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Trip of Death ◆Haf2Sq.37.





呼吸を、整える。

肘を真っ直ぐに伸ばし、右腕を前に突き出した変則的な伏射の姿勢。
小指と薬指で銃把を握り、人差し指は銃身に添える。銃爪に掛けるのは中指だ。ハイスタンダード・デリンジャー特有のグリッピング。
師の教えを思い出す。迷わぬように頭に二発、心臓に二発。

ひとつ大きく息を吸い、呼吸を止め、胸郭を完全に膨らませた状態で固定。
横隔膜の膨張、収縮による誤差を殺す。立射や座射ならばともかく、胸や腹が接地している伏射では、その誤差は極めて大きく響く。
肺から血液に酸素を取り込み、二秒。黒眼鏡に隠した左眼を細め、肘、手首、撃鉄、照星―――そして、長身の神父の脳天が、一直線上にあることを確認する。

まず、頭に一発―――祈りを捧げるように、トリガーを絞った。


言峰、エド、シータの三人組が、三叉路を左に曲がったその瞬間、

たあん、という独特の破裂音が耳に届くより僅かに早く、言峰綺礼の身体は半ば自動的に動いた。何処からか、射抜くような殺気を感じて、だ。
すぐ前をスキップしていたエドと、隣のシータの首筋を引っ掴み、向かって左、ビルの窓へ背中から突っ込む。直後、舗装が弾け弾痕が刻まれた。
「うにっ!?」
「きゃ!」
窓に嵌め込まれていた板硝子が砕け散る。その破片が落下を終える時、言峰の思考は既に歴戦の代行者のそれだ。

銃声の質からして短銃身、小口径の拳銃弾。周囲のビルの壁に反響した所為で正確な場所は掴めないが、遠くとも百メートル以内。
狙撃位置の推測―――周囲のロケーションは、狙撃で狙うには最悪に近い。左右を四階建てから六階建てのビルに挟まれ、前後であればこちらが気付く。
また、発砲音から着弾までのタイムラグがほぼ存在しなかったことも、その推測を裏付けた。
可能性は二つ。ひとつは、未知の手段を以って射程距離の延長と弾道の歪曲、銃声の欺瞞などを可能とした異能者である可能性。
もうひとつは、純粋に技量と知略で盲点を突いた可能性。あるいはその二つの複合。
前者である場合の突破口を思考。
何らかの特殊能力を所持していたとしても、中距離以上での直接攻撃力はまず存在しない。そして、直接戦闘能力そのものはさして高くない。それならば正面衝突に持ち込んでいる。
だが、こちらからは位置を推測するには、地道に条件を絞り込んでいくしかない。保留。
後者である場合、着弾位置からの逆算で、自ずから狙撃位置は限定されていく。
水平射撃ではない。幻術の類で姿を隠していたとしても、その角度で地面に着弾すれば跳弾しそれと知れる。
では、建物の中からの狙撃か―――これも、違う。
全てを確認したわけではないが、しかし、ビルの無数の窓の中、ひとつだけ開いている窓があれば、気付かない筈がない。
残るは、上空。
飛行に伴う悪条件―――音、姿勢の安定、気圧差など―――さえ解決すれば、狙撃位置として申し分ない。

その場合、相手が採る選択は三つ。
次弾のチャンスを狙う為に留まろうとするか、狙撃では無理と見て直接仕留めに来るか、或いは逃亡。
どの道こちらの選択肢はひとつだけだ。相手がどれを選ぼうが、ここで倒しておかねばならない。貴重な情報源を奪われる。

「……シータ、エド。君達は走るのは苦手かね?」
「得意ではありませんけど……」
「エドは大丈夫だよ?」
「では、合図したら逃げたまえ。ここは既に戦場だ。私とて、君達二人を守りながら戦えるか分からぬのでな」

デイパックを素早く開き、地図を取り出した。
広げ、シータとエドに確認させる。卸売り市場を指差し、

「ここで落ち合おう。料理はその後だ」
「言峰神父は、戦うのですか……?」
「身を隠して狙い撃ってくる相手に対し、背中を向けて逃げることほど危険なこともあるまい?
 だから、私が時間を稼ごう。何、みすみすやられはしないさ」

あわよくば、情報を引き出してから殺す心算だ―――とは言わない。虚偽を教えるのではなく、真実の後半部分を隠す。
それこそが、かつてと変わらぬ言峰綺礼の常套手段であった。

「ねえねえ神父ソン、武器はあるのー?」

相も変わらず能天気な表情と声で、エドが問い掛ける。

「ああ、そうだ。私とて多少の心得はある。
 それに、実はこの腕時計がだね、魔法の槍なのだよ」
「魔法? シルクハットから鳩九羽ー?」
「そんな所だ、見せよう―――告げる」

set、と詠唱し、魔術回路を励起、ストラーダに干渉。最も基本的な機能である形態変化を作動させる。
一瞬にして、言峰の手には青銀の槍が握られた。尤も、特異な形状に言峰の体格も相まって、槍よりも大刀と称すべきバランスだが。

「では、私が隙を作る。合図をしたら……」
「殺さずに済ませることは、できないのでしょうか?」
「……何?」

言峰の言葉を途切れさせたのは、シータの呟きだ。
自信というものが決定的に欠けた声は、しかし神父の眉を顰めさせた。
自分が直に危険に晒されている状況で、当の加害者を気遣えるその心象。
それを、興味深いと感じたからだ。

「ふむ……確かに、いつか決断するときが来る、とは私の言だったな。それは君の決意かね? シータ」
「はい。ですが、いいえです。いざとなったら、怖くて引き金を引いてしまうかもしれない。その槍を受け取らなかったことを、後悔するかもしれない。
 でも、選び続けるという意思だけは、守り抜きたい……諦めの中で、人を殺すことがないように」
「だが、君には選ぶ力がない。意思があろうと、それでは、死ぬのは君のままだ。選択とは言えんな」
「ええ、わたしには何の力もない。だから……」

「―――与えよう」

「……え?」
「与えよう、と言ったのだ。君が抗うことを決めたとき、それを実行できるだけの力を」

神父は、少女の右手に掌を翳す。さながら、慈しむように。
そしてその声が、聖書の一節を紡いだ。祝福のように、聖別のように―――祈るように。


身を起こし、背後へと振り向く。デリンジャーを再装填。
そこに―――ビルの屋上の、建つ出入り口に銃口を向ける。
曲がり角のビル、四階建てのそれへと先回りして屋上に登り、真下に来た頃を見計らって身を乗り出し射撃する。
人間にとって、最も死角となるのは頭上だ。神父を狙ったのは、単純に体格からの戦力予想。
よもや、あれほどの相手だとは思いもしなかったが。

だが、これでこちらの勝ちだ。奴がここに来る為には、必ずあの扉を潜る必要がある。
その瞬間を狙い、頭に一発―――それで終わりだ。

―――その思考そのものは、極めて妥当なものであったろう。
しかしそれは、砂の星で戦い抜いたが故の判断ミスだった。なまじ『彼』を―――それを得意とした男、ホッパード・ザ・ガントレットを知っているが故に、可能性の想定が一歩遅れを取ったのだ。
まさか、奴のような男は二人といまい、と。

瞬間、分厚い壁を打ち砕く破壊音が、四度連続でその耳を打った。

「な―――!?」

宙を、舞っていた。
あの神父が、スラスター付きの槍のような代物を掴み。
その推力によって、一階から屋上までの全てのスペースと、建材の全てを力技で突破して。



……存外に上手くいったな。

実に三十メートル近い高度にまで一挙に飛び上がり、言峰綺礼は息を吐く。
眼下を睥睨する視線の先には、拳銃を構える黒服にサングラスの男がいた。
それは、想定していた可能性の中では最善から二番目だ。あわよくばこの一撃で仕留められればとも思ったが、そう甘くはないらしい。
ストラーダの空中での機動性に特化した第二形態、デューゼンフォルムの側面スラスターを操作。斜め下方向への推力を獲得し、刃を叩き込む。
劈刀一閃。飛び退いて回避した男に刀術の連繋攻撃―――男は後方への連続跳躍によって隣のビルへと飛び移り射撃姿勢。二十二口径の二連射。
射線を読み、幅広の刃を楯代わりに使い銃弾を弾く。狙いは心臓と右眼、デリンジャーという銃器にそぐわぬ異常な精密射撃。尋常な腕前ではない。
男の再装填。一歩だけ下がり、槍を投げ放つ。背後、自分の飛び出した大穴に、だ。
穂先を下に落下した槍が、コンクリートの床に突き刺さる。それが引き抜かれた音を確認し、

「先に行きたまえ、シータ、エド!」
「……エド、行きましょう!」

槍を腕に抱えたシータが道を駆けていった。卸売り市場の方へ。
その後ろを、スキップでもしそうな足取りでエドがついていく。


右手の甲は、未だに微かな疼痛を伝えてくる。
シータは槍を両腕で抱え込み、必死で足を前へと運びながら、先ほどのことを思い出していた。

―――あの瞬間、右手に刻まれた、幾何学的な傷痕。
言峰神父によれば、令呪というものらしい。
『君が槍を持ったところで、さしたる力を得ることはできまい。だが、この刻印を使えば別だ。槍を手に、ただ願えばそれでいい。
 魔力は令呪が、技はその槍が補うだろう。およそいかなる敵であろうと、ただの一撃で打ち伏せよう。
 それも、力ある相手ならば殺さずに。無論、君が望むのなら、傷つけることもできるがね』
『だが、ひとつ覚えておきたまえ。力を放てるのは一度限りだ。そしていかなる力にも、代償は伴うのだということを』

―――槍は、この手に握られている。
受け取らない、という選択もできたのだ。しかし、結局は受け取ってしまった。
怖かったからだ。自分が殺されてしまうのが。
今は後悔している。それでも、槍を捨ててしまえばそれをまた後悔するのだろう。
だから、祈った。
どうか、力を使う機会が訪れませんように、と。

―――杞憂の苦しみを飲み干す術など、誰も知らない。
そしてその事実こそが、言峰綺礼の愉悦であった。


片や、人類が生み出した武器という概念の終着点―――銃器。
片や、人間が生まれ持った武器という概念の原典―――無手。

順当に考えれば、互角である筈がない。


絶招歩法『箭疾歩』、リロードの隙を突き、五歩の距離を半秒未満に圧縮する。
這入った間合いは至近距離。八極拳が最も威力を発揮する接近短打のそれ。
繰り出されるは開門式『攉打頂肘』。頂心肘への布石である右拳右膝の打ち上げ。常人であれば防御の腕ごと臓腑までもが挽き潰される大打撃。
だが、ニコラス・D・ウルフウッドは人外。その性能の代償として軽量化の一切を切り捨てた『最強の個人兵装』を振るう腕力技術。制限下においても、それは確かに刻まれている。
流すことなど考えず両腕でブロック、自ら身を浮かせることでダメージを殺し更に距離を取る。空中で身を捻り、狙い済ました単発射撃。
攻撃の直後。本来の能力ならばいざ知らず、制限下ではいかな言峰綺礼とて躱せぬタイミング―――では、ない。
総身を反転させる『馬歩横打』。恐るべきことに、その一歩をして長身がほぼ真下まで迫り来る。
一瞬にして射線より外れ、間合いは再び接近短打―――左拳が宙を穿ち、右拳が空を裂く。『弓歩架打』の左拳が、ウルフウッドの胸を捉えた。

「ぐ……!」

背中をビルの屋上に打ち付け、呻く。不完全な一撃は、しかし肋骨を撃砕して余りある破壊力。
受身を取り、後方へ転がり逃れんとしたウルフウッドに、言峰綺礼の追撃が迫る。脚を捌かぬ脚捌き―――地を滑走する『活歩』の歩法。

それが、唐突に乱れた。

「何、だと―――!?」

踏み締めるべき足場そのものが、その確たる存在感を失っていく。
約四秒。屋上が、否、ビル全体が雷鳴と共に粉砕され、微塵の砕片へと化した。


石造りの建物―――上方より戦闘音の響くその外壁に、スカーは右の掌を押し付けた。
全力で『破壊』の術を発動し、均一な材質を悉く連鎖自壊させる。
濛々と舞い上がった粉塵を吹き散らすように、地を蹴り飛ばし大跳躍。落下していく人影の見えた地点へと、着地し構えを整える。

同時、煙を潜って現れたのは、篠突くような長身の、神父服を着た西方人。
躊躇わず、左の突きを放った。すると神父も手刀に構えた己が左手で捌きに掛かる。
打突を受けつつ体を側面へと移し攻撃する『大纏』、そして外への足捌きを封じる『梱歩』の歩法。生半可な格闘術では為す術もなく重心を奪われ、掌打によって勝負を決められていただろう。
だが、アメストリス兵十人を鎧袖一触に片付けるスカーの武練は、イシュヴァールの武僧たちの中でも優れたものだ。
いなす動きに逆らうことなく体を返し、鳩尾狙いの肘を打ち込んだ。
打点が甘く、強靭な筋肉に阻まれた。ならばと生じた隙を利し、およそ三歩の距離を取る。


一陣の風が、ビル街を駆け抜ける。粉塵が吹き散らされ、神罰代行者の視線が交錯した。
血塗られた焔を宿したかのような、真紅の瞳。
底知れぬ虚無を呑んだかのような、漆黒の瞳。

―――同時、奇しくも双方ともが、全く同じ思考を巡らせていた。
この拳技、ドモン・カッシュには及ばぬとはいえ、強敵だ―――と。

そして、三人目。
ウルフウッドは動かなかった。呼吸を整え、冷静に状況を計る。
拳を防御した腕、骨は折れていない。無事に動く。直撃を受けた肋骨は―――右側の四本、といったところか。痛みは耐えられる。問題ない。
黒い神父と顔面傷痕の男が互角、そして今の自分は概算で六割劣る。パニッシャーさえあれば埋められる差だが、手元にあるのは豆鉄砲が一挺切り。もはや不意打ちだろうと勝てる気はしない。
だから、あえて咳を払いつつ立ち上がる。
神父と傷の男が同時に動こうとし―――故に動けない。
何故ならば、先に動きウルフウッドを仕留めた方が、その隙を突かれ大きく不利となるからだ。
後退りしながらゆっくりと速度を上げ、振り返って走り出す。
シータ、エドと呼ばれていた少女と少年、二人が向かった方角へ。この程度の傷、女子供を仕留める上では何ら問題となるものではない。

――――――その思考そのものが言峰綺礼の誘導だと疑うことは、ただの一度として無かった。


それは、抗い難い誘惑だった。

覚悟を告げるシータを前に、ふ、と彼は気付いたのだ。
銃声の主を、偶然を装ってシータのもとへと誘うことができれば、その強固な信念を打ち崩すことができるのではないか、と。
その状況においてシータが殺人を犯せるように、令呪という力を与える。
撤退を選択させ、尚且つ戦闘能力を完全には奪わないように、多少の加減を加えて打撃した。片腕は折る心算だったが。
新たな敵の出現は予想外だったが―――結果的に、非常に有利に働いた。
あとは、傷の男を打ち倒し、悠々と卸売り市場に向かえばそれでいい。

功夫は互角かこちらが僅かに上。あちらが知り得るこちらの手の内は拳法の種別のみ。
対してこちらが知ることは二つ。傷の男は小林拳に似た、直線的な打撃の連繋を得意とすること。
そいて、ビルを数秒で倒壊させた、ある種の魔術にも似た何らかの能力。人体に対しても行使できるのならば極めて危険だと判断。
だが、あえて接近戦に臨むことから、近接せねば使えない。先程の攻防から、拳や掌で直に接触しなければ使えないと推測。そうでなければ腕を捌いた瞬間に吹き飛ばされている。

……とはいえ長期戦は危険か。

ならば、切り札を切らせて貰おう。男が左の掌底を引き突貫。顔面に向け、高速の突きを放ってくるその刹那。
―――令呪、発動。
膨大な魔力を用い全身にフィジカル・エンチャントを施術。反射能力を強化し運動を加速。
大気を軋ませ反三才歩、側面に回り込みつつ手首を捕り、肩口で肘を打ち関節を破砕。本来ならば続く動作の布石に過ぎないが、令呪の莫大な魔力よる強化が施された状況ではそれさえも凶器。
身を折り畳むように潜り込み、腿を打ち上げ吹き飛ばす『大纏崩捶』の絶技―――恐るべきことに、男は肘を折り砕かれる苦痛の中で対応してみせた。
足を大きく退かれる。右拳からの投げが入らない。
だが―――拆解、即ち技が掛からない際の連繋変化は、拳士ならば実戦に身を置かずとも身に着けている。
足を捌いて身を捻り震脚、発剄に連ね放つは『鉄山靠』。肩口から打ち込んだ衝撃は、肺腑から血管気脈を駆け巡る。

令呪一画分の魔力が全て消費され、身体強化の術が消失。男の体が、衝撃で地面と平行に飛んだ。先には―――ビルの、外壁。
折れた左腕では受身も取れまい。右腕を犠牲にするか、後頭部を割って脳漿を溢すか―――それとも未だ見せぬ能力を晒すか。
選択権を、与えよう。


強敵だ、と考え、牽制の突きを放った瞬間、左肘の激痛と共に吹き飛ばされていた。
分かったのは、神父が信じ難い速度で動き、何らかの体技を使ったこと。
咄嗟に脚を引いたのは、武僧としての修錬以上に直感の為せる技だ。

背後には壁がある。受身を―――取れない。要である肘関節が、片側だけだが完全に壊されている。
だが問題ない。痛覚のみが残る左腕は無視し、右腕だけを背後に叩きつけるように振るった。
壁に掌が触れたその瞬間に『破壊』する。迸る紫電。ただし、完全に破壊するわけではない。
適度に脆く、さながら綿のような強度となった壁が、崩壊しつつ己れを受け止めた。
折られた左腕の調子を確かめつつ、警戒は解かぬまま立ち上がる。

……やはり、動かんかッ……!

人体の構造上、肘をこのように折られると、腕を振るうことができなくなる。
膨大な痛覚信号が神経を麻痺させ、無事である指の屈伸さえも不可能だ。これほどの手練れを相手に片腕とは、無謀も甚だしい。

「その右腕は君の能力か。接触による物質の破壊……いや、分解か。実に興味深い。
 見慣れぬ刻印だ……印形からして大地、竜脈のマナを取り込み物理力へと直接変換しているのか? 魔術回路を用いずに?
 ……つまり、それが君の世界の『魔術』だということか」

そして、能力を知られた。
右腕で触れねば使えないことは、恐らく完全に理解されている。
故に、右手を振り上げ、突貫―――否、地面に掌を叩きつけ『破壊』。
相手の足場を崩すのではない。それではこちらも体術を使えなくなる。
炸裂した地面から舞い上がった粉塵が、視界を完全に覆い隠した。
勢いを殺さず身を回し、跳躍。着地と同時に脇腹狙いの右足刀―――防がれる感触。
大気の流れでタイミングを読まれたか。ならばと放った返す刀の左足刀もまた、当然のように防御された。


―――スカーと言峰綺礼。彼らの格闘術は『本来の』技量で大きな差があるわけではない。
違ったのは、言うなれば心構えと経験、そして相性だ。
実戦―――『破壊』の一撃たる右の掌打を、如何にして確実に叩き込むかという、それだけに終始する戦いに身を置いてきたスカー。
その技は何時しか、右腕だけに決定打を託す歪な変化を成し遂げていた。
標的たる国家錬金術師の中に、純然たる格闘において彼ほどの使い手が居なかったことも、今となっては不幸のひとつだ。
軍隊格闘の達人である『鉄血の錬金術師』バスク・グランとの対峙は、賢者の石を所有していたが故の油断を突かれたグラン准将が、一撃で片をつけられた。
或いは『豪腕の錬金術師』ルイ・アームストロングの格闘技術は、攻撃と間合いの操作に特化した拳闘のそれに近い。錬金術の牽制から拳打を打ち込むその技に、足を封じ重心を奪う技術は存在しない。
必要がないからだ。五感に依らず敵の動きを読む技もまた同様。
言峰綺礼が使ったのはそれだ。聴剄―――体が触れたその瞬間に、敵の次なる動きを読み切る武術家の超感覚。
無論、スカーも武僧として身に着けている、その筈だった。
だが、武術の修練を通して養われるものであるならば、武の術が歪めばその感覚も歪むのが道理。
そして第二の不幸は、言峰綺礼が軍隊格闘ではなく、中国拳法の使い手であったこと。
人間にとって最も自然に放てる無手の攻撃は、投げでも蹴りでもなく拳の突きだ。
だから、長い歴史を持った武術の多くは、拳による打撃に対する返し技が最も充実している。
八極拳もまた、同様であり―――


連環腿に似た二連蹴りを弾く。聴剄によって動作を読み、右の突きに応じる構え。
放たれた突きの外側を擦れ違うように、やや高い左の一撃、右肘で払われる―――元より払わせる為に放った一撃だ。
右腕が、咄嗟に体を守れぬ位置にまで持ち上がる。隙を補う筈の左腕は動かない。
左足を大きく引いた『弓歩』より繰り出す右掌底を、その胸に叩き込んだ。

左の突きをあえて弾かせ、本命の右を必中にて打ち放つ、絶招『猛虎硬爬山』。
言峰の常軌を逸した膂力で繰り出せば、その威力は肺と心臓、横隔膜を完全に破壊して余りある―――しかし、

「……ほう」

再び風が吹き、視界が晴れる。
致命の一撃を受けた筈の傷の男は口の端から血を垂らし、だが両足で地面を踏み締め立ち上がる。

―――そのタフネス。心体両面での、憎悪に裏打ちされた不屈。
それこそが、スカーの持つ最大の強さだ。忌まわしい右腕のように与えられたものではなく、かき抱くように手にしたもの。
武僧としての技でもなく、兄が遺した右腕でもなく、鍛え抜かれた肉体でもなく―――

―――己が憎悪を拠所として、傷の男は再起した。


Trip of Death―――Tri Punisher of Death

死をその身に宿した、神の名を識る三人の男。
彼らの交錯が、この殺し合いにどれほどの影響を与えるか―――それは、未だに誰も知らない。


【B-5・ビル街/一日目/午後】

【言峰綺礼@Fate/stay night】
[状態]:左肋骨骨折(一本)、疲労(中) 、令呪(六画)。
[装備]:なし
[道具]:荷物一式(コンパスが故障、食糧一食分消費。食料:激辛豆板醤、豚挽肉、長ネギ他)
[思考]
基本:観察者として苦しみを観察し、検分し、愉悦としながら、脱出を目指す。
1:スカーを倒す。あわよくばウルフウッドの後を追わせる。
2:二人と合流し、情報交換する。ただし、シズマドライブに関する推測は秘匿する。
3:卸売り市場で豆腐を手にいれ、麻婆豆腐を振る舞う。
4:エド、シータに合流。二人を観察、分析し、導く。
5:シータがウルフウッドにどう対応するか、非常に期待している。
6:殺し合いに干渉しつつ、ギルガメッシュを探す。
[備考]
※制限に気付いています。
※衛宮士郎にアゾット剣で胸を貫かれ、泥の中に落ちた後からの参戦。
※会場がループしていることに気付きました。
※シズマドライブに関する考察は以下
 ・酸素欠乏はブラフ、または起きるとしても遠い先のこと。
 ・シズマドライブ正常化により、螺旋力、また会場に関わる何かが起きる。

【エドワード・ウォン・ハウ・ペペル・チブルスキー4世@カウボーイビバップ】
[状態]:疲労、強い使命感
[装備]:アンディの帽子とスカーフ
[道具]:なし
[思考]
1:シータと卸売り市場に行く。
2:二人と情報交換する 。
3:言峰と合流できたら、食事をもらう。
4:アンチ・シズマ管とその設置場所を探す。

【シータ@天空の城ラピュタ】
[状態]:疲労、深い悲しみ、強い決意とその裏返しである迷い、右肩に痺れる様な痛み(動かす分には問題無し)、令呪(一画)
[装備]:ストラーダ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
[道具]:なし
[思考]
基本:みんなと脱出を目指す。 殺し合いには乗らない―――それを守れるかどうかという不安。
1:エドを守る 。
2:二人と情報交換する。
3:アンチ・シズマ管とその設置場所を探す。
4:卸売り市場で言峰と合流。
5:マオに激しい疑心 。
6:言峰については半信半疑。でも少し心配。
[備考]
マオの指摘によって、ドーラと再会するのを躊躇しています。
ただし、洗脳されてるわけではありません。強い説得があれば考え直すと思われます。
※マオがつかさを埋葬したものだと、多少疑いつつも信じています。
※マオをラピュタの王族かもしれないと思っています。
※エドのことを男の子だと勘違いしています。
※令呪は、膨大な魔力の塊です。単体で行使できる術は、パスを繋いだサーヴァントに対する命令のみですが、本人が術を編むか礼装を用いることで、魔術を扱うにおいて強力な補助となります。
 ただし使えるのは一度限りで、扱い切れなければ反動でダメージを負う可能性があります。
 人体に移植される、魔力量が桁違いのカートリッジとでも認識してください。

【ニコラス・D・ウルフウッド@トライガン】
[状態]:更に不機嫌。かなりイライラ 全身に浅い裂傷 (治療済み)、肋骨骨折、幾つかの打撲(治療不要)。
[装備]:デリンジャー(残弾1/2)@トライガン デリンジャーの予備銃弾14
[道具]:支給品一式 (食糧:食パン六枚切り三斤+四枚、ミネラルウォーター500ml 2本) 士郎となつきと千里の支給品一式
ヴァッシュ・ザ・スタンピードの銃(残弾0/6)@トライガン、ムラサーミャ&コチーテ、暗視スコープ、エドのコンピュータとゴーグル、びしょ濡れのかがみの制服
音楽CD(自殺交響曲「楽園」@R.O.Dシリーズ)
[思考]
基本思考:ゲームに乗る
1:二人に追いつき殺す。神父はパニッシャーなどの強力な武器を手に入れてから。
2:自分の手でゲームを終わらせる。
3:銃を持った人間を確認次第、最優先で殺してそれを奪う。
4:女子供にも容赦はしない。迷いもない。
5:ショッピングモールで武器を調達。
6:パニッシャーを見つける。
7:できればタバコも欲しい。
[備考]
※迷いは完全に断ち切りました。ゆえに、ヴァッシュ・ザ・スタンピードへの鬱屈した感情が強まっています。

【スカー(傷の男)@鋼の錬金術師】
[状態]:疲労(小)、全身に裂傷、右太腿に刺し傷(治療済み)、全身打撲(治療不要)、肋骨、左肘骨折(要治療)、肺にダメージ。
    ただし、何らかの手段で回復している可能性もあります。
[装備]:なし
[道具]:デイバック、支給品一式@読子(メモは無い)、飛行石@天空の城ラピュタ、不明支給品(0~2個)
[思考]
基本:参加者全員の皆殺し、元の世界に戻って国家錬金術師の殲滅
1:?
2:去っていった黒服の男を追う。
[備考]:
※会場端のワープを認識しました。
※逃走するか、突貫するか、ランダム支給品を使うか。行動指針は次の書き手にお任せします。





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180:善と悪と神の使い 言峰綺礼 208:傷を開くモノ、傷を癒すモノ
180:善と悪と神の使い ニコラス・D・ウルフウッド 207:Mushroom Hunting Samba
180:善と悪と神の使い シータ 207:Mushroom Hunting Samba
180:善と悪と神の使い エド 207:Mushroom Hunting Samba
187:紙魚 [shimi] スカー 208:傷を開くモノ、傷を癒すモノ




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