刻無―キズナ―(前編)◆wYjszMXgAo



「……動き出しましたか。さて、ここからが勝負どころですね」
「……そうだね。じゃあ、私達の手番という訳か」

――――明智健悟と菫川ねねねは、映画館のロビーで向かい合いながら意見を交換していく。
目の前に広がる数多の道具。
その中でも、明智達が特に注視しているのは携帯電話だった。
8×8の盤上で動き回る無数の駒たちは、各々の動き方に従いそれぞれの役割を果たしていく。
そして、今彼が最も重要視する駒が、とうとう動き出したのだ。
それも、こちらに向かって。

……高嶺清麿。
全ては彼と接触してからだ。
螺旋王の掌で踊っているのが分かっていても、まずは動かなければ話にならない。
彼のプロフィールはほぼ把握している。
必ず、こちらの力になってくれるだろう。

「……ラッドが単独行動をし始めた時は交渉が決裂したかと思ったけどね」

どうやらそれはねねねの杞憂だったようだ。
おそらく、その原因は傍らにいる少女だろう。
小早川ゆたか。プロフィールを見ても、紛う事なき一般人だ。
危険人物と目される相羽シンヤと同行していたのが気になる点だが、
人質などには持って来いとでも言わんばかりのパーソナリティの彼女は何らかの利用価値があったと明智達は考える。
あるいは、危険人物だった相羽シンヤを説得でもしたのか。
……それはもう、推し量る事しかできないのだが。

相羽シンヤはおそらく死亡しているのだから。

それまで同行していた小早川ゆたかは現在彼女は高嶺清麿と同行中であり、
相羽シンヤはラッドの座標と全く同じ位置にいる。
それも、ラッド・ルッソとの接触の直後から、だ。
これの意味する事は、ラッドがシンヤの首輪を持ち歩いているという事だろう。
携帯電話に表示される座標は、首輪の信号を元にしているのだから。
その逆も考えうるが、しかし、高嶺清麿が現在無事に生き残っている事から察するにその可能性は低い。
ラッドとシンヤの首輪の反応を考えても、平気で建物を飛び越す動きをしている。
おそらくフラップターに乗っているのだ。
フラップターの操縦技術を考えても、まずそこにいるのはラッドだろう。

明智は目を閉じ、彼の冥福を祈る。
そもそもの原因はラッドを派遣した自分にあるのだ。
警戒者リストに名を連ねていた、相羽シンヤ。
たとえゲームに乗っていたとしても、人の死というのは彼の心に圧し掛かる。

――――だが、明智は臆さない。揺らがない。
彼に報いる事のできる行為は、自分達が螺旋王を上回る事だけだと理解しているからだ。
今まで死んできた全ての人間に対して、明智は呼びかける。
あなた達の死は無駄にはしない。いや、無駄にさせないのだ、と。

携帯電話を通してチェス盤を俯瞰することで、明智の脳内ではどこで誰が何をなしたのかが明確なビジョンとなって現れる。
――――そう、高遠遙一たちの顛末でさえも。
危険人物ビシャスと高遠遙一達との接触。
その後に残るは動かぬ名前が5つだけ。
高遠遙一。ティアナ・ランスター。アレンビー・ビアズリー。ジェット・ブラック。チェスワフ・メイエル。
彼らはもう、動かない。
たった一つの希望――――ガッシュ・ベルだけを残して。

あの高遠がそこまで簡単に殺されてしまうのは俄かに信じがたい。
日本警察が幾度となく取り逃がし、脱獄さえして見せた男なのだから。
だが、同時に明智は高遠故に、十分死亡もあり得ると判断していた。
彼の犯罪手法は主に殺人教唆。
奇術の腕は図抜けているが、彼とてこの場では充分一般人の範疇に納まってしまうだろう。
故に、高遠も死亡していると見るのが妥当だ。
それが悔しいのか、悲しいのかは明智には区別がつかなかった。

……ガッシュ君とも接触を持ちたいですが、と明智は考えるが、しかし。
まだ時期ではない。自分達の安全を確保してからだ。
現在、映画館は既に安全無事な場所ではない。周囲に危険な人物が多々集まりつつあるのだ。
あたかも誰かのシナリオに沿うかのように。
ニコラス・D・ウルフウッドや鴇羽舞衣、東方不敗といった明確にゲームに乗った人物。
また、衛宮士郎が元の世界で敵対したという言峰綺礼やギルガメッシュ。
――――後者なら話し合いの余地があるだろう。が、前者に今の段階で接触する訳にはいかない。
あまりにも戦力が足りなさすぎるからだ。
反面、同時に味方になりそうな人間も、この周囲に向かっている。
Dボゥイ、ヴァッシュ・ザ・スタンピードといったプロフィールを見てゲームに乗りそうもない人間なら交流する価値は高い。

だが。
そうした状況でねねねが提案したのは、映画館の放棄だった。
早々にここを離脱し、刑務所に向かうべきだと。
彼女の“シナリオ”とは、こういうものだった。

「危険人物はともかく、この、衝撃のアルベルトとか柊かがみちゃんとかは確かに話し合えるかもしれないよ。
 かがみって子はぬいぐるみとかこのフルメタル・パニックって小説を見る限り、ごく普通の女の子だと思う。
 二人で行動してるなら、話し合いの通用しない可能性もゼロじゃないし。
 こっちに近づいてきているヴァッシュさんって人も平和主義者らしいし、力にはなってくれそうだよね。
 ……だけど、そういうエサにつられてこのまま留まり続けるのは、螺旋王の思う壺じゃないかと私は思う。
 螺旋王が混乱の中で螺旋力に目覚める事を期待しているのなら――――、」

ねねねは、うん、といったん頷いた上で明智を見つめ、言う。

「……私達に十分な人材をあてがった上で、ゲームに乗った人間をぶつけるはず。
 あるいは、螺旋王に対抗する人間同士でも因縁があればぶつかり合うよね。
 今、この近くにいるのはそんなクセのある人間ばっかり。
 そうやってここを中心に、更なる混沌を引き起こすのがヤツの目的だよ、きっと。
 ……だから」

一息。

「だから、私は敢えて仲間になってくれそうな人たちからも一旦距離をおいて、螺旋王の読みを外してやるべきだと思う」

確かに最善手はこの場で戦力を確保し、対螺旋王の一大集団を結成する事だ。
人数が多ければ多いほど、向かってこようとする人間は減っていく。
現時点でも映画館付近を目指すゲームに乗っていないであろう人間はそれなりに多いのだ。
彼らを纏めきれさえすれば、ゲームを中断させるのも難しいことではない。

だが、それが戦乱を巻き起こす為の工作だとしたら。
念を入れすぎるなんて事はありえない。ここは文字通り何でもあり、バーリ・トゥードなのだから。
戦場の中心にいる必要など何もないし、螺旋王の思惑に対抗する為にこちらの行動にノイズを紛れ込ませるだけでも価値がある。
故に、高嶺清麿の合流時点を以って、刑務所への移動を開始する。

当初は夜中に戦力の足りない状態で動くのは危険だったが、今はその心配はだいぶ下がっている。
何故なら、携帯電話の現在位置特定機能があるからだ。
どの参加者とも接触しないコースを随時確認しながら進行することで、戦闘は高確率で回避できるだろう。
他の参加者への接触は、刑務所についた後ゆっくりと行えばいい。
既に衛宮士郎やラッド・ルッソにはいざという時刑務所に向かう旨を伝えてある。
彼らに関しては問題ないだろう。

では、本来の予定では人員確保のために接触する予定だった、危険人物と目されていない人物が映画館に侵入したときはどうか。
ギルガメッシュや言峰綺礼などはゲームに乗ったとは限らない。
あくまで元の世界で衛宮士郎と敵対していただけなのだ。ゲームの脱出に関しては協力し合える可能性はあるだろう。
他にも、とりあえず協力できそうな人物にコンタクトしない手はないのだ。
今ここを離脱すれば、その機会すらも失ってしまう。

その解も簡単だ。
誰かが映画館まで到達したら、携帯電話で映画館に連絡を入れればいいのである。
参加者の位置を特定できるという機能に気をとられがちであるが、携帯電話本来の役割は遠距離通話だ。
この携帯電話には、あらかじめいくつかの施設の電話番号が登録されているのである。
その中のひとつに映画館があったのは僥倖だ。
逐次参加者の位置を確認して、映画館に誰彼が来たときに連絡を入れればいい。
そもそも怪しまれて電話を取ってもらえない可能性もあるし、うまく会話に持ち込めたとしても敵対する可能性もある。
だが、その点はこちらの現在位置や刑務所に向かう事さえ教えなければ直接の危険までには至らないだろう。

そして、もう一つ明智に移動を決意させた事項がある。
……それは、一つの放送だった。


『エドです。地図の載っている施設を全部、良く調べてみてください。すごいお宝を発見ができるかもしれません。
 詳しい情報は追って連絡しますが、ラセンリョクという物を用意してください。それが絶対必要なんだそうです!
 もしも見つけてしまったらぁ~一切、粉砕、喝采ぃ~八百屋町に火がともる~!』


無邪気な子供の声。
先刻、それが突然館内に鳴り響いたのだ。
罠かもしれないという意見のねねねに対し、明智の意見は異なった。
エドという名の該当する子供は二人。
エドワード・エルリックとエドワード・ウォン・ハウ・ペペル・チブルスキー4世。
どちらも死亡している為遺言となったその言葉について、明智にはそれが正しい事であるという確信があった。
博物館の存在だ。
螺旋力と螺旋に縁のあるアイテムによって開くというあの扉は、実験を円滑に進行させようという螺旋王の意図の下に設置されたのだろう。
矛盾しているような感覚は拭えないが、しかし螺旋王直々に用意されたあの場所が罠であるとは考えにくい。
仮に螺旋王ではなく他の参加者の罠だとしても、地図に乗っている施設というのはあまりに広範囲すぎる。
やはり罠にしては悪手でしかない。

そして、肝心の放送の内容は、あのような場所が他に複数存在する可能性を示唆している。
ならば、できる限り他の施設も調査しておきたい所だ。
危険な物品もやはりこのゲームでは駒なのだ。
参加者が取り返しのつかないチェスの駒なら、支給品や隠されたアイテムは将棋の駒だ。
自分の手にあれば心強い戦力となるが、敵の手に渡っては目にも当てられない事になる。
それを取りに動くのも全く正しい一手である。
まずは刑務所に向かい、そこを調査。
次いで、そこを基地として人員を派遣、他の施設を調査する事が望ましい。

万一刑務所さえも安全でなくなった場合、明智が着目するのは警察署だ。
そこを選択する理由も、やはり刑務所と同じ様な理由になる。
……尤も、そんな事態は想定したくないが。
第二第三の候補として、図書館や発電所なども考えておいた方がいいだろう。
一見役立ちそうにない施設ほど、襲撃される可能性は低いのだから。

「……それも、やはり他の方々と交流を持たねば話になりませんか」

一人ごちるも、明智の目は携帯電話から揺るがない。
すでにねねねには博物館の事は話してあるが、やはり彼女だけでは心もとない。
そう、刑務所に着いたとしても、やる事はまだたくさんある。
とにかく、螺旋王に対抗する為の人員が欲しい。
その為に、いかにリスクを抑えながら他の参加者と接触するか、だ。

現在位置、及び動向を考えると刑務所付近で接触できそうな参加者は3組。
ルルーシュ・ランペルージ一行。スカー。リュシータ・トエル・ウル・ラピュタ。
まず、彼らの誰かと連携することが第一の目的になるだろう。
ただ、前者二組はともかくリュシータという少女は、ニコラス・D・ウルフウッドと接触して以後動きが一定していない。
彼女と同行していたエドワード・ウォン・ハウ・ペペル・チブルスキー4世が死亡したのがその辺りでもあることから、動揺でもしたのだろう。
保護する必要があると明智は考えるも、しかし彼女の動向次第では刑務所から離れる可能性もある。
確実に接触できる訳ではない以上、不確定要素は二の次だ。
即ち、確実に一番最初に接触し得るのはルルーシュ・ランペルージ一行あるいはスカーという男だろう。
では、どちらに対して先に接触すべきか。

スカーという男は、現状未知の要素が多すぎる。
なにせ、携帯電話で座標を確認して以来ショッピングモールからほとんど動いていないのだ。
リストに記載された、イシュヴァールという民族出身であり、その虐殺の復讐のために生きているという情報くらいしか自分達は持ち得ない。
自分達と敵対する要素はないが、このゲーム内でどういう意図で動いているかがほとんど読めないのである。

対し、ルルーシュ・ランペルージ一行はどうか。
彼らは集団で動いている以上、ある程度の信頼は置けるだろう。
殺し合いに乗っていない可能性は高い。
また、人員確保という現状の指針にも適合している。
更に螺旋王の娘というニアという少女も存在しているのだ。接触する価値は高い。

だが、同時に懸念もある。
彼らはしばらく前に内部分裂を起こしているのだ。
その発端は、おそらくマタタビという参加者の死だろう。
地図の一箇所に置き去りにされた彼の首輪が示すのは、おそらく彼が死亡したことを示している。
……その原因が何であるにせよ、不安要素は確かに存在しているのだ。

「まあ……、結局は刑務所に着いてからの話なんだけどね」
「そうですね。できる限り早く行動しましょう」

誰に接触するにせよ、刑務所到着の時点で誰が一番近くにいるかというのも問題になるだろう。
場合によってはリュシータという少女がすぐ近くにいるかもしれない。
そうならば真っ先に彼女を保護すればいい。
ルルーシュ・ランペルージ一行やスカーに関しても、今後の動向次第なのだ。

そして安全を確保したまま接触する方法も、乱暴にではあるが考えついている。
ガジェットドローンを介せばいいのだ。
考察やこちらの意図を伝えるメモなどを括り付けた上で彼らの元まで飛ばし、伝令の後に帰還させる。
その際に彼らの返答をやはりメモさせておけば、ある程度の交流は可能だ。
何度かやりとりを繰り返した上で、安全だと判断すれば刑務所まで案内しても問題ないだろう。

「さて、と……。イリヤ君にも今後の事を伝えません……と……」
「どうした!? 携帯に何が……」

急に言葉を止めた明智に、ねねねは即座に聞き返す。
……だが、明智の表情を見て何かのっぴきならない事態が発生した事を嗅ぎ分けていた。

「……即座にここを離脱します。菫川先生はイリヤ君を連れて外に出てください。
 ……衛宮君は、ルッソ氏に拾われて直接刑務所に向かう、と、携帯電話に連絡があったとでも彼女には伝えてください」
「……ッ!! 衛宮が!? 根拠は!?」
「彼の首輪は現在東方不敗と接触中です! ……急いで!!」

顔をくしゃくしゃに歪め、ねねねはしかし即座に外へ飛び出していく。
……殺人に乗った東方不敗と首輪の反応が共にある。
それは即ち、交戦中であるという公算が非常に大きい。
最悪、士郎が殺され、首をもがれた可能性すらあるのだ。
最早一刻の猶予もない。
ラッド・ルッソから話を聞くに、東方不敗の戦闘能力は自分達が立ち向かうには高すぎる壁である。
衛宮士郎が生きているなどという希望的観測はしないほうが懸命だ。
今からではどうやっても間に合わない。
助けたい思いはあるが、しかし明智は命を天秤にかけ、苦渋と共に切り捨てた。
犬死にが目に見えている。
自分達の戦闘力など、常人に毛が生えているかすら怪しいところなのだから。

……もし、衛宮士郎が生き延びてくれたのなら。
その時は刑務所に来てくれるだろう。
それが唯一の希望である。

「……衛宮君。もし生きてくれているのならば、どれだけ恨んでくれても構いませんよ。
 私達は、君を見捨てるのですから……」

唇を噛み締めながら、明智は携帯電話に目を通す。
現在東方不敗は衛宮士郎とおそらく交戦中。
そして、高嶺清麿と小早川ゆたかも次第にこちらに近づいてきていた。
中間地点で落ち合い、そのまま刑務所に向かうべきだろう。
明智は卓の上に広がったものをそれぞれのデイパックに押し込みながら立ち上がる。
一つに纏めないのは自分が倒れても全ての情報を渡さない為だ。
石橋を叩き、犬を渡らせ、なお油断しない。
それだけの慎重さを持ちながら、明智はしかし闘争心を昂らせる。


ここから撤退するのは確かに守勢だ。
だが、螺旋王が殺人者という駒でチェックをかけるのならば、それすらも耐え忍んで見せよう。
一連の攻防をしのぎさえすれば、こちらの手番はいずれかならず回ってくる。
ずっと螺旋王のターンであるなどありえない。
全ては勝利の為の布石。
いかに相手が手数で攻めて来ようとも、結局は最後に凌ぎ切れない一手を繰り出した方が勝つのだから。


それが、衛宮士郎に対する手向けの花になると信じて。
明智健悟は、振り向かずに部屋を後にする。
一人の少年の死に対し涙はなく、しかし、握った拳から血を滴らせて。


時系列順で読む


投下順で読む



213:あなたに贈る物語(後編) 菫川ねねね 228:刻無―キズナ― 零
213:あなたに贈る物語(後編) 明智健悟 228:刻無―キズナ― 零





| 新しいページ | 編集 | 差分 | 編集履歴 | ページ名変更 | アップロード | 検索 | ページ一覧 | タグ | RSS | ご利用ガイド | 管理者に問合せ |
@wiki - 無料レンタルウィキサービス | プライバシーポリシー