No Man's Land -まだ見ぬ 遠き場所で- ◆jIHhwnBJfg
◇ ◇ ◇
……いいのか?
何をだ。
この結末に納得していいのか?
……武人として、戦いの中で逝くのならば本望だ。
……だが、俺は何を残した?
俺は……獣人の誇りを、生き様を王に示した。
欺瞞だ。結局敗残兵という事実は覆らん。
……そうだな。
ニンゲンに獣人が勝る事を証明するのではなかったか?
その通りだ……ああ、口惜しい。口惜しいとも……!
誇りは今だ取り戻せていない。それでも俺はこのまま逝くというのか?
……認めん。ニンゲンの強さを物とした、真の獣人の繁栄を未だ俺は見届けていない。
だが負けた。俺はたった今、ニンゲンに確かに負けたのだ。
それが……どうしたッ! 一度や二度の敗北など! 己が糧として先に進む事こそ生きるということだッ!
そう、負けたのはビャコウに乗る俺だ。ガンメンに頼り、力に甘んじた俺だ!
俺本人は生きている! その身一つがここにあるッ!!
俺本人は生きている! その身一つがここにあるッ!!
俺は……まだ戦えるのだから! 生きているのだからッ!!
◇ ◇ ◇
「オ……雄ォォォォォオオオオオォォオオオォオォオオオオォォオオオオオォ……ッ!!」
遠く、遠く。
生誕の雄叫びが、世界に存在を刻み込む。
何処までも伝わる咆哮と同時。
牧師が引鉄を絞り込むその直前。
牧師が引鉄を絞り込むその直前。
――――白虎の胸、顔型の装飾が散り爆ぜた。
「な……ッ!」
白い装甲板を砕きながら現れ出でたのは銀の鉄塊。
突如の事態に驚愕を浮かべながら、しかし牧師の肉体は既に背後へと飛び降りている。
突如の事態に驚愕を浮かべながら、しかし牧師の肉体は既に背後へと飛び降りている。
そのまま地面に降り立ち、脚のバネで姿勢を整え巨人に向かい合った直後。
轟、と眼前に銀の柱が突き立った。
間一髪、条件反射頼りに回避には成功。
だがしかし。
地面が割り砕かれ、蜘蛛の巣のようにヒビが同心円状に走っていく。
無数の岩くれが大地より剥離し、僅かに宙に浮かび跳ぶ。
だがしかし。
地面が割り砕かれ、蜘蛛の巣のようにヒビが同心円状に走っていく。
無数の岩くれが大地より剥離し、僅かに宙に浮かび跳ぶ。
その中央に屹立するは、灼熱の意思と山河の肉体を併せ持つ剛毅なる勇士の姿。
他の何でも、誰でもない。
ただのチミルフが、其処に居た。
――――手に馴染んだ鉄槌で、愛機の破壊も厭わず内側から装甲ごと牧師を吹き飛ばす。
螺旋王から最初に賜った何よりの至宝、自らの体を以って直にニンゲンに勝ってみせる。
螺旋王から最初に賜った何よりの至宝、自らの体を以って直にニンゲンに勝ってみせる。
それが、己が生命の煌きの証明だと信じて。
チミルフは――――
「オ……オォォオォッ!」
穿つ。
叩く。
潰す。
砕く。
轢く。
挽く。
叩く。
潰す。
砕く。
轢く。
挽く。
「オォオオオオオォオオオォオオオオオッ!」
人を遥かに凌駕した体躯。
無尽にも近いその活力を用いて、ただひたすらに。
ひたすらに。
無尽にも近いその活力を用いて、ただひたすらに。
ひたすらに。
ヒト一人程もある鉄槌を、絶えることなく振り下ろし続ける――――!
「……く、そがぁッ!」
避ける。
避ける。
避ける。
避ける。
避ける。
避ける。
避ける。
避ける。
避ける。
避ける。
避ける。
――――死の臭いが近い。
ウルフウッドは実感する。
一振りの度に大地は爆ぜて、ガラスの様に砕け続け。
切る風は刃より鋭く、鎌鼬が服の端を裂いてゆく。
ウルフウッドは実感する。
一振りの度に大地は爆ぜて、ガラスの様に砕け続け。
切る風は刃より鋭く、鎌鼬が服の端を裂いてゆく。
「……なんつースタミナや、この……ゴリラがッ!」
息つくよりもなお短い間隙にて振り下ろされる鉄塊の雨霰。
ヒトには不可能な無酸素運動の連続。
ヒトには不可能な無酸素運動の連続。
その体躯故に軌道は大振り。
避けるのは難くなく、しかし鋭いが故に広いが故に易くもない。
避けるのは難くなく、しかし鋭いが故に広いが故に易くもない。
掲げ構え。
踏み込み。
振り下ろす。
踏み込み。
振り下ろす。
終わらぬ三動作の繋がりは常にテンポよく連続的。
何かを差し挟む隙はない。
何かを差し挟む隙はない。
それ故に、ウルフウッドは動けない。
銃撃による介入を行おうとしても、それを狙えば回避のテンポを崩して破滅が確定。
何より、超々近接戦闘による打撃連撃玉簾こそが、パニッシャーの最大の弱点であるからだ。
銃撃による介入を行おうとしても、それを狙えば回避のテンポを崩して破滅が確定。
何より、超々近接戦闘による打撃連撃玉簾こそが、パニッシャーの最大の弱点であるからだ。
最強にして最高の個人兵装と謳われる超重武器。
だが、完全無欠というわけではない。
遠距離においては無類の強さを誇るが、近距離ではその火力を発揮する術はないのだ。
ニコラス・ザ・パニッシャー。
その名の通りそれを自らの一部とするほどに使い込んだ彼はそれをよくよく承知している。
だが、完全無欠というわけではない。
遠距離においては無類の強さを誇るが、近距離ではその火力を発揮する術はないのだ。
ニコラス・ザ・パニッシャー。
その名の通りそれを自らの一部とするほどに使い込んだ彼はそれをよくよく承知している。
成程、成人男性4人がかりでやっと持ち上げられるこの武器は、鈍器として扱うことも可能だろう。
だが、目の前の相手の連続攻撃の狭間にわざわざそんな重たいものを振り回し叩きつける余裕があるはずもない。
だが、目の前の相手の連続攻撃の狭間にわざわざそんな重たいものを振り回し叩きつける余裕があるはずもない。
相手とこちら。
どちらが先に隙を見せるか。
どちらが先に隙を見せるか。
……その一点を互いに注視したまさにその瞬間、来るべき時は訪れる。
「……お、ぐぅ」
――――僅かに顔をしかめる獣人。
高速連撃による身体への負担は、東方不敗との戦闘による負傷にも等しく圧し掛かる。
高速連撃による身体への負担は、東方不敗との戦闘による負傷にも等しく圧し掛かる。
傷が、開いた。
ほんの僅かの痛みはしかし、天秤を均衡状態に戻すには充分だ。
ほんの僅かの痛みはしかし、天秤を均衡状態に戻すには充分だ。
身を沈め。
脚を抜き。
突き付ける。
脚を抜き。
突き付ける。
――――何を?
決まっている。
死を運ぶ十字架の砲口だ。
決まっている。
死を運ぶ十字架の砲口だ。
だが遅い。
まだ足りない。
獣闘士の進撃を進軍を進攻を食い止めるには、決定的に速さが足りない――――!
まだ足りない。
獣闘士の進撃を進軍を進攻を食い止めるには、決定的に速さが足りない――――!
「俺の名は……チミルフ! ただのチミルフだ! 螺旋王より生命を賜りし……一介の武人だッ!!」
掲げ構え。
踏み込み。
振り下ろす。
踏み込み。
振り下ろす。
十字架の撃鉄の挙動よりなお早く、轟音と共に地が割れる。
間髪入れず、牧師は身を躍らせる。
間髪入れず、牧師は身を躍らせる。
「そりゃぁよかったな、だからどうしたぁッ!」
身を沈め。
脚を抜き。
突き付ける。
脚を抜き。
突き付ける。
鉄槌の破砕を見極められ、しかし獣闘士は揺るがない。
ただひたすらに、喪った矜持を取り戻す為にニンゲンに問いを投げ続ける。
ただひたすらに、喪った矜持を取り戻す為にニンゲンに問いを投げ続ける。
「……貴様は、貴様という存在は……何者だッ!」
掲げ構え。
踏み込み。
振り下ろす。
踏み込み。
振り下ろす。
「あぁ? それがおんどれに何の関係があるっちゅうんや……ッ!」
身を沈め。
脚を抜き。
突き付ける。
脚を抜き。
突き付ける。
「……我ら獣人は、貴様らニンゲンを支配する為に螺旋王によって作られた存在だ……ッ!」
掲げ構え。
踏み込み。
振り下ろす。
踏み込み。
振り下ろす。
「……螺旋王!? ……ハ、どういうつもりかは知らんがな、丁度ええわ……ッ!」
身を沈め。
脚を抜き。
突き付ける。
脚を抜き。
突き付ける。
「……だが王は、ニンゲンの真なる力を用いて一つの事を成し遂げると告げた! 獣人を頼らずにだ!」
掲げ構え。
踏み込み。
振り下ろす。
踏み込み。
振り下ろす。
「どんな理由があったかなんてどうでもええわ……何故ワイだったんや、何故このワイを生き返らせて、そしてまた殺そうとするッ!」
身を沈め。
脚を抜き。
突き付ける。
脚を抜き。
突き付ける。
「ならば我らの取るべき道は一つしかない! 我々獣人がニンゲンより優れた種であることを、示すのだッ!」
掲げ構え。
踏み込み。
振り下ろす。
踏み込み。
振り下ろす。
「そしてな……何故、あの阿呆を巻き込んだぁッ!」
身を沈め。
脚を抜き。
突き付ける。
脚を抜き。
突き付ける。
「……どうして貴様は戦う! どうしてニンゲンは抗う! どうしてニンゲンは、壁を貫こうとする……!」
「どうして、どうして外道が外道なりに見出した救いまでも、あのトンガリまでもおちょくってくれたんや……!」
掲げ構え。
踏み込み。
振り下ろす。
身を沈め。
脚を抜き。
突き付ける。
踏み込み。
振り下ろす。
身を沈め。
脚を抜き。
突き付ける。
掲げ構え。
踏み込み。
振り下ろす。
身を沈め。
脚を抜き。
突き付ける。
踏み込み。
振り下ろす。
身を沈め。
脚を抜き。
突き付ける。
鉄槌と十字架とが、互いを掻い潜り揺れ荒れる。
戦いは、時として舞踊に例えられる。
戦いは、時として舞踊に例えられる。
……だが、今この時に在る戦火をその様な児戯で喩えられようか……!
掲げ構え、踏み込み、振り下ろす。
身を沈め、脚を抜き、突き付ける。
身を沈め、脚を抜き、突き付ける。
それぞれの挙動に要する時間は完全に一致している訳ではなく。
だからこそ、今この時に互いの得物はようやく噛み合った。
だからこそ、今この時に互いの得物はようやく噛み合った。
金属の重奏音が、鳴り渡る。
――――鉄槌と、十字架とが、交錯する――――!
「雄ォォォオオオォォオォォォオォォオォオオォオオオオオオッ……!」
「破ァアァアアァアアァァァアアアアァァアアアアァァァァアッ……!」
打ち合う! 討ち合う! 打ち合う! 討ち合う!
打ち合う! 討ち合う! 打ち合う! 討ち合う!
打ち合う! 討ち合う! 打ち合う! 討ち合う!
打ち合う! 討ち合う! 打ち合う! 討ち合う!
打ち合う! 討ち合う! 打ち合う! 討ち合う!
打ち合う! 討ち合う! 打ち合う! 討ち合う!
打ち合う! 討ち合う! 打ち合う! 討ち合う!
打ち合う! 討ち合う! 打ち合う! 討ち合う!
打ち合う! 討ち合う! 打ち合う! 討ち合う!
打ち合う! 討ち合う! 打ち合う! 討ち合う!
打ち合う! 討ち合う! 打ち合う! 討ち合う!
打ち合う! 討ち合う! 打ち合う! 討ち合う!
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打ち合う! 討ち合う! 打ち合う! 討ち合う!
打ち合う! 討ち合う! 打ち合う! 討ち合う!
打ち合う! 討ち合う! 打ち合う! 討ち合う!
「「……答えろッ!」」
闘争の根源が、原初の死合いこそが此処に在る。
ヒトとヒトでないものの狩り合い。
生命の交換。意思と意地のぶつけ合い。
本当の意味での『生き抜く』為の戦いとはこういうものだ。
ヒトとヒトでないものの狩り合い。
生命の交換。意思と意地のぶつけ合い。
本当の意味での『生き抜く』為の戦いとはこういうものだ。
視界の全てが風に染まる。
白銀の世界、自分と敵の二者しか存在しない世界。
音の領域を駆け抜ける。
白銀の世界、自分と敵の二者しか存在しない世界。
音の領域を駆け抜ける。
「ワイみたいな外道が生きて……底抜けのお人よしが死ななあかんかった理由は、何処に在る……ッ!」
「貴様は、そうして得た力を……何の為に使うのだッ!」
「……あの阿呆は、こんな最果ての地獄でも、それでも愛と平和をほざいとった……!」
「我ら獣人は、これまで漫然と矜持という椅子に座っていただけだったッ! だが――――」
「……そんなヤツだからこそ、あんなどぐされた糞餓鬼に嘗められた挙句首を捥がれたッ!
敵にも満たない、あんなけったいな嬢ちゃんに!」
敵にも満たない、あんなけったいな嬢ちゃんに!」
「……螺旋王の求める力は、世界を創る力は我々にはないという! ニンゲンにこそその力があるという!」
「生き延びたワイは何や? 神様に弄ばれて、自暴自棄になって頑固すぎるあの阿呆に劣等感を抱いて!
ガキばかり殺し尽くして!」
ガキばかり殺し尽くして!」
「ならば我々の存在意義は何だ!? ……貴様らの力を試し、その力を得て創造主に誇りを示すことだ!」
「……ふざけんなッ! 世界を創るやと!? だったらアイツを生かさんかい! ワイなんかよりよっぽどいい世界を創ってくれるわッ!」
「貴様の拘るアイツとは誰だ? それが、貴様のニンゲンの力の源か……!?」
「……アイツはなぁ、あの阿呆はな、お前たちと同じく創られた生命や! プラントや!」
「…………! ならば俺はその同胞を超えようッ!
同じく創られた存在にもかかわらず、ニンゲンに認められた存在を!」
同じく創られた存在にもかかわらず、ニンゲンに認められた存在を!」
「無理やな、おんどれはアイツと違う! 決定的に違う!
……あの阿呆はどんなことがあっても人間を守り続けた!」
……あの阿呆はどんなことがあっても人間を守り続けた!」
「……何だと!? ニンゲンを超えた存在が、ニンゲンと共に……だと」
「……ああ、そうや。
ヴァッシュ・ザ・スタンピードは、空っぽの貴様らと違って、人間が進み続ければいつか共に歩けると、信じていたんやぞ……!」
ヴァッシュ・ザ・スタンピードは、空っぽの貴様らと違って、人間が進み続ければいつか共に歩けると、信じていたんやぞ……!」
僅かな一瞬。
言葉と剣戟の応酬にてもたらされた事実は、重い手ごたえとして獣闘士の胸に刻み込まれる。
牧師の慟哭は、確かにそれが真実であると雄弁に語っていた。
言葉と剣戟の応酬にてもたらされた事実は、重い手ごたえとして獣闘士の胸に刻み込まれる。
牧師の慟哭は、確かにそれが真実であると雄弁に語っていた。
「……こんな、どうしようもなく救えない外道でもな! 生きてて嬉しいと! 友達だと! 共に戦いたいと!
ほざきやがる位の……大馬鹿野郎や……ッ!」
ほざきやがる位の……大馬鹿野郎や……ッ!」
ゼロコンマに満たない静止。
……それだけで、牧師が引鉄を引くには十分だ。
……それだけで、牧師が引鉄を引くには十分だ。
獣闘士が既に振りかぶった鉄槌で叩き潰すより早く、牧師は十字架にて脳漿と心臓をぶちまけさせる事だろう。
ならば、それよりなお早く。なお速く。
蹂躙せよ。
蹂躙せよ。
蹂躙せよ。
蹂躙せよ。
蹂躙せよ。
……蹂躙せよ――――!
まだ、自分はニンゲンを見極めてなどいないのだから!!
「お、おお、おおおぉぉぉおおおぉぉおおおぉおぉおおおッ!」
――――チミルフは、振りかぶったまま鉄槌を背後に放り捨て。
「が……はぁっ……!」
そのまま、肩から牧師に体当たる――――!
突撃、突撃、突撃!
突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃
突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃
突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃
突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃――――!!
突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃
突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃
突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃――――!!
「おぉ、おおおおおぉおおおぉおおぉぉおおおおおぉおぉお……!」
「……ざけんじゃ、ないわ……ボケぇっ!」
愚直すぎる、何処までも何処までも真っ直ぐなタックル。
獣人の超重量と筋力を以ってすれば、それは自動車など悠に勝る破竹の衝撃と化して進撃する。
……故に。
パニッシャーを楯にしたウルフウッドの体はあっさりと、『弾き飛ばされない』。
獣人の超重量と筋力を以ってすれば、それは自動車など悠に勝る破竹の衝撃と化して進撃する。
……故に。
パニッシャーを楯にしたウルフウッドの体はあっさりと、『弾き飛ばされない』。
……どうして?
回答はオンリーワン。
ウルフウッドが吹き飛ばされるその速度より、チミルフが突進する速度が勝っているからに他ならない。
道を抜ける。
森を抜ける。
街を抜ける。
森を抜ける。
街を抜ける。
ウルフウッドを貼り付けたまま、チミルフはかつての二つ名、怒涛と化して止まらない。
舌打ちと共にウルフウッドは考える。
楯を挟んだ分威力を損じている為有効打には至っていないが、それでも全身を圧迫する衝撃は苦しいものがある。
楯を挟んだ分威力を損じている為有効打には至っていないが、それでも全身を圧迫する衝撃は苦しいものがある。
ならば止めろ。留めてみせろ。
――――掌打。
ごきり、とチミルフの首が鳴った。
だが止まらない。
だから、更なる一撃を叩き込む。一撃で足りなければ二撃。二撃で足りなければ三撃を。
だが止まらない。
だから、更なる一撃を叩き込む。一撃で足りなければ二撃。二撃で足りなければ三撃を。
掌打掌打掌打掌打掌打掌打掌打掌打――――!
突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃突撃――――!
……不意に、視界が暗くなる。
何処かの建物に、壁に開いた孔から入り込んだようだ。
何処かの建物に、壁に開いた孔から入り込んだようだ。
まずい、とウルフウッドは考える。
このまま壁に叩きつけられでもしたら、内臓破裂では済まされないだろう。
このまま壁に叩きつけられでもしたら、内臓破裂では済まされないだろう。
……だから、その前に。
全身全霊を込めて拳を握る。
「破あぁぁぁあああぁぁぁあぁぁああああッ!」
「雄ぉぉおおおぉぉぉぉぉぉおおおおぉぉッ!」
「雄ぉぉおおおぉぉぉぉぉぉおおおおぉぉッ!」
……何も考えず、拳骨を叩きつける。
……白い壁に、黒衣の牧師を叩きつける。
……白い壁に、黒衣の牧師を叩きつける。
静かすぎる音が、響き渡った。
時間は同時。
双方が、ぐらりと揺れてくずおれる。
――――ウルフウッドの視界には、ゆっくりと立ち上がろうとして膝をつく獣人が入っている。
……何故かは分からない。だが、非常に幸運なことに背中に当たった壁はやけに柔らかい素材で出来ていたようだ。
また肋骨がイカれた気もするが、大したものでもない。内臓も苦しいだけで破損はない、と判断。
追突の直後、ぶち、という音がして背後の壁が破れたような気もする。
あれだけの衝撃を吸収したのだから当然だろう。
また肋骨がイカれた気もするが、大したものでもない。内臓も苦しいだけで破損はない、と判断。
追突の直後、ぶち、という音がして背後の壁が破れたような気もする。
あれだけの衝撃を吸収したのだから当然だろう。
……だが、ダメージそのものはともかく一時的に身体機能を麻痺させるには充分すぎる衝撃だ。
――――あと、一撃。
たったそれだけで生死は決するというのに、動きがままならない自分が口惜しい。
懐に忍ばせたデザートイーグル。
それで鉛弾を脳天にぶち抜けば終わりというのにだ。
懐に忍ばせたデザートイーグル。
それで鉛弾を脳天にぶち抜けば終わりというのにだ。
見れば、チミルフは立ち上がれないながらも既に丸太のような豪腕を握り締めている。
意趣返しのつもりだろうか。
だが、自分とは拳の大きさが全く違う。
あんなもので殴られれば、トマトよりもなおあっさりと自分の顔は砕け散ることだろう。
意趣返しのつもりだろうか。
だが、自分とは拳の大きさが全く違う。
あんなもので殴られれば、トマトよりもなおあっさりと自分の顔は砕け散ることだろう。
……どちらが先に立ち上がれるか。
それだけで天秤は傾くのだ。
このままでは五分と五分。
おそらくほぼ同時に立ち上がる、とウルフウッドは経験から推測した。
それだけで天秤は傾くのだ。
このままでは五分と五分。
おそらくほぼ同時に立ち上がる、とウルフウッドは経験から推測した。
立て。
立て。
立て。
立て。
立て。
立て。
立て。
立て。
立て。
――――立ち上がれ。
だが。
何故、自分は立ち上がろうとするのだ?
そんな自問が何処からか浮かび上がってくる。
生と死の狭間。
再度この境地に立たせられて、ウルフウッドはようやく。
ようやくのこと、燻っていた素直な心情を認めることが出来た。
再度この境地に立たせられて、ウルフウッドはようやく。
ようやくのこと、燻っていた素直な心情を認めることが出来た。
……ああ。
なんて情けないんやろな。
あれだけ外道の限りを尽くして、恨みを買って。
なんて情けないんやろな。
あれだけ外道の限りを尽くして、恨みを買って。
神様の救いも、友達の想いも見放して。
それでも。
それでもワイは。
それでもワイは。
――――生きたいと、思ってしもうた。
「……そやな……ああ、生き抜いてみせるで。
たとえ修羅の道を歩もうと、絶対に……ッ!」
たとえ修羅の道を歩もうと、絶対に……ッ!」
だから立つ。立ち上がる。
例え何が修羅の道の先にあろうと、それを穿ち壊す為に。
生き抜くために――――!
例え何が修羅の道の先にあろうと、それを穿ち壊す為に。
生き抜くために――――!
「……これで仕舞いや、くたばれオッサン……!」
――――緑の螺旋を纏わせて。
ニコラス・D・ウルフウッドは此処に再起した。
此処に――――ようやくの事で『蘇った』。
此処に――――ようやくの事で『蘇った』。
誰よりも強い後悔と、誰よりも強い生きる意志を両立させて。
外道を進む処刑人は、今こそ戦場に舞い戻る――――!
外道を進む処刑人は、今こそ戦場に舞い戻る――――!
向けるは銃口、獣闘士が頭部。
……だが、そこには狙うべき頭蓋は存在しない。
すでにチミルフは立ち上がり、太く強い豪腕を振りかぶっている。
すでにチミルフは立ち上がり、太く強い豪腕を振りかぶっている。
「砕け……散るがいい……ッ!」
勿論こちらが脳天を撃ち抜く方が速い。
だが、たかがその程度で、命を止めたくらいで相手の一撃が止まるとは到底思えない。
だが、たかがその程度で、命を止めたくらいで相手の一撃が止まるとは到底思えない。
……その事実にウルフウッドは苦笑する。
穏やかな、笑みだった。
穏やかな、笑みだった。
……同時に立ち上がっても、こっちが先に立ち上がっても結局あっちにぶん殴られるんかい。
――――不公平やな、まったく、この世っちゅうんは。
――――不公平やな、まったく、この世っちゅうんは。
ようやく蘇って、その直後に脳漿を散らす。
……それが分かってなお、ウルフウッドは静かに真剣に脳天を狙う。
……それが分かってなお、ウルフウッドは静かに真剣に脳天を狙う。
これで全部、お仕舞いや。
それだけを思って撃鉄を動かし――――
全身が動かないことに気が付いた。
「な……ッ!」
見れば、体中に鎖が、ぎゅう……っ、と絡み付いて動かない。
それを認識した直後。
それを認識した直後。
強烈なGと共に体がいきなり引きずられた事だけを理解して、ウルフウッドの意識は闇に堕ちた。
時系列順に読む
投下順に読む
267:No Man's Land -はるか時の彼方- | ニコラス・D・ウルフウッド | 267:No Man's Land -唄い続けられる- |
267:No Man's Land -はるか時の彼方- | チミルフ | 267:No Man's Land -唄い続けられる- |