それが我の名だ~actress again ◆DzDv5OMx7c



*    *



そこは球体の内側だった。
唯一の足場は宙に浮く円柱。
そしてその壁一面には世界地図が姿が映し出されている。
まるで地球儀の内側のようなそこの名は、BF団本拠地・作戦室。
その中央で壮年の男――十傑集の長、混成魔王樊瑞は思考にふける。

「……」

『地球静止作戦』と呼ばれたBF団史上最大の作戦。
だが、ある男は敵味方共に甚大な被害を出したそれすらも大いなる『GR計画』の前座であったと言い放った。
その男の名はBF団軍師、諸葛亮孔明。
彼らの主であるビッグファイアから全権を任されたという、胡散臭さを塗り固めたような男。

だがしかし、数日前、孔明は姿を消した。
後にも先にも、一切の前触れも音沙汰もなく。
更には時を同じくして、その側近『コ・エンシャク』、
及び十傑集の『マスク・ザ・レッド』と『直系の怒鬼』も突如として行方をくらませたのだ。

この異常事態にBF団は混乱し、GR計画準備の中断を余儀なくされた。
彼らにとって幸運だったのは敵対する国際警察機構でも同様の事態が発生していたということ。
静かなる中条、そして草間大作とジャイアントロボ、
その他、九大天王を含む複数名のエージェントの失踪が確認されている。

だがそれすらも樊瑞にとっては、不安をあおる要因にしかならない。
まるで神の見えざる手によって、突如世界を書き換えられてしまったのかのような違和感……
普段なら馬鹿げていると一笑に付すその考えが、ここ数日の間、樊瑞の頭から片時も離れないのだ。

「――何を考えておる、樊瑞よ」

半透明の足場に現れたのは老人と言っても差し支えない年齢の男。
だが矍鑠とした動作、全身から漲るその英気はただの老人ではないことを物語っている。
男の名は激動たるカワラザキ――BF団創生期からいる最古の十傑集にして、樊瑞らが最も信頼する男だ。

「……あの男がこちらの考えを姿を消すのは今に始まったことではなかろう。
 であれば、今は来るべき日に向けて"アレ"を奪い返すことに全力を尽くすべきではないか?」

確かに。、神ならぬ身にすべてを見通すことは出来ない。
人に出来ることは今、最善を尽くすことだけなのだから。

「……そうだな、まずは"アレ"を取り返さねばならんか。
 すべては、ビッグファイアのために……!」

見上げた視線の先、モニタに映し出されるのは、黒いアタッシュケースを抱えた赤い髪の少女だった。


*     *



あたしは走っていた。そりゃあもう全速前進ってな具合に。
バサバサ自慢の赤色の髪が乱れるし、服には汗が滲むし。
ニーソックスが少しずり下がって来たような気もするけど気にしない。
あたしを突き動かすのはとある本能的な衝動。
生命の危機という、単純極まりない"それ"だった。

「フハハハハハハ! どこへ行こうと言うのかね?」

その声は遥か頭上から。
ごちゃごちゃした町を見下ろす様に走る線路の上。
いい年こいて黒いタイツを被ったオッサンが、列車の上からこっちを見下ろしている。

「――ったく、いい加減しつこいっての……!」

その視線を遮る様にビルの隙間に身を滑り込ませれば、
今度はオートジャイロに乗った全身黒タイツの連中が追いかけてくる。

黒タイツの連中の名はBF団。
冗談抜きで世界征服を狙っている連中だ。
そしてあたしは運び屋なんかをして日銭を稼いでいるしがない女の子。
さて、そんなあたしが何故追われているのかと言うと、

「さぁ、大人しくアタッシュケースを渡してもらおうか!」

なんか怪我だらけの坊主のオッサンから受け取った黒いアタッシュケース。
これを国際警察機構のところまで届けるのが今回のお仕事ってワケだ。
この仕事……危険度が高いのはわかっていたが、“とある理由”があって、二つ返事でOKした。

「誰が渡すか、バーカ!」

毒舌を返しながら、目指すは線路から大きく外れたところにあるマンホール。
下調べ済みのあそこに入ればエージェントとの合流場所まで一直線。
そう、ここさえ切り抜けられれば――!!

「フン……まさかBF団から逃げられるとでも思ったのかね?」

男の声にいやな物を感じたあたしは首だけで振り返り、
そして振り返ったことを後悔した。

「――起動せよ、維新竜・暁!!」

その声を切欠に、大音量を響かせながら列車が変形する。
腕が伸び、首をもたげたそれはまるでゲームに出てくるドラゴンみたいだ。
鉄の塊が軋む音がまるで叫び声の如く、夜空に響き渡る。

あたしは前だけを見て、その場を全力で逃げ出そうとする。
けれど列車ロボットは重そうな見かけとは裏腹に、機敏な動きであたしの前に立ち塞がる。
ヤバイ、と思ったときにはもう遅く、伸びてきたアームにあたしの身体は捕らえられた。
そしてそのまま空高く――ビルと同じ高さぐらいまで吊り上げられる。

「散々手間をかけさせてくれたな小娘」

ロボットの肩に乗る男は苛立ちを隠そうともせず、あたしを睨み付ける。
が、余裕の表れか、マスク越しでもわかるような笑みをその顔に浮かべた。

「だが……我らとて鬼ではない。
 貴様が持ち逃げした"GR3"のコントローラーさえ渡してもらえば、
 お前は見逃してやってもかまわんぞ?」

普通に考えれば十分魅力的な提案だ。
100%嘘だろうけど、隙ぐらいは作れるかもしれない。
元々雇われの身であるあたしには国際警察機構に協力する義理なんてこれっぽっちもありはしない。
何だろうと指一本動かせないこの状態よりはマシなはずだ。
だけど、

「誰が……誰があんた達なんかに!」

だけど、それだけはありえない。
脳裏に浮かぶのは包帯にグルグル巻きにされたママの姿。
BF団のテロで大怪我を負ったあたしの大切な人。
ママの手術台と入院費用、それに『そいつらの鼻を明かせるなら――』という気持ち。
それが今回の仕事を請けた大きな理由。
だから、BF団だけには屈するわけにはいかなかった。
そしてその答えは目の前の男の最も望む物であったらしい。

「そうか……では仕方がない。予定通り、力づくで行かせてもらうとしよう!
 すべては我らが偉大なるビッグファイア様のために!!」

少しずつ締め付ける力が強くなる。
徐々にに迫り来る死の恐怖に押しつぶされそうになる。
だけど、視界の隅に映るのはマスク越しでも分かる酷薄な笑み。
こいつらに弱みだけは見せたくないという一欠けらの意地だけで、相手をにらみ付ける。
だけど圧力は次第に増して行き、体中の骨と言う骨が限界を超えるその瞬間、
突如として機械の指が緩み、あたしの身体は空中に放り出される。
でも何てことはない。死に方がちょっと変わっただけ。
酸素不足で朦朧とした意識もそれだけは理解できた。

「いづっ!?」

だけど次の瞬間、全身に走った痛みに無理やり意識が覚醒させられる。
偶然ビルの上とかに落ちたのだろうか……と思いながら周囲を見渡して、
それがまるっきり見当違いだということをあたしはようやく理解した。

光り輝く絨毯みたいな何かが空中に浮いており、あたしはそこに不時着したのだ。
同じく光の絨毯の上に転がるのはさっきまであたしを掴んでいたロボットの腕。
人間で言う肘の辺りがすっぱりと切断され、まるで鏡みたいに綺麗な断面を晒している。
驚きの表情のまま固まる黒タイツたち。
これらが意味するところはただ一つ――第三者の介入。それ以外にありえなかった。

「ふむ……この"レバケン"とやら……悪くない切れ味だな。気に入ったぞ」

そして光の絨毯の先頭、更なる高みにそいつはいた。
月明かりに照らされたのは目も眩むような金ぴかの鎧。
右手には陽炎を立ち昇らせる真紅の剣。両足には水晶をはめ込んだ真っ黒な靴。
華美を極めたその格好の中で唯一みすぼらしく映るのは、背中に背負った黒いバック。

突如として現れた金ぴかの男は、圧倒的な存在感を撒き散らしながら、
だがしかしこっちのことなどお構い無しに自分の剣を一心不乱に眺め回している。
次に話したのは金ぴかの足元――黒い靴から声が聞こえた。

『どうやら北欧神話におけるレーヴァンティンの概念を内包しているようですね。
 この持ち主であった"Konatan"には悪いことをしたと思いますが』
「間違えるな具足。すべてのものは元々我の財なのだ。
 故に盗人の手から"レバケン"も我が手元に戻ってきただけなのだ」

空気を読まずに暢気に靴と会話する金ぴか。
めんどくさそうに剣をディバックの中にしまう……って、明らかにディパックより長くなかった?
整った容貌に蛇みたいな笑みを浮かべながら、ルビーのような二つの目でこちらを見下ろしている。

「さて……光栄に思うがいい雑種ども。王の問いに答える事を赦す。
 このあたりでコソドロを見なかったか?」
『黒髪を逆立てた少年で、年齢は10代中ごろ。格好は黄色いコートと……奇妙な面をつけていることもあるようです』

すかさずフォローをする黒い靴。
なんか慣れてるっぽいなぁ、とかあたしは場違いなことを考える。
けどいきなりすぎる乱入にオトナ連中は大騒ぎ。

「だ、誰だ貴様は!」
「国際警察機構のエージェントか!?」
「誰でもかまわん! 邪魔立てするのなら――」

次々と上がる雑多な声に金ぴかの表情が心底うんざりとしたものに変わっていく。

「聞いているのは我だ。それとも貴様らは王の言葉が分からぬ狗畜生どもか?」
「……どちらにしろ、貴様には関係ないだろう?」

ビルの上から声がかけられる。
そこに居たのはさっきまで列車ロボットの上に立っていたスーツ姿の黒マスクだ。
顔が見えなくても青筋立てていることぐらいは分かる。
が、金ぴかはそんなこと知ったこっちゃないとばかりに不機嫌な視線を向ける。

「ほう、それはどういう意味だ雑種?」
「それは――こういう意味だ、馬鹿めが!!」

いつの間にか列車ロボットが、金ぴかの背後に回っていた。
そう、男が前に歩み出たのは金ぴかの注意をひきつける囮だったのだ。
その作戦は功を奏し、避けようのないタイミングで超重の拳が振り下ろされる。

『Protection』

けど、その拳はあっさりと止められた。
金ぴかの周りに発生したフィールドによって。

「ば……ばかな、アレだけの高出力フィールドだと!?」

驚くオジさん。
確かにアレだけ強力なフィールドなんてあたしも見たことがない。

「褒めて遣わすぞ具足。我が魔力の生かし方が分かってきたようではないか」
『……それはどうも、King』
「やれやれ……我からの賛辞を賜ったと言うのにもう少し悦ぶがいい。
 しかし――」

こっち側に向き直り、真紅の目であいつらを睨み付ける。

「雑種風情が、随分と不戯けた真似をしてくれたものだな」

男が口を開く。
たったそれだけで周囲の温度が一気に下がったような錯覚を覚える。
絶対零度を言葉にしたら、きっとあんな感じになるのだろう。

「王が直々に判決を下してやろう。身に余る光栄に歓喜するがいい」

金ぴかはディパックの中に手を突っ込むとそれを取り出した。
それは一言で言うなら大きな筒だった。
もっと細かく言うなら、戦車とかロボットについている馬鹿でかい大砲。
明らかにディパックの容積を無視したそれを金ぴかは取り出すと、
まるでおもちゃの拳銃のように軽々と構える。

「――死を賜わす。遠慮はいらぬ、謹んで受け取るがいい」

その顔に浮かぶのは子供のような無邪気な笑み。
あたしだけじゃない。この場に居た全員が理解する。
こいつが息をするように相手を甚振ることのできる、生まれ尽いての鬼畜野郎だってことに。
所詮、圧倒的戦力差がないとそう振舞えないマスクの男などとは――酷薄のレベルが違う。

「か……かかれぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

号令の元、一斉に襲い掛かる黒タイツたち。
だけど、どう見てもあいつらに勝ち目があるようには思えなかった。
まぁ、それを一番理解しているのは、あいつらだったのかもしれないけど。

『――Enormous Cannon、Fire!』

そして、前言どおり判決が下される。
大砲から放たれたエネルギー弾は、列車ロボットをあっさりと撃破。
それどころか、砲撃の余波はビル風を巻き込んで暴風を巻き起こす。

「バ、ばかなぁああああああああああああああああ!!!」

ビルの屋上にいた黒タイツスーツも、オートジャイロに載っていた男たちも。
突如発生した衝撃波に吹き飛ばされ、ビルの側面やコンクリートの地面に為すすべなく叩きつけられる。
――かく言うあたしも、吹き飛ばされないように伏せるので精一杯。
ツルツルしてる割に滑らない不思議素材の光の絨毯のおかげで落ちずにはすんだが。
……かくして事が収まったときその場に立っているのは金ぴか一人だった。

「ふむ……威力は申し分ない……が、やはり好ましい武器ではないな。何より優美さに欠ける」
『……この武器を使うために、複雑な出力調整を行った私の労力は一体……』
「我に尽くせたのだ。それ自体が褒美であろう?」

漫才のようなやり取りを繰り返す2人だがまわりは阿鼻叫喚。
かろうじて生き残ったヤツラのうめき声が耳に届く。
それを聞き取った金ぴかは眉を上げる。

「手心を加えたな、具足」
『当然です。私は"人を守る"という機動六課の使命を"彼"に託されたのですから』
「フン、あれだけの世界を巡り、人の愚かさを見ておいて、まだ下らぬ夢を捨てきれぬか。
 ――まぁいい。それならそれで使い出はある。
 さて、もう一度聞くぞ雑種ども。
 その耳障りな呻き声を今すぐ止めれば、我が問いかけに応える栄誉を賜わすぞ?」

相手の状態など一顧だにしない傲慢な態度。
我侭にもほどがある。こいつらだって別に好きで呻いてる訳じゃないでしょーに。
誰も答えない……というか答えられないだろーな、とか他人事みたいに考えてその時。

「――少なくとも、我等は会った事がないな」
「!?」

正面、右左の両後ろにそれぞれ位置する三つのビルの屋上。
いつの間にかあたしたちを取り囲むように、それぞれ人影がいたのだ。

向かって正面。12時の方向にいたのは黒いスーツの男。
学者さんが被るような帽子と一緒になった仮面をつけている。
向かって右後ろ。4時の方向にいたのもスーツの男。
ただその顔色は死人かと見間違うぐらいに青白い。
向かって左後ろ。8時の方向にいた3人目は中国っぽい格好をしている。
顔といい体型といい狸を思い出した。

格好だけ見れば金ぴかに負けず劣らずの変態ども。
だが3人が3人とも圧倒的なプレッシャーを放っている。
全身のただが粟立ち、心臓が早鐘を打ったかのように鼓動を早める。
こいつらとは初めて会うというのに確信する。
本能が告げている。コイツらはヤバイ。ヤバすぎる。

「私の名は十傑集が一人、白昼の残月!」
「……同じく、暮れなずむ幽鬼……!」
「十傑集。命の鐘の十常侍なり!」

十傑集。
その単語にさっきの予感が間違ってなかったことを確信する。
直接目にしたのはこれが初めてだけど、どいつもこいつも人間離れした奴らって噂だ。
そんなの3人に囲まれているこの状況……もしかしなくても絶体絶命そのものだ。
だけど金ぴかは心底どうでもよさ気な視線を向ける。

「フン……その振る舞い、"衝撃の"と同類か」

その言葉に3人の気配に動揺と緊張が混じる。
どうやら"衝撃の"とやらと知り合いらしい。

「衝撃大人(ターレン)の知り合いなるか!?」
「BF団ではありえない……
 だが先ほどの周囲への被害をわきまえぬ戦いぶりといい国際警察機構のエージェントとも思えん……」
「くっ……貴様……一体何奴!」
「やれやれ……どいつもこいつも『何故? どうして?』と馬鹿の一つ覚えのように。
 無知はそれだけで大罪と知るがいい雑種ども。
 だから、むざむざ"このような"目にあうのだ」

そう言って指を鳴らす金ぴか。
どういう理屈か、それだけで手の中にあったアタッシュケースの留め金が壊れる。

「え……」

だがそこから出てきた予想外の物に、あたしは言葉を失った。
アタッシュケースの中に入っていたのはただの紙ッ切れ。
その表面にはふざけたデザインでこう書かれていた。

『     領収書
  巨人の指揮棒(タクト)は確かにいただきました。
   HO! HO! HO!
     通りすがりの王ドロボウ』

その言葉に、あたしは思わず絶句する。
だってあたしは腕時計型のそれがアタッシュケースに納められるところをこの目で見ているのだ。
BF団の連中も驚いた瞳でその紙切れを見つめている。
だけどただ一人、金ぴかだけは歪んだ愉悦を顔に浮かべて、その紙を拾い上げた。

『King、やはり――』
「そのようだな。やはり間違っていなかったと見える。
 このタイミング……、奴はまだ"ここ"にいるとみて間違いあるまい」

訳知り顔でうなづく金ぴか。
いやいやいや、何を言ってるのか全然わかんないし。

「ねぇ、ちょっと、さっきから訳がわかんないわよ! 少しは説明しなさいって!」
「喧しいぞ。少し黙っておれ小むす――む?」

じろりとこっちを見る金ぴか――が、その表情が一変する。
余裕そのものの顔から、まるで鳩が豆鉄砲食らったような顔に。
そしてさっきから放出していた"王様オーラ"とでも言うべきプレッシャーが掻き消えていたのだ。
急に変化した金ぴかの様子にあたしは戸惑う。
だが、次の瞬間、

「ク……クククククククククククククク……
 ハハハハハハハハハハハーッハッハッ!!
 ハハハハハハハハハハハハハハハハハ
 ハハハハハハハハハハハハハハハハハハーッ!!」

あたしの顔を見て、腹を抱えて爆笑しやがった。
『ああ、まったく……世界は我を飽きさせることはない』とか何とか、意味わかんない。
っていうかいきなり人の顔見て笑い出すとか何様のつもりだ。
そんなに笑える顔をした覚えはない。
ぶっちゃけると――すごいムカつく。

「ちょっと、あんたねぇ……!」
「これを読むがいい。奴らに聞こえるようにしっかりとな」

何かを言おうとしたあたしにさっきの紙切れを突きつける。
突き出された領収書の裏にはまったく同じ筆跡で別の文章が書いてあった。
思わず言われたとおりに読み上げてしまう。

「えーと……
 『――続きまして予告状。
   神様の怒りに触れて、バベルの塔が崩れる前に、
     その中に眠るお宝をいただきます。
        休日返上の王ドロボウ』
 ……って何これ。意味わかんない」

でもあたしが何気なく口にした言葉に十傑集の顔色が変わる。
そして金ぴかは目聡く、その変化を読み取った。

「ほう……貴様らは何か知っているようだな。話して貰おうか」

ガシャリ、という重い音と共に、一歩を踏み出した。
それだけで世界が変質するような錯覚を抱く。

「一度引くぞ! 樊瑞たちの判断を仰ぐ!」
「「……応!」」

躊躇は一瞬。
仮面男の判断に従い、3人の男は撤退。生き残った黒タイツたちもそれに続く。
そしてその場所には金ぴかとあたしだけが残された。

さて、出会ってから1時間もたたないうちに、金ぴかについてわかったことと言えば
とんでもない我侭野郎で、化け物みたいに強い。
そして容赦とか手加減とかそういうのとは程遠い――なんか台風みたいな奴だってこと。
笑い合いながら話した次の瞬間ブチ切れられる可能性だって十二分にある。

でもそう理解しているにも拘らず、
あたしは金ぴかに対してまったく恐怖と言う物を感じられなかったのだ。

『追いかけないのですか、King?』
「何、方角さえ分かれば大体の予想はつく。
 放っておけば王ドロボウの足止めぐらいは出来るかもしれん。
 しかし、よりにもよって"バベルの塔"とはな……
 主が席を離れた間に我が物顔で居座るとは……今度の王を名乗るモノは飛び切り度し難い阿呆のようだな……!」

男の顔に紛れも無い怒気が宿る。

「まぁよい――今は、こちらの方が気になるのでな」

が、それを一瞬で霧散させ、金ぴかはこっちに向き直る。
真っ赤な瞳が値踏みするようにあたしを見据えている。
まるで掘り出し物を見つけた好事家のように。

「……ふむ、よかろう」

そして何かに納得したかのように首を縦に振ると、
金ぴかは背中にしょったバッグをこっちに投げてよこしたのだ。

「随分みすぼらしいとはいえ今の我が財を入れる蔵だ。丁重に扱うがいい」

いきなりサイズの違う大砲やら何やらを取り出したバックだ。
明らかに普通じゃないし、ぶっちゃけキモい。
だけど金ぴかは気味悪がるあたしを無視して歩き出す。

「ちょ、ちょっと! 何なのよ!」
「察しが悪いな、付いてこいと言っておるのだ」

その言葉に驚きの声が足元から聞こえる。

『King、まさか彼女を連れて行くつもりですか!?』
「荷物を運ぶのは王の役目ではない。
 蔵の財も二流品が多いとはいえそれなりに集まってきた。
 そろそろ倉庫番を任さねばなるまいよ」
「ちょっと待て! あたしが着いて行くっていつ誰が決めた!」
「今我が決めた。それ以外に理由が要るというのか?」

まるで自分が言ったら世界がそうであると本気で信じているかのような声。
その態度にあたしは確信する。わかちゃいたけど、こいつ……無茶苦茶自分勝手だ。
小さいころはおもちゃ屋の前で何時間でも抵抗する子供だったに違いない。

……とはいえ結局のところ、こいつに付いて行く以外の選択肢が無い。
空のアタッシュケースを届けるわけにも行かないし、……っていうか今、空中だから他に行き様もないし。
まぁ、何かあいつらが慌てふためく様が見れそうだし。
だから"ちょっとの間だけ"なら、行動を共にすることに別に問題はない。
ただ、気になることが一つだけあった。

「……あんたさ、あたしがこの荷物持って逃げ出すとか考えなかったわけ?」

さっきからの言動を見てれば、こいつがお人よしな訳は無いことぐらい猿だってわかるだろう。
だのにあの時、一切の躊躇なく、黒いディパックをあたしに投げてよこしたのだ。
一応は筋道の立っているこの男の行動の中で、それだけが引っかかって思わず聞いてみた。

「貴様はせんよ――決して、な」

だが返ってきた答えは答えともいえないシロモノ。
金ぴかはあっさりと、理由らしい理由もなく。
太陽が東から昇るのと同じくらい当然のことのようにそう断言したのだった。

……そりゃ実際にやろうとは思わなかったけどさ。
なんか何もかも見透かされているようで悔しいから、隣に立とうとする。
でも、その行動は手で制された。

「まだだな。我の隣に立つにはまだ足りん。
 恥じらいも、言葉遣いもまだまだ乳臭さが抜けん。
 加えて礼節も気品も、女としての魅力が何もかも欠けている」

失礼なことを一気に告げる。
だが、次の一瞬、あたしは信じられない物を見た。


「――が、それは今から身に着ければ良いことか。
 我の臣下として……せめて奴ほどには育ってもらわねば、な」

目の前のこの男が、笑ったように見えたのだ。
柔らかく、傲慢なこの男が決してしないだろう表情で。
だがそれを確かめようとしたあたしの視線を避けるように金ぴかは青い絨毯の上を歩き出す。

「ああ……ったく、一体何なのよ……」
『この王と上手く付き合うコツは細かいことを気にしないことです。
 気にしだしたら、例え身体が千個あっても足りません』

おいおい、靴にここまで言われるとかどんだけ我侭なんだ、コイツ。

「……あんたも大変ね」
『お気遣いありがとうございます、Lady』

あたしの口から漏れるのは二人分のため息。
靴と妙なところで同情しあいながら、仕方為しに歩き始めた……その時だった。

"……ま、何があっても退屈だけはしないと思うわよ。せいぜい頑張んなさい"

「――え?」

聞いたことがあるようなないような、不思議な女の声があたしの耳に届いた。
だけどその声はビル風の残りに吹き飛ばされ、あっという間に摩天楼の中へと消えていく。

『? どうかしましたか、Lady』
「……あー、なんでもない。たぶん空耳。
 あと"レディ"ってのはやめてよね。あたし、そんなキャラじゃないし」

そこであたしは重要なことに気がついた。

「あ、そういえばあんたたちの名前まだ聞いてないんだけど。
 ……ま、あんたはどうせ呼びやしないだろうけど、一応教えとく。
 あたしの名前は――」
「――であろう。知っておる」

言葉を失う。
風に攫われたその2文字は、確かにあたしの名前だったのだから。
振り返り、絶句するあたし向けて男は言う。

「二度は言わん。今度は多元世界すべての貴様に聞こえるよう、その根源に刻み付けておくがいい」

どこかの推理漫画の主人公が推理する時のポーズのように男は顎元に手を当てる。
そして自信満々に、威厳に満ちたその眼で、こちらの瞳を見つめながら言い放った。

「――ギルガメッシュ、それが我の名だ」




"A girl meets Unearthly Overload and extraordinary days……"


      ギルガメッシュ エピローグ END


            だが、


          物語は、続く!!


     NEXT EPISODE……"バベルの篭城編"


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285:HAPPY END(21) ギルガメッシュ 290:宴の始末






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