PRINCESS WALTZ of 『Valkyrja』 (前編)  ◆tu4bghlMIw


《Section-13:ギルガメッシュ――英雄王 ①》

眼の前のむさ苦しい男、ラッド・ルッソが持ち出した提案は『馬鹿げている』という領域を遙かに超越した荒唐無稽なものだった。
最後の一人になるまで潰し合う……そもそも、我がそんな遊戯へと講じる利点が皆無ではないか。
加えて何故この雑種の意見に従わなければならんのだ。我は英雄王ギルガメッシュ、誰からの指図も受けん。
そもそもこの駄犬がこんなことを言い出した理由も、おそらく自らの狂気もとい趣味故だろう。

下劣な笑い声を上げながら身を捩っている駄犬に贋作者と蜘蛛が凄まじい剣幕で文句をつけている。
ある種達観した存在が勢揃いしたこの場において、かの二人だけが"人間"であるからなのだろうか。
蜘蛛はともかくとして、衛宮士郎に未だそのような感覚が残っていたことには驚きを隠せないが。

駄犬の言う『バトルロワイアル』――それはこの八十二名よりスタートした殺戮舞踏を更に縮小する、という試みだ。
我は未だ螺旋王の真意へと到達することは出来ずにいる。
何故奴がこのような催しを開催し、何を目的として我達を戦わせているのか――答えは出ない。

さて、ひとまずどうするべきか。
この目障りな雑種三匹を殲滅する――これはいい。
しかし、問題はその後だ。ナオを発見することが出来たのは僥倖であったが、方針が未だハッキリしない。


「ラッド!! お前は馬鹿か、ふざけるのも大概にしろ!!」
「ふざけてなんていねぇーよぉおおお、エミヤ!!! こんなに人間がいるんだぜ!?
 やっぱイベントって奴が必要じゃねーのかなぁ、おい! 俺も入れてよぉ六人もいんだぜ!!
 ほれ。イチ、ニィ、サン、シー、ゴー、ロク…………あ? ナナ?」
「七? お前、何を言って――」


『七』だと?
女――藤乃静留が離脱した以上、ここには六人しか参加者はいないはず。
その場にいた全員の瞳がラッド・ルッソの見詰めていた方角へと向けられる。

「イ、イリヤ!? イリヤなのか!?」
「――ほう」

思わず、笑った。
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン――またの名を聖杯。
第五次聖杯戦争における聖杯兼マスターとしてバーサーカーを従えて参戦したアインツベルンの姫君だった。
今までの放送で名前を呼ばれていなかったため、生きているとは思っていたが……これは思わぬ拾い物だ。

「シ……ロウ、よか…………た。早く……逃げて……」
「ど、どうしたんだその傷はっ!? 何で全身ズタズタに……!?」
「い、い……から。早く……アイ……ツが…………アイツが……来る……ッ!」

誰かに襲われることなどまるで考えずに衛宮士郎が聖杯の元へと走り寄った。
聖杯は紫色の衣装を真っ赤な血で染め、息も絶え絶えという様子であった。
手足には何かしらの刃物によって付けられた切り傷――

聖杯は全身をガタガタ震わせながら、衛宮士郎に必死で呼び掛ける。
だが奴は状況が把握できていないのか、聖杯の身体を気遣う台詞を吐くばかり。
……まるで、埒が明かない。

「汚い口を塞げ――衛宮士郎」
「ギルガメッシュ!? イリヤに何をするつもりだ!?」
「喋るなと言っている。耳が穢れるわ。状況を知りたければ少し黙っていろ」

こうしてようやく、小さな嗚咽を衛宮士郎は飲み込み、押し黙った。
我はゆっくりと聖杯に問い掛ける。


「ギル……ガメッシュ」
「聖杯よ――単刀直入に聞く。誰が来るのかは分かった。
 だが、奴の力は人の身としては十分過ぎるものとはいえ、我は愚かそこの老いぼれや射撃手にも明らかに劣る。
 一体何をそれほどまでに心配しているというのだ?」
「やく……そく、して…………アケチ達……に協力……して……」
「何?」
「刑務所……いる……から、ち……からを……!!」
「チッ――仕方ない、誓ってやろう。答えよ、聖杯戦争を経験した貴様をそこまで脅えさせるモノは一体何なのだ?」
「へ…………ぃ……」
「聞こえんぞ。何が来ると言うのだ?」
「…………六つ……の……頭の…………」


「――――もしかして、それはうちのことどすか?」


瞬間、『闇に影が』差した。
時刻は既に二十四時になろうかという頃合。
まともな灯りなど周囲にはほとんどなく、月と星を頼りに我達は戦っていたと思っても過言ではない。
そして、その光が遮られた。つまり――それは、

「――散開するッ!!! ナオ付いて来い!!」
「ちょ……っ!! 金ぴか、あれは……!!」
「説明は後だ!!」




天から、巨大な"何か"が降って来たということ。



 □


《Section-14:ニコラス・D・ウルフウッド――牧師 ①》


「……なんなんや」

思わず、言葉を失った。
数百メートル先に位置する映画館。その周辺で数十分前に凄まじい爆音が響いたことはよう覚えとる。
多分何人かの参加者がドンパチやってるんやろうなぁ……とは思っていた。
でもひとまずはこの自分を舐めくさった柊かがみを何とかせんとどうしようもない、そんな風に思っていた訳だ。

今現在、柊かがみは……寝ている?
散々甚振った疲れか、泥のように潰れてしまっている。半ば気絶したようなものなのだろうか。
叩き起こして再度拷問に掛けることは容易……ただし、


「あの紫色の山はなんじゃい」


今し方出現した妙な山、というか、もしやアレは生き物なのだろうか。とにかく、そちらの方が今は重要だ。
凄まじい音が響いた、ということは多分上から落ちて来たのだ。
どこから? …………わいに聞くんやない。

そうなると、逆にコイツには眠っていて貰った方が得策だ。
一端起きてしまうと、不死故にその行動を制限するのが厄介である。
そろそろ禁止エリアに運ぼうかと思っていたのだが、思っていたよりもこの場所からは遠い。

「しかし……本当にゾンビなんか、この嬢ちゃんは」

アレだけ渾身の力を込めて殴り倒したのに、もはや完全に彼女の傷は治ってしまっている。
流石に胃の中から吐き出した汚物は戻らないようであるが。
むしろ、こっちの拳が痛いくらいだった。
まぁ、そもそも不死身であることが分かっているのに、刀や銃など勿体無くて使える筈もない。懸命な選択だったと思う。
あの撲殺拷問もこちらのイライラをぶつけるための――要は八つ当たりだった。


が、気分が晴れたかと言われればそんな訳がない。
例えば――ジムに置いてあるサンドバックが数回殴っただけで破れてしまったら、どう思うだろう。
普通は、キレる。
「おいコラなんやこのヤワなボロ屑は!?いい加減にせぇよ!?」という気分になる。
では逆に壊すつもりで切り掛かった案山子がいつまでたっても壊れなかった場合は?
言うまでもない。同様に普通は、キレる。
まぁ単純に言えば、柊かがみをボコボコにしてもまるでこのイライラは収まらなかった、ということだ。

「しゃぁないな……不死身の嬢ちゃん、命拾いしたなぁ。次はちゃんと殺してくれる相手に拾われるんやで?」

物言わぬ気絶中の女に一声掛けて、歩き出す。
目的地は当然の如く、映画館。
あの場所はプンプン匂う。ああ、俗に言う――死臭って奴だろうか。
このイライラを晴らすには丁度いい。

「あん?」

数百メートル進んだ所にやけに豪壮な剣が落ちているのを見つけた。
確か不死身の嬢ちゃんが使っていた武器だ。名前は確か『エクスカリバー』だったか。
今持っている二本の刀よりは大分使えそうに見える。

「ツイとるやないけ」

軽く左右に振ってみる。ふむ、中々手に馴染む良い剣だ。
まぁしばらくはこの武器を使うとするか。
もしかしたら――そろそろ自分にも運が回ってきたのかもしれない。
滑り出しは上々、そんな所だろうか。


 □

《Section-X1:藤乃静留――蛇 ②》

乱戦から離脱し、その周囲で発見した外国人と思われる少女を殺害し、道具を回収。
脚に装備していたローラースケートを少女の履いていた『マッハキャリバー』というものへと履き替える。
どうも『デバイス』という種類の意志を持った道具らしい。

しかしとある妙なことにも気付いた。
つまり、いつの間に、こんな場所まで来ていたのだろう、と。
映画館の近くで戦っていたはずなのに、気が付けばうちと少女は見慣れぬ場所までやって来ていたらしい。
あの妙な形の河、いくつかも河川が枝分かれする分岐点……ということはここはA-6だろうか。

さて、これからどうするべきだろうか。
少女は重傷だ。とはいえ、今すぐ死ぬほどの怪我ではない。今は気絶しているが……処理をすれば十分助かる。
もっとも、明らかに血が足りないので放っておけば出血死するだろうが。

彼女を軽く拷問して何かしらの情報を搾り取る、という展開が第一に挙げられる。
戦闘をしてみて分かったこととして、彼女は攻撃力はそれほど高くない。
最後に使用した『ディバインバスター』という技だけは注意が必要だが、念入りに拘束すれば問題もない筈だ。

「ん……なんやろ、アレ」

『妙なもの』が川縁に立っている。
夜の暗闇を吸い取るように、キラキラと輝く大きなオブジェ、だろうか。
何なのだろう、アレは。
遠目加えて夜目であるため、しっかりとは見えない。
灯りも頭上に煌く黄金の月だけだ。光源としてはさすがに心もとないと言わざるを得ない。
高くて、透明で、何かで濡れていて、大きくて……、

「こおり……?」

そう、まるで映画に出てくるような豪壮な氷柱が河に堂々とした風貌で佇んでいたのだ。
数十メートルはあるであろう、この位置からも明らかにその存在が異様であることは見て取れる。
常識で考えれば、このような街中に巨大な氷がある筈もない。
つまり人為的にあの物体は出現したことになる。何かしらの能力が行使された証――

「あ…………」

氷。
巨大な冷気を操る力。
吹き荒ぶ吹雪。
全てを覆いつくす凍気。
そして、誰かの能力によって生み出された氷の柱。

「まさか…………」

自分は、知っている。思い出す必要なんてなかった。
いついかなる時であろうと、この心は彼女への想いで溢れている。
だから、余計なことを考える必要など、そこにはなかった。
ある筈もなかった。

「な、つ……き」

氷を操る能力。それは玖我なつきのチャイルド――デュランの持つ力なのだから。
確信、した。
いや他に氷を扱う能力者が参加している可能性は十分に高い。
加えてHiMEはチャイルドの使用を制限されている。デュランもおそらく同様に。
アレが、なつきによって生み出された氷である筈がない。

それでも、両脚はスルスルと、光へ惹き付けられる羽虫のように勝手に前へ前へと進んでいく。
自分で自分の身体が制御出来ない。
周りのことなど、どうでもよくなってしまった。
流れる河も、濡れていく身体も、肌寒い風もまるで気にならない。


心は完全に気付いてしまったのだ。

いる。
あの場所に、なつきが。


 □


《Section-X2:藤乃静留――蛇 ③》


闇が謳う。
深々とした黒と蛍の光のように照らす月が彼女を飾り立てていた。

ゆっくりと、その傍らに寄り添うように腰を降ろした。
彼女は空を見ていた。
彼女は月を見ていた。

「……なつき」

まるで何かを成し遂げた後のような、満足げな笑みを浮かべる最愛の人――玖我なつき。
そして人形のようにその隣で肩を震わせる女――藤乃静留。

そっと、その頬に触れてみる。
人間らしい温かみなどある筈もなくて、陶磁器のように滑らかな感触と冷たい体温だけが皮膚へと広がって行く。
何かを追い求めるように指先は首へ、そして彼女の身体へと至り、ゆっくりとその存在を確かめる。
それは、まるで時計の針が止まってしまったかのような時間だった。

自分と、そしてなつきだけがその空間に居て、でも息をしているのは一人だけで……。
川のせせらぎと風の音、そして自分の心臓の音だけが二人の空白を埋めてくれる。

赤を通り越して、既に黒色へと変化していた心臓の傷。
いつもなつきが着ていたライダースーツの革の感触が指先を軽く撫でた。

なつきと再会出来たら話したいことが沢山あった筈だった。
だけど、言葉が出てこない。
意味もなく、非力な少女のように名前を呼び、その身体に縋りつくことさえ出来ない。
自分は中途半端だ。何もかもが適当で、フラフラと遊びまわって――

どうして、一番初めにゲームへと乗ってしまわなかったのだろう。
あの時、出会った人間を全て殺していれば、もしかしたら今もなつきは自分に微笑みかけてくれたかもしれないのに。

「な、つき……」

その唇は今も尚、瑞々しい果実のような膨らみを保っていた。
気が付けば顔と顔が近付き、うちは折り重なるようになつきの胸の中へと吸い込まれていった。
ああ、これで二回目だ――なつきの寝込みを襲うのは。




回る。
回る。
グルグルと螺旋を描き。
踊るように。舞うように。遊ぶように。


自分はHiMEだ。
その存在を証明するものが共通する特別な痣とエレメント、そしてもう一つだけある。
今思えば不思議な話だった。
そもそも"あの子"が欠けていたのに、本当に自分はHiMEだっただろうか。

HiMEの力とは想いだ。
大切な人を守りたいと願う心。一緒にいたいと思う心。
愛情、友情、親愛、尊敬、敬愛――
自分の大切なものを賭けてまで戦う、それがHiMEの宿命。
「鍵」となる相手と手を取り、戦姫を目指す舞踏だ。

なつきは死んだのに、自分の身体が消えてなくなることはなかった。
あの、瞬間、巨大化したデュランの砲撃が"あの子"の身体を貫いた時二人の心は通じ合った筈なのに。

少しだけ、悔しかった。
どうしてこの身体が消えて無くならないのか不思議で堪らなかった。
"あの子"達を呼び出すことに何かしらの制限が掛かっているのは確実だ。
そして、それは同時に「大切な人」に対しても同じことが言える……のかもしれない。
少なくとも、自分はそうやって嵐のように荒れ狂う心を納得させた。

それでも、心の闇は晴れない。

『なつきは自分のことなんて、どうでもよくなってしまったのではないか』

そんな風に考え出すと、次から次へと黒い思考が膿のように湧いて来て、狂ってしまいそうになった。
喉を掻き毟って、両肩を思いっ切り抱き締めてもその衝動は収まらない。
だから、自分はゲームに乗ったのだ。

なつきと永遠の時を生きるため? いや、違う。
それは所詮、言い訳だ。つまらないプライドを覆いつくすための見栄に過ぎない。
自分の望みはただ一つだけ。ささやかで、慎ましく、ちっぽけな夢だ。

なつきに、一つだけ聞きたいことがあった。
それさえ確認出来ればその瞬間喉を掻っ切って自殺してしまっても構わなかった。
永遠の時ですら、その一瞬を飾る至上の幸福には叶わないのだから。


――――なぁ、なつき。まだうちのこと好きなままでいてくれてるん?


自分がいて、なつきがいて――
もしも、なつきが自分を好きでいてくれるのなら、永遠なんていらない。
灯篭のようにすぐ消えてしまう炎で十分だ。
だから、戦うのだ。なつきをもう一度抱き締めるために。一瞬の微笑みを勝ち取るために。


身体がボウッ、とした光に包まれる。
緑色の粒子が空を舞う。
空へと螺旋を描きながら伸びていく一陣の風のように、何かが細胞の一つ一つを変えていく。

それはHiMEが戦いに敗れ、「大切な人」が消えていく時の光と似ていた。
心と心が、"螺旋"の力で結ばれる。


背後から何かが競り上がるような凄まじい轟音が響く。
まるで河の中から巨大な塔が出現したかのような衝撃が周囲を襲った。
ゆっくりと、天を見上げる。その、自分を見下ろす影を。

そう、気が付けば、"あの子"はそこにいた。
山のように高く、大きくな身体。
六つの頭に研ぎ澄まされた刃のような牙。闇夜で光る眼。
紫色の体躯を月明かりで照らして、十二の瞳でこちらをじっ、と見つめている。

「悪かったなぁ……ほんまに待たせてすまんかったわぁ」

ああ、勘違いなんかじゃなかった。
そして、自分もこれでなつきとお揃いだ。自分はもう一度、HiMEになったのだから。

大切な人との絆の証――うちの想いの力、ようやっと届いたんや。


「行ってくるで、なつき」


 □


《Section-15:東方不敗――拳王 ②》

「なんという……ことだ」

間一髪、と言った所だろうか。
まさか頭上からあのような大きさの巨大生物が登場するとは考えている訳がなかった。

あのサイズの相手ならば、通常はガンダムを用いて戦闘するべきだ。
とはいえ生身でも戦うことが出来ない、という訳ではない。
だが、さすがにアレは大した意志を持たないゾンビ兵の操るデスアーミーとは比べ物にならないだろう。
多少の被害は覚悟の内、ということか。

「くっ…………ダメージを受け過ぎたか」

特に最後に英雄王にやられた傷が効いている。
ドモンにやられた腹部の傷も今更ながら厄介だろう。一度、どこかで身体を休めた方がいいかもしれない。

「……む?」

その時、自らのポケットにしまって置いた指輪が消えていることに気付いた。
衛宮士郎から奪い取った特殊な力を持つ指輪だ。離脱した際にどこかで落したのだろうか。
とはいえ、いかに優秀であろうと、自分には無用の長物である。なぜなら、


「……構わんか。そもそも、わしではあの輪っかは小さすぎて指が入らんからなぁ!」


あのような、女物の指輪が嵌められるほど軟弱な鍛え方はしていないからだ。
実際、メリケンサックなどでなく純粋に指輪を付ける武道家が存在するかどうかも微妙ではあるのだが。


【C-6/道端/一日目/真夜中(放送直前)】

【東方不敗@機動武闘伝Gガンダム】
[状態]:全身にダメージ(大)、特に腹部に無視できぬ大ダメージ、肩から腰にかけて切り傷、左腕に中度の切り傷、腹部に中度の切り傷、全身に中度の火傷、わき腹に小さな穴 疲労(大) 螺旋力覚醒
[装備]:マスタークロス@機動武闘伝Gガンダム、
[道具]:支給品一式(一食分消費)、レガートの金属糸@トライガン 、ルールブレイカー@Fate/stay night、卓上コンロ用ガスボンベx2
[思考]:
基本方針:ゲームに乗り、優勝して現世へ帰り地球人類抹殺を果たす。
1:ひとまずは傷を癒す。
2:優勝の邪魔になるものは排除する。
3:ロージェノムと接触し、その力を見極める。
4:いずれ衝撃のアルベルトと決着をつける。
5:そしてドモンと正真正銘の真剣勝負がしたい。

※螺旋王は宇宙人で、このフィールドに集められているの異なる星々の人間という仮説を立てました。
 本人も半信半疑です。
※Dボゥイのパワーアップを螺旋遺伝子によるものだと結論付けました。
※螺旋遺伝子とは、『なんらかの要因』で覚醒する力だと思っています。 ですが、『なんらかの要因』については未だ知りません。
  ついでに、自分自身が覚醒していることも知りません。


 □

《Section-16:結城奈緒――蜘蛛 ②》

「う……そ……でしょ」

あまりの突然な事態に頭がどうにかなってしまうのではないかと思った。

いや、だって在り得ないだろう、常識的に考えて。
ラッドのおっさんが「バトルロワイアルやろうぜ!」とかアホなことを言い出したと思ったら、
なんかやけに肌の白い女の子が瀕死の重傷を負った状態で現れて「逃げて……」とか言って。
「はぁ?何言ってんの意味分かんない」みたいな感じでボンヤリと衛宮士郎があたふたしてるのを見てたら、

空から――凄まじく巨大な"蛇"が落ちて来た。

「ごきげんでっか、皆さん」

現れたのは藤乃静留のチャイルド、清姫だった。
当然の如く藤乃は六つある頭のうちの一つに悠然とした佇まいで立っている。
…………ああ、なんかやけに見慣れた光景なんですけど、コレ。


「し、シズルさーーーん!! 僕達のピンチに駆け付けてくれたんですね!!! 
 バトルロワイアルなんてくだらない、そういう事なんですね!! ああ、感激だなぁ……僕はずっと信じてましたよ!!」


色眼鏡と赤い外套、そして鮮やかな金髪をホウキみたいに逆立てた男が情けない声を出した。
こいつの顔は一応、見覚えがある。
人間台風――ヴァッシュ・ザ・スタンピード。あたしに支給された手配書に載っていた人物。
なんか凄まじい額の賞金が掛けられた指名手配犯だ。
それなのに「殺し合いは駄目!絶対!」みたいな論理で、誰一人この場から死者を出すまいと頑張っている。
まぁ、要するに変な奴だ。

「ん……」

その時、大騒ぎするヴァッシュ・ザ・スタンピードを尻目にあたしがふと足元に眼をやると妙な指輪が落ちているのを見つけた。
ひょいっ、と拾ってとりあえず指に嵌めて見る。

――×××××××

ん? なんだ……この単語。どこから振って来たんだろう。
一度外してみる。そして再度装着。また、頭に良く分からない単語が響いた。
HiMEとそれなりに関連性のあるワード……ではあるが、だから何だというのだろうか?
指から取ることは出来るので、少なくとも呪われてはいないようだが。

「ヴァッシュはん。あんさんに言っとかなあかんことがあるんよ」
「何ですか? 僕は別に逃げた事を怒ったりは――」
「すんまへんなぁ。その女の子を襲ったのはうちなんどす」
「は――!?」
「その前に……」

あたし達を見下ろす藤乃がぐるっ、と首を擡げその場に居た人間を確認した。
ん、アレ。なんで藤乃の奴、デイパック背負ってないんだろう。
というか、ラッドのおっさんだけじゃなくてあの東方不敗とかいう爺さんもいなくなってる?

「結城はん。うちのかいらしい清姫を見た感想を聞かせて貰えると嬉しいんやけど」
「…………なんで、アンタはチャイルド使えんのよ」
「『恋する乙女』は強いんでっせ?」
「ハッ、意味分かんない」

理不尽だった。
正直、この状況であたしの側にジュリアがいたとして、何が出来るという訳でもない気はするが。
そもそも《蝕の祭》の時、あたし達は藤乃のチャイルドではなくてエレメントだけでも十分にやられていたのだ。
ジュリアを噛み殺したのも、コイツの清姫な訳だし。

「それとなぁ、面白いモンも手に入れてな。『デバイス』いう道具らしいでっせ」
「デ……バイス?」
「そうや、しかもコレには驚きの機能が付いとって――」

そこまで言い掛けて、藤乃は「おやっ」という感じの眼で私を見た。
視線の先は――私の指先。つまり、先程拾った謎の指輪だ。

「なんや結城はんも持っとるやないか」
「コレ……がデバイス?」
「そうや。うちのとは違ってあまりお喋りやないようやけど。それに――例の単語、もな。浮かんで来とるさかいに」
「単語って……藤乃も……!?」

そしてニタリ、と笑った。

「ほな、一緒に言ってみましょか」
「藤乃、アンタ……」
「はい、さんはい――」
「ああもう!! 分かったわよ、言えばいいんでしょ!?」

背筋がゾッとするような笑顔を携えたまま、藤乃は小さく両の掌を叩き合わせる仕草を取った。
動作だけを説明すれば、それは小さな子供をあやす時のような慈愛に満ちた動きだ。
だけど眼は笑っていない。鬼のような雰囲気を全身から発しながら、藤乃は私にも一緒に『この台詞』を言わせようとしているのだ。

聞きやしない。こちらの腹の中はお見通しって訳だろうか。
まぁいい。どちらにしろ、私もこの胸の中で疼くよく分からない衝動を解放したいと思っていた所だ。
HiMEだけにしか分からない、特別な単語なのだろうか。
この場において、私、結城奈緒と藤乃静留だけが持ち合わせた感情を発露する。そのことに特別な問題があるとは思えない。

――つまり、それは誓約の言葉なのか。


「「マテリアライズ!!」」


そう叫んだ瞬間、眩い光が私達の身体を包み込んだ。
閃光に包まれ、私の身体が変わっていく感じを覚える。

この『デバイス』という奴を手にした瞬間から、燻っていた言葉――マテリアライズ。
どうやら些細な気のせいではなかったらしい。

なんだろう……これは?
懐かしい、とか気持ち悪いとか、そういう感覚じゃない。
ただ初めての気持ちじゃないのは確かだ。
まるで遠い未来か過去の、平行する世界の自分と一体化するような……何を言っているんだ、あたしは。
……とりあえず、変な気分。


「う――――な、こ、これは……!!」
「ほう。クククク……蜘蛛女、中々面白い格好だな。さすがに我には遠く及ばんが。緑と黄色、そして格子模様か。奇抜なセンスをしている」


隣であたしと藤乃のやり取りを見ていたギルガメッシュがニヤニヤしながら、そう呟いた。
光が消え、私がなんか変化したっぽい自分の身体を見た時に覚えた感想を一言で述べるとする。
それは、もう、全ての感情をその短い言葉に込められるくらい単純なものだった。

「だ、ださ……」

とりあえず、超ださかった。
最初のルール説明の際に広間でぶっ飛ばされた変身ヒーロー……とも違う。
あちらは何と言うかメカメカしていたが、こちらはどちらかと言えば戦隊物路線だ。
タイツのような緑色の衣服が全身を覆い、上半身は眼を覆いたくなるような黄色。
もしかして蜘蛛をイメージしているのだろうか、微妙に網目が入っている辺りがヤバイくらいださい。

「アハハハハハハッ、結城はんのは凄まじいセンスやなぁ!! うちのは案外カッコいいですえ?」

高らかに大笑いする藤乃の方はなるほど、確かにそれなりの外見だった。
イメージカラーは紫。あっちは特撮ヒーロー全身タイツ、と言うよりは鎧っぽい感じだ。
くっ付いてるヒラヒラもスカートのようで、ある意味ドレスのように見えなくもない。
……いや、待て。
それ以上に気にしなければならないことが一つだけある。人として。

「……なんで、アンタ飛んでんの?」
「……変な事聞きますなぁ結城はん。あんさんも飛んではるやないですか」
「え、は…………うわ」

あまりの衣装のダサさに気付かなかったが、なんとあたし自身も飛んでいた。
高度は…鴇羽のエレメントと同じくらいだろうか。さすがに制限が掛かっているとは思うが。
慣れない感覚だが、それなりに思うがままに飛行が可能なようだ。
それに何と言うか、全身の力も上がっているような気がする。
どうもこの不思議衣装は見た目の最悪具合と反比例して、高い性能を誇っているらしい。
しかし、よりによって黒猫の格好をしていたギルガメッシュに馬鹿にされるのは納得がいかない。
あたしが文句を付けようと、ギルガメッシュの方を見た――その瞬間、

「――藤乃静留っ!!!」

一人の男が大声で藤乃の名前を呼んだ。


 □

《Section-17:衛宮士郎――魔術師 ①》

「なんでっか……衛宮はん?」

自分は何も問題のあるような行為はしていない。
そうとでも言いたげな瞳で藤乃静留は俺の呼び掛けに応えた。

「教えろ!! イリヤを……イリヤをこんな眼に合わせたのはお前なのか!?」
「そう、うちやで? なんかあきまへんか?」
「良いわけがないだろうがっ!! どうしてこんな事をした!?
「どうしてって、そらぁ……」

俺は憤っていた。全身の細胞が燃えるように熱い。
ギルガメッシュや東方不敗との戦いで受けたダメージも勿論ある。
だが、それ以上に俺の中を貫いていたのは藤乃静留に対する明確な怒りの感情だった。

「やっぱなぁ、少しでも参加者が減った方が嬉しいやろ?」
「――――ッ!?」
「地道な所からコツコツと減らしていかんとなぁ。絶え間ない努力はいずれ報われるんやで?」

俺の身体を緑色の炎が駆け回る。
事も無げに、まるで他人の命などゴミ同然であるかのようにコイツは言い捨てた。
それは、つまり、奴は平然と他人を殺せる人間であるということ。
いや、既に人間ですらないのかもしれない。
そして――それになにより、俺が許せないのは……ッ!!!


「アンタは……アンタは人殺しなんてやって玖我に申し訳ないとは思わないのかッ!?」


玖我――玖我なつきのことだった。
俺はあの時、彼女がいなければ確実に死んでいた。
死の淵で玖我が呼び出した銀色の狼に命を救われたのだ。
そして、今の藤乃静留と結城奈緒の会話から察するに彼女が乗っている紫色の蛇もあの狼と同じ存在なのだろう。

確かに、俺達が一緒に居た時間は短かった。
だけどそれでもアイツが何気なく口にした『藤乃静留』という名前に込められた想いの深さを読み取れないほど鈍感でもなかった。
二人は、多分、深い絆で結ばれた――そう、俺とイリヤの関係に似た暖かい環で結ばれていたのだろう。


「俺はアンタ達の関係はよく知らない……だが、玖我は藤乃静留、アンタの事をずっと心配していたんだぞ!?
 大切な友人を殺したこのふざけた殺し合いに、そのアンタが乗るって言うのかよ!!!」
「………………あんさん、なつきの事知ってますん?」
「ああ、知ってるさ。知ってるとも!! 俺は玖我を守れなかった。俺が情けないばっかりに、玖我は、玖我はあの牧師に殺されたんだ!」


それは心からの叫びだった。いや、もはやソレは懺悔に近かったのかもしれない。
すぐ近くに言峰が居るのならば、いっそアイツでもいい。
俺は、俺の胸に燻っていたこの篝火のような衝動をずっと、吐き出したいと思っていたのだから。

「――ああ、そんなら話が早いわぁ」

クスリ、と。
藤乃静留は紫色の鎧のような服に覆われた指先で、自らの唇を撫でた。

「なつきは、な。《蝕の祭》の時も、うちを受け止めてくれたんやで」
「蝕の……祭?」
「うちが何人なつきのためにHiMEを舞台から蹴落とした事か――そこに居る結城はんだってそうや。
 この清姫が……結城はんのチャイルドを食い殺したんやで。一切の容赦も躊躇もなく、なぁ」

藤乃静留はずっと淡々と同じペースで話し続ける。
俺の遥か後方。ギルガメッシュの隣に立っている結城奈緒がクッ、と唇を噛んだ。

「そやし、その辺りは何とかなると思っとるんよ。
 実際、あっちの方が『相手が全部友人や知り合い』だった分、残酷だったとも考えられるしなぁ」
「だから、イリヤを――」
「そや。大体、あんな時間に一人でほっつき歩いとるのがいけへんのやで? 大体、うち以外にも『怖ーいお兄さん』が居たかもしぃひん」

俺は、グッと右の拳を握り締めた。左は骨が折れていて使い物にならない。
それでも、心の中の俺は両の拳を固く結んでいる。


「藤乃静留。君は――俺が、倒す。玖我のためにも、いや――君自身のためにも俺が、君を倒す!!」
「なつきの、ため? フフフフフいかんなぁ衛宮はん。その冗談、これっぽちも笑えまへんで。
 それに、な。そもそもなつきが死んだのに衛宮はんが、おめおめと生き延びているのはどういうことなん?
 死んでなつきに侘びた方がええとちゃうん?」
「冗談なんかじゃないっ!!! アンタは自分が囚われているのに気付かないのかっ!?」


そう、これは玖我なつきという少女のための戦いだ。
そして同時に藤乃静留という少女のための戦いでもある。

衛宮士郎は『正義の味方』に憧れる存在だ。
その血の一滴、肉の一粒、骨の一片に至るまで貫かれた意志によって行動する。
彼女は憑り付かれているのだ――妄執と狂気という名の愛に。

玖我が、最後に彼女を受け入れるとしても、だ。
大好きな人に人殺しなんてやって貰いたくないに決まっている。
彼女を縛っているのは愛だ。性別という垣根を越えた比類なき、純粋で、そして悪意のない無垢な愛だ。
俺は彼女を解放してやりたいと思う。
それに、今も微笑を浮かべている藤乃静留の顔は、笑いながら泣いている――そうとしか見えない。


「――シロウ君。残念だけど、僕はその意見に賛成出来ない」
「な……アンタは……!!」
「ヴァッシュ・ザ・スタンピード。ヴァッシュでいいよ」
「クククク――その男は中々に頑固だぞ? 貴様にも少しは見習わせたいくらいに、な」


豊かな金髪を重力に反抗するように逆立てた男が小さく微笑んだ。
神如き腕前を持つガンマン、ヴァッシュ・ザ・スタンピード。
死人を出さない、その一点に極限まで拘ったある種の境地に立つ男だ。
そして、俺の背後でギルガメッシュがニタリ、と笑った。どうやらこの問題に関しては傍観を決め込むらしい――それは、好都合だ。

「どんな理由があろうと、これは僕達が介入してはならない問題だよ。
 君が翳した論理は君にとっての論理であって、シズルさん達にそれを当て嵌めるのはちょっと違うと思う」
「じゃあ、じゃあヴァッシュさんはこのまま――」
「ううん。僕も人が死ぬ光景は……見たくないからね。彼女は、イリヤさんに関しては完全に僕の責任だ。
 シズルさんをあの時僕が見失いさえしなければ……」

ヴァッシュさんは俺の腕の中で、今にも息絶えようとしているイリヤを一瞬だけ見詰め、視線を落した。

「だから、僕がシズルさんを止めるよ。禁じられた力を……使ってもね」

右手に握り締めた銃をヴァッシュさんが小さく撫でた。
力――あの巨大な蛇を眼の前にして、それだけの台詞が叩けるだけの奥の手があるというのか。

確かにヴァッシュさんの考えは俺と似通った部分がある。
俺は正義の味方であるということ、彼は決して誰も死人を出さないということ。
ヴァッシュさんのその意志にどんな過去があるのか、俺には分からない。

「シ……ロウ…………」

俺の腕の中で、小さな声が聞こえた。

「イリヤ!? 眼が覚めたのか!? 傷は、大丈夫なのか!?」
「大丈夫…………じゃ……ない……」

すぐさま腕の中のイリヤへと呼び掛ける。
イリヤは震えていた。全身をガクガクと揺らし、微妙に痙攣しているようにさえ見える。
野苺のような鮮やかなピンク色だった筈の唇も真っ青に染まり、吐き出される吐息は夜へと沈殿していく。
それでも、イリヤは億劫げに瞳を半分ほど開くと、唇を僅かながらに持ち上げ些細な笑顔を浮かべた。

「て、にぎって……て…………」
「手? おい、イリヤ!!! イリヤ!!!」
「い、い…………? わ、たし…………が、いい……って……いうまで、はな……しちゃ、ダメ……だからね」
「イリヤ!! しっかりしろ、イリヤ!!!」

動かない筈の左手と、そして右手。
二つでガッシリとイリヤの華奢で白い手を握り締めた。
背後からイリヤの身体を抱き締めるようなそんな、不恰好な体勢になる。
強烈な痛みが二の腕の辺りを襲うが、こんなモノ――イリヤの痛みに比べれば塵にも等しい。

「ね…………シ……ロウ……わ……たし……」

空白。沈黙が星と月と闇のステージを支配する。


「シ、ロウの…………やくに……た……てた……よね……?」
「ああ立った!! イリヤは頑張った!! だからもう、喋るんじゃない!!」

どうすればいい。どうすればイリヤを助けることが出来る!?

「……ユメ……は……かな……うよ……」
「え?」

ぽつり、と。


「ね……ずっ……と……シ……ロウ……は、シ、ロウ……にとっての……セイギ……ノ……ミカタ……で……いてね」
「イリ――」


別れの言葉も言えなかった。
瞬間、彼女の首が俺の胸にトン、と軽い音を立てて倒れこんだ。
白銀の髪がフワッ、と舞う。
イリヤの甘い香りが俺の脳味噌をくすぐる。
俺の頭も、意識も、真っ更な白に侵蝕される。
頭がおかしくなる。気が狂ってしまいそうになる。

感情が、爆発する。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」


イリヤ、俺は、俺は――


「藤乃……静留」
「どないしはりましたか? 衛宮はん」
「俺は…………『正義の味方』にはなれない」


だって、俺は――


「……薄情な人でんな。イリヤはんの最期の言葉、まさか聞き逃したんどすか?」
「違う。俺は、単なる正義の味方じゃなくて――」


右手に、力が集まる。


「今だけは、今だけはイリヤの――『イリヤの味方』になってやりたいんだ」


回る。
回る。

細胞が、
頭が、
感覚が、
血液が、
神経が、
螺旋を描き、そして全身に張り巡らされた魔力回路を駆け巡る。


「――――投影(トレース)」


「――――開始(オン)」


そうだ。今なら――何でも出来るような気がした。


右手に思い描くは『勝利すべき黄金の剣』などではなくて、俺自身の願い。希望。全てを込めた星の瞬きにも似た一振り。


――――約束された勝利の剣。


投影は一瞬で完了した。
自らの存在がブレてしまうようなこともない。
俺の右手には剣のサーヴァント・セイバーの持つ最強の聖剣『エクスカリバー』が握られていた。

「ダメだッ!! 止めるんだシロウ君!!!」

ヴァッシュさんが大声で俺を制止しながら銃を構えたが、俺にはこの捉え所のない感情を吐き出すことしか出来なかった。


「藤乃静留ッ!!!!!! 俺は……俺は!! イリヤのために――お前を討つ!!!」
「そうやで衛宮はん! さっきの無茶苦茶な論理よか、よっぽど分かりやすいわぁ! 
 なんや、さっきよりずっと男らしい目付きになっとるやないか!」


藤乃静留が手に持った薙刀を翳し、こちらに向けて蛇のように打ち出した。
そして、それと全く同じタイミングで足元に控えていた六頭の蛇が俺を食い殺そうとその首を同時に伸ばす。
だが、それが――なんだと言うのだ。


「俺は――負けられない」


イリヤのために。イリヤの敵を討つために。


「――約束された」


剣を高く、上段へと構える。
そして何も考えず振り下ろす。ただ――無心に。
心の底からの感情と共に。


「勝利の――――」


全てを、消し去る。










その時。


タンッ、タンッ、と短く、そして小さな音が二つ、響いた。


空気がまるで何か背後から迫ってくる悪鬼に引寄せられているような感覚を覚えた。
そうだ、闇だ。闇が一瞬で世界を覆い尽したのだ。

それにしても、どういうことだ? 声が……出せない?

どれだけ腹の底から声を絞り出そうとしても、唇から漏れるのは間抜けな風の吹くような音だけ。
背中が熱い。まるで火傷でも負ってしまったみたいだ。

どうなってしまったんだろう。
俺はただ、ずっと、イリヤの味方でいてやりたいって思っただけなのに。


一秒の間を置いてカラン、という乾いた金属と金属がぶつかり合う音が漆黒の空に木霊する。
何かが俺の右手から滑り落ちたようだった。

身体が地面へと吸い込まれていく。
擦れていく視界の片隅に、黒いコートを羽織った銀髪の男が右手に拳銃を構えている姿が映った。
男はまるで氷のような冷たい視線で俺を見下ろしている。
殺意が、侵蝕する。


ドン、という物騒な音と共に冷え切ったアスファルトの大地が俺を手荒く迎えてくれた。
衝撃に意識を朦朧とさせながら、俺はゆっくりと顔を上げる。
そこに見えたのは――巨大な蛇。大口を開けて俺を飲み込もうとしている紫色の大蛇だった。
対処する方法は……ない。そもそも投影した武器を扱う手が足りない。右手は弾丸で撃ちぬかれているし左手はずっと、さっきから使用中だ。

ああ、そうさ。
俺は今――少しだけ冷たくなった『大切な人』の身体を抱き締めるので精一杯だ。
もう、絶対に離したりなんかしない。


「イ…………リ、ヤ……」


黒と紫。二匹の『蛇』に俺は噛み殺される。





【衛宮士郎@Fate/stay night 死亡】
【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/stay night 死亡】




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236:やろうぜ、バトルロワイアル!(後編) ラッド・ルッソ 236:PRINCESS WALTZ of 『Valkyrja』 (後編)
236:やろうぜ、バトルロワイアル!(後編) 衛宮士郎
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