光るものの全てが黄金とは限らない ◆jbLV1y5LEw




「ああ、クソ……! どうにも噛み合ってねえな……」

 D-8に位置する山小屋の傍で、スパイクは一人でスコップを手に穴を掘っていた。
 ジンはちょっと確認したいことがある、といって山小屋を離れ、
 カレンはスコップの他に何か山小屋の中で役に立つ物がないか探している。
 必然的に余ったスパイクが一人でマタタビを埋葬するための穴を掘っているのだ。

「噛み合ってねえな……」

 スパイクはまた呟く。
 今日一日の経緯を思い出した彼の感想はこれに尽きた。
 最初は読子とのんびり物見遊山をして帰るつもりだった。
 が、そもそもここから既に状況と噛み合っていない。
 (まあ、聞いていなかった自分たちが悪かったのだが)
 その後も協力する予定だったはやては合流直後、何故かこちらを残して出立。
 放送が真実ならば、それっきり死んだらしい。
 次いで襲ってきた傷面の男に同行者だった読子は殺され、新しい同行者の一人はやたらとこちらを敵視している。
 主催者に反抗する仲間を募っているジンと出会えたのはよかったが、ここでもケチがついた。
 彼らに保護されていた喋る猫、マタタビが死んでしまったのだ。
 はやてたちに何が起きたのか知っているだろう猫だったのだが、話一つ聞けなかった。
 しかも、どうやらビバップ号の同居人、エドまで殺されてしまったらしい。

 人生はままならないものというのは身に染みて分かっているつもりのスパイクだが、どうにも今日は巡り合わせが悪い。
 本音をいえばガキなんてほっぽり出してビシャスやジェットを探しに行きたいが、そこまで薄情にはなれない。
 特に、マタタビの死についてはきちんと考えておかないと、今後の身の振り方にかかわる問題だ。
 そこに誰かの作為が入っているならば、仲間の中に他人に殺意を持った奴が潜んでいる、ということなのだから。
 『考えるな。感じろ!』とはスパイクが尊敬するブルース・リーの名言であるが、この場では直観と思考、どちらも必要になる。
 それだけでも頭がいっぱいになりそうなのに、同行者のカレンははた目で見ても精神的に不安定だ。

(やれやれ、こんなのはお前の役目だろうがよ、ジェット……。
 正直、俺は推理や子守りなんてガラじゃあないぜ……)

 子どもと女、そして動物が嫌いだと標榜する彼が、動物のために穴を掘り、女の子どもの子守りをしなければならない。

(せめて、煙草でもありゃな……)

 どうにも噛み合わない状況に、スパイクは小屋の中で手に入れたライターを見てため息をついた。
 ふと、何か視線を感じて振り向く。
 だが、そこには誰もいなかった。

 ■

 スパイクの感じた視線は気のせいではない。
 彼の背中を物陰からじっと見つめる人影があった。
 ゼロによって『スパイクを殺せ』と命令されたカレン・シュタットフェルトである。
 事実、穴を掘るスパイクの背中は無防備に見えた。
 今、カレンが持っている銃で狙えばあっという間に始末できそうなほどに。
 カレンには先代ゼロを守れなかったという自責の念がある。
 それだけに、ゼロに障害を与える可能性のある人物は何としても排除したかった。
 それがゼロ本人からの命令となればなおさらである。
 ジンがどこかへ行っている今はチャンスのようにも思えたが……。

(ダメだ。ゼロは『悟られないように始末しろ』といったんだ)

 今すぐスパイクを銃で撃ち殺したくなる気持ちを何とか自制する。
 ここで撃てばスパイクは殺せるかも知れないが、流石にそれをジンに悟らせないのは無理だろう。

(チャンスを待たなきゃ……)

 銃を仕舞い、カレンは山小屋の中へと戻っていく。

 ■


 数十分後、三人の乗った消防車はジンの運転で山道を降りていた。

「これから図書館に向かうんだったな。どういうルートでいくつもりだ?」

 助手席に座ってざっと地図を眺めたスパイクは、運転席のジンに尋ねた。
 見たところ、図書館へはいくつもの行き方がある。
 大まかに分けて飛行場や豪華客船の停泊地のある離れ小島を通る
 ルートと、病院や映画館などが集まる町の中心を通るルートだ。

「そうだね。まずはデパートへ行って、そこで今後の観光ツアーの道行を考えようと思ってるよ」
「また随分適当ね」

 呆れたようにつぶやく後部座席のカレンに、ジンはルームミラー越しに、笑って見せる。
 それを聞いたスパイクがつぶやいた。

「ん? デパートっていやあ、ちょっと前……」
「そ。やたら大きなキャンプファイアーをしてたと思ったら、せっかちな誰かさんが消防士の到着前にでっかい爆弾で消したみたいでね。
 あのお姫様やビクトリームによると、そこに何人かいたらしいし、調べてみるつもりだよ」
「ニアの? 信用できるのかしら……?」
「さあね。でも、さっき木の上から確認したら、デパートの辺りだけスッパリ光が盗まれてたよ。
 何かあったのは間違いないだろうね。どの道、左回りで行くならデパートは通らなきゃいけない。
 怪我人がいるようなら、病院へエスコートしてあげなくちゃ」
「なるほど。ついでに光を見て寄ってきた人にも会えるかもしれない、か」
「そういうこと。ま、この消防車ならすぐに着くよ」

 ジンがそういうのを聞いて、スパイクはシートにもたれた。
 ほんの少しだろうが、暇ができた。
 カレンの相手はジンがしてくれるだろうし、ここらでもう一度、考えておく必要がある。
 つまり、マタタビの毒殺について、だ。

 ■

 ニアがマタタビを殺した。
 この事実はもはや疑う余地はあるまい。
 問題はそれが単なる過失なのか、それともニア本人を含む誰かの悪意によるものなのか、この点だ。
 単なる過失、つまりうっかりの可能性はもちろんある。
 だが、状況に不自然なものを感じるのも事実である。
 いくら不注意でも、怪我人に得体の知れない薬を飲ませるだろうか。
 ニアは相当常識に欠けるようだが、そこまで致命的な人間がいるとは正直、スパイクとしては考えにくい。
 となると、やはり誰かが彼女を彼女自身にも気付かれないように誘導したと考えた可能性が高い。
 万一、ただのうっかりならこれ以上何も起きはしないだろうからそれはそれでいい。
 なら、悪い可能性についても考えておいて損はないだろう。

 では、誰かの故意だと仮定する。
 つまりニアが薬を毒と偽って飲ませた、もしくは周囲がニアの持っていた薬を毒とすり替えた場合である。
 この場合も一番怪しいのはニアだが、これは却って不自然だ。
 自分で螺旋王の娘だと明かし、それによって周囲から疑惑を受けた直後にわざわざ自分が犯人とわかる形で猫を殺し、ご丁寧に悲鳴をあげて全員に犯行を知らせる。
 そしてその理由が「毒なんて知らない。薬だと思っていた」。

(アホらしい。子どもでも疑われることくらいわかるだろう)

 そもそも殺すつもりならジンがいない間にいくらでもやりようはあっただろう。
 同様に、ジン、ビクトリームにもいくらでも機会と方法はあったはずだ。
 そもそもジンなら毒殺というまだるっこしい手を使わなくてもニアとビクトリームとマタタビを殺した後、何食わぬ顔でスパイクたちの前に現れればいい。
 この得体のしれないところのある少年は、おそらくそれが簡単にできるだけの実力の持ち主だろう。
 ビクトリームについても同様だ。
 もともと彼(?)とニアがマタタビを拾い、さらにそれをジンが拾ったらしい。
 つまり、二人っきりの時間が相当あったのだから、支給されていた銃を使えば一瞬で片がつく。
 私怨があるとも思えない彼らがマタタビを殺すとしたら、優勝のためだろうから、他者を生かしておく必要などない。
 いや、相手を信用させるためにあえて足手まといを確保するなら、いざという時に見捨てる覚悟でマタタビを生かした方が都合がいいはずだ。

 結論としてはあの三人は犯人である蓋然性が低い。
 もちろん、人間は論理だけで動くわけではないから言い切れないが、そこまで言い出したら誰も彼も疑わなければならない。
 大体、いくら素直で世間知らずのお嬢様とはいえ、わけのわからない薬をいつ起きるともしれない怪我人に飲ませるのはリスクも難度が高いように思える。

(ああ、畜生。何を遠回しに考えてやがる)

 心の中でため息をついた。
 そう、実はニアのその勘違いを意図的に誘発できる要素を、スパイクは知っている。
 完全に忘れていたが、順序立てて考えていくうちに思い出した。
 読子が言っていたではないか、『ルルーシュ・ランペルージには催眠術のような特殊能力があるのではないか』と。
 その後、あの傷面の男が襲ってきたため、あやふやになっていたが、この推測が仮に当たっていた場合、事情は一変する。
 たかが催眠術と馬鹿にすることはできない。
 以前、スパイクを含むビバップ号の面子全員で追い詰めた新興宗教の教祖、ロンデス。
 彼は機械を通してではあるが、人を自殺へ追い込むほどの強力な催眠・洗脳術を持っていた。
 生存本能を捨てさせることに比べれば、薬と信じ切っているものを毒とすり替えた後、怪我人に飲ませるくらい造作ないだろう。

(問題は……信じてもらえねえことだよなあ……)

 これは推測にすぎない。
 こんなことを言い出して信用してもらえるかは怪しい。
 読子にこの推測を伝えられた時、スパイク自身が疑ってかかったくらいだ。
 ましてはやて達が突然行動を変更した場面を見てすらいないジンに信じてもらえるわけがない。
 カレンなど問題外だ。
 ルルーシュが怪しいと言った瞬間に銃を向けられかねない。
 そもそも、スパイク自身がこの発想を少し突飛だと思わないでもない。

(やれやれ。マタタビが生きてりゃ話を聞いてもう少しはっきりしていたんだが……ん?)

 そこでスパイクはふと気がつく。
 あの場にいた面子で生き残っているのは自分とカレンとルルーシュの三人だけであると。
 あの時、自分は隠れていたからカレン・ルルーシュの視点で考えればカレンとルルーシュ二人だけである。

 ■

 立場を変えて考えてみよう。
 瞬間催眠のような能力を持っている人物がいるとして、その人物はその能力を公言するだろうか?
 ちょっと良く考えればそんな愚行は避けるだろう。
 他人の意思に介在できるような人間を信用できる者は相当限られている。
 特に、こんな殺し合いの舞台ではそんな能力があるというだけで疑心暗鬼の対象となって銃を向けられかねない。
 とはいえ、こんな状況下にある以上、止むを得ず使うこともあるだろう。
 だが、使った対象の催眠が解けるなり、催眠をかけた目的を全く遂行できない状態になったらどうだろうか?
 瞬間的な催眠術はうまくやればかけたことすら相手に気付かれないだろうが、行動を真逆に捻じ曲げられたりすれば流石に気づくだろう。
 その人物が正気を取り戻せば、自分が催眠術をかけられたことを周囲に伝えるのは間違いない。
 また、よくよく観察されれば言動から催眠状態にあることを知られる可能性がある。
 そんなことになれば、いずれその能力を持つ人物は割り出され、周囲から孤立し、自分の生存すらおぼつかなくなる。
 自分に強力な戦闘能力がないならなおさらだ。
 ならばどうするか。
 古人いわく、死人に口なし。
 用済みの者が死んでしまえば秘密は漏れない。
 スパイク自身も『レッド・ドラゴン』に所属していた時代、さんざん味わってきた非情な教訓である。
 もちろん、マタタビ以外にもカレンがいるわけだが、ゼロの椅子を手に入れた今、カレンがルルーシュに不利なことをするとは考えにくい。
 それくらい、カレンの中で『ゼロ』という称号が重い位置を占めているのは見れば分かる。
 つまり、マタタビを殺せばこの能力の秘密を知られる恐れはない。

(とまあ、こう考えればランペルージがマタタビ殺害の黒幕って説は動機の面からも筋が通るが、証拠はないしなあ……)

 証拠などこの状況では必要ないが、少なくとも周囲を納得させることは必要だ。
 出会って間もないが、ルルーシュは冷静で、頭が回る人間だということは分かっている。
 本当に催眠能力を持っているのだとしたら、マタタビに自殺させればいいところをニアを利用することで周囲の信用を勝ち取っていることにもなり、それなりの狡猾さも持っていることになる。
 そんな奴相手に、スパイクが人望やら口論で勝てるだろうか。
 スパイク自身が無理だと断言できる。

(それどころか、下手に疑いをかけたら周囲に袋叩きか、催眠術で操られてこっちが返り討ちだろうな)

 読子の警告さえなければ、スパイクだって彼を「もやしっ子だが頼れる好い奴」と評価していただろう。
 だが、光るものの全てが黄金とは限らない。
 日常生活では好人物でも、裏で行っていた犯罪が明るみに出て賞金首になった人物など掃いて捨てるほど見てきた。
 好青年のルルーシュが実は人殺しも厭わない非情な男だったとしても驚きはしない。
 問題は対策だが……さっぱりわからない。
 実力行使に訴えるのも手だが、この状況では無理だろう。
 何か尻尾を出すまで警戒するしかない。
 といっても、スパイクの側に彼はいないので、合流するまでその部下であるカレンをそれとなく気をつけるしかないが。
 「ゼロ」に固執する彼女は、ルルーシュの能力の秘密など気付かなくても自棄を起こして何かするかもしれない。
 突然自殺でもされたら気分が悪いことこの上ない。

(あーあ、面倒くせえ。だからガキと女と動物は嫌いなんだよ……)

 ■

 スパイクがふと気がつくと、妙に車内は静かになっていた。
 横を見ると、ジンが無言で運転している。
 さらに後部座席を見ると、カレンは疲れが出たのか、うとうとと眠っていた。

「おい、カレン……」

 起こそうとしたスパイクの目の前に、横から指が突き出された。
 その指の持ち主を見ると、ジンはそのまま指を唇に押し当てる。

(まあ、小うるさいのが黙っててくれていいか。)

 眠りは精神の疲労も和らげる。
 今のカレンには必要なものだろう。
 ジンの意図を察し、スパイクもジンにならって黙り込んだ。
 ただ、スパイクにはひとつだけ気になることがあり、声を抑えて口を開いた。

「ジン、お前、ランペルージのこと、どう思う?」
「冷静で頼りになると思うよ。女の子にも優しいしね」
「そうか……。ニアのことは?」
「……難しいね。いろいろ考えてみたけど、彼女がマタタビを殺したとしかおもえないし、素性も怪しい。
 ルルーシュは信用していたみたいだけど…………」
「まあ、だろうな……」

 それきり、スパイクは黙り込んだ。

 光るものの全てが黄金とは限らない。
 だが、その輝きに騙される者は多い。
 王ドロボウがその真贋を見極められるのはいつだろうか?

 三人を乗せた消防車は夜の闇をかき分けながら、デパート跡地へ到着しようとしていた。

【E-6/路上/一日目/夜中】
【ジン@王ドロボウJING】
[状態]:消防車の運転席。全身にダメージ(包帯と湿布で処置)、左足と額を負傷(縫合済)
[装備]:夜刀神@王ドロボウJING×2(1個は刃先が少し磨り減っている)
[道具]:支給品一式(食料、水半日分消費)、支給品一式
    予告状のメモ、鈴木めぐみの消防車の運転マニュアル@サイボーグクロちゃん、清麿メモ 、毒入りカプセル×1@金田一少年の事件簿
[思考]
基本:螺旋王の居場所を消防車に乗って捜索し、バトル・ロワイアル自体を止めさせ、楽しいパーティに差し替える。
0:いい夢みなよ、カレンおねーさん。
1:デパート跡地を探索する。
2:仲間を集めつつ左回りで図書館を目指す。
3:ラッド、ガッシュ、技術者を探し、清麿の研究に協力する。
4:ニアに疑心暗鬼。
5:ヨーコの死を無駄にしないためにも、殺し合いを止める。
6:マタタビ殺害事件の真相について考える

[備考]
※清麿メモを通じて清麿の考察を知りました。


【スパイク・スピーゲル@カウボーイビバップ】
[状態]:消防車の助手席。疲労(小)、全身打撲、胸部打撲、右手打撲(一応全て治療済みだが、右手は痛みと痺れが残ってる)
[装備]:デザートイーグル(残弾7/8、予備マガジン×2)
[道具]:デイバック、支給品一式(-メモ) ブタモグラの極上チャーシュー(残り500g程)、スコップ、ライター
[思考]
0:小うるさいのが黙っててくれて助かるな……。
1:デパート跡地を探索する。
2:仲間を集めつつ左回りで図書館を目指す。
3:カレンをそれとなく守る。もちろん監視も
4:ルルーシュと合流した場合、警戒する。
5:ジェットは大丈夫なのか?

[備考]
※ルルーシュが催眠能力の持ち主で、それを使ってマタタビを殺したのではないか、と考え始めています。
 (周囲を納得させられる根拠がないため、今のところは他人には話すつもりはありません)


【カレン・シュタットフェルト@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:消防車の後部座席。疲労(小)精神疲労(中)若干不安定 睡眠中
[装備]:ワルサーP99(残弾15/16)@カウボーイビバップ
[道具]:デイパック、支給品一式(-メモ)、高遠遙一の奇術道具一式@金田一少年の事件簿
[思考]:
基本:黒の騎士団の一員として行動。ゼロの命令を実行する。
0:…………
1:デパート跡地を探索する。
2:仲間を集めつつ左回りで図書館を目指す。
3:スパイクを出来るだけ密かに始末する。
4:ゼロ(ルルーシュ)に指示を仰ぐ
5:先代ゼロ(糸色望)の仇を取る

[備考]
※マタタビを殺したのはニアだと思っています。
※ジンは日本人ではないかと思っています。


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214:ナイトメア・チルドレン(後編) スパイク・スピーゲル 230:Rising Moon the Samurai & the Gunman(前編)
214:ナイトメア・チルドレン(後編) ジン 230:Rising Moon the Samurai & the Gunman(前編)
214:ナイトメア・チルドレン(後編) カレン・シュタットフェルト 230:Rising Moon the Samurai & the Gunman(前編)




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