貫するクラッシュイントルードなどといった力を振るう事が出来る。
しかし、確かに訓練はしたものの、それは、テッカマンのポテンシャルに頼り切ったモノ。
元来の肉体には、アキのような体術もなければ、ノアルのような銃技もない。
「その肉体だけで勝てると思っておったか、愚か者めが」
迎え撃とうとするが――致命的なまでに遅い。腹部に膝が食い込み、きりもみしながら吹き飛ぶ。窓を窓枠ごと突き破り、ガラスまみれの状態でアスファルトに転がった。
「人には牙がない。爪がない。それ故に、武器を作った、体を鍛え上げた――技を磨いた。
知るがよい、遥か遠方から訪れた来訪者。これが人が生み出した牙、格闘技だ。
流派東方不敗、その身に刻み、そして逝け!」
更にもう一度、一撃を加えられた、ような、気がする。
だが、どこか感覚が曖昧だった。
意識が徐々に遠のいていく感覚。それは甘美な誘惑。苦しみから解き放ってやろうという――死神の誘い。
――ふざけるな。
そちらに傾きかけた心に喝を入れ、立ち上がる。
瞬間、顔面に拳が突き刺さった。
「ァ――――が!」
それはまるで、なけなしの気力を砕くように。
砕けたアスファルトの上を滑るように吹き飛ぶ。がりがり、という音。石が服を食い破り、皮を切り刻み、肉を食む音。
立ち止まった頃には、リムジンから伸びているような赤いカーペットが敷かれていた。
その上を、あの老人が悠々と歩いている。
全く以って似合わないな、と。酷く場違いな思考が過ぎる。
――まずいな。
笑みが漏れてきた。今の自分の状態も、目の前の老人も、可笑しくてたまらない。
脳内麻薬でも分泌されだしたのか、痛みも薄く、むしろ快感な気さえする。
その快楽に身を委ねれば、きっと楽に死ねる。この胸の奥底を炙る復讐の炎から解放される。
だが、それを受け入れるワケにはいかなかった。
それは復讐のためであり、そして――あのか弱い少女のためである。
だから、Dボゥイは立つ。背中を真紅に染めながらも。
その姿を、酷くつまらなそうに見やる老人を睨みながら、無意識でも手放さなかった剣を握る。
「――ねえ」
そんな中、いつの間にか隣にいた少女が口を開いた。
◆ ◆ ◆
その情景は、悲惨を通り越して滑稽なものだった。
絞りカスで戦っているようなDボゥイと、ほぼ万全な状態の東方不敗。
天秤がどちらに傾くかなど、火を見るより明らか。いや、火を見て明らかというべきか。
数回の攻撃で力を使いきったのか、Dボゥイは反撃どころか防御すらマトモに出来ていない。ただただ、ゆらりと立ち上がるだけ。
その姿は、ゾンビ映画を連想させる。
然り。その姿は死体のようで、いつ崩れてもおかしくない泡沫のようで――
「ァ――――が!」
顔面に拳が突き刺さる。受身を取る事すら許されず、背中を砕けたコンクリート片が散らばる地面に擦りつけながら、こちらに飛んでくる。
地面が赤い。流血と皮、肉、服の破片。それらが散らばる絨毯を、老人は悠々と歩く。
もはや追い詰める必要はない、そう言うように。
然り。ここまでの暴虐を受けて、なぜ抗うというのか。
これ以上、どう抗おうとも侵略めいた拳によって蹂躙されるだけではないか。
(……なんで?)
それでも、彼は立ち上がった。
十中八九殺されるこの状況で。座して死を待った方が楽であろう、この状況下で。
分からない。なぜ、彼が立つのか。
そうだ、分からないといえば、自分を殺さなかった事も分からない。分からない事だらけだ。
「――ねえ」
だからだろうか。無意識の内に口が開いていた。
「どうして、そんな風に立っていられるの?」
ああ、と思う。
それはたぶん、似ているからだ。
彼は言っていた。許せないと。不幸を理由にして殺し合いに乗っていることが、俺には許せないのだと。
あの言葉を聞いた時に、なにか、感じ取るモノがあった。
それは――どこか同類めいた何か。
その男が立つ理由、それが、どうしても気になったのだ。
「――これ以上」
噛み締めるように、Dボゥイが口を開く。
それは、舞衣の問いに答えたと言うよりは、自分自身に言い聞かせているようだった。そう、まるで折れかかった心を支えるように。
「これ以上、こぼさない、ためだ」
剣を構える。だが、力が入っていないのか、その重さで前に倒れかけ――
「失ったモノは取り戻せない。だから、俺は復讐の道に足を踏み入れた。だが――」
――その寸前で踏ん張る。
その姿は、壊れかけたロボットがダンスを踊っているよう。不安定で、醜く、滑稽で――
「――それでも、これ以上、大切なモノをこぼしたくないからだ」
――けれど、心のどこかに訴えるモノがあった。
◆ ◆ ◆
そうだ、これ以上、何かを失いたくはない。
自分が死ねば、シンヤは用済みとなったゆたかを殺すだろう。
そう、彼女には随分と助けられた。
もっとも、本人は否定するだろう。助けられたのはわたしですよ、と。
ああ、確かに。確かに、肉体的な面で自分は彼女を何度か救った。
けれど、それ以上に、彼女はDボゥイの精神面を救ってくれた。
だから――Dボゥイは老人を睨みつける。
それは、徹底的に抗うという決意。
それは、この命を貴様に渡すワケにはいかぬ、という宣言。
「オ――」
吼える。喉を震わせ、全細胞に告げる。
なにを腑抜けている、血が足りない? 傷が開いた? 疲労が酷い?
その程度で眠っているのか貴様らは!
どうせ、ここで抗わねば死ぬのだ。なら――全ての力を引き出してみせろ。
そう、徹底的にAngriff! Angriff! Angriff! 剣を以って活路を開くのだ!
「――オォォォオオォォオッ!」
駆ける――否、その速度は普段の歩みよりもなお遅い。
杖をついた老人よりは速いだろうか? その程度の速度でしかない。
「ふん、諦めの悪い。いいだろう、この一撃で――む?」
それは、純粋な疑問だった。
Dボゥイと目を合わせた東方不敗は、ありえない何かを見るような目で瞳を見開いた。
――なんだ?
まるで、『Dボゥイの目が、別の何かに取って代わった』とでも言いたげな瞳。
「貴様、それは一体――」
知った事か。
心中で吐き棄て、剣を振るった。
風を切る音はしない。ゆっくりと振り下ろされていくそれは、スローモーションでも見ているのではないかと思わせる。
しかし、
(なんだ――?)
なぜだろう。
今なら、たとえこの速度だとしても威力を発揮できる。そんな気がしたのだ。
誰が言ったわけでもない。強いて言えば、剣の鼓動から感じ取ったというべきか。
つい先程まで感じなかった力の唸りが、他ならぬ自分から注ぎ込まれている――そんな気がしたのだ。
「勝利すべき(カリ)――」
知らず、呟く。
流れ込んでくる名を。檻に囚われた獣を、解放するように。
先程まではなかった感覚に困惑しつつも剣を力強く握るDボゥイ。
その瞳は――確かに螺旋を描いていた。
「――黄金の剣(バーン)!」
そして、光が溢れた。
◆ ◆ ◆
突如視界を覆った光は、現れた時と同じように唐突に消えた。
そっと、瞳を開く。
「なに、これ」
舞衣の瞳に飛び込んできたのは、大地に穿たれた巨大なクレーターだった。
見渡すと、辺りはもうもうとした土煙で覆われていた。近くは見えるのだが、遠くは全く見えない。
事実、舞衣が向いている方角――即ち、北で遠く見えていた学校も、今は輪郭すら掴めない。
大きさは、大体一般家屋一つ分。恐らくは、先程まであの二人がいた場所。
なら、あの二人は?
「あ――」
視線を彷徨わせると、すぐ近くで倒れているのが見て取れた。
恐らくは、この衝撃で吹き飛ばされたのだろう。
恐る恐る、彼に近づく。
幸いな事に、生きてはいるようだ。打撲こそ多いものの、裂傷が少ないのが幸いした。止血さえすれば、命を取り留める事はできるだろう。
そこまで考えて、ハッとした。
「なんで助ける事を前提に考えてるのかな……」
それは――たぶん、憧れめいたモノを抱いたから。
あの背中は、自分と同じでありながら、けれども決定的に違うモノがあった。
それを、知りたい。
同類めいた自分たちが、けれども別の道を進んだワケ。その答えが欲しい。
それさえあれば、この揺らぐ心も収まるのではないか、そう思ったのだ。
そっと抱きかかえようと屈み込み、
「中々の威力。少々肝を冷やしたわ」
しわがれた声に体を硬直させた。
ありえない、だって、あんな威力の破壊を受けて、生きているはずがない。
だというのに、
「なん、で」
あろう事か、その老人は傷一つ負ってはいなかった。
「馬鹿者が。どれほど威力があろうとも、直撃さえ受けなければ傷付かん。
ましてや、振り下ろすだけで精一杯といった風体の者が放つ衝撃波など、見ずとも避けられるわ」
Dボゥイの『変化』に気づき、それがなんであるのか悩んでいる最中、彼が剣を振り下ろそうとした。
しかし、その剣が先程とは違う『気』めいた何かを纏っている事に気づき、剣の直線状から退避。すると、濁流の如く全てを押し流す衝撃波が、脇をすり抜けていった。
つまりは、ただそれだけの事。
本人すら気づかなかった螺旋力の覚醒。しかし、それも見当違いの方面に発揮されただけに終わったのだ。
必殺の一撃が外れた今、その効果はゼロどころかマイナスだ。
螺旋の力で増大した体力と力。だが、その力は魔力の代用品として聖剣に注ぎ込まれ枯渇、そして訪れたのは気絶という眠りだ。
これならば、まだ覚醒しない方が望みがあっただろう。
「失望したぞ、娘。よもや、ここに至って男を救おうとするとはな。
悲しみのままに罪無き子供を殺し、しかし数刻で心変わりするとはな。
外道を行い、けれど人を救う。その矛盾、真に人間らしい」
だが、と吐き棄てるように呟き。
「だからこそ、醜い」
え? と声を出す暇もない。
瞬時に間合いを詰めた東方不敗は、撫でるような滑らかな動きで拳を放つ。腹部にめり込む、破壊の鉄槌。
「ぐ――げ、ぇ」
カエルが潰れたような声と共に、血の混ざった胃液を吐き出す。
吹き飛ばなかったのは、きっと手加減されたからだろう。でも、なぜ?
「気が変わった。先に貴様から殺してくれよう」
髪の毛を乱暴に捕まれ、持ち上げられる。
ああ、そうか。手加減されたのは、ダメージを与えて動きを止め、かつ、遠くに吹き飛ばさないため。
動きが止まった自分を、確実に殺すため。
ああ、殺される。
恐らく、生身の自分では、ものの一撃で消し飛ぶだろう。
(でも、それもいいのかも)
死後の世界。
もし、そんなモノがあれば、きっとそこはこんな世界よりも幸せな場所に違いない。
だって、ここには辛い事しかない。
けれど、死後の世界に行けば、弟がいる、シモンがいる、なつきがいる。
自分が亡くしたモノ、その全てが、在る。
ならば、それでもいいじゃないか。
そう思って、舞衣は瞳を閉じた。
訪れる死を受け入れるために。
◆ ◆ ◆
機械仕掛けの神、デウス・エクス・マキナ。
物語が解決困難な局面に陥った時、脈絡もなく絶大な力を持った『神』が現れ、それを解決する演劇の手法である。
だが、それは好まれぬ手法でもある。
伏線もなしに登場するそれは、超展開と揶揄される事も少なくない。
――しかし、である。
物語の登場人物にとって、そのようなモノは関係ない。
たとえ、神にも似た解決策に伏線があろうとも、登場人物がそれを自覚していなければ、彼にとってそれはデウス・エクス・マキナとなるのではないか?
そして、鴇羽舞衣は、東方不敗マスターアジアは知らない。
ロイ・マスタングという男がDG細胞に侵されている事も、
彼がスバル・ナカジマの仲間を殺戮した事実も、
デパートで彼と彼女の戦いが起こっている現実も、
――――スバル・ナカジマという少女が、己の力と宝具の力を最大限に用い、爆発的な閃光と共に付近を薙ぎ払った現実も。
全ては二人には知りえない事であり、脈絡のない神の光臨であった。
◆ ◆ ◆
瞬間、黒い視界が白に塗りたくられた。
閉じた目蓋の中ですら、「眩しい」と知覚できる暴力じみた閃光。
だが、彼女は幸いに瞳を閉じ、その上、デパートの方面――即ち、光源から背を向けていた。
しかし、東方不敗は違った。
光源の方角に体を向け、目を開いている状態。あの爆発的な光を、直視してしまったのだ。
「ぬぐォおおおおおおおおおおォ! ぐ、目が、目がァァあああ!?」
もし、彼に制限が加えられてなければ、いち早くそれに気づき、瞳を閉じる事もできたかもしれない。
だが、現実は非情であり、死を運ぶはずであった老人は、瞳を押さえ、苦しみ悶えている。
(……なによこれ。まるで)
まるで、死後の世界の誰かが、自分に対して『生きろ』と背中を押しているようではないか。
そう、これ以上ない、という程の隙。これを逃せば、自分は殺されるだけだ。
だが、決心がつかない。心の中ある死の誘惑が足を縛る。
しかし、ふと思い出す。
足元で倒れる彼、Dボゥイ。
彼の話を聞きたい、そう思ったのではないか?
そこまで考えて、舞衣は彼を背負い、ゆるやかに移動を始めた。
けれど、その速度は致命的なまでに鈍い。
振り向けば、背後で悶え苦しむ老人の姿は、未だ近距離と言っても差し支えのない距離だ。
「はや――くっ」
叱咤するように呟き、足を進める。
だが、いかにHiMEの彼女とて、生身の能力は一般女子高生と大差はない。
そんな彼女が、筋肉質な男を背負い、かつあの老人が回復する前に逃げ去る事は出来るか?
――不可能だ。
そもそも、彼女の疲労は既に限界であり、自分だけ走って逃げるという選択肢も危うい状態だ。
せめて――せめてエレメントが使えれば。
あれがあれば飛べる。走るよりずっと速く移動が出来る。
けれど……あの力は、今は使えない。
歯を食いしばる。結局、自分はなにもできない。奪われるのを待つしかできない――!
――轟、と。
聞きなれた音が、確かな温かみが、両の腕に宿った。
「え……?」
両腕の腕輪。彼女の力、エレメントの姿がそこにあった。
失ったのではないのか、使えなくなったのではないのか。
だが、考えている暇はない。腕に巻かれたそれに力を込める。すると、彼女に答えるように腕輪は炎を纏いながら高速回転し――彼女を動かした。
本来は飛べるのだが、今はなぜだか能力も低下しており、その上、男一人分の重量を背負っている。この速度で移動できるだけマシと考えるべきか。
風を切って移動しながら、舞衣は炎を用いてDボゥイの背中を、傷口を軽く炙る。
医者に見せたら怒られそうな処置ではあるが、治療道具も治療する暇もない今、それも致し方がない事だ。
もっとも、いずれは薬品などで消毒などをしなくてはならないだろうが。
だが、病院は駄目だ。あちらは、あの閃光が吹き出した方向。下手にそちらに向かって戦闘に巻き込まれれば、今度こそ助からない。
なら――学校だ。
あそこには保健室がある。もちろん、設備は病院などとは比べるまでもないが――贅沢は言えない。
「でも」
自分と彼との違い、それを聞いて、一体どうなるのか。
……分からない。少なくとも、今は。
そうこうしている内に、学校はすぐそばまで近づいてきていた。
◆ ◆ ◆
――――HiMEの能力は、
大切なモノ(者、物)を媒介にし、自らの意志でエレメントやチャイルドを具体化することが出来る力だ。
故に、彼女が心を閉ざした為に、大切なモノという機動キーが鍵穴に差し込まれなかった。
鍵穴をちょうど悲しみのガラスで覆ってしまった、そのような形で。
だが――Dの青年との会話によって、僅かながらに心を開いたのだ。
……そう、開かれた。
明けぬ夜はないように、閉ざされたままの心もまた、存在しないのだ。
けれども、それはあくまで僅かにだ。
彼女が心を完全に開くか、再びガラスで覆ってしまうかは――彼女の背で眠る、Dの青年の行方次第だ。
彼のDが彼女にとって、Dreamなのか、Deadなのか、Dangerousなのかは――まだ、誰も知らない。
そう、それは機械仕掛けの神とて同じ。
物語は進んだ、解決不能な命題はとある少女の最期の光で取り払われた。
これ以降は、彼の神が介入する余地はない。
二人の影は、未だ筋書きの定まらぬ物語を、ただひたすらに突き進んでいた。
【B-6/学校校門前/一日目/夕方】
【鴇羽舞衣@舞-HiME】
[状態]:疲労(大)、全身各所に擦り傷と切り傷、腹部にダメージ、罪悪感
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考]:
1:Dボゥイの治療
2:1の後、彼の話を聞きたい
3:その後、自分の在り方を定める
[備考]
※カグツチが呼び出せないことに気づきましたが、それが螺旋王による制限だとまでは気づいていません。
※静留にHiMEの疑いを持っています。
※チェスを殺したものと思っています。
※一時的にエレメントが使えるようになりました。今後、恒常的に使えるようになるかは分かりません。
【Dボゥイ@宇宙の騎士テッカマンブレード】
[状態]:左肩から背中の中心までに裂傷(開いた後、火で炙って止血)、右肩に刺し傷(応急処置済み)
全身打撲(大)、貧血(大)、腹部にダメージ、 背中一面に深い擦り傷(火で軽く炙り失血は停止)、気絶
[装備]:なし
[道具]:デイバック、支給品一式、月の石のかけら(2個)@金色のガッシュベル!!
[思考]
基本:テッカマンエビル(相羽シンヤ)を殺し、小早川ゆたかを保護する
1:…………
2:ゆたかと合流する
3:テッククリスタルをなんとしても手に入れる
4:極力戦闘は避けたいが、襲い掛かってくる人間に対しては容赦しない
5:再びシンヤとテッカマンの状態で闘い、殺害する
[備考]
※殺し合いに乗っている連中はラダム同然だと考えています
※情報交換によって、機動六課、クロ達、リザの仲間達の情報を得ました
※青い男(ランサー)と東洋人(戴宗)を、子供の遺体を集めている極悪な殺人鬼と認識しています
※シンヤが本当にゆたかを殺すと思っているため、生への執着が高まりました。
※恐らくテッククリスタルはどちらを使ってもテックセットが可能です。またその事を認識しています
※ペガスが支給品として支給されているのではと思っています。
※螺旋力に目覚めた事実に気づいていません。
&color(green){【Dボゥイ@宇宙の騎士テッカマンブレード】}
&color(green){ ――螺旋力覚醒。}
◆ ◆ ◆
「ぬかったわ。まさか、あのような事が起こるとは」
瞳の焼ける痛みも治まり、辺りを見渡すが、当然の如く辺りに人影はなかった。
光が飛び込んできた方角に視線を向けると、先程までは見えていたデパートが消滅している。
「……モビルファイターでも支給されたか、はたまた宇宙人の能力の類か」
どちらにしろ、対人には過ぎた威力だ。
それが如何なる状況で行われたモノか、興味があるが――それ以上に、
「Dボゥイ、奴の瞳は確かに……」
――ドリルの先端のような模様を持った瞳。別の表現をするならば、螺旋の瞳。
それが、気になった。
螺旋王ロージェノムが最初に言った、螺旋遺伝子の選定という言葉。
まさかとは思うが、あれが奴の言う螺旋遺伝子とやらなのだろうか。
しかし、分からない。
たとえ、推測が正しかったにしろ、なぜあのような状況下で力を使いだしたか。
奴に力を出し惜しみする余裕など、カケラもなかったはずだ。
「……なんらかの要因が引き金となり、その力が表に出てくる――それが妥当か」
もっとも、その『なんらかの要因』については皆目見当も付かないのだが。
ふむ、と小さく息を吐き、地面に落ちた剣を握る。
やはり、剣は光らない。
それが当然だ、というように鈍い光沢を放つそれをデイバックに仕舞いながら、最強の老人は呟いた。
螺旋遺伝子に目覚めた――と思われる――Dボゥイが使ったとき、この剣は莫大な力を発揮した。自分が握っても無反応だというのに、だ。
即ち、これは螺旋遺伝子とやらの力を伝達する、言わば砲身のようなモノだろうと当たりをつけた。
もし、その仮説が正しければ、螺旋遺伝子を発現させた者はこれを扱えるという事になる。
これを扱える者に出会えば、螺旋遺伝子の解明も進み、螺旋王とやらの思惑も理解できるかもしれない。
そのために、Dボゥイで実験をしたいところだったが――追撃をかけようにも完全に見失っている。
ふむ、と小さく息を吐き、遥か遠方に視線を向ける。
そう、自分の目を焼いた光の元へ。
「デパートに行くとしよう」
あの状態だ、病院に行っているとも考えられなくもないが、そのような分かりやすい場所には逃げ込まないだろう。
ならば、少なくとも場所は確定している光の元を目指すのが利口だ。
そうと決まればここに留まる道理はない。地面を蹴り、跳躍。原型を保っていた家屋に足をのせ、リズミカルに跳んで行った。
【C-6中央部/市街地跡/一日目/夕方】
【東方不敗@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:全身、特に腹にダメージ、螺旋力増大?
[装備]:マスタークロス@機動武闘伝Gガンダム
[道具]:支給品一式、カリバーン@Fate/stay night
[思考]:
基本方針:ゲームに乗り、優勝する。
1:E-6に向かい、光の原因を探る。
2:情報と考察を聞き出したうえで殺す。
3:ロージェノムと接触し、その力を見極める。
4:いずれ衝撃のアルベルトと決着をつける。
5:できればドモンを殺したくない。
※137話「くずれゆく……」以後の行動は、騒動に集まった参加者たちの観察でした。
※137話「くずれゆく……」中のキャラの行動と会話をどこまで把握しているかは不明です
※173話「REASON(前・後編)」の会話は把握しています。
※螺旋王は宇宙人で、このフィールドに集められているのは異なる星々の人間という仮説を立てました。
本人も半信半疑です。
※Dボゥイのパワーアップを螺旋遺伝子によるものだと結論付けました。
※螺旋遺伝子とは、『なんらかの要因』で覚醒する力だと思っています。
※ですが、『なんらかの要因』については未だ知りません。
※視力については問題ないようです。
*時系列順で読む
Back:[[刑事と婦人と不死の少年は三人の奇人を前に沈黙する(後編)]] Next:[[螺旋の力に目覚めた少女]]
*投下順で読む
Back:[[シャドウ・ラン]] Next:[[螺旋の力に目覚めた少女]]
|184:[[こころの迷宮]]|Dボゥイ|218:[[夢‐‐。涙……]]|
|184:[[こころの迷宮]]|鴇羽舞衣|218:[[夢‐‐。涙……]]|
|184:[[こころの迷宮]]|東方不敗|205:[[爆心地のすぐ傍で]]|
2023-07-26T00:58:42+09:00
1690300722
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BACCANO -集合編-
https://w.atwiki.jp/animerowa-2nd/pages/553.html
**BACCANO -集合編- ◆Wf0eUCE.vg
■一方その頃観客達は
「事態が変わりました。これより映画館に対してアプローチをかけます」
ねねねと共に、刑務所の外から戻ってきた明智健悟はそう切り出した。
ここは長机と椅子がずらり立ち並ぶ食堂内。
そこに集まった皆は席に付き、明智の言葉に耳を傾けていた。
「その前に、イリヤ君には先に謝って起きます。我々は衛宮君を見捨てました」
「……あ」
既に察していた事だが、改めて言われると流石に辛い。
だが、イリヤは努めて強く振舞おうと涙を堪える。
「ですが、その衛宮君の生存が今しがた確認できました」
「え? 嘘。シロウ生きてるの!?」
あまりに予想外の言葉に思わずイリヤは素っ頓狂な声を上げた。
「はい。生きているとわかった以上、捨て置く訳にも行きません。
ですが、状況は先ほど以上に予断を許さない。
衛宮君救出のためには早急な対処が必要となるでしょう」
そう強く言い切る明智だったが、最後に小さく、まぁルッソ氏に関しては自業自得ですが、と一言加えておく。
「先ほど以上に予断を許さないというのは?」
先を促したのは、つい先ほどこの一団と合流した少年、高瀬清麿だった。
「ええ。清麿君にも説明した東方不敗以外にも、危険人物であるギルガメッシュ、及び藤乃静留、結城奈緒、ヴァッシュ・ザ・スタンピード。
以上の4名が衛宮君とルッソ氏のいる映画館に向かっていることが判明しました」
ギルガメッシュ。その名前を聞いたイリヤの心臓がトクンと跳ねた。
第五回聖杯戦争における鬼札。
存在するはずのない第八のサーヴァント。
それが、今シロウのもとに向かっているというのだ。
「で、明智よ。なにか策はあるのか?」
「そうですね。リスク避けるのであれば、ルッソ氏を信じて待つほかないでしょう。
我々がそんな超危険区域に駆けつけたところで、死体が五つ増えるだけですから」
「至極まっとうな意見ではあるが、それはつまり策なしと?」
「いえ、そういうわけでは、あくまでリスクを避けるのであればという話です」
「――チェスと将棋の一番の違いってわかりますか?」
そんな事をいって、唐突に明智とねねねの会話に割り込んできたのは清麿だった。
こんなときに何を言うのかと、誰もが思ったが、その言葉に明智は一人満足げに頷いた。
「流石です清麿くん。私も同じ考えです」
「なら」
「ええ、彼しかいません。問題はどうやって彼にアプローチをかけるかですが、」
「ちょとまてお前等、二人で話を進めるな」
そう言って、ねねねは二人しかわからない会話と続けようとする二人を静止する。
「おっと、これは失礼。
では菫川先生。先ほど清麿くんが言ったチェスと将棋の違いはご存知ですか?」
「え? そりゃ、駒の動きとか駒成りとか、あと、あ、そうか」
少し考えて、ねねねにもこの二人がなにを考えているのか理解できた。
「つまり、映画館に向かってる奴等をこちらの味方につけると?」
「ええ、そうです。敵だった駒が味方になる。これが将棋における一番の醍醐味でしょう。
映画館に向かっているのは東方不敗、ルッソ氏、衛宮君を除けば4名。
まずヴァッシュ・ザ・スタンピード。彼は資料を読む限り、白である可能性は限りなく高い。よって彼については問題ないでしょう。
そして残り3人はこの場におけるスタンスが不明なグレー。この3名をこちらに引きこむことができれば状況は一転する」
「できるのか?」
「まあ、3人全部は無理でも対象を絞り込めば可能だと考えています」
そう言って明智は机の上に詳細名簿を広げた。
「結城奈緒は単独行動ですが、ヴァッシュ・ザ・スタンピード、ギルガメッシュ、藤乃静留は行動を共にしている。
資料を見る限り、ギルガメッシュも藤乃静留も非常に黒に近いグレーですが、ヴァッシュ・ザ・スタンピードがいます。
つまり、彼等も士郎君と行動を共にしていたルッソ氏と同じように、性格面を考慮しても限定的ではあるが対ロージェノムを目指している可能性が高い」
「そう、そしてこの場において取り除くべき最大の驚異であり。
説得の余地がある相手となれば、交渉すべき相手はこいつしかいない」
明智の後を継ぐように清麿は、バンと叩き付けるように、詳細名簿の1ページを開く。
そのページに書かれていた名は――――英雄王ギルガメッシュ。
「問題はギルガメッシュと衛宮君がかつて敵対関係にあったという事ですが。
逆に言えば、ギルガメッシュが積極的に殺し合うつもりがないのならば争う理由はそれだけであり、ここで争う理由はないという事にもなります。
この場における利害関係が一致すれば、少なくともこの場においては協力関係が築けるはずです」
「……なるほど、確かに現状を考えるにそれしかなさそうだが、どうやって相手に呼びかけるんだ?
まさかあのロボットを使って交渉するわけにもいかんだろう?」
まさか説得をガジェットドローンに貼り付けたメモ帳で行うわけにもいかない。
そんなちまちまメモ帳の交換で意思表示をしている間に、手遅れになる可能性のほうが遥かに高い。
「ええ、この作戦の一番の問題はそこです。
彼等が都合よく映画館に立ち寄ってくれればいいのですが。確率としては薄いでしょう。
となれば、彼に協力を呼びかけるメッセンジャーが必要となるわけです」
「それならオレが行きます。暴走してるラッドの奴も連れ戻さなきゃならないし」
ラッドに関する責任感からか清麿がそう申し出るが、明智はその申し出に対し静かに首を振る。
「いえ、交渉には私が行きましょう。
時は一刻を争う。私なら映画館までなら10分と経たず到着できます。こう見えても私の100mのタイムは11秒台ですから。
それにルッソ氏相手に不甲斐ない結果を見せてしまいましたが、ロスでは交渉術を少々かじっていましたから」
そう申し出る明智だったが。
彼にも、一度衛宮士郎を見捨てた自責の念がないとは言えないだろう。
「いや、やっぱりオレが、」
「いえ、私が、」
互いに責任感からか、その役目を譲ろうとしない二人だったが、白い少女が二人の言葉を遮り立ち上がった。
「いいえ。二人とも駄目よ、映画館にはわたしが行くわ」
立ち上がった少女、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは白銀の髪を掻きあげながらそう告げた。
■誰もがこの状況を突っ込まずにはいられない
「なっ……!?」
その乱入者の姿を確認し衛宮士郎は絶句し動きを止めた。
そこに彼が見たものは予想通りの姿であり、あまりにも予想外な乱入者の姿だった。
現れた乱入者は、悠然と対峙する東方不敗と衛宮士郎の間を歩いてゆく。
一直線に、一人の少女へと向かって。
少女は二度と聞く事のないと思った声を聞いた。
二度と会えないと思った。
もう死んでしまったと。
そう思っていたんだ。
「なにをしてるナオ。主君の帰還であるぞ。面を上げよ」
だけど聞こえた声は幻聴なんかじゃない。
だから、顔を上げて、夜に向かってその名を呼ぶ。
「ギルg……って、なんじゃその格好ぉぉ!?」
思わず夜に向かって突っ込みを叫んだ。
猫だった。
黒い、猫だった。
頭にはネコミミを携え、もはやその体躯は金ピカどころか真っ黒である。
そんな格好をしておきながら、恥ずかしがるどころか、むしろ見せつけてやってるんじゃボケ、と言わんばかりの威風堂々っぷりである。
なんかもう感動の再会も、緊張感もなんもかも台無しなのである。
「ってアンタなんで生き、っていうか藤乃!? なんでアンタが金ピカとッ、え、え???」
ギルガメッシュの後に佇む藤乃静留の姿を見て、奈緒の混乱はここに極まった。
というか、もう突っ込みどころが多すぎて、どこから突っ込んでいいのかわからない。
「あぁもう! とにかく」
ごちゃごちゃになった頭はすぐには整理出来そうもないので。
とりあえず、一番言いたかった言葉を口にすることにする。
懐から取り出した鎧の破片を言葉と共に相手に投げつける。
「あんま心配かけんな、バカ!」
「ふん。誰がバカだ」
ギルガメッシュは投げつけられたその破片を、何の苦もなく片手で受け止めそう言いかえす。
相変わらず憎らしい程の余裕と強さに、奈緒は安堵ともなんともつかない感情を覚えた。
「あらあら。結城はん、意外とええ男の趣味しはりましたんやな」
そこに割り込む旧知の顔。
旧知と言っても仲良しこよしという仲ではない、むしろ最悪な相手なのだが。
「うっさい。ていうか、マジなんでアンタがいんのよ。なに企んでる訳?」
「いややわ。企むやなんて人聞きの悪い。
あんま昔の事、根に持って人のこと悪ぅ言うんは関心しまへんな」
「はぁ? 何、喧嘩売ってんのアンタ?」
「まあまあまあ、喧嘩はやめようよ二人とも」
「なにアンタ、って言うか誰?
関係ないやつは引っ込んでろ、つーの」
「せやね。うちはただ昔のお友達と仲よう喋ってただけですえ。
ヴァッシュはんは関係おまへんな。下がっておくれやし」
「え、酷い。静留さんまで!?」
「はっはっは。騒々しいぞ雑種ども、あまり騒いでは周りのオケラどもに迷惑であろう」
生死をかけた戦いをしていたはずのその空気は、乱入者によってなんかもうすっかり漫才色に染まっていた。
状況の変化について行けないのか東方不敗は押し黙ったままその光景を眺めている。
そして同じく衛宮士郎も無言で、宿敵であるギルガメッシュの出方を窺っていた。
「さて、と」
漫才ムードの中心核であったギルガメッシュのしきり直す様なその呟き。
そして、ギルガメッシュが士郎と東方不敗に向きなおったその瞬間、緩んだ空気は一瞬で元ある形に戻っていった。
いや、元に戻るどころの騒ぎではない。
次にギルガメッシュが口を開いた瞬間、この場はこれまで以上の緊張感に包まれる事になる。
「――――で? どいつから死にたいのだ?」
■変た……英雄王やっぱり慢心する
「えーっと。ちょっとちょっと。ギルガメッシュさん。
ついさっきまで、感動の再会に花咲かせてたと思うんだけど。なんでそういう話に?
唐突過ぎてまったく話の流れが掴めないんだけど?
というか、協力してくれる人を探すため交友的にいくって話じゃなかったっけ?」
赤いコートのツンツン頭、ヴァッシュ・ザ・スタンピードがまったくもってして、尤もな突っ込みをいれる。
だが、それはどうやら余人の観点でしかなかったらしく、その言葉に英雄王は甚く不満気にこう答えた。
「何を言うか。そこのそれはもとより生かしておく価値のない紛い物だ。
そして、そこの老いぼれは我のモノに手を出した。
そら? 誰一人として生かしておく理由がないではないか」
「いやいやいやいや。お友達に手を出されて怒るのはわかるけど。
とりあえず話し合いで解決してみるおつもりは?」
「ないな」
「ないんだ」
即答だった。
それでも、乱心するギルガメッシュを止めようとヴァッシュが言葉を続けようとした瞬間、
「……ハハ、ヒャハハハハハッハッハハ!」
唐突に、下卑た笑いが割り込んできた。
それは、仰向けに倒れこみ、それまでピクリとも動かなかった白服の口から発せられていた。
跳ね上がるバネの様な勢いで、白服は上半身を起こす。
そして、左腕の手首と肘の間、曲がってはいけない場所をブラブラ振り回しながらギルガメッシュ目掛けて血まみれの口で咆えた。
「誰から死にたいだぁ? 状況見て言ってんのかテメェ。
このジジイを、この俺を余裕で殺せるってか? 嘗めてんのかテメェ!?
世の中全てが自分の思い通りになるとでも勘違いしてんじゃねぇか? あぁん!?」
目を覚ますや否や、言いがかりにも似た言葉を撒き散らすラッドだが、その言葉にギルガメッシュは酷く不思議そうな顔をして答える。
「勘違い? おかしなことを言う。
この我が貴様と贋作者と老いぼれを、葬り去るのに何の問題があると言うのだ?」
「あ゙?」
「それに、この身は人類最古の英雄王なるぞ。
所詮、今この世にある全ての物はその昔我が所有していた物の発展物に過ぎん。
つまり、この世は全て我の物。故にこの我の思いどおりにならぬものなど存在せぬ」
そう言ってのけるギルガメッシュは慢心していた。
東方不敗の常識外れた実力が英雄王の眼力に適わぬはずもない。
にもかかわらず、英雄は誰がどう見ても確実に慢心していた。
衝撃のアルベルトと戦闘、敗北を経てギルガメッシュはこのバトルロワイアルに対する認識を確かに変えた。
そう、これまでは退屈しのぎにしかならない物見遊山程度だった認識も、今や楽しみがいのある遊戯の舞台だという認識へと変貌を遂げたのだ。
未だこの事態を戦場と認識しないその価値観には慢心が見て取れるだろうが。
それが彼の王道なれば。なにがあろうと慢心は捨てない。
だが、遊戯とて負けるのは性に合わぬ故、油断は捨てよう。
つまり、今のギルガメッシュに慢心はあれど油断はない。
「……テメェ。それ、本気で言ってんのか?」
それは、ラッド・ルッソらしからぬ、底冷えするような静かな声だった。
ともすれば、まるではちきれる寸前まで伸びきったゴムを思わせる。
ラッドのテンションは今、三回転半して最低ラインに下がっていた。
何がきっかけでそのゲージが爆発してもおかしくない状態だ。
だが、その張り詰めた空気もまったく気にせず、ギルガメッシュはさも当然のように言い切った。
「当然だ。我は貴様のような狂犬如きが拝顔の栄にあたるもおこがましい真なる王であるぞ?
この世は天上天下、時空の果てまで我の物だ」
「ぁ――――」
どこまでも傲慢なその言葉を聞いて、ラッド・ルッソの中で何かが切れた。
■殺人鬼、すごく怒る
ラッド・ルッソは計算高い男である。
その行動の根源が自らの欲求を満たすためだけにある点に目を瞑れば、その行動は非常に打算と計算に基づき理に適っている。
相手の心理に付け込む手腕に関しては天才的ともいえるだろう。
加えて、友人兼恋人兼婚約者であるルーアには及ばないものの、相手の力量を測る力も確かだ。
その観点からすれば、頭のおかしな格好した男は、たぶん驚くほど強いのだろう。
ひょっとしたら、自分が手も足も出なかった爺さんより強いのかもしれない。
加えてこちらはその爺さんとの戦いでボロボロだ。
武器もほとんどを使い果たし、東方不敗の最後の一撃をなんとか防いだ左腕は完璧に折れてる。
どう贔屓目に見たって勝ち目なんてあるとは思えない。
だが、それとこれとは話が別だ。
この男は、まるで当たり前のような態度で。
この男は、当然だと言わんばかりの声で。
この男は、嘗めたことを抜かしやがった。
この男は、許せないことを言いやがった。
もう、欲望も計算も利益も快楽も一切関係ない。
ただ純粋に目の前の男を殺したい。
いや、殺さなければならない。
今ここでこの男を殺さなかったら、ラッド・ルッソはラッド・ルッソでなくなってしまう。
だから殺す。
ラッド・ルッソは立ち上がる。
立ち上がれるのが不思議な程肉体はボロボロだったが、どういうわけか体は力に満ち溢れていた。
まるで、全身を巡る殺意がすべて力に変わるようだ。
この殺意をすべてブチ撒けて、薄ら笑いを浮かべる男を殺して殺して殺し尽くしてやる。
そう思うと、自然と腹の底から笑いが込み上げてきた。
「フ、ヘヘッ……フハハ、ハッハッハッハ!
…… 殺してやる。殺してやるよ。ブッ殺してやる。即殺す。今殺す。すぐ殺す。死んでも殺す。死ぬまで殺す。完膚なきまでに殺す。徹底的に殺す。大々的に殺す。芸術的に殺す。殺してからまた殺す。死んでからも殺して殺して殺し続けてやるよ。ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
奥底から憎しみを吐きだす呪詛のような呟きだった。
本当に壊れてしまったのではないかと思えるような声で、ラッド・ルッソは笑い続けた。
だが別に彼は壊れたわけじゃない。
何せ、彼は既にもうこれ以上壊れようのないほど壊れてるのだから。
ただ今は、少しばかしそのタガが外れただけだ。
―――イカれてる。
その場にいる誰もがラッド・ルッソに抱いた感想である。
だが、当の殺意の対象である英雄王はそんな事を気にせず、涼しい顔で笑っていた。
「はっ。吠えるな狂犬、耳が穢れる」
英雄王の嘲りに、殺人鬼の笑みがピタリと止まる。
そして、時が止まったように睨み合った二人は、唐突に互いに喉を鳴らして、くっと笑い。
ほぼ同時に、相手目掛けて手にした凶器を投げつけた。
ラッド右手から投げ放たれたナイフは風を切り裂き。
銀色の閃光は正確にギルガメッシュの額に迫る。
対して、ギルガメッシュが投擲したのは奈緒から受け取った自身の鎧の破片だ。
宝具にも匹敵する鎧の破片、その強度は折り紙つきである。
加えて仮にも弓の英霊の放った投擲物である、その勢いは弾丸にも迫るだろう。
瞬き一つ終わる間に相手に突き刺さるはずだったそれはしかし。
鳴り響いた一つの銃声によって、明後日の方向に弾き飛ばされた。
「ストップ。二人ともいい加減そこまで」
誰もが息を呑むその空間の中心に、真紅になびくコートが台風の如く飛び込んだ。
それは、最強のガンマン。人型プラント。600億$$の男。
人類初の局地災害指定を受けた人間台風、ヴァッシュ・ザ・スタンピードである。
「テメェ……今何しやがった」
割り込んだヴァッシュを睨み付けるラッドの疑問も当然である。
響いた銃声は一つ。
だが、撃ち落とされた飛来物は二つ。
この矛盾を平然と成し遂げた、人間台風は殺人鬼の動きを制するように銃口を向けた。
「ヒ・ミ・ツ。暴れるの止めたら教えてあげるよ」
その瞬間何が起きたのか。
恐らくこの場において、それを認識できたのは東方不敗とギルガメッシュだけだろう。
いや、この二人でも正確に捉えることができたかどうか。
飛来物が交差し重なりあう、その刹那にも満たぬ瞬間。
ヴァッシュはその二つを同時に横から撃ちぬいたのだ。
弾丸を横から弾丸で撃ち落とすなど、神業じみた芸当だ。
加えて、それが二つ同時となれば、雪崩を一本のストローに流し込むような精密射撃だろう。
そして、人の知覚を超える神速の早撃ち。
およそガンマンとして最高の技能を以って、狂宴の中心に舞いこんだ赤い台風は、およそ場違いともいえる柔らかな笑顔でこう言った。
「とりあえずさ。殺すとか殺さないとか、そいういう物騒な話はヤメにしない?」
&color(green){【ラッド・ルッソ@BACCANO バッカーノ! 螺旋力覚醒】 }
■それでも人間台風は理想を掲げる
「は。なにを言うかと思えば、戯言を」
割り込んできたヴァッシュをギルガメッシュは鼻で笑った。
ヴァッシュの手にした銃口は、動きを牽制するようにラッドに向いている。
先ほどの神業じみた早撃ちを見るに、それは何の枷にもならないのだろうが。
「そう言う貴様の手にしたそれはなんだ? 我の時代にはなかったものだぞ?
それは、人が長年をかけて人を殺すことを追求し創り上げた人を殺すための道具だ。
それを手にして殺すななどと笑わせるな道化」
ギルガメッシュはそう言って人殺しの道具を手に不殺を叫ぶその矛盾を一笑に切り捨てる。
だが、ヴァッシュ・ザ・スタンピードは己が矛盾を突くその言葉に動じるでもなく、冷静に答える。
「知ってるさ。これは人殺しの道具だ。
銃で撃てば人は死ぬ。だけど、銃をもたなければ銃には対抗できない。
だから、ボクは誰も殺さないために銃を取ったんだ。
その矛盾は承知している。笑いたければ笑えばいい。
それでもオレはそうやって生きてきたんだ。そしてこれからもこの生き方を変えるつもりはないよ」
「なるほど。自身の矛盾にも気付かぬ道化であったならばこの場で縊り殺しているところだったのだが。
嘲りも矛盾も承知の上か。それならばよい」
ヴァッシュの言い分を聞き終えたギルガメッシュは一人、納得したように深く頷く。
「ところで。さしあたって、我はそこの駄犬と雑種と老いぼれを皆殺しにするつもりなのだが、どうする?
己が信念に従い、この我を止めてみるか、夢見る聖者よ?」
言って。口元に笑みを浮べたまま、あろう事かギルガメッシュはヴァッシュにまで敵意を露わにする。
それは冗談や酔狂などではない、本物の敵意だ。
その敵意が、邪魔すれば本気で殺すと告げている。
「もちろん。これ以上誰も殺させないさ」
それでも告げる決意に迷いはない。
言われなくても、止めてやるさ。
銃を手にして誰も殺さないために。
銃を手にして誰も殺させないために。
150年間そうやって生きてきたのだから。
これ以上誰一人死なせはしないと誓ったんだから。
「そうか。いや、いつの世も己が信念を貫くは厳しいな。ヴァッシュ・ザ・スタンピード?」
敵意を明確な殺意に変えながら、楽しげにギルガメッシュは笑う。
その殺意に対しても怯まない。
やってやるさ。
これからも、笑って理想を掲げ続けてやる。
――――地には平和を、そして慈しみを(ラブ・アンド・ピース)
「おいおいおいおいおいおいおいおいおい。そっちで勝手に盛り上がんなよなぁおい!
こっちは果てちまいそうなくらいハイだってのによぉお!!」
「なに? 金ピカ。こいつもやるの? やるんなら手伝うけど?」
「止めろラッド! くっギルガメッシュ。お前の好きにはさせない!」
ああ、でも収拾つかないかもな、これ。
■蛇はしたたかにいらないものを切り捨てる
さて、どないしましょ。
おかしな流れになってきたけど、うちの目的はあくまで螺旋王の力やさかいなぁ。
その目的のためには、足手まといも、危ない人もいりまへん。
さて、その点でゆうたらここにいる人等はどやろな?
まず、ボロボロなった少年やけど、問題外やね。
どう考えても足手まといやし、隙見て、ここで間引くのが一番やね。
続いて白服の男も問題外やわ。
こっちも同じくもうボロボロやし、協力したところで暴走するんが目に見えてます。
危険な人には早々にご退場願いますわ。
続いて紫の服着たお爺さんやけど、これも問題外やね。
ちゅうか、一番このお爺さんが厄介やわ。
危険やし仕留めたいところやけど、簡単に隙見せてくれる相手やおまへんな。
まあ、そこはヴァッシュはんとギルガメッシュはんに期待しましょ。
続いて結城はん。
うちの事を知ってる相手やから、下手な事言われる前に殺してしまいたい所やけど、
結城はんを殺すとなれば、ギルガメッシュはんとヴァッシュはんが止めるやろうなぁ。
まぁ、機会があったらゆうことやね。
続いてヴァッシュはんとギルガメッシュはん。
なんかようわからん流れで、二人とも争う事になるようやけど。
どっち応援しまひょか。
ヴァッシュはんは操り易いのが利点やけど、ハッキリゆうて、その価値観は折り合いつきまへんわ。
対してギルガメッシュはんは操りにくいのが難点やけど、その何でも切り捨てられる価値観はうちの目的に沿っているしなぁ。
どっちも力量は大差ないみたいやし、どうないしましょ。
まあ、どっちも使えへんようなったら切り捨てるだけやけど。
あら不思議やねぇ。
考えてみたら、ほとんど必要ない人ばっかしやありまへんか。
アホやなぁヴァッシュはんは。
なんもかんも全部、守ろうとして。
いらんもんは切り詰めていかな、終いには大事なモンまでなくしてしまいますえ?
■老獪な老人は静かに天秤を整える
乱入者の登場より、息をひそめていた東方不敗は成り行きを見守っていた。
東方不敗が気配を消したように押し黙っていたのは、単に乱入者の力量を測りかねていたからである。
そして、動き、佇まい、闘気を見て、乱入者はなかなかに拙い連中のようであると確信した。
特に金髪二人。
互いにフザケたような風体だが、あれは恐らく衝撃のアルベルトクラスの手練であると判断する。
となれば、この東方不敗を以ってしても二人同時に相手どるのはかなり骨が折れるだろう。
故に白服達と潰し合わせるのが理想であるが、数の上でも質の上でも、あまりにも乱入者の側に天秤が傾きすぎている。
ならば、この場で東方不敗が行うべくは両者の戦力の天秤を整え、互いに潰し合えるよう仕向けることだ。
故に優先的に狙うのは珍妙な格好をした男である。
出で立ちこそフザケているものの、この男はいわば大乱そのもの、早めに潰しておかねば厄介な事になりかねん。
白服の男の意識が珍妙な格好の男に向いているのは僥倖である。
うまくこの男を利用しながら珍妙な格好をした男を仕留める。
そう静かに策略を練りながら東方不敗は静かに動き始めた。
*時系列順で読む
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*投下順で読む
Back:[[BACCANO -前哨編-]] Next:[[BACCANO -そしてバカ騒ぎ-]]
|231:[[BACCANO -前哨編-]]|ラッド・ルッソ|231:[[BACCANO -そしてバカ騒ぎ-]]|
|231:[[BACCANO -前哨編-]]|衛宮士郎|231:[[BACCANO -そしてバカ騒ぎ-]]|
|231:[[BACCANO -前哨編-]]|東方不敗|231:[[BACCANO -そしてバカ騒ぎ-]]|
|219:[[Omegaの視界 未解封のハコニハ]]|ヴァッシュ・ザ・スタンピード|231:[[BACCANO -そしてバカ騒ぎ-]]|
|219:[[Omegaの視界 未解封のハコニハ]]|藤乃静留|231:[[BACCANO -そしてバカ騒ぎ-]]|
|231:[[BACCANO -前哨編-]]|ギルガメッシュ|231:[[BACCANO -そしてバカ騒ぎ-]]|
|231:[[BACCANO -前哨編-]]|結城奈緒|231:[[BACCANO -そしてバカ騒ぎ-]]|
|231:[[BACCANO -前哨編-]]|明智健悟|231:[[BACCANO -そしてバカ騒ぎ-]]|
|231:[[BACCANO -前哨編-]]|菫川ねねね|231:[[BACCANO -そしてバカ騒ぎ-]]|
|228:[[刻無―キズナ―(後編)]]|高嶺清麿|231:[[BACCANO -そしてバカ騒ぎ-]]|
|228:[[刻無―キズナ―(後編)]]|小早川ゆたか|231:[[BACCANO -そしてバカ騒ぎ-]]|
|228:[[刻無―キズナ―(後編)]]|イリヤスフィール・フォン・アインツベルン|231:[[BACCANO -そしてバカ騒ぎ-]]|
2023-07-26T00:55:24+09:00
1690300524
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かしまし~ラブ&ピース・ミーツ・ガール~
https://w.atwiki.jp/animerowa-2nd/pages/672.html
**かしまし~ラブ&ピース・ミーツ・ガール~ ◆IaXd.lUSFI
穏やかな風が流れる。
5人―――正確には4人―――は体を休めながら、話をした。
ゆたかは全てを皆に打ち明ける。Dボゥイに助けられたこと。途中でシンヤに捕まって、しかし彼もラッドに殺されてしまったこと。
そしてそのあと明智やねねね達に救われたにも関わらず、自分が三人を殺してしまったことを。
スパイクが一言そうか、と呟いただけで、誰も口を開かずゆたかの話を黙って聞いている。
しかしその静寂から、ゆたかを責める響きはなかった。
そしてゆたかが話し終わると、次に舞衣が、ジンが、スパイクが、これまで経験してきたことを話し出した。
三人の人間を殺し、そしてつい数時間前に知り合いにも手を下した舞衣。
同行者をことごとく失いながらも因縁に決着をつけたスパイク。
最後まで生き延び、この場を楽しいゲームに差し替えようと奮闘しているジン。
皆形は違うが、苦労を重ねてきている。
それに、ゆたかは改めて恥ずかしくなった。
誰もが、辛い思いをしてきた。時に人を殺め、時に仲間を失い、時に自らの無力に絶望してきた。
そんなのは―――当たり前なのに。
建物を崩壊させたり吹きとばしたりできる強い力の持ち主でもない限り、誰だって一度は挫折しかけてもおかしくないのだ。
なのに自分ときたら―――そこまで考えて、ゆたかは首を小さく横に振った。
「……ゆたか? どうしたの?」
「ううん、何でもない」
やめた。
そうやってまた負の連鎖に陥っても、何も始まらない。
今のゆたかは、さっきまでの小早川ゆたかではない。
自分のやりたいことを見つけたから。そして、自分にできることが分かったから。
「……大丈夫、だよ」
「うん」
舞衣の言葉が、すごく力強い。
「……六時だ」
微笑み交わすゆたかと舞衣の動きを止めたのは、スパイクの短い声だった。
瞬間、静寂が落ちる。時計の秒針が動いていくのを見る。
そしてかちり、と長針が12に移動し―――
放送が、始まった。
*
『さあ、己が生命を懸けて血潮を滾らせ、闘争に身を躍らせろ。
生きることこそ、生き延びることこそ即ち戦いなのだから。 』
その言葉を最後に、放送はぷつりと途絶えた。
ゆたかを除いた3人に特に動揺は見られなかった。知り合いで死んだ人間のことはほぼ把握していたからだ。
スパイクがビシャスとヴァッシュの名前が呼ばれた時にわずかに眉を上げ、舞衣が静留の名前が呼ばれる瞬間黙祷を捧げるように瞳を閉じたくらいで、誰も声を発しない。
しかし、ゆたかは違っていた。
―――あれ?
「え?」
ぽかんと首を傾げる。どういうことなのだろう。
「え、私は……ねねね先生と清麿君は……」
自分が『殺した』二人が呼ばれていない。
明智の名前はあったのに……ゆたかの聞き間違いだろうか?
なぜなら自分が―――
「まあ……俺にはその時の状況が分からんから何とも言えないが……そういうことだろ」
スパイクのはっきりしない発言に、ゆたかは更に疑問を深める。
いや、本当は分かっているのだ。ただ予想もしなかったため、理解が追い付かない。
「あれ、だって、私が……」
―――皆を殺したんじゃなかったの?
自問するゆたかの頭に、優しく手が置かれる。
「大丈夫、呼ばれなかったんだから、二人はまだ生きてるわ」
舞衣が、姉のようにゆたかに微笑みかける。
「……ほんとう、に?」
「何回も放送を聞いたけど、残念ながら今までは本当みたいだよ?」
ジンもひょうひょうとした口調ではあるが、優しい眼差しをゆたかに向けている。
ゆたかは、そこでようやく理解した。
まだ二人が、生きているのだということを。
―――ゆたかの背中から、すっと力が抜けた。
良かった。
二人はまだ、生きてる。
私は、二人を殺してなかった!
もちろん、それで許されるなんて思っていない。明智を殺したのは間違いなく自分だ。
それは背負わなければならない、それでも。
「良かっ、た……」
それでも。
生きていてくれたこと、それだけで嬉しい。
小早川ゆたかを救ってくれた人が、一人でも多く無事でいてくれるだけで、救われる気がした。
―――明智さん、私は悪い子ですが……
せめて、せめて私に、二人の生存を喜ばせてください。
罪深い私にできることなら、何だってやってみせますから。
「良かった……本当に良かった……」
だから、
「……皆さん、本当に、ここから脱出しましょう」
「あはは、ゆたかちゃんそれ二回目」
舞衣が茶化すように笑う。
分かってる。ちゃんと小早川ゆたかは分かっている、それでも。
「……うん」
もう逃げない。もう絶望しない。
そして、かがみを救い出すと、決めたから。
「……やっぱり女の子は強いよね。そう思わない? スパイクも」
「ああ……こいつら見てると、そうとしか思えないな」
暖かな感情に見守られながら、
こうして小早川ゆたかは―――完全に現実を受け止めたのだった。
*
放送後、四人はこれからどこに向かうかを考え始めていた。
途中でスパイクに『ロボット兵に乗った少女』について教わった。何でも、彼の腕を切り落としたのは彼女らしい……絶対に会いたくない。
「かがみさんは、どっちに向かったんだっけ?」
「えっと……」
首を絞められた痛みとショックで、かがみがどちらに逃げ出したのかは見ていない。スパイクとジンが南ではないか、と言ったが、やはり確証はない。
「それでも、まだ遠くには行っていないと思う」
「私もそう思う。相当パニックを起こしていたみたいだったし―――誰かに保護されてる可能性もあると思う」
それが一番最良な結果だった。
人助けをするような人間なら、このゲームに乗ってはいないだろう。その人物と協力することができる上に、かがみに会うこともできる。
「だが、無闇に探し回るとニアミスするぞ?」
スパイクの至極まともな指摘に、ゆたかはそうですよね、と小さく呟く。
間違った方向に進んでうろうろし、殺し合いに乗った人間に出会ってしまったら、自分たちには勝ち目がない。
(今は)ごく普通の少女であるゆたかと舞衣、ある程度は戦えるが全身ぼろぼろのスパイクとジンである。
「……分かります。けど……ここで待っていてもかがみ先輩は戻ってきません」
それならば、少しでも動いた方がいい。
すぐにでも救いださないと。ラッドから、かがみを。
「……分かった、じゃあとりあえず南の方に向かってみよう。それでいいな?」
「はい、舞衣ちゃんとジンさんは?」
「私は皆がいいのならどこでも」
「オレも特に反対はしないよ」
こうして方針は決定した。しかし、まだ四人はこの場から動けない。
「決まりね……あとは、結城さんが目を覚ましてくれるといいんだけど」
舞衣が、うなされているらしい元の世界からの知り合いを不安そうに見つめる。
「さすがにこのままの状態で運ぶ訳にもいかないし……結城さんが目覚めるまでは保留ね。それまで傷を癒すってことで」
「あ、あの舞衣ちゃん、それなら、ちょっと出てきていいかな?」
そこで、先ほどからあることを考えていたゆたかが手を上げる。
「え? 一人で?」
「あ、うん。ちょっと……色々あって」
―――水、浴びたいな。
そんな場合ではないと分かってはいるのだが、汗で体がぐちょぐちょで正直気持ち悪い。
つい数時間前まではこんなことすら考える余裕がなかったのだから、精神が落ち着いた証拠とも言える。
それに、冷たい水に触れれば心もすっきりするだろう。
「すぐ、戻りますから」
「おい、危ないぞ、一人は。俺かジンがついていった方が―――」
「分かってないのね、女の子の行くとこくらい察しなさいよ」
呆れ顔の舞衣。
「……しかしだな、」
「まあまあいいじゃんスパイク。二人ともただじゃ引かないよ?」
スパイクは複雑な顔をしながらも、仕方ねえな、とそれ以上言うのをやめた。何か舞衣に誤解されている気がするが。
舞衣は、ゆたかににこりと微笑みかけ、言葉を続ける。
「私がついていくわ。それでいいでしょ?」
「ま、舞衣ちゃんいいよ! そんな大したことじゃないし!」
それはジンやスパイクよりも困るかもしれない……あらゆる意味で。
「今の私には何もできないけど、たぶんゆたかちゃん一人よりはいいと思うな……私も少し行きたかったしね」
最後の言葉は耳打ちで。舞衣は分かっている、と言わんばかりにゆたかに笑顔を見せた。
「ね、どう?」
―――敵わないな、舞衣ちゃんには。
決して彼女に引け目を感じている訳ではないつもりなのだが、先ほど諭されたためか、意見を言われると彼女の方が正しく思えてくる。
「……うん、分かった、ありがとう」
だから最終的に、ゆたかは舞衣の言葉に素直に頷いたのだった。
*
C-5、商店街。
二人の雰囲気の異なる少女が、共に連れだって歩いている。
ゆたかは舞衣に水浴びをしたいと言ったところ、彼女も喜んで同意してくれた。
やはりどんなところにいようと女の子は女の子、せめて体くらいは流したいのは共通だ。
「こ、ここに来てから、お風呂にも入ってないし……まあ、仕方ないんだけどね」
「私も少し体を拭いたくらいかな……だ、だから水に入れるなら是非入りたい! 結城さんもまだ眠ってるみたいだし、早めに戻れば大丈夫だよね」
ゆたかと舞衣は、和やかに談笑しながら歩く。
一見、仲の良い友人二人の会話に見える。その評価は間違っていないし、そこにとってつけたような違和感はない。しかし。
「うん、三人には悪いけど、少しだけ、ね」
―――気になる。
二人揃って、心の奥に不安と好奇心を抱えていた。
―――どうしよう。
ゆたかは考える。気まずい。
舞衣と二人きりだなんて、何を言えばいい?
今は何気ない世間話でごまかしているが、もし話題が尽きたら?沈黙に耐えられるだろうか。
聞いて、みようかな。
何を?決まっている。『彼』のことだ。
―――ななな、何て聞くの? ま、舞衣ちゃんはDボゥイさんのことす、好きなのって?
名前を聞いた時の舞衣の反応。そして『あの人』と言った時の幸せそうな、恋する瞳。
あれは、もしかしなくても、『彼』のことではないのか?
はじめ聞いた時に似ているとは思ったが、その張本人だったとしたら?
……無理だ。聞けない。
もし、聞いて頷かれたらどうする?そして本当に、Dボゥイのことだったら?
自分は何の力もないし弱虫で胸もない。同性のゆたかから見ても、美人で大人っぽい舞衣の方が魅力的だ。
―――勝ち目、ないよね。
せっかく友達になったのに、余計なことを聞いて空気を悪くするのは嫌だ。でも、気になる。気になって仕方ない。
―――どうしよう。
舞衣は考える。気まずい。
ゆたかと二人きりだなんて、何を言えばいい?
今は何気ない世間話でごまかしているが、もし話題が尽きたら?沈黙に耐えられるだろうか。
聞いて、みる?
何を?決まっている。『彼』のことだ。
―――な、何て聞けばいいのよ? ゆたかちゃんはDボゥイのこと好きなの、って?
名前を聞いた時のゆたかの反応。そして『そういう人がいる』と言った時の幸せそうな、恋する笑顔。
あれは、もしかしなくても、『彼』のことではないのか?
どことなく彼女と似たものは感じていたが、まさか恋する相手まで同じだったとしたら?
……無理だ。聞けない。
もし、聞いて頷かれたらどうする?そして本当に、Dボゥイのことだったら?
自分は素直になれない可愛げのない女だ。同性の舞衣から見ても、女らしく清楚な雰囲気のゆたかの方が魅力的だ。
―――勝ち目、ないよね。
せっかく友達になったのに、余計なことを聞いて空気を悪くするのは嫌だ。でも、気になる。気になって仕方ない。
「……」
「……」
悶々と悩む二人からは、やはり次第に会話が失われていく。
時折どちらかが思い出したように話を振るが、二三度の会話のキャッチボールですぐに終わってしまう。
嫌いな相手や苦手な相手ではない分、余計に沈黙が辛い。
―――何か、言わないと。
「「あの……」」
そして二人は、ほぼ同じ思考を巡らせた後口を開いた……これまた同時に。
「あ……」
「……えっと」
「ま、舞衣ちゃん先話していいよ」
「え、い、いいよ、ゆたかちゃんからどうぞ」
沈黙。
……さわさわと風が流れる音が聞こえる。
隣には川が流れており、自然に囲まれている、という訳でもないのにやけに静かだ。
この状況をもしゆたかの従姉が見ていたら、『タイプの違う女の子二人に愛される一人の少年! さあ恋の天秤はどちらに傾くのか!? ……ってそれ何てギャルゲ?』
と突っ込みをいれそうだが、残念ながらその手のことに疎いゆたかにはそんな冗談も思いつかない。
―――えっと、あの、どどどどどうしよう!? こういう時は何を言えばいいの!? 教えてみなみちゃん!
―――な、何を言えばいいの? 自然な形でそう言えばDボゥイって~とか振る? そんなの無理! ああああもう助けてよ! 命でもいいから!
心の中で顔を真っ赤にして転げまわる二人。
「……あ、あの、ね」
そして動いたのは、ゆたか。
―――少し怖い。でも、やっぱり聞いておきたい。
恋する乙女として、そして何より友達として。
「ま、舞衣ちゃん、一つ聞いてもいいかな?」
「あ……う、うん」
舞衣が何故少し焦った顔をしているのかゆたかには分からないが、ここまで来たら聞くしかない。
「えっと……えっとね……舞衣ちゃんって……」
心臓が激しく脈打つ。緊張が走る。
―――頑張れ、ゆたか。頑張れ!
「あの、舞衣ちゃんは、あの、D―――」
そこまで言いかけたゆたかの耳に飛び込んで来たのは、少女の泣き声だった。
*
「……大丈夫か?あいつら」
「女の子はタフだから平気でしょ。それよりまずはこの子をどうにかしないとね」
女性二人が遠ざかり、不安そうなスパイクに、ジンがいつもの調子で答え、隣に寝かされている少女に視線を滑らせた。
放送が終わった今も尚、目覚める様子はない。
「さすがにこの子抱えたまま、『ラッド』のとこ向かうわけには行かないよね。早く目覚めてくれるといいけど」
「まあな……ったく、でかい荷物を持たされたもんだな」
溜め息を吐くスパイク。
「どうして、ここで俺が知り合う女は皆こう姦しいんだ」
読子といいカレンといいシータといい。タイプこそ違うが、誰も大人しくしてくれない点だけは共通している。
舞衣もかなり気が強いようだし、ゆたかは大人しそうに見えたが実際は強情だった。
「……だから女とガキは苦手なんだっての」
「まあまあ、そう言って結構慣れてきたんじゃないの?」
ジンの言葉に、まあな、と小さく答える。
そして無意識にポケットに手を伸ばし、タバコはなかったことを思い出し腕を引っ込めた。
―――はあ……Dボゥイが持ってきてくれればいいが……さすがにこの中に来たら気まずくなるだろうな。
二人の微妙な雰囲気で、スパイクは彼ら三人の関係性が何となく読めていたが、
大人が口を挟むべきでないだろうと触れていない。
「それにしても、そのDボゥイ?だっけ、彼は随分と女性にもてるんだねえ」
……やはり、ジンも気付いていたようだ。
おそらく当人たちは知られているなど夢にも思っていないだろうが、自分がDボゥイの名前を出した瞬間顔を赤くしたりうろたえ出したりと、端から見ているともろ分かりもいいところだ。
「多分あれだろうな。男は命知らずな奴ほどもてるんだろう。きっと戦場に向かう男なんてモテモテに違いない」
「……なんだかそのDボゥイって奴に会ってみたい気もするけど、会わない方がいい気もするね」
複雑そうな顔をするジン。
「まあ、恋愛ってのもいいかもね。こんな時だからこそ、何か心休まるものがあるってのも」
「必ず休まるとは限らんぞ……」
女性二人がいない間に、男同士恋愛の話で盛り上がる―――とはさすがにいかない。第一年齢が違い過ぎる。
―――それにしても、ジュリア、ねえ。
絶賛気絶中の少女が召喚していた蜘蛛の名前を思い出し、何とも言えない気持ちになる。
無論、無関係なのは分かっているのだが、ジンが余計なことを言ったせいで頭に残ってしまった。
「……ん」
「お、お目覚めかな?」
その時、少女が小さく声を漏らす。
ジンが手を叩き、少女の脇に腰かけ明るく笑った。
「……な……ここは……」
「お疲れ様。君は戦って負けて気絶。オレはジン、こっちはスパイク。分かった?思い出したかい?」
ジンの軽い口調にも奈緒は何ら反応を示さず―――1つの名前を口にした。
「……かがみ」
「ん?」
「スパイク……柊かがみは……? あいつは、どこに行ったの……?」
そう叫ぶ奈緒の顔にあったのは、困惑。そして何よりも、怒り。
「あいつは……あいつはどうなったの?」
「柊かがみは逃走したよ」
スパイクの言葉に、ぴくりと奈緒の肩が揺れる。
「逃げたあ? あいつが? 死なないのにどうして?」
奈緒の口調から滲み出ている苛立ちから理解する。彼女は、おそらく自分でかがみを倒したかったのだと。
「……さあ? お前に恐れをなしたんじゃないか?」
理由はアイパッチで正気に戻ったからだと分かっていたが、あえてはぐらかす。
「ふざけないで! 私はあいつを克服して―――」
「分かったよ、ちゃんと話すから。だから落ち着いて、話でもしないかい?」
怒りで立ち上がったジンが奈緒をなだめ、座らせる。
そして、奈緒を無条件で黙らせる一言を、紡いだ。
「いろいろと君には聞きたいことがあってさ。柊かがみとのこととか―――ギルガメッシュのこととかね、『ナオ』さん?」
【C-5/住宅街/二日目/朝】
【ジン@王ドロボウJING】
[状態]:全身にダメージ(包帯と湿布で処置)、左足と額を負傷(縫合済)、全身に切り傷
[装備]:夜刀神@王ドロボウJING(刃先が少し磨り減っている)
[道具]:支給品一式(食料、水半日分消費)、支給品一式
予告状のメモ、鈴木めぐみの消防車の運転マニュアル@サイボーグクロちゃん、清麿メモ 、毒入りカプセル×1@金田一少年の事件簿
短剣 、瀬戸焼の文鎮@サイボーグクロちゃんx4
ナイヴズの銃@トライガン(外部は破損、使用に問題なし)(残弾3/6)、偽・螺旋剣@Fate/stay night
デリンジャー(残弾2/2)@トライガン、デリンジャーの予備銃弾7、ムラサーミァ(血糊で切れ味を喪失)&コチーテ@BACCANO バッカーノ!
[思考]
基本:螺旋王の居場所を消防車に乗って捜索し、バトル・ロワイアル自体を止めさせ、楽しいパーティに差し替える。
0:とりあえず奈緒から話を聞く
1:柊かがみを助け出す
2:ガッシュ、技術者を探し、清麿の研究に協力する。
3:ニアに疑心暗鬼。
4:ヨーコの死を無駄にしないためにも、殺し合いを止める。
5:マタタビ殺害事件の真相について考える。
6:ギルガメッシュを脱出者の有利になるよううまく誘導する。
[備考]
※清麿メモを通じて清麿の考察を知りました。
※スパイクからルルーシュの能力に関する仮説を聞きました。何か起こるまで他言するつもりはありません。
※スパイクからルルーシュ=ゼロという事を聞きました。今の所、他言するつもりはありません。
※ルルーシュがマタタビ殺害事件の黒幕かどうかについては、あくまで可能性の一つだというスタンスです。
※ドモンと情報交換しました。会場のループについても認識しています。
※舞衣、ゆたかと情報交換を行いました。
【スパイク・スピーゲル@カウボーイビバップ】
[状態]:疲労(大)、心労(大)、左腕から手の先が欠損(止血の応急手当はしましたが、再び出血する可能性があります)
左肩にナイフの刺突痕、左大腿部に斬撃痕(移動に支障なし) 、腹部に未だ激しい痛み
[装備]:ジェリコ941改(残弾3/16)@カウボーイビバップ
[道具]:支給品一式×4(内一つの食料:アンパン×5、メモ×2欠損)ブタモグラの極上チャーシュー(残り500g程)
スコップ、ライター、ブラッディアイ(残量100%)@カウボーイビバップ、太陽石&風水羅盤@カウボーイビバップ
ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書@トライガン、防弾チョッキ(耐久力減少、血糊付着)@現実
日出処の戦士の剣@王ドロボウJING、UZI(9mmパラベラム弾・弾数0)@現実、レーダー(破損)@アニロワオリジナル
ウォンのチョコ詰め合わせ@機動武闘伝Gガンダム、高遠遙一の奇術道具一式@金田一少年の事件簿
水上オートバイ、薬局で入手した薬品等数種類(風邪薬、睡眠薬、消毒薬、包帯等)
テッカマンエビルのクリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード
[思考]
1:とりあえず、奈緒と話す。
2:十分に休息を取ったあと、柊かがみのところへ行く。
3:ウルフウッドを探す(見つけたあとどうするかは保留)
4:カミナを探し、その後、図書館を目指す。
5:ルルーシュと合流した場合、警戒しつつも守りきる。
6:テッククリスタルは入手したが、かがみが持ってたことに疑問。対処法は状況次第。
7:全部が終わったら死んだ仲間たちの墓を立てて、そこに酒をかける。
[備考]
※ルルーシュが催眠能力の持ち主で、それを使ってマタタビを殺したのではないか、と考え始めています。
(周囲を納得させられる根拠がないため、今のところはジン以外には話すつもりはありません)
※清麿メモの内容について把握しました。 会場のループについても認識しています。
※ドモン、Dボゥイ(これまでの顛末とラダムも含む)、ヴァッシュ、ウルフウッドと情報交換を行いました。
※シータの情報は『ウルフウッドに襲われるまで』と『ロボットに出会ってから』の間が抜けています。
※シータのロボットは飛行、レーザービーム機能持ちであることを確認。
【結城奈緒@舞-HiME】
[状態]:疲労(特大)、右手打撲、左手に亀裂骨折、力が入らない、全身に打撲、顔面が腫れ上がっている
左頬骨骨折、鼻骨骨折、更に更にかがみにトラウマ (少し乗り越えた)、螺旋力覚醒
[装備]:無し
[道具]:黄金の鎧の欠片@Fate/stay night
[思考]
基本方針:とりあえず死なないように行動。
0:金ぴか……!?
1:刑務所へ向かう予定だが、黒い球体の正体がわからないので、いつ行こうかちょっと迷ってる。
2:かがみを乗り越える。そして自分の手で倒す。
3:静留の動きには警戒しておく。
[備考]:
※本の中の「金色の王様」=ギルガメッシュだとまだ気付いていません。
※ドモンと情報交換済み。ガンダムについての情報をドモンから得ました。
※第2、4回放送はドモンと情報交換したので知っています。
※奈緒のバリアジャケットは《破絃の尖晶石》ジュリエット・ナオ・チャン@舞-乙HiME。飛行可能。
※不死者についての知識を得ています。
※ヴァルセーレの剣で攻撃を受けたため、両手の利きが悪くなっています。回復時期は未定です。
※かがみへのトラウマをわずかに乗り越えました
※第5回放送を聞き逃しました。
シェスカの全蔵書(数冊程度)@鋼の錬金術師
奈緒が集めてきた本数冊 (『 原作版・バトルロワイアル』、『今日の献立一〇〇〇種』、『八つ墓村』、『君は僕を知っている』)
黄金の鎧の欠片@Fate/stay nightが【C-5】のどこかに撒き散らされています。
*
ニア。
ニア。ニア。ニア。ニア。ニア。ニア。ニア―――!
「許しません」
シータの頭で、その名前が何度も何度も繰り返される。
「絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に許しません……!」
殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。早く早く早く早く、あの自らを侮辱した女・ニアを。
―――あらあら、負け犬のシータさんはまだ抵抗なさっているのですか?
聞こえてくるニアの声。自分を蔑み、見下している。
―――そんなので私に勝てるとでも? 貴方の兵隊さんとやらはとんだポンコツ。それに比べて私には、ドモンさんという素晴らしい武器があります。
「うるさい……うるさい……うるさい……!」
―――分かりますか? シータさん。これが私と貴方の格の違いというものです。螺旋王の娘である私に、ラピュタなんかの王族が勝てるはずありませんよ。
「……うるさいうるさいうるさい!」
―――それに……貴方はドモンさんを味方につけることができませんでしたから……王族としてだけでなく、女としても私が勝っているようですね。
「黙れ、黙れこの雌豚がっ!」
―――……ではシータさん、またいずれ会いましょう。今以上に醜い姿にならないでくださいね? ……くすくすくす
それを最後に、ニアの声は聞こえなくなった。
シータが想像力を失ったからなのか、それとも特に理由などないのか。
一つだけ確かなのは、シータはニアの言葉に憎しみを募らせているということだけだ。
もはや焼けるような痛みはない。怒りと殺意の前には、全てが吹き飛んだ。
「……許せない……あんなことを言って私を侮辱して……許さない、許さない……!」
彼女は倫理感こそ失ったが、思考はまだ失ってはいない。
だからこれでも理解はしていた……このままニアのところに向かっても、あのドモンというニアが籠絡した男―――とシータは信じ込んでいる―――に勝てないだろうと。
―――やはり、誰かに私の家来になって貰いましょう。
シータは考える。その家来があの男を倒してくれたら、自分はニアを思う存分殺すことができる。
―――いいえ、ただ殺すだけでは足りません。あの女は王族たる私・リュシータ・トエル・ウル・ラピュタを馬鹿にしたのです。拷問して、あの美しい髪を引き裂いてやりましょう。
肌を釘で引っ掻いて爪を剥いで内臓を引きずり出して瞳を抉りだして耳を切り落として、自分がいかに愚かで無礼で下品で醜い雌豚なのか分からせてあげましょう。
そして命乞いするニアを、私の呪文で粉微塵にしてあげます。ニアだけは、私と同じ価値観にもしてあげたくありません……くす、くすくすくすくすくすくす……
まだまともな精神―――だと自分では思っている―――を保ちながら、シータはロボット兵に乗り空を舞う。
もっともその姿は、華麗とは到底言えようもなく、すさまじい憎悪に満ち溢れていたのだが。
「兵隊さん、降りて」
ロボット兵は、主人の命令に従って下降し始める。王女様の新たなる『兵隊』を見つけるために。
そして地面に降り立つと、シータはロボット兵を巨大な木の裏に動かし、そこに大人しく座らせた。
「貴方はここにいてください。私がピンチになったらちゃんと助けに来てくださいね?」
役に立つ兵隊を見つけるためには、このロボットを連れて歩いていると疑われる。完全に無力なふりをするには、手ぶらが一番だろう。
そして絶好のタイミングでロボット兵を呼び出し―――油断している背中にレーザーを浴びせるだけだ。簡単簡単。
自らの容姿が強者とは思われないというのは既にヴァッシュやスパイクで実証済み。更に今は火傷を負っている。
まさか、大怪我をした少女がゲームに乗っているなどと考える奴はいないだろう。
「……では……」
少女は―――くすくすと歪に唇を歪ませた。
*
「うっ…………あ……うくっ……」
「だ、大丈夫ですか!?」
その泣き声の主に、ゆたかは駆け寄る。
それは小柄なゆたかと変わらないくらい小さな少女で、地面に座り込んでしゃくり上げている。
「……どうしたの? 何かあったの?」
どう考えても尋常ではなさそうな少女の態度に、ゆたかも舞衣も困惑の色を隠せない。
「……二……アが……」
そして、少女は荒く息を吐きながら顔を上げ、
「ニアが……ニアって子が、私の顔をこんな風に……!」
その、もはや面影のかけらもない顔を二人にさらした。
「……っう……ひ、酷い……」
ゆたかが口元を押さえて蹲る。少女の顔には生々しいやけどの痕が今も癒えずに残っている。少々火に巻き込まれたくらいではこうはならない。
思春期の女の子にとっては―――致命的なまでの大火傷。
「ニア? その子が貴方をこんなことに? ……ゆたか、服緩めて!」
舞衣のてきぱきとした対応に、ゆたかはあ、うん、と慌てながらも頷いて少女のぼろぼろの衣服をただれた皮膚から剥がしていく。
ニア、という名前は聞いた覚えがある。確かスパイクとジンが道中で会い、わずかな間行動を共にしたという少女だ。二人の話からは危険人物だという情報はなかったが―――
「い、いや、いやあああああ……に、ニアは……いい子だと思ってたのに……お友達になれると思ったのに……なのに、あんなに酷いことを……!」
錯乱した彼女の言葉から事実をつなぎ合わせると、そのニアは善良な人間を装い、彼女に攻撃してきたらしい。
「大丈夫だからね、だから落ち着いて?」
「……こ、怖かった……すごく怖かったんです……」
ずきり、とゆたかの心が痛む。
―――助けてあげないといけない。
この子は、私より弱い。こんな酷い目に遭わされて、もしかしたら死んだ方がましだと思っているかもしれない。
私だったら、どうだろう。
もしこんな大火傷を負ったら?泣くどころではすまないかもしれない。
だから、私が。
「大丈夫だよ」
「……う……ぐす……でも……」
ゆたかは笑いかける。
そして、そっと手を差しのべた。
舞衣が、ジンが、スパイクがそうしてくれたように。
明智が、ねねねが、イリヤが、清麿がそうしてくれたように。
そして何より―――『好きな人』が、そうしてくれたように。
「私は、小早川ゆたかって言います」
Dボゥイ、さん。
その名前を呟く。すると自然に勇気が湧いてきた。
傷ついた少女を救うための力。
自分のような、力無い存在を守りたいと願う力が。
―――ありがとう。
「私が……貴方を助けてあげるから」
皆の力によって救われた少女は、願う。
自分も―――誰かを助けたい、と。
「だから―――泣かないで」
*
くすくす。くすくすくすくすくす。
この子、すごく弱そうですけれど―――とても役に立ちそうですね。
二人の姿が見えたから咄嗟に泣き真似をしたら、すぐに信じてしまうんですもの。
ニアのように私に生意気な口を聞いたりしませんし……もし敵が襲ってきたら、このリュシータ王女の盾として使ってあげてもよろしいですよ?
さあ、ゆたかさん、でしたかしら?
貴方も私の命を守る兵隊さんになってくれますよね?私のために死んでくれますよね?
そして、この私を侮辱した最低の屑・ニアとすべての人間を殺してやりましょう!
くす。くすくすくす。
くすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくす―――
一人の少女の優しさと。
一人の少女の強さと。
一人の少女の憎しみを乗せて―――彼らの行方はどこへ向かうのだろうか。
【C-4/川辺/二日目/朝】
【小早川ゆたか@らき☆すた】
[状態]:発熱(中)、疲労(大)、心労(中)、罪悪感、螺旋力覚醒
[装備]:フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:なし
[思考]
基本-みんなで帰る
0:目の前の女の子を助ける
1:Dボゥイのところへ戻る
2:かがみをラッドから助け出す
3:舞衣がDボゥイを好きなのかどうか気になる
[備考]
※自分が螺旋力に覚醒したのではないかと疑っています。
※再び螺旋力が表に出てきました。
※ねねねと清麿が生きていることに気がつきました。明智の死を乗り越えました。
※Dボゥイの肉体崩壊の可能性に気がつきました。
※舞衣との会話を通じて、少し罪悪感が晴れました。
※シータがスパイクの話していた『ロボット兵に乗った少女』とは気づいていません。
【シータ@天空の城ラピュタ】
[状態]:疲労(大)、倫理観及び道徳観念の崩壊(判断力は失われていません)、右肩に痺れ(動かす分には問題無し)、全身に火傷による負傷(体は軽度)
顔の左半面が火傷で爛れています(右側にも火傷が及び、もはや面影なし)、おさげ喪失
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:自分の外見を利用して、邪魔者は手段を念入りに選んだ上で始末する。優勝して自分の大切な人たちを、自分の価値観に合わせて生き返らせる?
0:何を差し置いてもニアの殺害。
1:目の前の少女(ゆたか)に助けてもらい、油断したところをロボット兵で殺す。使えそうなら盾になってもらう。
2:ニアにたぶらかされたドモンの殺害。
3:気に入った人間はとりあえず生かす。ゲームの最後に殺した上で、生き返らせる。
4:使えそうな人間は抱きこむ。その際には口でも体でも何でも用いて篭絡する。
[備考]
※マオがつかさを埋葬したものだと、多少疑いつつも信じています。
※マオをラピュタの王族かもしれないと思っています。
※バリアジャケットは現状解除されています。防御力皆無のバリアジャケットなら令呪が無くても展開できるかもしれません。
※バリアジャケットのモデルはカリオスト○の城のク○リスの白いドレスです。
夜間迷彩モードを作成しました。モデルは魔○の宅○便のキ○の服です。
※言峰から言伝でストラーダの性能の説明を受けています。
ストラーダ使用による体への負担は少しはあるようですが、今のところは大丈夫のようです。
※エドがパソコンで何をやっていたのかは正確には把握してません。
※かがみを一度殺してしまった事実を、スパイクとウルフウッドが知っていると誤解しています。
※会場のループを認識しました。
※シータがごみ屋敷から北上中に静留と舞衣の姿を確認したかどうかはわかりません。
※ヴァルセーレの剣には奈緒のエレメントの力、アルベルトの衝撃の力、
ヴァッシュのAA(もしくはプラントとしての)エネルギーが蓄えられています。
※ヴァッシュ・ザ・スタンピードの銃(残弾0/6)@トライガンはヴァッシュの遺体(A-3とA-4の境目)の側に放置されています。
※シルバーケープが使い物にならなくなったかどうかは不明です。
※ロボット兵の頭にはカリバーン@Fate/stay nightが突き刺さっています
※ヴァルセーレの剣から本編までに溜め込まれた『魔物』の力が失われました。
奈緒のエレメント、アルベルトの衝撃、ヴァッシュのAAの力は健在です。ただし、通常の呪文では解放することができないようです。
※ニアという存在に対する激しい憎悪が刻まれました。自分にないものも持っていたものも全て持っている存在で、許し難いという認識です。
※ニアを憎悪するあまり、聞こえるはずのないニアの声が聞こえます(全てシータを嘲る内容)
※ロボット兵はドモンの一撃によって半壊、胴体に穴が開いています。レーザー機能に支障をきたしています(故障か、チャージに時間がかかるのかは未定)
※デイパックを投げ捨てたため、下記の支給品はB-5の卸売り場に放置されています。
支給品一式 ×6(食糧:食パン六枚切り三斤、ミネラルウォーター500ml2本)
びしょ濡れのかがみの制服、暗視スコープ
音楽CD(自殺交響曲「楽園」@R.O.Dシリーズ)、巨大ハサミを分解した片方の刃@王ドロボウJING、ミロク@舞-HiME
ワルサーP99(残弾4/16)@カウボーイビバップ、軍用ナイフ@現実、包丁@現実
※ラピュタのロボット兵@天空の城ラピュタ、ヴァルセーレの剣@金色のガッシュベル!!、ヴァッシュの生首はC-4のエリアのどこかに置かれています。
機体状況:中破(レーザー機能に不備発生)、多少の汚れ、※ヴァッシュとのコンタクトで影響があるのかは不明
*
―――この子、どうやってこんな火傷を負ったのかしら?
舞衣は少女の服を脱がせながらも、そう考える。
他人を意図的に燃やそうとしてここまでできるだろうか。
案外、火をつけるというのは難しい。自分が放火を行っていたからこそ分かるのだが、一つのものを狙っての点火、ことに動くものにはそう簡単にできるものではない。
少女からはガソリン類の匂いもしないことだし。
……まるで、自ら炎を被りにいったかのような惨状なのだ。
それに、少女は『ニア』という名前を出した。
彼女の言葉を信じるなら、そのニアは実は殺し合いに乗っているということだ。
しかし、何か引っかかる。
自分が守れなかった少年―――シモン。彼はそのニアの知り合いだった。
彼は力こそなかったし、常識もなかったけれど―――それでも、まっすぐで強い少年だった。
シモンが顔色を変えて探そうとしていた少女・ニア。そんな人物が……殺し合いに乗ったりするだろうか?
元々シモンすらも騙し本性を隠していた、そう考えることはできる。だが、舞衣はそう考えたくなかった。
ただの感情論、同情と言われればそれまで。何の根拠もない。それでも、舞衣は会ったこともないニアを疑うことがどうしてもできなかった。
そして、思いだす。
スパイクが言っていた。ロボットに乗った、小さな少女。『無害な一般人を装って』、彼の腕を切り落とし、一人を殺めた殺人者。
小さな、女の子―――
―――まさか、ね?
【鴇羽舞衣@舞-HiME】
[状態]:背中にダメージ、全身に擦り傷、顔面各所に引っ掻き傷、シーツを体に巻きつけただけの服、引っ張られた頬、首輪なし、全身に軽い切り傷
[装備]:薄手のシーツ、 ゲイボルク@Fate/stay night
[道具]:なし
[思考]:皆でここから脱出
0:目の前の少女の保護(しかし、少しひっかかる)
1:Dボゥイに会いたい。
2:ゆたかがDボゥイを好きなのかどうか気になる
[備考]
※HiMEの能力の一切を失いました。現状ただの女の子です。
※静留がHiMEだったと知っています。
※チェスを殺したものと思っています。
※ギアスの効果は切れた模様です。
※螺旋力覚醒
※ジン、スパイク、ゆたかと情報交換を行いました
※目の前の少女(シータ)がスパイクの言っていた人物かもしれない、と少しだけ疑っています。
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2023-07-25T23:40:41+09:00
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