BACCANO -前哨編- ◆Wf0eUCE.vg
■映画館に行こう
――――約2時間前。
「それで、プ、まずは、プ、どこを目指すんですか、ププ、ギルガメッシュさん?」
とんがらがったツンツン頭が笑いを堪えながら、ネコミミ男にそう聞いた。
それに気づいてないのか気にしてないのか、ネコミミ男は毅然とした態度でその問いに答える。
とんがらがったツンツン頭が笑いを堪えながら、ネコミミ男にそう聞いた。
それに気づいてないのか気にしてないのか、ネコミミ男は毅然とした態度でその問いに答える。
「ここにある施設は三種類ある。
最初からあった物、最初からあった物に手を加えた物。そして、新しく創り上げた物だ。
まあ、ロージェノムの設定した重要度は後者から順といったところだろうよ」
最初からあった物、最初からあった物に手を加えた物。そして、新しく創り上げた物だ。
まあ、ロージェノムの設定した重要度は後者から順といったところだろうよ」
「せやったら、プププ、その三番目の施設を目指す理由わね、プ、当たりはついてはりますん? プププハハハ」
同じく、蛇のような女が笑いを堪えながら、いや、もう堪えてないが、その先を促す。
それに気づいてないのか気にしてないのか、ネコミミ男は変わらず毅然とした態度でその問いに答える。
同じく、蛇のような女が笑いを堪えながら、いや、もう堪えてないが、その先を促す。
それに気づいてないのか気にしてないのか、ネコミミ男は変わらず毅然とした態度でその問いに答える。
「病院は先も述べた通り、それだけで人の集まる施設だ。そこに重要施設をおくことはないだろう。
そして、学校は南にもあるが、そこは既に我が視察している。
そこは博物館のように全体を創り上げたものではなく、一部に手を加えたものだった。恐らく北の物も同じだろう。
となると行くべき施設は一つしかない。
つまり――――――」
そして、学校は南にもあるが、そこは既に我が視察している。
そこは博物館のように全体を創り上げたものではなく、一部に手を加えたものだった。恐らく北の物も同じだろう。
となると行くべき施設は一つしかない。
つまり――――――」
――――約1時間半前。
絶望しか置いてなかった船を後にしたあたしは、ぶらぶらと宛てもなく歩き続けていた。
目的は特にない。
目的地も特にない。
目的地も特にない。
あの二人の言うとおりにするのも癪だし。
かといって一箇所でジッとしとくのも性にあわない。
別に、このリボンの呪いにビビってるわけじゃないじゃないんだからね!
かといって一箇所でジッとしとくのも性にあわない。
別に、このリボンの呪いにビビってるわけじゃないじゃないんだからね!
適当に歩いてるわけだけど、たぶん中心の方に向かってると思う。
この先には何があったっけ?
この先には何があったっけ?
たしか――――――
――――約20分前。
刑務所にたどり着いた明智健吾は携帯電話を見下ろした。
今、液晶に表示されるラッド・ルッソの光点が映画館と重なっている。
まだ東方不敗到着まで多少の余裕はある。
異変に気付いたラッドが即時離脱してくれれば問題はないのだが、
しばらく経っても、ラッド・ルッソの反応は映画館から動く気配がない。
今、液晶に表示されるラッド・ルッソの光点が映画館と重なっている。
まだ東方不敗到着まで多少の余裕はある。
異変に気付いたラッドが即時離脱してくれれば問題はないのだが、
しばらく経っても、ラッド・ルッソの反応は映画館から動く気配がない。
このままではまずい。
東方不敗と映画館で鉢合わせになってしまう。
東方不敗と映画館で鉢合わせになってしまう。
それに気付いた明智は適当な理由をつけ、一人刑務所の外に出た。
そして、早急な脱出を促すために携帯電話を操作し液晶に短縮ダイヤルを表示する。
表示する短縮ダイヤルはもちろん――――
表示する短縮ダイヤルはもちろん――――
――――現在。
「ここだな」
映画館にたどり着いた東方不敗はその建物を見上げてそう呟いた。
その肩にはマスタークロスによってグルグル巻きにされた衛宮士郎が背負われている。
その肩にはマスタークロスによってグルグル巻きにされた衛宮士郎が背負われている。
「んー! んん!!!」
東方不敗の足が入り口へと差し掛かり、体をバタつかせ士郎が抵抗を強める。
だが、皮肉にもその反応を見て、東方不敗はここに士郎の仲間がいるという確信を強めた。
東方不敗の足が入り口へと差し掛かり、体をバタつかせ士郎が抵抗を強める。
だが、皮肉にもその反応を見て、東方不敗はここに士郎の仲間がいるという確信を強めた。
「中で暴れられては面倒だ。少々眠っておれ」
言って。士郎の鳩尾に一撃。
一瞬で士郎の目の前は黒に染まり、その意識は刈り取られた。
グタリと動かなくなった士郎をチケット代わりに、東方不敗は悠々とエントランスを通過する。
エントランスを抜け、開けたロビーを見渡しそこに人の気配がないのを感じ取ると東方不敗は劇場へと繋がる扉に手をかけた。
ゆっくりと音もなく客席へと繋がる観音開きの防音扉が開かれる。
言って。士郎の鳩尾に一撃。
一瞬で士郎の目の前は黒に染まり、その意識は刈り取られた。
グタリと動かなくなった士郎をチケット代わりに、東方不敗は悠々とエントランスを通過する。
エントランスを抜け、開けたロビーを見渡しそこに人の気配がないのを感じ取ると東方不敗は劇場へと繋がる扉に手をかけた。
ゆっくりと音もなく客席へと繋がる観音開きの防音扉が開かれる。
「よう爺さん。一人寂しく映画かい?
ひょっとしてアンタ、友達いねぇんじゃねえのぉ?」
ひょっとしてアンタ、友達いねぇんじゃねえのぉ?」
人々の夢と希望を映し出すスクリーンの前に立っていたのは、そのスクリーンから飛び出してきたのではないかと思えるほど、お目出度い服を着た男だった。
淡い暗闇に包まれた舞台の中、その白い服は驚く程の存在感を放っていた。
淡い暗闇に包まれた舞台の中、その白い服は驚く程の存在感を放っていた。
「…………貴様は」
その男を見て東方不敗は訝しげに眉をひそめる。
それを気にせず、白服の男は僅かに高い舞台から客席に飛び降り入り口に佇む東方不敗に向かって笑いかけた。
それを気にせず、白服の男は僅かに高い舞台から客席に飛び降り入り口に佇む東方不敗に向かって笑いかけた。
「それならよ、俺ともっと楽しい事して遊ぼうぜ」
■警察官、殺人鬼を喜ばす
以下、とある電話の通話内容。
『はいはぁい、もしもし?』
「ルッソ氏。明智です」
『おう、なんだアケチ、生きてたのか。
気配一つなかったんで、俺はってっきり全滅したと思って死体探してたんだけど、見つからねぇ訳だ。
で、何があったのよ? 誰かに襲われたか?』
気配一つなかったんで、俺はってっきり全滅したと思って死体探してたんだけど、見つからねぇ訳だ。
で、何があったのよ? 誰かに襲われたか?』
「いえ。まだ襲われてはいません。
ですがレーダーにより襲撃者の接近を確認したので先手を打って離れたわけです」
ですがレーダーにより襲撃者の接近を確認したので先手を打って離れたわけです」
『なるほどね。で、いまお前等は全員刑務所にいるのか? キヨマロはどうした?』
「清麿君とは道中に合流しました。
しかし……申し上げ辛いのですが衛宮君は、既にその襲撃者に殺されている可能性が高いです」
しかし……申し上げ辛いのですが衛宮君は、既にその襲撃者に殺されている可能性が高いです」
『……エミヤが? マジでか。で? どこのどいつよ、その嘗めた真似してくれた襲撃者ってのは?』
「それは、その襲撃者の名は、マスターアジア東方不敗です」
『は…………………………フヘへ』
「ルッソ氏?」
『そうかそうか。あの爺さんがここに来るか。なるほどなるほど』
「ええ。ですので当初の予定通り、早急に、」
『つまり。それを俺に知らせたってことは、殺せって事だよな?』
「…………は?」
『OKOK しっかりとその期待に応えてみせるぜ!
心配すんな、エミヤの仇もきちーんと取ってやるからよ』
心配すんな、エミヤの仇もきちーんと取ってやるからよ』
「待ってくださいルッソ氏、早急に退却を!」
『じゃあな。愛してるぜぇ。アケチさんよぉ!』
「ルッソ氏!? ラッド・ルッソ…………!」
ブチ。
ツー、ツー。
■人質、見捨てられる
「あれ? つーか。エミヤ生きてんじゃん」
東方不敗が抱えているのが何であるかに気付き、ラッドは思わずそう漏らした。
意識こそないようだが、僅かながら肩が動き、呼吸をしているのが見て取れる。
意識こそないようだが、僅かながら肩が動き、呼吸をしているのが見て取れる。
「ふん。よもや、この小僧の仲間が貴様だったとはな」
「はい、そうですよ。俺がそのエミヤくんのお仲間ですよぉ」
「はい、そうですよ。俺がそのエミヤくんのお仲間ですよぉ」
挑発的な笑みを浮かべたまま、ラッドは足を進ませる。
そのままツカツカと足音を響かせながら、段差のユルい階段を登る。
そのままツカツカと足音を響かせながら、段差のユルい階段を登る。
「この小僧の仲間とやらは貴様だけではあるまい。他の奴等はどうした?」
「さぁ? 小便にでもいってんじゃねぇのぉ?」
「さぁ? 小便にでもいってんじゃねぇのぉ?」
あくまでも挑発的な姿勢のまま、足を止める気配のないラッドの態度に東方不敗は豪を煮やした。
簀巻きになった士郎の首を片手で掴みあげ、見せつけるようにその首を締める。
簀巻きになった士郎の首を片手で掴みあげ、見せつけるようにその首を締める。
「状況がわからぬと見えるな。
貴様とて、仲間の命は惜しかろう」
ミシリと、音を立てて東方不敗の指が喉に食い込んでゆく。
それを見て何かに気付いたラッドは一つ頷く。
貴様とて、仲間の命は惜しかろう」
ミシリと、音を立てて東方不敗の指が喉に食い込んでゆく。
それを見て何かに気付いたラッドは一つ頷く。
「あー。なるほど、人質って訳ね。それでエミヤは生きてたわけだ納得納得」
そして、あーと唸りながら頭を掻いて、二秒ほど悩み。
そして、あーと唸りながら頭を掻いて、二秒ほど悩み。
「すまん、エミヤ。見捨てるわお前の事」
そう言うが早いか、ラッドは東方不敗めがけ懐から取り出したニードルガンを乱射した。
空気を抜くような音を立てて、銃口から鋭い針が三つ発射される。
空気を抜くような音を立てて、銃口から鋭い針が三つ発射される。
「なっ……!?」
流石の東方不敗も、これには虚をつかれた。
東方不敗とて人質が通用せぬことを想定していなかったわけじゃない。
だが、あまりにも見切りを付けるのが早すぎる。
戸惑いながらも東方不敗は音速で迫る針を、一つは躱し、一つは弾いた。
だが、片手に士郎を抱えていたのが仇となった。
三つ目までは捌ききれず、東方不敗の脇腹に針が突き刺さる。
流石の東方不敗も、これには虚をつかれた。
東方不敗とて人質が通用せぬことを想定していなかったわけじゃない。
だが、あまりにも見切りを付けるのが早すぎる。
戸惑いながらも東方不敗は音速で迫る針を、一つは躱し、一つは弾いた。
だが、片手に士郎を抱えていたのが仇となった。
三つ目までは捌ききれず、東方不敗の脇腹に針が突き刺さる。
「ぐ……っ!?」
僅かに走る鋭い痛みに眉を潜ます東方不敗。
その目に、銃口をこちらに向けながら駆けだすラッドの姿が映った。
その足を止めるべく、東方不敗は片腕に握った衛宮士郎を振りかぶり、ラッドめがけて全力で投げつけた。
弾丸の如く飛来する士郎。
僅かに走る鋭い痛みに眉を潜ます東方不敗。
その目に、銃口をこちらに向けながら駆けだすラッドの姿が映った。
その足を止めるべく、東方不敗は片腕に握った衛宮士郎を振りかぶり、ラッドめがけて全力で投げつけた。
弾丸の如く飛来する士郎。
「オラァ!」
それを、邪魔だとばかりにラッドは横殴りに靴の裏で蹴っ飛ばす。
標的を逸れた士郎の体は、そのまま固定椅子を二、三吹き飛ばしながら客席に突撃した。
ラッドがニードルガンを撃たなかったのは、単に無駄玉を撃ちたくなかったからである。
それを、邪魔だとばかりにラッドは横殴りに靴の裏で蹴っ飛ばす。
標的を逸れた士郎の体は、そのまま固定椅子を二、三吹き飛ばしながら客席に突撃した。
ラッドがニードルガンを撃たなかったのは、単に無駄玉を撃ちたくなかったからである。
「貴様、仲間をなんだと心得ておるのだ!?」
一指導者として人質に対するラッドの態度はあまりにも目に余ったのか、東方不敗は思わずそう漏らした。
彼とて己が目的がため盟友であるシャッフル同盟を裏切った過去を持つので、言えた立場ではないのだが。
一指導者として人質に対するラッドの態度はあまりにも目に余ったのか、東方不敗は思わずそう漏らした。
彼とて己が目的がため盟友であるシャッフル同盟を裏切った過去を持つので、言えた立場ではないのだが。
「あぁ? テメェこそあいつの何を知ってんだ?
エミヤだったらきっと。俺の事はいいから、この爺さんを思う存分ブッ殺してくれ、って言うと思うぜ!?
なんせアイツは俺以上にぶっ壊れてるからなぁ!」
自分勝手ないい分を叫びながら、ラッドはニードルガンを撃ちまくる。
もちろん、衛宮士郎という荷物を抱えてない今の東方不敗にそんなものは当たらない。
残像すら置き去りにする速さで身をかわし、東方不敗は自らの脇腹に刺さった針を抜きとって、ラッドに向けて投げ返した。
それを、ニードルガンを盾にして、ラッドは弾き、お返しに一発。
さらにおまけに、弾切れしたニードルガン本体を投げつけ、ラッドはナイフを取り出し東方不敗に向かって肉薄した。
エミヤだったらきっと。俺の事はいいから、この爺さんを思う存分ブッ殺してくれ、って言うと思うぜ!?
なんせアイツは俺以上にぶっ壊れてるからなぁ!」
自分勝手ないい分を叫びながら、ラッドはニードルガンを撃ちまくる。
もちろん、衛宮士郎という荷物を抱えてない今の東方不敗にそんなものは当たらない。
残像すら置き去りにする速さで身をかわし、東方不敗は自らの脇腹に刺さった針を抜きとって、ラッドに向けて投げ返した。
それを、ニードルガンを盾にして、ラッドは弾き、お返しに一発。
さらにおまけに、弾切れしたニードルガン本体を投げつけ、ラッドはナイフを取り出し東方不敗に向かって肉薄した。
ちなみに、人質をとられた場合、絶対にしてはならないことが一つある。
それは相手の要求に従うことである。
一度付け込めると知られてしまえば、際限なく何度でも付け込まれる。
ゆえに、ラッドの取った行動は最善といえるだろう。
それは相手の要求に従うことである。
一度付け込めると知られてしまえば、際限なく何度でも付け込まれる。
ゆえに、ラッドの取った行動は最善といえるだろう。
まあそれが、どこまで考えての行動だったかはラッドのみが知る所なのだが。
■正義の味方(見習い)、気がつく
「うぅ、っぅうん」
呻き声を上げながら、衛宮士郎の意識は覚醒した。
どうやらラッドに喰らった一撃が思わぬ気付けになったようだ。
そんな事は知らない士郎は、意識を刈り取られる時になかった脇腹の痛みに疑問符を浮かべるが、それはどうでもいい。
呻き声を上げながら、衛宮士郎の意識は覚醒した。
どうやらラッドに喰らった一撃が思わぬ気付けになったようだ。
そんな事は知らない士郎は、意識を刈り取られる時になかった脇腹の痛みに疑問符を浮かべるが、それはどうでもいい。
首だけを動かし辺りの光景を見渡した士郎は愕然とする。
既に映画館内に入り込まれたのだ。
意識は覚醒したものの、拘束された状況は変わらない。
なんとかその拘束を解かんともがく士郎だったが、まったく解けない。
いっそ、中で剣を投影して無理矢理脱出を図ろうかと士郎が目論んだその瞬間、士郎の目の前に白い何かがブッ飛んできた。
既に映画館内に入り込まれたのだ。
意識は覚醒したものの、拘束された状況は変わらない。
なんとかその拘束を解かんともがく士郎だったが、まったく解けない。
いっそ、中で剣を投影して無理矢理脱出を図ろうかと士郎が目論んだその瞬間、士郎の目の前に白い何かがブッ飛んできた。
「おう、エミヤ気がついたか」
飛んできた飛来物は、幾つもの固定椅子を弾き飛ばした体勢のまま、呑気に士郎に向かって挨拶をする。
飛んできた飛来物は、幾つもの固定椅子を弾き飛ばした体勢のまま、呑気に士郎に向かって挨拶をする。
「ラッド!? 他の皆はどうしたんだ!?」
「あぁ無事みたいだぜ一応。よく知らねえけど。
しかしんなことよりあの爺さんマジ化け物だな。
あぁ畜生! きっと自分が負けるとか、死ぬとか、ホントにマジに考えたこともねぇんだろうなぁ!
殺してえなぁ。死ぬ瞬間とかどんな顔すんのかなぁ? マジ気になるよな、おい!?」
「あぁ無事みたいだぜ一応。よく知らねえけど。
しかしんなことよりあの爺さんマジ化け物だな。
あぁ畜生! きっと自分が負けるとか、死ぬとか、ホントにマジに考えたこともねぇんだろうなぁ!
殺してえなぁ。死ぬ瞬間とかどんな顔すんのかなぁ? マジ気になるよな、おい!?」
そう喚きながらラッドは埃を払い立ちあがる。
戦況も衣服もボロボロな状態だったが、その表情だけは実に活き活きしていた。
戦況も衣服もボロボロな状態だったが、その表情だけは実に活き活きしていた。
「いいから、ラッド! これ、外すの手伝ってくれッ!」
「おぉ。悪ぃ悪ぃ」
今気付いたと言わんばかりの声でラッドそう謝罪すると、芋虫状態でもがく士郎の拘束を解いていった。
「おぉ。悪ぃ悪ぃ」
今気付いたと言わんばかりの声でラッドそう謝罪すると、芋虫状態でもがく士郎の拘束を解いていった。
「ほう。小僧も気がついたか」
ラッドを吹き飛ばした張本人、東方不敗は立ち上がった衛宮士郎を確認しそう呟いた。
これで状況は二対一となったが、だからといって、東方不敗の余裕は変わらない。
あくまでこの場における絶対者は己なのだと信じて疑わない表情だ。
その表情を見てラッドは口元をヒクつかせる。
ラッドを吹き飛ばした張本人、東方不敗は立ち上がった衛宮士郎を確認しそう呟いた。
これで状況は二対一となったが、だからといって、東方不敗の余裕は変わらない。
あくまでこの場における絶対者は己なのだと信じて疑わない表情だ。
その表情を見てラッドは口元をヒクつかせる。
「おいエミヤ。武器出せ武器。なんかそう言うの出せんだろ確か?
こんなチャチなナイフじゃ駄目だ。もっとズバァとあのジジイを殺せるようなスゲェ武器出してくれ」
「いや、まあ出せるけど……凄い武器、ね」
こんなチャチなナイフじゃ駄目だ。もっとズバァとあのジジイを殺せるようなスゲェ武器出してくれ」
「いや、まあ出せるけど……凄い武器、ね」
ラッドの要求に対して、士郎の脳裏に浮かぶのは一振りの剣。
だが、この剣は既に……
だが、この剣は既に……
「おい何やってんだよエミヤ。さっさと出してくれよ」
「ん、ああ。わかった」
とは言え、これ以外に強力な剣など投影できるはずも無いので、衛宮士郎はその剣を頭の中に思い浮かべる。
「ん、ああ。わかった」
とは言え、これ以外に強力な剣など投影できるはずも無いので、衛宮士郎はその剣を頭の中に思い浮かべる。
「投影開始(トレース・オン)」
投影開始の呪文を唱える。
魔術回路が迸り、右腕に灼熱を感じる。
そして、その手の内には絢爛豪華な装飾を施された剣が握られていた。
魔力不足が懸念されたが、どうやら問題なく投影は完了できたようだ。
投影開始の呪文を唱える。
魔術回路が迸り、右腕に灼熱を感じる。
そして、その手の内には絢爛豪華な装飾を施された剣が握られていた。
魔力不足が懸念されたが、どうやら問題なく投影は完了できたようだ。
「お、いいねいいねぇ。」
その剣を受け取ったラッドは、新しい玩具を手に入れはしゃぐ子供のように、ブンブンとそれを振り回す。
だが、ラッドの様子とは対象的に、その剣を見た東方不敗は呆れたように溜息を吐いた。
その剣を受け取ったラッドは、新しい玩具を手に入れはしゃぐ子供のように、ブンブンとそれを振り回す。
だが、ラッドの様子とは対象的に、その剣を見た東方不敗は呆れたように溜息を吐いた。
「またそれか。言っておくがその剣はワシには通用せんぞ」
そう。事実、その剣を手にしたDボゥイ。衛宮士郎を相手取り東方不敗は尽く勝利を収めている。
通じて三度目。
既にカリバーンでは東方不敗を倒すことは出来ないことは証明されている。
そう。事実、その剣を手にしたDボゥイ。衛宮士郎を相手取り東方不敗は尽く勝利を収めている。
通じて三度目。
既にカリバーンでは東方不敗を倒すことは出来ないことは証明されている。
「けっ、なに言ってやがんだクソジジイ。ボケたのか?
それともその歳になって、まだ人が人をなにで殺すかもしらねぇのか?」
だが、そんな東方不敗の言葉をバカにしたようにラッドは笑う。
それともその歳になって、まだ人が人をなにで殺すかもしらねぇのか?」
だが、そんな東方不敗の言葉をバカにしたようにラッドは笑う。
「人を殺すのは人の持つ凶器じゃねぇんだ。人を殺すのは人の持つ狂気さ。
つまり、アンタはこの剣じゃなく、この俺の狂気に殺されるわけだ」
つまり、アンタはこの剣じゃなく、この俺の狂気に殺されるわけだ」
そう言いながら、邪悪な狂気を秘めた殺人鬼は、穢れない聖剣をその舌で舐めずった。
■観客達はその事実に驚きを隠せない
携帯電話の電波の入りが悪い、と言って一人刑務所の外に出た明智だったが、その帰りが妙に遅い。
その様子が気になったねねねは、イリヤ達をひとまず合流した清麿に任せ、明智を探しに出た。
だが、その探し人たる明智は刑務所のすぐ外にいたためすぐ見つかったのだが、なにか難しそうな顔をして佇んでいた。
その様子が気になったねねねは、イリヤ達をひとまず合流した清麿に任せ、明智を探しに出た。
だが、その探し人たる明智は刑務所のすぐ外にいたためすぐ見つかったのだが、なにか難しそうな顔をして佇んでいた。
「どうした、明智?」
「菫川先生。いいところに、いや……いいと言えばいいのでしょうが」
それは明智健吾という男にしては珍しい、なんとも歯切れの悪い反応だった。
「菫川先生。いいところに、いや……いいと言えばいいのでしょうが」
それは明智健吾という男にしては珍しい、なんとも歯切れの悪い反応だった。
「ともかく、この反応を見てください」
「ん?」
そう言って明智は携帯電話を差し出し、その液晶をねねねに見せる。
明智が差し出した携帯電話の液晶を除きこんだねねねは驚愕の声を漏らした。
「なっ、これは!?」
「ん?」
そう言って明智は携帯電話を差し出し、その液晶をねねねに見せる。
明智が差し出した携帯電話の液晶を除きこんだねねねは驚愕の声を漏らした。
「なっ、これは!?」
そこに映っていた情報からすれば、既に東方不敗は映画館に到着してしまったようだ。
それはいい、元より知りえた情報だ。
だが、問題は逃げ遅れたのかラッド・ルッソの光点がその光点に重なっている事だ。
そして、何よりねねねを驚愕させたのは最危険人物である東方不敗のみならず、要注意人物であるギルガメッシュ。
更にはグレーゾーンにいる藤野静留、結城奈緒が映画館に向かっているという事実だった。
それはいい、元より知りえた情報だ。
だが、問題は逃げ遅れたのかラッド・ルッソの光点がその光点に重なっている事だ。
そして、何よりねねねを驚愕させたのは最危険人物である東方不敗のみならず、要注意人物であるギルガメッシュ。
更にはグレーゾーンにいる藤野静留、結城奈緒が映画館に向かっているという事実だった。
「おい、ラッドの奴は大丈夫なのか?」
その状況に慌てた反応を見せるねねねだが、明智はその反応に静かに首を振る。
「ええ、それもそうなんですが。それよりもこのを反応をよく見てください」
その状況に慌てた反応を見せるねねねだが、明智はその反応に静かに首を振る。
「ええ、それもそうなんですが。それよりもこのを反応をよく見てください」
そう言って明智が指差したのは映画館内にある三つの反応。
一つは東方不敗。
一つはラッド・ルッソ。
そして、衛宮士郎。
一つは東方不敗。
一つはラッド・ルッソ。
そして、衛宮士郎。
その三点はよく見れば微妙に動いている。
もちろん転々とラッドや東方不敗の光点と重なり合うように衛宮士郎の反応も動いていた。
それはもう。まるで生きてるみたいに。
ピクピクと、生き生きと。
もちろん転々とラッドや東方不敗の光点と重なり合うように衛宮士郎の反応も動いていた。
それはもう。まるで生きてるみたいに。
ピクピクと、生き生きと。
「………………」
「………………」
「………………」
■蜘蛛女、巻き込まれる
あたしがとぼとぼと適当に道を歩いていると、突然轟音が響いた。
何事かと思い、音源であろう映画館の方向を見つめれば。
映画館の壁をブチ破って人が吹き飛んできた。
比喩じゃない。マジで。
人形みたいにポ-ンと飛んできたその人間は、何の因果かあたしの足下に転がった。
映画館の壁をブチ破って人が吹き飛んできた。
比喩じゃない。マジで。
人形みたいにポ-ンと飛んできたその人間は、何の因果かあたしの足下に転がった。
「…………えぇっと」
足下に転がる男を見下ろすが、正直対応に困る。
ズタボロな雑巾みたいな状態だが、一応は生きてるみたいだ。
こういう場合どうするべきか。
身包み剥いじゃう?
いやいやそうじゃなくて。
助ける、ってのはないな……いや…………うん、やっぱりないな。
正直、なんかモメてる臭いので、係わり合いになりたくないというのが本音だ。
というわけで、転がる男を放置して、とっとと立ち去ろうと心に決めた。
ズタボロな雑巾みたいな状態だが、一応は生きてるみたいだ。
こういう場合どうするべきか。
身包み剥いじゃう?
いやいやそうじゃなくて。
助ける、ってのはないな……いや…………うん、やっぱりないな。
正直、なんかモメてる臭いので、係わり合いになりたくないというのが本音だ。
というわけで、転がる男を放置して、とっとと立ち去ろうと心に決めた。
踵を返そうとしたが、その瞬間、続いて第二の轟音が響く。
そして、剣を持った白服が、先ほどと同じく映画館の壁をブチ破り飛び出してきた。
落下する白服。
そして仲良く転がるズタ雑巾二人。
そして、剣を持った白服が、先ほどと同じく映画館の壁をブチ破り飛び出してきた。
落下する白服。
そして仲良く転がるズタ雑巾二人。
「クソッ。分身したり消えたり、マジ人間かあのジジイ? おい、エミヤ生きてるか?」
後から飛び出してきた白服は意外と元気に、すぐさま剣を杖代わりにして立ち上がった。
後から飛び出してきた白服は意外と元気に、すぐさま剣を杖代わりにして立ち上がった。
「ぁあ……なんとか」
最初に飛び出してきた男は呼び声に答え、生まれたばかりの子馬みたいにブルブル震えながら立ち上がる。
最初に飛び出してきた男は呼び声に答え、生まれたばかりの子馬みたいにブルブル震えながら立ち上がる。
「ほぅ。まだ二人とも立ち上がると言うのか」
そして、二人のブチ空けた穴から、襤褸雑巾みたいな二人とは対象的にピンピンとした紫色の爺さんが現れた。
現れた爺さんは残念そうな表情をして、三つ編みを揺らして首を振る。
そして、二人のブチ空けた穴から、襤褸雑巾みたいな二人とは対象的にピンピンとした紫色の爺さんが現れた。
現れた爺さんは残念そうな表情をして、三つ編みを揺らして首を振る。
「惜しい。実に惜しい。それ程の才気を持ちながらつまらん妄執に取り憑かれるとは。
だが、それもよもやここまで。
ここまで生き延びた貴様等にせめてもの手向けだ。
冥土の土産に貴様等には東方不敗が最終奥義を見せてやろう!!」
だが、それもよもやここまで。
ここまで生き延びた貴様等にせめてもの手向けだ。
冥土の土産に貴様等には東方不敗が最終奥義を見せてやろう!!」
凄まじいまでの威圧感を放ちながら、紫の爺さんは構えを取った。
全身がビリビリと痺れるような感覚。
その威圧感は金ピカやあのオッサンにも匹敵するだろう。
全身がビリビリと痺れるような感覚。
その威圧感は金ピカやあのオッサンにも匹敵するだろう。
「おいおい、聞いたかおい? 奥義だってよ?
あの爺さん、まだ隠し玉持ってやがったよ。マジムカツクな。
で? オマエはどうよ、エミヤ?」
「どうって、何がさ?」
「俺はお前等万国ビックリ人間ショーに出てるような奴等と違ってただの殺人鬼なんでね。
残念ながら手からも目からも光線もなーんもでねえ。
だからオマエはどうだエミヤ? ビックリ人間の端くれとしてなんか必殺技とか、自爆技とかそういうのねぇのか?」
白服の無茶振りに対して、ボロボロの男はなにやら思案し。
「いや、ある事はある。
まだ一つだけ、試してない事があった。
よし、ラッド。アイツの奥義ってのはオレがなんとかするから、その隙にあの爺さんをなんとかしてくれ」
「よしOK それでいこう」
あの爺さん、まだ隠し玉持ってやがったよ。マジムカツクな。
で? オマエはどうよ、エミヤ?」
「どうって、何がさ?」
「俺はお前等万国ビックリ人間ショーに出てるような奴等と違ってただの殺人鬼なんでね。
残念ながら手からも目からも光線もなーんもでねえ。
だからオマエはどうだエミヤ? ビックリ人間の端くれとしてなんか必殺技とか、自爆技とかそういうのねぇのか?」
白服の無茶振りに対して、ボロボロの男はなにやら思案し。
「いや、ある事はある。
まだ一つだけ、試してない事があった。
よし、ラッド。アイツの奥義ってのはオレがなんとかするから、その隙にあの爺さんをなんとかしてくれ」
「よしOK それでいこう」
なんとかだらけの、適当なんだか、熱いんだがよく分からないやり取りを交わす二人。
見た目以上に元気そうなんで、そろそろあたしは立ち去ってもいいんじゃないか?
見た目以上に元気そうなんで、そろそろあたしは立ち去ってもいいんじゃないか?
「さぁ。話は終わったか?
では我が流派の奥義をとくと見よ! そして三人まとめて消し飛ぶがいい!」
では我が流派の奥義をとくと見よ! そして三人まとめて消し飛ぶがいい!」
え、なに? 三人って、それあたしも!?
■衝突
「流派東方不敗が最終奥義ッ!!」
東方不敗を中心に、森羅万象あらゆるエネルギーが脈動する。
それはまるで、流れ行く自然の力全てが東方不敗の右腕に集約されてゆくかのようだ。
それはまるで、流れ行く自然の力全てが東方不敗の右腕に集約されてゆくかのようだ。
「石破天驚拳!!!」
叫びと共に、突き出された右腕から、巨大な気が放たれる。
中心に浮かぶ驚の文字。
放たれたその気功弾はまるで人の腕のよう。
それはまさに圧倒的な暴力の化身。
全てを消し去る悪魔の腕だ。
中心に浮かぶ驚の文字。
放たれたその気功弾はまるで人の腕のよう。
それはまさに圧倒的な暴力の化身。
全てを消し去る悪魔の腕だ。
その逃げ場のない凶悪なまでの暴力。
それを前に、一歩踏み出た衛宮士郎は、迫り来る腕に比べればあまりにもか細い片腕を突き出す。
それを前に、一歩踏み出た衛宮士郎は、迫り来る腕に比べればあまりにもか細い片腕を突き出す。
「――――投影開始(トレース・オン)」
投影開始の呪文を口にした次の瞬間。
それは、あらゆる工程を省いて完成していた。
それは、あらゆる工程を省いて完成していた。
衛宮士郎の手の内には失われたエクスカリバーの鞘が握られていた。
この鞘の投影だけに限っては、一から作る必要などない。
なぜならこの鞘は衛宮士郎と年月を共にし、長年衛宮士郎を守り続けた半身故。
この鞘の投影だけに限っては、一から作る必要などない。
なぜならこの鞘は衛宮士郎と年月を共にし、長年衛宮士郎を守り続けた半身故。
「全て遠き理想郷(アヴァロン)――――!!」
真名と共に、完成した彼女の鞘が展開される。
それはこの世界における究極の守り。
全てを護るという、彼女の夢見た理想郷。
その瞬間この身はこの世の理から隔離される。
それは守りなどと言うレベルではない、完全なる物理干渉の遮断である。
それはこの世界における究極の守り。
全てを護るという、彼女の夢見た理想郷。
その瞬間この身はこの世の理から隔離される。
それは守りなどと言うレベルではない、完全なる物理干渉の遮断である。
そして衝突。
天すら驚く一撃が、展開された結界にぶち当たった。
閃光と轟音。
同時に、全てを破壊するはずの悪魔の拳が四散する。
そして、次の瞬間、同じく展開された理想郷が砕け散った。
閃光と轟音。
同時に、全てを破壊するはずの悪魔の拳が四散する。
そして、次の瞬間、同じく展開された理想郷が砕け散った。
砕かれたのではない。
この程度の衝撃で彼女の夢見た理想郷が壊れるはずがない。
これは単純に衛宮士郎がこの理想郷を維持出来なかっただけの話。
だが、十分だ、役目は果たした。
この程度の衝撃で彼女の夢見た理想郷が壊れるはずがない。
これは単純に衛宮士郎がこの理想郷を維持出来なかっただけの話。
だが、十分だ、役目は果たした。
衛宮士郎は、殺しきることの出来なかった衝撃の余波に吹き飛ばされながら。
まだ色濃く残る破壊の渦に、何の躊躇いもなく突っ込んでゆく、白い背中を見送っていた。
まだ色濃く残る破壊の渦に、何の躊躇いもなく突っ込んでゆく、白い背中を見送っていた。
■三度目の、+1
「なっ、バカな!?」
その光景を見た東方不敗の目が見開かれる。
それも当然である。
放ったのは流派東方不敗最強にして最終奥義。
ドモンや衝撃のアルベルトが相手だったのならばその事態に納得は出来ずとも理解はできよう。
だが、相手は二人掛かりでこちらに手も足も出なかった未熟者達である。
この奥義、石破天驚拳はそのような未熟者を百度殺しても余りある奥義中の奥義である。
それも当然である。
放ったのは流派東方不敗最強にして最終奥義。
ドモンや衝撃のアルベルトが相手だったのならばその事態に納得は出来ずとも理解はできよう。
だが、相手は二人掛かりでこちらに手も足も出なかった未熟者達である。
この奥義、石破天驚拳はそのような未熟者を百度殺しても余りある奥義中の奥義である。
それ程の一撃が、よもや防がれるなど誰が思おう。
驚愕に生まれる一瞬の虚。
その隙を、この男が見逃すはずがない。
その隙を、この男が見逃すはずがない。
「ヒャッハー!!」
奇声と共に、白い閃光の中から飛び出たのは白服の男。
飛び出したラッド・ルッソはそのまま東方不敗の肩口に刃を押し当て、袈裟に振りぬく。
舞う鮮血。
Dボゥイ、衛宮士郎が成し遂げられなかったカリバーンによる斬撃。
それを三度目にしてこの男、ラッド・ルッソが成し遂げた。
振り下ろされる聖剣の勢いに、東方不敗の体が後方に仰け反った。
奇声と共に、白い閃光の中から飛び出たのは白服の男。
飛び出したラッド・ルッソはそのまま東方不敗の肩口に刃を押し当て、袈裟に振りぬく。
舞う鮮血。
Dボゥイ、衛宮士郎が成し遂げられなかったカリバーンによる斬撃。
それを三度目にしてこの男、ラッド・ルッソが成し遂げた。
振り下ろされる聖剣の勢いに、東方不敗の体が後方に仰け反った。
「甘ぁいわぁぁぁあああ!」
だが、浅い。
東方不敗はダメージに仰け反ったのではない。
自ら身を仰け反らせ、その斬撃のダメージを最小に抑えたのだ。
事実。その一撃は皮と肉を裂いたものの、骨までは届いていない。
絶好のチャンスをふいにしたラッドであるが、褒め称えるべきはあの瞬間に咄嗟に身を引いた東方不敗の技量だろう。
自ら身を仰け反らせ、その斬撃のダメージを最小に抑えたのだ。
事実。その一撃は皮と肉を裂いたものの、骨までは届いていない。
絶好のチャンスをふいにしたラッドであるが、褒め称えるべきはあの瞬間に咄嗟に身を引いた東方不敗の技量だろう。
体勢を立て直した東方不敗は、振り下ろされた聖剣を右足で踏みつけラッド動きを封じると、そのまま刃の上でクルリと回り、左足でラッドの体を吹き飛ばした。
ボキリという鈍い音が響き、まともにその一撃を喰らったラッドの体が宙を舞う。
そして、その体が地面に叩き付けられると同時に、軸足に踏みつけられたカリバーンは根元から叩き折れ強度を失った幻想が四散する。
叩き付けられたラッドの体がピクリとも動かなくなったのを見届けて、東方不敗は息をついた。
そして、最も厄介だった男は仕留めた事に、この場における勝利を確信した。
残るは満身創痍の小僧と通りすがりの小娘一人。
どうやって石破天驚拳を防いだのかという疑問は尽きないが、どう考えても東方不敗が敗北するなど想像できない事態である。
ボキリという鈍い音が響き、まともにその一撃を喰らったラッドの体が宙を舞う。
そして、その体が地面に叩き付けられると同時に、軸足に踏みつけられたカリバーンは根元から叩き折れ強度を失った幻想が四散する。
叩き付けられたラッドの体がピクリとも動かなくなったのを見届けて、東方不敗は息をついた。
そして、最も厄介だった男は仕留めた事に、この場における勝利を確信した。
残るは満身創痍の小僧と通りすがりの小娘一人。
どうやって石破天驚拳を防いだのかという疑問は尽きないが、どう考えても東方不敗が敗北するなど想像できない事態である。
だが、破壊の煙が晴れた視線の先に東方不敗は見た。
緑色の光を放ちながら弓を構える少年の姿を。
緑色の光を放ちながら弓を構える少年の姿を。
それが、Dボゥイやドモンが放っていた光と同種の物だと気付き、これは拙いと悟った。
■贋作者、贋作を創る
「ぐは…………っ!」
吹き飛ばされ地面に叩き付けられた士郎はその衝撃に息を吐いた。
吹き飛ばされ地面に叩き付けられた士郎はその衝撃に息を吐いた。
全身に打ち付けられたダメージはいよいよ限界を超えようとしている。
意識が霞む。
魔力は完全に枯渇し。
所々細かく骨が折れている。
筋肉に溜まった疲労は困憊している。
完璧なまでの満身創痍だ。
だが、まだだ。
意識が霞む。
魔力は完全に枯渇し。
所々細かく骨が折れている。
筋肉に溜まった疲労は困憊している。
完璧なまでの満身創痍だ。
だが、まだだ。
奴は言った。衛宮士郎の仲間を殺すと。
奴は言った。ここにいるすべての人間を殺すと。
だから立たなきゃ。
目の前には立ち塞がる巨大な悪がいる。
衛宮士郎が、本当に『正義の味方』を目指すのなら。
なにがあっても、悪い奴に負けてなどいられない。
奴は言った。ここにいるすべての人間を殺すと。
だから立たなきゃ。
目の前には立ち塞がる巨大な悪がいる。
衛宮士郎が、本当に『正義の味方』を目指すのなら。
なにがあっても、悪い奴に負けてなどいられない。
勝利すべき黄金の剣と全て遠き理想郷の投影により、既に魔力は枯渇している。
だが、それがどうした。
遠坂は言っていた。
魔術師を動かすエンジンは壊れる事を厭わなければ限界を超えられると。
だったら回せ。
脳が焼き切れても。
心臓が破裂しても。
そのエンジンを回し続けろ。
魔力が足りなければ、命でもなんでも、他から補えばいいだけの話だ。
何より、ここで命を懸けずして、いったいどこで懸けると言うのか?
だが、それがどうした。
遠坂は言っていた。
魔術師を動かすエンジンは壊れる事を厭わなければ限界を超えられると。
だったら回せ。
脳が焼き切れても。
心臓が破裂しても。
そのエンジンを回し続けろ。
魔力が足りなければ、命でもなんでも、他から補えばいいだけの話だ。
何より、ここで命を懸けずして、いったいどこで懸けると言うのか?
「投影開始(トレース・オン)」
投影開始の呪文を唱えると、カチリと、頭の中で撃鉄が落ちた。
意識は魔術師のそれに切り替わり、思考は円還状に速度を増してゆく。
脳が沸点を越え思考が過熱する。マグマと化した血液が全身を巡る。
そんな血液を巡らせるように、魔術回路と化した神経に魔力を流し込んでいく。
限界を超える魔力を流し込まれた魔術回路が火花を散らし軋みをあげた。
意識は魔術師のそれに切り替わり、思考は円還状に速度を増してゆく。
脳が沸点を越え思考が過熱する。マグマと化した血液が全身を巡る。
そんな血液を巡らせるように、魔術回路と化した神経に魔力を流し込んでいく。
限界を超える魔力を流し込まれた魔術回路が火花を散らし軋みをあげた。
ラッドはきっと攻撃を成功させる。
だがきっと、それじゃ足りない。
後一押しが必要だ。
何故なら奴の言う通り、奴に『勝利すべき黄金の剣(カリバーン)』は通用しない。
だが、エクスカリバーなど投影しようものならば、それこそ魔力不足で放つ前に自滅してしまう。
ならば、あの剣こそ、今の衛宮士郎に投影できる最高の剣である事に違いない。
そこに疑う予知はないだろう。
問題は形だ。
アレはいわば長年の努力と経験の積み重ねにより、一切の無駄を削ぎ落とした完璧な岩だ。
それを砕くのならば、剣じゃ駄目だ。
研ぎ澄まされた剣ではこちらが折れてしまう。
もっと荒々しく全てを砕くような粗暴な形がいい。
ならば、ドリルだ。
抉るようなドリルだ。
あの岩を穿つなら、形状は天を突くような螺旋がいい。
だがきっと、それじゃ足りない。
後一押しが必要だ。
何故なら奴の言う通り、奴に『勝利すべき黄金の剣(カリバーン)』は通用しない。
だが、エクスカリバーなど投影しようものならば、それこそ魔力不足で放つ前に自滅してしまう。
ならば、あの剣こそ、今の衛宮士郎に投影できる最高の剣である事に違いない。
そこに疑う予知はないだろう。
問題は形だ。
アレはいわば長年の努力と経験の積み重ねにより、一切の無駄を削ぎ落とした完璧な岩だ。
それを砕くのならば、剣じゃ駄目だ。
研ぎ澄まされた剣ではこちらが折れてしまう。
もっと荒々しく全てを砕くような粗暴な形がいい。
ならば、ドリルだ。
抉るようなドリルだ。
あの岩を穿つなら、形状は天を突くような螺旋がいい。
「―――――I am the bone of my sword(我が骨子は捻れ狂う)」
現実では敵わない相手ならば、想像の中で勝て。
自身が勝てないのなら、勝てるモノを幻想しろ。
どこぞの弓兵の言葉。
そうだ、投影するのは最高の剣。
誰をも騙し、自分さえ騙しうる、最強の模造品だ。
想定する基本骨子に頭の中で手を加える。
垂直であった刀身を螺旋状に捏造する。
本当にこの世に存在しない紛い物を偽造する。
現実を蹂躙するその行為だが、難しい筈はない。不可能な事でもない。
なぜならこの身は、それだけに特化した魔術回路――――!
自身が勝てないのなら、勝てるモノを幻想しろ。
どこぞの弓兵の言葉。
そうだ、投影するのは最高の剣。
誰をも騙し、自分さえ騙しうる、最強の模造品だ。
想定する基本骨子に頭の中で手を加える。
垂直であった刀身を螺旋状に捏造する。
本当にこの世に存在しない紛い物を偽造する。
現実を蹂躙するその行為だが、難しい筈はない。不可能な事でもない。
なぜならこの身は、それだけに特化した魔術回路――――!
「――――アァアアアアアアァア」
精神を弓のように引き絞る。
全身は発火したように熱く、左手はそれこそ紅蓮。
挑むべきは自分自身。ただ一つの狂いも妥協も許されない。
創造の理念を鑑定し、基本となる骨子を模造し、
構成された材質を複製し、制作に及ぶ技術を模倣し、
成長に至る経験に共感し、蓄積された年月を再現し、
あらゆる工程を凌駕し尽くし、ここに、幻想を結び剣と成す。
全身は発火したように熱く、左手はそれこそ紅蓮。
挑むべきは自分自身。ただ一つの狂いも妥協も許されない。
創造の理念を鑑定し、基本となる骨子を模造し、
構成された材質を複製し、制作に及ぶ技術を模倣し、
成長に至る経験に共感し、蓄積された年月を再現し、
あらゆる工程を凌駕し尽くし、ここに、幻想を結び剣と成す。
そして、痺れるような痛みと共に、左手には螺旋状に捻れたカリバーンが握られていた。
―――足踏み、胴造り、弓構え。
射法八節に従い射位で的に向かって両足を踏み開き、弓を正面に据える。
そして投影した弓を構える。
そして投影した弓を構える。
―――打起し、引分け、会。
その弓に投影した矢を引き絞り狙いを定める。
例えそれが剣だったとしても、矢として使われるのならそれは矢だ。
例えそれが剣だったとしても、矢として使われるのならそれは矢だ。
―――離れ。
限界まで引き絞った弓から手を離す。
矢は放たれ捻れるような螺旋を描きながら標的へと向かって行く。
矢は放たれ捻れるような螺旋を描きながら標的へと向かって行く。
そして―――残心。
【衛宮士郎@Fate/stay night 螺旋力覚醒】
■衝突、その2
淡い緑色の光と共に、放たれる奇妙な矢。
それを見た東方不敗は慌てたものの、すぐさま落ち着きを取り戻す。
そうだ、この矢がどれ程の物であろうとも、Dボゥイの時と同じく当たらなければどうという事はないのだから。
どれほど弓矢が速かろうとも、このタイミングなら回避には十分間に合う。
そう思い、その場から跳び離れようとした東方不敗の動きがピタリと止まった。
いや、止められた。
そうだ、この矢がどれ程の物であろうとも、Dボゥイの時と同じく当たらなければどうという事はないのだから。
どれほど弓矢が速かろうとも、このタイミングなら回避には十分間に合う。
そう思い、その場から跳び離れようとした東方不敗の動きがピタリと止まった。
いや、止められた。
それは糸。
張り巡らされた結城奈緒の糸である。
そんな事をした理由は、単にいきなり狙われてむかついたから。
彼女はやられっぱなしで終わる女ではなかった、ただそれだけの事。
張り巡らされた結城奈緒の糸である。
そんな事をした理由は、単にいきなり狙われてむかついたから。
彼女はやられっぱなしで終わる女ではなかった、ただそれだけの事。
だが、ハッキリ言って東方不敗相手にこのようなか細い糸など意味がない。
すぐさま鋭い手刀で断ち切られ、精々1,2秒足止めするのが関の山だろう。
だが、今回に至ってはその1秒が決定的な隙となった。
矢は既に放たれている。1秒後には既にこの場にたどり着いているだろう。
すぐさま鋭い手刀で断ち切られ、精々1,2秒足止めするのが関の山だろう。
だが、今回に至ってはその1秒が決定的な隙となった。
矢は既に放たれている。1秒後には既にこの場にたどり着いているだろう。
当たらなければどうという事はない攻撃。
だが、逆を言えば当たれば非常に、拙い。
だが、逆を言えば当たれば非常に、拙い。
糸を断ち切った東方不敗は、それを躱せぬと判断し、その場で両腕を構えた。
白刃取りで受ける思惑なのだろう。
だが、それこそ愚作である。
放たれる矢は螺旋状。
加えて凄まじいまでの勢いで回転しているとなれば、白刃取りを行ったところで腕ごと抉られる。
白刃取りで受ける思惑なのだろう。
だが、それこそ愚作である。
放たれる矢は螺旋状。
加えて凄まじいまでの勢いで回転しているとなれば、白刃取りを行ったところで腕ごと抉られる。
だが、そんな事実は知らぬと、東方不敗は迫り来る矢を包むように両腕を合わせ。
その掌が矢に触れた瞬間。
その掌が矢に触れた瞬間。
それに合わせて、東方不敗自身の体もドリルのように回転した。
顔面と足先を軸として、凄まじい勢いで独楽のように回る東方不敗。
ドリルが回転しているのならば、自身も同じく回転すれば、それは止まっているも同じという、頭のタガが外れたとしか思えぬ発想と行動である。
だが、それを可能とする技量と身体能力が、この東方不敗マスターアジアには存在した。
ドリルが回転しているのならば、自身も同じく回転すれば、それは止まっているも同じという、頭のタガが外れたとしか思えぬ発想と行動である。
だが、それを可能とする技量と身体能力が、この東方不敗マスターアジアには存在した。
東方不敗は回転を続ける矢を受けながら、己が身と共に徐々にその勢いを緩めてゆく。
そして、ついに二つの螺旋は停止した。
「チェリャァ!!」
気合一閃。
掛け声と共に回転の止んだ剣を握り潰す。
そして、ついに二つの螺旋は停止した。
「チェリャァ!!」
気合一閃。
掛け声と共に回転の止んだ剣を握り潰す。
それで、この勝負は決着した。
ラッド・ルッソの狂気を込めた一撃も。
衛宮士郎の命を懸けた一撃も。
東方不敗は己が技量一つでその全てを凌駕した。
衛宮士郎の命を懸けた一撃も。
東方不敗は己が技量一つでその全てを凌駕した。
戦況は決した。
ラッド・ルッソは倒れ。
衛宮士郎に戦う力は残っていない。加えて、無茶な投影の代償か、左半身が麻痺してうまく動かない。
元から関係ない結城奈緒に至ってはトンズラする気マンマンだ。
衛宮士郎に戦う力は残っていない。加えて、無茶な投影の代償か、左半身が麻痺してうまく動かない。
元から関係ない結城奈緒に至ってはトンズラする気マンマンだ。
絶対に覆りようのない戦況だった。
「ほぅ。何事かと思えば、雑種同士で殺し合いか。精が出るな」
だが、そこに割り込んだ声によって、この戦況は更に覆ることになる。
夜に響く絶対者の声。
その声に、覚えがあるのが二人。
その一人。
衛宮士郎は最悪の状況で現れたその声に、言い様のない絶望を覚え。
もう一人。
結城奈緒は最悪の状況に現れたその声に、言い様のない感情を覚えた。
その声に、覚えがあるのが二人。
その一人。
衛宮士郎は最悪の状況で現れたその声に、言い様のない絶望を覚え。
もう一人。
結城奈緒は最悪の状況に現れたその声に、言い様のない感情を覚えた。
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225:エミヤ | 衛宮士郎 | 231:BACCANO -集合編- |
225:エミヤ | 東方不敗 | 231:BACCANO -集合編- |
226:root(後編) | ラッド・ルッソ | 231:BACCANO -集合編- |
228:刻無―キズナ―(後編) | 菫川ねねね | 231:BACCANO -集合編- |
228:刻無―キズナ―(後編) | 明智健悟 | 231:BACCANO -集合編- |
224:希望の船?絶望の城?(前編) | 結城奈緒 | 231:BACCANO -集合編- |
219:Omegaの視界 未解封のハコニハ | ギルガメッシュ | 231:BACCANO -集合編- |