〆(肆)◆tu4bghlMIw
「以上、ラッドとかがみのラッドみんコンビのVTRでした」
「やっぱり似てるの……特に髪の色とか」
「はぁ……もういいや。そうね。しっかりと否定できないのが辛い所だけど」
「だったら染めればいいの……ピンクとかに」
「……何でピンク」
「今なら……眼鏡と黒タイツも付いてくるの」
「――ことみ?」
「ざ、戯言だったの……」
「やっぱり似てるの……特に髪の色とか」
「はぁ……もういいや。そうね。しっかりと否定できないのが辛い所だけど」
「だったら染めればいいの……ピンクとかに」
「……何でピンク」
「今なら……眼鏡と黒タイツも付いてくるの」
「――ことみ?」
「ざ、戯言だったの……」
口元だけの歪な笑みを浮かべた杏からことみが眼を背ける。
ラッドにまでか○みと「似てる」などと言われて杏は大分苛立っていた。
あんなツインテールと一緒にしないで貰いたい、瞳はそう語っていた。
ラッドにまでか○みと「似てる」などと言われて杏は大分苛立っていた。
あんなツインテールと一緒にしないで貰いたい、瞳はそう語っていた。
「さてと、じゃあそろそろ良いわよね。二人とも、入っていいわよ!」
が、そんな心の波紋を振り払うかのように杏が大声を張り上げる。
ゲストの登場――元々緊張感など皆無に等しかったスタジオ内に微妙にピリピリとした空気が流れる。
ゲストの登場――元々緊張感など皆無に等しかったスタジオ内に微妙にピリピリとした空気が流れる。
来客が超VIPであるから、という理由も確かに存在はする。
だが、最も正解に近い答えとは「スタッフも誰がゲストに来るのか知らない」からだった。
今この場でゲストの正体を知っているのはパーソナリティの二人だけなのだ。
だが、最も正解に近い答えとは「スタッフも誰がゲストに来るのか知らない」からだった。
今この場でゲストの正体を知っているのはパーソナリティの二人だけなのだ。
「このような賑やかな場は、性に合わんな」
「フン。この俺をわざわざ呼びつけるとは……招待に応じてやっただけ有り難いと思って貰いたいものだ」
「フン。この俺をわざわざ呼びつけるとは……招待に応じてやっただけ有り難いと思って貰いたいものだ」
ぶつくさと文句を言いながら控え室へと繋がる扉から出て来る二人の男。
彼の姿を捉えた瞬間、スタジオ内に衝撃が走った。
現れたのは――あまりにも予想外、いや明らかに超本命ながら実現不可能だと思われていた二人だったからだ。
彼の姿を捉えた瞬間、スタジオ内に衝撃が走った。
現れたのは――あまりにも予想外、いや明らかに超本命ながら実現不可能だと思われていた二人だったからだ。
彼らはゆっくりとした足取りでスタジオの中央、ソファの置かれた場所へと歩み寄った。
そして立ち上がり微笑を浮かべていることみと杏を一瞥。
数秒の間、値踏みをするような視線で彼女達を眺めた挙句、何も言わずに腰を降ろした。
そして立ち上がり微笑を浮かべていることみと杏を一瞥。
数秒の間、値踏みをするような視線で彼女達を眺めた挙句、何も言わずに腰を降ろした。
すぐさまことみ達も一礼し、着席。
「ごめんなさいね。じゃあ、自己紹介お願い出来るかしら」
「…………螺旋王、ロージェノムだ」
「……そっちは〝元〟だろ? この場では……そうだな。こう名乗っておこう。
俺が現・螺旋王ルルーシュ・ランペルージだ」
「よくそのような口が利けるものだな……ッ!」
「……どうどうなの。……まぁ落ち着くの」
「…………螺旋王、ロージェノムだ」
「……そっちは〝元〟だろ? この場では……そうだな。こう名乗っておこう。
俺が現・螺旋王ルルーシュ・ランペルージだ」
「よくそのような口が利けるものだな……ッ!」
「……どうどうなの。……まぁ落ち着くの」
ありえない取り合わせである――その場のスタッフ一同がごくり、と息を呑んだ。
画面に移っているのは四人の人間である。
既に見慣れたであろう藤林杏と一ノ瀬ことみは問題ではない。
焦点はゲストの二人である。
既に見慣れたであろう藤林杏と一ノ瀬ことみは問題ではない。
焦点はゲストの二人である。
禿頭髭面の大男。
アニメキャラ・バトルロワイアル2nd、初代主催者兼螺旋王――ロージェノム。
アニメキャラ・バトルロワイアル2nd、初代主催者兼螺旋王――ロージェノム。
スラッとした細身の黒髪の少年。
アニメキャラ・バトルロワイアル2ndにおける二代目主催者兼螺旋王――ルルーシュ・ランペルージ。
アニメキャラ・バトルロワイアル2ndにおける二代目主催者兼螺旋王――ルルーシュ・ランペルージ。
二人の顔のすぐ下に白い文字でテロップが挿入される。
そこにおいても、この『初代』と『二代目』の関係は変わらない。
そこにおいても、この『初代』と『二代目』の関係は変わらない。
「えーっと、多分画面の前の皆さんも驚いてると思うのよね」
「今までひたすら死者しか出てこなったこの番組に……いきなりロージェノムさんとルルーシュくんのゲスト出演」
「ビックリするな、って方が無理な注文よね。多分」
「今までひたすら死者しか出てこなったこの番組に……いきなりロージェノムさんとルルーシュくんのゲスト出演」
「ビックリするな、って方が無理な注文よね。多分」
ポリポリと頬を照れくさそうに掻く杏。
ことみはテーブルの上に置かれたジュースを美味しそうにチューチューと啜っている。
ことみはテーブルの上に置かれたジュースを美味しそうにチューチューと啜っている。
「ロージェノムはともかく、参加者のルルーシュもいるのよね」
「…………あ。もしかして、杏ちゃん……知らない?」
「……へ。何が?」
「…………あ。もしかして、杏ちゃん……知らない?」
「……へ。何が?」
ことみはコトンとコップを置くと、呆けた表情を浮かべる杏に耳打ちした。
「その……ルルーシュくんの髪の毛に……注目」
「……あっ!」
「どうした?」
「…………な、なんでもないわ! そ、そういう事ね……」
「……あっ!」
「どうした?」
「…………な、なんでもないわ! そ、そういう事ね……」
ルルーシュの髪の毛――少しだけ長い後ろ髪――を確認した杏は大きく何度も頷いた。
「でも、コレ……なんかあたし達とは別の意味で不味いんじゃ……」
「チッチッチ……なの。まぁ恒例のぶっちゃけた話をすると……この総集編は基本的に本編にはノータッチ。
困った時は『多元宇宙』と『螺旋力』が……何とかしてくれるの。まだ慌てるような時間じゃないの。
新しいパニッシャーだって空から降って来るの……だから、」
「チッチッチ……なの。まぁ恒例のぶっちゃけた話をすると……この総集編は基本的に本編にはノータッチ。
困った時は『多元宇宙』と『螺旋力』が……何とかしてくれるの。まだ慌てるような時間じゃないの。
新しいパニッシャーだって空から降って来るの……だから、」
ことみが言葉を切ったと同時に、画面の下に新しいテロップが出現する。
冒頭で見かけた注意書きと同じ書体だ。文面は至って簡素。たったの一行だけだ。
冒頭で見かけた注意書きと同じ書体だ。文面は至って簡素。たったの一行だけだ。
――CAUTION――
◆ご注意
※ルルーシュの後ろ髪はただ長いだけです。
※ルルーシュの後ろ髪はただ長いだけです。
――CAUTION――
「…………(こくこく)」
「じゃ、じゃあ皆納得したようだし、いい加減番組を進めましょうか」
「もう一度説明しておくと……ここにいるのは螺旋王を辞職した人と螺旋王に就任したっぽい人。
でも……どっちもそれが本当かどうかは分からないの。コレ、とってもとっても……大事なことなの……。
しつこい人にはわたしが銀河を投げてお仕置きするの……」
「ことみ、また適当な事言って……ったく」
「じゃ、じゃあ皆納得したようだし、いい加減番組を進めましょうか」
「もう一度説明しておくと……ここにいるのは螺旋王を辞職した人と螺旋王に就任したっぽい人。
でも……どっちもそれが本当かどうかは分からないの。コレ、とってもとっても……大事なことなの……。
しつこい人にはわたしが銀河を投げてお仕置きするの……」
「ことみ、また適当な事言って……ったく」
大げさなリアクションと共に杏も目の前に置かれたグラスの中身を呷った。
妙にどろり、としていてしつこい甘さが後を引く。
色と味から判断するに、おそらくピーチ味で間違いないのだろうがあまりに濃厚過ぎて喉を中々通らない。
が、一生懸命飲み干す。
コップの中にはまだ半分以上液体(半流体?)が残っているが、おそらくもう手は付けないだろう。
妙にどろり、としていてしつこい甘さが後を引く。
色と味から判断するに、おそらくピーチ味で間違いないのだろうがあまりに濃厚過ぎて喉を中々通らない。
が、一生懸命飲み干す。
コップの中にはまだ半分以上液体(半流体?)が残っているが、おそらくもう手は付けないだろう。
「二人には……これからしばらく番組を一緒に進めて貰うの」
「つまり、それは私に話せ、という事か? ――『螺旋のはじまり』を」
「なの。外伝の話数自体は少ないのだけれど……あれは設定固めの意味合いが強くて少し難しいの……。
簡単で大雑把な解説が出来ればベター」
「つまり、それは私に話せ、という事か? ――『螺旋のはじまり』を」
「なの。外伝の話数自体は少ないのだけれど……あれは設定固めの意味合いが強くて少し難しいの……。
簡単で大雑把な解説が出来ればベター」
アニメキャラバトルロワイアル2ndはぶっちゃけた話、非常にややこしい。
特に天元突破と螺旋力覚醒に関する正しい理由は普通に物語を追っているだけでは見逃してしまう可能性もある。
故に新規読者にも、既読者にも優しい番組作りが求められる訳だ。
特に天元突破と螺旋力覚醒に関する正しい理由は普通に物語を追っているだけでは見逃してしまう可能性もある。
故に新規読者にも、既読者にも優しい番組作りが求められる訳だ。
「そうか、分かった。それではまず――」
「待て、ロージェノム」
「……どうした、ルルーシュよ」
「司会者。一つ聞かせて貰おう。この番組は後はバトルロワイアルの成り立ちを解説して終わりなのか?」
「……うん。その予定だけど」
「待て、ロージェノム」
「……どうした、ルルーシュよ」
「司会者。一つ聞かせて貰おう。この番組は後はバトルロワイアルの成り立ちを解説して終わりなのか?」
「……うん。その予定だけど」
不思議そうな顔で杏が聞き返す。するとルルーシュは憎々しげな顔付きで、
「それは妙だな」
「妙?」
「まず――そうだな。俺の話題が全く出ていない事についてはどう説明するつもりだ?」
「妙?」
「まず――そうだな。俺の話題が全く出ていない事についてはどう説明するつもりだ?」
ルルーシュの不満――それは、最終回における最重要人物のポジションが半ば確定しているように見える自分の、総集編における影の薄さだった。
最終回前日のブースターであるはずのこの番組で、全く取り上げない事などあってはならないと考えたのである。
最終回前日のブースターであるはずのこの番組で、全く取り上げない事などあってはならないと考えたのである。
「…………だってバトル系の話にまるで絡んでないんだから仕方ないの」
「……何?」
「……何?」
ピクリ、と眉を動かしたルルーシュに対して、ことみが無表情のまま反論する。
「…………ルルーシュくん、寝過ぎなの。気絶し過ぎなの。もやし過ぎなの」
「うっ!」
「それに、全体の流れで見ると……本当に、主催交替まで中ぐらいのイベントばかり。微妙に紹介し難いの
でも、序盤を除けば存在感自体はかなりあったのだけれど……」
「ば、バカな……」
「うっ!」
「それに、全体の流れで見ると……本当に、主催交替まで中ぐらいのイベントばかり。微妙に紹介し難いの
でも、序盤を除けば存在感自体はかなりあったのだけれど……」
「ば、バカな……」
項垂れるルルーシュ。
考えてみればこの世界ではイマイチ地味だったかもしれない。
働きがいぶし銀過ぎたのかもしれない。そんな不安がルルーシュの胸中を過ぎる。
いや、だが待って欲しい。
確実に自分は主催者の器へ収まっても異論の出ない「格」を持ち合わせている。
巡り合わせが悪かっただけだ。どちらにしろ最終回での活躍は約束されたも同ぜ――
考えてみればこの世界ではイマイチ地味だったかもしれない。
働きがいぶし銀過ぎたのかもしれない。そんな不安がルルーシュの胸中を過ぎる。
いや、だが待って欲しい。
確実に自分は主催者の器へ収まっても異論の出ない「格」を持ち合わせている。
巡り合わせが悪かっただけだ。どちらにしろ最終回での活躍は約束されたも同ぜ――
「あ、ちなみに参加者インタビューのコメント。ルルーシュくんとヴィラルさんの分だけないの」
ぽつり、と。
極めてさり気ない口調でことみが言った。
極めてさり気ない口調でことみが言った。
「な……待て! 何故アイツと同じ扱いをされなければならんのだ!? さすがに聞き捨てならんぞ!」
「これは本当に謝らないといけない事よね……あの、それがね。
枢木スザクとアポを取ってあったんだけど……考えてみたら彼一話退場で他に話すことがなくて。
『意外とヴィラルさんって強いですよね』とかみたいな会話しか成立しないんだもの」
「……番組構成の都合上、カットせざるを得なかったの」
「クッ……まさか、そんな……!」
「これは本当に謝らないといけない事よね……あの、それがね。
枢木スザクとアポを取ってあったんだけど……考えてみたら彼一話退場で他に話すことがなくて。
『意外とヴィラルさんって強いですよね』とかみたいな会話しか成立しないんだもの」
「……番組構成の都合上、カットせざるを得なかったの」
「クッ……まさか、そんな……!」
主催者という立場に相応しい人選をしたかったのだが、その願いは叶わず。
結局、微妙な内容だったのでカットしてしまえ、というのがことみの下した英断だった。
結局、微妙な内容だったのでカットしてしまえ、というのがことみの下した英断だった。
「では、これならばどうだ? 俺が今からヴィラルへ〝気持ちを込めた〟メッセージを送る。その代わりといっては何だが――」
「……内容次第かしら」
「……内容次第かしら」
が、どうやらルルーシュ本人はスザクの残した言葉を相当聞いてみたいらしい。
問題は他の部分にこそありそうなのに、難儀な事である。
問題は他の部分にこそありそうなのに、難儀な事である。
しかし、ことみ達にしてみればコレは渡りに船の展開だ。
明らかに宿敵のルルーシュからヴィラルに向けた言葉。
どう考えても恨み辛みの怨嗟であろうが、ルルーシュは馬鹿ではない。意外と場を弁えてよさげな事を言うかもしれない。
明らかに宿敵のルルーシュからヴィラルに向けた言葉。
どう考えても恨み辛みの怨嗟であろうが、ルルーシュは馬鹿ではない。意外と場を弁えてよさげな事を言うかもしれない。
「よし、よく聞け。一度しか言わんぞ」
「はいはい」
「はいはい」
「ククク……フハハハハッ……フフフ……ハーッハハハハハハ!
ヴィラル! 『王』からの有り難い言葉だ。
俺は――スザクを殺した貴様を絶対に許さないッッ!
いいか、絶対だ。必ずこの『王の力』で、俺は貴様を断罪する。
嫁との幸せをせいぜい今の内に謳歌するがいい。
貴様に訪れるのは誰よりも悲惨で、凄惨で、身の毛も弥立つような永久の贖罪と悔恨の日々だけだ!
俺の『忠実な』部下達がすぐに貴様を俺の下へと連れて来るだろう。
騙されたと知った時のお前の顔が楽しみだよヴィラル。ククク……フフフ……フハーッハハハッハハハ!」
ヴィラル! 『王』からの有り難い言葉だ。
俺は――スザクを殺した貴様を絶対に許さないッッ!
いいか、絶対だ。必ずこの『王の力』で、俺は貴様を断罪する。
嫁との幸せをせいぜい今の内に謳歌するがいい。
貴様に訪れるのは誰よりも悲惨で、凄惨で、身の毛も弥立つような永久の贖罪と悔恨の日々だけだ!
俺の『忠実な』部下達がすぐに貴様を俺の下へと連れて来るだろう。
騙されたと知った時のお前の顔が楽しみだよヴィラル。ククク……フフフ……フハーッハハハッハハハ!」
「ボツ」
「な、にッ――!?」
「こんなの使える訳ないでしょ。常識的に考えてよ、もう」
「な、にッ――!?」
「こんなの使える訳ないでしょ。常識的に考えてよ、もう」
心底からうんざりしたような口調で杏がルルーシュを切り捨てる。
期待した自分が馬鹿だった、と少々肩を落としてさえいた。
だが、その時ことみが、
期待した自分が馬鹿だった、と少々肩を落としてさえいた。
だが、その時ことみが、
「でもその代わり、お便りが届いているの」
「手紙、だと。誰からだ」
「手紙、だと。誰からだ」
ルルーシュの問いかけに、懐から取り出した便箋を差し出すことみ。
確かにそれは手紙だった。
真っ白い無地の横書きの封筒である。両面を見ても、そこには一切の文字は書かれていない。
中に手紙が入っているかさえ疑わしい物品だった。
確かにそれは手紙だった。
真っ白い無地の横書きの封筒である。両面を見ても、そこには一切の文字は書かれていない。
中に手紙が入っているかさえ疑わしい物品だった。
「それは……言えないの。でも、仮にも主催者を適当な扱いは出来ない……アニロワ2ndはそういう配慮に長けたロワなの」
意味も分からぬまま、ルルーシュはそれを開封する。
そこには、
そこには、
『いつまで遊んでいるつもりだ。ルルーシュ、早く帰って来い』
という文面だけが細かい字で記されていた。
「こ、これは……っ!」
たったのそれだけ。
素っ気ない白色の封筒に薄い紙、短い台詞。
宛名もなければ送り主の名前もない。
だが、彼にとってはその言葉だけで何もかもが十分過ぎた。
素っ気ない白色の封筒に薄い紙、短い台詞。
宛名もなければ送り主の名前もない。
だが、彼にとってはその言葉だけで何もかもが十分過ぎた。
「これを……どう解釈するかは任せるの。
そもそも、今ココにいるルルーシュくんの存在すら明確な言葉では説明出来ないの。でも……」
そもそも、今ココにいるルルーシュくんの存在すら明確な言葉では説明出来ないの。でも……」
ことみが眼を細めて、小さく微笑んだ。
「今会場にいるルルーシュくんにも、この気持ちが届いたらいい……そんな風に思うの」
そのぶっきらぼうな言葉が誰から発せられたのか。
答えは、ない。確定的な未来は決して訪れることはないだろう。
しかし、誰もが――その送り主の名を『何となく』ではあっても悟ることは出来る。
答えは、ない。確定的な未来は決して訪れることはないだろう。
しかし、誰もが――その送り主の名を『何となく』ではあっても悟ることは出来る。
「……そう、だな」
「良いことをした後は気持ちがいいの……」
「良いことをした後は気持ちがいいの……」
口元を抑えながら、ルルーシュが吐き出すように呟いた。
スタジオの雰囲気が一気にまるで別の空間であるかのように一変した。
もはや、ここがフォーグラーの内部であることすら忘れ去られてしまうのではないか、という状態である。
感極まった表情を見せるスタッフ。
言葉を発しないものの、はにかんだ様な顔付きのロージェノム。
そしてよく分からない役に入り込んでいるルルーシュとことみ。
もはや、ここがフォーグラーの内部であることすら忘れ去られてしまうのではないか、という状態である。
感極まった表情を見せるスタッフ。
言葉を発しないものの、はにかんだ様な顔付きのロージェノム。
そしてよく分からない役に入り込んでいるルルーシュとことみ。
たった一人、杏だけが目の前に置かれたどろりとした濃厚なピーチっぽい液体を眺めながら考えていた。
(……この番組、どういう方向性を目指しているんだろう)
と。
▽
【参加者インタビュー⑩】
●高嶺清麿(魔物の子「ガッシュベル」のパートナー/中学三年生・十五歳)
●高嶺清麿(魔物の子「ガッシュベル」のパートナー/中学三年生・十五歳)
――ルルーシュ・ランペルージについてどう思いますか。
あいつは魔物だよ。
人の形をしてはいる。だけど……もっとおぞましい存在。
言うなれば心を操る魔物、かな。ゾフィスと変わらない。
人の形をしてはいる。だけど……もっとおぞましい存在。
言うなれば心を操る魔物、かな。ゾフィスと変わらない。
あの濁った目、自分の利益しか考えていない腐った思考……絶対に負けちゃいけない相手だったのに……クソッ!
――やはり悔いが残りますか。
……そりゃあそうさ。
俺があそこでやられたせいで、事態は物凄い方向に進んだだろ?
まるで俺は路傍の石だよ。あいつにとって障害になる事すら出来なかったんだから。
俺があそこでやられたせいで、事態は物凄い方向に進んだだろ?
まるで俺は路傍の石だよ。あいつにとって障害になる事すら出来なかったんだから。
――メッセージをどうぞ。
ガァアアアアッシュ! 聞こえているか?
俺はお前のためにもう一度魔本を持ってやる事が出来なかった。
何があってもお前を優しい王様にしてやるって約束したのに、叶えてやる事が出来なかった。
お前にしてやれなかった事が、教えてやれなかった事が……まだ沢山ある。
俺はお前のためにもう一度魔本を持ってやる事が出来なかった。
何があってもお前を優しい王様にしてやるって約束したのに、叶えてやる事が出来なかった。
お前にしてやれなかった事が、教えてやれなかった事が……まだ沢山ある。
でもな。いいか、強くなれガッシュ!
今、お前には立派なパートナーがいるはずだ。
だから――俺が、死んでも、……お前は絶対に王になれ。
夢を諦めるんじゃないぞ。
分かったな……絶対、絶対だ。
今、お前には立派なパートナーがいるはずだ。
だから――俺が、死んでも、……お前は絶対に王になれ。
夢を諦めるんじゃないぞ。
分かったな……絶対、絶対だ。
ジン。〝頭〟が先に逝っちまって悪いと思ってるよ。
でもな、俺はお前が身体だけじゃあ動けない……とは思わない。
亀のように引っ込めた頭を突き出すのはまだ先か。
でも、いい加減出し惜しみは止めるべきじゃないか?
でもな、俺はお前が身体だけじゃあ動けない……とは思わない。
亀のように引っ込めた頭を突き出すのはまだ先か。
でも、いい加減出し惜しみは止めるべきじゃないか?
盗むんだろう――悪夢みたいなパーティの主催役を、さ。
それにさ。パーティの出席客が皆、湿っぽい顔じゃあ楽しくないだろ。
魅せてくれよ、王ドロボウ。期待してるぜ。
魅せてくれよ、王ドロボウ。期待してるぜ。
▽
【参加者インタビュー⑪】
●ニア(螺旋王ロージェノム第一王女/大グレン団調理主任・約十五歳)
●ニア(螺旋王ロージェノム第一王女/大グレン団調理主任・約十五歳)
――ロージェノムについてどう思いますか。
お父様ですか?
えっと、私、あなたの聞きたがっている事は喋れないと思います!
私、お父様の事、あんまり詳しくは知らないんです。
えっと、私、あなたの聞きたがっている事は喋れないと思います!
私、お父様の事、あんまり詳しくは知らないんです。
――作中ではシータとの女の戦いが目を引いたが。
戦いですか? でも、あれは戦いだったんでしょうか?
私にはよく分かりません。
だって、ずっとずっとシータさんは心の奥で泣いていたんです。
本当のシータさんはあんな酷い事が出来る人じゃないんです。
優しくて、強くて、可愛らしくて、素晴らしい女の人だと聞きました。
そう、ドーラおばさまが言ってたんですから。
私にはよく分かりません。
だって、ずっとずっとシータさんは心の奥で泣いていたんです。
本当のシータさんはあんな酷い事が出来る人じゃないんです。
優しくて、強くて、可愛らしくて、素晴らしい女の人だと聞きました。
そう、ドーラおばさまが言ってたんですから。
それに、おばさま。シータさんの事を話すときに物凄く嬉しそうな顔をするんです!
たぶん、おばさまはシータさんが大好きなんです! だから私も……。
たぶん、おばさまはシータさんが大好きなんです! だから私も……。
――メッセージをお願いします。
アニキさん! アニキさんは今何をやっていらっしゃるんですか? 何をしようとしていらっしゃるんですか?
私は、少し自分が何をすればいいのか分かった気がします。
ドリルです! 私達の心の中には大きくて強くて固い、ドリルがあるんです!
無理を通して道理を蹴っ飛ばす、とてもいい言葉だと思いました。
シモンがヨーコさんがいなくなっても、私の中のドリルは消えませんでした。
だから、きっと私がいなくなってもアニキさんのドリルはビクともしないはずです!
私は、少し自分が何をすればいいのか分かった気がします。
ドリルです! 私達の心の中には大きくて強くて固い、ドリルがあるんです!
無理を通して道理を蹴っ飛ばす、とてもいい言葉だと思いました。
シモンがヨーコさんがいなくなっても、私の中のドリルは消えませんでした。
だから、きっと私がいなくなってもアニキさんのドリルはビクともしないはずです!
見せて下さい。アニキさんの、アニキさんにしか出来ない天元突破を!
▽
「…………これは、だな」
「最低」
「さっきまでのいい雰囲気が一瞬で消し飛んだの……ルルーシュくん、酷過ぎるの……うう」
「最低」
「さっきまでのいい雰囲気が一瞬で消し飛んだの……ルルーシュくん、酷過ぎるの……うう」
大怪球フォーグラー内、特設スタジオの空気はまたも間逆の方向に変化した。
清麿のメッセージを聞いた事で『敵→ルルーシュ 主人公→ガッシュ・ジン』という構図がスタッフの頭に叩き込まれたのだ。
ムードは最悪である。
清麿のメッセージを聞いた事で『敵→ルルーシュ 主人公→ガッシュ・ジン』という構図がスタッフの頭に叩き込まれたのだ。
ムードは最悪である。
「この高嶺清麿という少年、螺旋力には半分しか覚醒しなかったのか。
素晴らしい素質を秘めているというのに……残念だな」
素晴らしい素質を秘めているというのに……残念だな」
そして、一人だけ真面目に分析をするロージェノム。
元が科学者だけあって、状況の考察は専門分野といった所だろうか。
むしろ、娘のニアのインタビューを完璧にスルーしている方が問題のようにも思える。
元が科学者だけあって、状況の考察は専門分野といった所だろうか。
むしろ、娘のニアのインタビューを完璧にスルーしている方が問題のようにも思える。
「……さてと、じゃあ気を取り直していくつか質問しましょうか。まず『どうしてバトロワをやろうとした』の?
ロージェノム、お願い」
「『実験のため』では不十分か?」
「そりゃあ。オープニングの時点ですら、それは判明してるしね」
「――では本腰を入れて答えようか。一言でいえば『螺旋力による、新世界の創造』がそもそもの実験の趣旨になる」
「これからは……VTRをマメに流しながら見ていくの」
ロージェノム、お願い」
「『実験のため』では不十分か?」
「そりゃあ。オープニングの時点ですら、それは判明してるしね」
「――では本腰を入れて答えようか。一言でいえば『螺旋力による、新世界の創造』がそもそもの実験の趣旨になる」
「これからは……VTRをマメに流しながら見ていくの」
【外伝】『ロージェノムは螺旋の王として配下の疑問に答える』
――――――――――――――――再生開始――――――――――――――――――――
――――――――――――――――再生開始――――――――――――――――――――
「多元宇宙を発見し、私がまず抱いた感情は、羨望だった」
語る。饒舌に、しかし厳格に。
「先ほどの映像にもあったとおり、私はアンチ=スパイラルに敗れ地球に追われた螺旋族の生き残り、言わば敗残兵だ」
夢浸る乙女のように、野望燃やす男児のように。
「諦観の裏で、反逆の牙を研いでいたことは事実。それは、叶わぬ悲願だった。しかし」
螺旋を知り尽くした男が、選び取る道。
「私は知った。我潰えるとしても、悲願が達成されるパターン、世界があったのだと。だからこその羨望だ」
獣の亜種たる者には、理解の及びつかぬ幻想夢想。
「しかし叶わぬ。あのようには事を進められぬ。我々の支配する人間たちは、シモンほど強くはないからだ」
最善でも最良でもなく、己がこれだと思う結果を模索する。
「しかし焦がれた。あのような結末に。そして私は考え至ったのだ。敗残兵として取るべき、新たな悲願を」
螺旋王ロージェノムが、多元宇宙を、螺旋力を、人間を、真に理解した、一つの結果。
「アンチ=スパイラルにも侵されぬ、新たな世界。そこで螺旋族による螺旋族のための歴史を、再興すると」
――――――――――――――――再生終了――――――――――――――――――――
パッと梅サワーの後方に配置されたモニターが切り替わる。
映し出されたのは螺旋四天王の前で演説するロージェノムの姿。
この映像こそがアニロワ2ndの根本を説明しているレアフィルムである。
映し出されたのは螺旋四天王の前で演説するロージェノムの姿。
この映像こそがアニロワ2ndの根本を説明しているレアフィルムである。
「もう一度分かり易く説明すると、
『真なる螺旋力に目覚めし者を利用し、アンチ=スパイラルが介入できない新世界を創造すること』が目的って事ね」
「焦点は、つまり……アンチ=スパイラル」
「そもそもの極限理想を語るならば、あのバカップルがアンチ=スパイラルに悟られる前に天元突破を果たせば問題なかったのだがな」
「ソレは流石にないな。楽観が過ぎる」
「あくまで理想さ、ロージェノム。お前だってそんなに上手く行く訳がないと思っていたからこそ『逃げる準備』を整えてあったんだろう?」
「……ッ」
『真なる螺旋力に目覚めし者を利用し、アンチ=スパイラルが介入できない新世界を創造すること』が目的って事ね」
「焦点は、つまり……アンチ=スパイラル」
「そもそもの極限理想を語るならば、あのバカップルがアンチ=スパイラルに悟られる前に天元突破を果たせば問題なかったのだがな」
「ソレは流石にないな。楽観が過ぎる」
「あくまで理想さ、ロージェノム。お前だってそんなに上手く行く訳がないと思っていたからこそ『逃げる準備』を整えてあったんだろう?」
「……ッ」
口元をニヤつかせながら、ルルーシュが言った。
そして、彼の言葉に反論出来ないロージェノムに更に愉悦を深める。
そして、彼の言葉に反論出来ないロージェノムに更に愉悦を深める。
「まぁそこは映像を見てから思う存分笑いましょう」
「うちの主催者がこんなにヘタレなわけがない……と、コレを見て言える人がいたら大したものなの」
「よし、再生スタート!」
「うちの主催者がこんなにヘタレなわけがない……と、コレを見て言える人がいたら大したものなの」
「よし、再生スタート!」
【外伝】『螺旋の国 -Spiral straggler-』
――――――――――――――――再生開始――――――――――――――――――――
――――――――――――――――再生開始――――――――――――――――――――
一室に、王と、客人と、客人の相棒が集っていた。
部屋の間取りは広かったかもしれないし、狭かったかもしれない。
部屋には茶会を気取ったように飲食物が置かれていたかもしれないし、置かれていなかったかもしれない。
客人は束縛された状態で嫌々話を聞いていたかもしれないし、むしろ喜々として耳を傾けていたかもしれない。
不要な情報は一切省く。そこには、話を切り出さんとする王と、聞き手である客人、同じく聞き手を務める客人の相棒がいた。
部屋の間取りは広かったかもしれないし、狭かったかもしれない。
部屋には茶会を気取ったように飲食物が置かれていたかもしれないし、置かれていなかったかもしれない。
客人は束縛された状態で嫌々話を聞いていたかもしれないし、むしろ喜々として耳を傾けていたかもしれない。
不要な情報は一切省く。そこには、話を切り出さんとする王と、聞き手である客人、同じく聞き手を務める客人の相棒がいた。
「諸君らを招いたのは、私がこれから始める計画について、意見を貰いたかったからだ」
王は、第三者の客観的な意見を求めた。
ひょっとしたら、自分の見通しは甘いかもしれない。そんな人間らしい恐れから来る、王らしくもない切望だった。
王の申し出に、客人がどのような感情を抱いたかはわからない。ただ、こくり、と頷いて席についた。それだけで十分だった。
ひょっとしたら、自分の見通しは甘いかもしれない。そんな人間らしい恐れから来る、王らしくもない切望だった。
王の申し出に、客人がどのような感情を抱いたかはわからない。ただ、こくり、と頷いて席についた。それだけで十分だった。
王は語る。これから、『実験』を始める……と。
それはどのような実験ですか、と客人が訪ねると、王は、螺旋力による新世界の創世は可能か否かを見極める実験だ、と返した。
客人は、ふむ、と曖昧に返事をし、客人の相棒は、あはは、と軽く笑い飛ばした。
普段なら無礼にあたる対応だろうが、客人の率直な反応を咎める意志は、王にはない。
王が求めているのは、計画の外面に対する意見ではなく、あくまでも中身に対する意見だ。
王とて人間であるからして、この計画が非人道的な方法を持ってして進められることも、多くの者が同感を覚えることも、理解しているつもりだった。
それはどのような実験ですか、と客人が訪ねると、王は、螺旋力による新世界の創世は可能か否かを見極める実験だ、と返した。
客人は、ふむ、と曖昧に返事をし、客人の相棒は、あはは、と軽く笑い飛ばした。
普段なら無礼にあたる対応だろうが、客人の率直な反応を咎める意志は、王にはない。
王が求めているのは、計画の外面に対する意見ではなく、あくまでも中身に対する意見だ。
王とて人間であるからして、この計画が非人道的な方法を持ってして進められることも、多くの者が同感を覚えることも、理解しているつもりだった。
そうなのである――この王は、自身が愚か者であることを自覚していた。
民を思わず、国を思わず、縋っているのは過去の栄光、見据えているのはありえなかったもう一人の自分。
それら、詩のように己の志を謳ったとしても、部外者である客人は首を傾げるだけだった。
誰にも理解などしてもらえない、意地……だが、一人の男として貫かなければならない。
だからこそ、実験をするのだ。
それら、詩のように己の志を謳ったとしても、部外者である客人は首を傾げるだけだった。
誰にも理解などしてもらえない、意地……だが、一人の男として貫かなければならない。
だからこそ、実験をするのだ。
――――――――――――――――再生終了――――――――――――――――――――
「………………はぁ」
「これは、ちょっと……」
「威厳も何もあったもんじゃないな」
「……好きに言うがいい」
「これは、ちょっと……」
「威厳も何もあったもんじゃないな」
「……好きに言うがいい」
開き直ったのか、ロージェノムが憮然とした態度で呟いた。
そもそも考えてみれば全くの他人に相談している時点で相当な決断力を必要としたはずである。
彼の中ではおそらく、もう完全に整理が付いているのだろう。
そもそも考えてみれば全くの他人に相談している時点で相当な決断力を必要としたはずである。
彼の中ではおそらく、もう完全に整理が付いているのだろう。
「むしろ見所は次のシーン……フルボッコタイムなの」
「ああ、あれは……うーん」
「ああ、あれは……うーん」
【外伝】『螺旋の国 -Spiral straggler-』
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――『彼ら』は、別に問題ないと思いますよ。それよりも、焦点は『その他』じゃないんでしょうか?
淡白な顔つきはそのままに、客人が意見を述べる。
王は愚か者ではあったが、自ら招いた客人を無碍に扱うほど傲岸ではなく、これを素直に傾聴し始める。
王は愚か者ではあったが、自ら招いた客人を無碍に扱うほど傲岸ではなく、これを素直に傾聴し始める。
――思うんですが……どうしてあなたは、こんな無謀なことをするんですか?
心臓を、鷲掴みにされたような気分になった。
ああ……この客人は、実に聡明な聞き手だ。
王が気にしていた、第三者に指摘されたいと思っていたところを、抉るように突いてくる。
王は耳を背けなかった。苦い顔一つせず、客人が遠慮なく話せるよう、座して待った。
ああ……この客人は、実に聡明な聞き手だ。
王が気にしていた、第三者に指摘されたいと思っていたところを、抉るように突いてくる。
王は耳を背けなかった。苦い顔一つせず、客人が遠慮なく話せるよう、座して待った。
――あなたはこの世の誰よりも、あなたが宿敵と憎む相手を知っている。
――なのにあなたは、宿敵の望まない結果を望んでいる。宿敵が怖いはずなのに。
――宿敵が怖いから、正攻法じゃなくて、こんな『逃げ』みたいな方法を取るんでしょうが……。
――なのにあなたは、宿敵の望まない結果を望んでいる。宿敵が怖いはずなのに。
――宿敵が怖いから、正攻法じゃなくて、こんな『逃げ』みたいな方法を取るんでしょうが……。
宿敵……そうだ。王には、絶対に相容れない宿敵がいた。
その存在は全ての宇宙を統べる者にして、宇宙そのもの。
その存在は人間を恐れる者にして、人類全ての敵。
彼らは人類進化の抑制剤にして、歯止め。
かつての王とは、真逆にいた者。
その存在は全ての宇宙を統べる者にして、宇宙そのもの。
その存在は人間を恐れる者にして、人類全ての敵。
彼らは人類進化の抑制剤にして、歯止め。
かつての王とは、真逆にいた者。
……一時期は、それもやむなし、と諦めた。
王は宿敵との死闘の末、敗れた。敗れてなお、敗残兵として人間を統治する任についている。
それが、宿敵の矛を受けず、人類が危難なしに存続できる唯一の道だったからだ。
王は宿敵との死闘の末、敗れた。敗れてなお、敗残兵として人間を統治する任についている。
それが、宿敵の矛を受けず、人類が危難なしに存続できる唯一の道だったからだ。
だが。
知ってしまった。人類の持つ術では、見ることもできなかったもう一つの宇宙――。
手にしてしまった。宿敵の持つ技術をも越えたかもしれない、天からの恩恵によって得た力――。
羨み、憧れてしまった。自身では成し遂げられなかった偉業を果たす、ドリルを掲げた一人の男の姿に――
手にしてしまった。宿敵の持つ技術をも越えたかもしれない、天からの恩恵によって得た力――。
羨み、憧れてしまった。自身では成し遂げられなかった偉業を果たす、ドリルを掲げた一人の男の姿に――
――――――――――――――――再生終了――――――――――――――――――――
「ちなみに、話し相手になってるのは……可愛らしい女の子なの」
「……苛めて欲しかったのかしら」
「まさか、な。さすがにそこまで無様ではないだろう」
「……苛めて欲しかったのかしら」
「まさか、な。さすがにそこまで無様ではないだろう」
先程までのアンチルルーシュの流れは完全にロージェノムへのブーイングへ。
だが、微妙に彼への同情の声も聞こえなくはない。
彼のあまりに惨めな扱いが憐憫を誘ったのだろう。
だが、微妙に彼への同情の声も聞こえなくはない。
彼のあまりに惨めな扱いが憐憫を誘ったのだろう。
「で、この後逃げちゃう訳ね」
「ご丁寧に【ロージェノム 実験放棄】という表記付きなの」
「……こういう事もある。男は忍耐力が必要だ」
「まったく。せっかくの対談だと言うのに、これでは比較にもならないんじゃないか?」
「……(ボソッ まぁ実はルルーシュ君の転落ももうす――」
「なッ――!?」
「く、口が滑ったの……」
「ご丁寧に【ロージェノム 実験放棄】という表記付きなの」
「……こういう事もある。男は忍耐力が必要だ」
「まったく。せっかくの対談だと言うのに、これでは比較にもならないんじゃないか?」
「……(ボソッ まぁ実はルルーシュ君の転落ももうす――」
「なッ――!?」
「く、口が滑ったの……」
危ない危ない、とわざとらしく口を抑えることみ。
だが、今の言葉に反応したのがルルーシュだった。
だが、今の言葉に反応したのがルルーシュだった。
「司会者! どういう事だ、答えろ! はっ……貴様、まさか――未来線を読むギアスを!?」
「…………こ、この夏服をしっかり見るの。今日のわたしはアニメ出典なの……」
「…………こ、この夏服をしっかり見るの。今日のわたしはアニメ出典なの……」
本日数度目のアニメアピールである。
確かにアニメにも『未来を予測するギアス』は登場しているが、あくまで人間の動作に限った話。完全な予知能力ではない。
それは目の前のルルーシュの筋肉のなさを鑑みれば疑う余地もない部分である。
確かにアニメにも『未来を予測するギアス』は登場しているが、あくまで人間の動作に限った話。完全な予知能力ではない。
それは目の前のルルーシュの筋肉のなさを鑑みれば疑う余地もない部分である。
「ちょっとルルーシュ! 女の子になんて口の利き方するのよ! ことみが怯えてるじゃない!」
「……な、何だそれは。お、俺が悪いとでも言うのか!?」
「悪いわよ!」
「ぐずっ…………い、いじめる?」
「…………ぐ……っ!」
「……な、何だそれは。お、俺が悪いとでも言うのか!?」
「悪いわよ!」
「ぐずっ…………い、いじめる?」
「…………ぐ……っ!」
上目遣い+涙目のコンボが見事にルルーシュに炸裂した。
ルルーシュの周囲は基本的に強い女性ばかりである。ことみのようなタイプの女性は意外と少ない。
それに今日のことみはいつもより明らかに毒々しいキャラになっているが、彼女の根っこにある臆病な部分は変わっていないのだ。
ルルーシュの周囲は基本的に強い女性ばかりである。ことみのようなタイプの女性は意外と少ない。
それに今日のことみはいつもより明らかに毒々しいキャラになっているが、彼女の根っこにある臆病な部分は変わっていないのだ。
「い、虐めない」
「ホント……?」
「……本当だとも」
「よかったの……」
「ホント……?」
「……本当だとも」
「よかったの……」
ほとんど会話に参加せず、何をしに来たのか分からないロージェノム。
いきなりことみが半泣き状態になってしまった事に取り乱すルルーシュ。
シクシクと涙を瞳に溜め、瞼を両手で擦ってることみ。
いきなりことみが半泣き状態になってしまった事に取り乱すルルーシュ。
シクシクと涙を瞳に溜め、瞼を両手で擦ってることみ。
そして、またもことみとルルーシュが変なやり取りを始めたため、手持ち無沙汰になってしまった杏。
「……もう。なんかダレて来たし、ロージェノムは反応薄いし……そろそろ放送終了時間かしら。
あ、そうそう。これは忘れちゃいけなかったわ」
あ、そうそう。これは忘れちゃいけなかったわ」
271話『天のさだめを誰が知る』
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「――では同志諸君! これより『螺旋王捕獲作戦』の全容を発表する!」
諸々の確認事項を終え、ルルーシュがいよいよ、考案した作戦を提唱する。
声高らかな前振りにチミルフとシトマンドラが息をのみ、グアームが笑い、アディーネが釘付けになり、ウルフウッドが欠伸をした。
ごくり、と誰かの喉が鳴り、そして、
声高らかな前振りにチミルフとシトマンドラが息をのみ、グアームが笑い、アディーネが釘付けになり、ウルフウッドが欠伸をした。
ごくり、と誰かの喉が鳴り、そして、
「……と、大げさに宣言しようとしたところで大したことじゃない。実験の続行。それだけだ」
穏やかな少年の声調を持ってして告げられたそれが、一同の期待感を酷く打ち砕いた。
「実験の続行……? それだけ、だって? それじゃあ、これまでとやることが変わらないじゃないか」
「変える必要がないのさ、アディーネ。もちろんこのままただ漫然と推移を見守るのではなく、一味加えるがな」
「実験を続け、なにを為して完結とする? そもそもこのまま実験を続けることが、螺旋王捜索に繋がるというのか?」
「ああ、繋がるさシトマンドラ。これが現状考え得る最良の一手であり、唯一の策だ」
「解せんのぉ。もうちょい要領よく説明してくれんか?」
「変える必要がないのさ、アディーネ。もちろんこのままただ漫然と推移を見守るのではなく、一味加えるがな」
「実験を続け、なにを為して完結とする? そもそもこのまま実験を続けることが、螺旋王捜索に繋がるというのか?」
「ああ、繋がるさシトマンドラ。これが現状考え得る最良の一手であり、唯一の策だ」
「解せんのぉ。もうちょい要領よく説明してくれんか?」
反応の悪い獣人勢に僅か落胆し、ルルーシュは軽い溜め息の後、心中にて嘲笑。
黒の騎士団での活動において、こういった物分りの悪い同志たちを納得させるための説明など日常茶飯事だ。
ルルーシュは常の調子を崩さず、自らの意を他者に伝える。
黒の騎士団での活動において、こういった物分りの悪い同志たちを納得させるための説明など日常茶飯事だ。
ルルーシュは常の調子を崩さず、自らの意を他者に伝える。
「では、いっそ呼称を改めるとしよう。現時刻を持って、螺旋王ロージェノムの『実験』は終了!
実験場にて行われている殺し合いは今より名を変え、アンチ=スパイラル降臨のための『儀式』と化すッ!!」
実験場にて行われている殺し合いは今より名を変え、アンチ=スパイラル降臨のための『儀式』と化すッ!!」
――――――――――――――――再生終了――――――――――――――――――――
「この話の結果、主人公チームとグレンラガンチーム、そして螺旋王チームの三グループに分かれての戦いになったのね」
飲み物には手を出さず、テーブルの中央に置いてあったチョココロネをパクパクと。
これにコタツがあったらいいのに、なんて所帯染みた考えが脳裏に浮かんで弾ける。
これにコタツがあったらいいのに、なんて所帯染みた考えが脳裏に浮かんで弾ける。
「ルルーシュ達はアンチ=スパイラルをどうにかしようとしている。で、その鍵になるのが天元突破者ヴィラルの動向。
スパイク達はアンチシズマ管を使っての正統な殺し合いの停止が目標。ギルガメッシュは単独行動。カミナは……知らない。
しかしまぁ、結構な時間放送してたわよね。本当に」
スパイク達はアンチシズマ管を使っての正統な殺し合いの停止が目標。ギルガメッシュは単独行動。カミナは……知らない。
しかしまぁ、結構な時間放送してたわよね。本当に」
そんなこんなでドキュメンタリー番組だったはずが、最終的には本当にダベり番組になってしまった。
未だにルルーシュはことみに何やら弁解しているし。やれやれ、である。
未だにルルーシュはことみに何やら弁解しているし。やれやれ、である。
「じゃあ最後のまとめって事で。最終回の見所は大きく分けて十個ね!
①『アンチ=スパイラルへの対処』
もう、これがとにかく最大の正念場!
②『天元突破者ヴィラルの恋路』
本当に愛で超覚醒しちゃったんだから……ね。どうなるのかしら。
③『螺旋王ルルーシュの動向』
涙目かそれとも真逆の結末か。これも気になる所ね。
④『ウルフウッド&東方不敗の動き』
それと今回陰が薄かったけれど四天王も忘れちゃダメ。特に一度ロワにも参加したチミルフは要チェック!
⑤『夫妻の駆るグレンラガンにどう対応する!? そしてクロミラの運命やいかに』
敵にして、これほど恐ろしい機体もないわね……。ヒロイン格、クロスミラージュも参加者の一人と変わらないわよ!
⑥『主人公チームのギガラブドリルブレイクに対する行動』
初動は肝心。ここで乗り遅れると、最終回が楽しめなくなるかも!
⑦『アンチシズマドライブはどうなるのか!?』
バリアを突破し、天元突破を果たすには必須の項目。さてどうなるかしら。
⑧『働けカミナ』
説明不要。
⑨『他のメンバーの活躍』
最終回といえど、やはりお気に入りのあの子のカッコいい所は思いっきり楽しみたいわよね!
むしろこれが大半の人にとっては気になる所なんじゃないかしら?
そして⑩個目がギルガ――」
もう、これがとにかく最大の正念場!
②『天元突破者ヴィラルの恋路』
本当に愛で超覚醒しちゃったんだから……ね。どうなるのかしら。
③『螺旋王ルルーシュの動向』
涙目かそれとも真逆の結末か。これも気になる所ね。
④『ウルフウッド&東方不敗の動き』
それと今回陰が薄かったけれど四天王も忘れちゃダメ。特に一度ロワにも参加したチミルフは要チェック!
⑤『夫妻の駆るグレンラガンにどう対応する!? そしてクロミラの運命やいかに』
敵にして、これほど恐ろしい機体もないわね……。ヒロイン格、クロスミラージュも参加者の一人と変わらないわよ!
⑥『主人公チームのギガラブドリルブレイクに対する行動』
初動は肝心。ここで乗り遅れると、最終回が楽しめなくなるかも!
⑦『アンチシズマドライブはどうなるのか!?』
バリアを突破し、天元突破を果たすには必須の項目。さてどうなるかしら。
⑧『働けカミナ』
説明不要。
⑨『他のメンバーの活躍』
最終回といえど、やはりお気に入りのあの子のカッコいい所は思いっきり楽しみたいわよね!
むしろこれが大半の人にとっては気になる所なんじゃないかしら?
そして⑩個目がギルガ――」
杏が、そこまで言い掛けた瞬間だった。
大怪球フォーグラー内部、特設スタジオに――――凄まじい爆発音が鳴り響いた。
そして、急激な地面の落下を始める。
そして、急激な地面の落下を始める。
「え、え、え!? なな、何が起こった訳!?」
意味が分からない杏はただ慌てふためき、声を上げる事しか出来ない。
絶対安全だと思っていたフォーグラースタジオに訪れたまさかの大異変である。
絶対安全だと思っていたフォーグラースタジオに訪れたまさかの大異変である。
「…………タイムリミット、なの」
「な……ことみ、どういうことよコレは!?」
「つまり、」
「な……ことみ、どういうことよコレは!?」
「つまり、」
ちなみに、先程までフォーグラーは停止していたのだが当然それは重力制御により浮遊するという形を取っていた。
それがまるで大地に引かれているかのような強烈なGが杏の身体に掛かっている。
つまり、浮遊能力に何らかの異常が発生したという事だ。
それがまるで大地に引かれているかのような強烈なGが杏の身体に掛かっている。
つまり、浮遊能力に何らかの異常が発生したという事だ。
「杏ちゃん……問題なの。『アニロワ2ndでフォーグラーが落ちるのはどんな時?』」
「原作、じゃなくて……アニロワ2ndだとって――ま、まさかっ」
「……そう。そのまさか」
「――――ギ、ギルガメッシュ!?」
「……正解」
「原作、じゃなくて……アニロワ2ndだとって――ま、まさかっ」
「……そう。そのまさか」
「――――ギ、ギルガメッシュ!?」
「……正解」
こくん、とことみが流暢な動作で頷いた。
制御を失い、沈没船に乗り合わせているかのような状況なのに、どれだけ彼女は鈍いのだろう。
しかし、ことみはスクッと立ち上がると杏の目を見つめ、はきはきとした口調で語り始めた。
制御を失い、沈没船に乗り合わせているかのような状況なのに、どれだけ彼女は鈍いのだろう。
しかし、ことみはスクッと立ち上がると杏の目を見つめ、はきはきとした口調で語り始めた。
「『アニロワ2nd』という舞台において『唐突に大怪球フォーグラーが撃墜される』という可能性。
これは98.5567%の確立でギルガメッシュが乖離剣エアを使用した場合、と決まっているの。
しかも〝天地乖離す開闢の星〟《エヌマ・エリシュ》とは限らずに……なの」
「じゃ、じゃあこの騒ぎも……」
「そうなの。つまりコレは『総集編をフォーグラーで収録している最中にたまたまギルガメッシュにエアをぶち込まれた』多元宇宙なの」
「…………多元宇宙、便利ね」
「……なの。だから言ったの。『まだ慌てるような時間じゃない』って。時間が来れば勝手にこうなる運命だったの」
「爆発オチ?」
これは98.5567%の確立でギルガメッシュが乖離剣エアを使用した場合、と決まっているの。
しかも〝天地乖離す開闢の星〟《エヌマ・エリシュ》とは限らずに……なの」
「じゃ、じゃあこの騒ぎも……」
「そうなの。つまりコレは『総集編をフォーグラーで収録している最中にたまたまギルガメッシュにエアをぶち込まれた』多元宇宙なの」
「…………多元宇宙、便利ね」
「……なの。だから言ったの。『まだ慌てるような時間じゃない』って。時間が来れば勝手にこうなる運命だったの」
「爆発オチ?」
まさかそんな訳ないわよね、と言いたげな瞳で杏がことみを見た。
「………………ごほん」
「えーま、マジなの……」
「……さて、番組を〆るとするの……よいしょ」
「えーま、マジなの……」
「……さて、番組を〆るとするの……よいしょ」
杏の言葉を華麗にスルーしたことみが動きを見せた。
その時、突然ことみの姿が大きくなった。
いや、違う。『ことみがカメラに向かって歩いて来ている』のである。
一歩、また一歩と足を進める度にレンズが彼女で一杯になる。視界が満たされていく。
いや、違う。『ことみがカメラに向かって歩いて来ている』のである。
一歩、また一歩と足を進める度にレンズが彼女で一杯になる。視界が満たされていく。
そして初めて、
「……カメラマンさん」
〝私〟は――その時初めてカメラを通さずに一ノ瀬ことみの顔を見た。
「いや、ま、爆発オチな訳ないか」
そして同様に藤林杏も〝私〟へと笑い掛けた。
「え?」
「帰る時間、なの」
「帰る時間、なの」
思い掛けない言葉だった。
そもそもの話〝私〟がこの世界に存在していた事さえ今気付いたというのに。
そもそもの話〝私〟がこの世界に存在していた事さえ今気付いたというのに。
「杏ちゃんも……お別れ……言わなきゃダメ……」
「分かってるわ。ほらダメよ、ことみ。服引っ張ったら皺になるでしょ」
「あ、うん……ごめんなさい」
「分かってるわ。ほらダメよ、ことみ。服引っ張ったら皺になるでしょ」
「あ、うん……ごめんなさい」
ことみの頭の後ろでまとめたツーサイドアップが揺れる。
杏のサラサラのロングストレートヘアーに巻きついた白いリボンが風を切って舞った。
杏のサラサラのロングストレートヘアーに巻きついた白いリボンが風を切って舞った。
そして――私の〝桃色〟の髪も堕ちゆくフォーグラーの振動に引かれてバサバサと飛び跳ねる。
地面から伝わって来る鼓動はまるで海岸を浚っていく波のようだった。
掛けていた〝眼鏡〟も髪の毛のように外れてしまいそうになる。
そして、それを防ぐために私は必死で眼鏡のフレームの部分を抑えた。
掛けていた〝眼鏡〟も髪の毛のように外れてしまいそうになる。
そして、それを防ぐために私は必死で眼鏡のフレームの部分を抑えた。
「さぁ目覚めるの……そして起きたら、ここで見た事は全部忘れているはず……」
「その代わり、世界に変化があるかもしれない。もしかしたら、もう変化があった事を忘れているかもしれない」
「それは……私達が干渉する領域じゃないの……これはただの分岐点。
『あったかもしれない』『あるかもしれない』『あってほしい』の詰め合わせ……」
「その代わり、世界に変化があるかもしれない。もしかしたら、もう変化があった事を忘れているかもしれない」
「それは……私達が干渉する領域じゃないの……これはただの分岐点。
『あったかもしれない』『あるかもしれない』『あってほしい』の詰め合わせ……」
彼女達が何を言っているのかまるで分からなかった。
完全に世界に捉われていた。
ずっとずっと、あくまで傍観者のつもりでいたのだ。でも、これはだけど……。
完全に世界に捉われていた。
ずっとずっと、あくまで傍観者のつもりでいたのだ。でも、これはだけど……。
「じゃあ、恒例の言葉から始めるの。最初はコレから、と決まっているの」
「そうね」
「そうね」
そう呟くと、二人は大きく息を吸った。
そして、全く同じ声色でその台詞を噛み締めるように口にする。
そして、全く同じ声色でその台詞を噛み締めるように口にする。
「「『さぁ始めるザマスよ』」」
その言葉は、ゆっくりと心の中に溶け込んでいって、
「〝…………行くで…………ガン……ス…………?〟」
私――――〝高良みゆき〟の意識を覚醒させた。
▽
【参加者インタビュー⑫】
●結城奈緒(私立風華学園中等部三年G組・十四歳)
●結城奈緒(私立風華学園中等部三年G組・十四歳)
――死後の世界って信じますか?
意味が分かんない。
何が聞きたいのよ、アンタは。
何が聞きたいのよ、アンタは。
――何か、繋がっている……とか、生霊……みたいなアレです。
ないってないって。
アンタが聞きたいのはあれでしょ。
生きてる人間が何かのショックで死んだ人間と会話して……って奴。
ぶっちゃけキモイよ、そんなの。
もしも、そんな状態になる事があったらソレってあれでしょ。最近流行りのアレ。
アンタが聞きたいのはあれでしょ。
生きてる人間が何かのショックで死んだ人間と会話して……って奴。
ぶっちゃけキモイよ、そんなの。
もしも、そんな状態になる事があったらソレってあれでしょ。最近流行りのアレ。
……とびっきりの死亡フラグじゃん?
――印象に残った人間は誰ですか?
えーとりあえず、金ぴか金ぴかギルガメッシュ。
あとは、そうだなぁ……柊かがみ! もうこいつは諸悪の元凶よ。マジ最低の疫病神!
後は……鴇羽、かな。アイツ今何やってんの? またヘタレてる?
ああいう無理に片意地張っちゃうタイプは適当に男でも作って楽になっちゃった方がいいと思うんだけどね。
無理かな。お堅いもんね、アイツ。
あとは、そうだなぁ……柊かがみ! もうこいつは諸悪の元凶よ。マジ最低の疫病神!
後は……鴇羽、かな。アイツ今何やってんの? またヘタレてる?
ああいう無理に片意地張っちゃうタイプは適当に男でも作って楽になっちゃった方がいいと思うんだけどね。
無理かな。お堅いもんね、アイツ。
――残された参加者に一言どうぞ。
はいはい。どうせあたしは金ぴかに何か言えばいいんでしょ。
……えーと、まぁ……その、……うん。頑張って!
……えーと、まぁ……その、……うん。頑張って!
どう、完璧だったで――は? もう一回最初から? 何でよ。
何がダメなのよ? 短い? もっと心を込めろ?
ちょっと、何か偉そうじゃん。
それにね。アンタって結構柊かがみに似ていてイラつくのよ。
髪の色とかホントそっくり。いっそピンクにでも染め直したら?
ちょっと、何か偉そうじゃん。
それにね。アンタって結構柊かがみに似ていてイラつくのよ。
髪の色とかホントそっくり。いっそピンクにでも染め直したら?
…………はいはい、怒らないでよ。うるさいなぁ、ったく。
もう一回やり直せって事ね。分かりましたよっと。
もう一回やり直せって事ね。分かりましたよっと。
……でも、別にさ。
実際、肩張って言わなくちゃいけない事なんてないもの。
あたしが金ぴかに言い残した事とか、あると思う? ……うわキモッ。
もしくは、その逆。そっちがあた――――アハハハハハハハッ!
って完全にバカじゃん。どっちもある訳ないよね、そんなの。
だから違うんだって。そういう形じゃないんだし。
実際、肩張って言わなくちゃいけない事なんてないもの。
あたしが金ぴかに言い残した事とか、あると思う? ……うわキモッ。
もしくは、その逆。そっちがあた――――アハハハハハハハッ!
って完全にバカじゃん。どっちもある訳ないよね、そんなの。
だから違うんだって。そういう形じゃないんだし。
アンタはただ高く、高く、飛べばいいの。
上を。もっともっともーっと上だけを見てればいいの。
後ろに飛んでる奴、並んで飛ぼうとしてる奴の事なんて考えちゃダメだからね。
もちろん、言われるまでもないと思うけど。
上を。もっともっともーっと上だけを見てればいいの。
後ろに飛んでる奴、並んで飛ぼうとしてる奴の事なんて考えちゃダメだからね。
もちろん、言われるまでもないと思うけど。
だから、そう。「頑張って」ですら本当はちょっと違うんだよね。
何がいいのかなぁ。「負けるな」も「自分らしく」も「好き勝手に」も何か微妙。
むしろ「好き勝手に」とは言いたくないや。後始末する人が大変だもの。
何がいいのかなぁ。「負けるな」も「自分らしく」も「好き勝手に」も何か微妙。
むしろ「好き勝手に」とは言いたくないや。後始末する人が大変だもの。
……んーとさ、じゃあやっぱりコレだ。
いい? 一回しか言わないから聞き逃さないでよね。
いい? 一回しか言わないから聞き逃さないでよね。
『あたしも何も言うべき事はない』
じゃあね、ギルガメッシュ。
……ったく。二度もさよなら言わせんな、バカ。
▽