傷を開くモノ、傷を癒すモノ ◆jbLV1y5LEw


 廃墟となり果てたビルの傍らに、二人の男が向かい合っている。
 スカーは間合いを計りながら思考を巡らせていた。

(さて、これからどうする……?)

 目の前の神父は強敵だ。
 修練による体術に加え、その判断力も完成されている。
 こちらの破壊の右腕の特性をこのわずかな戦いの間にほぼ正確に見抜いた。
 おそらくは通常の戦闘はもちろん、スカーや国家錬金術士のような異能を持つ者との戦闘も相当数重ねているのだろう。
 それに加え、先ほどの動き。

(まるで別人のような素早さになっていた……)

 あれが神父の本当の実力ならば、スカーを一段も二段も上回っている。
 先ほどは何とか切り抜けられたが、あの一瞬の攻防で葬られていてもおかしくはなかった。
 いや、既に左腕が奪われた以上、あの動きでなくともスカーは言峰には勝てないだろう。
 もちろん、スカーにも手がないわけではない。
 その手とはすなわち相打ち。
 さきほどは突然だったが、今度は一度、相手の動きを見ている。
 致命傷を負う覚悟があれば、こちらの右腕を相手の身体に叩き込むことが可能だろう。

(だが……それはできない。己れの命は飽くまで復讐のためにある)

 それがスカーの結論だった。
 自分の命と引き換えに神父の命を奪っても、復讐が遂げられなければそれはスカーにとっては敗北も同然。
 この舞台に一人、そして元の場所にはもっと大勢、仇が残っている。
 スカーはここでは死ねない。
 だが、逃走も難しい。


 思考の迷路にはまりこんでいたスカーに、不意に言葉がかけられた。

「傷の男よ。君は何を求め、この殺し合いに乗っている?」

 彼がこの質問を受けるのは二度目だ。
 ドモン・カッシュ。
 この舞台で出会った三人目の男。
 一度目の質問には答えなかった。
 しかし、会話により、相手の気が少しでもそれれば儲け物。
 そう思い、今度はスカーも構えは崩さず、注意を払いつつ言葉を返す。

「……復讐だ」
「ほう?」

 隙こそ生まれなかったものの、神父は興味を引かれたようにわずかに目を見開いた。
 さらに言葉を繋いでくる。

「君のその修羅のごとき執念の正体は復讐心か。誰か縁者でも、ここで殺されたのかね?」
「……いいや。イシュヴァールの虐殺。そして己れはイシュヴァール人だ。これだけ聞けばおおよそ推測はつくだろう」

 スカーはここにいる者たちが異なる世界から集められたということを、未だ知らない。
 故に、その内容を言峰が知るはずもないが、虐殺という言葉からそれなりに予想はできた。

「虐殺に対する復讐か。なるほど、その怒りは人として当然の感情だ」

 大いに興味をひかれたようで、神父の思考が内へ向かうのが見て取れた。
 スカーはそれを見ながら、僅かずつ距離を詰める。
 残る全力を振り絞って接近し、右腕の一撃を叩き込む。
 もう少し接近できればそれが可能だ。
 何がそんなに興味があるのか知らないが、この神父はこちらの話について考え、こちらへの警戒を怠っている。

(己れを説得しようとでも考えているのかもしれないが……無駄だ)

 通常時なら一秒もかからず移動する距離をスカーは永遠とも感じる時間をかけて進む。
 神父は考えているためか、気付かない様だったが、再び疑問を発してきた。

「それで、君は理解しているのか?」
「何をだ?」

 そして遂に『その地点』に到達する。

(今!)

 スカーが一気に跳躍しようとしたその時、神父の言葉がスカーの耳を打った。

「殺し合いに乗る君の行いもまた、虐殺と同様だということを、だ」

 それを聞いたスカーの心に僅かな、そう、ほんの僅かな動揺が走った。
 そしてそのほんの僅かな動揺を神父は逃さなかった。


「がっ!?」

 スカーの身体に衝撃が走った。
 滑るような足運びで一瞬にして距離を詰めた神父がスカーの腹に肘を打ち込んだのだ。
 寸前で気づき、後方に身を引いたが、遅い。
 踏み込みと同時に放たれた一撃はスカーの身体を浮かし、後方へ飛ばす。
 この機会を逃すつもりはないと、神父はスカーを追う。
 対するスカーは何とか着地し、踏みとどまろうとするが、衝撃は殺し切れず、身体が後ろに流れる。
 瞬時に判断を切り替えた。
 逆に地を蹴ってバク転の要領で身体を回転させ、右腕を支えに神父の顎めがけて両足の蹴りを放つ。
 蹴りは仰け反るようにかわした神父の顎をかすった。
 だが、効果は十分。
 回避行動によって神父の突進の勢いは止まる。
 一回転したスカーは、そのまま地についていた右腕に紫電を走らせる。

 地面に亀裂が走り、爆散した。


 ■

「逃がしたか……」

 土煙が晴れた後、言峰は呟いた。

「まあ、良い……。考えれば、切開するには時間も足りん」

 もう一つ令呪を使えば傷の男を倒すことも可能だったかもしれない。
 だが、通常なら立ち上がれぬほどのダメージを負った身体をなお支える憎悪。
 その憎悪をつくった傷を切開したい。
 その根源的な欲求が言峰に傷の男を倒させなかった。
 あわよくば戦闘力を奪う程度に留め、時間をかけて傷の男の古傷を抉りたかったのだが……

「私もつくづく、欲の深い男だ」

 自身に呆れつつ、言峰は笑う。
 あるいは、手加減しようとしたことにより、彼自身、傷の男の反撃を受け、殺されたかもしれない。
 だが、仮にそうなっても己を通した結果の選択ならば、彼は後悔すまい。
 自身の悪を好む性質を是とする言峰はそういう男だった。

「……む?」

 潜んでいるかもしれないスカーを警戒して周囲を見回した言峰の目に、夕陽の反射光が飛び込んできた。
 拾い上げると、青い石のペンダントだった。
 傷の男か、黒い牧師との戦闘中、相手のデイバックからこぼれた支給品だろう。
 詳細はわからないが、もしかしたら傷の男にとって価値があるものかもしれない。
 ならば再会の縁になるかもしれぬと考え、言峰は十字架と一緒にそれを首にかける。

「さて、シータたちを追うとしよう」

 ■

 いくらも行かぬうちに、言峰の目に異様な光景が広がった。
 橋を中心に、周囲のビルがまるで巨大な刃物で切り裂かれたかのように刻まれているのだ。
 周囲に人影はなく、砂塵が舞うだけである。
 すでにこれを起こした者たちは先へ進んだのだろう。

「ほぅ……。これほどの破壊が起きるとは……。早速、令呪を使ったか?」

 だが、どこにも死体も血痕もない。
 決着はまだついていないということだろう。
 言峰の心の中に期待が湧く。
 あの強い、そして清廉な少女は。
 殺すのか、殺さないのか、殺されるのか、殺させるのか。
 誰であろうと傷つくことを好まぬ彼女が、いずれの道を選ぶのか。

「さあ、シータ。見せてくれ、君の答えを。見せてくれ、君の苦しみを」

 秘跡を取り行う聖者のように厳かに呟き、言峰は歩きだした。
 橋を渡り、卸売り市場へと足を運ぶ。
 急ぐことはない。
 答えはすぐそこにある。


【B-5・橋の上/一日目/夕方】

【言峰綺礼@Fate/stay night】
[状態]:左肋骨骨折(一本)、疲労(中) 、令呪(六画)
[装備]:飛行石@天空の城ラピュタ
[道具]:荷物一式(コンパスが故障、食糧一食分消費。食料:激辛豆板醤、豚挽肉、長ネギ他)
[思考]
基本:観察者として苦しみを観察し、検分し、愉悦としながら、脱出を目指す。
1:エド、シータと合流し、情報交換する。ただし、シズマドライブに関する推測は秘匿する。
2:卸売り市場で豆腐を手にいれ、麻婆豆腐を振る舞う。
3:エド、シータを観察、分析し、導く。
4:シータがウルフウッドにどう対応するか、非常に期待している。
5:殺し合いに干渉しつつ、ギルガメッシュを探す。
6:傷の男(スカー)に興味。
[備考]
※制限に気付いています。
※衛宮士郎にアゾット剣で胸を貫かれ、泥の中に落ちた後からの参戦。
※会場がループしていることに気付きました。
※シズマドライブに関する考察は以下
 ・酸素欠乏はブラフ、または起きるとしても遠い先のこと。
 ・シズマドライブ正常化により、螺旋力、また会場に関わる何かが起きる。
※令呪は、膨大な魔力の塊です。単体で行使できる術は、パスを繋いだサーヴァントに対する命令のみですが、本人が術を編むか礼装を用いることで、魔術を扱うにおいて強力な補助となります。
 ただし使えるのは一度限りで、扱い切れなければ反動でダメージを負う可能性があります。
 人体に移植される、魔力量が桁違いのカートリッジとでも認識してください。


 ■

(何という未熟! 相手の隙を誘うつもりが、逆に動揺させられるとは!)

 スカーは走りながら自身を叱咤していた。
 既に神父は撒いている。
 だが、激情がスカーを走らせていた。
 生殺与奪の権利を捨て、この会場にいる者すべてを殺す。
 それを覚悟し、実際に二人もの仇ではない人間の命を奪った。
 だが、他人から見た己の姿を突き付けられた瞬間、スカーの心は古傷が開いたような痛みを感じ、動揺した。

(己れのしていることが国家錬金術師と同じだと……!?)

 ギリギリと歯を食いしばる。
 ドモン・カッシュの言葉、先の神父の言葉、温泉で命を奪った男の言葉。
 所詮は言葉にも関わらず、何故自分はこれほど心を乱しているのか。
 彼らへの、そして何より不甲斐ない自分への怒りが後から後から湧く。
 気づけば川を越え、巨大な建物の前にいた。
 息を整え、どうにか気持ちを平静に戻す。
 周囲を確認すると、どうやら『ショッピングモール』の前のようだった。

(だいぶ離れたな。今から戻っても誰もいるまい……)

 そして冷静になって気がつく。
 紙使いとの戦いで負ったはずの裂傷と右足の傷の痛みがないことに。
 あれだけ走れば足の傷は痛みを訴えるはず。
 不審に思って血止めの布を引きはがすと、やはり傷が消えていた。

「胡散臭いと思っていたが、本物だったか……」

 スカーは服の内側を探ると、青いラインの入った黄金の鞘を取り出した。
 紙使いの女が所持していた鞘は、その内側に入っていた紙によると、身につけているだけで傷を癒すという。
 今は使える物は何でも使う必要があったため、神父と牧師の戦いに割り込む直前に身につけておいたのだ。
 但し書きに「魔力がなければ効果を発揮しない」と書かれていたが、どうやら自分はその魔力とやらがあるらしい。

「しかし、そうなると拙いな……」

 自動で傷が癒えていくなら、左腕の骨が繋がることもあるかもしれない。
 だが、その際に奇妙な形に繋がることがあれば、スカーにとって問題になる。
 変形した腕は身体のバランスを崩し、格闘する上で隙を作る元となりかねない。
 繋がらないとしても、動かない腕は固定しておかねば邪魔だ。
 スカーは副木になるものを探してショッピグモールの中へ足を進めた。

「仕方あるまい……。まだまだ殺さねばならぬ相手はいるのだから……」

 呟いた直後、先ほどの動揺と不覚を思い出し、スカーはまた己への強い憤りを感じるのだった。


【A-7・ショッピングモール前/一日目/夕方(放送直前)】

【スカー(傷の男)@鋼の錬金術師】
[状態]:疲労(中)、全身打撲(治療不要)、肋骨、左肘骨折(要治療)、腹、肺にダメージ
    自分への憤りと僅かな動揺、アヴァロンによる自己治癒中
[装備]:アヴァロン@Fate/stay night
[道具]:デイバック、支給品一式@読子(メモは無い)、不明支給品(0~1個)
[思考]
基本:参加者全員の皆殺し、元の世界に戻って国家錬金術師の殲滅
1:ショッピングモールで左肘の副木になるものを探す。
[備考]:
※会場端のワープを認識しました。
※スカーの右腕は地脈の力を取り入れているため、魔力があるものとして扱われます。

【アヴァロン@Fate/stay night】
全て遠き理想郷。
セイバーの失われた宝具で、エクスカリバーの鞘。
真名を開放すれば如何なる攻撃も寄せ付けぬ無敵の守りになる。
セイバーがいないため、アニメ本編ほどの劇的な効果は望めないが、
魔力があれば身につけているだけで少しずつ身体の傷を癒す。



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200:Trip of Death 言峰綺礼 221:Death Lori
200:Trip of Death スカー 215:マテリアル・パズル~神無~





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