HAPPY END(18)◆ANI2to4ndE
◇
「まだ生きてやがったか……ジジィ!」
そう、瓦礫を押しのけて現れたのは半壊のマスターガンダム。
左腕が千切れ、片目は潰れ、東方不敗の姿が目視出来るほどにボディは損壊していた。
だがその全身から溢れる闘気と殺気は衰えることなく、クロスミラージュの作り物の肌を粟立たせる。
その姿はまさに妄執の化け物と呼ぶに相応しい姿だった。
左腕が千切れ、片目は潰れ、東方不敗の姿が目視出来るほどにボディは損壊していた。
だがその全身から溢れる闘気と殺気は衰えることなく、クロスミラージュの作り物の肌を粟立たせる。
その姿はまさに妄執の化け物と呼ぶに相応しい姿だった。
何故、究極の一撃を受けた東方不敗が生きているのか?
その理由は、彼の周囲に散らばる白い破片。
ドモンとカミナの魂の一撃が炸裂する直前、風雲再起の駆るモビルホースがマスターガンダムを庇ったのだ。
放たれた究極の拳は、風雲再起の命を代価として、致命にまで届かなかったのだ。
その理由は、彼の周囲に散らばる白い破片。
ドモンとカミナの魂の一撃が炸裂する直前、風雲再起の駆るモビルホースがマスターガンダムを庇ったのだ。
放たれた究極の拳は、風雲再起の命を代価として、致命にまで届かなかったのだ。
「ワシはまだ死なん……目的を達するまでは!!」
「テメェの……目的だと!?」
「テメェの……目的だと!?」
カミナとて目の前の老人が何らかの思惑で動いていることは察している。
だが彼にはその目的が分からない。
最初会った時はこっちを本気で殺そうとし、次に会ってからは手加減して鍛えようとしやがった……
カミナにはその真意が分からない。彼には――さっぱりわからない。
そんな青年に対し、東方不敗はニヤリと笑い、
だが彼にはその目的が分からない。
最初会った時はこっちを本気で殺そうとし、次に会ってからは手加減して鍛えようとしやがった……
カミナにはその真意が分からない。彼には――さっぱりわからない。
そんな青年に対し、東方不敗はニヤリと笑い、
「ワシの目的は自然を、ひいては美しい地球を救うことにほかならん!」
『それとこれとが、どう繋がる!
人同士を殺し合いに導き、戦わせ、それがどうして自然を守ることと同じ意味を持つ!』
『それとこれとが、どう繋がる!
人同士を殺し合いに導き、戦わせ、それがどうして自然を守ることと同じ意味を持つ!』
ディスタントクラッシャーを受け止めながら、クロスミラージュは理解できぬものに問いかける。
モニタ越しに問いかけた相手を目視した東方不敗は驚きに目を見張る。
ラガンに乗っていたのは、死亡したはずの女と同じであったからだ。
しかもその口から発せられたのは明らかに作り物の声であった。
モニタ越しに問いかけた相手を目視した東方不敗は驚きに目を見張る。
ラガンに乗っていたのは、死亡したはずの女と同じであったからだ。
しかもその口から発せられたのは明らかに作り物の声であった。
「貴様……何者!?」
『私の名はクロスミラージュ……貴方とは何度もお会いしたことがある、ご老人』
『私の名はクロスミラージュ……貴方とは何度もお会いしたことがある、ご老人』
名乗りを上げる少女に二重の驚きを重ねる東方不敗。
彼もまたルルーシュから齎された情報によって、クロスミラージュの正体を知っているのだ。
だが、今更そんな事は些事だと思い直す。
人の味方をするのならば、また貴様もこの東方不敗の敵に他ならないのだから。
彼もまたルルーシュから齎された情報によって、クロスミラージュの正体を知っているのだ。
だが、今更そんな事は些事だと思い直す。
人の味方をするのならば、また貴様もこの東方不敗の敵に他ならないのだから。
東方不敗はその顔に感情の色を乗せ、言葉を叩きつける。
その感情の名は――怒り。
その感情の名は――怒り。
「よかろう……ならば貴様にも聞かせてやろう!
ワシの目的はなぁ……人類抹殺による自然の救済ぞ!」
ワシの目的はなぁ……人類抹殺による自然の救済ぞ!」
『なっ!?』
「んだとぉ! そりゃ、どういう意味だっ!」
「まだ分からんのかこの馬鹿弟子がぁああっ!
貴様の天元を突破させ、この場にアンチ=スパイラルを降臨させる!
そしてその力を用いて、全ての世界、全てにおいて人が犯してきた罪を償うのだ!!」
「んだとぉ! そりゃ、どういう意味だっ!」
「まだ分からんのかこの馬鹿弟子がぁああっ!
貴様の天元を突破させ、この場にアンチ=スパイラルを降臨させる!
そしてその力を用いて、全ての世界、全てにおいて人が犯してきた罪を償うのだ!!」
東方不敗は知っている。
さまざまな世界で地球が悲鳴を上げていることを。
多くの世界で環境問題は日々悪化し、ある世界では地球を見捨てて逃げだしさえした事を。
罪深きもの、ああ、汝の名は――人類。
さまざまな世界で地球が悲鳴を上げていることを。
多くの世界で環境問題は日々悪化し、ある世界では地球を見捨てて逃げだしさえした事を。
罪深きもの、ああ、汝の名は――人類。
「そしてドモンが死んだ今、ワシ自らの手で貴様らを押し上げるまでよ……!
食らえぃっ!! 十二王方牌大・車・輪!!」
食らえぃっ!! 十二王方牌大・車・輪!!」
マスターガンダムから発せられた気が、小型の分身となってグレンラガンに襲い掛かる。
『う……おおおおおっ!?』
「ぐ……ああああああああああっ!」
「ぐ……ああああああああああっ!」
直撃を食らったグレンラガンが吹き飛ばされる。
瓦礫を砕きながら、唯一残った鉄塔へと叩きつけられる。
崩れ去る鉄塔の中で、クロミラは目の前の悪魔を睨みつけ、そして理解する。
最大最強にして最悪の"壁"が現れたという、その事実を。
瓦礫を砕きながら、唯一残った鉄塔へと叩きつけられる。
崩れ去る鉄塔の中で、クロミラは目の前の悪魔を睨みつけ、そして理解する。
最大最強にして最悪の"壁"が現れたという、その事実を。
◇
3人のロボット越しの会話はスパイクたちの位置からではほとんど聞き取ることが出来なかった。
だが一瞬だけ聞きとることができたその声は、
だが一瞬だけ聞きとることができたその声は、
「あのお爺さん……!」
舞衣にとって忘れようもない声だった。
あの時、自分にソルテッカマンを渡した老人。
一度敵として向き合ったことがあるが、相手にすらならなかった。
人形のようだったチミルフとは違う。
チャイルドを召喚しても勝てるイメージが一つも浮かばない。
あの時、自分にソルテッカマンを渡した老人。
一度敵として向き合ったことがあるが、相手にすらならなかった。
人形のようだったチミルフとは違う。
チャイルドを召喚しても勝てるイメージが一つも浮かばない。
「舞衣ちゃん!」
「ええ、わかってるわ、ゆたか!」
「ええ、わかってるわ、ゆたか!」
だが、彼らが天を貫けないと全てが終わるのだ。だから命を懸けて足止めをしてみせる。
決意の命ずるまま目を閉じ、脳裏に浮かぶ龍のイメージを現実へと呼び起こす。
決意の命ずるまま目を閉じ、脳裏に浮かぶ龍のイメージを現実へと呼び起こす。
「やめよ女。奴らの邪魔をすれば、その瞬間に頭蓋を叩き割るぞ」
だが、ギルガメッシュの怜悧な声がそれを停止させた。
「何で……なんで邪魔するのよ!」
「フン……やつらは愚かにもこの我に向かって、天を突くという大言を吐いたのだ。
あの程度の壁……突き崩せずして天を突き破るなど片腹痛い」
「でも! でもっ!」
『マイ、ユタカ、私からもお願いしたい』
「フン……やつらは愚かにもこの我に向かって、天を突くという大言を吐いたのだ。
あの程度の壁……突き崩せずして天を突き破るなど片腹痛い」
「でも! でもっ!」
『マイ、ユタカ、私からもお願いしたい』
それでも反論しようとするゆたかを止めたその声は足元から。
マッハキャリバーが、明滅を繰り返しながら、おそらくは生まれて初めての我侭を告げる。
マッハキャリバーが、明滅を繰り返しながら、おそらくは生まれて初めての我侭を告げる。
『クロスミラージュの……私の友人の生き様を記憶回路に焼き付けさせて欲しい』
『私も同じだ。そして、クロスミラージュは、負けはしない。
機動六課の、我らの仲間は、決して』
「キュイ!」
『私も同じだ。そして、クロスミラージュは、負けはしない。
機動六課の、我らの仲間は、決して』
「キュイ!」
ストラーダとフリードリヒもそれに同調する。
「ってことは……」
「まぁ、そういうことだ」
「まぁ、そういうことだ」
葉巻に火をつけながら、スパイクも右に倣う。
その視線の先でグレンラガンの巨体が三度、宙を舞う。
ギルガメッシュも、スパイクも、フリードリヒも、まるで魅入られたようにその光景を見ている。
あの2人なら、どんな絶望の中でも何かをやらかすはずだと信じているかのように。
その視線の先でグレンラガンの巨体が三度、宙を舞う。
ギルガメッシュも、スパイクも、フリードリヒも、まるで魅入られたようにその光景を見ている。
あの2人なら、どんな絶望の中でも何かをやらかすはずだと信じているかのように。
「あー、揃いも揃って男ってヤツは……馬鹿ばっかか!」
だがそう呟くねねねの口の端は上がっている。
ああ、確かにそうだよな王ドロボウ。
ああ、確かにそうだよな王ドロボウ。
(ここで手を出すのは……"粋"じゃないってことなんだろ……ジン)
今度は衝撃で数キロ吹っ飛ばされるグレンラガン。
バスケットボールのように地面をバウンドする。
その装甲は前にも増して傷だらけ。
状況は不利どころではない。誰が見ても勝利すら難しい。
バスケットボールのように地面をバウンドする。
その装甲は前にも増して傷だらけ。
状況は不利どころではない。誰が見ても勝利すら難しい。
だが未だ、誰1人として絶望はしていなかった。
◇
瞼が、重い。
さっきから瞬きをするたびに気が遠くなる。
足が、冷たい。
鼻に付く鉄の匂いが、それは流れ落ちた血のせいだと教えてくれる。
抗いようの無い睡魔が、カミナの脳に意識を手放すように訴える。
甘美な誘惑に駆られるまま目と瞑り、全ての意識を放り出そうとして、
さっきから瞬きをするたびに気が遠くなる。
足が、冷たい。
鼻に付く鉄の匂いが、それは流れ落ちた血のせいだと教えてくれる。
抗いようの無い睡魔が、カミナの脳に意識を手放すように訴える。
甘美な誘惑に駆られるまま目と瞑り、全ての意識を放り出そうとして、
――カツン
何かが胸を叩く感触に、目を覚ます。
ぼんやりと見上げたそこにはひび割れた夜空と真白い月。
それでやっと自分が倒れているのだと気づく。
しかもどうやら度重なる攻撃でコックピットを包む装甲がやられたらしい。
そしてその割れた部分から、何かが落ちてきたようだ。
何が胸を叩いたのか……何ともなしに目を下へと向けて
ぼんやりと見上げたそこにはひび割れた夜空と真白い月。
それでやっと自分が倒れているのだと気づく。
しかもどうやら度重なる攻撃でコックピットを包む装甲がやられたらしい。
そしてその割れた部分から、何かが落ちてきたようだ。
何が胸を叩いたのか……何ともなしに目を下へと向けて
「――!」
それが何であるか認識した時、カミナの意識は覚醒した。
むき出しの胸を叩いたのは、髑髏を模した髪飾り。
カミナはそれに見覚えがある。
いつの間にか自分の胸の辺りに位置していた。
あいつの赤い髪の毛によく似合っていた、それ。
ぼんやりとカミナは呟く。
カミナはそれに見覚えがある。
いつの間にか自分の胸の辺りに位置していた。
あいつの赤い髪の毛によく似合っていた、それ。
ぼんやりとカミナは呟く。
「……ああ、これで、全員そろったな」
右手はニアが、左手はガッシュが、背中はシモンが、そして前はヨーコが支えてくれる。
あとは俺が立つだけだ。この、2本の足で。
あとは俺が立つだけだ。この、2本の足で。
『貴様さえ、貴様さえ唆さねば、あの馬鹿弟子は……!!』
螺旋力のぶつかり合いか、それとも拳のぶつかり合いの成果か。
打撃を受けるたびに東方不敗の悲痛な叫びが聞こえてくる。
その中で聞こえたのは――愛弟子を失った、哀れな師匠の叫び。
打撃を受けるたびに東方不敗の悲痛な叫びが聞こえてくる。
その中で聞こえたのは――愛弟子を失った、哀れな師匠の叫び。
「へっ、やっと人間らしい本音が出たじゃねえか。
だがよ……」
だがよ……」
手に力が戻る。
そして、力いっぱい右手のレバーを握り締め、
そして、力いっぱい右手のレバーを握り締め、
「勝手なこと……抜かしてんじゃねえパーンチ!!」
振りぬかれた右手は防御を捨てていたマスターガンダムにたやすく当たりその巨体を吹き飛ばす。
そしてカミナの意志に答えるように、グレンラガンは何度でも立ち上がる。
そしてカミナの意志に答えるように、グレンラガンは何度でも立ち上がる。
「小せえ小せえ! てめぇはどこまで小さくなりゃ気が済むんだ東方のジジィ!!」
「なんだと……!」
「何でもかんでも人のせいにして、いざとなったら何とかスパナとかいう他人頼り!
はっ、他人任せで何が出来るってんだ!
おまえの弟子のドモンはもっとデカかったぜ!!」
『――ええ、まったく同意だ。
今の貴方は駄々をこねているようにしか見えない』
「なんだと……!」
「何でもかんでも人のせいにして、いざとなったら何とかスパナとかいう他人頼り!
はっ、他人任せで何が出来るってんだ!
おまえの弟子のドモンはもっとデカかったぜ!!」
『――ええ、まったく同意だ。
今の貴方は駄々をこねているようにしか見えない』
モニターの向こうでクロスミラージュも頭から血を流しながら、その目に闘志を燃やす。
『……それに、貴方の論理は破綻している。
何故ならば東方不敗、貴方自身も人類だからだ。
人類抹殺で罪を償うなど、楽な方へ逃げているに過ぎない。
……本当にそう思うのならば本当のバカだ、貴方は!』
「さぁて――決着をつけようぜ、ジジィ! ドモンの代わりに俺たちが目を覚まさせてやる!」
『覚悟してください、私たちの拳は見た目より重い。だから――』
「『――歯ぁ、食いしばれ!!』」
何故ならば東方不敗、貴方自身も人類だからだ。
人類抹殺で罪を償うなど、楽な方へ逃げているに過ぎない。
……本当にそう思うのならば本当のバカだ、貴方は!』
「さぁて――決着をつけようぜ、ジジィ! ドモンの代わりに俺たちが目を覚まさせてやる!」
『覚悟してください、私たちの拳は見た目より重い。だから――』
「『――歯ぁ、食いしばれ!!』」
そう宣言し、グレンラガンは指を突きつける。
言葉と共に叩きつけられたその闘気はあまりにも巨大。
そこで東方不敗は初めて気づく。
己が、マスターガンダムが数歩、後退していたことに。
そして腕が、わずかに震えていることに。
言葉と共に叩きつけられたその闘気はあまりにも巨大。
そこで東方不敗は初めて気づく。
己が、マスターガンダムが数歩、後退していたことに。
そして腕が、わずかに震えていることに。
(バカな、怯えているだと……!? このワシが、この東方不敗マスターアジアが!?)
腕の震えは広がり、全身を震わせる。
だがしかし、
だがしかし、
「なめるなよ小僧どもがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
されど、東方不敗とて螺旋力に目覚めたもの。
わずかに感じた恐怖を怒りへと転化させ、
更には魂の叫びを通じて緑色の光へと昇華させる。
そしてその身に染み付いた無窮の武練は自然と必殺の拳の型をとらせていた。
そのエネルギーは過去最大。
さきほどドモンとカミナの友情に押し負けたエネルギーとは比べものにならない。
そのことは対峙する彼らは文字通り肌で感じ取っていた。
わずかに感じた恐怖を怒りへと転化させ、
更には魂の叫びを通じて緑色の光へと昇華させる。
そしてその身に染み付いた無窮の武練は自然と必殺の拳の型をとらせていた。
そのエネルギーは過去最大。
さきほどドモンとカミナの友情に押し負けたエネルギーとは比べものにならない。
そのことは対峙する彼らは文字通り肌で感じ取っていた。
だがそれだけのエネルギーを前にしても、微塵も恐怖は湧かなかった。
「おい、クロミラ……まだいけるか?」
『無論です。貴方の相棒はタフでないと務まりませんよ』
「へっ、違いねえや。クロミラ、だったらよ……アレを使うぜ」
『アレですね……ええ、いいでしょう!』
『無論です。貴方の相棒はタフでないと務まりませんよ』
「へっ、違いねえや。クロミラ、だったらよ……アレを使うぜ」
『アレですね……ええ、いいでしょう!』
以心伝心。
込められた螺旋力により両手のドリルが変化し、一対の武器となる。
その武器にはグリップがあった。トリガーがあった。
白亜の銃身とその中心に位置する紅の×十字。
"それ"の名を知る者がいたらこう呼ぶだろう――クロスミラージュと。
赤い武者鎧に白い銃、その姿から放たれるは東方不敗がかつて敗北を喫した必殺の技。
来たるべき力のぶつかり合いを予感した大気が恐怖に慄き、限界を告げる大地が苦痛に身をよじる。
そして、その時は――きた。
込められた螺旋力により両手のドリルが変化し、一対の武器となる。
その武器にはグリップがあった。トリガーがあった。
白亜の銃身とその中心に位置する紅の×十字。
"それ"の名を知る者がいたらこう呼ぶだろう――クロスミラージュと。
赤い武者鎧に白い銃、その姿から放たれるは東方不敗がかつて敗北を喫した必殺の技。
来たるべき力のぶつかり合いを予感した大気が恐怖に慄き、限界を告げる大地が苦痛に身をよじる。
そして、その時は――きた。
「流派東方不敗が最終奥義ぃ!! ダァァァァァクネス、フィンガァァァァ、石・破・天・驚・拳ッ!!!」
『「必殺!! ギガ、ドリィィル……クロスファイヤァァァッ! シュウトオオオオオオオオッ!!」』
『「必殺!! ギガ、ドリィィル……クロスファイヤァァァッ! シュウトオオオオオオオオッ!!」』
2つの叫びは世界の終焉を告げる天上の喇叭。
光と、轟音と、風を巻き込みながら、2つの螺旋エネルギーは真っ向からぶつかり合った。
光と、轟音と、風を巻き込みながら、2つの螺旋エネルギーは真っ向からぶつかり合った。
◇
轟音が耳を劈き、震える空気が肌を叩く。
巻き起こる暴風に吹き飛ばされないよう必死で足を踏ん張る。
彼らの全てを見届けるために。
巻き起こる暴風に吹き飛ばされないよう必死で足を踏ん張る。
彼らの全てを見届けるために。
『――俺達全員が助かるには、この方法しかなかった!』
だがそのとき、風に紛れ、誰かの声がゆたかの耳に届く。
落ち着いたビブラートのかかった声は――
落ち着いたビブラートのかかった声は――
「ス、スパイクさん、何か言いました?」
「あ? いや、俺は何も――」
「おい、なんだありゃあ!?」
「あ? いや、俺は何も――」
「おい、なんだありゃあ!?」
ねねねの言葉に視線を上げれば、そこには異常な光景が繰り広げられていた。
2つのエネルギーがぶつかり合う、丁度中間地点。
そこが罅割れ、映画のスクリーンのごとく明らかに別の風景が映っているのだ。
2つのエネルギーがぶつかり合う、丁度中間地点。
そこが罅割れ、映画のスクリーンのごとく明らかに別の風景が映っているのだ。
そこに映るのは男がいた。女がいた。
老人がいた。赤ん坊がいた。
強者がいた。弱者がいた。
ただ、一つだけ共通していたのは彼らが、互いに殺し合っているということだけ。
螺旋の向こう側で、凄惨な光景が繰り広げられていた。
その現象にデバイスも含めた全員が驚愕する中、ギルガメッシュだけがつまらなげに鼻を鳴らす。
老人がいた。赤ん坊がいた。
強者がいた。弱者がいた。
ただ、一つだけ共通していたのは彼らが、互いに殺し合っているということだけ。
螺旋の向こう側で、凄惨な光景が繰り広げられていた。
その現象にデバイスも含めた全員が驚愕する中、ギルガメッシュだけがつまらなげに鼻を鳴らす。
「フン……老いぼれの怨念に引き寄せられたか」
『King! あれは一体』
「克目するがよい雑種ども。あれこそが"多元世界"よ」
『King! あれは一体』
「克目するがよい雑種ども。あれこそが"多元世界"よ」
2つの螺旋のぶつかり合いは時間軸、空間軸それらすべてを含む因果律を歪め、
本来なら触れ合うはずの無い異世界の姿を引き寄せていた。
まるで東方不敗の絶望に引き寄せられるように、悪夢のような光景を。
その中に、彼女たちの知る絶望があったとしても。
本来なら触れ合うはずの無い異世界の姿を引き寄せていた。
まるで東方不敗の絶望に引き寄せられるように、悪夢のような光景を。
その中に、彼女たちの知る絶望があったとしても。
――『ご褒美をちょうだい』! 役に立つ物を!
そこには、罪に手を染めた雪の少女がいる。
――ああ―――裏切るとも
そこには、少女を殺した正義の味方の成れの果てがいる。
――壊すんだ、全部、みんな……!
そこには、罪悪感で壊れそうな精神を歪んでしまった正義で守る少女がいる。
「そんな……イリヤ……さん」
「衛宮……!」
『スバル……』
「衛宮……!」
『スバル……』
悪意は悪意を呼び、無限の悲劇を引き寄せる。
それはグレンラガンの中にいる2人にしても同じこと。
それはグレンラガンの中にいる2人にしても同じこと。
彼らは聞く。
死の間際、最悪の形で義理の妹との再会を果たした少年の叫びを。
死の間際、最悪の形で義理の妹との再会を果たした少年の叫びを。
彼らは見る。
無害な羊の皮をかぶり殺戮を繰り返した冥王の姿を。
無害な羊の皮をかぶり殺戮を繰り返した冥王の姿を。
彼らは感じる。
血まみれのメロンパンを前に慟哭する少女の痛みを。
血まみれのメロンパンを前に慟哭する少女の痛みを。
……そこには、悪意があった。
優れた智謀によって多くの参加者に悲劇を招いた悪魔のような少女がいた。
弱者であることを武器に集団に紛れ込み、ひっそりと殺人を繰り返す少年の姿があった。
自分の愛する少女にあまりに身勝手な愛を与えるために、誤解と殺戮をばら撒く女の姿があった。
優れた智謀によって多くの参加者に悲劇を招いた悪魔のような少女がいた。
弱者であることを武器に集団に紛れ込み、ひっそりと殺人を繰り返す少年の姿があった。
自分の愛する少女にあまりに身勝手な愛を与えるために、誤解と殺戮をばら撒く女の姿があった。
……そこには悲劇があった。
己の存在意義を真っ向から否定され、絶望にくれる獣の姿があった。
愛する男のために、どれだけ致命傷を受けても相手をただ殺そうとした少女の姿があった。
妹のことを思って行動した少年は、畜生となり数奇な運命を経て解体された。
己の存在意義を真っ向から否定され、絶望にくれる獣の姿があった。
愛する男のために、どれだけ致命傷を受けても相手をただ殺そうとした少女の姿があった。
妹のことを思って行動した少年は、畜生となり数奇な運命を経て解体された。
……そこには絶望があった。
もう一度歌を歌いたかっただけの少女は、大きな悪意によって凄惨な最後を迎えた。
狂気の果てに、なりきることで娘の生存を信じようとした哀れな母親の姿があった。
神を自称し暴虐を振るった少女が、恋心を踏みにじられ絶望の中で死んでいく光景があった。
もう一度歌を歌いたかっただけの少女は、大きな悪意によって凄惨な最後を迎えた。
狂気の果てに、なりきることで娘の生存を信じようとした哀れな母親の姿があった。
神を自称し暴虐を振るった少女が、恋心を踏みにじられ絶望の中で死んでいく光景があった。
それらはすべて、殺し合いによって生まれたものたち。
蟲毒から生まれた怨嗟と絶望のエンドレスリピート。
そして螺旋の中心にいる彼らは誰よりも「この世全ての悪」にも似た「多元世界全ての絶望」に晒される。
蟲毒から生まれた怨嗟と絶望のエンドレスリピート。
そして螺旋の中心にいる彼らは誰よりも「この世全ての悪」にも似た「多元世界全ての絶望」に晒される。
――帰ってきた現実のほうが、よっぽど地獄じゃねえか!
誰かが言ったその言葉が何よりも心を抉る。
まるでそれは散り行くものの怨嗟の声。
まるでそれは散り行くものの怨嗟の声。
それは、どれほどの絶望か。
それは、いかほどの災禍か。
それは人の業、それは人の醜さ、それは人の悪意。
その全てを間近に受けて、
それは、いかほどの災禍か。
それは人の業、それは人の醜さ、それは人の悪意。
その全てを間近に受けて、
『――それが、どうした』
それでも、彼は膝を突いてはいなかった。
効果が無いわけではない。
今までだってクロスミラージュの心は折れそうになっている。
彼が螺旋の向こうから突きつけられたのは、信じたくない光景の数々だった。
今までだってクロスミラージュの心は折れそうになっている。
彼が螺旋の向こうから突きつけられたのは、信じたくない光景の数々だった。
それは、若き日の高町なのはが無慈悲な目で仲間であるはずの少女の傷口を焼く光景であり、
それは、年若いフェイト・T・ハラオウンが怒りのままに少女を肉片一つ残さず消滅させる光景であり、
それは、烈火の将や鉄槌の騎士が主の復活を願うまま、凶行を繰り返す光景であり、
それは、疑心暗鬼におびえ、破壊の力を振るったマスターの親友の姿だった。
それは、年若いフェイト・T・ハラオウンが怒りのままに少女を肉片一つ残さず消滅させる光景であり、
それは、烈火の将や鉄槌の騎士が主の復活を願うまま、凶行を繰り返す光景であり、
それは、疑心暗鬼におびえ、破壊の力を振るったマスターの親友の姿だった。
どれもクロスミラージュの知る彼女らからは考えられない姿。
人は容易く狂気に飲み込まれるということへの証左とでも言うように。
人は容易く狂気に飲み込まれるということへの証左とでも言うように。
「何故だ……何故これを見ても人の愚かさがわからん!」
光の向こうから聞こえるのは東方不敗の叫びにも似た声。
もしかしたら彼もかつて自分が突きつけられた絶望を改めて見せられているのかもしれない。
だが、だからこそ思う。
もしかしたら彼もかつて自分が突きつけられた絶望を改めて見せられているのかもしれない。
だが、だからこそ思う。
『貴方こそ何故認めようとしないのだ、人の――素晴らしさを』
彼は、忘れない。
機械であるがゆえに、苦しいことも、そして楽しいこともずっと覚えている。
だから聞こえる。彼らのあの声が。
闇に吸い込まれてもなお輝き続けるあの声が。
機械であるがゆえに、苦しいことも、そして楽しいこともずっと覚えている。
だから聞こえる。彼らのあの声が。
闇に吸い込まれてもなお輝き続けるあの声が。
――行くわよ、クロスミラージュ!
六課で過ごしてきた輝ける日々。
――行くぜ、クロミラぁ!
そしてグレン団の仲間の笑い声。
深いところに記憶されたそれは、決して忘れることは無いメモリー。
あの日、彼女たちがくれた言葉は今でもこの胸に届いているのだから。
あの日、彼女たちがくれた言葉は今でもこの胸に届いているのだから。
素晴らしい過去はまるで星のよう。
決して手は届かず、だが確かにそこにあり続ける。
そして人は星の光を頼りに、見果てぬ闇を突き進むことが出来る。
努力を重ねながら、間違いつつも、きっと前に進むことが出来る。
迷ったことも、抗ったことも、そのすべてを誰もが持つ螺旋のうちに飲み込んで。
決して手は届かず、だが確かにそこにあり続ける。
そして人は星の光を頼りに、見果てぬ闇を突き進むことが出来る。
努力を重ねながら、間違いつつも、きっと前に進むことが出来る。
迷ったことも、抗ったことも、そのすべてを誰もが持つ螺旋のうちに飲み込んで。
その証拠に、螺旋の向こうに見えるのは絶望だけではない。
――これが、あたしたちの全力全開!!
異形の右拳に赤い少女の魂が重なる光景がある。
――私は笑顔でいます。元気です。
親友の喪失という痛みを乗り越えた、運命の名を持つ少女の姿がある。
もっと深くを見通せば、かつて敵対した少女が新しく出来た"弟"を守るため、仮面の魔人相手に立ち向かう姿があった。
先ほど"高町なのは"を殺した少女が、目に確固たる正義の意志を浮かべ、別の女の凶行を止めようとしていた。
剣の丘で嘆く男の吸血鬼に立ち向かう背中が、仲間に見守られながら古びたドアを潜る少年の背中に重なる。
多くの人の人生を踏みにじった罪深い男は、少女を信用させようとついた嘘からついには本物の正義の味方になった。
かつて命を弄んだ男は、反逆を旨とするトリーズナーに出会い、真っ向から弱い自分に反逆した。
闇より生まれたはずの王子は、師を得て、友を得て正義の系譜を継いで行く。
一瞬見えた光景には、マスターとは別の少女の手に握られた自分の姿すらある。
先ほど"高町なのは"を殺した少女が、目に確固たる正義の意志を浮かべ、別の女の凶行を止めようとしていた。
剣の丘で嘆く男の吸血鬼に立ち向かう背中が、仲間に見守られながら古びたドアを潜る少年の背中に重なる。
多くの人の人生を踏みにじった罪深い男は、少女を信用させようとついた嘘からついには本物の正義の味方になった。
かつて命を弄んだ男は、反逆を旨とするトリーズナーに出会い、真っ向から弱い自分に反逆した。
闇より生まれたはずの王子は、師を得て、友を得て正義の系譜を継いで行く。
一瞬見えた光景には、マスターとは別の少女の手に握られた自分の姿すらある。
そのすべては確かに多元世界のどこかであったこと。
ぶつかり合う螺旋の先には無限の闇があり、それと同時、無限の光があった。
宇宙という無明の闇に、確かに輝く星々があるように。
そう、天の光はすべて星。
そのどれもがクロスミラージュという存在を惹きつけてやまない、"希望"という名の星々(スターズ)なのだ。
宇宙という無明の闇に、確かに輝く星々があるように。
そう、天の光はすべて星。
そのどれもがクロスミラージュという存在を惹きつけてやまない、"希望"という名の星々(スターズ)なのだ。
『私は……その光を信じる、そうだとも……人を信じる自分を信じる!
それが私の答えだッ! 誰にも文句は言わせるものか!!』
それが私の答えだッ! 誰にも文句は言わせるものか!!』
それがクロスミラージュの出した答え。
人と機械の狭間を生きる彼が出した、たった一つの真実。
人と機械の狭間を生きる彼が出した、たった一つの真実。
「へ……へへっ、言うじゃねえかクロミラ」
そして、この男も折れはしない。
「そうだ……俺にゃあ難しいことはわかんねえ。
ジジィの言うことだってあながち間違いだけってわけじゃねえ。
だがよ……ぉっ!」
ジジィの言うことだってあながち間違いだけってわけじゃねえ。
だがよ……ぉっ!」
カミナは曲がらない。
その背中に、何かを背負っている限り。
炎のように燃えるグレン団の魂を背負う限り、折れることも曲がることも無い。
今にも折れそうな心は相棒が支えてくれる。
だから愚直なまでにまっすぐに突き進むことができるのだ。
その背中に、何かを背負っている限り。
炎のように燃えるグレン団の魂を背負う限り、折れることも曲がることも無い。
今にも折れそうな心は相棒が支えてくれる。
だから愚直なまでにまっすぐに突き進むことができるのだ。
「そうだ、俺の信じた俺は……俺の信じたダチどもが、グレン団が!!
こんなちっぽけであってたまるかよおおおおおおっ!!」
こんなちっぽけであってたまるかよおおおおおおっ!!」
――墓穴を掘っても掘り抜けて、突き抜けたなら俺の勝ちだ!
……どこからか、とても懐かしい声が聞こえる。
そうだ、間違っててもいい。
そうだ、間違っててもいい。
間違ってても、信じて貫けばそれはきっと本物になれる。
誰が何と言おうと、それが――俺の宇宙の真実だ。
誰が何と言おうと、それが――俺の宇宙の真実だ。
その時、カミナは右手に感じたのは微かな痛みと燃えるような灼熱。
右手の甲に輝くのは王者の証。太古から連綿と続いてきた人類の守護者の紋章。
今、ここに生まれたのは歴代で最も未熟で、だがしかし、最も真っ直ぐなキング・オブ・ハート!
右手の甲に輝くのは王者の証。太古から連綿と続いてきた人類の守護者の紋章。
今、ここに生まれたのは歴代で最も未熟で、だがしかし、最も真っ直ぐなキング・オブ・ハート!
「バ、ばかなっ!! 貴様などがキング・オブ・ハートに!」
「馬鹿はテメェだ……クソジジイ!」
「馬鹿はテメェだ……クソジジイ!」
そう、あいつも味方してくれるのだ。
アイツだけじゃない。声は聞こえない、だがそれでも確かにみんなを感じるのだ。
だったらよ、
アイツだけじゃない。声は聞こえない、だがそれでも確かにみんなを感じるのだ。
だったらよ、
「行こうぜ、みんなでよぉっ!」
カミナの叫びに応えるように、グレンラガンの右手が金色に光り輝く。
同時、右手に握られた巨大クロスミラージュが再分解され、構成される。
その姿はドリル。グレンラガンよりも巨大な光の螺旋。
同時、右手に握られた巨大クロスミラージュが再分解され、構成される。
その姿はドリル。グレンラガンよりも巨大な光の螺旋。
「俺のこの手が唸りを上げるッ!」
ドリル。それはカミナが信じた想いの象徴。
どんな固い岩盤をも貫く男の武器。
どんな固い岩盤をも貫く男の武器。
『螺旋となって、全てを砕く!』
ドリル。それはクロスミラージュが信じた人の姿。
一回転するたびに、少しずつ前へと進む進化の具現。
一回転するたびに、少しずつ前へと進む進化の具現。
「友との絆が天へと響きぃっ!」
光の螺旋の中、二対の目が睨むのは天上に輝く月。
この世界に残された最後の壁。
この世界に残された最後の壁。
『無限の地獄を貫き通す!!』
グレンラガンの全身が金色と碧色に染まり、極彩の輝きを放つ。
「それが、俺たちの!」
『私たちの!』
「「「「「「「俺達、グレン団の!!」」」」」」」
『私たちの!』
「「「「「「「俺達、グレン団の!!」」」」」」」
その声は一つではない。
螺旋の向こう側、多元世界を貫いて、無限の声がシンクロする。
螺旋の向こう側、多元世界を貫いて、無限の声がシンクロする。
「「「「「『みんなの! ドリルだぁあああああああああああああああああああっっ!!!』」」」」」」
そして重なり合う声の中で、グレンラガンは光のドリルと一体化する。
極光のドリルは2機の中間で燻っていたエネルギーすら螺旋のうちに取り込みながら天を目指す。
その道は誰にも止められない。
――例え、その間にどんな障害があろうとも。
極光のドリルは2機の中間で燻っていたエネルギーすら螺旋のうちに取り込みながら天を目指す。
その道は誰にも止められない。
――例え、その間にどんな障害があろうとも。
「う……おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!?」
圧倒的な光の嵐の中に、最強の武闘家の姿が消えていく。
クロスミラージュたちから最早その姿は見えず、声も聞こえない。
だからその最後は苦難に満ちたものだったのか、それとも安らかなものであったのか。
それは本人にしかわからない。
ただ一つ確かなのは光の螺旋に巻き込まれ、今度こそ、野望に生きた男はその苦難の生を終えたということだけだ。
クロスミラージュたちから最早その姿は見えず、声も聞こえない。
だからその最後は苦難に満ちたものだったのか、それとも安らかなものであったのか。
それは本人にしかわからない。
ただ一つ確かなのは光の螺旋に巻き込まれ、今度こそ、野望に生きた男はその苦難の生を終えたということだけだ。
『……ぐっ!?』
だが、天を目指し突き進んでいたグレンラガンに異変が起こる。
あまりに強大なその力に、グレンラガン自身が崩壊を始めたのだ。
しかもそのスピードは――あまりにも早い。
あまりに強大なその力に、グレンラガン自身が崩壊を始めたのだ。
しかもそのスピードは――あまりにも早い。
『このままでは……月に届く前に……!』
燃え尽きてしまう。
クロスミラージュの冷静な頭脳は残酷な事実を弾き出す。
クロスミラージュの冷静な頭脳は残酷な事実を弾き出す。
ここまで来て、届かないのか。
クロスミラージュは悔しさに歯噛みする。
だが、その瞬間、ラガンのコックピットに衝撃が走る。
彼が目を上げれば大きな手のひらに視界が多い尽くされていた。
そう、唯一残ったグレンラガンの手が、グレンラガンの頭部を――ラガンを掴んでいた。
クロスミラージュは悔しさに歯噛みする。
だが、その瞬間、ラガンのコックピットに衝撃が走る。
彼が目を上げれば大きな手のひらに視界が多い尽くされていた。
そう、唯一残ったグレンラガンの手が、グレンラガンの頭部を――ラガンを掴んでいた。
「いっけええええええ、クロミラアアアアアアッ!!」
乾坤一擲。
そしてそのまま天の歪、月に向けて思いきり投げ飛ばした。
青い流星の如く、ラガンは天に向かって舞い上がる。
だがその代償として、グレンはその反動で四肢をばらばらに砕け散らせながら、地上へと落ちていく。
そのコックピットから、カミナは天へと上っていく弾丸を見つめる。
そしてそのまま天の歪、月に向けて思いきり投げ飛ばした。
青い流星の如く、ラガンは天に向かって舞い上がる。
だがその代償として、グレンはその反動で四肢をばらばらに砕け散らせながら、地上へと落ちていく。
そのコックピットから、カミナは天へと上っていく弾丸を見つめる。
目に映るのは金色の月へと飛び立つラガン。
だが次第にそのシルエットは滲み、輪郭を失っていく。
代わりに見えるのは背中だ。
偉大な父親の、信頼する弟分の、そしてもう一人の相棒の背中が。
だが次第にそのシルエットは滲み、輪郭を失っていく。
代わりに見えるのは背中だ。
偉大な父親の、信頼する弟分の、そしてもう一人の相棒の背中が。
――そう、いつだってオレは背中を見てきた。
親父の背中を追って、シモンの背中を守って、そして今、アイツの背中を押した。
そうだ、今度こそ押すことができたんだ。
親父の時は遅すぎて、シモンの時は遠すぎた。
それでも、今度は間に合った。
あの背中を、俺は……押せたんだ。
最後の最後に取りこぼさずにすんだんだ。
それだけで――満足だ。
そうだ、今度こそ押すことができたんだ。
親父の時は遅すぎて、シモンの時は遠すぎた。
それでも、今度は間に合った。
あの背中を、俺は……押せたんだ。
最後の最後に取りこぼさずにすんだんだ。
それだけで――満足だ。
『アニキ!』
『カミナ!』
『カミナ!』
聞き覚えのある声に振り返れば、懐かしい顔が勢揃いしてやがる。
丁度良いところに来てくれたな。
なぁ、お前ら……見えるか。あいつの背中が。
不滅不朽のグレン団の炎のマークが。
丁度良いところに来てくれたな。
なぁ、お前ら……見えるか。あいつの背中が。
不滅不朽のグレン団の炎のマークが。
『ああ、見えるのだ!』
『ええ、クロミラさんの背中に、しっかりと!』
『ええ、クロミラさんの背中に、しっかりと!』
そっか、じゃあ幻なんかじゃねえよな……
それにあとはアイツらが何とかしてくれるだろ。
それにあとはアイツらが何とかしてくれるだろ。
『ああ、舞衣も、スパイクも、ねねねも、ゆたかも――あの傲慢な男もきっと負けはせん』
へっ……やっぱお前もそう思うか。
だったら、やるこたやったし……俺はそろそろ行くとすっか。
行く先は光の向こう……だが、その先に何があるか俺は知ってる気がする。
だから不安は無い。だが最後にもう一度振り返り、あいつの背中を目に焼き付ける。
だったら、やるこたやったし……俺はそろそろ行くとすっか。
行く先は光の向こう……だが、その先に何があるか俺は知ってる気がする。
だから不安は無い。だが最後にもう一度振り返り、あいつの背中を目に焼き付ける。
これは多分永遠の別れってやつじゃねぇ。
また、いつか何処かで会えると俺は知っている。
だからその時まで……
また、いつか何処かで会えると俺は知っている。
だからその時まで……
「あばよ……ダチ公」
◇
スピーカーから僅かに聞こえた声にクロスミラージュは瞼を閉じる。
声が小さすぎて何を言ったのかはわからないが、それが命の消える"音"なのだと理解したからだ。
声が小さすぎて何を言ったのかはわからないが、それが命の消える"音"なのだと理解したからだ。
そもそもここまで持ったことこそ奇跡なのだ。
あの時、カミナは確かに死んでいた。
とっさに『生命力を魔力に変換できるのなら、その逆も可能ではないか』と考えて、
その体に"気合"と称し、叩き込んだのだ。
あの時、カミナは確かに死んでいた。
とっさに『生命力を魔力に変換できるのなら、その逆も可能ではないか』と考えて、
その体に"気合"と称し、叩き込んだのだ。
――いや、それも後付の理由だ。
カミナはこんなところで終わる男ではないと、そう思った瞬間右手を振り上げていただけのこと。
そして彼は成し遂げた。
期待を背負い、それに確かに応えて。
カミナはこんなところで終わる男ではないと、そう思った瞬間右手を振り上げていただけのこと。
そして彼は成し遂げた。
期待を背負い、それに確かに応えて。
そして自分はどうだろう。
彼の期待に応えられただろうか。
相棒として、男として、自分の命はそれに応えられただろうか。
彼の期待に応えられただろうか。
相棒として、男として、自分の命はそれに応えられただろうか。
そう、命だ。
自分の手元を見れば、まるでガラスのように両手と両足が透けていく。
過剰な螺旋力に急造の肉体では耐え切れなかったのだろう。
それが意味するのは確実な死。
だというのに、
自分の手元を見れば、まるでガラスのように両手と両足が透けていく。
過剰な螺旋力に急造の肉体では耐え切れなかったのだろう。
それが意味するのは確実な死。
だというのに、
『……なぜ、笑っているのでしょうかね、私は』
口の端が持ち上がっているのがわかる。
死ぬのは、消えるのは怖い。
融合した螺旋生命体の本能もそう告げている。
だが、答えを得た今、それを上回るほどの喜びが全身を満たしているのだ。
人が素晴らしいと思える――その答えを。
融合した螺旋生命体の本能もそう告げている。
だが、答えを得た今、それを上回るほどの喜びが全身を満たしているのだ。
人が素晴らしいと思える――その答えを。
ああ……人は素晴らしい存在ですね、ティアナ。
こんな絶望しかない世界でも希望を持って進む強さがあるのだから。
そして今、彼らと同じ存在になれたことが、どうしようもなく嬉しいのです。
大声で泣きたいぐらいに、大声で笑い出したいぐらいに。
だから、もしも生まれ変わったのならば私は人になりたい。
魂を持つ存在になりたい。
こんな絶望しかない世界でも希望を持って進む強さがあるのだから。
そして今、彼らと同じ存在になれたことが、どうしようもなく嬉しいのです。
大声で泣きたいぐらいに、大声で笑い出したいぐらいに。
だから、もしも生まれ変わったのならば私は人になりたい。
魂を持つ存在になりたい。
Mr.明智のような冷静さと優しさを併せ持つ人間に。
ニアのような優しさを持つ人間に。
ガッシュのような高貴さを持つ人間に。
ビクトリームのような誰かを楽しませる人間に。
ドモンのような誰かを守れる強さを持つ人間に。
貴女のような、弱さを強さに変えることの出来る人間に。
そして――『彼』のような真っ直ぐな人間に。
ニアのような優しさを持つ人間に。
ガッシュのような高貴さを持つ人間に。
ビクトリームのような誰かを楽しませる人間に。
ドモンのような誰かを守れる強さを持つ人間に。
貴女のような、弱さを強さに変えることの出来る人間に。
そして――『彼』のような真っ直ぐな人間に。
『彼』は不思議な男だった。
粗暴で、愚直で、決して頭の回る男ではなかった。
だが不思議と、魅力のある男だった。
只の機械である自分に対して、対等に接してきた。
真っ直ぐな視線で、ただ一個の存在として私を扱ってくれた。
自分もまたそれに引きずられるように、彼と対等に接してきた。
それはマスターとの間にあった絆とはまた違う、奇妙な信頼の形。
交わされた言葉、共に歩んだ光景、そして――彼のまっすぐな生き様。
そのどれもが掛け替えのないメモリーとして記録されている。
この記憶は、例え生まれ変わったとしても、きっと忘れることはないだろう。
粗暴で、愚直で、決して頭の回る男ではなかった。
だが不思議と、魅力のある男だった。
只の機械である自分に対して、対等に接してきた。
真っ直ぐな視線で、ただ一個の存在として私を扱ってくれた。
自分もまたそれに引きずられるように、彼と対等に接してきた。
それはマスターとの間にあった絆とはまた違う、奇妙な信頼の形。
交わされた言葉、共に歩んだ光景、そして――彼のまっすぐな生き様。
そのどれもが掛け替えのないメモリーとして記録されている。
この記憶は、例え生まれ変わったとしても、きっと忘れることはないだろう。
それにしても『生まれ変わり』、か。
ミッドチルダの科学技術でもいまだ証明されたことの無いそれは何と非科学的な答えだろう。
以前の自分なら、きっと否定していたに違いない。
だが……今なら言える。
ミッドチルダの科学技術でもいまだ証明されたことの無いそれは何と非科学的な答えだろう。
以前の自分なら、きっと否定していたに違いない。
だが……今なら言える。
『……それが、どうしたというのです』
そう、それがどうした。
存在しなければ存在させればいい。道が無ければ創ればいい。
可能性がないのなら、可能性を作るために足掻くまで。
できるできない、ではなくやるかやらないか――結局はただそれだけのことなのだ。
ねぇ、そうでしょう、カミナ。
無理を通して道理を蹴っ飛ばすのが私たち、グレン団のやり方なのでしょう?
存在しなければ存在させればいい。道が無ければ創ればいい。
可能性がないのなら、可能性を作るために足掻くまで。
できるできない、ではなくやるかやらないか――結局はただそれだけのことなのだ。
ねぇ、そうでしょう、カミナ。
無理を通して道理を蹴っ飛ばすのが私たち、グレン団のやり方なのでしょう?
気づけば結界の要石たる月が目の前に迫ってきている。
これならば目を閉じても当たるだろう。
そう確信してゆっくりとまぶたを閉じる。
初めて閉じた瞼の裏に、浮かんでくるのは大切な仲間たちの顔。
みんな、いつかどこかで、またお会いしましょう。
だから、その時まで――
これならば目を閉じても当たるだろう。
そう確信してゆっくりとまぶたを閉じる。
初めて閉じた瞼の裏に、浮かんでくるのは大切な仲間たちの顔。
みんな、いつかどこかで、またお会いしましょう。
だから、その時まで――
『――See you again, my friends(またな、ダチ公)』
◇
轟音と共に偽りの月が砕かれる。
砕かれた月から生まれたのは閃光、そして衝撃。
振動と共に放たれたそれはまさに世界の終焉。
全ての決着を見守っていた彼らにも、崩壊の序章として暴力のような風が襲い掛かる。
砕かれた月から生まれたのは閃光、そして衝撃。
振動と共に放たれたそれはまさに世界の終焉。
全ての決着を見守っていた彼らにも、崩壊の序章として暴力のような風が襲い掛かる。
「きゃ……!」
「ゆたか!」
「チッ……もっと固まれ! 手を離すなよ!」
「雑種風情が我に命令するか。身の程を――」
「いいから、お前もこっちに来い!」
「クェ!」
『衝撃波到達まで残り5秒』
『――来ます!』
「ゆたか!」
「チッ……もっと固まれ! 手を離すなよ!」
「雑種風情が我に命令するか。身の程を――」
「いいから、お前もこっちに来い!」
「クェ!」
『衝撃波到達まで残り5秒』
『――来ます!』
そして続けざまに来た衝撃波と閃光の中に、
弱くて強い少女が、火の舞姫が、片腕の賞金稼ぎが、最古の英雄王が、物語を綴った小説家が、
デバイスと小さな竜と共に消えていく。
弱くて強い少女が、火の舞姫が、片腕の賞金稼ぎが、最古の英雄王が、物語を綴った小説家が、
デバイスと小さな竜と共に消えていく。
――何もかもが光の中へと消えていく。
丘の上で全てを見守っていた少年の体も、運命に翻弄された兄弟の亡骸も、
争いに巻き込まれ成す術無く死んでいった儚きものたちも、
殺戮の繰り広げられた船も、英雄豪傑たちの戦いの跡も、一世一代のバカ騒ぎの傷痕も。
愛も、殺意も、友情も、打算も、希望も、絶望も、信頼も、裏切りも、
笑顔も、涙も、協調も、排他も、幸運も、不幸も、信念も、欲望も、
夢も、野望も、快楽も、苦痛も、栄光も、屈辱も、憧憬も、侮蔑も、
正義も、悪も、理性も、狂気も、誤解も、理解も、悲嘆も、憤怒も、
すべては白い闇の中へと溶けていく。
丘の上で全てを見守っていた少年の体も、運命に翻弄された兄弟の亡骸も、
争いに巻き込まれ成す術無く死んでいった儚きものたちも、
殺戮の繰り広げられた船も、英雄豪傑たちの戦いの跡も、一世一代のバカ騒ぎの傷痕も。
愛も、殺意も、友情も、打算も、希望も、絶望も、信頼も、裏切りも、
笑顔も、涙も、協調も、排他も、幸運も、不幸も、信念も、欲望も、
夢も、野望も、快楽も、苦痛も、栄光も、屈辱も、憧憬も、侮蔑も、
正義も、悪も、理性も、狂気も、誤解も、理解も、悲嘆も、憤怒も、
すべては白い闇の中へと溶けていく。
そして――何かがパリンと壊れる音が響き、
実験開始から36時間後……ついに、螺旋王の作り出した箱庭は崩壊した。
実験開始から36時間後……ついに、螺旋王の作り出した箱庭は崩壊した。
◇
――そこは、ひどく穏やかな場所だった。
その世界を構成するのは、たったの二色。
天を覆い尽くす蒼穹のブルー、大地を埋め尽くす新緑のグリーン。
二色で塗り分けられた世界は、しかしモノトーンとは違った深さを持って彼の視覚を刺激する。
その光景が刺激するのは視覚だけではない。
触覚が捉えるのは緑の絨毯を撫でる風。
味覚が知るのは舌に残る果物の蜜の味。
聴覚が捕らえるのは草同士が触れ合い響くシャラシャラという鈴のような音。
そして彼の嗅覚を刺激するのは、太陽と、緑の匂いだ。
天を覆い尽くす蒼穹のブルー、大地を埋め尽くす新緑のグリーン。
二色で塗り分けられた世界は、しかしモノトーンとは違った深さを持って彼の視覚を刺激する。
その光景が刺激するのは視覚だけではない。
触覚が捉えるのは緑の絨毯を撫でる風。
味覚が知るのは舌に残る果物の蜜の味。
聴覚が捕らえるのは草同士が触れ合い響くシャラシャラという鈴のような音。
そして彼の嗅覚を刺激するのは、太陽と、緑の匂いだ。
獣人であるヴィラルは五感のすべてを持って知る。
ここには何も無く、またそしてすべてがあるのだと。
誰かが求めた豊かな自然の中で、彼は飽きることなくその光景を眺めていた。
ここには何も無く、またそしてすべてがあるのだと。
誰かが求めた豊かな自然の中で、彼は飽きることなくその光景を眺めていた。
そしてその視界に僅かな変化が現れる。
地平線の彼方まで続く草原の中を、一房の麦穂が駆けていく。
それは、流れるような金の髪を持った1人の少女だった。
地平線の彼方まで続く草原の中を、一房の麦穂が駆けていく。
それは、流れるような金の髪を持った1人の少女だった。
「――パパ!!」
金髪の少女が大声で叫び、満面の笑みをヴィラルに向ける。
「あのね、あっちの方に何か動く物が見えたの!
見に行ってきてもいい!?」
見に行ってきてもいい!?」
好奇心に目を輝かせる愛娘を目の前にして、ヴィラルはしばし考える。
実を言えばあまりよくない。
お転婆なこの少女は、目を放してしまえば大怪我しかねない危なっかしさがある。
正直に言えば、目の届く範囲でずっと見守っていたいのだが……
実を言えばあまりよくない。
お転婆なこの少女は、目を放してしまえば大怪我しかねない危なっかしさがある。
正直に言えば、目の届く範囲でずっと見守っていたいのだが……
「……あまり遠くには行くなよ」
「うん、わかってる!!」
「うん、わかってる!!」
その言葉も聞こえていないようで、まっすぐに走り出す。
止めたところで無駄なのなら、気持ちよく送り出すしかあるまい。
遠ざかってく小さな背中に、思わずため息をつく。
止めたところで無駄なのなら、気持ちよく送り出すしかあるまい。
遠ざかってく小さな背中に、思わずため息をつく。
「ふふ、ヴィラルさんは本当にあの子には弱いんですね」
隣でそう笑うのは少女に何処か似た面影を持つ女。
彼女の母であり、そして――彼が何よりも愛する一人の女だ。
彼女の母であり、そして――彼が何よりも愛する一人の女だ。
「……まったく、誰に似たのか知らないが、妙に頑固なところがあるからな」
「そうですか? ヴィラルさんに似てるところもけっこうありますよ」
……あまえんぼさんな所とか」
「そうですか? ヴィラルさんに似てるところもけっこうありますよ」
……あまえんぼさんな所とか」
いたずらっぽく微笑む女に何も言い返せず、無駄と知りつつも沈黙でささやかな抵抗を試みる。
だがそれすらも予想のうちだったようでシャマルの笑みは深くなるばかり。
……まったく、何時までたっても男は女というものに勝てない気がする。
だがそれすらも予想のうちだったようでシャマルの笑みは深くなるばかり。
……まったく、何時までたっても男は女というものに勝てない気がする。
その時、風が吹いた。
風は大草原を浚い、新たな草の音色と匂いを運ぶ。
そして頭上に輝く太陽はただ静かに俺たちを照らし続けている。
風は大草原を浚い、新たな草の音色と匂いを運ぶ。
そして頭上に輝く太陽はただ静かに俺たちを照らし続けている。
――穏やかだ。まるで今の俺の心の中のように。
愛しいものと過ごす日々は黄金のよう。
常に新鮮な驚きと暖かな安らぎに満ちていた。
ああ、これ以上、何を望めというのか。
嵐のような戦いは遥か遠く、凪のような日々が過ぎ去っていく。
輝かしい武勲も、血湧き肉踊る戦いの興奮も、この安らぎの前には色褪せてしまう。
ただ生きる――それだけのことが、こんなにも嬉しいだなどと何故知らなかったのだろう。
愛しいものと過ごす日々は黄金のよう。
常に新鮮な驚きと暖かな安らぎに満ちていた。
ああ、これ以上、何を望めというのか。
嵐のような戦いは遥か遠く、凪のような日々が過ぎ去っていく。
輝かしい武勲も、血湧き肉踊る戦いの興奮も、この安らぎの前には色褪せてしまう。
ただ生きる――それだけのことが、こんなにも嬉しいだなどと何故知らなかったのだろう。
「ねぇ、ヴィラルさん。何、考えてるんですか?」
そっとこちらの顔を覗き込む愛しい女。
答えの代わりに、そっと肩を抱き寄せる。
答えの代わりに、そっと肩を抱き寄せる。
「ん……」
シャマルもそれに応える様に体重をこちらに預けてくる。
胸に伝わる温もりと花のような香りを感じ、目を閉じる。
胸に伝わる温もりと花のような香りを感じ、目を閉じる。
「ヴィラルさん……ずっと、一緒ですよ」
「当然だ。二度と……この手を離しはしない」
「当然だ。二度と……この手を離しはしない」
そしてしっかりと手を握り締める。
どんな暗闇の中でも離さないように。
二度と離れ離れにならないように。
繋がれた右手を通して、シャマルのぬくもりと鼓動を感じ続ける。
どんな暗闇の中でも離さないように。
二度と離れ離れにならないように。
繋がれた右手を通して、シャマルのぬくもりと鼓動を感じ続ける。
ああ、俺は幸せだ。
世界中で誰よりも。
言葉で、ぬくもりで、全身を使って――
ただ、それだけを愛しい女に伝えたかった。
世界中で誰よりも。
言葉で、ぬくもりで、全身を使って――
ただ、それだけを愛しい女に伝えたかった。
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