今はまだ飛べない翼  ◆1sC7CjNPu2



「ふんもっ、ふ!」

 気合の言葉と共に、Dボゥイは瓦礫を畳替えしの要領でひっくり返す。
 瓦礫はバタンと大きく倒れ、人の気配のない瓦礫の山に音を響かせた。

「……当たり、だな」

 確認するように呟いたDボゥイの視線の先には、まだ所々に細かい瓦礫が残っている一枚のシャッターがあった。
 重厚な金属で出来たそれは、シャッターというよりは隔壁と呼んだ方が適切かもしれない。
 シャッターはその先が地下へと続くかのように横倒しに設けられており、その大きさは大柄な成人男性が入るに十分なものだ。
 シェルターか、もしくは地下施設への昇降口と見て間違いないだろう。

――問題は、この先に何があるかだ。

 これが何の変哲もないシェルターの入り口などではないという確信が、Dボゥイにはあった。
 Dボゥイの見た限り、会場の町並みは西暦2000年初頭辺りの造りになっている。
 だというのに目の前のシャッターは町並みから推測できる技術より、数世代先の造りになっているのだ。
 つまりは、後付で設置されたもの。

――普通に考えるなら、螺旋王が何らかの理由で取り付けたものということだ。
――だとしたら、いったい何のために?
――何かがある、それは間違いないのだが……

 想像だけなら、いくつもの可能性がある。
 例えば、この先に螺旋王にとって見られてはマズイもの――この会場の、不可思議な仕掛けに関わるものがある可能性だ。
 もしもこれがそうならば、螺旋王に対して痛烈なカウンターになる。

――だがその場合、通路の奥に入っただけで首輪を爆破される可能性もある。

 歯噛みし、Dボゥイは少なからぬ焦燥を自覚する。
 時刻は既に黎明、ブラッディアイの効果もとうに尽きていた。
 現在DボゥイがいるのはE-6エリア、ちょうどデパートがあった付近だ。
 スパイクの助言により病院を裏口から出たDボゥイは、次にスパイクの助言に従わず南の方向へ向かった。
 以前に舞衣から聞いた話で、彼女が映画館付近には近寄らないだろうと予測が出来からだ。
 だとしたら、スパイクの言う危険人物と鉢合わせする可能性も十分にある。
 舞衣のエレメントに、危険人物の持つ銃機関銃。
 どちらが勝るかは分からないが、舞衣の生命が危険なことに変わりはない。

――結局誰にも出くわさず、杞憂で終わったがな。


 しばらくして無駄足を踏んだことを薄々と察し始めた時に、四回目となる放送が流れた。
 舞衣やゆたかの名前が呼ばれなかったことに安堵し――ラッド・ルッソの名が挙がり、Dボゥイは胸にポッカリと穴が空いた感じがした。
 シンヤの時と同じような感覚か、それ以上か。
 憎しみの対象がこうもあっさりと消え去った事に、納得できるわけがない。
 だが放送に偽りがないであろうことは間違いなく、ただ虚しさが残る。

「……何をやっているんだ、俺は」

 シンヤとの決着も付けれず、仇も取れず、守りたいものは彼の手から離れていく。
 テッカマンとなってしまってからも経験したことのない無力感が、Dボゥイを襲った。

――それでも俺は、膝を折るわけにはいかなかった。

 だから歩き続けた。そして偶然に、このシャッターを見つけた。
 瓦礫の隙間から見えたシャッターの違和感に気づき、夢中になって瓦礫をどかしたのはある種の現実逃避だったかもしれない。
 藁にもすがる人間の気持ちはこんなものなのだろうかと、Dボゥイは自嘲する。

――さて、そろそろ行くか。

 これ以上の逡巡は、本当に時間の無駄となる。
 最悪の想像も、あくまで想像でしかない。
 安易だとは知りつつもDボゥイはそう結論付け、シャッターを開けるため細かい瓦礫を除去しようと一歩目を踏み出し――。


 ガシュンと、『まるでシャッターの操作パネルを踏み潰したような音』が聞こえた。


「………………………………………………む」

 彼にしては珍しく、分かっているが認めたくないといった感じの空気が流れた。
 恐る恐る足元を見てみると、Dボゥイの足が瓦礫の破片を踏んでいる。
 それはいい、足が接地する時に感触があったことで知っている。
 問題はDボゥイの体重で押された瓦礫の破片が、さらにその下の『なんらかの操作パネル』にめり込んでいたことだ。
 段々と、Dボゥイの額に脂汗が浮かぶ。

『ガー……ラ…ンリョ…ク……ガーガー……かくに……』
「む?」

 不意にパネルから途切れ途切れに電子音声が発せられ、Dボゥイは『操作パネルらしきもの』から足を離す。
 ……やはり壊れたか。そうDボゥイが今更考えたところで、『操作パネルらしきもの』がバチバチと音を立てボンと爆発した。
 同時に、シャッターが静かにその口を開く。

「むぅ」

 困り顔で、Dボゥイは開いたシャッターの奥を覗き込む。
 その先には地下深くに続くであろう螺旋階段が設置されており、その終着は月明かりでも照らすことは出来ていない。

「……まあいい」

 結果オーライだということにした。
 Dボゥイはデイパックからランタンを取り出し、釈然としない顔で螺旋階段を下る。
 全身がシャッター奥に入ったところで、首輪が何の反応もしないことを確認する。
 安堵のため息をつき、Dボゥイは暗闇の奥へと足を進めた。


 ■

 起こるべくして起きた偶然を、必然と呼ぶ。
 機械仕掛けの神、デウス・エクス・マキナは二度目の降臨を果たしていた。
 ……あるいはスバル・ナカジマの誰かを救いたいという願いに、Dボゥイはまた助けられたと言うべきか。

 かつてと呼べるほど過去ではない時間に、デパート周辺では災害級の破壊が起きた。
 その威力は螺旋王の想定したもの以上で――シャッターが、耐え切れるはずのものではなかったのだ。
 辛うじて概観は正常のものであったが、その内部のシステムには様々な障害が起きていた。
 例えば、螺旋状の鍵と螺旋力がなければ開かないシャッターにそれらを誤認させるほどに。
 ひょっとしたら、スバル・ナカジマの乖離剣・エアと螺旋力にシャッターは反応していたかもしれない。
 そしてDボゥイの行いがトドメとなり、扉は開いた。

 言ってしまえば、誰かがシャッターに触れた時点でシャッターはすぐに開くような状態だったのだ。
 誰かがシャッターを見つけた時点で、shut――閉じるを意味するシャッターの役目は終わっていた。
 ただ、それだけのこと。


 ■


 もう随分と長い間、彼は暗闇の中で慟哭していた。

 目が覚めた当初は、いつの間にか見知らぬケージの中に連れさらわれたことに動揺していただけだった。
 だが小一時間もしない内に、彼は怒り狂うことになる。
 彼に外界の状況を知るすべはない――だが、彼の生来の野生が告げてきたのだ。


 キャロ・ル・ルシエ――彼が生まれる前から傍にいた、大切な主が死んだと。


――憎い!

 彼――キャロ・ル・ルシエの使役竜である『白銀の飛竜』フリードリヒは、激しい怒りと憎しみに吼えた。
 まだ短い生涯に覚えがないほどの、憎悪。
 それは主を殺した下手人に対し、主を守れなかった仲間たちに対し――何も出来ずにいる、自分自身に向けられた。

――憎い!憎い!憎い!

 フリードリヒはケージを破ろうと火を吐き、爪や牙を突き立てた。
 だが当然のように抵抗は予想されており、フリードリヒを閉じ込めるケージには引っかき傷おろか焼け跡すら残らない。
 フリードリヒ本来の実力も抑えられているようで、思ったとおりに発揮しない自分に歯噛みすらした。
 それでも、フリードは内から引き起こされる衝動に押され愚行を止めない。

――憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!

 度重なる行為で、彼の体はボロボロになっていった。
 また身体が疲労すると同時に、フリードリヒの精神も疲労していく。
 時が経つごとに、一度は憎しみを向けた仲間たちが消えていくのをフリードリヒは感じていた。
 無力。その事実が、フリードリヒの心を削る。

――憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!憎い!

 そして、ついに彼の身体は意思に反して動かなくなった。
 それでも最後の抵抗とばかりに、フリードリヒは慟哭を響かせる。
 慟哭し、慟哭し、慟哭し――唐突に、暗闇は光にかき消された。

「……誰かいるのか!」

 久方ぶりの、人の声。
 何者かと確認しようと、フリードリヒは光に目が慣れてきたところでその赤い目をゆっくりと開く。
 憎しみに彩られた目と、同じく憎しみに彩られた目が交錯した。


 ■


「……まさか、コイツがここにあるとはな」

 Dボゥイは宇宙開発機構・スペースナイツの保有する宇宙船、ブルーアース号のメインパイロット席でため息をついた。
 地下へと続く螺旋階段の先にあったものは、ブルーアース号は始めとする起動兵器群の格納庫だった。
 もっとも機動兵器群とは言ったものの、その内訳はカオスだったが。
 バイクや小型の戦闘機、果てにはカエルの頭を模したロボットまで置いてあり思わず呆れたものだ。

――極めつけは、生きたドラゴンといった所か。

 チラリと、Dボゥイはメインパイロット席の前方にあるナビゲーター席を見る。
 そこには起動兵器群の中、異彩を放っていたケージの中にいた子竜がうずくまっていた。
 ケージに掛かっていたネームプレートを信じるなら、フリードリヒという名前らしい。

――まったく、俺はどうかしてる。
――いくら俺やバルザックと同じような目をしていたからって、連れまわす理由にはならないだろうに。

 連れて行けとすがるような瞳に負け、外からは簡単に開く仕組みのケージを空けたのが間違いだったか。
 今のところ妙に懐いてくるおかげで害にはなっていないが、変に動かれてはたまったものではない。
 もっとも怪我が痛むせいがあまり動けないのは、フリードリヒを治療したDボゥイがよく知っている。
 そこでフリードはDボゥイの視線に気づいたのか、どうかしたかと尋ねるような瞳を向けてくる。
 なんでもないと軽く首を振り、Dボゥイは視線をメインパイロット席のパネルに移す。

――しかし、改めてここが常識の範囲外の世界だと実感するな。

 ゆたかが持っていたコアドリルのようなアイテム、素晴らしきヒィッツカラルドや東方不敗のような見知らぬ体術。
 舞衣のエレメントや、スパイクから渡されたブラッディアイという薬品。

――どれもこれも、俺の理解の範疇を超えている。

 ではこれらを集め、戦わせている螺旋王は何者かと考え――Dボゥイは、考えるのを止めた。
 決定的な情報がない今、螺旋王のことは考えるだけ無駄だ。
 圧倒的な力を持つこと。そして、いずれ殺すこと。
 そもそも舞衣やゆたかの悲劇、シンヤの死亡などの大本の原因は螺旋王だ。
 今は螺旋王より優先すべきことがあるが、恨みを晴らさぬ理由などDボゥイにはない。


――とにかく、今は舞衣とゆたかのことだ。

 ブルーアース号は大気圏内外での活動が可能――つまり、航空機としての側面も持つ。
 さらに垂直離着陸も可能で、簡易のベース基地としては最適とも言える。
 燃料が約二時間程に限られてはいるが、ブルーアース号の速力を考えればこの会場は十分に狭い。

――後は、目的地。

 少しの熟考の後、Dボゥイは通信機能を立ち上げる。
 既にスペースナイツへの通信は試し、失敗に終わっていた。
 しかし、この会場内にはこの格納庫と同じような施設が複数存在する可能性がると考えたのだ。

――もし他に同じような施設がなかったとしたら、それはこの施設を見つけた者の独壇場を許すことになる。
――螺旋王がそれこそを見たいという事は、おそらくない

 放送の内容もそうだが、もし虐殺を見たいというなら配下の人間を送り込んだことに疑問が生じる。
 ……もっとも、そのチミルフとかいう配下を殺すために送り込んだとしたら話は違ってくるのだが。
 チラリと浮かんだ考えを隅に除け、Dボゥイは通信を試みる。
 そして幸運というべきか、そう時間も立たないうちに手ごたえがあった。

「……よし。聞こえているか、応答を頼む」

 モニターの向こうの相手が殺し合いに乗っていないことを祈りつつ、Dボゥイはまだ不鮮明な通信に向けて言葉を発する。
 応答は、すぐに返ってきた。


『Dボゥイ、さん』


 ■


 小早川ゆたかは、柔らかな革張りの椅子の上で満天の星空を見上げていた。
 前面の四つのモニター全てに夜空を映し、ちょっとしたプラネタリウム気分を味わっていたのだ。

――なんでだろう。
――こんなに綺麗なのに、ぜんぜん綺麗じゃない。

 矛盾した感想を述べ、ゆたかは煌びやかに映る星座や星々に興味を失い適当にパネルを操作してモニターを暗闇に戻した。
 アンチシズマ管はストロベリージュースからまたメロンジュースに変わり、淡い光でゆたかを照らしている。

――みんな、死んじゃったかな。

 朦朧とした頭で、ゆたかは刑務所にいた面々を思い浮かべる。
 いくらゆたかとて、大怪球が浮上すれば刑務所がどうなったかなど想像がつく。
 いまいち実感が湧かないが、おそらく間違いはないだろう。

――ああ、でも、どうでもいいか。

 何もかもが、どうでもよかった。
 生きるのが辛い、死ぬのが怖い、人に干渉されるのが辛い。
 だから、小早川ゆたかは考えることを止めることにした。

――私は何もしない、この子と一緒にただプカプカ浮かんでいるだけ……

 そこまで考えて、不意にゆたかの口から欠伸が出てきた。
 同時に、眠気がゆたかを襲う。
特に抵抗する理由もないためあっさりと白旗を挙げ、ゆたかは眠りの国に赴こうとした。

『ピピッ!ピピッ!』
「……むぅ」

 今まさに瞳を閉じようとした時に響いた電子音に、ゆたかは思わず頬を膨らませる。
 ふとパネルの一つを見ると、ボタンの一つが赤く点滅していた。
 少しの沈黙のあと、ゆたかはあっさりとボタンを押す。
 何が起ころうが、どうでもいい。そんな破滅的な思考だった。

『――聞こえて――応と――頼む――』
「……え?」

 聞こえてきた声に、一瞬でゆたかの眠気が吹き飛んだ。
 暖かく、懐かしい声。間違えようなどあるはずがなかった。
 それだけに嬉しくて――怖い。

「Dボゥイ、さん……」
『――ゆたか!ゆたかなのか!』

 途切れ途切れだった音声が明瞭になるのと同時に、正面のモニターにDボゥイの姿が映った。
 Dボゥイの方にも映像が行っているようで、ゆたかの姿を認めてホッとしたような表情を浮かべている。
 鼓動が早鐘のように、ドグンと鳴った。

『無事でよかった、君は今どこに――』
「――――嫌!」

 半ばパニックになって、ゆたかは叫んでいた。
 圧倒的な恐怖が、あっという間にゆたかの心を支配する。
 ゆたかは普段かれでは想像出来ない速さでパネルに齧りつき、通信をシャットアウトしようと試す。

『ゆたか!?いったいどうしたんだ!』
「……ごめんなさい、私のことは放っておいて下さい!」
『ゆた――』

 声が途絶え、程なくしてモニターが再び暗闇に戻る。
 完全に通信が遮断されたことを確認すると、ゆたかは震える手足を押さえるように丸まって椅子に横になる。
 いつの間にか、冷や汗がびっしょりと溢れていた。


――『私には信じるコトが出来ます! 何も力がなくてもDボゥイさんを信じるコトは出来る!』


「嫌ぁ!」

 かつてシンヤを目の前にして放った言葉が耳元でリフレインし、ゆたかは思わず耳を塞ぐ。
 Dボゥイを前にして、ゆたかが覚えた圧倒的な恐怖――それには、羞恥心が混じっていた。
 彼の姿を見れば分かる。いくらボロボロになろうと、DボゥイはDボゥイのままゆたかを助けようと奮起していたのだろう。
 だが――自分は、いったい何をしている?
 Dボゥイを目の前にしただけで、自分の矮小さを思い知らされるような気がした。

「……やだ……見ないで……」

 本当に、何もかもがどうでもよかったはずだった。
 しかし、気がついてしまった。
 今のゆたかを知れば、Dボゥイはゆたかのことをどう思う?
 優しい彼のことだ、責めることはしないだろう。
だがきっと心のどこかで落胆し、それでもゆたかを守ろうとする。

――そんなの、耐えられない!

 それは明智にブチ撒けた、誰にも必要とされずただ無力な存在そのものだ。
 ゆたかは、恐怖した。
 Dボゥイはきっと、ゆたかを助けにくる。
 ゆたかを誰にも必要とされず、ただ無力な存在にするために。

――Dボゥイさん、お願いです。どうか私に構わないで下さい。
――私は一人でいいですから……一人が、いいんですから。

 寒気がして、頭痛がする。
 寝てしまいたいのに、眠気が訪れる気配はない。
 凍える身体を強く抱きしめ、ゆたかは恐怖におびえ続けていた。


 ■


「ゆたか!答えてくれゆたか!……くそっ!」

 いくら呼びかけても反応しないモニターに対し、Dボゥイは思わず舌打ちする。
 モニター越しとはいえ、五体満足な彼女の姿を認めたときは心の底から嬉しいと思えた。
 だが、彼女はまるで拒絶するように通信を打ち切ってしまった。

――君は、俺を信じてくれると言ってくれたじゃないか……

 また、守れなかったのか。そんな自責の念がDボゥイの胸に浮かぶ。
 シンヤに連れ去られ別れてからおおよそ半日、その間に心優しかった少女になにがあったのか。

「……いや、だけどまだゆたかは生きている」

 守れなかった事、彼女の心に傷をつけてしまったであろう事を、Dボゥイは静かに認めた。
 だが、これ以上は許さない。許されない。
 癒すことは、Dボゥイには出来ない。ただ出来るのは、取りこぼさないために守ることだけだ。

――ゆたかが居たのは……発電所か。

 それほど注視はしていなかったが、Dボゥイはゆたかの後方に緑に光る幾つもの円柱状のカプセルがあったのを覚えている。
 それがいったい何なのかは確証が持てなかったが、何らかのエネルギー装置だとは推測が出来た。
 もしも本当にエネルギー装置だとしたら、あれだけ大量にあるのは発電所だと見て間違いないだろう。

――急がなくては。

 ブルーアース号を発進させるため、Dボゥイは操縦席を立ち後方の出入り口へと向かう。
 格納庫は様々なメカを置くために広大な広さを誇っていたが、肝心の発進口は一つしか用意されていなかった。
 その発進口は隔壁に閉鎖されており、一度ブルーアース号から降りて手動で隔壁を空ける必要があるのだ。

「キュル!」
「む?」

 振り向くと、フリードリヒが連れて行けと言わんばかりに翼を広げていた。
 Dボゥイは少し考え、無視して先を急ごうとする。
 隔壁を開けるだけで、すぐに戻ってくる予定だ。連れて行くだけ時間の無駄になる。
 そう判断してフリードリヒに背を向け――反射的に、前へ飛んだ。
 次の瞬間に、それまでDボゥイが立っていた場所を火炎が過ぎる。

「っ!」

 思わぬ攻撃に、Dボゥイは体勢を整えながらフリードリヒを睨みつける。
 たった今Dボゥイに向けて火炎を発射したフリードリヒもまた、鋭く睨みつけてくる。
 威嚇のつもりだったのか、第二弾の発射はない。

「……どういうつもりだ」
「キュル!」

 Dボゥイの問いに、フリードリヒは怒気を交えた声を返す。
 ……なんとなくだが、Dボゥイはフリードリヒの心中を察することが出来た。
 空回りする怒りに、何も出来ない無力感。つい先ほど、Dボゥイ自身が味わったものだ。

――同類憐れむ、か。

 Dボゥイは自身がこの小竜を連れ出した理由が、やっと理解出来た。
 同情。つまりは、そういうことだ。
 ため息をつき、ジャンパーの胸元を開く。

「大人しくしていろよ」
「キュクルー!」

 近づき、ジャンパーの中にフリードリヒを納める。
 フリードリヒは居心地が悪そうに顔を歪ませたが、Dボゥイが両手を自由にするにはそれしかないと理解し諦めた。
 あまり贅沢を言える立場でもないことも、分かっているのだろう。
 フリードリヒの頭を軽く撫で、Dボゥイは改めて船外に出ようとする。
 そして――唐突に、立ちくらみが起きた。

「キュウ!」
「…………っ!」

 続いて襲ってきた頭痛に思わず膝を突き、前のめりに倒れそうになる。
 だが胸元にフリードリヒがいることを思い出し、手を突っ張って四つん這いの体勢で耐えた。

――……ブラディアイの副作用か?いや、それにしては遅すぎる。

 数十秒か、それとも数分か。しばらくして、頭痛は鳴りを潜めた。
 Dボゥイはゆっくりと立ち上がり、手を握ったり開いたりして調子を確かめる。

「キュクルー?」
「……大丈夫だ、問題ない」

 心配そうに見上げるフリードに、安心させるように呟く。
 一過性のものだったようで、既に体調は倒れる前のものに戻っていた。
 ここに来て疲労が噴出したのかとも思ったが、そうではないらしい。

「――大丈夫だ、問題ない」

 もう一度同じ言葉を呟き、Dボゥイは船外を目指す。
 理由が分からないし、実害もない。つまりは問題の先送りだ。
 しかたのないことかもしれない。

 いずれDボゥイに降りかかる肉体崩壊の危険性など、告げてくれる者は誰もいないのだから。


 ■


 ダンッ、と壁を拳で叩いた音が格納庫に響く。
 格納庫の唯一の発射口のすぐ横で、Dボゥイが隔壁操作用のパネルに拳を叩きつけたのだ。

「螺旋王、……どこまで俺を怒らせる!」

 Dボゥイが怒り狂っている理由は、隔壁を空けようとした時に表示された情報が原因だった。
 唐突に発射口から出た先の滑走路の見取り図が表示され、その出口はD-5エリアのど真ん中となっていたのだ。
 そこは既に、禁止エリアに指定されていた。
 さらに見取り図を見ると平行に進む滑走路は段々と縦方向にカーブし、滑走路を出る時は垂直に飛び出すしかなくなっている。
 急激な加速で禁止エリアを飛び出すことは、ほぼ困難と言っていい。

――さらに滑走路はリニアカタパルトに設定することが可能だと……螺旋王は、俺たちを宇宙に放り出す気か!

 リニアカタパルトとは本来、電圧により速度の調整を行えるものだ。
 だが目の前のそれは、ブルーアース号を宇宙に押し出すのに十分すぎる設定で固定されていた。
 宇宙に飛び出すのが早いか、首輪が爆破するのが早いか。どちらかは予想も出来ないが、Dボゥイにはどちらも願い下げであった。

「キュル!」
「……そうだな、ぬか喜びに嘆いている暇はない」

 胸元で聞こえたフリードリヒの渇を入れるように鳴き声に、Dボゥイは気を取り直す。
 ブルーアース号を使うことは、自殺行為となる。だが、それは首輪があってこそのことだ。
 首元にある、もう慣れてしまった異物に触れる。

――ゆたかと舞衣をどうにかしてからでもいい、この首輪の解除方法を見つけなくては。

 やるべきことがまた一つ増えた気がしたが、面倒だという気はしない。
 少なくとも、今回のものは希望に繋がるものだと確信出来るものだからだ。


 ■


 爆心地のすぐそばに空いた穴から、ブルンブルンと排気音が聞こえ始める。
 次第にその音は大きななり、ピークを迎えると同時に穴からバイクが飛び出してきた。
 バイクの上に跨るのは、Dボゥイだ。

――発電所まで行くには、南西に通って高速道路を利用するルートに北の映画館を通るルートか……
――くそっ、どちらも時間がかかり過ぎる……ん?

 一度バイクを止め、胸元を見る。
 フリードリヒは懸命に北の方向――Dボゥイがやって来た、病院の方に誘導しようとしている。

「……分かった」

 Dボゥイはバイクを巧みに操り、瓦礫の山を駆け抜ける。
 ゆたかの居場所を発電所と推測はしたが、確信があるわけではない。
 ここは一度フリードリヒに任せて、それで駄目ならば発電所に向かうことにしたのだ。
 舞衣と遭遇する確率は少なくなるかもしれないが、今は手がかりのある方を優先するしかなかった。
 病院近辺の情報を思い出しながら、Dボゥイはふと気がついた。

――そういえば、まだタバコを手に入れてなかったな


【E-6/デパート跡近く/二日目/黎明】

【Dボゥイ@宇宙の騎士テッカマンブレード】
[状態]:一部内臓損傷、背中に傷(炎による止血済み・応急処置済)、激しい怒り
    左肩から背中の中心までに裂傷・右肩に刺し傷・背中一面に深い擦り傷(全て傷跡のみ)
    ブラッディアイ使用による副作用(詳しい症状は不明)肉体崩壊(進行率1%)
[装備]:フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、バイク(ドゥカティ)@舞-HiME
[道具]:デイバック、支給品一式、ブラッディアイ(残量90%)@カウボーイビバップ
[思考]
基本:小早川ゆたかを保護する。
1-A:舞衣が過ちを犯す前に止める。だが……
1-B:ゆたかと合流し、守る。
2:ゆたかを保護するため、発電所に急ぐ。
3:テッククリスタルをなんとしても手に入れる。
4:極力戦闘は避けたいが、襲い掛かってくる人間に対しては容赦しない。
5:煙草を探す
6:首輪を外す手段を模索する
[備考]
※殺し合いに乗っている連中はラダム同然だと考えています。
※情報交換によって、機動六課、クロ達、リザの仲間達の情報を得ました。
※青い男(ランサー)と東洋人(戴宗)を、子供の遺体を集めている極悪な殺人鬼と認識しています。
※恐らくテッククリスタルはどちらを使ってもテックセットが可能です。またその事を認識しています。
※ペガスが支給品として支給されているのではと思っています。
※包帯を使って応急処置を施しました。
※ラッドに対する深い憎しみが刻まれました。
※螺旋力覚醒。但し本人は螺旋力に目覚めた事実に気づいていません。
※ラダムに対する憎しみを再認識しました
※スパイクと出会った参加者の情報を交換しました。会場のループについても認識しています。
※ブラッディアイは使えば使うほど効果時間が減少し、中毒症状も進行します。
※肉体崩壊が始まりました、本人はまだ気づいていません。
※フリードリヒに対して同属意識。

【デパート付近、地下の施設】
人型の機動兵器以外の機動兵器が収納されている。
ブルーアース号、ドゥカティ以外にも沢山あります。
また出入り口はDボゥイが入ってきた一つだけです。
機体によっては、リニアカタパルトで宇宙にまで飛び出る加速度を得ることが可能です。

【フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
キャロ・ル・ルシエの使役竜。『白銀の飛竜』の異名を持つ。
知能は高いですが、自傷行為のため現在自立行動は不可能。
また会場の制限を受けているため、火炎は本来のものより抑えられています
現在の小竜の姿は仮のもので、本来は人を一人二人乗せて飛べるほどの大きさです。
ただしそれにはキャロの「竜魂召喚」の魔法が必要です。

【ブルーアース号@宇宙の騎士テッカマンブレード】
大気圏内外活動可能、垂直離着陸可能なスペーツナイツの宇宙船。
番組当初は非武装だったが、中盤でレーザー・カノン、終盤でフェルミオン砲をそれぞれ追加された。
格納庫にあるのはレーザー・カノンを追加されたタイプ。
また、燃料は二時間程に抑えられています。


 ■


 身体を縮込めて震える少女の元に、ピピピッと電子音が届く。
 再びの通信かと少女は不安を積もらせるが、予想に反してすぐに電子音は鳴り止んだ。
 ホッとする間もなく、モニターに人間の模式図が浮かぶ。
 キョトンとする少女を尻目に、モニターに文字が浮かぶ。

『解析終了』

 モニターの人間の模式図に、赤い色が宿る。
 何か、嫌な予感がした。
 様々な文字と数字がモニターに浮かぶ。

『組織崩壊の可能性、大。
 原因は身体改造の副作用と推測。
 治療法、不明』

 ドクドクと、心音が聞こえる。
 頭が痛い。きっと夢だ。なんで今更。
 ……Dボゥイ、さん。


【???/大怪球フォーグラー メインルーム・上空/二日目/黎明】

【小早川ゆたか@らき☆すた】
[状態]:発熱(中)、寒気、頭痛、疲労(大)、心労(極大)、絶望、恐怖、螺旋力覚醒
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:何をすればいいのか、何をしてはいけないのか分からない
1:……何、これ。
2:Dボゥイが助けにくること(誰にも必要とされずただ無力な存在になること)への恐怖
3:Dボゥイを目の前にしての羞恥(劣等感、コンプレックスなど)
4:できるだけ何も考えないようにする
5:みんなに優しくされるのが辛い
6:自分が無力なことが辛い
7:生きているのが辛い
8:死ぬのは怖い

[備考]
※自分が螺旋力に覚醒したのではないかと疑っています。
※精神状態が著しく鬱屈した方向に向かったため、螺旋力を発揮することが出来ません。 
※状況を理解していなかったため、明智を殺してしまったことは気付いていません。よく状況を考えれば思い出す可能性も……?
 →刑務所にいた面々(明智、清麿、ねねね)は死亡したと考えています。ただし朦朧とした頭で考えただけので実感がありません。
※刑務所を中心とした半径数百メートルは崩壊。
※フォーグラーがどの方向へ飛んでいったのかは次の書き手の方にお任せします。
※Dボゥイの肉体崩壊の可能性に気がつきました。

【大怪球フォーグラー@ジャイアントロボ-地球が静止した日-】
全長300m、総重量500万tにも及ぶ、超巨大ロボット。
重力場を制御し飛行する事によって移動する。

武装は中央の赤い眼から発射される重力レンズ砲と表面から発射される各種レーザーアームとアンチ・シズマ・フィールド。
アンチシズマフィールドは操縦者がONとOFFを切り替える事が可能。
が、このフォーグラーにはアンチ・シズマ管が一本も装填されていないため、エネルギー静止現象を起こす事は出来ない。
今回の起動は事前に十分なエネルギーが供給されていたため。
巨大ロボットの例に漏れず大幅なオートメーションが進んでいるため、簡単な手順で操作可能。


時系列順に読む


投下順に読む


240:天国の扉-Lucy in the Sky with Diamonds- Dボゥイ 258:I can fly(前編)
249:明智健悟の耽美なるバトルロワイアル――閉幕 小早川ゆたか 258:I can fly(前編)





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