【ZOC】 絶望の器 (後) ◆AZWNjKqIBQ
◆ ◆ ◆
窓から差し込む月光で蒼く染まった廊下に、カツカツと力強くテンポのよい二重の足音が響いている。
足音の一つは菫川ねねね。もう一つは明智健吾。二人はここへと迫る殺戮者を迎えるべく正門への道を急いでいた。
足音の一つは菫川ねねね。もう一つは明智健吾。二人はここへと迫る殺戮者を迎えるべく正門への道を急いでいた。
「あたしがアイツと相対して、生きて戻ってこられる確率は?」
「五分五分といったところでしょうか」
「本当は――?」
「……残念ながら、一割にも満ちません」
「五分五分といったところでしょうか」
「本当は――?」
「……残念ながら、一割にも満ちません」
ちっ、とねねねは舌打ちをする。
『作家』対『殺戮者』――そんな無謀を提案する男と、そこから引かない馬鹿な自分に対してだ。
『作家』対『殺戮者』――そんな無謀を提案する男と、そこから引かない馬鹿な自分に対してだ。
「……で、なんであんたはそんな手を選ぶ? いつからそんな無鉄砲な男になった?」
ねねねからの当然に質問に、明智はこの策こそが最上であると返答した。
しかしながら、ただそれだけでねねねは納得などしない。歩みを遅くはしないが、到着までの間にと説明を要求する。
しかしながら、ただそれだけでねねねは納得などしない。歩みを遅くはしないが、到着までの間にと説明を要求する。
「実際、この一番(ターン)を確実に乗り切るための手でしたら、いくつかないこともありません。
ですが、そのどれもが次順かまたその次で王手を決まられてしまう悪手なのですよ」
ですが、そのどれもが次順かまたその次で王手を決まられてしまう悪手なのですよ」
明智の説明は簡潔であった。がしかし、そんな抽象的な言い方をされてもねねねには全く理解できない。
「具体的に言いますと、危険人物がこの周辺に集まりつつあります。その中にはあの東方不敗も……
それが螺旋王の想定の内というのならば、我々はこのまま外に出ればあえなく捕まってしまうでしょう。
彼らが南にいる以上、退路は北ですが……そこは今や行き止まりです。次で王手をかけられるのは間違いない」
それが螺旋王の想定の内というのならば、我々はこのまま外に出ればあえなく捕まってしまうでしょう。
彼らが南にいる以上、退路は北ですが……そこは今や行き止まりです。次で王手をかけられるのは間違いない」
なので、ジリ貧に陥らぬ内に駒を取りにいく――と、明智はねねねに説明した。
前回の手で、士郎、イリヤ、ラッドの3人が脱落した以上、残った4人でもこの様な手を打たなければならないと。
前回の手で、士郎、イリヤ、ラッドの3人が脱落した以上、残った4人でもこの様な手を打たなければならないと。
「本当に勝算はちょっとでもあるんだろうな?」
「ええ、私は自殺志願者ではありませんので」
「そうか、わかった。じゃあ――……」
「ええ、私は自殺志願者ではありませんので」
「そうか、わかった。じゃあ――……」
――奇跡を起こしてやる。
そう言って、ねねねは月夜の中、悠然と現れた傷の男の前に仁王立ちで相対した。
◆ ◆ ◆
唐突だったVの字との邂逅の後。海から上がったスカーは、濡れた身体もそのままに刑務所へと向かった。
海面に叩きつけられ、またその衝撃に身体が痺れる中の水泳は大いに体力を消耗させられたが、それに構わず彼は山を降りる。
海面に叩きつけられ、またその衝撃に身体が痺れる中の水泳は大いに体力を消耗させられたが、それに構わず彼は山を降りる。
普通に考えれば大事を取らなければならない所だが、彼には懐に抱える神秘の鞘――アヴァロンがある。
それさえ持っていれば、傷も体力もゆっくりにだが回復してゆくのだ。
現在の消耗は刑務所に着くまでには充分に回復する――そう判断を下して彼は先を急いだ。
それさえ持っていれば、傷も体力もゆっくりにだが回復してゆくのだ。
現在の消耗は刑務所に着くまでには充分に回復する――そう判断を下して彼は先を急いだ。
夜の森を差し込む月光を頼りに進む途中で4度目になる螺旋王の声を聞き、更に足の動きは速まった。
聞かされた名前に驚きはしなかったが、12名という数には驚かされた。更には、配下の者を場に加えるという知らせ。
目的を殲滅から、螺旋力を持つ者の確保へと変えたスカーにとっては、それは最早猶予はないという通告に他ならない。
聞かされた名前に驚きはしなかったが、12名という数には驚かされた。更には、配下の者を場に加えるという知らせ。
目的を殲滅から、螺旋力を持つ者の確保へと変えたスカーにとっては、それは最早猶予はないという通告に他ならない。
高い石の壁に遮られた刑務所という場所。
そこに見えた人影も、与り知らぬ所で掻き消えてしまうかも知れないと考えると、歩みは何時の間にか疾走へと変わっていた。
そこに見えた人影も、与り知らぬ所で掻き消えてしまうかも知れないと考えると、歩みは何時の間にか疾走へと変わっていた。
間近まで来れば見上げることしかできない高い壁。それに沿い、スカーは今度は逆に慎重に歩を進める。
破壊の右腕を使えば壁に穴を穿って中に潜入するのも容易い。
だが、今は出会った人間を見定める必要がある。何時ぞやの様に、無闇やたらと襲いかかることはできないのだ。
破壊の右腕を使えば壁に穴を穿って中に潜入するのも容易い。
だが、今は出会った人間を見定める必要がある。何時ぞやの様に、無闇やたらと襲いかかることはできないのだ。
それに、この中に潜む者達がドモン・カッシュの様な強者という可能性も少なくない。
この前も、黒服の男より手痛い一撃を貰ったばかりであるし、ここまで残っている者ならば、やはり油断はできない。
この前も、黒服の男より手痛い一撃を貰ったばかりであるし、ここまで残っている者ならば、やはり油断はできない。
逸る気持ちを理性という鎖で縛り、スカーは精神を鋭敏に澄まして壁沿いに刑務所を周回する。
そして、程なくして彼は刑務所の正門に辿り着き――出会った。
そして、程なくして彼は刑務所の正門に辿り着き――出会った。
――己を仇とする一人の『作家』と。
◆ ◆ ◆
「お待ちしていました。ミスター、スカー。」
歓待の言葉は目の前に立ちふさがる女より後ろ、傍観者の位置で立つ男から発せられたものだった。
女の方は無言でこちらを睨み付けてくるだけで、何をしようともしてこないが……
その強い憤りが篭った眼差しに、スカーは既視感を覚える。それは、そんなに遠い記憶ではなかったはずで……
女の方は無言でこちらを睨み付けてくるだけで、何をしようともしてこないが……
その強い憤りが篭った眼差しに、スカーは既視感を覚える。それは、そんなに遠い記憶ではなかったはずで……
「待っていたと言ったな。それに、俺の呼び名も…………」
記憶にかかった靄を掻く作業を中断し、スカーは銀髪の男に発言の意味を問いかける。
危惧していた様に、自分の悪名が彼らに届いているかもしれない、いや女の眼を見ればそれはもう確実だと思えた。
危惧していた様に、自分の悪名が彼らに届いているかもしれない、いや女の眼を見ればそれはもう確実だと思えた。
「確認しますが……――読子・リードマンを殺害したのはあなたですね?」
スカーの眉間に困惑を意味する皺がよった。
誰かを殺害したか、と問われれば彼は2人の人間を殺していたが、どちらも名前は記憶に留めていない。
それを覚ったのか、男は更に紙を使う女性に心当たりは? と付け加え、それを聞いてスカーの疑問は氷解した。
誰かを殺害したか、と問われれば彼は2人の人間を殺していたが、どちらも名前は記憶に留めていない。
それを覚ったのか、男は更に紙を使う女性に心当たりは? と付け加え、それを聞いてスカーの疑問は氷解した。
「お前達は、あの女の何だ?」
この返答がそのまま解答になっていると覚ったのであろう、男と女の緊張が高まるのが目に見えて解る。
それを受けて、スカーは静かに身体の隅々へと闘争に必要な緊張を充填していった。
それを受けて、スカーは静かに身体の隅々へと闘争に必要な緊張を充填していった。
「私は何でもありません。ただ……彼女は読子・リードマンを師と仰ぐ人間です」
喋るのは後ろの男だけだ。そして、それでスカーは全てを覚った。
邂逅してより変わらぬ強さで睨み付けている女は敵討ちを、そしてその後ろに控える男は見届け人なのだと。
邂逅してより変わらぬ強さで睨み付けている女は敵討ちを、そしてその後ろに控える男は見届け人なのだと。
「そうか…………」
それだけを呟き、スカーは戦いのための姿勢を取る。
元より此処は無法の地。
そして何よりスカー自身が闇討ち、騙まし討ちを厭わない者であったが、ここだけは彼らが用意した舞台の作法に則ることにする。
趣旨変えをした今考えれば、あの紙を使う女を殺したことは無駄以外の何者でもなかった。
ならば、黙って仇として討ち取られることはできぬまでも、彼らの意を汲むぐらいならば誠意を見せようと。
元より此処は無法の地。
そして何よりスカー自身が闇討ち、騙まし討ちを厭わない者であったが、ここだけは彼らが用意した舞台の作法に則ることにする。
趣旨変えをした今考えれば、あの紙を使う女を殺したことは無駄以外の何者でもなかった。
ならば、黙って仇として討ち取られることはできぬまでも、彼らの意を汲むぐらいならば誠意を見せようと。
目の前の女は無手。
しかし、あの紙使いの生徒と言うのならば何が飛び出してきてもおかしくはない。
決して油断はせず、あの時の戦慄を思い出して全身に必要な分の緊張を行き渡らせる。
しかし、あの紙使いの生徒と言うのならば何が飛び出してきてもおかしくはない。
決して油断はせず、あの時の戦慄を思い出して全身に必要な分の緊張を行き渡らせる。
一対一。互いに無言。やや間を置き、そして――……
……――スカーが突進した。
◆ ◆ ◆
極限にまで研ぎ澄まされた集中力の中で進む、静寂で緩慢な世界の中、スカーは目の前の女に向かって駆ける。
「…………」
そしてその中で正対して初めてスカーは既視感の正体を思い出した。
「………………」
黒い縁で囲む眼鏡が――そしてその中の射抜くような力強い瞳が――あの女と同じなのだ。
「………………私は」
あの時、あの女は……何と言ったか。あの――いや、この瞳でこちらを見据え……
「お前を――――……」
引き絞った右腕に彫りこまれた陣の上に、パシリ――と、紫の電光が走る。
「……――――――――許す!」
間合いは残り三歩。無防備に棒立ちの女に破壊の力が乗った右手を――何?
「許すことが――――――…………」
右足を一歩。そして、最後の一歩を地に張る根として踏み込む。
「――――――――――――――――――」
砲の様に突き出された手が、黒縁の同じ眼鏡へ――その中の眼差しへと吸い込まれて――……
「……――――――――――できるっ!!!!!」
◆ ◆ ◆
目を見開いていたねねねの眼前に大きく分厚い掌があった。
破壊の力を持ち、触れるものを壊し、生きている者を殺す掌が、目の前に、しかし紙一重の位置にあった。
破壊の力を持ち、触れるものを壊し、生きている者を殺す掌が、目の前に、しかし紙一重の位置にあった。
「…………お、お前は」
その掌がゆっくりと降りると、その向こう側から呆然とするスカーの顔が見える。
まるで有り得ないものを見ているかの様な表情で、正対するねねねの瞳を――緑色の螺旋を描く瞳を見ていた。
まるで有り得ないものを見ているかの様な表情で、正対するねねねの瞳を――緑色の螺旋を描く瞳を見ていた。
「だから……あんたは私の味方になれっ!」
黒縁の中の緑の瞳からは、止め処なく涙が零れ落ち始めていた。
彼女の無念は本物で……しかし、それでも彼女は未来の為にその道理を破ったのだと、スカーは理解する。
目の前のただの何者でもない女が、真実ではそうでなく、そして螺旋力の持ち主だと認めた。
彼女の無念は本物で……しかし、それでも彼女は未来の為にその道理を破ったのだと、スカーは理解する。
目の前のただの何者でもない女が、真実ではそうでなく、そして螺旋力の持ち主だと認めた。
「わかった……しかし、一つだけ聞かせてくれ」
怒り。恐怖。困惑。緊張。無念。苦しみ。悲しみ。憎悪。
――全てを己が内に閉じ込め肩を振るわせるねねねから視線を外し、スカーはその背後の者に問いかける。
今回の話の何もかもの仕掛け人。銀色の棋士――明智健吾に問う。
――全てを己が内に閉じ込め肩を振るわせるねねねから視線を外し、スカーはその背後の者に問いかける。
今回の話の何もかもの仕掛け人。銀色の棋士――明智健吾に問う。
「この茶番劇の意味はなんだ?」
その問いに、今まで無表情を貫いてきた明智は悪戯を成功させた子供の様な、しかし微かな笑みを浮かべた。
◆ ◆ ◆
「俺が……もし躊躇なく殺す人間のままだったとしたらどうするつもりだったんだ?」
それがまず第一の、スカーからの疑問だった。
明智は、読子を殺害したのがスカーであると推理しておきながら、何故彼がねねねの前で拳を止めると考えたのか?
明智は、読子を殺害したのがスカーであると推理しておきながら、何故彼がねねねの前で拳を止めると考えたのか?
明智はまず、どうしてスカーを読子殺害の犯人と特定したかを、ねねねに聞かせた通りに繰り返した。
てっきり、自分の悪評が伝わって……と、考えていたスカーは明智達の持つ情報に驚き、そして納得する。
てっきり、自分の悪評が伝わって……と、考えていたスカーは明智達の持つ情報に驚き、そして納得する。
「……では、スカー氏が何故、もう無差別な殺人を行わなくなっていたということを私が知ったか」
それをお聞かせしましょう。と、言って明智は推理劇を披露し始めた。
彼が注目したスカーの行動は3つ。
1つ目は、ショッピングモール内における唐突かつ、長時間の停止。
2つ目は、ショッピングモールを出てより一直線に刑務所まで向かってきて、そして時間をかけて様子を窺っていたこと。
3つめは、一度離れた後もまたまっすぐ刑務所まで向かってきたということ。
彼が注目したスカーの行動は3つ。
1つ目は、ショッピングモール内における唐突かつ、長時間の停止。
2つ目は、ショッピングモールを出てより一直線に刑務所まで向かってきて、そして時間をかけて様子を窺っていたこと。
3つめは、一度離れた後もまたまっすぐ刑務所まで向かってきたということ。
「スカー氏はエドという少女の放送を聞きましたね?」
その質問にスカーは頷き、肯定する。あれこそが、彼の行く先を変えた転機であった。
それに満足すると、明智は何故それを知ったかを語る。
まず一つに、エドの放送は地図上の施設にならば、大方届いているだろうという予想があった。
彼女がどうしてあの放送を流したのか。目的とそれを成し遂げる技量を考えればそれは当然の帰結である。
それをスカーが聞いたと解ったのは流れた時間に彼がショッピングモール内にいたこともあるが、
彼がその直後より、モール内を虱潰しにするように動き出したのを見て確信に変わった。
そして、その行動が唐突に停止する。
ただ、停止という状態を見れば休息中かとも取れるが、この時は虱潰しの途中でまだ残りがあった。
つまりは、止まったそこで当たりに出会ったのだと、明智は推測する。
そして自身が博物館で発見した事を鑑みて、スカーもまた螺旋力に興味を持っただろうと考えた。
それに満足すると、明智は何故それを知ったかを語る。
まず一つに、エドの放送は地図上の施設にならば、大方届いているだろうという予想があった。
彼女がどうしてあの放送を流したのか。目的とそれを成し遂げる技量を考えればそれは当然の帰結である。
それをスカーが聞いたと解ったのは流れた時間に彼がショッピングモール内にいたこともあるが、
彼がその直後より、モール内を虱潰しにするように動き出したのを見て確信に変わった。
そして、その行動が唐突に停止する。
ただ、停止という状態を見れば休息中かとも取れるが、この時は虱潰しの途中でまだ残りがあった。
つまりは、止まったそこで当たりに出会ったのだと、明智は推測する。
そして自身が博物館で発見した事を鑑みて、スカーもまた螺旋力に興味を持っただろうと考えた。
そしてスカーはショッピングモールを出ると一直線に刑務所へと向かう。
この行動から何を推測できるか? 実はこの時点で彼が殺し合いから降りた事はほぼ確定している。
何故ならば、エド少女の言う『お宝』という言葉に期待を抱く殺人鬼だったのならば、見つけた物に失望しているはずだからだ。
明智が見つけた『お宝』は博物館の扉と、刑務所の地下空間。どちらも安易な武器などではない。
また螺旋力という高いハードルがある以上、所謂第一の物質――殺し合いを促進する人物にとっては無用の長物だ。
この行動から何を推測できるか? 実はこの時点で彼が殺し合いから降りた事はほぼ確定している。
何故ならば、エド少女の言う『お宝』という言葉に期待を抱く殺人鬼だったのならば、見つけた物に失望しているはずだからだ。
明智が見つけた『お宝』は博物館の扉と、刑務所の地下空間。どちらも安易な武器などではない。
また螺旋力という高いハードルがある以上、所謂第一の物質――殺し合いを促進する人物にとっては無用の長物だ。
故に、見つけた『お宝』の前で長時間留まり、そしてなお新しい『お宝』へと接触しようとするスカーは殺人鬼を止めたと判断した。
加えて、刑務所付近で中を窺っていたこともそれを後押しする材料となる。
リストにあったプロフィールから見るに、スカーは――国家錬金術師を問答無用かつ無差別に襲う殺人鬼。
国家錬金術師相手でもなく、問答無用でもなく、無差別でもない。故に殺人鬼でもなくなっているという理屈だ。
リストにあったプロフィールから見るに、スカーは――国家錬金術師を問答無用かつ無差別に襲う殺人鬼。
国家錬金術師相手でもなく、問答無用でもなく、無差別でもない。故に殺人鬼でもなくなっているという理屈だ。
明智が最終的に推測したスカーの状態は――螺旋力に興味を持ち、それを持った(知っている)者を探している男。
そして、それは見事に的を射ていた。勿論、細部は異なるものの大筋で間違いはないし、結論にも問題はない。
◆ ◆ ◆
「まぁ……そこまではいいけどさ。じゃあ、なんで私達にあんなことをやらせたのさ?」
第2の質問はねねねからだった。命を賭けはしたが終わってみればただの茶番劇。
リスクを負ってまで、なぜそれを実行したのか?
スカーが殺し合いを降りているならば通常の交渉で事足りただろうという疑問である。
リスクを負ってまで、なぜそれを実行したのか?
スカーが殺し合いを降りているならば通常の交渉で事足りただろうという疑問である。
「それは簡単な話です。菫側先生にも、スカー氏にも螺旋力を実際に目の当たりにして貰おうとの考えです」
明智の言葉に、スカーはなるほどと頷き、逆にねねねはキョトンとした表情を浮かべる。
「菫川先生。あなたはすでに螺旋力覚醒者なのですよ?」
「…………え? 嘘!」
「…………え? 嘘!」
明智の表情は変わらないが、スカーは驚き、そしてまたねねねも驚いていた。
スカーは、ねねねが螺旋力覚醒を自覚していなかった事に、そしてまたねねねも同じことに驚いていた。
スカーは、ねねねが螺旋力覚醒を自覚していなかった事に、そしてまたねねねも同じことに驚いていた。
「ちょっと……いつから知ってたのよ。あんたは、ねぇ!」
狐につままれた様な顔をして問い詰めるねねねに苦笑すると、明智はあの時の発言を繰り返した。
先ほどの放送よりも、更に一つ前の第3回目の放送。その直前に彼がねねねに向かって言いかけた言葉。
先ほどの放送よりも、更に一つ前の第3回目の放送。その直前に彼がねねねに向かって言いかけた言葉。
まだ望みは――いや、ここにしか望みはない。 なぜならば――……
「……――そう。あなたこそ、私が考える螺旋力を持つに相応しい人間だからです」
そして彼は付け加えて言う。螺旋力は覚醒したとしても、常に働いている力ではない。
それは一時的にだが、覚醒していた清麿少年が証明している。
ならば、訪れてくるスカーに対し、こちら側が持つ螺旋力を披露するにはどうすればよいか?
それは一時的にだが、覚醒していた清麿少年が証明している。
ならば、訪れてくるスカーに対し、こちら側が持つ螺旋力を披露するにはどうすればよいか?
覚醒の素質がある者を、彼の前で追い詰めればよい。
この場合は、ねねねがスカーの前で死を目前にしても彼を許すことである。だから、彼は彼女にこう言ったのだ。
この場合は、ねねねがスカーの前で死を目前にしても彼を許すことである。だから、彼は彼女にこう言ったのだ。
『菫川先生。読子・リードマンを殺害した犯人であるスカーを、あなた自身が許してやって下さい』
……と。
かくして、スカーはこちら側が螺旋力覚醒者を保有していることを知り、その矛を収め協力を受け入れてくれる。
また、ねねねも彼の罪を知り許すことで、それが後に露見して疑心の種になることも未然に防げた。
それが今回の明智が画策した作戦の真相であった。
かくして、スカーはこちら側が螺旋力覚醒者を保有していることを知り、その矛を収め協力を受け入れてくれる。
また、ねねねも彼の罪を知り許すことで、それが後に露見して疑心の種になることも未然に防げた。
それが今回の明智が画策した作戦の真相であった。
◆ ◆ ◆
行きは2人だった廊下を、彼らは3人で戻ってきている。明智とねねねに加え、スカーの3人だ。
スカーにとっては、彼らと手を組むことを否定する材料は全く無い。
聞けば、螺旋力に関することだけに限らず、相当量の情報を集めている様だ。
そこに自身が持っていた情報も加えれることができれば、一人で全てをこなすより遥かに道程は楽になるであろう。
聞けば、螺旋力に関することだけに限らず、相当量の情報を集めている様だ。
そこに自身が持っていた情報も加えれることができれば、一人で全てをこなすより遥かに道程は楽になるであろう。
菫川ねねねは、未だブツブツと明智に文句を零しながら歩を進めている。
とても重要なことを、しかも一度言いかけた事を今の今まで言わないとはどういうことかと。
とは言え、口先はともかく頭の中は事務室に残してきている原稿の事で一杯だった。
いくらのろまな機械だといえ、もうそろそろ全部刷り上がってきていてもおかしくはない。
勿論、校正をかけてまた最初から刷り直すため、まだまだ時間は欲しいが、当初の目的を達するだけなら初校でも事足りる。
とても重要なことを、しかも一度言いかけた事を今の今まで言わないとはどういうことかと。
とは言え、口先はともかく頭の中は事務室に残してきている原稿の事で一杯だった。
いくらのろまな機械だといえ、もうそろそろ全部刷り上がってきていてもおかしくはない。
勿論、校正をかけてまた最初から刷り直すため、まだまだ時間は欲しいが、当初の目的を達するだけなら初校でも事足りる。
明智健悟は、彼らからの質問や文句に丁寧に対応しながら、心中で事が無事に終えたことに胸を撫で下ろしていた。
この廊下を来る際にねねねに対して言った、成功確率は一割以下というのは誇張でもなんでもなかったのだ。
有り得ないこと、全く未知のことが跳梁跋扈するこの舞台上では、明智の持つ理知自体が通用しない可能性も大だった。
それにどれだけ丁寧に理を積み上げようとも、少しの切欠でそれは瓦解する。
そして、そんな切欠を見落としているという可能性は常に付きまとっている。
1つのミスから来るペナルティがどれだけ恐ろしいかはすでに身をもって知っていた。
だからこそ、明智は胸中に抱く強い恐怖を銀の光で目眩まし、それを皆の前では隠していたのである。
この廊下を来る際にねねねに対して言った、成功確率は一割以下というのは誇張でもなんでもなかったのだ。
有り得ないこと、全く未知のことが跳梁跋扈するこの舞台上では、明智の持つ理知自体が通用しない可能性も大だった。
それにどれだけ丁寧に理を積み上げようとも、少しの切欠でそれは瓦解する。
そして、そんな切欠を見落としているという可能性は常に付きまとっている。
1つのミスから来るペナルティがどれだけ恐ろしいかはすでに身をもって知っていた。
だからこそ、明智は胸中に抱く強い恐怖を銀の光で目眩まし、それを皆の前では隠していたのである。
しかし、そんな明智ではあるが、今回については予感めいた勝算があったのも事実だ。それは――……
……――『 ペン は 剣 よりも強し 』
彼はその予感を信じ、ペン(作家)の力で剣(強者)を手に入れた。
この行動が螺旋王の予測をどれだけ上回れたのか、それともやはり想定内なのかは解らない。
しかし、それでも彼はリスクを背負う恐怖を乗り越え、第4回目の放送後、最初の番(ターン)を無事乗り越えた。
この行動が螺旋王の予測をどれだけ上回れたのか、それともやはり想定内なのかは解らない。
しかし、それでも彼はリスクを背負う恐怖を乗り越え、第4回目の放送後、最初の番(ターン)を無事乗り越えた。
【B-7/刑務所内/2日目/深夜】
【チーム:戦術交渉部隊】(明智、ねねね、清麿、ゆたか、スカー)
[共通思考]
1:一意団結して螺旋王の実験を破壊。そして自分達の脱出。
2:レーダー(携帯電話)を利用して、他の参加者の行動の推測。危険人物の回避。
3:有益で安全だと判断できる参加者との接触。交渉。勧誘。
4:各種リスト等、収集した情報を組み合わせての考察。
5:首輪の解除方法の模索。及び、それが可能な参加者の捜索。
6:エド(少女)が情報を送信した手段を探り、それを利用しての全参加者に対する交渉。
7:各施設に立ち寄った参加者と、携帯電話で接触。交渉。勧誘。
8:『お宝』が隠されていそうな施設へと、人員を派遣。また、それに必要な螺旋力と螺旋に関するアイテムの確保。
9:刑務所を放棄する場合、とりあえずは警察署を次の候補とする。
[共通思考]
1:一意団結して螺旋王の実験を破壊。そして自分達の脱出。
2:レーダー(携帯電話)を利用して、他の参加者の行動の推測。危険人物の回避。
3:有益で安全だと判断できる参加者との接触。交渉。勧誘。
4:各種リスト等、収集した情報を組み合わせての考察。
5:首輪の解除方法の模索。及び、それが可能な参加者の捜索。
6:エド(少女)が情報を送信した手段を探り、それを利用しての全参加者に対する交渉。
7:各施設に立ち寄った参加者と、携帯電話で接触。交渉。勧誘。
8:『お宝』が隠されていそうな施設へと、人員を派遣。また、それに必要な螺旋力と螺旋に関するアイテムの確保。
9:刑務所を放棄する場合、とりあえずは警察署を次の候補とする。
[考察内容]
《螺旋王の目的》
1:実験(殺し合い)を通しての参加者の螺旋力覚醒。
《首輪》
1:螺旋力の覚醒により解除可能。
2:ただし、解除時に螺旋王の元へ転移する可能性アリ。
《その他》
1:舞台の端と端が繋がっていることを認識しました。
《螺旋王の目的》
1:実験(殺し合い)を通しての参加者の螺旋力覚醒。
《首輪》
1:螺旋力の覚醒により解除可能。
2:ただし、解除時に螺旋王の元へ転移する可能性アリ。
《その他》
1:舞台の端と端が繋がっていることを認識しました。
【明智健悟@金田一少年の事件簿】
[状態]:右肩に裂傷(手当済み)、上着喪失、強い決意
[装備]:レミントンM700(弾数3)、フィーロのナイフ@BACCANO バッカーノ!
[道具]:支給品一式×2(一食分消費)、ジャン・ハボックの煙草(残り16本)@鋼の錬金術師
閃光弾×1、予備カートリッジ8、ガジェットドローン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[思考]:
基本-1:螺旋王より早く『螺旋力』を手に入れ、それを材料に実験を終わらせる。
基本-2:戦術交渉部隊の棋士として、チームの行動方針を決める。
1:スカーと情報交換し、現状をまとめ分析する。
2:ねねねや清麿に情報や考察を伝え、彼らの閃きを促進する。
3:エド(少女)が情報を送信した方法を探り、それが利用できるようにする。
4:螺旋力、首輪、等々……考察を進める。
5:2日目の正午以降に、博物館の特殊な扉を調査しにいく。
[備考]
※リリカルなのはの世界の魔法の原理について把握しました。
[状態]:右肩に裂傷(手当済み)、上着喪失、強い決意
[装備]:レミントンM700(弾数3)、フィーロのナイフ@BACCANO バッカーノ!
[道具]:支給品一式×2(一食分消費)、ジャン・ハボックの煙草(残り16本)@鋼の錬金術師
閃光弾×1、予備カートリッジ8、ガジェットドローン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[思考]:
基本-1:螺旋王より早く『螺旋力』を手に入れ、それを材料に実験を終わらせる。
基本-2:戦術交渉部隊の棋士として、チームの行動方針を決める。
1:スカーと情報交換し、現状をまとめ分析する。
2:ねねねや清麿に情報や考察を伝え、彼らの閃きを促進する。
3:エド(少女)が情報を送信した方法を探り、それが利用できるようにする。
4:螺旋力、首輪、等々……考察を進める。
5:2日目の正午以降に、博物館の特殊な扉を調査しにいく。
[備考]
※リリカルなのはの世界の魔法の原理について把握しました。
[明智のレーダー考察まとめ/2日目/深夜]
【接触しても安全な参加者】
スパイク、ジン、ドモン、ヴァッシュ、Dボゥイ、カミナ、ニア、ガッシュ
【接触には慎重さが要求される参加者】
ルルーシュ、ギルガメッシュ、ニコラス、言峰、アルベルト、かがみ、奈緒、舞衣
【接触を避けるべき参加者】
静留、ビシャス、ヴィラル、シャマル、東方不敗、チミルフ
【判断のつかない参加者】
ビクトリーム、シータ
【『お宝』があるかも知れない施設】
確定: 博物館、刑務所、ショッピングモール
未確定: ホテル
調査済: 映画館、水族館、ドーム球場、病院
【接触しても安全な参加者】
スパイク、ジン、ドモン、ヴァッシュ、Dボゥイ、カミナ、ニア、ガッシュ
【接触には慎重さが要求される参加者】
ルルーシュ、ギルガメッシュ、ニコラス、言峰、アルベルト、かがみ、奈緒、舞衣
【接触を避けるべき参加者】
静留、ビシャス、ヴィラル、シャマル、東方不敗、チミルフ
【判断のつかない参加者】
ビクトリーム、シータ
【『お宝』があるかも知れない施設】
確定: 博物館、刑務所、ショッピングモール
未確定: ホテル
調査済: 映画館、水族館、ドーム球場、病院
【菫川ねねね@R.O.D(シリーズ)】
[状態]:健康、本を書きたいという欲求、螺旋力覚醒
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(一食分消費)、ボン太君のぬいぐるみ@らき☆すた
『フルメタル・パニック!』全巻セット@らき☆すた(『戦うボーイ・ミーツ・ガール』はフォルゴレのサイン付き)
[思考]:
基本-1:螺旋王のシナリオ(実験)を破壊し、ハッピーエンドを迎えさせる。
基本-2:バシュタールの惨劇を起こし、首輪や空間隠蔽を含む会場の全ての機能を停止させて脱出する。
0:事務室に残した原稿が気になる。
1:刷り上った本を明智達に読ませる。
2:一応、校正して原稿を完璧な本にしておきたい。
3:アンチシズマ管の持ち主、それとそれを改造できる能力者を探す。
4:柊かがみに出会ったら、「ポン太くんのぬいぐるみ」と「フルメタル・パニック全巻セット」を返却する。
5:センセーに会いに行きたい……けど、我慢する。
6:本が書きたい!
[備考]:
※読子を殺害したスカーの罪を許しました。が、わだかまりが全く無い訳でもありません。
[状態]:健康、本を書きたいという欲求、螺旋力覚醒
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(一食分消費)、ボン太君のぬいぐるみ@らき☆すた
『フルメタル・パニック!』全巻セット@らき☆すた(『戦うボーイ・ミーツ・ガール』はフォルゴレのサイン付き)
[思考]:
基本-1:螺旋王のシナリオ(実験)を破壊し、ハッピーエンドを迎えさせる。
基本-2:バシュタールの惨劇を起こし、首輪や空間隠蔽を含む会場の全ての機能を停止させて脱出する。
0:事務室に残した原稿が気になる。
1:刷り上った本を明智達に読ませる。
2:一応、校正して原稿を完璧な本にしておきたい。
3:アンチシズマ管の持ち主、それとそれを改造できる能力者を探す。
4:柊かがみに出会ったら、「ポン太くんのぬいぐるみ」と「フルメタル・パニック全巻セット」を返却する。
5:センセーに会いに行きたい……けど、我慢する。
6:本が書きたい!
[備考]:
※読子を殺害したスカーの罪を許しました。が、わだかまりが全く無い訳でもありません。
【スカー(傷の男)@鋼の錬金術師】
[状態]:空腹、強い覚悟、螺旋力覚醒
[装備]:アヴァロン@Fate/stay night(回復に使用中)
[道具]:支給品一式@読子(メモ無)
[思考]
基本-1:明智達と協力して実験から脱出し、元の世界でまた国家錬金術師と戦う。
基本-2:螺旋力保有者の保護、その敵となりうる存在の抹殺。
0:明智と情報交換。
1:螺旋力保有者を守護する。
2:各施設にある『お宝』の調査と回収。
3:螺旋王に対する見極め。これの如何によっては方針を優勝狙いに変える場合も……
[備考]:
※言峰の言葉を受け入れ、覚悟を決めました。
※スカーの右腕は地脈の力を取り入れているため、魔力があるものとして扱われます。
※会場端のワープを認識。螺旋力についての知識、この世界の『空、星、太陽、月』に対して何らかの確証を持っています。
[状態]:空腹、強い覚悟、螺旋力覚醒
[装備]:アヴァロン@Fate/stay night(回復に使用中)
[道具]:支給品一式@読子(メモ無)
[思考]
基本-1:明智達と協力して実験から脱出し、元の世界でまた国家錬金術師と戦う。
基本-2:螺旋力保有者の保護、その敵となりうる存在の抹殺。
0:明智と情報交換。
1:螺旋力保有者を守護する。
2:各施設にある『お宝』の調査と回収。
3:螺旋王に対する見極め。これの如何によっては方針を優勝狙いに変える場合も……
[備考]:
※言峰の言葉を受け入れ、覚悟を決めました。
※スカーの右腕は地脈の力を取り入れているため、魔力があるものとして扱われます。
※会場端のワープを認識。螺旋力についての知識、この世界の『空、星、太陽、月』に対して何らかの確証を持っています。
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245:【ZOC】 絶望の器 (前) | 明智健悟 | 249:てのひらのたいよう(前編) |
239:【ZOC】 絶望の器 (前) | 菫川ねねね | 249:てのひらのたいよう(中編) |
237:Ready Steady Go | スカー(傷の男) | 249:てのひらのたいよう(前編) |