破壊者二人と仮装泥棒  ◆ARkjy9enog



見渡せば、そこには広大な水面が一面に広がっていた。
さらにその向こうには何の意図があってそのようなデザインで建てられたのかよくわからない、球状の屋根をした建物も確認できる。
一体、あの妙な形状にすることで何の利便性があるというのだろう。
額に痛々しい十字傷の痕を負った……その特徴から軍部により<傷の男>、すなわちスカーと呼ばれる男はそう思わざるを得なかった。
今は長袖のコートを着ているため判断しにくいが並大抵の相手四、五人ほどならばその身一つで一瞬にして沈黙させてしまうだろうことを想起させるほどにひきしまった身体。
褐色の肌に、目には彼の民族独特の遺伝による赤い瞳を隠すためのサングラス。
そんな彼が夜中の、コンクリートで舗装された海沿いの道に立っているというこの光景はどことなく昔のハードボイルド系の映画を連想させる。
もっとも、今彼が考えていることはハードボイルドとは程遠いのだが。

(そもそもあのように綺麗に描かれた曲線を作ることなど、現在の技術で可能なのか?)

いくら世界が広いとはいえ、もっとも技術の進んでいると言われているアメストリスの中央でさえあのような形の建物は見たことが無い。
……いや、そんな建物のことはどうでもいい。
頭を何度もよぎるその手の疑問を取り払うため、スカーは一度大きくかぶりを振った。
たとえどんなわけのわからない構造をしていようと、とにかく今目の前にある以上はそれを作る技術が存在して、かつ設計者の趣味が悪いのだろうという一言でとりあえずは自分の中では解決できるからだ。

だが……そんな簡単な言葉では解決できないのが、その建物の手前、自分の眼前に広がるこの巨大な湖だ。
一応元いた国でも湖という概念そのものは存在したし、地下を通る水脈があるということも知っている。
なにせマンホールから入って何度も利用させてもらった通路だ。あの臭気と暗闇は今でも覚えている。
だが、ここまで大きな湖というのはまったくもって見たことも聞いたこともない。

(……いや、待て。これはもしかすると、『海』というものではないか?)

ふと思い出す。
そういえばかつて故郷イシュヴァールがまだ比較的平和だった幼少時、兄が話してくれた記憶がある。
イシュヴァールはほとんど草木の生えぬ砂漠の地。
法も中央などと比べればとても整備されているとは言い難く、歴史的に昔から内部での小競り合いが絶えたことはない……数年前の、あの忌まわしき事件が起きるまでは。
そのため生き残るためには各々が武装していくしかなく、年月と共にその慣習が積み重なっていった結果、自分を含めたイシュヴァールの武僧は強者揃いとして大陸中にその名を馳せた。
そんな中、武僧にもならずずっと部屋に引きこもって錬金術を研究していた男が自分の兄だった。
あまり鍛えないために他の男どもよりもかなりひ弱で、そんな兄のことを密かに腰抜けと馬鹿にする者もいたが、その代わりに彼は誰よりも博識な人だった。
ある日そんな兄が子供だった自分に、『海』という、ここから遠く遠く離れた場所に巨大な湖のようなものがあると教えてくれたのだ。
その大きさは今お前がなんとなく想像しているそれよりもはるかに桁違いで、全ての生き物はそこから生まれてきたのだと兄は語った。
ついでに、もしもいつか世界を巡る時が来るならば一度見たほうがいい、とも。
……かといって、兄自身がその海を実際に見たことがあるかといえばそれはないのだろうが。

ともあれ、これがその海というものであるならば、今は亡き兄の言葉を一つ果たせたことになる。
あの時はいくら海というものの壮大さを克明に語られたところで、現物を見る機会がすぐ側にないためろくに想像すらしなかったのだが、たしかにこれは大きい。
果たしてこの海がどこまで広がっているのか、皆目見当もつかないほどに。
状況がもう少しまともであればしばしその感動の余韻に浸っていたかもしれない。

……だが、今はそうもいかない。
ここでようやくスカーは海から目を離し、地図上でいうところの中央へ向かうために足を踏み出す。
何にせよ、ここは殺し合いの場なのだ。今までとはわけが違う。
元々追われる身であった以上、さして状況はここに来たところで変わっていないと、端から見ればそう言う輩もいるかもしれない。
たしかに人を殺すという行為そのものは変わらないが、その対象が少し変わってくる。
ここに来るまでに殺していたのは、あくまで国家錬金術師とあとは自分の邪魔をしてくる者だけなのだ。
邪魔さえしなければ……路地裏で休んでいるところに紛れ込んできたキメラという例外はあるものの……無関係の者にまで手を出すことはなかった
つまり人を殺すか殺さないか……傲慢な言い方であることは自覚しているが、まだ生殺与奪の余地が残されていたと言っていい。
しかしながら、この現状ではそうもいきそうにないということをスカーは十分に理解していた。
今のところこの場から脱出する方法は、殺すにしろそうでないにしろあの螺旋王と名乗る男と再び対峙することしかないのだ。
何でも願いを叶えてやるなどと言っていたが、それを頭から信用するほどお人よしではない。
まあ、たとえ仮にそれが本当だとしても、自分の願い……全ての国家錬金術師の殲滅という悲願にロージェノムの力を借りるつもりなどはさらさらない。
あくまでも自身の力によってのみ、それを成し遂げてみせる。そうでなければ意味がない。そうでなければ、イシュヴァールの民の怨念は、自分の怒りは、決して晴らせない。
ゴキリ、と音をたてて拳を握り締める。
そのためにはまずこの場から脱出して元いた国、アメストリスへ戻らなければならない。
だからこそ、ここで自分の取るべき行動とは、同じくこの場に紛れ込んできているらしい鋼の錬金術師と焔の錬金術師の他、全ての参加者の皆殺しだ。
生殺与奪などという甘いものではない。生を奪い殺を与えることはあれど、生を与えることは決してないのだから。
誰であろうと見つければその場で殺す。それだけだ。実に簡単な話ではないか。

「そう……」

呟くとスカーはおもむろにその場にしゃがみこみ、舗装されたコンクリートの上に右手を置いた。
熱の失った、ひんやりとした冷たさが伝わってくる。
……が、それも一瞬のこと。

「簡単な話だ……ッ」

電撃のようなものが飛び散ったかと思うと、次の瞬間にはきれいに舗装されていたはずの地面が隆起し、弾け、まるでドミノが倒れていくかのごとく歪な曲線を成してスカーの右手前方にある小さな建物……倉庫か何かだろうか……に向かっていき、容赦なく破壊した。
ガラガラと音をたてて崩れ落ちてゆく建物。中に誰かが入っていたのならまず間違いなく瓦礫に潰されて一巻の終わりのはずだ。

「そこに潜んでいても無駄だ。貴様はその殺気を隠しきれていない」

完全に崩壊していて、土煙がもうもうと立ち込めている。それにより、人影は見えなかった。
ただそれが見えなくても普通に考えれば誰でも、潜んでいた者は崩落に巻き込まれて潰されたのだと判断するだろう。
だが、スカーは今の一撃で標的を仕留めきれたとは微塵も思っていなかった。
なにしろ……先ほどよりも殺気が強まったのだ。それと同時に、問答無用の威圧感すら感じられるようになる。
怯むわけではないが、先ほど建物の中でこちらの隙を窺っていた人間は只者ではないということがこの時点でわかった。
というよりは無理矢理にでもわからされたというほうが正しいか。

「なに……潜んでいたというわけではないさ」

予想通り……とはいえあまりにもあからさまなため予想とすら言えないが……土煙が晴れない内に、その中から男の声がした。
向こうからすれば予測できない突然の攻撃だったはずだが、その声に驚嘆や怯えの色というものは一切見受けられなかった。
まるで長年の友人に話しかけているような……それでいて独り言を呟いているかのような、そんな二律背反した印象を受ける口調だった。

「ただ、あの場所から飛ばされてきたのがここだったのでな……貴様がもう少し近くに来るまで待っていただけだ」

そして土煙から、ようやくその姿を現す。
その男の印象を一言で表すならば、黒。
言葉というものはやれ漆黒だの永遠の闇の色だの一つのものを表現するのに多くの言い回しがあるが、それでも真に黒を見た場合、それを表現するのに適した言葉といえばこの端的な一言がもっとも最適であるとスカーは瞬間的に思った。
黒のコートを着込み、刃のような鋭い眼光を有し、殺気……そう呼ぶにはあまりにも禍々しいオーラを放ちながら男は一歩ずつ、ゆっくりとこちらに近づいてきた。
そのコートのせいで暗闇に紛れて姿を判別できにくいかといえば案外そうではない。まるで闇の中それだけが光り輝いて浮いているかのような、きれいな銀髪をしている。
そのギャップがとても不釣合いで、そのくせとても似合っていた……薄ら寒さを覚えるまでに。
その男の名は、ヴィシャス。

スカーは、男の姿を確認すると同時に理解した。
先ほど殺気を『隠しきれていない』と言ったが、それはとんだ間違いだ。
この男は、最初からそんなものを隠そうとなどしていない。
ただただ身から凄まじいまでのそれを放出し続けている……それも意識してではなく、無自覚に。
一見してすぐに、他人と友好関係を結ぼうなど全く考えていない、生粋の『破壊する側』だとわかる……自分と同様に。

「名乗りはいるか?」

ヴィシャスは刀を居合いの型に構えながら、スカーにそう問いかけてきた。
根拠はないが、相手の返答をあらかじめ知った上で聞いているかのような。スカーはそんな気がしてならなかった。

「いらん。己れは既に名を捨てた……それに、これから死に逝く者に名乗ったところで意味はない」
「同感だよ、傷の男」

相手の男は笑ったようだった。といっても、顔に笑みという名の表情を貼り付けただけという印象だが。
直後、一迅の風がスカーを通り抜ける。

「!?」
「さすがにこのくらいでは終わらんか」

手応えがあまりなかったことを確認し、ヴィシャスはスカーに向き直った。
風と思ったのはヴィシャスの尋常ではない速さの移動による風圧で。そしてその刀には血がついていて。

「ぐぅ……ッ」

そこでようやく、スカーは奴に己の左の脇腹が斬られたのだということに気づいた。
反射的に身体をひねったことで大した傷には至らなかったが、それにしたって狙ってひねったわけではない。
これまでの彼の戦いの経験が、無意識の内に脳神経に危険を告げていたからこそできた芸当だ。
左手で脇腹を押さえるが、浅いとはいえ血が止まらない。
侮った。
苦々しいことだが、スカーはそう思わざるを得なかった。
どれだけの殺気を持とうが所詮は錬金術も使えない、銃すら持っていないただの人間だと思っていた。
多少体術が使えたところで、イシュヴァールの武僧であった己に適うはずがないと思っていた。
なるほど球状の屋根の建物といい、どうやらこの世界は思っているよりもはるかに広いらしい。
男が再度刀を構え、告げてくる。

「だが、次で仕留める」

恐らく、この男に対して距離を置くということはさして意味のないことだ。
スカーは脇腹を押さえながらそう冷静に分析する。
ある程度の距離ならば一瞬で詰めてくるほどの身体能力をこの男は有している。
だが、逆にいえば刀を使った戦闘スタイルであるが故に接近戦しかできないと見える。
ならば……こちらに止めを刺そうと近づいてきたところを迎え討つ!

「来い」

自分の成すべきことをはっきりと見定め、骨を鳴らしてスカーもまた右手を構える。
一触即発の状況……何が引き金となって爆発するかわからないくらいに、不安定な空間。
夜風が舞い、波が揺れる。ザザァ……と規則正しい周期で波の音がする。
心なしか、その中で異音が紛れ込んだような気がしたがそちらに神経を傾けている余裕はない。
今はただ、互いに相手の隙を窺い続けるしかない。

ヴィシャスの肩と、スカーの右手の指が微かに動いたのはほぼ同時だった。
常人ならばとても気づかないそんな軽い動作。だが両者共にそれに反応した。
全身の筋肉が、躍動する――!


「いやあまいった! 変なとこから飛ばされてきたと思ったらいきなり海の上なんだもんなあ! あやうく溺れちまうところだったよ」


「「…………………………………………………………………………………………………………」」

突如、この張り詰めた空気の中で弛緩しまくった大声が鳴り響いた。
その声に思わず互いに動きを止めてしまう。
反応する速度も一緒、動きを止める速度も一緒、そしてこの場に現れた闖入者に顔を向ける速度もまた、スカーとヴィシャスは一緒だった。
そこには……パンツ一丁で全身ずぶ濡れになったどちらかというとやせ気味の、先ほど溺れかけたと言った割にはかなり気楽そうにからからと笑っている金髪の男がいた。
なんといおうか……自分で言うのもなんだがチンピラ同士のいさかいの最中に、空気も読めず乱入してくる酔っ払いのオヤジをスカーは連想した。
空気の読めなさは恐らくその酔っ払いと同等かそれ以上だと思われるこの男は、ペタペタと裸足でこちらに向かってきながらなおも笑って続ける。

「あ、でも聞いて驚けよ? なんと俺は海に落ちてから百メートルくらいは着衣したままクロールで泳ぎ続けたんだ!
 まあそのあとはやっぱ服脱いで犬掻きで頑張ったんだけどな。
 多分犬掻き選手権でもやったら上位に食い込むくらい今回のことで泳ぎが上達したと思うぜ!
 金メダル……は本家の犬に譲るとしてもそれ以外の生き物には絶対に負ける気がしないね! 余裕の銀メダルさ!
 それにしても犬ってすごいな! あんな疲れる泳ぎしかできないのに不平不満の一言も言わないんだからさ!
 なああんたらもそう思わないかい?」

「…………」

最初に動いたのは、ヴィシャスのほうだった。
素人相手だからか刀をろくに構えもせず、抜き身のままぶら下げた状態でゆっくりと乱入者に近寄っていく。
殺気は相変わらず放出させているはずだが、このパンツ一丁の男はまったくそれに気づいていない様子である。
というかさらに馴れ馴れしくなった。近づいてきたのが理解の印だと思ったのか無遠慮に彼の肩を叩いている。

「ん? あんたもやっぱりそう思うの? なーに大丈夫さ、今度犬と競う時までにはこのアイザック・ディアン様がラッコ泳法をマスターして」
「少し黙れ」

ずぶり、という生の肉に刃物を突き立てる生々しい音がした……いや実際にはスカーの位置からはそれは聞こえてこなかったのだが、そのように感じるほど容赦なく黒い男の突き立てた刀が、このアイザックとかいうらしい男の腹部に突き刺さった。
アイザックはなす術なく、口から血を吐いてヴィシャスが刀を引き抜くと同時にその場に崩れ落ちる。
そしてさっきまでの軽口が嘘のように静かになり、やがてあまり動かなくなった。
ゴホッ、と咳き込んでいるあたりまだ辛うじて生きているようだがそれも時間の問題だろう。

「邪魔が入った。さあ、続きだ」

刀についたアイザックの血を拭うと、ヴィシャスはもう彼の方には見向きもせずにスカーと対峙する。
スカーもまた、もはやアイザックに対する興味は失せ、これから瞬歩で間合いを詰めてくるであろうヴィシャスに備えようとする。
……その時、彼は異変に気づいた。

(……なに?)

血が。
つい数秒前にコンクリートについたアイザックの血が。
まるでそれ自身が意思を持っているかのごとく動き始めたのだ。まるで毛虫が這いずるかのごとく。
そしてそれは、アイザックの体内へと舞い戻ってゆく。
青白い顔をしていたアイザックの顔に血色が戻っていったのが見てとれた。
その光景を見ていたスカーは、驚愕と共に一つの可能性に行き着いた。

(この男……ホムンクルスか!)
「どこを見ている」

ヴィシャスの角度からはアイザックの様子が見えなかったのだろう。
急に隙を表したスカーに対し妙な印象を受けつつも、決してそれを見逃すような男ではない。
一秒掛かるか掛からないかの内に、スカーの懐に潜り込んでいた。

(しまっ……)

ヴィシャスの刀が、今度こそスカーの身体を真っ二つにせんと切り上げてくる。
コートが破れ、シャツが破れ、皮膚から食い込み、筋肉が切れ、骨まで到達する……!

「ぐ、おおおおお!」

瞬間、スカーはヴィシャスに向けていたはずの右手を彼本人ではなく、刀に向けた。
指が千切れそうになることも覚悟の上で強くそれを握り締めると、錬金術を発動させる!
兄の遺したこの右腕の刺青が光り、なおもスカーの命を刈り取ろうとする刀を分子レベルで解体してゆく。
その速度は一瞬。解体してゆくといっても、その過程を見ることはできない。
切り上げられようとしていた刀はあっという間に、なんとかスカーの致命傷に至る直前で雲散霧消していった。

「なん……だと?」

場違いではあるがここでようやく、相手の男の驚いた顔を見られたのは爽快ではあった。
得物を失くし、何が起こったのか理解できず動きの止まった男を、思い切り左足で蹴り上げる。
相手は突発的に後ろに跳ぶことで衝撃を幾分か和らげてはいたものの、たしかに手応えはあった。
ゴロゴロとコンクリート上を転がり、すぐに起き上がる。顔には出していないが、ダメージはあるはずだ。

「逃がさん!」

この機を逃さず追い討ちをかけようと、傷ついた身体を無視して右手を地面につけ、再び隆起、粉砕の繰り返しの破壊の行進をヴィシャスに浴びせる。
それに対し、彼は……避けようとせず、むしろ自分に向かってくるその破壊に向かって全速力で駆けた。
これにはスカーも面食らう。一体何をするつもりだ。

「ふっ!」

掛け声と共に、ヴィシャスは跳躍する。
それは常人の跳躍力をはるかに超えていたが、それによって破壊をも飛び越えてスカーのほぼ眼前まで着地した。

(…………っ!)

もう少し手を伸ばせば届きそうな距離だが、身体が激しい動きを拒否してくる。
それにたとえ伸ばせたところで、すぐに逃げられて終わりだろう。そのため何も行えなかった。
スカーとヴィシャス。互いに攻撃、防御の動作を行わず、ただ相手の目を睨み合うだけの対峙。
やがて、ヴィシャスの方からその口を開いた。

「なるほど……最初に俺のいる建物を破壊したのは、それか。くだらん手品を使う」
「くだらないかどうかは、先ほど試してやったはずだがな」
「ああ、おかげで丸腰だ。劣勢の戦というのも嫌いではないが……あまりにも分が悪すぎる」

存外素直に認めたヴィシャスを少々意外に思いながらも、スカーは一歩前に踏み出して言った。

「逃げる気か? 己れが貴様を逃がすとでも思うか」
「無理はするな傷の男よ。今にも倒れそうなのだろう」
「黙れ……」
「安心しろ。ここにいる参加者を殺し続けていれば……いずれまた会える」

その言葉を最後に、ヴィシャスはゆったりとした歩みでスカーを通り過ぎるとそのまま真っ直ぐに歩き去ってしまった。
追いかけたかったが、もはや体力の限界に近い。
死にはしないだろうが、ひとまず休まなければとても参加者を皆殺しなどできそうもない。

(だが、その前に……)

残った体力を振り絞って、スカーはアイザックを……国家錬金術師と同じく自分の敵、ホムンクルスを討たんと彼を探してあたりを見回した。
……が、どこにもいない。

(逃げたか……)

舌打ちをして、その場に座り込む。
この程度の傷ならば、しばらく休んでいればどうにか動けるくらいまでには回復できるはずだ。

「鋼の錬金術師……焔の錬金術師……他の参加者……黒の男……そして、ホムンクルス……!」

殺さなければならない相手を次々と口に出し、その度に心中に怒りが溜め込まれていく。
だがいずれ来るであろう激戦に備え、今はその爆発しそうな怒りを膨れ上がらすだけに留めなければならない。
なにせ、世界は広いのだから。あの男以上の者がいないとも限らない。今は、回復に努めるべきだ。
もどかしい心持ちで、傷の男……復讐者は朝を待つ。


【B-1/海岸沿い/1日目-黎明】

【スカー(傷の男)@鋼の錬金術師】
 [状態]:左脇腹と右脇腹、右手の親指を除いた四本それぞれ損傷中。多大な疲労。
 [装備]:なし
 [道具]:支給品一式(ランダムアイテム不明)
 [思考]
  基本:参加者全員の皆殺し、元の世界に戻って国家錬金術師の殲滅
  1:皆殺し
  2:回復したら中央へ向かう


「予想以上にやる……なかなか楽しめそうなところだなここは」

スカーの元から去り、道路を歩いている黒い男がいた。
その口元には微かな笑み。表情を貼り付けただけとは違う、たしかな笑み。
……その方向性は歪んでいるが。

何にしても今は丸腰だ。確実な武器が見つかるまでは不用意な戦いは避けた方がいいのかもしれない。
それを考えると、実にあの男に刀を破壊されたのは痛かった。
使いにくい刀ではあったがまさに自分に最適な武器だったといえる。

(まあ、高い授業料だと思えばいい)

螺旋王とかいう奴の他にもあの傷の男のように、素手にも関わらず何やら怪しげな術で闘うような輩がここには存在するということがわかった。
あの男も相当な強さだったが、あれ以上の者も存在するかもしれない。
それを考えると思わず武者震いがしてしまう。
なに、武器ならいくらでも調達できるはずだ。
この殺し合いという場において、武器がなければそれは成立しないのだから。

ヴィシャスの目的……それはまさしくスカーと同じ、ここからの脱出だった。
彼の願いとは自分の所属しているチャイニーズマフィアの組織、レッドドラゴンの頂点。
螺旋王の力を借りる間でもない。己本人の力で成し遂げてみせる。
だからこそ、彼はこのようなところで足踏みしている暇はない……のだが、彼自身がかなり好戦的、かつ残虐な性格なため、どうせなら最大限にこの殺し合いという空間を楽しみたいという誘惑が彼の中に存在していた。
そして何よりも、ここにはあのスパイクが来ているらしい。
元親友で、今は憎しみ合う仲という最高の好敵手が。

「いい機会だ……この場で決着をつけようじゃないか、スパイク」

そうこの世界のどこかにいるであろう男に呟くと、ヴィシャスはもう一度、嘘偽りのない微笑みを浮かべた。

【B-1/道路/1日目-黎明】

【ヴィシャス@カウボーイビバップ】
 [状態]:少し蹴られた時のダメージ有
 [装備]:なし
 [道具]:支給品一式
 [思考]
  基本:参加者全員の皆殺し、元の世界に戻ってレッドドラゴンの頂点を目指す。
  1:皆殺し
  2:武器の補充
  3:スパイクと決着をつける
  4:強そうな相手とは勝負を楽しみたい
 ※物干し竿@Fate/stay nightは破壊されました


「こここここここ怖かったあ……! ちっくしょーあいつら絶対にマフィアかなんかだよな。
 カモッラはフィーロとかエニスとか良い奴ばっかりだから、きっとマフィアに違いない!
 くっそー今度会ったら……会ったら……思いっきりぶってやるからな!」

アイザック・ディアン……本人は気づいていないが不死者と呼ばれる男は相も変わらずパンツ一丁のまま道路に沿って走り続けていた。
ミリアと共にそれなりに『仮装泥棒』として名を轟かせただけあって、逃げ足の速さだけは大したものである。
刺されたはずの腹は既に傷跡すら残ってなく、きれいなものだった。
不死者とはその名のごとく何をしても死なない人間のことを指す。何をしても……窒息させても、毒をもっても、八つ裂きにしても、感電させても。
不死者を殺すには、同じ不死者が右手を相手の頭の上に乗せ、『食いたい』と念じることでその中に吸収されることによってのみ可能である。
……ただ、この状況下ではどこまで不死の恩恵が与えられるかは怪しいものなのだが……
ともあれ、そういった点ではたしかにスカーの知るホムンクルスと似たような性質を持っているが、断じてそれらとは関係のないただの馬鹿。
それがアイザックだった。

「それにしても、あの俺を刺したように見せた人、すごい手品師だなあ。まさか痛みまでリアルに再現してくるなんて。マフィアなんかよりそっちを本業にしたほうが儲かりそうなのになあ」

本来ならば有り得ない結論なのだが、それを大真面目に下してしまうのがアイザックのアイザックたるゆえんである。
一度殺されかけたにも関わらず何の疑問も持っていない。

「にしても、このバッグの中に入ってたこれ、何なんだろ。ダイヤモンドかな?」

と、アイザックは走りながらも事前に自分に支給された品……赤く光っている石を右手に持ってぼんやりと眺めた。
妙にきらきらしていて、おそらく宝石の類だろうと判断するがそれにしたってこんな形状のは見たことがない。きっと新種の宝石なのだろう。
強くそれを握り締めると、アイザックは走っていた足の速度を速め、元気いっぱいに叫んだ。

「よっし! これはミリアにプレゼントしてやろうっと!」


【A-2/道路/1日目-黎明】

【アイザック・ディアン@BACCANO バッカーノ!】
 [状態]:いたって健康。走行中。
 [装備]:パンツ一丁
 [道具]:支給品一式(あと1つか2つランダムアイテム有り)
     ずぶ濡れのカウボーイ風の服とハット(本来アイザックが着ていたもの)
     賢者の石@鋼の錬金術師
 [思考]
  基本:ミリアと合流
  1:ミリアにこの宝石をプレゼントする。
  2:さっきの怖いマフィアたちから逃げる。
 ※アイザックの参戦時期は1931年のフライング・プッシーフット号事件直後です。


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スカー(傷の男)
ヴィシャス
アイザック・ディアン





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