かつてあったエクソダス ◆1sC7CjNPu2
初老の男は頭に装着したヘッドセット――小型の脳波通信装置を外し、満足そうに笑みを浮かべた。
同時に、男の体から妖精を思わせる華麗な少女が出現する。
ユニゾンデバイス――使用者と融合することで、内部から術者を補佐する古代ベルカ式特有のデバイスだ。
同時に、男の体から妖精を思わせる華麗な少女が出現する。
ユニゾンデバイス――使用者と融合することで、内部から術者を補佐する古代ベルカ式特有のデバイスだ。
「やりました!今ので結界内部のデータが大漁ですよ!」
「本当!?……って、これはやっかいね」
「そうなんですか?」
「三重の、それぞれ属性の違う大規模な結界よ。しかも自己修復機能も備えている。
……空間ごと抉り取るぐらいしないと綻びすら出ない訳だ」
「データは『あっち』のアースラにも転送しますね。たぶん成功したのはこっちだけでしょうし」
「本当!?……って、これはやっかいね」
「そうなんですか?」
「三重の、それぞれ属性の違う大規模な結界よ。しかも自己修復機能も備えている。
……空間ごと抉り取るぐらいしないと綻びすら出ない訳だ」
「データは『あっち』のアースラにも転送しますね。たぶん成功したのはこっちだけでしょうし」
男の周囲は、蜂の巣を突いたかのような大騒ぎだ。
その喧騒を他所に、男はただ静かに佇んでいる。
その喧騒を他所に、男はただ静かに佇んでいる。
「……よろしいでしょうか?」
「ん、ああ」
「ん、ああ」
つい先ほどまで融合していた妖精に話しかけられ、男は少し戸惑う。
無愛想な見かけから、声を掛けてくるとは思っていなかったのだ。
それではと妖精は前置きし、男に話しかける。
無愛想な見かけから、声を掛けてくるとは思っていなかったのだ。
それではと妖精は前置きし、男に話しかける。
「あれで、よかったのですか」
「……ああ、あれでよかったさ」
「……ああ、あれでよかったさ」
一瞬何を言っているか分からなかったが、すぐに心当たりが一つしかなかったことを思い出す。
かつて憧れ、その背中を追いかけた人物。本当に久しぶりに会って、まったく印象が変わってなかったことに驚いた。
かつて憧れ、その背中を追いかけた人物。本当に久しぶりに会って、まったく印象が変わってなかったことに驚いた。
「――そう、ですか」
「……俺の持論だが、過ぎ去ったものは元には戻らない。だから抱えて生きていくんだ、そいつの分まで」
「……俺の持論だが、過ぎ去ったものは元には戻らない。だから抱えて生きていくんだ、そいつの分まで」
男の言葉に、妖精はきょとんとした顔になる。
一方の男は、妖精がそんな顔も出来たことに微笑みを浮かべた。
その笑みに気づいてか、妖精が気恥ずかしげに頬を染める。
一方の男は、妖精がそんな顔も出来たことに微笑みを浮かべた。
その笑みに気づいてか、妖精が気恥ずかしげに頬を染める。
「お姉さまをナンパしちゃダメー!」
「待て、今のは別にそんなのでは!」
「フッ、ハハハハハハハ」
「待て、今のは別にそんなのでは!」
「フッ、ハハハハハハハ」
嫉妬でもしたのか、妖精と同じ顔をした妖精が突撃してくる。
姉と呼ばれた妖精が慌てて訂正を入れ、それを見ていた男があまりの微笑ましさに笑う。
そこに、黒髪のロングストレートの女性と、金髪の同じくロングストレートの女性が近づき初老の男に声をかけた。
姉と呼ばれた妖精が慌てて訂正を入れ、それを見ていた男があまりの微笑ましさに笑う。
そこに、黒髪のロングストレートの女性と、金髪の同じくロングストレートの女性が近づき初老の男に声をかけた。
「ロージェノムの追跡に必要なデータが浚えたので、私たちはロージェノムの追跡を優先します」
「……そうか」
「そんな、マイスター。中にはまだ人が」
「突入の手段がない以上、私たちがこの場にいて出来ることはないの。
それよりロージェノムが同じことを繰り返さないために確保する方が、被害を抑えることが出来る」
「……そうですけど、中にはお姉さまのマイスターが」
「いいんだ」
「……そうか」
「そんな、マイスター。中にはまだ人が」
「突入の手段がない以上、私たちがこの場にいて出来ることはないの。
それよりロージェノムが同じことを繰り返さないために確保する方が、被害を抑えることが出来る」
「……そうですけど、中にはお姉さまのマイスターが」
「いいんだ」
納得が出来ないといった感じの妹を、姉が諭す。
黒髪の女はその光景を少し悲しげに見つめ、気を取り直して男に向き合う。
黒髪の女はその光景を少し悲しげに見つめ、気を取り直して男に向き合う。
「引き続き、アドバイザーとして協力して頂きたいのですが」
「ああ、むしろこっちからお願いしようと思ってたところだ」
「そうですか……ありがとうございます」
「ああ、むしろこっちからお願いしようと思ってたところだ」
「そうですか……ありがとうございます」
黒髪の女と金髪の女は男に一礼し、作業へと戻っていった。
その場にはむくれる妹妖精と、それをなだめる姉妖精、そして初老の男が残される。
その場にはむくれる妹妖精と、それをなだめる姉妖精、そして初老の男が残される。
「むー。言いたいことは分かりますけど、薄情ですよ」
「……きっと、彼女たちも信じてるんだろう。中にいる、違う世界でも、仲間だった奴らを」
「……きっと、彼女たちも信じてるんだろう。中にいる、違う世界でも、仲間だった奴らを」
妹妖精はきょとんとした顔で、初老の男をまじまじと見つめる。
その顔が先ほどの姉妖精とそっくりで、初老の男はまた顔を綻ばせた。
その顔が先ほどの姉妖精とそっくりで、初老の男はまた顔を綻ばせた。
「笑うなー!」
「……そうですね、信じましょう。彼女たちが、エクソダスを成功させることを」
「エクソダス?」
「……そうですね、信じましょう。彼女たちが、エクソダスを成功させることを」
「エクソダス?」
妹をなだめる姉が零した聞きなれない言葉を、男が拾う。
姉は、何かをなつかしむように言葉を紡ぐ。
姉は、何かをなつかしむように言葉を紡ぐ。
「あそこから、脱出すること。それを彼女たちはエクソダスと呼び、彼女たちはそれを成功させました」
「……そうか」
「……そうか」
そこで妖精のような姉妹にお呼びがかかり、男は一人その場に取り残された。
ふと、今自分がここにいる元凶に思いを馳せる。
ふと、今自分がここにいる元凶に思いを馳せる。
「言ったぞ、ロージェノム」
かつては敵で、かつては友だった男。
愛した女の、父親でもあった。
愛した女の、父親でもあった。
「お前が壁となって俺の前に立ちふさがるなら、いつだって風穴開けて突き破る」
違う世界の、同じ仲間だった。
「それが俺の、ドリルだ」
これは、箱庭の外の物語。
既に終わったエクソダスの続きの一端であり――
一人の男の、壮大な物語の蛇足である.
既に終わったエクソダスの続きの一端であり――
一人の男の、壮大な物語の蛇足である.
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