すべては穴掘りシモンとの邂逅から始まる ◆LXe12sNRSs



 夢を現実に描きかえる力は、あるのだろうか。

「久しぶりじゃねえか。生きてる内に、またおまえの顔を拝めるとはな」

 愚にもつかないことだが、いつもそう思う。

「一番驚いているのは、おそらく私だろう。これは、夢を現実化する一歩だ」

 悪夢……それを傍から見ている自分がいる。

「夢ね……さて、おまえが突き破ったのはどんな岩盤だ? たいそう硬かったんだろうな」

 見るたびに、飽かず鮮明な感情が溢れてくる。

「ああ、私の力では砕くことすら適わぬ、強固すぎる殻だ。故の夢、見ることしか適わん」

 沸き立つ、自分を取り巻く全てへの、怒り。

「じゃあ、なんでおまえはここにいる? どうして俺の前に姿を現した?」

 それらを砕きつくさんとする、渇望と闘志。

「質問がしたかった。私と拳を交え、自分は自分であることを自覚し、銀河を救ったおまえに」

 そして、なによりも深く暗い、悲願の悦び。

「おまえは、あれで幸せだったか?」

 あるいは、解放と自由よりも大きな、悦び。

「……ハッ、ガハハハハハハハハハハハハハハ!」

 痛いほどに胸躍らせる、大きすぎる、悦び。

「それが、答えというわけか」

 悪夢の中、溢れるのは、苦悶ではなかった。

「参考には、なったか? ――どうせなら、酒でも飲み交わしたかったんだがな」

 悪夢の中、満たされている気持ちは、悦び。

「訪れることのない機会だ」

 決して果たされることのない、悲願の悦び。

「礼を言う。これで私が取るべき道は決まった――さらばだ、シモン」

 だからこその、悪夢。


 ◇ ◇ ◇


 青の惑星、地球より遠く離れて幾光年。
 砂と土、岩と嵐が地をならす荒野の星にて、その小事は起こっていた。
 小高い岩山の頂上、望遠鏡を用いずとも肉眼のみで視認できるその事態を、傍観する者は二人。
 小柄な体をマントで覆った黒い髪の女性と、彼女の比較対象としてはこの上ないほど大柄な女性。
 前者の名をメリル・ストライフ、後者の名をミリィ・トンプソンと言う。
 ベルナルデリ保険協会の外交員たる彼女らが、この事件を目撃したのは偶然と言う他ない。
 あの『人間台風』が起こす災害を知る二人にとっては、よほどの惨事でもなければ瞠目することなどないのだが、

「どうなっているんでしょうか、先輩」
「私に聞かれても困りますわ……」

 視線の遥か先で起こっている事態は、『よほどの惨事』というレベルをゆうに超えていた。
 殴り合い、銃撃戦、市街破壊、天変地異……どれと比較することも適わない。
 あれはそう、たとえるならばファンタジーだ。
 睡眠下で見るような夢の物語、そう解釈するのが一番自然であり、それしかありえない。
 メリルとミリィの二人は互いの頬をつねってみるが、ただヒリヒリとした痛みが込み上げてくるだけだった。

「どどどどどうしましょうせんぱ~い!?」
「だから、私に訊かれて、も……」

 泣きながら困惑するミリィに、メリルは自身も精一杯と主張しようとするが、寸前で言葉が途切れた。
 そのまま血走った双眸が塞がれていき、体はぐらんぐらんと揺れ、パタリ、と倒れてしまう。
 相方の急な失神に疑問符を浮かべるミリィは、事態の把握が追いつくよりも先に、猛烈な睡魔に襲われた。
 そしてメリルとまったく同じ段階を踏み、二人並んで地に伏した。
 こうして、たった二人の傍観者は消えたわけだが……そこには一言、幼い声が残る。

「おやすみなさい、なのですよ」


 ◇ ◇ ◇


 メリルとミリィが目にしていた光景、それは一言で説明するならば、『戦闘行為』だった。
 とはいえ、彼女らの日常からしてみればそんなのは茶飯事だ。困惑の種となったは、その規模である。

「――ぬぅ、バカな!?」

 まずは、そのスケール。
 これは直接的に、戦闘に参加する闘争者の『大きさ』を意味する。
 2メートルを越えれば人間としては巨漢とされるが、この惑星でもその常識は当てはまる。
 が、これはそんな生易しいレベルの話ではなかった。
 ――戦いを繰り広げているのは、身の丈数十、いや数百メートルはあろうかと思われる巨人。
 全身は白を基調とし、両肩は鋭く尖った刃のよう。特徴的なのは、胴体と頭部だろうか。
 巨人の胴は、言うならば顔面。
 人体でいうところの胸部に凶悪な双眸があしらわれ、腹部には鮫のような歯が浮かんでいる。
 その顔のような胴体の頂、双眸の間の眉間部分には、もう一つの顔があった。
 この時点で、人体の構造が破綻している。それもそのはず、闘争者たる巨人は人間ではなかった。
 いや、それどころか生物ですらない。巨人の正体は兵器。単に人の形を模しただけの、兵器なのである。

「このビャコウのアルカイドグレイヴを軽くいなすだと……? ありえん、ありえんぞ!」

 それは、『ガンメン』と呼ばれる顔型戦闘兵器。
 中枢部に備えられたコクピットに搭乗することによって起動可能となる、いわゆるロボット兵器の一種だった。
 このビャコウは、ガンメンの中でも特別なカスタマイズが施された数少ない強化型である。
 搭乗者は、獣人四天王が一人『怒涛のチミルフ』。二つ名のとおりの、豪快なる武人だった。
 そのチミルフが、ビャコウの内部から驚嘆の怒声を漏らす。
 愛機を駆り出しての闘争、そこで直面した異常事態に、チミルフは激しく憤っていた。

「ありえんのだ……人間ごときが、たった一人で! ガンメン相手に――」
「――ごとき、か。悪いが、それはおまえの認識不足だ」

 ビャコウに取り付けられた拡声器を通しての声が、反響して響き渡る。
 大音量で唱えられるチミルフの憤慨、しかし応えた相手の声は、清く静か。
 見かけには穏やかだが、実は内面に激しい熱情を含んだ、痛烈なる言霊を投げつける。

「降参しろなどとは言わん。その悪趣味な機動兵器ごと……貴様を斬るッ!」

 確固たる攻撃の意志を言葉に宿し――ビャコウと対峙する女騎士は、剣を握りなおした。

「レヴァンティン!」

 ――西洋風の騎士甲冑が包むは、厳格たる女性の肢体。一本に束ねられた桃色の長髪が、風に舞う。

『Jawohl!』

 ――女騎士の握る剣が、機械音声で応える。重厚な可動音を鳴らし、柄の辺りから薬莢のようなものを排出した。

「ありえん! ありえんありえんありえんありえんありえんありえん!」

 女騎士の名はシグナム――守護騎士ヴォルケンリッターが一人、烈火の将シグナム。
 剣の名はレヴァンティン――アームドデバイス、炎の魔剣レヴァンティン。

「ありえんのだっ、ニンゲンンンンンンン!!」

 空中に浮遊し、上段の構えを取るシグナム。対してビャコウを駆るチミルフは、巨体を生かし突進を仕掛ける。
 体格差は歴然。軽く触れるだけで、脆弱な人体など轢死に追い込める。それだけのパワーが、ガンメンにはあった。
 ガンメンと対等に戦い――それどころかガンメンを圧倒するなど、人間にできるはずがない。チミルフはそう信じていた。
 しかし結果から言って、それは妄信に過ぎなかった。
 ビャコウの周囲に散乱する機械の残骸……破壊の限りを尽くされたチミルフの部下たちが、それを物語っている。
 残ったガンメンはビャコウともう一体のみ。将であるチミルフの率いていた軍は、もはや壊滅寸前だった。
 そしてこの瞬間、寸前ですらなくなる。待つのは、壊滅のみ。

「紫電一閃!」

 遥か上空から、縦一文字に振り下ろされる紅蓮の刃。
 それはもはや、剣技と呼べる範疇を越えていた。
 たとえるならばそう、魔法のような斬撃。
 燃え上がる軌跡が、標的を分断した。
 半面が二つ、盛大に爆散する。

 怒涛のチミルフは、ここに敗れた。


 ◇ ◇ ◇


「チミルフッ!!」

 怒涛のチミルフ対シグナムの一戦――その場から数百メートルほど離れた地点。
 ここでも、人間対ガンメンの闘争が繰り広げられていた。

「馬鹿な……おまえたちは、本当にニンゲンなのか!?」

 叫ぶ女の声は、ビャコウと同じ顔を模した巨大兵器――ガンメンの中から。
 その形態は、白色の巨大サソリ。セイルーンと呼ばれるガンメンの、変形した姿だ。
 チミルフと同じく、搭乗者たる四天王の一人が、女声によって憤りを零す。

「なめるんじゃないよおおおおおおお!!!」

 その名、『流麗のアディーネ』。サソリの尾を持つ女性型の獣人である。
 性格は残忍にして苛烈。チミルフのような武人ではないが、戦闘技術は他の獣人よりも秀でている。
 しかし彼女もまた、チミルフと同様に、

「――あたしらは、いま気が立ってんだ。あんま怒らせないほうがいいぜオバサン」

 人間を前にして、劣勢を強いられていた。
 アディーネ駆るセイルーンが相対するのは、鮮やかな赤いスカート。
 炎のような紅い髪を、うさぎのマスコットで三つ編みに纏め上げ、滞空するその姿。
 どう見ても子供としか思えない体型から放たれるは、異様なほどの覇気だった。

「特に――アイツを怒らせるとこえーぞ。いや、もう手遅れかもしんねーけどな」

 小生意気な言動を口にする少女の名はヴィータ――守護騎士ヴォルケンリッターが一人、鉄槌の騎士ヴィータ。
 手にする巨大な鉄槌の名は――アームドデバイス、鉄の伯爵グラーフアイゼン。

 さらに、その背後。

 ヴィータの後方数百メートルほどの距離から、中空で構え、射撃体勢を取る人物がいる。
 その、女性と呼ぶには幼く、少女と呼ぶには凛々しすぎる容貌。
 リボンで纏めたツインテールに、白の法衣を身に纏う清楚可憐な姿は――ひどく、怒りに満ちていた。

「なんだ……この反応は!? ニンゲンが出せるものじゃないぞ……これは!」

 アディーネの憤慨など聞き流し、ひたすらに段階を踏む、女の名は――高町なのは。
 時空管理局本局武装隊及び航空戦技教導隊所属、戦技教導官。
 機動六課前線フォワード部隊スターズ分隊隊長。
 不屈のエース・オブ・エース。
 背負う肩書きは数あれど、今の彼女を示す言葉はただ一つ。
 ――管理局の白い悪魔。

「――全力、全開ッ」

 両腕で砲身のように支え持つ杖――デバイス、レイジングハート・エクセリオンに魔力が集中する。
 シグナム、そしてヴィータに共通して、なのはたちが武器として用いる概念――それが、魔法。

「スターライト……ブレイカァー!!」

 なのはが持つ杖から、破壊の熱量を伴った閃光が迸る。
 それは、アディーネにとっては極光の射手。
 太陽が押し寄せてくるような光景を前に、既に半壊状態にあったセイルーンが取れる手立てはなく。

「……そんな、そんなそんなそんなそんなそんなそんなそんな……馬鹿なああああああああああ!!」

 アディーネは搭乗するガンメン諸共、光に飲み込まれた。


 ◇ ◇ ◇


 極光がやみ、事態の一部始終を遠方から眺めていた少女が、呟く。

「ひゃあ~、今日のはまた一段と……すごいです!」

 発せられる声は幼く無邪気、しかしよく通る、女児のもの。
 否、彼女に年齢という概念はなく、体のサイズで言えば、児童とは比較にならないほど、小さい。

 宙を、妖精が舞っていた。
 銀色の長髪を靡かせて、形作る体型は少女のそれ。
 外見そのままの少女を縮小したような、神秘的な可愛らしさを持つ小人。
 名をリィンフォースⅡ――なのはたちと同じく『機動六課』に組する、ユニゾンデバイスと呼ばれる種の生命体だった。

『はい、おつかれさま。こっちは終わったよ。リィン、そっちはどや?』
「はいです。結界の維持は良好、ちょっと逃げ遅れちゃった現地民が二名ほどいましたけれど、眠ってもらったです」
『的確な処置やね。状況が状況やし、なるべく表ざたにはしたくない。引き続き任務の継続頼むよ』
「了解ですっ」

 通信機器をなんら用いず、どこかの誰かとやり取りを交わすリィン。
 彼女が浮かぶ真下には、先ほどの二人組、メリルとミリィがすやすやと寝息を立てている。
 これが今回リィンに与えられた任務。
 なのはたちが獣人の軍勢と戦う間、この惑星の民間人が立ち入らぬよう見張ることだった。

「さーて、これで今回のお仕事も終わりですかね~。なにか手がかりがつかめるといいんですけど……」
「それは無理だな」
「へ!?」

 宙を漂っていたリィンの身が、ピンと張り詰める。
 突如として響いてきたのは、聞き覚えのない男声。
 振り向いてみると、声の主はすぐ背後の断崖に腰掛けていた。

「技術力という点では申し分ないが、おまえたちには決定的に足りないものがある。それは……まあいい。いずれ気づくことだろう」
「あ、あの、どちら様ですか!? どうして、というかいつの間に!?」

 動転するリィンを一瞥し、金髪オールバックの髪型に、クラシックなスーツを着込んだ男はフッと笑う。
 一見すれば、第97管理外世界……『地球』のアメリカ人に該当する容姿。
 明らかに、地球から遠く離れたこの惑星に、魔法で形成した結界内にいるはずがない人物。

「おもしろいものを見せてもらったので、一つ忠告しておいてやろう。無駄なことはやめておけ。待ち人は素直に家で待つべきだ」

 金髪の男はリィンにそういい残し、断崖の下へ飛び降りてしまった。
 慌ててその姿を追うリィンだったが、断崖の下を覗いたときにはもう、男の姿も反応も、どこかへ消え失せていた。
 首を傾げ、直面したミステリーについて頭を悩ませるリィン。
 その傍らで、先ほどの続報だろう、新たな通信が入った。

「あ、はいっ。こちら――え? ちょっと、どういうことですかそれ?」

 男の存在も手伝って、より混乱した素振りを見せつけるリィン。
 仲間から入った思わぬ情報が、事態の混迷化を物語っていた。

「……今回の敵対組織が……破壊した機動兵器の残骸ごと、跡形もなく消失した……?」

 耳にした事実を反芻し、リィンは呆然と空中を彷徨っていた。


 ◇ ◇ ◇


 ×× ××××年 ×月×日 深夜 ミッドチルダ南駐屯地内A73区画『機動六課隊舎』

 この日、時空管理局機動六課所属の隊員、スバルナ・カジマ二等陸士、ティアナ・ランスター二等陸士、
 エリオ・モンディアル三等陸士、キャロ・ル・ルシエ三等陸士が一斉に失踪するという事件が起こった。
 残された手がかりはなにもなく、ロストロギアが関与した誘拐事件ではという声も挙がったが、捜査は難航。
 そして某日、八神はやて二等陸佐率いる六課フォワード陣は、顔の形をした謎の機動兵器と戦闘に陥る。
 未確認の勢力、理由不明の襲撃から此度の事件に関連性ありと断定されたが、戦闘直後、思わぬ事態が起こった。
 殲滅した敵勢力の全てが、跡形もなく、転移反応も残さず消失したのである。
 その後、謎の顔型機動兵器の目撃情報はなく、捜査は現在も難航している。


 ◇ ◇ ◇


 ×× 1931年 1月2日 正午 闇酒場『蜂の巣』

「……あれ、ロニーさん。どこかへ出かけていたんですか?」
「……フィーロか。いや、なに、大したことじゃないさ。ちょっと酒泥棒を探しに……な」
「酒泥棒? ああ、それよりも見てくださいよこれ、邪魔くさいったらありゃしない」
「これは……ドミノ倒しか。楽しそうだな。俺も混ぜてくれ」
「ロニーさんまでですかー!? マルティージョ・ファミリー総出でドミノ倒しなんて、他の組の奴らに見られたら……」
「大丈夫だ。そのときは俺がそいつらを始末する」
「真剣な目で怖いこと言わないでください。ってか、これじゃ俺がメシ食えないじゃないですか」
「だったらフィーロも手伝えよー! この楽しみを共有しようぜ!」
「フィーロもドミノを倒すドミニストの仲間入りだねっ!」
「ま、マイザーさぁぁん」
「いやぁ、案外、こういうのも楽しいと思いますよ?」

「……それでも『この世界は』回る……か。ふっ、まあいい」


 ◇ ◇ ◇


 ×× ××××年 ×月×日 夕刻 時空管理局本局

「……ねえ、フェイトは『ifの世界』って信じる?」
「if……もしもの世界、っていうやつかな?」
「そ。もしかしたらこうなったかもしれない……人間誰しも、思うときはあるでしょ?」
「……それは」
「たとえば、私たちにとってはあの事件」
「けど、それは」
「わかってるわよ。それは言ってもしょうがない。私も過去を蒸し返すためにこんな話題を出したわけじゃない」
「……もしもボックスって、覚えてる?」
「ああ、たしかそんなのもあったわね」
「私たちは並行世界という横のラインを行き来して、彼らは時間軸という縦のラインを行き来できた」
「じゃあ、私の言うifの世界は……斜めのラインと言ったところかしら?」
「彼らの世界の科学は、四次元の世界をどこまで解明したんだろうって……ときどき思うの」
「あー……ま、それも今さらよね。私とフェイトの知る範囲は、横のラインに位置するんだし」
「私たちの活動に支障はない。たしかにそうなんだけど……どうして、突然こんな話を?」
「……夢を見たのよ」
「夢?」
「そ、夢。あの馬鹿げたゲームによく似た催しが、別の面子で開催されてる夢」
「ははっ……予知夢、とかじゃないよね?」
「それこそまさかだわっ。思い出したくもないけど……そこには、既に死んだ人もいたもの」
「……もし、傍観者じゃなくて、当事者としてその場にいたら?」
「んなもん、決まってるでしょ。ぶち壊す。フェイトだって」
「うん。それはもちろん」
「あんなの、人生で二度も経験するものじゃないわ……ねぇ、フェイト」
「そうだね、凛」


 ◇ ◇ ◇


 もしも。
 もしも、あそこで違う選択肢を選んでいたら。
 あの選択をする場面で、二通りの運命に分岐していたとしたら。
 選ばなかったほうの運命は、ifの世界として、どこかに存在しているのだろうか。

「それは、タイムスリップなどというやり方では到底辿り着けぬ境地かもしれないな」

 時間の関係を縦に、
 次元の関係を横に、
 if世界の関係をを斜めとして。

「境界線を跨ぐことができる者は……はたしているのか、という話だ」

 枝分かれする運命の存在。
 世界としての差別化。
 行き交うことなど夢のまた夢。
 技術を超越した、途方のない幻想。

「と、私は思うのだが……アーサー、おまえはどう思う?」
「んなー?」
「……猫に聞いても無駄か。はてさてルルーシュ、おまえはどこに旅立ったんだろうな。
 縦か、横か、それともまさか本当に……いや、まさかな。どう思う――マリアンヌ?」


 ◇ ◇ ◇


 戸惑う者。

「なんだあ? 欠席か今日?」
「うん……アニタちゃんがお休みだなんて珍しいよね」
「あら、アニタさんは風邪かなにか?」
「連絡がないんだって。なんか心配……」
「ズル休みじゃねぇの?」
「……違う、と思う。なんだかよくわからないけど、違う、そう……」

 探求する者。

「よーし、完成だー! これでミーくんたちの居場所がわかるぞ!」
「さすがだよ博士! こんな短期間でもうクロちゃんたちの居場所がわかる装置を発明するだなんて!」
「やったー! これでクロちゃんたちが見つかるのね!」
「ああそのとおりだ! 待ってておくれミーくん、今ゴーくんが助けにいくからね~」

 翻弄される者。

「キャンチョメくん……君が私のところに来た理由は見当がついている。フォルゴレくんの失踪先についてだろう?」
「わぁ、話が早いやナゾナゾ博士! フォルゴレがショウから帰ってこないんだ。博士なら居場所がわかるだろ?」
「もちろんだとも。なにせ私はナゾナゾ博士。なんでも知ってる不思議な博士だからね」
「じゃあさっそく教えてよ! フォルゴレはどこにいるんだい?」
「フォルゴレ君は……魔界にいる!」
「ええ~!? そ、それは本当かい?」
「ウ・ソ」

 変わらぬ者。

「おはらっきー! さーて始まりましたらっきー☆ちゃんねるも、ついに××回目ー! 司会は……」
「おはらっきー! 司会はご存知、小神あきら様と、アシスタントの白石みのるで……」
「ああン!? 白石テメー被ってんじゃねーよ! 何回このパターン繰り返してんだテメーはよぉああン!?」

 絶望する者。

「ママ~!? どこへ行ったのママァ~!」
「なぁ、ママなしでどうやって生きてくんだ? 俺たち」
「ママがいなくちゃ俺たちやっていけねぇ~よぉ」
「泣くなよおまえら! それでも空賊か!?」
「そうだよな……俺たちがくよくよしてちゃ、天国のママに……」
「死んだって決めつけるなよ! 死んでねぇよ! ママは、ママはきっとどこかで生きて」
「うっ、うっ、うっ……うわああああんママあああああああ」


 ……此度の実験における代価は、残された世界に住む関係者等の変質。
 感情、人生、世界の明暗、多岐に渡る変化。
 それがまた、新たなifを生む。


 ◇ ◇ ◇


 ×× ××××年 ×月×日 午後7時頃 螺旋王の居城

「ええい、なんなんだいあれは!」
「憤っているな、アディーネ」
「当たり前じゃないか! あんなのがニンゲンだって? 認めない、あたしは認めないよッ!」

 和式にも洋式にも属さぬ、独特な形状を保った螺旋の回廊を、二人の男女が歩く。
 左目に眼帯をした、サソリ尾の目立つ女――アディーネ。
 ゴリラの巨躯を、武骨な鎧で覆った武人――チミルフ。
 闘争から帰還した彼女らは、螺旋王へ報告する道中で、愚痴を零すように先の顛末を掘り返していた。

「今回の実験を行うにあたって、並行世界の話は聞いた。だが、あれはなんだい!?
 ニンゲンが宙を浮き、生身でガンメンを破壊する……並行世界ってのには、あんなのがゴロゴロいるってのかい!?」
「……俺とて信じられん。が、信じるしかないのだろう。どちらせにせよ、俺は敵を叩き潰すだけだ」
「あんたはそれでいいだろうがね、あたしゃ腑に落ちないのさ!
 気づいたかい? あそこには……実験参加者の一人であるはずのニンゲン、『八神はやて』が紛れていたんだよ!?」

 アディーネとチミルフが異世界に渡り、機動六課なる組織を襲撃したのは、螺旋王の指令によるものだった。
 実験を阻む可能性がある。殲滅せよ。譲り受けた言葉はただそれのみ。
 結果は惨敗。しかし、螺旋王が事前に準備しておいた転移装置のおかげで、アディーネたちは無事帰還することができた。
 これも全て螺旋王の目論見どおりなのか。もし機動六課が――非殺傷設定などというシステムを武器に取り込んでいなかったとしたら。
 今頃は、螺旋王四天王たる二人も土の中だったろう。

「……見間違い、ではないのか?」
「螺旋王が集めたニンゲン共は全員記憶している。あれは間違いなく……小一時間前に、実験会場で死んだ八神はやてだ!」

 アディーネは知っている。局所的にだが、実験会場でどのような戦が行われているのか。
 そして先の第三放送でも、八神はやての名は呼ばれていた。
 そう、確かに実験に参加し、死んだニンゲンのはずだ。
 なのになぜ、あの場に八神はやてが存在していたのか。

「死んだはずのニンゲンが……いや、同姓同名のニンゲンが二人いる、か。俺にはさっぱりわからんな」
「あたしもさ。そもそも、螺旋王が言う並行世界とやらもよくわからない話だ。
 いったい螺旋王は、どうやってあんな物騒なニンゲンどもを集めたんだい?」
「……わからんよ。で済ませられる段階ではないのかもしれぬな……もはや」

 アディーネとチミルフは向かう。螺旋王の玉座へ。

「そろそろ、頃合どきかね」
「ああ。確かめてみようじゃないか。螺旋王の、真意とやらを」


 ◇ ◇ ◇


時系列順に読む


210:第三回放送、あるいは ロージェノム 外伝:ロージェノムは螺旋の王として配下の疑問に答える
097:第一回放送 流麗のアディーネ 外伝:ロージェノムは螺旋の王として配下の疑問に答える
097:第一回放送 怒涛のチミルフ 外伝:ロージェノムは螺旋の王として配下の疑問に答える
235:幻想のアヴァタール(後編) ロニー・スキアート 242:罪歌 阿鼻叫喚の狂った舞台(後編)





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