W.O.D ~Wisemen On Discipline~ ◆RwRVJyFBpg



「さて」

全員が席に着いたのを見て、明智がバカに神妙な声を出す。
広すぎる会議室の端っこ、そこに寄せ集めた机の小島。
私達はその小さな島を囲んで四人、お行儀よく席についていた。

上座には明智。ホワイトボードを背負って全員を見据え、議長役をヤル気満々。
滲み出るを通り越して溢れ出してる自信が相変わらず鼻につくが、それでも嵌って見えるあたり、流石は天下のエリート様だ。
明智の右には高嶺清麿。目で資料を追いながら、耳ではしっかり明智の話を待ちわびている。
見た目はがきんちょなのに、その振る舞いには何というか、不思議な風格があった。
隙のなさがあった、と言い換えてもいいかもしれない。
やっぱ、プロフィールに天才少年とか書かれちゃう奴はどっか違うってことなんだろーか。
まあ、んなこと言ったら私だって、昔は散々天才天才と持て囃されたモンだけど。
そのさらに右、明智から一番遠いところには小早川ゆたか。こっちは正真正銘、フツーのがきんちょだ。
こういう場にはあんまり慣れてないのか、あからさまに緊張している。
「まじめにお話しなくっちゃ!」って気負いが姿勢からも目線から伝わってきて、何だか微笑ましい。
アニタにもこんぐらいの可愛げがありゃあいいのにと思いかけて、やめた。
そんなこと、今更言ってもしょうがないことだから。
私は明智の左側にいる。

「時間も惜しい、早速始めましょう。
 螺旋王という悪魔が仕組んだこの殺し合い……そこに潜む謎の解明をね」

資料を手に立ち上がり、明智がいよいよ語りだす。
その様は何だかミステリードラマのラストで事件の真相について話す探偵のよう。
ああ、そういえばコイツ本職だったな。
私は一瞬遅れで思い出す。

「高嶺君が得た情報と私達がこれまでに得た情報……それらを総合し、推理した結果、私は一つの結論に辿り着きました」

ごくり、と誰かが唾を飲む音が聞こえた。

「私の出した結論はこうです。
 螺旋王は私達が一人でも多く、この殺し合いからを脱出することを期待している」




私は明智が何を言ってるのか分からなかった。
出てきた結論があまりにも突飛過ぎて「何言ってんだよ」の一言も言えなかった。
だってそうだろ?
あのいけすかないハゲ親父は始めに私達に何て言った?
『お前たちは今から全員で、最後の一人になるまで殺し合うこと』
そう言ったんじゃなかったか?
それがどうしてそういう結論になる?
確かに、螺旋王の本当の目的が殺し合いそのものではなく、その途中にあるってのは分かった。
だけど、いくら何でも『脱出を期待している』ってのは……

横を見ると、ゆたかが私と同じような困惑した顔で私を見ている。
そりゃそーだ。
誰だってこんなことを聞かされればそんな顔になる。

「……もちろん、説明してくれるんだろうな」

烈火のごとく明智を問い詰めたい衝動をどーにかこーにか理性で押さえ込み、私は声を抑えて訊く。
普段なら喚き散らしていたであろうところを抑えられたのは、今までの明智を見ているからか。

「ええ、もちろんですよ。高嶺君」
「はい」

明智が促すと、清麿はバッグをごそごそやり、中から一つのビニール袋を取り出した。
縛ってあった袋の口を開け、中身を机の上にぶちまける。
出てきたのは、鈍く光を反射するいくつかの金属片と、三つの黒いビー玉。

「えっと、何ですか?これ?」
「分解した首輪のパーツさ」
「!!」
「これが!?」

イメージと違うなというのが第一印象だった。
清麿が病院で死んだ奴の首輪を外し、分解に挑戦したっていうのは私も聞いてた。
てっきり、もっと原型を残した形で外れるもんだと思ってただけに、このバラバラっぷりは予想外だ。

「この首輪はオレが病院に安置してあった死体の首から抜き取ったものだ。
 分解の方法はいたってシンプル」

清麿はそう言うとバッグから首輪をもう一つ取り出して机に置き、空いた手にプラスドライバーを構えた。

「シールを剥がしたところにあるネジにプラスドライバーをあて」

プラスドライバーと首輪を同じ手に持ち、もう一方の手でネームシールを剥がすと、下からプラスの頭を晒したネジが顔を出した。
なるほど、そりゃ確かに盲点だ。シールなんて気づきゃ簡単なことなのに。
映画館の近くで首輪を拾ったときに気づけなかった自分を何だか馬鹿みたいに思いながら、私は手を首の後ろに廻した。
爪をちょっと立てて自分のをひっかくと、そこにも確かな段差。
あー確かにあるわ。
ふと目を上げると、自分と同じことをしているゆたかと目が合う。
何か知らんが恥ずかしい。

「一気に回す」

清麿がドライバーをネジにあてがって左に回すと、首輪はあっけなくバラバラになった。
それが今まで一つのモノだったのが嘘みたいだ。
部品が机に当たる渇いた音が響く。

「なるほど。で、これと螺旋王が私達に脱出して欲しがってるってこととがどう結びつく?」
「せっかちなのはよくないですよ菫川先生。更年期ですか?」
「うっさい!まだ私はそんな齢じゃない」
「それは失礼。では、続きをお願いしますよ高嶺君」
「ああ」

お得意の嫌味で私の追及を逸らした明智が続きを促すと、清麿は右手にドライバーを持ったまま、腕を首の後ろに回す。

「見ての通り、所有者のいなくなった首輪はドライバーを使えば簡単に外れる。
 そのことを知ったオレは次にこう考えた。
 『じゃあ、まだ生きている人間の首に嵌ってる首輪のネジを回したら、一体どうなるんだろう』ってね」

ゆたかの顔色が変わったのが分かる。
私の背中にもゾクっときたものがある。
明智だけがいつもの微笑を崩さずに清麿を見守っていた。

「それを知るためにはどうすればいいか?簡単だ。回してみればいい。
 こんな風になッッッッ!!!!!」

気合一閃。
清麿はドライバーを力強く掴むと、自分の首輪へ差しこみさっきよりも勢いよく、捻った。
だが、さっきと違ってネジは回らない。首輪もバラバラになったりしない。
歯を食いしばってふんばっている清麿の腕だけが生まれたての子鹿みたいにプルプル震えている。
おい、もうよせよ、私がそう言おうとした刹那

『――螺旋力なき者よ。その愚かさを悔いるがいい――』

あの男の声が聞こえた。

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

同時に清麿が悲鳴をあげる。
体中をびくびく痙攣させて、ドライバーを取り落とし、スッ転ぶ。

「高嶺くんっ!?」
「おい、アンタ、大丈夫か!!?」
「……心配ない」

床に蹲った清麿が腕をあげ、駆け寄ろうとしたゆたかを制する。
清麿は上げた腕をそのまま机の端にかけると、そこを支えに一気に立ち上がった。
多少、まだ足は震えてるみたいだが、その動きはおおむねしっかりしている。
どうやら命に別状はないみたいだ。
私はほっと息をついて、乗り出していた体を元に戻した。

「……知ってたのか」
「ええ。あなた方がイリヤ君を見送りに行っている間に聞きました」
「………………『螺旋力なき者よ』か」
「ええ……私の言ったことの意味、もうお分かりでしょう。
 首輪についたネジを見つけ、回した者に向けて言い放たれる言葉が『――螺旋力なき者よ。その愚かさを悔いるがいい――』。
 言い換えればこれは『螺旋力を持たない者が首輪を外そうとするな』ということです。
 つまり裏を返せば――」
「『螺旋力さえあれば首輪は外れる』。そう言いたいってことか」
「フッ、さすがは菫川先生、ご名答です」

明智は目を細め、もったいぶったような含み笑いを漏らす。

「螺旋王は私達をこの区画に閉じ込め、最後の一人になるまで殺し合いをすることを命じました。
 首輪はその殺し合いの間、私達が主催者に歯向かうことを禁じ、また同時に脱走を封じるための枷だったはずです。
 ところが、その枷には何と囚人自らが外すことができるように、わざわざ鍵がつけてあった。
 一方の手で人を閉じ込め、もう一方の手で解放の手助けをする。
 これはとても不合理なことと言わざるを得ません。
 螺旋王はどうしてわざわざそんなことをしたんでしょう?」
「……螺旋王の本当の目的が閉鎖空間での殺し合いじゃないから、か」
「そのとおりです。
 彼の目的は私達を閉じ込めることでも、また、殺し合いをさせることでもない。
 螺旋王の真の目的は殺し合いの過程で生まれる私達の変化を観察することにあります。
 そして、その変化とは螺旋力の覚醒のことを指していると見てまず間違いない。
 ここまではいいですね?」
「ああ。途中こそ違うけど、ここまでの結論はあんたが今までに言ってたのと同じだしな」

そうだ。ここまでじゃ今までと同じ。
『螺旋王が参加者に脱出して欲しがっている』とまではとても言えない。
私が欲しいのはその先だ。

だけど、明智はすぐには話し出さず、マグカップを取ってコーヒーをひと啜りした。
ずずずという音が静かな会議室にやけにうるさく響く。
いつの間にかゆたかも清麿も元の席に戻り、次の言葉を目線で促す。

「――さて、そうなると問題になってくるのが『一体、螺旋王はどうやって私達の螺旋力を測定しているのか』ということです。
 もし、参加者の一人が螺旋力に覚醒したとしても、それを螺旋王が分からなければ実験の意味がないですからね」
「いや、螺旋王は常に私たちのことを監視してるんだろ?だったら見てれば分かるんじゃ……」
「なるほど。それも一つの考え方ではあります。
 しかし、せっかくの実験です。どうせならばもっと詳細なデータが欲しいとは思いませんか?
 目覚めたか、目覚めていないかという1、0のデータではなく
 どんな人間が、どんなときに、どれくらいの螺旋力を発揮したかが分かるような、詳細なデータがね」
「そういうのがあれば便利だと思いますけど、そんなことできるんですか?」
「いや、まあ、カメラも通さず会場を監視できるかもしれないような奴なんだから、何ができてもおかしくないと思うけど……」
「いいえ、監視に用いられているような超技術や魔法を使わなくても、詳細なデータを知ることはできますよ。
 首輪に計測装置を仕込めばいいんです」

なるほど。確かにそれはあり得る。
いや、螺旋力が目覚めることが首輪を外す条件なら、むしろ、そう考えたほうが自然ですらある。
首輪自身に螺旋力を測る機能がなけりゃ、目覚めた奴を見分けるなんて無理だ。

私は再びすべすべした首輪に手を遣った。
ここから私のデータが逐一螺旋王に送られてるのかと思うと、かなり気分が悪い。
そのとき、金属の表面をなぞっていた私の指がちょっとしたはずみでさっきのシールに触れた。
あれ、ちょっと待て。

「……でも、よく考えたらそれっておかしくないか?螺旋力が目覚めたらこの首輪外せるんだろ?
 せっかく測定するべき螺旋力が目覚めたのに、そのときには取り外し自由ってんじゃ意味ねーよな?」
「『螺旋力が目覚めれば首輪が外せる』というのは単なる比喩でしかありません。
 おそらく、実際にはある人間の螺旋力の数値が一定を超えたときにはじめて首輪が外れる仕組みになってるんでしょう」
「外した奴の螺旋力は測らなくていいのか?首輪外せるってことは螺旋力強いんだろ?」
「確かに一見するとおかしく見えます。
 でも、逆にこう考えることはできませんか。『首輪を外せる人間の螺旋力はもう測定する必要はない』」
「何でそうなる?」
「首輪が外せるほどの螺旋力があればこの実験の対象者としてはもう『合格』だからですよ」
「『合格』ぅ?」

思わず表情が歪む。
んーどうにも明智の話が……分かりそうで分からない。

「菫川先生、こう考えてみてくれませんか」

腕を組んで渋い顔をしていると、これまで黙っていた清麿が口を開いた。

「鼠を迷路に何匹か放り込んで、ゴールまで辿り着けるかを見る実験がありますよね?
 今、オレ達参加者を鼠、迷路をこの殺し合いだと考えてみてください。
 オレ達鼠は生き残るため、必死でこの迷路、つまり殺し合いの中を走り回ります。
 この状況で、オレ達が迷路から出る、つまり、殺し合いから解放されるにはどうしたらいいですか?」
「そりゃあ……ゴールに着けばいいんじゃないの?」
「そのとおり!じゃあ、この殺し合いにおけるゴールって何ですか?」
「えーっと、それは……最後の一人になること……かな?」
「残念だけど不正解。実験者である螺旋王は実験の目的に合うようにゴールを設定するはずです。
 菫川先生、この殺し合いの目的は何でした?」
「……明智の理屈が正しいとするなら、参加者の螺旋力を目覚めさせること……あ、ってことはそれがゴールになるのか」
「正解!じゃあ、最後の問題。螺旋力が目覚めるとオレ達には何ができるようになりますか?」
「何が……って首輪が、あ、ああ~~~~~~~~っっっっ!!!」

私は思わずのけぞって大声を上げてしまった。

「ご理解いただけたようですね、菫川先生。
 そうです。首輪を外した参加者はその時点でゲームクリア。
 その人間にとっての実験、即ち殺し合いはそこで終了します。

 この殺し合いは最後の一人を決めるバトルロワイヤルなどではありません。
 螺旋力が覚醒した者から抜けていく勝ち抜けゲームです。
 首輪は言わばその勝ち負けを判定するためのテスター。試金石。
 そうでなければ、螺旋王が首輪を解除できる仕組みをわざわざ組み込んだことの説明がつかない。
 首輪を外した参加者をも交えて殺し合いを継続しようというのはあまりに不合理。
 もし、そのようなことを行おうものなら
 首輪が外れた参加者はたちまちのうちに禁止エリアに逃げ込み、首輪をつけた参加者の手は及ばなくなるでしょう。
 そもそも、首輪なしでも何ら今までと変わりなく殺し合いが進行するなら、始めから首輪などつけないはずです。

 これでもうお分かりでしょう。
 螺旋王は私達参加者が一人でも多く螺旋力に覚醒し、殺し合いから脱出することを期待しています」

立ち上がり、腕を振るって明智が熱弁する。
その姿は数々の難事件を解決してきたエリート刑事のそれにふさわしく、何だかバカに迫力があった。

「……大筋は理解した。けど、一つ質問がある。
 首輪を外せば殺し合いは終わるって言うが、具体的にはどうなるんだ?」
「パターンとしては二つ考えられると思います。
 まず一つは首輪を外した瞬間にこの会場から即座に除外されるパターン」
「即座に除外?できるのか、そんなこと?」
「先生、よーく思い出してください。
 私達はどうやってこの会場まで連れてこられましたか?」
「……そうか!テレポート!」
「ええ。おそらく、あの空間転移を行うための装置がこの首輪には組み込まれているんでしょう。
 首輪が外れる瞬間、もし参加者が生きていればある場所に向けて飛ぶようあらかじめセットされていたとしたら……」
「首輪が外れて大喜びした一秒後には螺旋王の檻の中に逆戻りってわけか。悪趣味だな」
「檻に引き戻された次の行き先が第二の実験場か、解剖台か、それとも別の何かかは分かりませんが
 そのまま元の世界に還してもらえる可能性は限りなくゼロでしょうね」

私はもう一度、首輪に手を触れた。
その感触は前よりも冷たく、不気味。
首輪を嵌められた直後にも感じた、抜き身の刃を突きつけられるような怖気が、今、再び私を貫く。

「……分かった。で、もう一つは?」
「もう一つは、首輪を外し、第一の実験である殺し合いが終了した瞬間、その場で第二の実験が開始されるパターンです。
 この会場から抜け出すには首輪を外すことにプラスして、何か別の条件が必要だと言い換えることもできるでしょう」
「……首輪の解除は第一関門。本当のゴールは別にあるってことか」
「ご明察です。
 それが何なのか、今の時点ではっきりした事は言えません。
 ですが、螺旋王の目的から考えれば、螺旋力に関する何かしらであることはまず間違いない。
 あるいは『エド』君の言っていた『お宝』とやらが、その正体なのかもしれませんね」

私は今までの発言を要約し、逐一手元のメモに書き留める。
まとめていくうち、頭の中で情報が整理されていく。
なるほど。この殺し合いは螺旋王が螺旋力を収穫するための人間牧場ってわけかい。
出来のいいヤツだけさっさと収穫して、出来損ないは競争の末、死ぬに任せる。
ハッ、何とも人をコケにした話じゃないか。
紙の上を走るシャーペンが圧されてギッと鳴った。


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231:BACCANO -そしてバカ騒ぎ- 明智健悟 239:W.O.D ~World Of Darkness~
231:BACCANO -そしてバカ騒ぎ- 菫川ねねね 239:W.O.D ~World Of Darkness~
231:BACCANO -そしてバカ騒ぎ- 高嶺清麿 239:W.O.D ~World Of Darkness~
231:BACCANO -そしてバカ騒ぎ- 小早川ゆたか 239:W.O.D ~World Of Darkness~





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